意識ははっきりとしている。だが、何にもわからない。
ここがどういう所で、自分が今どういう状態なのか。周りが暗い訳ではない。ただ、理解が出来ない。
出発前にちょっとした浮遊感が襲ったが、その後は、この、状況や時間、何もかもが理解出来ない空間にいるだけだ。
自然と不安が沸き起こるが、自分をここへ送り出したあの豪快な爺さんを思い出すとその不安も直ぐにかき消える。
やがて、その理解出来ない空間に、やっと理解できるものが現れた。それは――光。
それを認識した瞬間、弓塚さつきは、新たな世界にその存在を定着させた。
―――――魔法少女リリカルなのは ~心の渇いた吸血鬼~ 始まります。
新しい世界に降り立ったさつきが最初に感じたのは、浮遊感。
だが、それは出発時にも感じたことなので、それ程気にはしなかった。
―――が。
「……へ?」
その後、直ぐに襲ってきた自分が落下しているという感覚。それは流石に気にしない訳にはいかなかった。
「きゃあああああぁぁぁ!」
だが、叫びながらも空中で体制を立て直し、段々と近づいてくる地面との衝突に備える。ちなみに、周りを見る限り今は夜。ああ、夜景が綺麗だなぁ…… なんて思いながら、眼下を見やる(そんな余裕があるのに何で叫んでるんだ等とは訊かないでほしい。ジェットコースターと同じようなものだ)。
予想される自分の着地地点は林の近くの広場だった。その向かいにはとてつもなく大きな洋館が……
「――っ!」
着地の瞬間、膝を曲げることで衝撃を吸収する。ちょっと(かなり)足が痛いが、骨などは折れてない。
どうやら、元の身体《からだ》と退行した分以外は同スペックというのは本当らしい。もうちょっと穏やかな方法で確かめたかったのだが。
「つ~~~っ! 全く! ゼルレッチさんったら移動先ぐらいもうちょっときちんと設定してよ!!」
本当は宇宙に放り出されていてもおかしくなかった(というよりそっちの確率の方が遥かに高かった)事を知らないさつきは愚痴る。
(でもま、これでこの身体の性能に問題が無いのは分かったし、あとは身長とか腕の長さが変わったせいで動きづらい所があるだろうからそこら辺を慣らしていけば問題無いかな。……今度はちゃんともっと穏やかな方法で)
だが、そのさつきの思いは、
「わー、大きな家だなぁ……。遠野くんの屋敷とどっこいどっこい?」
この直後、粉々に砕け散ることとなる。
「遠くの方には塀まで見えるしやっぱ広い…………って!
それじゃあここってこの家の敷地!?
ってことはわたし今不法侵入者!?
………お、お邪魔しまし……っ!?」
急いで身を翻して駆け出そうとしたさつきだったが、パシュッという音と共に自分の背後、先ほどまで自分の体があった場所を超高速で何かが通り過ぎて行ったのに身を竦ませた。それが向かった先へ目をやると、地面が少しだけ捲れ、その前には小さな穴が。先ほどの音と組み合わせて考えると……
(ってどう見ても銃弾の痕ですよね!? しかもこの威力って鉛弾で直撃コース!!?
こーゆーのって普通威嚇射撃からとかゴム弾とかじゃないのっていうかこの世界には銃刀法無いんですかーーー!!?)
有ります。
ついでに言うと、あんたは威嚇射撃で済む地点をすっ飛ばして最深部まで来てしまったんです本当にありがとうございました。
そんなことを考えているうちに、銃弾が飛んできた方向で何かが光るのが見えた。
(やばっ!)
さつきは吸血鬼だ。夜目は利きすぎるぐらいに利く。そして、そのさつきの目にはそこに巧妙に隠された銃がこちらへ照準を合わせているのがはっきりと見えた。
さすがのさつきでも、自分へ向かって放たれた後の銃弾を回避するなんていうことは出来ない。訓練すれば出来るようになるかも知れないが、今はまだ無理だ。
当然、吸血鬼の体でも痛いものは痛いし、あの威力だと絶対に無傷とはいかない。と、なると。
(打たれる前に移動して、取り敢えずこの家の敷地から脱出!)
思うより先に、体が動いていた。先ほどの銃から飛び出した銃弾は、ぎりぎりでさつきの体には当たらなかった。
が、飛んできた銃弾は1つだけでは無かった。
一気に3、4発。
(……まあ、予想出来たことだよね。っていうか、じゃあ……)
もう足を止めてなんていられないと、さつきは戦慄と共に悟り、遮蔽物のある林の中へ即効で逃げ込む。
その時に色々見回してみれば、目がいいからこそ分かるものの、普通なら気がつかない様にところどころに銃口が。
素人のさつきが注意深く見てこれだけ分かるということは、他にもまだたくさんあるということなのだろう。実際、先ほど飛んできた弾丸の半分は、どっから飛んできたのか分からなかった。
(っていうか、まさか他の罠も仕掛けられて無いよね?)
一応警戒してみるが、それらしきものは発動しない。と、言うより、時々アニメに出てきそうなドラム缶みたいなロボットが銃を持っているのが見えるのは気のせいだろうか? 気のせいであって欲しい。
(……っ! またっ……!)
次々と飛んでくる銃弾を銃口から逃れることで避わし、ジグザグに動く事で照準を合わせづらくし、見えないところから飛んでくるものは木を盾にして半ば運で逃れる。だが、やはり体格が変わったせいで動きづらく、時々足を縺れさせたり目的地までの到着時間を計り損ねたりする。しかも、
(熱っ!熱っ!!)
ついさっきまで体温の無い体だったのに、今では体温のある体だ。最初の内は体がぽかぽかすることに感動していたが、今はその体で走り周り、体温が上昇していた。
体温が無いことに慣れていたさつきにとって、今の体はいたるところが熱い。
勿論、そんな状態でもそうでなくても銃弾全てを避けきれるわけも無く。
「痛ッ!」
左腕の前腕に弾が当たる。衝撃と共に激痛が走る。痛みで一瞬目が霞むが、止まれない。
(このくらい、あの時の痛みに比べれば……)
比べるのが人間としての自分が死んだ瞬間というのは些か反則な気もするが、この際どうでもいい。
「ッッ!」
また当たった。今度は右わき腹。
だが、塀はもう目の前。藁にも縋る思いで必死に駆けてゆく。
「くッ!」
地面を思いっきり蹴り、塀を飛び越える。道路に膝を着き急いでその家から離れる。
もう大丈夫だろうと思えるところまで来ても、さつきは安心出来なかった。
(なんで、異世界来て早々こんな散々な目に会わなきゃいけないの……)
かなりドンヨリした気分になりながら、さつきは夜の町を駆けていった。
そして、その出来事が起きる、数日前。
海鳴市、私立聖祥大附属小学校に通うそれなりに普通の三年生、高町なのはは、高町家の次女、三人兄妹の末っ子である。栗色の髪をツインテールにした、かなり可愛い部分に入る女の子である。
そして彼女は春先のその日、夜の町中で白い衣装に赤い宝石の杖を持つ魔法少女になった。
「へ? え!? な、なんなの……これ……」
取り敢えず、起こったことを有りのまま話そう。
朝、不思議な力を使う男の子が変な化け物に襲われる夢を見たと思ったらその夢に見た場所で電波を受信。怪我しているフェレットを拾い、動物病院にそのフェレットを預けた夜、又もや電波を受信しそのフェレットに助けを呼ばれ、急いで駆けつけたらそのフェレットがまた化け物に襲われており、フェレットを連れて逃げたらそいつが「ボクは別の世界から来た。君には素質がある。魔法の力を貸して」とかイタイ事を喋り出し、言うとおりにしたらいつの間にか魔法少女になっていた。何を言っているのか分からないだろうが作者も何を書いているのか分からない。頭がどうにかなりそうだっt(ry
閑話休題
「来ます!」
「え?」
フェレットが叫ぶ声に反応し、なのはが化け物の方を向くとその怪物は軽く5メートルは跳び、なのはに向かって落下してきた。
「きゃっ!」
ついさっきまで普通の少女であり、運動神経も切れていたなのはにまともな反応が出来るはずも無く、ただ杖を顔の前に突き出し、顔を背けるだけ。
が、
《Protection》
その杖が自動的に桜色のシールドを張り、なのはを守った。
「ん……うう……」
化け物はしばらくシールドと競り合っていたが、やがて耐えられなくなったのか、破裂して四方八方に飛び散る。
その欠片は液体の様でいて、なのに凄まじい破壊力だった。それが当たった電信柱が折れ、塀や地面には穴が開いている。
「へ、ええ~」
なのはが、呆けた様子でそんな声を漏らした。
「ボクらの魔法は、発動体に組み込んだ、プログラムという方式です。
そして、その方程式を発動させるために必要なのは、術者の精神エネルギーです」
取り敢えず一時退散しながら、なのはの腕の中にいるフェレットが説明を始める。
「そしてあれは、忌まわしい力から生み出されてしまった思念体。
あれを停止させるには、その杖で封印して、元の姿に戻さないといけないんです」
あれの元は危険なだけで別に忌まわしい力等では無いはずなのだが、こう言うことであれは倒さなければならない物だという認識を無意識的に与えたのだろうか。
「よく分からないけど、どうすれば……?」
なのはは困った様に声を上げる。
「さっきみたいに、攻撃や防御等の基本魔法は、心に願うだけで発動しますが、より大きな力を必要とする魔法には、呪文が必要なんです」
「呪文?」
「心を澄ませて。心の中に、あなたの呪文が浮かぶ筈です」
取り敢えず、言われた通りにしてみるなのは。
目を閉じ、心を落ち着かせる。
その間に、さっきの化け物が体を修復させて飛び掛って来た。触手の様な物を体から飛び出させて攻撃してくる。
だがなのはは、今度は落ち着いて対応した。
杖を自分の前に突き出し、防御の念を送る。
《Protection》
触手は、シールドに阻まれてなのはに届かず、自然消滅する。そのことにたじろぐ化け物。その隙に、なのはは心に浮かんだ呪文を紡いだ。
「リリカル マジカル!」
「封印すべきは、忌まわしき器! ジュエルシード!!」
フェレットが叫ぶ。
「ジュエルシード、封印!」
《Sealing Mode. Set up》
なのはの杖の形態が変化し、宝石を覆っている金色の装飾の下の部分から魔力で作られた翼が飛び出す。
その後、杖から飛び出したリボンが、化け物を縛った。
《stand by. ready》
「リリカル マジカル! ジュエルシード、シリアル21、封印!」
《sealing》
かくして、ジュエルシードの封印は成功した。
ジュエルシードはレイジングハートの中に保管し、レイジングハートは待機状態……赤い宝石に戻った。
だが、周りには破壊の後。
「も、もしかしたら……私、ここにいると大変アレなのでは……
取り敢えず……ご、ごめんなさーい!」
急いで逃げた。
場所は変わって、公園。
「ね? 自己紹介していい?」
そこまで走って来たなのはは、自分の膝に乗っているフェレットに尋ねた。
何と言うか、子供ゆえの順応の早さは恐ろしいというか、そもそもそいつのせいで訳の分からないことに巻き込まれたというのに、神経が図太いのだろうか?
「あ、うん」
フェレットも、少々戸惑い気味である。
「えへん。私、高町なのは。小学校三年生。家族とか仲良しの友達は……なのはって呼ぶよ」
最後はとびっきりの笑顔である。
「ボクは、ユーノ・スクライア。スクライアは種族名だから、ユーノが名前です」
「ユーノ君か。かわいい名前だね」
と、そこでユーノがうな垂れた。
「ん?」
「すいません……あなたを……」
その言葉に、なのははユーノを持ち上げて訂正させる。
「なのはだよ」
「……なのはさんを、巻き込んでしまいました……」
その言葉に、なのはは僅かに眉を顰めるが、
「ん……私、たぶん平気。そうだ。ユーノ君怪我してるんだし、落ち着かないよね。
取り敢えず、私の家に行きましょ。あとのことは、それから。ね?」
なのはのその言葉で、取り敢えず色々な説明は保留となった。
その後、なのはは勝手に家を出て行ったことに対するお叱りを家族から受けたり、ユーノをペットとして飼う承諾を受けたり、
あと、これが一番の原因なのだが、なのはの母の桃子がユーノに夢中になってしまい、ユーノがもみくちゃにされて時間が無くなってしまったため、諸々の説明はまたもや次の日まで保留となった。
次の日、なのはは学校に行っている間に、念話と呼ばれる心で会話する方法で家にいるユーノから色々と事情を聞いていた。
曰く、ジュエルシードはユーノの世界の古代遺産であること。
曰く、ジュエルシードの本来の力は、手にした者の願いを叶える、魔法の石であること。
曰く、ジュエルシードは力の発現が不安定で、前の日の夜の様に単体で暴走して使用者を求めて、周囲に危害を加えることもあるということ。
曰く、たまたま見つけた人や動物が、間違って使用してしまい、それを取り込んで暴走することもあるとのこと。
曰く、ジュエルシードは元々ユーノの世界から別の世界へ運ぶところを、途中で事故か人為的災害に合ってしまい、この世界へばら撒かれてしまったこと。
曰く、この世界に散らばったジュエルシードの数は21個とのこと。
曰く、ユーノはそれを回収するためにこの世界へ1人で来たということ。
そのことを聞いて、なのははユーノに
「でも、それって別にユーノ君のせいじゃないんじゃあ」
と訊くが、
「でも、あれを見つけてしまったのは僕だから。ちゃんと見つけて、あるべき場所に返さないといけないから」
と言われた。
傍から見れば、ただの無謀な行為だが、本人は必死だったのだろう。
その後、ユーノは自分の魔力が戻るまで休ませてくれればいいと言ったが、なのははそれを断り、学校が無い時間は手伝えるから、自分も協力すると言い出した。
ユーノも最初は渋っていたが、なのはの必死の説得により、半ば流される様にお礼を言っていた。
以上の様なことがあり、なのはとユーノは、その日から毎日夜の鳴海市を徘徊してジュエルシードを探していた。さつきがこの世界へ来た夜も、また。
そして、その弓塚さつきであるが、夜の住宅街の外れで困り果てていた。
さつきの体は、人間と変わらないように作られてはいるが、さつきの魂が入った瞬間から、だんだんと吸血鬼に近づいて行っている。そのため、まだ普通の人間と同じぐらいの域を出ていないが、肉体の崩壊も起こっている。
つまり、何が言いたいのかと言うと。
肉体の崩壊があると言うことは、それを補うために存在する肉体の修復……血を吸うことによる体の復元も出来ると言うことだ。
ちなみに、あまりに酷い傷や、致命傷を負ったりすると吸血衝動が蘇ってくるかもしれないと橙子から聞いている。
さつきが受けた腕とわき腹の傷は、あの家からかなり離れた後、物陰で確認したら銃弾がめり込んでいた。比喩でも何でもない。銃弾の頭ら辺が、肉に突き刺さって止まっていた。
知っている者も多いと思うが、銃弾にはジャイロ回転が掛かっている。普通なら少し動いただけで取れそうなぐらいだったが、そのジャイロ回転に無駄に強靭な肉が巻き込まれ、銃弾を離さないでいたのだった。
更に言うと、そのお陰というか何と言うか、血は一滴も零れていなかった。
服を汚したく無かったので、洋服とスカートを脱いでから少し引っ張ったら割と簡単に(かなり痛かったが)取れた。
因みに、下のシャツの方はともかく、制服型の服には多少汚れはあれど傷一つ無かった。わき腹の弾丸も、服が捲れた瞬間に当たったらしい。
と、いう訳で。
(新しい世界での最初の日に何で血を吸わなきゃならない様な怪我を負ってるのかなわたし……)
散々動き回ったせいで、この体の動かし方も大体分かってきたが、絶対割りに合ってない。
かーなーり鬱になりながら、さつきは先程まで夜の住宅街を徘徊していたのであった。
吸血衝動こそ無いが、ほっといても激痛が襲い続けるだけなので、そこら辺を歩いて素行の悪い男共の血をちょっくら頂戴しようと思っていたのだ。別に殺そうとは思っていない。気絶させて、死なない程度に血を抜き取ればいいと思っていたのだ。だが……
「治安良すぎでしょここ……」
今、さつきは服とスカートを目立たない物陰に置き、2つの銃弾を抜いた後、そのままの姿で住宅街を歩き回っている。寒いなど感じる訳も無い。恥ずかしいというのはあるには有るが、今の自分は幼児体系だし、たった1着の服は新しいものを調達出来るまで汚す訳にはいかない。
つまり、今の彼女は腕とわき腹から血を流しながらも、シャツと下着だけしか着ないまま、ふらふらと歩き回る無防備な9歳児なのだ。
だが、それなのにその町には自分に絡んでくる酔っ払いや、不良の類が全く見当たらない。
そうこうしている内に、住宅街の外れまで来てしまったのだった。
まあ、この世界の町並みが自分の元いた世界とほとんど同じだということは分かったため、完全に収穫無しというわけでも無かったが。
「はあ、どうしよっか……っ!」
と、困り果てていたその時、自分の頭上から何かが近づいてくる気配を感じ、その場所を飛び退く。
「……何? コレ……」
先ほどまで自分がいた場所に、身の丈3メートルはありそうな、二足歩行の真っ黒なモンスターがいた。
「……ゴリラ……じゃあ無いよね?」
まあ、ここは自分のいた世界とは違うのだ。住んでいる生き物も違うのかも知れない。
平行世界なのだから、流石に人間がいないということは無いだろうが。
取り敢えず、そのモンスターはさつきが知っている動物としてはゴリラが一番近かった。
「ガアアアァァァアァァ!」
「っ!」
そのモンスターがいきなりさつきに張り手をかまして来た。さつきは横に跳ねることで避けるが……
「ぐっ! 痛っ……!!」
銃で受けたわき腹の傷が、急な運動により引っ張られて更に肉が裂け、激痛を呼ぶ。
が、その痛みに悶絶してもいられない。自分が避けた後に、ものすごい音がした。
そちらを見てみると、モンスターの張り手がアスファルトの地面に半ば陥没していた。
(うっわ……1・2発なら受けてもまだ大丈夫だろうけど出来れば遠慮したいっていうかあんなの受けるのに力こめたら傷が~~~!)
そう思い、とにかく逃げることにする。
が、
「嘘っ! 早!」
背を向けて走り出して逃げようとしたところ、巨体に似合わぬ素早い動きで追いかけて来たモンスターに頭上を跳び越されて先回りされてしまう。
万全の状態ならば十分に逃げ切れるだろうが、今はとにかく傷が痛い。
そもそも、こちらも1ヶ月程前までは普通の女の子だったのだ。痛みを無視して動くことなんて出来る訳も無い。
と、またもやモンスターが腕を振りかぶった。
「まずっ」
このままでは逃げられないと判断し、取り敢えず倒すとまでは行かなくても何とか気絶させてから逃げることにしたが、あの攻撃を喰らう気は更々無い。
急いでそこから離れる。
と、またもの凄い音がしてアスファルトが陥没する。
モンスターは、攻撃した直後で動きが止まっている。
どこぞのなりたて魔法少女とは違い、周りの被害を考えてその隙に住宅街から離れる。
幸い、ここは住宅街の外れだ。反対側には公園があり、更にその先には木が乱立している山がある。
(取り敢えず、あそこなら暴れても大丈夫だよね。それに、あの大きな体にあの木は邪魔なはず!)
そうと決まれば即行動。さつきは痛む体を押して山の方へと駆けていった。
後ろからさっきのモンスターが追いかけてくる気配がするが、この距離なら痛みを何とか我慢出来そうだ。
さつきの思惑通り、山に入る直前までさつきは追いつかれなかった。
だが、山に着いた瞬間、気を緩めたのがいけなかった。
「ガアァアアアアァァアァァァ!!」
次の瞬間、衝撃と共にさつきの体が山の中まで飛んでいく。
「グッ! ガッ! アアッ!!」
一本の木にぶつかり、それでも勢いは止まらず、木の中心からずれていたためその木の幹を滑る様に更に奥まで吹っ飛ばされる。次の木にぶつかるが、その木には丁度ど真ん中にぶち当たったので、そこで動きが止まる。さつきの上に、衝撃で落ちてきた木の枝と葉っぱが積み重なる。
「う……くっ……」
痛い。もう、銃弾の怪我とかそんなこと関係無いぐらいに体中が痛い。
その時、さつきの耳に大きな足音が聞こえた。
……間違いない。あいつは今、目の前にいる。
―――――――――――――――プチッ
さつきの中で、何かがキレた。
体の痛み? そんなの関係ない。取り敢えず今は……目の前のデカブツを、殴る!
さつきは、その場でゆらりと立ち上がった。さつきが発するオーラに、モンスターは振り上げていた手を思わず止める。
そして、葉っぱや木の枝がパラパラと落ちた後のさつきの眼光に、モンスターは怯んで硬直する。
その隙に、さつきはモンスターの懐に潜り込み……
「……ふっ!」
けが人とは思えない動きで、モンスターのドテッ腹を思いっきり殴り飛ばした。
殴られたモンスターは先ほどのさつきの様に吹っ飛んでいったが、その威力は段違いだった。そのモンスターがぶつかった木は中心にぶつかろうがずれていようが、構わずへし折られる。
木を4本へし折った所で、その巨体はようやく止まった。
「ふう……ふう……はあ……」
さつきは、荒い息をしながら腕を突き出したままの格好で止まっていた。
そして、少し離れた場所でその光景を見ていた者が、二人。
「…………えっ……と……」
「暴走体同士が……喧嘩してる……?」
ようやく現場に着き、さつきが立ち上がる所から目撃していた、なのはとユーノであった。
その頃、さつきが落下した場所――月村邸では。
「ノエル? そっちの監視カメラ、何か写ってた?」
「駄目です。特に進展はありません」
侵入者に気づいた月村家の当主とメイドの1人が、監視カメラの確認をしていた。そして、
「ファリン、そっちはどうですか? 髪の毛や血痕はありました?」
「いいえ。監視カメラから採ったデータ通りの道を探してるんですが……中々見当たらなくて……」
「まあ、髪の毛なんて普通は見つからないし。血痕の方を重点的に探して」
「はいです」
もう1人のメイドは、現場で犯人を特定するための証拠を探していた。
「ふう……やっぱ暗視カメラの画質じゃ、こんなもんが限界よね」
「はい……せめてモノクロじゃ無くてカラーに出来れば……」
分かったことは、犯人は当主の妹、月村すずかと同じぐらいの背丈、髪はツーサイドアップにしていることから、女ではないかと思われるが、こちらの目を欺くための偽装かも知れない。
服は、高校生が着るような制服みたいなものという奇妙なもの。
そして……
「でもこれ、明らかに人間の動き……っていうかスピードじゃありませんよ。
こっち側の人間でも、これだけの動きが出来る人は何人いるか……
それに、あんなに深くまでどうやって潜り込んできたのかも不明ですし。
こっち側の人間に間違いないとは思うんですが……」
「そうなのよね……一体何が目的で……
やばい。多すぎて分からないわ……」
「忍様……」
メイドは目頭を押さえてうな垂れる。
「取り敢えず、犯人の情報が少なすぎます。このまま状況の進展が無い場合、深追いは避けておいたほうがいいかと。
相手の出方を待つ形になりますが」
「そうね。それに一応、このことは恭也にも伝えておいたほうがいいわね」
「そうですね」
本人の預かり知らぬ所で、また別の事態も進行していた。
あとがき
やーっと更新&リリカル世界!
大変長らくお待たせいたしました。え? 待ってない? そんな事言わないで下さいよ奥さん(誰
えー、なのはきちんと見て知ってる人にはつまらないであろう部分がありますが、やっぱりこれも一つの小説として完成させたいので書きました。
最後のユーノの認識、色々と突っ込みたいところもあるかと思いますが、実際、9歳ぐらいの女の子体系の何かが3メートルの巨体を吹っ飛ばすところを見たらそうなってもおかしくないんじゃないかと。
重ねて言いますが、いろいろと突っ込みたいところもあるかと思いますが、そこら辺は次の話の冒頭で纏めて解決しますのであしからず。
僕の予想出来ない突っ込み方は大歓迎ですが^^;;
ではでは。