<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12606] Garden 第3話
Name: デモア◆45e06a21 ID:65d0f123 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/09/20 12:07
「正義の吸血鬼、弓塚さつき、参上!
 ……うん、吸血鬼って名乗っちゃあ駄目だよね」

日は6月3日、こちらとある廃ビルの一室。そこには何やら叫んでキメポーズをとっているさつきの姿があった。

さつきはあの事件の後、近くにアルフが居て、自分が光に包まれたところまでは朧げながらも覚えている。
気がついたら地球に戻ってきていたことから、アルフが逃がしてくれたのだろうという結論も出ていた。
こちらの世界に来てから始めて、数人の行方不明者を出してしまった彼女は、しかしそれまでと同じように過ごしていた。

どうせすぐ管理局の人間に捕まるのだからと思っていた。見つかったら、素直に付いて行くつもりだった。
数日が経った。何事も起こらなかった。管理局は一体何をしているのかと呆れた。
1週間が経った。何事も起こらなかった。逆に不安になってきた。
2週間が経った。何事も起こらなかった。もしやほったらかしにされたのではないかと疑惑を抱いた。
3週間が経った。何事も起こらない。疑惑は確信に変わった。
自分が魔導師じゃないから、この世界の人間であったから、事件が解決しちゃえばそれでよかったから、推論は色々と出て来たが、真相はさつきには分からない。

しかしそうなってくると、今度は悩み事が出て来た。自分はこれからどうするのか、だ。
捕まることはなくなったのであれば、矢張り当初の目的通り、時間の許す限り人として過ごしたい。
あの事件直後こそ無気力に襲われていたが、時間の流れというものは偉大だ。

特に住居を変える必要性は思い浮かばなかった。特定の1個人とバッタリ出会うことなんて、生活パターンが被っていなければ早々ないことだ。
そもそもあの子の住居がこの近くであることさえ定かではない。
実際さつきがこの世界に来てからジュエルシード絡み以外でなのはやフェイトと会ったことなんて、遠出した1度だけだ。十分確立された今の生活を捨てる理由にはならなかった。
まずバッタリ出くわすなんてことはないだろう。……あちらがさつきを探したりしない限りは。

(……うん、ありえないよね)

少しだけ、もしかしてと思ってしまったが、さつきは直ぐにその考えを打ち消す。何を期待しているのかと。
もし仮にバッタリ出会ってしまったとしても、その時はお互いに見なかったことにしてそのまま別れ、記憶から消す。向こうも当然そうするだろう。それで万事OK。何も問題はない。

さつきが今後の身の振り方を考えていると、そこでふと思いついたことがあった。
謎の正義の人物として暗躍してこの町の平和を守っちゃおうというものである。
折角自分の望みを切り捨ててこの世界側を取ったのだ。目に付く範囲でも悪行が起こるのは許せない。
自分のことを棚に上げた、自分勝手なエゴだとしても嫌なものは嫌なのだ。
本人は気付いていないが、自分のやらかしたことの罪の意識を和らげようという意図もあるのかも知れない。

別に学校の勉強も無いし働くこともできないし遊ぶ友達もいないから暇なんだろとか言わない。断じて違う。

「うーん、やっぱり名前言っちゃうのも駄目かなぁ。
 表ではあくまで普通に暮らすんだし、名前言っちゃったら正体不明じゃなくなっちゃうもんね。
 でもやっぱり正義の味方って言ったら名乗りは外せないし……」

……結局のところ、暇なのであった。盛大に。





そんなこんなで時間は過ぎ去り夜になると、さつきは気合を入れて廃ビルを出発した。
とは言っても事件なんて早々起こるはずもなく、月明かりの中、夜の街のさつきのあてもない徘徊が続く。
むしろここ最近起こった事件は全てが彼女によるものだったりすることは考えてはいけない。

「はあ、静かだなー。んー、いい夜。
 お月様も明るいし」

死徒だからなのか、やはり夜というものは落ち着くらしい。
まぁ結局のところ、日常の習慣に夜のお散歩が追加されて、ふと何事かが目に止まったら人助けをしようみたいな方針なのだ。あの名乗りだって別に本気でやろうなどとは思っていない。
久々のあてもない夜の散歩に、さつきは心底リラックスしていた。
と、そんな時彼女の目があるものを捉える。

「……あれ?」

さつきの目を引いたのは、4つの色だった。月明かりに浮かぶ、ピンク、金、白、赤の4色。
直ぐにそれは人の髪だと判明した。急いでいるのか、4つの人影が駆け足でさつきの目指す先に横たわる道を横切っていく。
何故発見した瞬間に判明しなかったのかと言うと、その人物達の人としての輪郭を見逃していたためだ。
原因は、その4人を包む衣服だ。とてもじゃないがそのまま外に出るような格好ではない、いかにも動きやすさ重視の薄手、最低限のもので、闇に紛れる黒尽くめ。
月明かりに浮かんだと言っても、たかが髪の色だ。服のこともあいまって夜目の利くさつきでなければ簡単に見逃していただろうその出で立ちは、しかし一旦気付いてしまえば怪しいことこの上ない。
更に、彼らの先頭に陣取る者の腕には、寝ているのか気を失っているのか、グッタリとした様子のパジャマ姿の子供が抱かれていた。
どう考えるまでもなく、どっからどう見てもその正体は……

「ひ、人攫いだー!?」







走る4人組の進行先へと回り込んで路面に降り立ち、さつきは彼らに指を突きつけこう言い放った。

「そこの人達待ちなさーい!」

突如自分達の前方に現れたさつきにその4人組は立ち止まる。

そこでさつきは、より詳細に4人の姿を確認することができた。
メンバーは女性が2人に男性が1人、そして少女が1人。
先頭に立つ男性は筋骨隆々の大男で、くせっけのある白髪をしていた。恐らくはこの中で一番の年長者。
その後ろに立つ女性は20代前半くらいで、ピンクのロングヘアーをポニーテールにしている。
その後ろに立つ、少女を抱えている女性も年の頃は同じくらいだろう。金髪のショートヘアーに整った顔立ち。2人とも女性では背の高い方。
そして殿を務めているのはなのは達とそう変わらないだろう年頃の少女。2房の三つ編みを垂らし、そのまだ幼い顔に吊り上がった荒々しい目をしていた。

どう見ても誘拐犯な時点で怪しい集団だということは分かってはいたのだが、それでも何なのだろうかこの不自然さ抜群な組み合わせは。
4人のうち3人が女性で更にうち一人が少女、荒事に向いてそうなのが1人だけ。
どっかの犯罪集団みたいな訳ではなく、お金に困ってやむに止まれぬ事情でとか言われれば直ぐに納得できそうな編成であった。
とは言っても、さつきのやることに変わりはないのであるが。

「その子、置いてって貰うよ」

さつきは言い放った。
普通なら、見た目小学生にこのようなことを言われたら失笑ものだろう。単純な数の差以前に、相手には大人が3人も居るのだ。本来なら1人でも無理ゲーである。
普通、相手はそのままさつきを無力化してどうこうするか、スルーして先を急ぐかのどちらかを選択するだろう。
だからさつきはその言葉を発すると共に身構える。相手が何かしらしてくる行動に対処するために。

向かってくるならよし、そのまま返り討ちにして女の子を救出するだけ。
逃げるでもよし、追いかけて無力化するだけである。その後は……ちょっとばかり食事になって貰ってもいいだろう。

早くも取らぬ狸の皮算用を始めたさつきを他所に、しかし相手の反応はさつきの予想していたものとは違っていた。
さつきの言葉に警戒心を強め、2番目に居た女性が前に出て女の子を隠すように陣取り、先頭に居た男が身構える。
そに対応それは向かってくるものではなく、受けるためのもの。相手の集団は、たかが9歳児の見た目のさつきに最大限の警戒を払っていた。

さつきはその事に疑問を覚えるが、まぁ些細なことかと切り捨てる。人攫いなんてやってる最中で緊張しているのだろうと。
何よりこの状況相手のあの反応からのこのシチュエーション、更には、

「貴様、何者だ」

このようなことまで聞かれたらこれはもうテンションも上がるというものである。

(――後でちょっと魅了にかけてちょこっとだけ忘れてもらえばいいよね!)

さつきはそう判断を下し、そして、

「正義の吸血鬼、ここに参上!」

言った。ポーズも取って。どや顔で。どうせ忘れてもらうんだからと羞恥心なんて捨てて思いっきりキメた。

勿論さつきがそのドヤァ……をしている時間は相手からすればモロに隙しかない状態である。彼らは多少の間の後にこれ幸いと行動を開始する。
無論、さつきの身体能力ならば多少先手を取られたところで何の問題も無い、筈だった。だからまぁこのような余裕しゃくしゃくな行動を取っているのであるからして。
それが通常に位置する出来事であるのなら、何も問題はなかった。

飛んだ。4人組のうちの紅髪の少女を除く3人が。

跳んだではない。文字通り飛んだ。言い換えるのならば、飛翔した。

「へ、ええっ!?」

スルーされた悲しさなんて吹っ飛んで、さつきは思わず驚愕の声を上げる。そんなさつきを他所に飛び上がった3人はそのまま1つの方向を目指し始めた。
その目指す先はさつきではなく、明らかに離脱を目的とした方向で。
無論、うち1人が抱えていた少女もそのままにである。

「ちょ、ちょっと待っ」

色々な意味で慌てたさつきは思わず静止の声を上げようとする。だが、その続きはおもむろに動いたこの場に残った最後の一人に止められた。
4人の中で一番の年下、今のさつきとそう変わらないであろう外見をした少女。どうやら彼女がこの場に残ったのは彼女だけ空を飛べなかったという理由ではないらしい。

その少女が、地を舐めるように飛行しながら猛然とさつきに突撃してきた。
状況からして、彼女はさつきの足止め又は撃退役として残ったようだ。その迫力にさつきは思わずたじろぐ。

実を言うとさつきも、今起こった現象に心当たりはあった。
と言うより過去にあったそれがらみの出来事が強烈すぎて、驚愕している中でも真っ先にそれを連想した。そうだ、あの少女達も、丁度今の彼らのように飛んでいた。
そして、少女が手を振ると紅い光が一瞬だけその手の内に出現し、それが弾けると共にそこには少女の身長程もあるハンマーが握られた。

まさか、と思っていたさつきもそれで確信する。

(この人たち、なのはちゃんやフェイトちゃんと同じ……!)

「はあっ!」

さつきの顔面に向かって、少女のハンマーが唸りを上げて迫った。明らかな身の危険に、さつきは思わず硬直させていた体を慌てて動かして後方へと逃げる。
さつきがハンマーを避けた瞬間、避けられるとは思ってなかったのか少女の眉がピクリと動く。
ハンマー自体は幾分か余裕をもって回避できたが、硬直が解けるのが後数瞬遅れていたらどうなっていたか。その重量級の物体が空気を引き裂く音にさつきは肝を冷やした。
後ろに下がったさつきは、少女から追撃が来る前に両手を前に突き出して叫ぶ。

「ま、待って!」

予想外の事態にさつきは慌てた。
彼らはこの世界とは違う世界から来ていた筈だし、この世界には彼らの言う魔法は無いということも幾度と無く聞いていた。
だから万が一にももう関わることなんて無い筈だったのだ。
地球の常識の範囲内でなら、さつきは相手が何人いようが至極簡単に事を終わらせられるだけの力を持っている。だから誘拐事件だと思われた事態に真正面から突っ込んで行ったのだ。
それが何故また魔導師などという人物達と対峙しているのか。

まだ相手がなのは達と同じ魔導師という存在だと確定した訳ではないのだがほぼ間違いないだろう。それに仮にそうだとした場合、それで先程の彼らの反応の理由も理解出来てしまう。
彼らがなのは達と同じなら、戦力に外見年齢は全くアテにならないのだ。なのはやフェイトの例からさつきが勝手に思っているだけだが、恐らく間違ってはいないだろう。

(と、とにかく、今は逃げ……!)

あの女の子にはかわいそうだが、これはもう自分の手には負えないというかもうそっち関係と関わるのはごめんだとさつきの思考が逃走の方へ向いた――
一瞬だけ少女から意識が離れた瞬間、狙ったのか偶然か、再度少女がさつきへ突撃してきた。
反応が遅れたさつきはまたもや少女に懐まで潜り込まれる。少女はさつきへ接近しながらも体を1回転させ、下段から振り上げる形でさつきの頭部目掛けてハンマーを振るった。
しかし今度はさつきはテンパることはしなかった。懐に潜り込まれたことには焦ったが、目測でこれなら避けれると感じて早急に体をバックステップで後方に逃がしていた。

そして少女のハンマーは、さつきの想定した通りの曲線を描き……吸い込まれるように宙に浮かぶさつきの頭部に向かってきた。

(え、伸びっ!?)

曲線を描く物体と言うのは、目測での起動予測を計り違え易いという性質がある。
FSP等をやったことのある人物なら、慣れないうちは誘導弾を避けたつもりが逆に当たりに行っていたなどということが多々あった筈だ。
ビーチバレー等で、カーブをかけられたボールの着地点を計り間違えて落としてしまったという人もいる筈だ。
しかも今回の場合、更に距離感を勘違いし易い斜め下からの曲線移動、
更にはハンマーの軌道に加え、少女自身の突進力による前後移動、折りたたまれた腕を伸ばす動きでの伸びを加えれば、
ハンマーの初動から無意識的にその軌道を予測してしまったさつきからすれば、いきなり伸び縮みしたと錯覚する程かなり自由な位置調整が可能なのである。

「ひゃっ!」

虚を突かれたからこそ、さつきの体は素直に反応してくれた。
腕が反射的に迫り来るハンマーへと突き出される。
ハンマーが頭に激突する直前、さつきの突き出した手に重い衝撃が走った。自分が何をしているのかも分からないまま一も二も無くそれを掴む。
はたして、さつきが掴んだのは少女の握るハンマーの柄の根元だった。

己の武器を掴まれたことに少女は僅か驚きを見せる。しかしハンマーの勢いは止めずにそれを掴むさつきごと振り回して地に向かって叩き付けた。

「うおらっ!」

さつきは声を上げることも出来ず、必死になって我武者羅に足を下方と感じられる方へと向け続けていた。
そのままアスファルトに叩きつけられ、重い音と衝撃と共に僅かにクレーターが出来る。
さつきは何とか足から激突することに成功していた。だがさつきは、その振るわれた暴力の威力と腕から伝わる感触に戦慄する。
なのは達の扱う魔法には、その他の事象はそのままに相手を傷つけることのみを避けることの出来るという摩訶不思議な設定が存在していた。
彼女等はそれにより、相手が重傷を負ってしまう可能性をある程度無視してその力を制圧に向けることが出来ていた。
だからさつきも、今回もと期待していた。目の前の少女がなのは達と同じなら、と。
いの一番に考え付いた可能性、彼女らがこないだの事件の関係で動いていた管理局員であるならば当然その設定を使っている筈であるとも。
相手が傷つかないこと以外は何も変わらないと言っても、そのこっちが傷つかないというその現象だけでその攻撃を受けた時の感触は微妙に変わる。
そしてさつきはついこないだまで、非殺傷設定の魔法攻撃と不本意ながら文字通り触れ合ってきた過去があった。
だから、少女のハンマーを掴んでいたさつきは泣きそうになりながら悟った。

(これ、非殺傷設定じゃないー!?)

その事実とこの威力、そして先程から狙われている部位からして、今さつきを地面に押さえつけているこの少女は本気でさつきを亡き者にしようとしているということはほぼ確定的だ。
これで管理局の関係者だという可能性はほぼ失われたと見ていい。しかもここまで本気だと、逃げたところで何処まで追ってくるか分かったものではないではないか。

それを悟った時、さつきの頭がかっと熱くなった。髪が逆立つような感覚がした。
何故このような目に合わなければならないのか。
そりゃ前回のことは自業自得かも知れない。でも今回は少し良いことをしてみようと思っただけじゃないか。
それが何でこんな本気の殺意を向けられなきゃならないのか。
人を助けて周ってる女の子の噂が広まれば、正体がバレてしまった時にももしかしたら受け入れてくれる人も居るかも知れないとか、そんな苦笑いしてしまいそうな希望すらも抱かせてくれないのか。

「なっ!?」

さつきをハンマーで押さえつける紅い少女が驚きの声を上げる。
相手を押さえつけ、身動きを封じたところで追撃を入れようとしたところを、イキナリ自分の方が持ち上げられたのだ。
片腕で掴んだハンマー毎、さつきは少女を振り回した。大きく振りかぶり、真横にある塀に向かってフルスイングで叩きつけようとする。
だが少女が塀に叩きつけられる直前、さつきの手から手応えが消えた。さつきの掴んでいたハンマーが、紅い光と共に突如消え――否、小さくなって少女の手に収まったのだ。
少女は振り回された勢いのまますっ飛び、空を飛ぶことの出来る彼女は結果何事も無くさつきから離脱することに成功する。
そしてバランスを崩したさつきは、振り回した腕から塀にぶつかっていった。

物凄い音と共に塀がガラガラと崩れ落ちる。さつきの力が尋常ではないことを察した少女は、その眼光を更に険しくして再度手の内にハンマーを出現させた。
一方のさつきも逃げることなく少女を睨みつけていた。彼女の中から逃げる、という選択肢が消えたわけではない。
ただ、浮かんだ瞬間に突っぱねた。気がすまなかった。どうにかして目の前の少女を無力化してしまいたかった。

喰らえば痛いじゃすまない威力の攻撃を向けられる、その恐怖心もその気持ちを後押ししていた。背を向けて逃げることが怖かった。安心が欲しかった。
俗に顔真っ赤、あったまってる、顔面トランザム等と言われる状態だ。

来ないならばこちらから、むしろもう一瞬さえ主導権を握らせないというような意識に支配されながらさつきが地を蹴ろうとすると、その出鼻をくじくように予想外の――いや、予想してしかるべきことが起こった。
周囲の家がガヤガヤと騒がしくなったのだ。
深夜も過ぎた時間にこのような騒々しいどころではない音を立てていれば当然で、ちらほらと人が外に出てきそうな気配もする。

こんなところを見られては一巻の終わりだ。しかし目の前の少女を野放しにしてしまうのは今のさつきには途轍もなく恐しいことだ。
どうすればいいのかと、さつきは浮き足立ってしまう。

一方、少女の行動は迅速だった。

さつきが気づいた時には、少女はさつきの懐の中にいた。さつきの鳩尾に向かって少女のハンマーが唸る。

「っ!!?」

その身に宿る危機感に体を突き動かされるように、さつきは動いた。
さつきは左の脇の下に激痛が走るのを感じた。思わず右手を伸ばして左腕を握る。

「はあっ、はあっ、はあっ!」

一瞬の後、両者の間は再び開いていた。少女は上空に、さつきは右手に胴体から外れた左腕を持って。
荒い息を付くさつきは、ぼぅとした目で自分の右手にある物を見、そして何も無い左肩を見、そこで漸く何が起こったかを理解したように紅い少女を睨みつけた。
対する少女も、まさかかわされるとは思っていなかったのか一瞬だけ目を見開くと険しい顔をしていた。そしてこちらを睨みつけてくつさつきの、その"目"を見て、更に危機感の度合いを上げる。

だがさつきが少女を睨み付けていたのも一瞬のこと、さつきはその腕の痛みのお陰か即座に正気に戻り、その場からの離脱を選択した。
それを見た少女も周りの家から人の気配が出て来たことを感知し、1つ舌打ちをして一先ず身を隠す判断をした。

次の瞬間には、民家から出て来た複数の人々によってその場の惨状が目撃され、騒ぎへと発展していくことになった。
少し後、さつきが魔力探索にひっかからないことに紅髪の少女はもう1つ舌打ちすることになる。






◆◆◆◆◆



ある所に、昨夜さつきと出くわした4人が集まっていた。

「ヴィータ、一応確認するが、例の奴は始末したのだな?」

桃髪の女性が、紅髪の少女に聞く。

「ああ、片腕吹っ飛ばしたからな。その後走って行ったし、あの怪我ならそこら辺でのたれ死んでる筈だ。
 それよりも、主の言ってた吸血鬼って奴の話」

「吸血鬼自体に心当たりが無いようだったものな。
 いや、吸血鬼という生物についてはご存知だったが、実在されない架空の存在と思っておられるとは。
 しかしそうなると昨晩の奴は……」

「奴が騙りをしていたと」

「分からん。ヴィータ」

「あいつが人間だったかと言われると、分からない。
 だけどあの身体能力がただの人間じゃ無かったのは確かだ。ぜってぇ避けれねぇと思っていた攻撃もすばしっこさだけで回避しやがった。
 それと、あいつの腕吹き飛ばした時一瞬だけ本性現したけどあの時の目、ありゃあ相手を人として見てないよ。
 獲物を狙う獣みてぇな感じだった。多分相手を殺すのに何の抵抗もねぇ」

「成る程、ヴィータが言うなら間違いは無いだろう。ならば奴が吸血鬼という生物だというのは信憑性は高いと見ていいかも知れん。
 主からの話によると、吸血鬼というのは人を襲って血を吸う怪物のことらしいからな」

「ちっ、んな奴らが居るなんて面倒な世界だな。
 普通に戦えば負けはありえねーが、厄介だぜ、普通の奴と見分け付かねぇぞ」

「うむ、その怪物について、詳しい内容は」

男の質問に、桃髪の女性は首を振って答えた。

「主はあまり争いを好まれそうにないからな。この世界に来たばかりでそのような事を詳しく聞かれては不信がられるだろう。
 無用な心配をかけるわけにはいかん」

「でも、そうなるとやっぱりもっと情報が欲しいわね。
 私達この世界に来たばかりだから、情報収集に有効な手段がどのレベルなのか計りかねるけど」

「ならば、どの文明レベルでも安定して有効な方法を使えばいい」



◆◆◆◆◆






更に日は跨ぎ、これは海鳴町に道路破壊事件が騒がれた翌日の5日のこと。
昼を過ぎた頃、居間でくつろいでいた月村忍は何やら慌てたような足音を耳にした。

「忍様!」

「どうしたのノエル?」

自分のとこの優秀なメイドが足早に居間に入ってきたのを見て、調査をお願いしていた住宅地の道路等が破壊されしかもその周辺が血塗れだったという一昨日の深夜の事件について何か分かったのだろうか、
それにしても走ったり息を切らしたりはしていないにしても普段から冷静沈着で有能な彼女がここまで慌てるなんて珍しい、ここは頭首たるものまずは余裕のある対応を、
と忍はカップの紅茶を口に含みながら応えて……

「街中で、一般人の方々に対して『吸血鬼とは何か』と訊いて周っている者がおります!」

「ぶーーー!」

盛大に吹きだした。










あとがき
※1話からこの話まで、投下して時間が経ってから中身の順番入れ替えたりと改定しております。読み直してくださって違和感感じた人はすいません。
※改定終わりましたので、話の中でおかしなところがありましたら教えていただけると嬉しいです。


前回の後書きでも言いましたが、この作品の夜の一族はなのは世界用に大きく調整しております。原作とらハの夜の一族とはかなり違う設定となっておりますのでご了承ください。

えー、以前からちょくちょく言っておりますが、この作品の主人公は今のところなのはです。
一応なのはとさっちんのダブル主人公ですが、どっちかと言えば主人公はなのはです。
しかしこれでちょっと勘違いして欲しくなくて付け加えさせて頂きます。

それでも、やっぱり、この物語の主人公はさっちんです。


今回は続きを待っていただいていた方々には本当に申し訳ないです。いくらさっちん早く出したかったからと言って無理しすぎでした。
あげくそのせいで調整がややこしくなってこの話難航しまくるとかもうね。
次話は出来る限り早く上げたいです。丁度冬休み入りますので。今まだ壊れたキーボードで書いているのですが、新しいノーパソ買える目処も付いたので。
それでは。



予想通りの質問が来たので恒例のQ&Aコーナー
但し一応ネタバレみたいなことは控えたいので(つってもなのは知ってる人には何の意味もないんだけどそこら辺はゴメンなさい)、今回はなのは知らない人用となのは知ってる人用の2つの回答用意しました。

Q.聞き込み調査とか、目立つ行動をするのは疾しい事をしている身としては可笑しな行動じゃね?

なのは知らない人用A.
そうですね。いくらたかが1つの街の中で何人かの人間に聞いているだけでも、その近辺で誘拐までしているのにこの大胆な行動。
一体どこにそこまでしなければならない理由があるのか、そもそも彼らは何故まだこのような所にいるのか、彼らの会話の中に出て来た主とは!?
さっちんが一方的にやられた程の強さを持つ彼らの目的は一体……
色々推察しながら今後の展開を楽しんでいってくださいー

なのは知ってる人用A.
ヒント的なのを4つだけ。恐らくこれで何故彼らがこんな行動を取ることが出来たのか、何故早急にこんなことをしたのかは分かる筈。
・この世界は管理外世界である。そのくらいは彼らももう分かってます
・彼らの主はどんな者か
・今現在の彼らの状態。精神面的な意味で
・彼らからしたら、もし吸血鬼というものが実在するのであれば彼らの周りには何人もの吸血鬼が隠れ住んでいるか分かったものじゃないから


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028938055038452