<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12606] 第21話
Name: デモア◆45e06a21 ID:95f9b2a6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/14 04:31
『アルカス クルタス エイギアス
 煌きたる電神よ 今導きの元 降り来たれ
 バルエル ザルエル ブラウゼル』

海の上、巨大な魔方陣を浮かばせ呪文を詠唱している少女がいた。

『撃つは雷 響くは轟雷
 アルカス クルタス エイギアス』

詠唱が進むにつれ少女の周りに漂う巨大な魔力の塊。
それらを繋ぐ雷《いかずち》のアーチ。

「はあっ!」

詠唱が終わると共に無数の雷が、海へと降り注いだ。










『残りのジュエルシード6個は、多分全部海の底。
 それを取ってきます。
 万が一のことがあるかも知れないから、ジュエルシード、1つだけ置いておくね。
 もし私達が捕まったりしたら、それを使ってさつきは願いを叶えて』

さつきはその手に持つ紙に書かれた、至極簡単な内容を見て呆然とした。
先程のことである。マンションを覆っていた結界が急に消えたのを感じ、さつきが慌ててフェイトを探すとどの部屋ももぬけの殻。
代わりに見つけたのがこの紙切れと、一つのジュエルシードであった。

(え、えーっと、取りに行くってことは、大体の位置を掴んで、魔法か何かで潜って回収するってことだよね?)

つい一日前にフェイトと交わした会話が、さつきの脳裏によぎる。

――「ねぇ、さつき」

――「ん、何?」

――「さつきって空中戦、できる?」

――「え、えーっと、ある程度の高さならジャンプして攻撃できるし、周りに建物とかあればその壁足場に蹴ったりして一応戦えるよ」

――「……そう。うん、分かった」

さつきを置いて行ったのは今回何も出来ないだろうからというフェイト達の気遣いであろう。
しかしこの会話の内容からすると……

(だ、大丈夫……だよね?)

その時遠くの方で、雷の鳴る音が響いたような気がした。

(………………)

次いで、そちらの方からジュエルシードが発動する時の魔力の感覚が、普通では感知できるか怪しいくらいの距離なのにかなり明確に感じ取れた。

(って明らかに一戦やらかすつもりだフェイトちゃん!!
 しかも今の感覚だとジュエルシード6ついっぺんに!!?)

さつきでも分かる。幾らなんでも、それは無茶だ。

(何で相談してくれなかったの!?
 戦力にはならなくてもどっかから酸素ボンベ拝借してくるとかいっそのこと潜水艦の船長さん操っちゃうとか色々一緒に考えることできたのに!)

一緒に置かれていたジュエルシードを引っ掴んで、さつきは急いでマンションを飛び出した。










(海に電気の魔力流を叩きこんで強制発動させて、位置を特定する。
 ジュエルシードが海に沈んじまってる以上、そのプランは間違ってないけど、だけど)

空に駆け上がった六つの魔力の奔流、それをアルフは険しい表情で睨みつける。

(こんだけの魔力を打ち込んで、更に全てを封印して。
 こんなの、フェイトの魔力でも絶対に限界超えだ!)

「見つけた。残り、六つ。全部ある!」

アルフの推測を裏付けるかのように、フェイトの息には少しだが乱れが見えていた。

(だから、誰が来ようが、何が起きようが、ワタシが絶対護ってやる!)

一人静かに、固く決意するアルフ。
フェイトは魔力を迸らせるジュエルシードが見えた瞬間、その一つに早くも封印砲を打ち込んだ。
だが、それはジュエルシードの周りを覆うように現れた竜巻にかき消されてしまう。
しかもその隙に、フェイトの横合いから別の竜巻がまるで蛇のようにフェイトを襲った。
直前で気付き、間一髪で避ける。

「くぅっ!?」

「フェイト! 焦りすぎだ!」

「分かってる!」

また別の竜巻の突進を、アルフが間に入ってシールドで阻んだ。
だが、フェイトもアルフも竜巻にばかり気を取られすぎていた。

「ぅわあ!!?」

「フェイト!?」

突如現れた大波に、フェイトが飲み込まれる。
更に、助け出そうと動こうとしたアルフの動きが、その場で阻害された。

「!?」

見ると、フェイトが打ち込んだ雷を模した魔力の紐が、彼女の体を縛っていた。息を呑むアルフ。

「くそっ! こいつ!」

必死に振りほどこうとするも、それは中々外れてくれない。
アルフがそれと必死に戦っている間に、無事だったのか海の中からフェイトが飛び出して来た。しかし当然、その息は荒い。

「はあっ、はあっ、はあっ」

「フェイト!」

フェイトが自力で浮かび上がって来たことに安堵するアルフだが、肩で息をしているフェイトに向かって、新たに3本の竜巻が襲い掛かるのがその目に映った。

「フェイトーーー!!」










「何とも呆れた無茶をする娘だわ!」

「無謀ですね。間違いなく自滅します。
 あれは、個人が出せる魔力の限界を超えている」

なのはが急ぎ管制室に辿り着いた時、そこは騒然となっていた。

前面に映される巨大スクリーンでは、一人の少女が吹き荒れる雨風、巨大な波、果ては竜巻やただ単純な魔力の奔流に翻弄されている姿が映し出されていた。

「さつきさんは?」

「一応探していますが、まだ確認されていません! 恐らく現場が空中だからかと思われます!」

リンディと船員の間で情報のやり取りが行われる。

「あ、あの! 私、急ぎ現場に向かいます!」

その中に割り込むなのはの声。それに返したのはクロノだった。

「その必要は無いよ」

「え……?」

「放っておけば、彼女は自滅する。
 仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たしたところで叩けばいい」

「でも……!」

クロノの言葉に思わず声を上げるなのは。だがなのはには理解出来てしまう。それが一番確実で安全な方法であると。
ジュエルシードは、常に一番確実な方法で回収しなければならない程の危険物であることも、
組織であるが故、上の者は下の者の安全を最大限に確保する努力をしなければならないことも。自分の父親の事故の影響で、なのはには痛い程理解できてしまう。
だが、

「……そうね。向かって貰おうかしら」

「艦長!?」

思わぬリンディの言葉に、クロノは驚愕し、なのははパッと顔を上げる。

「これだけのジュエルシード、長時間そのままにしておくのは危険だわ。私たちでも封印するのには苦労する筈。
 それに、さつきさんのこともある。彼女があれに手出しできないと考えるのは早計でしょう。
 なのはさんが手伝ったところで、あの様子では彼女はどの道満身創痍でしょう。そこに局員達を送り込めばいいですし、それに」

リンディはそこで言葉を切って、

「なのはさん、封印が完了したら、分かってますね?」

「……! はい!」

リンディの言葉に考えるも一瞬、ハッとしたような顔になり、勢いよく返事をするなのは。

「よろしい。では、出撃を許可します」

「?」

やり取りの意味が分からないクロノは首を傾げていた。



「なのは、僕も!」

「ユーノ君!」

転送ポートへと駆け出すなのはを、ユーノが追いかける。

「一緒に行くよ!」

「うん! エイミィさん、お願いします!」

「おっけいまっかせといてー! 座標指定完了。転送開始!」

丸いエレベーターの様な装置に入ったなのはとユーノが、虹色の光に包まれて海の上へと跳ばされた。








「「!!」」

海上で戦っていたアルフとフェイトは、転移の魔法が使われたことを感じて身を強ばらせた。
次の瞬間、光と共に開くゲート。そこから飛び出してくる二つの人影。
その片方がピンク色の光に包まれると、一瞬で純白のバリアジャケットを纏い滞空する。

「フェイトの邪魔を、するなあああ!!」

現れたなのはとユーノの2人へと、なお絡み付いてこようとしてくるジュエルシードの魔力を引き剥がし、アルフが突進した。
だがそれを、薄緑色の魔力の盾が阻む。

「僕たちは、ジュエルシードの封印を手伝いにきた! 後の話はそれからだ!」

「何ぃ!?」

シールドを挟んでにらみ合うアルフとユーノ。
その頭上を、なのはが通り過ぎていく。

「あ、この!」

だが、それを追おうとしたアルフの眼前に、またもやユーノが降り立った。
ただし、アルフから背を向ける形で。

「まずはジュエルシードを停止させないと、マズいことになる。
 だから今は、封印のサポートを!」

ユーノが胸元で印を組む。
その眼前に巨大な魔方陣が現れ、そこから普通では考えられないくらいの量と長さを持つ鎖型のバインドが伸び、フェイトを取り囲んでいた竜巻を縛り上げた。
同時に、なのはの道筋を確保する。

「フェイトちゃん!」

「っ……!」

ユーノのサポートで苦もなくフェイトの元に辿り着くなのは。フェイトは既に肩で息をしており、魔力切れからか手にしたバルディッシュからは魔力刃が消えていた。
近づいてきたなのはに対し思いっきり警戒してバルディッシュを構えるフェイトを無視し、なのはは話を進める。

「手伝って。ジュエルシードを止めよう」

《Divide Enagy》

なのはの持つレイジングハートがピンク色の光を発し、そこから零れ出た光がフェイトに向かって飛んで行く。
フェイトはその魔法を知っていた。

「これは……」

《Charging》

それは、自らの魔力を他者へと分け与える魔法。

《Charging complete》

「2人できっちり、半分こ。これで行ける? フェイトちゃん」

「………」

フェイトは黙ったまま、だけどはっきりと頷く。
しかしその時、ユーノが取り逃がした竜巻がなのは達へと向かった。
それに息を呑むなのは、フェイト、そしてユーノ。
だがその竜巻は、すんでのところでオレンジ色の鎖型バインドに絡め取られた。

「アルフさん!」

「アルフ……」

なのは達が振り返る先で、アルフの眼前に展開された魔方陣から一本、また一本とバインドが飛び出し、ユーノと共に竜巻を縛り上げていく。

「ユーノ君とアルフさんが止めてくれてる。だから今の内。
 一緒に合わせて、一気に封印!」

「………」

返事も聞かずになのはは上空へと駆け上がり、竜巻全てを視界に収める。

「レイジングハート」

《Sealing Mode Set Up.》

目にして改めてその無茶苦茶ぶりを実感する、擬似的な大自然の猛威。ユーノとアルフのバインドによって拘束されながらも、今にもそれを引きちぎりそうな勢いで暴れまわる竜巻。
陸上で発生していたら都市一つ壊滅していてもおかしくないそれ。普通ならとてもではないが封印など出来ないそれを眼前にして、しかしなのはは力強く言い放った。

「ディバインバスター フルパワー、行けるよね!」

《Of course.》

なのはの足元に現れる巨大な魔方陣。そしてチャージされる魔力。
その眼下では、フェイトの方も安全圏まで退避し、竜巻を眼前に金色に輝く魔方陣を展開していた。

「バルディッシュ」

《Yes sir. Sealing mord set up.》

フェイトの魔力が高まってゆく。その周囲に雷が漂い始める。
見るからに準備万端といったところだが、何故かフェイトはそこで止まる。

「!」

なのはは気付いた。フェイトが自分の方を確認したことに。そのまま自分に視線を向けていることに。
自然と、笑みが零れた。チャージは既に完了している。フェイトに向かって大きく頷く。
視線を前に戻すフェイト。号令をかけるのはなのはだ。

「せーの!」

「ディバイーン」「サンダー」

2人の少女の声が重なる。

「バスターー!!」「レイジィーー!!」

桜色の砲撃が、高密度の雷の嵐が、お互い混ざり合い、我先にと竜巻の密集地帯へと殺到し。
――それまで海の上を支配していた嵐ごと吹き飛ばすかの様な大爆発が巻き起こった。





「ジュエルシード、六個全ての封印を確認しました!」

「な、何て出鱈目な……」

「……でも凄いわ」

エイミィの報告に、クロノは驚愕を、リンディは若干の呆れと共に呟く。
しかし呆けてばかりもいられないので、リンディは気を入れなおした。

「クロノ、急いでジュエルシードの回収と彼女達の確保を」

「あ はい! エイミィ、転送頼む」

「はいはいー、座標はそのままにしてあるから、直ぐ行けるよー」

エイミィの声を背に、クロノは転送ポートまで足早に進む。クロノは今現在腕以外はほぼ完治している。魔法を使うのに腕はそれほど必要無いし、かなりぎこちないだけで一応腕も動かせた。
優秀なスタッフによって修復も完了している彼のデバイス、S2Uと併せて、今出ても十分働ける状態だ。
しかし、クロノが装置の中に入ろうとしたその瞬間、ブリッジにとある報告が響き渡った。

「弓塚さつき、現れました!」

「何!?」「映像と詳細を! クロノはそのまま待機!」

思わず振り返ったクロノの目の前に、さつきの姿がを映し出すモニターが出現した。

「場所は戦闘区域付近の沿岸、ジュエルシードを1つ所持しています!」

「ジュエルシードを!? 今更出てきて何をするつもりだ!?」

焦りの声を上げるクロノと、映像を見て何事かに気付き眉をひそめるリンディ。

「成る程、"再生"能力……ね。
 エイミィ、クロノの転送先を彼女のところへ」

「了解です! 少し待って下さい!」

「しかし艦長、黒衣の魔導師達の方は」

早口で諮問するクロノに、リンディは別のモニターでなのはが自分の期待通りに動いてくれていることを確認する。

「あちらは大丈夫、なのはさん達に任せます。あなたはさつきさんの確保を」

「座標指定終了しました!」

リンディの指示とエイミィの報告に、クロノは少しだけ逡巡する様子を見せるもそれは一瞬。

「はい、了解しました」

駆け足で転送ポートの中にクロノが入ると、エイミィは目の前のパネルを叩く。

「クロノ・ハラオウン執務官、転送し――」

だが、いざ転送を開始しようとした矢先、アースラのセンサーが何かを感知した。
鳴り響く、先に勝るとも劣らない大音量のアラーム。

「次元干渉!?」

それが示すものは次元レベルでの魔法の行使。その桁外れの行為にエイミィは信じられないという声を上げるも、急いでその情報を解析する。

「別次元から本艦、及び戦闘区域に向けて、高次魔力、来ます! あ、後6秒!!?」

「何!?」「転送を中止! 各員対ショック体勢!」

フェイトの背後にいる黒幕が動いた――皆がそれを直感で理解した。
いきなりの事態に、しかし艦を任された長の判断は迅速だった。
クルー達はその指示通りに行動し、次の瞬間、巨大な雷のエフェクトと共にアースラを強力な衝撃が襲った。





2人の全力の魔法を打ち込まれた海上は、少し前の荒れようが嘘の様に静まり返っていた。
やがて、そのある一点から薄い光の柱が登り、そこに6つの青い宝石が表れる。

「ジュエルシード――!」

飛び出すフェイトの前に、白い影が立ち塞がった。

「――っ」

「ジュエルシードは、渡さないよ。フェイトちゃん」

デバイスを構え、自分とジュエルシードの間を塞ぐ少女に、フェイトは即座に臨戦態勢を取った。

「アンタ、これはどういうことだい!」

「どうもこうも、封印までは協力する。でもその後は、これまで通りってことさ!」

食って掛かるアルフに、ユーノはバインドを乱射しながら距離を取る。
そのバインドをギリギリでかわし続けるアルフ。

それに比べて、当のフェイトとなのはは動かない。いや、動けない。
お互いに魔力はあまり余裕の無い状態で、しかもフェイトはなのは達が駆けつけるまでに消耗した体力と受けたダメージが多い。
結果、両者睨み合ったままといった事態になっていた。

と、そんな中やぶからぼうになのはが口を開いた。

「私ね、フェイトちゃんと友達になりたいんだ」

いきなりの言葉に、フェイトは思わずバルディッシュを振りながら叫ぶ。

「それがどうした!」

「うん、そうだよね。今のフェイトちゃんには、その程度の意味しかないよね」

なのはは分かっていた。そういう反応が返ってくることくらい。
フェイトはたしかに、相手の言葉を流したりはしない。きちんとその意味まで受け止める。
だが、それがどんなことであろうとも今のフェイトには『その程度のこと』でしかないのだ。
だがそれでも、なのはの目的は果たされる。

「いいよ、今はそれでも。私が、私の気持ちを知って欲しかっただけだから。
 フェイトちゃんは止まる気はないし、私はフェイトちゃんを止めたい。
 きっかけは、ジュエルシード。だから!」

なのははいきなり後退しながら周囲に無数の魔力弾を形成する。
自身に向かって発射されるそれをフェイトは得意の空中起動でさけ、反撃しようとした時、なのはは既に次の行動を起こしていた。
即ち……フェイトを無視してジュエルシードの確保へと動いていたのだ。

「!?」

フェイトは頭に血が上っていたから、なのはを倒してジュエルシードを確保するという選択肢以外が見えていなかった。
なのははジュエルシードさえ確保してしまえば、フェイトが引くに引けない状況になると分かっていた。

気付いたフェイトは、急いで魔力弾を形成、それを射出する。

《Photon Lancer》

なのはの進行上を的確に狙ったそれに、最後までジュエルシードを目指していたなのはは少しばかり速さが足りなかったことを悟り、直前で振り返ってシールドを張る。

「きゃあっ!」

不完全なシールドで受け止め切れなかったなのはは吹き飛ばされる。が、しかし

「4っつ、足りない……!!」

先程まで6つのジュエルシードがあった場所には、僅か2つのジュエルシードが残されるばかりだった。
すれ違いざま、レイジングハートが4つのジュエルシードの回収に成功したのだ。

体勢を立て直すなのは。これ以上はと突貫するフェイト。
――そんな中だった。第三者の介入が起こったのは。

「きゃああ!」

「か、母さん!?」

突如空から降り注ぐ特大の雷。狙いなどなく戦闘区域に無秩序にばら撒かれる巨大な魔力を秘めたそれは、紫色の魔力光に輝いていた。

「うああああぁぁああぁぁああああ!!」

「フェイトちゃん!? きゃあ!!」

そのうちの一本が、フェイトに直撃した。体を走る電撃に、悲鳴を上げる。
なのはが急いで駆け寄ろうとするが、空から雷が降ってきてそれを阻まれる。

フェイトを襲っていた雷が止み、気を失っているのかフェイトはそのまま落下する。
それに気を取られたところに、今度はなのはに向かって雷が落ちた。

「!」

「なのは!」

息を呑むなのは。間一髪、ユーノが間に割って入ってシールドを張る。この男、防御だけならまだまだなのはには負けない。

「くぅっ……」

しかしそんなユーノでも、押し寄せる雷に苦しげな声を上げる。
そして彼が相手をしていたアルフはと言うと、

「フェイトォ!!」

落下するフェイトに駆けつけ、しっかりと抱きとめていた。
更になのは達が固定されているうちに、空から帯電する薄紫色の柱が、辺り一帯のジュエルシードに反応してそれを包み込む。
その光景を見たアルフは足元に魔方陣を展開した。





その様子を見ていたリンディ達は焦った。このままではフェイト達には逃げられ、残りのジュエルシードも相手の手に渡ってしまう。だが、

「逃走するわ、補足を!」

「駄目です。先程の雷撃で、センサー機能停止!」

万事休すとは、このことだった。
何も出来ない内に、モニターの先では雷の嵐が収まり、そこにはなのはとユーノ以外、誰も何も無くなっていた。

「機能回復まで、あと25秒! 追いきれません!」

どう考えても、もう間に合わない。モニターの向こうでは、なのはとユーノ呆然と佇んでいた。

「機能回復まで、対魔力防御。次弾に備えて」

「はい!」

最低限の義務である指示を出し、リンディは深く椅子に座り込む。
あの光――転送魔法は、明らかに人を運ぶ類のものでは無かった。もし仮に人がそれに飲み込まれたりしたら、明らかに危険だろう。
リンディは疲れたように椅子に体重を預けると、深刻そうな様子で、ポツリと呟いた。

「さつきさん、大丈夫かしら……」

呟かれたのは、別のモニターで、ジュエルシードを持っていたが為に不運にも補足され、反応も出来ずに光の柱に飲み込まれた少女のことであった。










「お……く…よ、……き! さ・・・き! な…、さつき!」

傍らから聞こえる声と、体が揺さぶられる感覚に、さつきは意識を浮上させた。

「う……ん……」

「! さつき!」

さつきが声のする方に目を向けると、そこに人間の姿を取ったアルフの姿を確認する。
周りの景色を見ると、どうやら知らない、やけに大きい建物の中にいるようだということが分かった。装飾や壁に埋まった様な形の柱からして、古風なお城のようなものを連想させる。

(えーっと、どういう状況?)

さつきは何やらやけに重い体と頭で、何とか思い出そうとした。

(フェイトちゃん達を追って海岸まで行って、
 遠くでジュエルシードが暴走してるっぽいのが見えたけど凄い爆発でそれが吹き飛んで、
 立ち往生してたら空から光が降ってきて……
 あと……何かやたらとピカピカしたとこにいた気が……)

結論、全く分からない。
再度アルフを見てみると、何やら涙目になっている。

「さつき! 頼む、フェイトを助けておくれ!」

「え? ……!!?」

いきなりのことに戸惑うさつきだったが、次の瞬間聞こえてきた音に慌てて飛び上がった。

――バシッ! バンッ! ビシッ! バシィッ!

――ああっ! うぁあっ! っ! ああぁあー!

何かが鞭のようなもので叩かれる様な音と、苦痛に叫ぶフェイトの声。それがすぐ近くの扉の向こうから聞こえてくる。
アルフの様子、見覚えの無い場所と併せて、さつきの頭に『新しい敵』『誘拐』『拘束』『拷問』等の言葉が次々と浮かんでいく。

体を冷たいものが走り抜ける。慌てて立ち上がり、扉へと向かう。
どうやら体が重かったのは何らかのダメージを負っていたからのようで、既に体は軽い。
しかし、それと同時に、さつきは体に残されているエネルギー、それも復元呪詛の為に蓄えていたものが殆ど尽きていることに気がついた。
あの砲撃に吹き飛ばされて大事になりかけた時から、気落ちしながらも常にある程度の回復に必要な血は確保していた筈なのに、この状態。何があったのかとさつきの不安は増大する。
ふと思いついて持っていた筈のジュエルシードを確認する。……やはり、無い。

扉まで駆け寄るさつき。だが、彼女は仮にも中身は高校2年生。
そのまま考えなしに突入することに一瞬の躊躇を感じ扉に当てた手が止まる。
その時丁度、中からの音が止み、代わりに人の声が聞こえた。

「あれだけのジュエルシードがあれば、母さんの望みは叶えられたかも知れないのに!」

「ごめん……なさい……母さ……」

「少し頭を働かせれば、全部持ってくることも難しくはなかったのに! 何て使えない子なの、あなたは!!」

(―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ぇ)

その言葉の意味、それの示すところを理解すると同時に、呆然とするさつき。
再度響き渡る鞭の音と少女の苦痛の声。
思考のどこかが麻痺したような気持ちでさつきはそれを聞き、しかしその腕は勝手に目の前の扉を押し開け………

そこに、目にしたくない程悲惨な光景を目の当たりにした。

部屋の中央には、二つの人影があった。一つはフェイト。もう一つは知らない人物だ。
腰にまで届く髪は紫がかった黒髪で、黒のドレスのような衣装を着た、背の高い若々しい女性だ。それだけだったらどれほど良かったことか。
フェイトは両手首を天井から吊るされ、空中で固定されていた。その状態のままその女性に、自身が母親と名乗り、彼女が母親と呼んだ人物に鞭打たれていた。

――『私は、母さんの笑顔が見たい!』

扉が開いたことに気付き、振るう鞭を止めてさつきの方へと視線を向けるその女性。

(………………なんで)

――『優しい、お母さんなんだね』『うん!』

怒りと悲しみがごっちゃになった様な顔をしていたその女性の、冷たい目がさつきとその後ろのアルフへと向かう。

(…………なんで)

――『母さん、優しいから』

フェイトを拘束していた魔力のロープが消え、既に気を失っているのかフェイトの体がドサリと音を立てて床に落ちる。

(……なんで)

――『母さんと……約束したんだから……。ジュエルシード……持って、帰らないと……!!』

そんなフェイトには目もくれずに、女性はさつき達に向かって口を開いた。

(なんで)

――『……ママ』

「あら、そういえばジュエルシードと一緒におまけのお客さんが付いて来てたけど、生きてたのね。
 全く、主人もゴミなら使い魔も使えないのね。処分しとくように言っておいたでしょう」

(何で!?)

さつきは悟った。フェイトのジュエルシードから受けたと思っていた傷は、この女性によって受けていたものだと。
この女性と会い、同じような扱いを受けたのはこれが初めてではないと。つまり、この女性は本当にフェイトの母親なのだと。
さつきは信じたくなかった。幾らなんでも、これはあんまりだ。フェイトが報われないにも程がある。

さつきの後ろから、アルフが恐る恐る進み出た。床に崩れ落ちているフェイトを見て、息を呑む。
だがそれも数瞬、序所にその体は震え始め、髪は逆立ち、瞳孔は縦に開く。彼女も、もう限界だったのだ。

「プゥゥゥレェェェシィィィアアアアアアアアアアア!!」

叫び声を上げ、フェイトの母親――プレシアに突撃するアルフ。
だがプレシアはそんなアルフを冷めた目で見つめ、アルフの手はプレシアに届くことなく、その眼前に展開された魔力障壁に阻まれる。
アルフは逆に障壁のエネルギーに吹き飛ばされ、床を擦り、さつきの足元まで逆戻りさせられることになった。

そう、これが今までアルフがプレシアに手が出せなかった理由。相手がフェイトの母親だからとかそんな理由では無い。単純に、強すぎるのだ。プレシアが。
先程も次元跳躍攻撃なんて馬鹿げたことをした上でなおこの出力である。
だが、激昂したアルフはもうそんなことでは止まらない。再度立ち上がると、またもやプレシアに向かって突っ込んでいく。
その突進は再度障壁に阻まれるが、今度は弾き飛ばされないように喰らいつく。アルフの手が徐々に障壁に穴を開け始め、その穴を無理やりこじ開けようと踏ん張り続ける。

そしてその間さつきは何もしなかったのか。いや、そんなことは無い。
あまりの真実にしばし呆然としていたが、この現代日本、子供が親に虐待されている場面を目撃して最初に取る行動、それは。

「こっのお!」

まず何をしてでもその親と子供を引き離す、である。
さつきの拳が、アルフを阻む障壁とぶつかり合った。さつきの拳の威力に耐え切れなかったシールドは砕け散り、対するさつきも相手を反発するエネルギーを発する障壁に上半身をのけぞらされる。
その間に障害の消えたアルフがプレシアの胸元を掴みかかろうとするも、それより早くさつきがプレシアの体を抱きしめ持ち上げ、その場から引き剥がした。

しかしその後が続かない。兎にも角にもフェイトと引き剥がしたはいいが、その後どうすればいいのかなど警察官でもないさつきには分からなかったのだ。
その一瞬の思考の硬直が命取りだった。

プレシアは自分の脚の付け根辺りにしがみつくそのさつきの力に一瞬驚いた様子を見せるも、すぐにそれは不快そうなものへと変わる。
そしてプレシアのダラリと垂れ下がっていた手の平が向きを変え、さつきの胸元へと寄せられ、

「――ぁ」

さつきが悪寒を感じた時には、既に遅かった。
プレシアの魔力が瞬間的にその手の平に集められ、高密度の魔力弾と化してさつきの胸元へと撃ち出された。
いつかの再現のように、いやそれ以上の速度でさつきが吹き飛ばされる。壁に激突し、クレーターを作ることでさつきの体は止まった。

(――カ……はっ)

さつきは痛みのあまり声も出せない。むしろ痛すぎて気を失うことも出来ない。
服は弾の当たった胸元は弾けとび、その下の肉体もあまりの衝撃に傷つき、電流で焼かれ、肋骨も折れている。
明らかに、今までさつきが見ていた魔法とは"質"が違った。

(これ……フェイトちゃんの言ってた『非殺傷設定』っていうの、使って無……!)

床に倒れたさつきを他所に、プレシアは宙に浮かされていた体を緩やかに降下させ、地に足を付けた。
だが、その足は直ぐに再び床とさよならをすることとなる。

「アンタは母親で、あの子はアンタの娘だろう……!!」

吹き飛ばされたさつきと入れ替わりに、アルフがプレシアのところまで駆け寄ってその胸倉を掴み上げていた。

「あんなに頑張ってる娘に、あんなに一生懸命な娘に、何でこんな酷いことが出来るんだよ……!!!」

鬼の様な形相で、アルフが訴えかける。だが、その叫びに返される言葉はなく、アルフの腹にプレシアの手が添えられた。

「――っ!」

一瞬の戦慄。息を呑むアルフ。体に走る衝撃。
しかしその衝撃は真正面からのものでは無く、横から誰かに突き飛ばされたかのようなもので。

「ッさつき!?」

アルフの振り返った先で、自分が喰らう筈だった魔力弾を代わりにさつきが喰らい、吹き飛ばされていた。

「……驚いた、さっきは確実に仕留めたと思っていたのに。
 息があるどころか、咄嗟にあれほどの動きをしてみせるなんて、どうなってるのかしら、あなた」

コツ、コツと倒れ伏すさつきへと歩を進めながら呟くプレシア。
その傍らまで着くと、さつきの露出した肌を見てプレシアは眉を顰めた。

「これは……」

思わず、プレシアの口から零れる言葉。
しかしその時、さつきが最早回復は打ち切りで動けない体の内、唯一動かすことの出来る部位――口を大きく開けて叫んだ。

「アルフさん! フェイトちゃん連れて逃げて!」

「うおおおおおおおおおおおお!」

その言葉に即座に反応するアルフ。雄叫びを上げながら倒れ伏すフェイトに突進する。だが、

「させる訳がないでしょう」

「があっ!」

同じように反応したプレシアが振り向きざまに放った雷の一撃に、アルフは大きく弾き返されてしまう。更に最初にさつきたちが入ってきた扉を抜け、その先の壁にまで叩きつけられた。
しかも放たれたものが魔力弾ではなく"電撃"だったこともあり、アルフは感電して体が満足に動かせなくなる。

「この子は確かに使えないけど、もう少しだけ働いて貰う必要があるの」

言いつつ、プレシアは自分の杖を床に座り込むアルフに向け、狙いを定める。

「消えなさい」

放たれる砲撃。その言葉通り、使い魔一人消し飛ばすには十分な魔力を秘めているそれを前に、アルフの取れる行動はあまりにも限定されすぎていた。

(ゴメン、フェイト、さつき……
 必ず助けに来るから。少しだけ、待ってて……!)

直後、着弾する砲撃。アルフの居た場所で起こる大爆発。粉塵が収まったそこには、ただただ巨大な穴が広がるだけ。

「逃げた、わね」

さもどうでもよさそうに呟かれたプレシアの言葉に、その光景を見て青ざめていたさつきは安堵する。
大穴の向こうには、闇のようなものが蠢き、所々に光の走る理解し難い空間が延々と続いていた。どうやらこの建物は、その空間に浮遊するように存在しているようだということが伺い知れる。

だが、今となってはそんなことは何にもならない。
動けないさつきの眼前に、プレシアの杖が突きつけられる。

(あーあ、何でこんなことしちゃってるんだろうなぁわたし。一人で逃げちゃえばよかったのに)

しかしその隅でさつきは思う。フェイトはこの後どうなるのだろうかと。今まで散々目を逸らして来た事柄を目前に突きつけられた自分の、偽善じみた思考に自嘲する。

(夢見てた日々も、これで終わりかぁ……前に比べれば天国だった今の生活に、満足していればよかったのかなぁ……)

どこか達観したような気持ちになりながら、さつきの意識は雷撃に飲み込まれた。










アースラのブリッジで、帰還したなのはとユーノは歓迎されていた。

「お疲れさま、なのはさん、ユーノ君も。ベストな結果とは言えなかったけど、よくやってくれたわ」

「はい」

「ありがとうございます……」

恐縮そうに返すユーノ、そして気落ちした風に返すなのは。
リンディはそんななのはを見て肩を竦めると、なのはの肩に手を置き、膝を付いて目線を合わせる。

「さっきも言ったけど、貴方達は本当によくやってくれたの。
 大丈夫よ、まだ次があるわ。フェイトちゃんの後ろにいる人物にも、目星が着いてるし、チャンスはまだあるの。諦めるには早いわ」

リンディの言葉に、なのはの顔が引き締まってゆく。

「……はい!」

「うん、よろしい。
 ちょっと来て貰えるかしら。ブリーフィングルームで説明したいことがあるの」

勢いよく返事を返したなのはにリンディは微笑むと、2人を先導してブリッヂを後にした。
その後にはクロノとエイミィも着いてゆく。

なのはとユーノが首を傾げ合いながら着いていくと、ブリーフィングルームには既に何人もの乗組員が集まっていた。
その様子を見た瞬間、固まるなのは。やはりまだそういう空気には慣れないらしい。
しかもなのは達の席は何故かやたらと上座に用意されていた。彼女からしたらたまったもんじゃないと言ったところだろう。

「さて、みなさん揃いましたね」

一番奥の席に座ると同時、リンディが声を上げる。

「それでは会議を始めます。まず始めに、先程の事件についての報告を」

「はい、現地時間で……」

局員の一人が、先程の事での報告を行っていく。現場はどこか、何が起こったのか、その成果と被害諸々だ。
なのは達は現場にいたので知っている事の方が多いが、この艦には待機していて何も知らない局員も多い。特に今回はアースラが直接攻撃されたのだ。下の者への報告はきちんと行う必要がある。

だがそれでもなのはが知っていることばかりでもなく、例えばアースラが攻撃されたなどなのはは知らなかった。
しかし一番なのはの関心を掴んだ話はそれではなく、

(さつきちゃん……!!)

自分が友達になりたいと思うもう一人の少女。
彼女が現れたと聞いた時は驚いたがまだ予想の範囲内だったし、彼女がどうなったのか、また逃げてしまったのか、もしかしたらアースラにいるのか。それもこれから言われるだろうと耳をそばだてたのだ。
もし捕まってアースラにいるのなら合わせて貰えないだろうかとまで考えた。
だが、ジュエルシードの転送に巻き込まれる形でどこかへと転送されてしまったと聞いた時、なのはは気が気ではなかった。
流石に叫んだりはしなかったが、その顔には動揺がありありと現れ、瞳は揺らいだ。

《なのはさん》

《! リンディさん!?》

そんな中、いきなりなのはの頭の中に響いた声。なのはの様子に気付き念話を送ったリンディであった。

《大丈夫よ。ジュエルシードを持っていったのはフェイトさんの関係者でしょうし、さつきさんも、きっとフェイトさんと一緒にいるわ。
 例え違っても、私達が責任をもって彼女を探し出します》

《……はい》

なのはにとって、リンディのその言葉はとても心強いものだった。
ひとまずはなのはを落ち着かせたリンディは、話を今回の一番の議題へと移す。

「では、クロノ執務官。今回の事件の大元に、心当たりが?」

「はい。エイミィ、皆に例のデータを」

「はいはい」

話の主導権を振られたクロノが、エイミィに指示を出す。すぐさま全員の前にとある人物のデータが表示された。
それを見たリンディの顔が曇る。

「彼女の名前はプレシア・テスタロッサ。専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって、放逐された人物です。
 例の次元跳躍攻撃の魔力波長が、念のため取り寄せてあった登録データにあるプレシアのそれと一致しました」

魔力波長の一致、それは暗に、先程の攻撃の主が紛れもなく彼女であったことを示している。そして、あのフェイトと同じ性。

「フェイトちゃん、あの時『母さん』って」

思わずなのはの口から言葉が零れる。
そして報告の内容は、プレシア自身の情報へと推移していく。そちらの説明は、クロノに代わりエイミィが引き受けた。

「プレシアは、ミッドチルダの民間エネルギー企業で、開発主任として勤務。でも、事故を起こして退職していますね。裁判記録が残ってます」

集まった皆が、データの中から裁判記録のものを開く。

「ミッドの歴史で、26年前は中央技術開発の第三局長でしたが、当時彼女個人が開発していた次元航行エネルギー駆動炉、ヒュードラ使用の際、違法な材料をもって実験を行い、失敗。
 結果的に、中規模次元震を起こしたことが元で、中央を追われて、地方へと異動になりました。
 ずいぶん揉めたみたいです。失敗は結果にすぎず、実験材料にも違法性は無かったと。
 偏狭に異動後も、数年間は技術開発に携わっていました。暫くのうち行方不明になって……それっきりですね」

だが、そのデータに何人かが顔を顰める。きな臭すぎた。いくら彼女が大魔導師の称号を得た人物だからと言って、記録に記されていたその実験は個人で出来る範囲を超えていたのだ。
更に、それは決して少ない量のデータでは無かったが、そこにはある重大な事柄が抜け落ちていることにも何人かは気付いた。

「家族と、行方不明になるまでの行動は?」

配られたデータに目を通したリンディがエイミィにそれを尋ねる。

「その辺のデータは、綺麗さっぱり抹消されちゃってます。
 今、本局に問い合わせて、調べて貰っていますので……」

「時間はどれくらい?」

「一両日中には、と」

『抹消された』とは、穏やかではない話だ。
リンディは暫く考え込むと、今後の方針を熟考した。

「ふむ……プレシア女史もフェイトちゃんも、あれだけの魔力を放出した直後では、早々動きは取れないでしょう。
 その間に、アースラのシールド強化もしないといけないし……」

リンディはちらりとなのは達の方へと目を向けると、まずはその2人についての対応を発表する。

「高町なのはさん、ユーノ・スクライア氏の両名には、明日いっぱい暇を出します」

「ユーノ君、暇を出すって?」

「明日は家に帰れってさ」

言葉の意味が分からなかったなのはがユーノに問いかけるが、帰って来たその意味になのはは戸惑った。

「え、でも……」

「特になのはさんは、あまり長く学校を休みっぱなしでも良くないでしょう。
 一時帰宅を許可します。ご家族と学校に、少し顔を見せておいた方がいいわ。ご家族には、私からも挨拶させていただきます」

「……はい」

確かに、今気を張っていてもしょうがない。納得したなのはは素直に返事を返した。
その後、リンディと局員の間でいくつかのやり取りが行われるも、特に意見も無く会議は終了する。
と、皆が部屋を出て行く中、エイミィが席を立つと同時に隣にいたクロノに問いかけた。彼女には一つ気になっていたことがあったのだ。

「そういえばさ。こないだクロノ君達、プレシアが犯人なのは有り得ないって言ってたよね? あれってどういうこと?」

しかし、それは軽々しく聞いていいものでは無かった。

「ああ。……プレシアは、さっきの報告にあった事故の際、たった一人の愛娘を亡くしている筈なんだ」

「……え、それって……」









プレシアの居住区となっている次元庭園、時の庭園。その一室で、プレシアは歓喜の声を上げた。

「素晴らしいわ! 素晴らしいわこの娘!」

彼女の前には、気を失って、拘束されたまま台の上に寝かされているさつき。
プレシアはそんな彼女を前に、顔を崩し、歓喜に打ち震えていた。
と、

「っ! ご、ごほっ、コホッ、ごふっ」

突然体を折り、プレシアが苦しみ始める。咳が止まり、口に宛がっていた手を退けると、そこには決して少なくない量の、赤い血が。

「もう……時間が無い……。
 そう、それだけが気がかりだった……でも"これ"なら……!」

鋭い瞳に光を宿し、プレシアは横たわるさつきを睨めつける。
先程の発作が嘘のように立ち上がると、両手を天に掲げて彼女は喜色に震える声を上げた。

「辛い目に合わせてしまったけど、あなたは今も、世界中の誰よりも大切な、私の宝物……。
 ジュエルシードさえ揃えば、いくらでもお菓子を作ってあげられる。いくらでも一緒にいてあげられる。いくらでもピクニックに連れて行ってあげられるわ。
 さあ、今度こそ2人で幸せを掴みましょう。私の、私の可愛い娘……」















あとがき
うん……何ていうか、ホント雰囲気作るの下手ですよね僕。
読んでて、まだ物語の域に行ってないように感じます。物語を読んでるんじゃなくて、文章を読んでる気分。イマイチ引き込まれないんですよ……
某所でもちょっと書いたことあるんですが、今の状態は『自分の書いた世界を外から眺めて貰ってる』で、理想の状態は『書いた世界に入り込んで直に感じて貰う』なんですよね。
今だ研究中の身とは言え、重要な場面で(作者の感性では)そういう理想の状態にもっていけなかったのは何と言うか……悔しいです、純粋に。
今回の話とかリアフレにもヘルプを求めたくらいで……
しかしこの経験は必ず生かします。もっと上手に読者の皆さんをのめり込ませれるような文章を書けるように頑張ります

さて、それではまず一言。

いつからSSKT(さっちんスーパー空気タイム)が今回の話だと錯覚していた?

てか今回『娘』って字がやたら使いにくかったです。『こ』って読んで欲しい部分と『むすめ』って読んで欲しい部分に分かれすぎで --;;
個々人の判断で読み分けて貰えると助かります

さて、次の話ですが、ここからキリのいいところまで書き溜めしちゃうつもりでいます。
というのも、次から色々と話が絡み合っていく……というより、シーン入れる順番が難しいので、書き溜めして一気に投下しないと修正の嵐になってしまう予感しかしなくて。。。
てか前話~今話にかけてもう2シーン程入れなきゃいけないシーンを落としてる気がする……気がついたら修正入れてお知らせします。

という訳で、次の話はそれなりに後になってしまうかも知れません。ごめんなさい


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031376838684082