某マンションの一室にて。
「ただいまアルフ」
「おかえりフェイト。ジュエルシードは?」
「うん、ほら」
一匹の使い魔が、主の帰還を迎えていた。
「うわぁお、流石はフェイトォ」
「ありがとう、アルフ」
使い魔の賞賛をとてもいい笑顔で受け止め、そのままソファーに腰を下ろすフェイト。
「……ところでさ、」
「うん、何?」
「そろそろこれを何とかして貰えると嬉しいんだけど……」
「? 何のこと?」
アルフの言葉に、フェイトは"とてもいい"笑顔を浮かべながら振り返り、そこに己の使い魔の姿を確認する。
「ええっと……、ほら、今のワタシの姿を見て、何か思わないかい?」
「面白い格好をしているね」
……開け放った窓の所でバインドによって磔にされているアルフの姿を。
「……これフェイトがやったんだろう?」
「私は、誰かさんが自分の体を省みずに飛び出して来ないように、窓の所に設置型のバインドを置いておいただけだけど?」
フェイトは始終、"とてもいい"笑顔だった。
アルフの必死の懇願もあり、数分後……
「全く、あれぐらいのバインドも解除できない状態で飛び出そうとするなんて……」
「だってさ、そりゃ、はじめは大人しく待っとくつもりだったけどさ、
明らかにフェイト以外の魔力で結界は張られるし、ジュエルシードの発動で何かすごいことになってたみたいだったし……」
「言い訳無用」
「うう……」
そこには、無事にバインドの束縛から降ろされ項垂れているアルフがいた。
「……ところでさフェイト」
「ん? 何?」
「何かあったのかい?」
「え?」
アルフの言葉に、今度こそ何のことか分からず首を傾げるフェイト。
「いや、気のせいならいいんだけどさ。何と言うか、出てく前と雰囲気みたいなのが変わったみたいな気がしたもんでさ」
「……………」
その言葉を聞いたフェイトはしばし沈黙する。やがてうん、と1人頷くと、
「アルフ」
「うん?」
「ジュエルシード探し、私、頑張るよ」
アルフの質問には答えず、ただ力強い言葉で宣言した。
「……ああ。そうだねフェイト」
それに応えるアルフの声は、何故か、どことなく暗かった――。
その翌日、早朝、某マンションの屋上にて、フェイトとアルフの二つの人影が佇んでいた。
フェイトの手には翠屋のロゴが入ったケーキ用の箱が握られている。誰かへのお土産のようだ。
「次元転移――次元座標、876C 4419 3312 D699 3583 A1460 779 F3125」
フェイトが呟くと共に、彼女達を囲うように金色の魔法陣が描かれる。
「開け、誘いの扉。時の庭園、テスタロッサの主の元へ――」
次の瞬間、フェイト達はその世界から姿を消していた。
時を同じくした頃、"世界の外側"、次元空間において一隻の船が帆を進めていた。
船、と言っても何も海を渡っている訳でも、そのような形状をしている訳でも無い。
SFによく出て来る様な大型宇宙戦闘艦のような物が、これまた宇宙空間の様な空間を漂っているのだ。
その船の銘は次元空間航行艦船『アースラ』。幾つもの次元世界を管理する、時空管理局の保有する船の一つだ。
「みんなどーお? 今回の旅は順調?」
その船の操縦室に、柔らかい女性の声が響いた。
たった今船室に入ってきた若々しいその女性は姿こそ人間と同じだが、
ポニーテールにして尚腰まで届く長い髪はハッキリと青緑色を示していたり、その額には三角形を4つ集めたような文様があったりと地球の人達とはどこかが違う印象を受ける。
「はい、現在、第三船速にて航行中です。
目標次元には、今からおよそ160ヴェクセ後に到達の予定です」
「前回の小規模次元震以来、特に目立った動きは無いようですが……、
確認された捜索者達が、再び激突する可能性は高いですね」
「ふぅ、そ、」
打てば鳴るかのようにハキハキと答えられる報告に相槌を打ちながら、その女性は部屋の高台にあるど真ん中の席へと腰を降ろす。
相当地位の高い人物なのだろう。と、いうよりもそんな席に座れる者と言えば……
「失礼します。リンディ艦長」
「ん、ありがとね、エイミィ」
艦長しかいない。
彼女は少女によって運ばれて来た紅茶を受け取ると、物憂げに呟く。
「そうねぇ……、
小規模とは言え、次元震の発生は……ちょっと厄介だものね。
危なくなったら、急いで現場に向かってもらわないと。ね、クロノ?」
「大丈夫。
分かってますよ、艦長。僕は、そのために居るんですから」
艦長の言葉に、堂々とした態度で応える人影があった。
某廃ビルの屋上で、弓塚さつきは仰向けに寝転んでいた。
その瞳は澄み渡った青空を見ているようで、その実もっと遠いところへと向いていた。
(なのはちゃんに、フェイトちゃん、か……)
――自分の暮らしている街や、自分の周りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから。
これが、私の理由!――
――私は……、
母さんに喜んでもらいたい……。
母さんに笑顔になって欲しい……。
私は、母さんの笑顔が見たい!――
「……はぁ」
思わずため息を吐いてしまうさつき。前からやりにくかったのに、これでは更にやりにくくなってしまう。
もうそろそろそれでも諦めきれない自分に嫌気すら差してきたところだ。
「空はこんなに青いのになぁ……」
さして意味も無い言葉を呟く。
そんなさつきの頭に、ふとある考えが浮かんだ。
(そうだ。もういっそのこと……
でもそれは……それに、それでも……)
ぐるぐると回り続ける思考と共に、も一つため息。
~~同日、午後6時24分~~
海鳴には、海に面したところに公園がある。海の反対側は樹が乱立して林のようになっており素晴らしいまでの自然を堪能できるのだが、今その海鳴公園に人はいない。
そんな中、とある樹の根元に落ちていた蒼い宝石が、眩い光を放ちながら樹に吸い込まれて行った。
学校からの帰宅途中の少女が、振り返った。
「行こう、ユーノ君!」
その瞳には、強い意志があった。
日光の気持ちよさに屋上でそのまま眠ってしまっていた少女の双眸が、開いた。
「………」
数瞬何かに迷った後、何かを決意したような表情《かお》になった。
マンションの一室で、ボロボロになった体を横たえていた少女が、渋る使い魔を押し退けて立ち上がった。
「………」
動き出したのは、ほぼ同時だった。
先ず最初にたどり着いたのはなのは。通常の2倍程の大きさになり、なおかつモンスターのようになった樹木を確認すると、即座にユーノが結界を張る。
次いで現れたのはさつき。近くの建物の屋上から公園の街灯に降り立ち、そこから更に跳躍して公園に降り
「――へ?」
……立とうとした瞬間に丁度発動した結界に弾き出された。
「あれ? ユーノ君、今一瞬さつきちゃんがいたような気がしたんだけど……」
「へ? 気のせいじゃないの?」
その結界《せかい》の外側で、1人の少女が泣きながら来た道を戻ったという。
――ぐおおおおおぉぉぉおお
と、まあそんなことをしている間、ジュエルシードの暴走体が黙ってみているかと言うとそんな訳も無く……
「――っ!」「なのは!」
幹の部分にある、まるで口のような亀裂を広げながら暴走体がうなり声を上げると、地面の下から幾本もの木の根が飛び出し、なのは達の頭上を陣取る。
「ユーノ君逃げて!」
《Flire……》
次の展開が容易く想像できたなのははユーノに避難を促し、自分は空に逃げようと飛行魔法を発動させようとし、
――ぐおおぉぉぉおおおぉおおおぉお!!
両者が次のアクションを起こす前に、何かが暴走体に着弾した。……否。金色に光るそれらの魔力弾は、暴走体に着弾する寸前に現れたシールドによって阻まれてしまった。
だが、それによって木の根の動きが一瞬止まる。なのははその一瞬を見逃さなかった。
《Divine Shooter》
「シュート!」
同時に展開される3つの魔力弾、それが次々と木の根に着弾し、消えた分は即座に補充して更に別の根を粉砕する。
千切れた木の根が地に落ち、砂埃を上げながら地面を揺らした。
「フェイトちゃん!」
魔力弾が飛んできた方を向き、なのはが呼びかける。そこには彼女の予想通りに、隣にアルフを伴ったフェイトがいた。
だが、
(……え?)
その顔を見たなのはは困惑する。その瞳は以前の様に深い寂しさを写してはいない。それは昨日の呼びかけの時払拭されていた。
だが、その表情は昨日の様な輝きを宿してもいなかった。
その瞳と表情はただただ強い意志を表しており、それ故に、どこか危うさが感じられた。
そして、
――タッ
不意に響いた足音に暴走体以外の3人が振り向くと、そこにはまたもや1人の少女が降り立っていた。
故意なのか偶然なのか、三人の少女達はなのはを中心にして暴走体を囲うようにそこにいた。
だが、なのはは今度は『さつきちゃん』と呼びかけることはしなかった。でき、なかった。
(さつきちゃん……?)
雰囲気が、違った。
現れたさつき。それに一番反応したのは、他ならぬアルフだった。
だが、彼女が以前さつきにやられた仕返しに即座に動いたのかと言うとそうでは無い。
人間とは不便な生き物だ。知性と理性が発達したお陰で、生きる為に必要な本能が鈍ってしまった。更に言うと、その残った本能さえも理性で押さえ込んでしまう。
だが、アルフは違う。主の命令があればまた別だが、彼女は人では無いが故に、本能に従い生き残る為の最善手を取ることが出来る。
そしてアルフは、以前の交錯により彼女が自分よりも種として強いナニカであると本能の部分に刷り込まれていた。
自然界において、動物が自分より強い動物に出会った時どうするか。逃げる、隠れる、じっとする、少なくとも仲間の為に犠牲になる等の理由が無い限り自分から戦いをけしかけるなんてことはしない。
今のアルフの状態がそれだった。さつきが出てきた瞬間から、彼女を警戒はしても決して仕掛ける様子は無く、主であるフェイト諸共守るようなむしろ受身の態勢に入っている。
しかし、そんな彼女の主は新たに現れたさつきにも、そればかりかなのはさえ無視して暴走体にのみ目を向けていた。
再度、暴走体がその根を、今度はフェイト、なのは、さつきへの3方向へと伸ばした。
自身へと高速で迫るそれをなのはとさつきは後退することでかわし、フェイトはバルディッシュを振りかぶった。
《Arc saber》
「はあっ!」
放たれた刃は迫り来る根を切断し、そのまま暴走体の本体へと向かう。
が、
――ぐおおおぉぉおおぉおぉおお
「くっ」
それは再度シールドに防がれた。フェイトはそれに僅かに唸る。身構え、新たな魔法を発動するための準備を始めた。
「撃ち抜け轟雷 サンダースマッシャー!」
フェイトの放った砲撃が暴走体のシールドに阻まれるのを見たさつきは、一時的にそちらのことを意識から切り離した。
そして向く先には砲撃でフェイトと共同しようとしているなのは。
さつきは無言でそちらへと駆け、
「なのは!」
「へ?」《Protection》
レイジングハートがシールドを張ったが一撃でそれを粉砕、シールドを割られた衝撃で体勢の崩れたところでチャージ中だったレイジングハートを上から掴む。
「きゃああっ!」
なのはは抵抗する暇も無かった。
普通ならそのまま後ろに飛ばされるところを引き止められ、更にその勢いそのままに体が持ち上げられる感覚を覚える。更にはそのまま更に加速し上下も分からぬまま吹っ飛ばされた。
なのは自身一瞬のうちに何が起こったのか分からず恐怖感を覚えるが、何のことはない。
さつきが手に持ったレイジングハートを片手で無造作に振りかぶってそのまま投げつけたのだ。
《Flire fin》
なのはの体がまだ空中にある時分、レイジングハートが咄嗟に飛行魔法を展開することでなのはは辛うじて足から着地することに成功、
しかしいきなりジェットコースター以上の急加速と揺さぶりをかけられ足に力が入らずへたり込みそうになる。
そしてなのはさつきの姿を確認し、そこで初めて自分の身に起こったことを把握した。
震える足を叱咤し、レイジングハートをさつきへと向ける。
「いきなり何をするの!?」
叫ぶなのはに、さつきは余裕の表れなのか両手を後ろに組んで笑顔で、だがしかしその目は笑っていない。
「わたしね、気付いたんだ」
「……?」
「直接ジュエルシードを狙うより、なのはちゃん達を潰していった方が安全で確実でしょ?」
「――!!」
笑顔のまま言ったさつきの言葉に、なのはは戦慄と共に体を強張らせる。
(そんな……)
いつかはこうなるかも知れないと言うのは、分かっていた。
元々こちらから交戦を申し込むつもりだったし、実力で下に見られて侮られている現状を戦うことで対等な立場に見てもらおうともしていた。
だが、それでも。
こんなにも、違うものなのか。こちらから仕掛けるのと、相手から仕掛けられるのとでは。
そこにあるのは、『相手が相手の方から自分を潰しに来ている』というただ一つの絶対的な事実。
(……それでも!)
結局、やることは変わらない。無理やりそう割り切って視線を強くさつきを睨みつける。
さつきはそれに臆した風も無く、ただ右手を開いたままに体の前から顔の横へと構える。
「じゃあ、行くよ」
「――っ! プリベント シューター!」
そして、その様子を別のところから見ている者達がいた。
「現地では、既に探索者達による戦闘が開始されている模様です」
「中心となっているロストロギアのクラスはA+」
「動作不安定ですが、無差別攻撃の特性を見せています」
「次元干渉型の禁忌物品。回収を急がないといけないわね」
「艦長、実は、一つ不可解な点が」
「何かしら」
「はい。探索者の1人から、魔力を感じられません。
正確に言えば、反応にブレがある、と言いますか……」
「どういうこと?」
「魔力反応がある時と、無い時とがあるんです。最初は機材が回りに漂っている魔力素に反応しているだけかとも思ったのですが……」
「……そう、妙ね。それに、映像を見る限りどちらにしても魔導師といった風でも無いし……」
少し考え込んだ後、そこら辺のことは後からでも十分だと判断し艦長は船員に命令を下す。
「――執務官、出られる?」
「ああああ!」
叫びながら吹き飛ばされるなのは。さつきの拳はシールドで防いでもその威力は計り知れず、数瞬の拮抗も虚しくシールドは破壊されてその衝撃がなのはを襲う。
地面を擦りながら吹き飛ばされるも、その運動が終わると共にシューターを発射し追撃を防ぐ。
「っ! こ……の……っ!」
向かって来た3つの魔力弾を全て叩き落し、さつきは立ち上がったなのはへと駆ける。なのはが次弾を作る前に間合いに入った。
「っ!」
間の前まで迫られたなのはは思わず杖を握り締め体を硬くする。が、
――ヒュン
「ああもう鬱陶しい!」
そこでさつきの動きが止まった。原因はなのはの周囲を不規則に飛び回る7つの魔力弾。以前よりも量が増えて法則性と隙が少なくなったプリベント シューターである。
足元へと飛んで来たそれにたたらを踏み、再度全身したところで頭に向かって飛んで来たものを屈んで避け、左から胴体目掛けて飛んで来たものを左手で叩き落す。
そして開いた右手で拳を放とうとするも、今度は斜め上と右と左下の三方向から魔力弾が飛んで来て慌てて距離を取る。
そしてそこに飛ばされる追撃のディバインシューター。偶に側面背後からも奇襲を仕掛けているところがいやらしい。
先程からこれの繰り返し。
状況から見ればさつきが攻めあぐねているかのようだが、何度も懐まで入り込まれて、あまつさえそれでも幾度かそれを破られているなのはの精神的披露も計り知れない。
更に空へ逃げようとなのはが意識を少しでもさつきから切り離すと、即座にさつきが詰め寄ってあまつさえレイジングハートを掴み取ろうとする為、
先程の恐怖心を引き出させられてそれの回避に回ってしまい空へ飛べない。
そして遂に、
「やった!」
「あっ!」
明らかな隙にさつきが入り込んだ。今までよりも一段と大きい隙をさつきは最大限に活用して拳を腰だめに構える。
だがそれまでにシューターを1つ弾いておりなのはの方も体勢は整っている。
《Raund seald》
「はあっ!」
なのはのシールドとさつきの拳がぶつかる。
先程から幾度か繰り返されたその光景。なのははシールドにありったけの魔力を注ぎ込んで踏ん張り、さつきはただ拳を振りぬく。
結果は今までと同じなのはの敗北。シールドは無残に破壊され、しかしさつきの拳はなのはまでは届かずになのははさつきの拳を受け止めた衝撃とシールドを破壊された衝撃によって弾き飛ばされる。
「あああっ!」
しかし今度はさつきの込めた力が今までのよりも大きかったのと、さつきが腰だめに拳を放ったのとでなのはは上空へと大きく飛ばされた。
吹き飛ばされながらもそれを認識したなのははそれを好機と取り、再びさつきの射程内に入る前にそのまま空へと逃げる。
《Flire fin》
「……ふうっ、ふうっ、ふうっ」
だが、先程まで空へ逃げれなかったのは何故か。それは空へと飛ぶ為の空間把握をする猶予をさつきが与えなかった為である。
ではそれは何故必要なのか。それをせずに空へ飛ぶとその瞬間自分の周りの状況が一時だが分からなくなるからである。
まあつまり何が言いたいのかと言うと、
「なのは!」
「えっ? ……きゃああっ!!」
茂みに潜んでいたユーノが叫ぶがもう遅い。なのははすぐそこまで迫っていた木の根に気付くことが出来なかった。
成す術無く木の根に体を拘束されるなのは。両手首を頭上で固定され、腰にも木の根が巻きつき足もそれぞれが拘束される。
見ると、フェイトとアルフ(人間形態)もそれぞれ十字架の様な格好と両手両足首を後ろ手に一括りにされ吊り下げられるような格好で(何故か尻尾も別に)拘束されていた。
「くぅっ!」
「くそっ、このっ、痛っ、何するっひゃあん! ってどこ触ってんだい!」
「うっ……ああ……」
「なのは! くそっ、どうすれば……!」
先日倒れたばかりの自分ではどうにもできない。それが分かっているからこそ、ユーノは無謀な突撃はせずに頭を悩ます。
だが解決策は見つからない。フェイト達も捕まっている以上そちらを頼りにも出来ない。
ユーノの中に焦りばかりが広がっていく中、そこを何かが駆け抜けて行った。
「え?」
さつきだ。
さつきはフェイトとの戦闘で出来たであろう、丸太の様に切断された本体である木の幹より太いであろう根を掴むと、それを抱えて暴走体へと駆ける。
迫る木の根をその身体能力でかわし、本体へ急接近する。
あと1歩で間合いに入ると言う所でさつきは急停車し、持っていた木の根を振り上げた。
そして、
「えーーーい!!」
まるでハンマーの様に、力いっぱい、振り下ろした。
それは振り切られる前に暴走体の張ったシールドに防がれる。
が、それでもさつきは力を緩めない。シールドは徐々にタワみ、遂に……
――パリィィィイン
「ったあ!」
割れた。さつきの振り下ろした丸太は勢いをそのままに、暴走体の手前の地面に叩き落される。
辺りに衝撃が走る。さつきの振り下ろしたハンマーの威力は衝撃波となり、吹き上げられた土砂と一緒に暴走体の本体へと降り注いだ。
――おおおおぉおおぉおぉぉお
土砂が木の本体を削り、衝撃波が吹き飛ばす。衝撃が収まった時、そこに暴走体の本体は無く、ただ蒼く輝く宝石が浮くだけだった。
宙に浮いていたなのは達を拘束していた木の枝も、重力に引かれて落下する。
――ドシンッ!×3
「「いったー」」
アルフとなのはの声が重なった。が、その時ジュエルシードが再び強く輝いた。
「マズイ、まだ終わってないよ!」
「いいや、終わりだ」
叫んだユーノの言葉に、どこからともなく返す声が響く。
次の瞬間、ジュエルシードのあった辺りから眩いばかりの光が溢れ出した。
さつきもジュエルシードを掴もうとしていた手を止め、思わず顔を背ける。
やがて光が収まると、そこには今までいなかった人物が、封印されたジュエルシードを手のひらに浮かべながら佇んでいた。
「なっ!?」
思わずさつきは声を上げる。いきなり現れた人物にジュエルシードを横取りされたのもそうだが、それとは別に、
「時空管理局執務間、クロノ・ハラオウンだ。
ロストロギアの回収作業ご苦労だった、と言いたいところだが、さて、詳しい事情を聞かせてもらおうか?」
その人物が開いている右手を掲げると、そこから立体映像っぽく何かのカードのような物が映し出された。
そこにはその人物の顔写真まで付いていていかにもそれっぽい。のだが。
「時空管理局……!」
いや、まあ、何やらフェレットが慄いているが、さつきは到底そんな気にはなれない訳で。
先程から何を言いたいのかと言うと、まあ、実はその現れた人物、どこからどう見ても子供だったのだ。
長くも短くもない黒髪の、キリッとした顔でこちらを見る顔はまだ幼く、身長から見るになのは達と同年代くらいの。
前進を漆黒の、それでいて堅苦しい雰囲気のする防護服に身を包んでいるのもどう見ても子供が背伸びしているようにしか見えない。
とりあえず、
「ねえ、ユーノ君。時空管理局って、何?」
さつきは率直にユーノに聞いてみることにした。
クロノと名乗った子供が何やら気落ちした風な様子になっているが知ったこっちゃない。
「あ、ええっと、数ある次元世界を管理する法の番人。この世界にある警察……みたいなものかな」
それにユーノは律儀に分かりやすいように説明する。さつきはそれを聞いて更に微妙な表情になった。
「えーっと、つまりは公共機関な訳だよね?」
「うん、そう」
「つまりこの子は……えーっと、何というか……うん、まあ、そういうこと?」
「君はさっきから一体何を言ってるんだ!?」
いつまでたっても釈然としない態度を取っているさつきに対して、遂にクロノが怒鳴った。
さつきはそれを何か可哀想な目で見ると、
(うん、このままにしといてあげよう)
完全に無視してなのはの方に向き直った。
彼女の後ろの方で男の子が何か言っているが完全に無視である。
「じゃあなのはちゃん、続きやろうか」
何とか自力で木の拘束から抜け出していたなのはは、いきなりの展開にしばし置いてけぼりを喰らっていたがその言葉にピクリと反応する。
「どうして!? もうここにジュエルシードは無いんだよ!?」
「言ったでしょ、『先に潰しておいた方が』って。
じゃあ、今ここで再起不能になるくらい潰しておけばいいんだよね?」
「――っ!!」
さつきの言葉になのはは思わず身構える。
「待て! ここでの戦闘行為は禁止する! おとなしく付いて来てもらおう!」
が、またもやクロノが割り込んできた。さつきもこれにはいい加減眉を顰める。
と、その時
「フェイト! フェイトォ!!」
アルフの叫び声が響いた。
そこにいる全員がそちらへと目を向けると、そこにはなのは同様木の拘束から逃れたアルフが、地面に倒れたまま動かないフェイトに絡み付いている枝を必死に剥ぎ取っているところだった。
フェイトの方はどこか異様にグッタリしており、息も荒い。
(……もしかして、落ちた時にどこか悪いとこ打ち付けちゃった?)
フェイトの様子を見てそのような事を思ったさつきだが、次の瞬間ハッと息を呑む。
木の枝からフェイトを救い出したアルフが彼女を抱きかかえると、フェイトの背中から何かが臭って来たのだ。
さつきだからこそ分かるそれは、紛れも無く血の臭い。それもちょっとした擦り傷とかそういうものでは無い。暴走体との戦闘中にやられたのだろうか?
さつきがそんなことを思っていると、アルフが急いでその場から離れようとした。
しかしそれを良しとしない人物が1人。
「待て! 君達も僕と一緒に来てもらう。彼女もそこで治療すればいい」
だがアルフはその言葉を無視して飛び立とうとする。クロノはそれに視線を険しくすると、いきなり手に持つ杖を構えた。その向く先はアルフの射線上。そして収束する光。
目の前にいた為クロノが何をしようとしているのか分かったさつきは、急いでその杖を跳ね上げる。
間一髪、放たれた魔力弾は見当違いな方向へと飛んで行った。
横目で背後を警戒していたアルフはそれに一瞬驚いたような表情をし、しかしその隙にそのまま全力で離脱した。
「何をするんだ君は!?」
自分のやろうとしたことを妨害されたクロノはさつきを警戒して距離を取り、杖を突きつける。
そんな彼にアルフ離脱を確認したさつきは静かに呟く。
「君ね、」
「?」
「格好付けたいのは分かるし、警察に憧れるのもまだ良いけどね。
でもね、無闇に人に迷惑をかけたり、人を傷つけたりすることはいけないことなんだよ?
折角の玩具で遊びたいのは分かるけど、人向けて撃っちゃいけませんって言われたりしなかったの……?」
声は静かに、子供のやったことだと怒気を押さえつけ、しかししっかりとその子供をしかる。今しかっておかなければいけないことだと思って。
「いや、何を勘違いしているのか知らないけど僕は本当に時空管理局の執務官で、」
が、クロノのこの言葉にさつきは一気に脱力する。もう諦める一歩手前だ。
「もうそんなに子供じゃないんだからやって言い事と悪いことの区別ぐらいつくよね?
それに公共機関の名を騙るのは色々問題が出て来るんだよ。
まだ知らなかったかも知れないけど、こっちには公文書偽造とか色々な罪があるの。
そっちにもそういう法律が何かあるんじゃ無いかな?」
最後の方とかもうほとんど脅しになってる辺り、さつきが半ば投げやりになってることが伺える。
その視線の先には何をどう返せばいいのか分からず頭を抱えているクロノ。
と、そんな時
「あのー、さつきちゃん?」
なのはからさつきに声がかかった。
「ん、どうしたの?」
「ユーノ君が、その子多分本物だって……」
その言葉にユーノの正気を疑うさつき。
「え? だって公共機関だよ!? それ以前に職業だよ!?
普通に考えてこんな子供がそんな事できる訳無いでしょう!!?」
「誰が子供だ! 僕はもう14だ!」
混乱の境地にいたクロノも取りあえずさつきのその言葉には反応する。身長からしてどうもそうは見えないのだが、それを差し引いても、
「どっちにしたって同じだよ! 就職活動は大人になってから!!」
「うん、私もそれ思ったんだけど、ユーノ君のいた世界では9歳からもう管理局に就職は出来るって……」
「……はい?」
あまりな情報に思わず呆けてしまうさつき。視線をユーノの方に向ける。するとユーノは大きく頷いた。
「うん。それにさっき彼が見せた証明証、流石にあれだけの玩具は僕の世界にも売ってた覚えは無いし……。
見た感じ本物っぽかったし……」
さつきの背中に冷や汗が流れ始めた。
「えーっと、つまり……」
「だからさっきから言ってるだろう! 僕は頭の可哀想な子でも極度の厨二病でも無く、本物の時空管理局執務官だー!!」
暫くの間、微妙な空気がその場を支配した。
あとがき
ユーノがなのはVSさつき中に介入しなかったことについては次話で言及しますのでそこの突っ込みは無しでお願いします。
夏休み初日に妹とお風呂遭遇イベント(もち突撃役こっち)とか神は一体僕に何を期待してるんだ……(チョ
さて、車校の空き時間にチビチビ書いてますデモアです。
本当はネット使えない筈なのにどっかから謎電波飛んで来たのでそれに便乗して投稿します(待っ!?
お陰で休み前に溜めたレポート10枚以上とか全く手付けて無いぜイェーイ!(つ現実逃避
今回殆ど繋げの話でしたね。
話の流れがかなりテケトーになってしまた。
そして戦闘シーンがやっつけ。うん。ぶっちゃけ真正面からぶつかり合うなのはVSさつきをA's前に入れる必要があったからこうなった。
あとあの木の暴走体の倒し方最初見た時からあれしか無いだろう! と思ってたもんでそれを無理やりやったからこうなった。後悔はしてないが今めちゃくちゃ反省してる。
本当はリアル木で出来たハンマーがあれば尚良かった(待て論点はそこじゃ無い
さつきの行動に違和感覚えたかも知れませんが、それも次話で言及しますすいません。まあ、大体予想は付くでしょうけど。
プレシアの所、書く言っといて書きませんでしたすいません。この時点ではまだフェイトの背景の人物像ぼかしとく予定だったの忘れてました。まあ、原作知ってる人にとっては全く意味の無い小細工ですけどね f^^;
べっ、別にフェイト○○のシーンを書く勇気が無かった訳じゃ無いんだからね! 勘違いしないでよね!(誰
いや、まあ、実際書くのキツイはきついんですけどね。僕ってキャラに感情移入して次の行動予測する派だから。
あと、最初の方のフェイトの行動に違和感あるかも知れませんがそれはご愛嬌と言うことでお願いします^^;;
ああでもしないとアルフ絶対前回乱入して来たので;;;
感想でやたら突っ込まれたのでQ&A設けました。
うん、実際書いてる時もこっちも突っ込みどころ満載だなぁとか思ってましたしね。
Q&A
Q.さっちんどうやって結界の中に入ったの?
A.十三話へGO
Q.クロノって厨二病って言葉知ってたの!?
A.作者が怪電波を飛ばしました(待
Q.>>人に迷惑をかけたり、人を傷つけたりすることはいけないことなんだよ?
つ鏡
A.飲食店ではしゃぎ回る子供に対してやの字の方が「兄ちゃん、ほかの人に迷惑かけるようなことしたらあかんやろ」っていさめるイメージ。
子供に対する言葉なので何もおかしくはないはず。