<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12606] 第10話
Name: デモア◆45e06a21 ID:0e4ab0b6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/10 02:35
「はぁ……」

新たに出てきた魔法少女と遭遇したその夜、なのはは一人自室でため息をついた。
だがそのため息の大半はその少女に対するものではなく……

(アリサちゃんとのわだかまりをいい方向へ改善できたと思ったんだけどなぁ……。
 みんなにも迷惑かけちゃったし……)

今日、自分がみんなに迷惑をかけたことについてと、彼女が自分のせいで傷つけてしまった少女の件についてだ。
なのはからしてみれば、自分の怪我にアリサは全くもって関係無いことを知っており、
しかも自分の意志で行動した結果傷ついたのだから言ってみれば自分が勝手に怪我したようなものだ。
続けてその原因が原因なだけにそれをアリサに説明のしようが無いと来た。

(……ぅうん、もういっその事アリサちゃん達には話しちゃおうかな……
 この間から迷惑ばっかかけちゃってるし、これ以上は申し訳なさすぎるよ……)

「はあぁ~……」

と、またもや盛大なため息を吐くなのはに、ユーノが心配そうに声をかける。

「なのは、大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと落ち込んでただけだから」

「う゛っ……」

だが、アリサ達のことでもユーノが少なからず責任を感じていることまで頭が回っていないなのはは、彼に追撃をかけてしまう。
だがそれでもめげずにユーノはなのはに話しかける。

「あ、あの……そうじゃなくて、怪我の様子……とか……」

「え? ああ、うん、大丈夫だよ。ユーノ君が治療してくれたお陰で、もうそんなに痛くないよ」

二人の視線の先には、包帯が巻かれたなのはの左足。それを暗い顔で見つめていたユーノが、口を開いた。

「あの娘……」

「うん?」

「多分……ううん、ほぼ間違いなく、僕と同じ世界の住人だ」

「……うん」

何となく分かっていたなのはは、そのまま頷く。

「ごめんなのは……僕が…………僕達のことで、君に迷惑ばかりかけてる……」

申し訳なさそうにそう言ったユーノの目の前に、手が差し出された。

「?」

「そんな事ないよ」

いかぶしむユーノがなのはの言葉に顔を上げると、乗って、とばかりに目の前の手を動かされる。
大人しくそれに従うユーノ。
なのはは自分の手のひらに乗ったユーノを自分の顔の位置まで上げた。

「最初は私も、ユーノ君のお手伝いだったけど、
 今は自分の周りの人に迷惑をかけたくないから、自分の意志でジュエルシード集めをしてるの。
 元々の原因はユーノ君達のことかも知れないけど、私の行動は全部私の意志でやってるんだよ。
 だから、私とアリサちゃんとのことも、私が怪我したことも、ユーノ君のせいじゃないよ」

優しい声で、にこやかに告げるなのはに、ユーノは尚も暗い顔で問う。

「なのはは……怖くないの?」

「ううん、不思議と怖くはない……かな。
 さつきちゃんもそうだけど、あの娘の事も……悪い子には見えないんだ」

「……………」

なのはは遠いところを見るかのようにそう答えるが、ユーノの顔が晴れることは無かった。











次の日の朝、なのはの家にユーノとレイジングハートの姿は無かった。











なのはは町中を走り回っていた。
いつもならユーノの散歩(という名目のジュエルシード探し)に出かけている時間。だが今彼女の傍らにユーノはいない。

「ユーノ君!」

朝起きたらユーノが居なかった。それだけなら別に何でも無かったかも知れない。たまたま別の部屋に行っていた可能性もある。
だが、常に首に掛けてあった筈のレイジングハートまで消えていたとあっては、なのはも慌てざるを得なかった。

(どうして……)

思い出されるのは、昨日の夜の出来事。責任を感じて暗くなっていた彼の顔。
嫌な予感がなのはの体を駆け巡る。

(どうして…………)

彼女も分かっている。恐らくは”そういうこと”だろう。
だが、だからこそ……

(どうして、ユーノ君!)

彼女はただ、あてもなく走る。







~高町家~

「あれ? なのはは?」

「んー? おかしいな。いつもならもう戻ってきてる時間だが……
先週の件で学校が休みになったぶん今日授業があること忘れてるんじゃないだろうな。
 あいつこのままじゃ学校遅れるぞ。美由希、電話入れてやれ」

「はいはい。全くなのはったら」

♪トゥートゥートゥー トゥットゥトゥー トゥトゥトゥ トゥトゥ……

「あれ? この音……」

「なのはの部屋から……だな」

「………」

「………」

「「はぁ~」」







~私立聖祥大附属小学校~

「あ、アリサちゃん」

「…………なのはは?」

「まだ、来てないみたいだけど……」

「………………」

「あっ、違うよ。怪我はそんなに酷くなかったから、ちゃんと学校にも来れるはずだよ」

「……そう」

「昨日、なのはちゃんも心配してたよ?
 誰もアリサちゃんのせいだなんて思って無いし、
 その事をアリサちゃんが気に病んで逆になのはちゃんを心配させちゃったら本末転倒じゃない?」

「……うん、分かってる。今日、きちんと謝ってそれで終わりにする」

「……全く」





~私立風芽丘学園~

ヴー ヴー ヴー

「もしもし、なのははどうなった?
 ……まだ一度も帰って来て無い? 学校の方からも電話が来た? 今は父さんが捜しに出てる?
 …………わかった。こっちも一旦学校抜け出してなのはを捜すよ」

ピッ

「恭ちゃん、なのはまだ家に戻ってないの?」

「ああ、全く、飯も食わずにどこほっつき歩いてるんだか。
 俺は今から捜しに行くから、お前は……」

「私も行く」

「…………はあ、分かったよ」







~私立聖祥大附属小学校~

「アリサちゃん……」

「………」

「ほら、なのはちゃんきっと何か用事が出来たんだよ」

「……っ!」

「あ、アリサちゃん!」


「先生!」

「あら、どうしたの二人とも?」

「なのはが学校に来て無いんですけど、どうしてか知ってます!?」

「……朝家を出てったきり、帰って来て無いらしいわ。
 まあ、ご家族の方が捜してるらしいし、そのうち見つかるわよ」

「なのはちゃん……」

「っ!」

「アリサちゃん!?」

「あ、こら待ちなさい二人とも!」






そして街中を歩く、1匹のフェレットの姿。言わずと知れたユーノである。

「………………」

彼は無言で歩き回り、至る所に鋭く目を向ける。
それを繰り返しながら進んで行き、彼が行き着いたのは森の奥の方。なのはと一緒の時は来るようなことが無かった場所である。
それまでずっと歩き続けていた彼は適当な木の幹に背中を預け、座り込んで天を仰いだ。

(これ以上、なのはに迷惑をかける訳にはいかない。魔力の方もけっこう回復して来たし、これからはまた僕一人でやらなきゃ)

彼がそう思い高町家を出たのはこの日の早朝。まだ日が昇ったばかりの頃。レイジングハートを何とか説得して、一緒になのはの元を離れたのだった。
だが、彼がこういった思い切った行動に出た原因はこれだけでは無い。
というよりどっちかと言うとこっちの方が割合としては大きいのだが……

(この間も昨日も、僕は全然役に立てなかった。それだけならまだしも、昨日の僕なんて何をしていたんだ……
 ジュエルシード発動の予兆にも気づかず、なのはに全てを投げ出して、挙句戦闘では足手まといになってなのはに怪我させて……)

要するにユーノは、ジュエルシードの件そのものでなのはにかけてる迷惑より、自分の不甲斐なさからなのはにかけてる迷惑に責任を感じているのだ。
その為彼はレイジングハートを持ってなのはの元を離れ、後は自分だけで何とかしようと思ったのだった。
全てが終わった後にまたお礼をしに顔を出そうなどと考えているあたり、彼らしいといえば彼らしいのだが、
もう少し現実という物を見たほうがよくはないだろうか?

と、そんな彼が一息の休憩を終え、「ふう、」と息をついてそこを離れようとした瞬間だった。

彼のもたれていた木のウロから、蒼い光が溢れ出した――――







「! これって!」

ユーノを探し回って町を駆けていたなのはは、不意に訪れた感覚でジュエルシードの発動を感知した。
そして、と、言うことは。

(ユーノ君は、絶対そこにいる!)

今レイジングハートは手元に無いが、元より放っておくことなど出来ないのだ。なのはは躊躇わずに反応のあった場所へと向かった。







「! ジュエルシード……」

とあるマンションの一室で、ジュエルシードの発動を感知したフェイトはすぐさま立ち上がり、窓を開ける。

「フェイト」

と、その背中に声がかかった。部屋の隅で横になっている、彼女の使い魔であるアルフのものだ。

「駄目だよ、アルフ」

また一緒に行くと言い出すのだろうと思ったフェイトは釘を刺す。何せ今のアルフは上半身の殆どをギプスで固めてあるのだ。
まだ連れて行くわけにはいかなかった。

「うん……気をつけてね、フェイト」

と、意外にもアルフはアッサリと引き下がった。それに少々肩透かしを喰らいながらも、昨日のお説教が効いたのかなとふっと笑みを零すフェイト。

「うん、行ってくるよアルフ」

そう言い残し、フェイトは空へと飛び立った。
その表情は既に真剣なものへと変わっている。

(昨日の子も来るかな? 残りのジュエルシード、いくつかはあの子が持ってるのかも)

それならば、そちらも何とかして手に入れなければならない。
それに……

(もしかしたら、一昨日の子と昨日の子は協力関係なのかも知れない。
 だから昨日は一昨日の子は現れなかったし、ジュエルシードも持ち歩いていなかったとも考えられる。
 もしそうなら、私昨日あの子に勝っちゃったから今度は一緒に来るかも知れない。
 ただの考えすぎかも知れないけど、どっちみち一昨日の子も現れる可能性はあるんだから、気をつけておくことにこしたことは無い)

再度気を引き締め、彼女はジュエルシードの発動地点へと向かう。







とある本屋では。

「!! 来た!」

ジュエルシード発動の感覚に、さつきは立ち読みしていた月間誌を急いで棚に差し戻そうとして……

――グシャ

「………」

差し込み損ねられてすごい音と共に折れ曲がる雑誌。
硬直したさつきは、恐る恐る周りを見回す。と、

「……」

「…………」

「………………(汗」

――――ニコッ

店員さんの一人とバッチリ目が合ってしまい、数秒の沈黙の後とてもいい営業スマイルを貰ってしまった。

「――はぁ」

流石にそのまま素知らぬ顔で店を出る訳にもいかず、ため息をつきながら折ってしまった月間誌をレジに持っていくさつきであった。








なのはがジュエルシードの反応を感知した場所の近く――山の麓を上り始めた時、なのはは森の奥から自分の方へ人影が向かってくるのを見た。
ジュエルシードの暴走体かもしれない――そんな考えが頭をよぎって身構えるなのは。
やがてその姿が確認出来るまでに近づいたその人影の正体は、見慣れない薄緑色の服を着た金髪の少年だった。

(……?)

温厚そうな顔立ちに、優しそうな緑色の目。
人影が人間であった、それも危険な人ではなく、優しそうな同い年ぐらいの少年ということもあり、なのはは警戒を解く。
だが、つい先ほどここであったジュエルシードの反応やその服装、昨日新たな魔導師に合ったばかりということもあり、当然疑問も生まれる。

「あの……」

だが、なのはが口を開いた矢先、

「なのは? なのはじゃないか!?」

「ふぇ?」

少年の方から叫ばれてしまった。

「どうしてこんな所にいるん……ああそっか、さっきのジュエルシードの反応に気付いて来ちゃったんだ。
 全く、レイジングハートも持ってないのに危険じゃないか!」

「え……? あのー、そのー……」

訳が分からずシドロモドロになるなのは。その頭の中では見知らぬ筈の少年の正体に全速力で検索をかけていた。
そんななのはの様子に首を傾げる謎の少年。

「? ああそっか。この姿で合うのは久しぶりだから混乱しちゃったんだね。
 僕だよ、ユーノだよ」

少し悩んだ末になのはの混乱の原因に行き着いた少年がそう言うと、その体が見る見る小さくなり、やがて一匹のフェレット――見紛うこと無きユーノになった


その様子を驚いた様子で見つめるなのは。
数秒の沈黙の後、

「ほ、ほぇえ~~! ゆ、ユーノ君!!?」

森の中に響くなのはの叫び声。

「うん、だからそう言って……」

「ユーノ君って、人の姿にもなれたんだ!」

「……え?」

何やら会話が変だと思い始めたユーノは、そこで一つ確認をした。

「……なのは、僕たちが最初に会った時も、この姿だったよね?」

だが、なのははそれにブンブン首を振る。

「ううん、最初からフェレットだったよ?」

「え? えーっと…………」

何やらポクポクというBGMを鳴らしながら考え始めたユーノ。
やがてチーンという擬音と共にユーノの頭上に!マークが揚がった。

「あ! そ、そうだ、そう言えば最初もこの姿だった!」

「そうだよね? ……え? って事はユーノ君、もしかしてユーノ君って本当はフェレットじゃ無くて……」

「僕はれっきとした人間の男の子だよ!」

「え、えぇーーーーーー!!」

「ま、まさかなのはに人間に見られて無かったなんて……」

人間形態に戻ったユーノはガックリと肩を落とす。と、そんなユーノに驚愕から立ち直ったなのはが思い出したように詰め寄った。

「あ! そう言えばユーノ君、どうしていきなりいなくなっちゃったの!? レイジングハートは!? さっき発動したジュエルシードは!?」

「えーっと、それは……」

矢継ぎ早に繰り出されるなのはの問いに、どう答えようかと悩むユーノ。

「っ!! シールド!」

だが、次の瞬間ユーノがいきなりシールドを張る。自分まで包み込む全方位防御の結界型魔力障壁にどうしたのかと戸惑うなのは。半強制的に先ほどまでの会話は打ち切りになる。
そしてそのなのはの疑問は、次の瞬間、空からシールドに幾つもの魔力弾がぶつかったことで解かれた。

「え!?」

突然の事に驚きながらも、なのはは魔力弾の飛んで来た方向を見る。ユーノは既にそちらを睨んでいた。
そこにいたのは、なのは達が昨日出会った漆黒の魔法少女。
いきなりの事で驚いたなのはだったが、冷静に考えれば当たり前の展開だ。
なのはは急いでユーノの方を向く。

「ユーノ君、レイジングハート!」

だが、返ってきた答えはなのはの期待するものではなかった。

「ごめん、今手元には無いんだ」

それに慌てるなのは。

「ええ!? じゃあどうするの!」

だが、

「大丈夫」

そんななのはに、

「僕が一人で」

いつもとは違った雰囲気でユーノが言った。

「何とかするから」

「……え?」

「なのはは危ないからそこら辺に隠れてて」

漆黒の魔法少女の方へと歩を進めた彼へ、なのはは慌てて声をかける。

「そんな! 危ないよ!」

「大丈夫。僕に任せて」

自信に満ちた表情でそう言い、ユーノは空へと向かった。
レイジングハートを持たないなのはに、それを追う術は無い。

「あっ……」

なのはは心配そうに、ユーノを見上げていた。





不意打ちが防がれたことで様子見をしていたフェイトは、自分と同じ高さまで昇って来た相手に身構える。

(さっき探索魔法を使った時、彼からジュエルシード反応があった。と言うことは……)

その理由は、考えるまでも無いだろう。

「あなたの持っているジュエルシード、渡してもらいます」

《Scythe form》

静かな声で宣言すると同時、フェイトはユーノに向けて一気に距離を詰め、バルディッシュを振るう。
だが、振るわれた刃はしかしユーノに当たる事は無かった。

「シールド!」

――ギギッ

「――っ」

ユーノが手を差し出しながら叫ぶと同時に現れたシールドに、バルディッシュの刃は止められていた。
フェイトはそのまま力を込めるが、そのシールドはやたらと硬く、壊すことは出来ない。更に、

「バリアバースト!」

「っ!?」

ユーノが叫ぶと同時、彼の張っていたシールドが爆発した。
それに吹き飛ばされるフェイト。だがそれほどダメージは無い。彼女の戦闘スタイルは基本的に高速移動を使った翻弄と奇襲。
攻撃を完璧に防がれたため、即座に離脱しようと後方へ動き始めていたことが原因だった。
これがもし力押しで押し切るタイプだったらあの爆発をモロに受けていただろう。

「くっ!」

空中で体制を整えるフェイト。だがその隙に、

「イクスシューター!」

爆発で巻き起こった粉塵の向こうからユーノが複数の魔力弾を放った。その数7。
フェイトはユーノの叫び声にハッとし、急いで魔力弾を避ける。
そのままユーノに対して身構えるフェイト。だが次の瞬間、視界の端で何らかの光を察知したフェイトは急いで体を捻る。
次の瞬間、フェイトの体の前を通り抜ける魔力弾。

(誘導型!)

悟ったフェイトは歯噛みする。身を捻った瞬間、自分を取り囲むように時間差で迫り来る魔力弾を視界に納めたからだ。
囲まれているため高速移動魔法は役にたたないし、体制を立て直す暇も無い。よって、彼女が取れる選択肢は、

(全部かわす!)

これしか無かった。体を無理やり捻り、自身でも驚くべき身のこなしで次々と魔力弾を避けていくフェイト。
だが、それでも限界というものは存在し、最後の魔力弾は直撃コース。

「っ! シールド!」

シールドが間に合い、魔力弾の直撃を免れるフェイト。今の一連の動きはもう一度やろうと思っても無理だろう。
だが、彼女がかわしたのは誘導弾。これで終わるはずも無い。
フェイトもそれは分かっており、荒い息をしながらも急いで周囲を確認する。
すると、ユーノはかわされた魔力弾を今度はまたもや全方位から、今度は少し距離を置いた所から全部いっぺんに突っ込ませた。

だが、今度は何の工夫も無い一撃。

《Blitz Action》

フェイトは高速移動技で全ての魔力弾の射線上から外れ、そのままバルディッシュを大きく振りかぶった。フェイトの視線の
端で、魔力弾同士がぶつかり合って消滅する。
これを好機と見たフェイトが、その場でバルディッシュを振り下ろす。

《Arc Saver》

「はあっ!」

振り下ろされたバルディッシュの刃が、ブーメランのように飛び出してユーノに迫った。

一方ユーノは魔力弾を突っ込ませた瞬間から魔力弾の制御を放棄し、新たな魔法を使用するための呪文を唱えていた。

「妙なる風よ、光となれ」

フェイトの視線の先で、"特に何もせず魔力弾を制御していた"ユーノがアークセイバーを更に上昇する事で避ける。
だがそれを読んでいたフェイトがいる場所は、既にユーノの進行方向の先。

フェイトの目に目前の相手がハッとした表情をしたのが見えたが、もう遅い。フェイトは新たに作成したバルディッシュの刃を問答無用で振り切った。

振り、切った。確かに目の前の相手に当たったのに、"何の抵抗も無く"。

「咎人に、その鉄槌を下したまえ!」

ユーノの詠唱が終わる。彼の眼下には、攻撃を掠らされて体制が崩れているフェイトの姿。

「スーパーセル!」

「!」

目の前にいた相手の姿が霞のように消えていく様を目を見開いて見ていたフェイトは、
自身に向かってくる薄緑色の砲撃に直前で気付き慌ててシールドを張る。

(そんな、幻影魔法だなんて!)

心の中で叫ぶフェイト。実際幻影魔法はかなり難しい部類に入る魔法で、使い手なんてそうそう居ない。

「っ! くうっ! きゃあっ!」

フェイトが張ったシールドは何とか間に合ったものの、体制を立て直す暇も無かったため彼女はそのまま吹っ飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたフェイトは地面に激突し、砲撃の余波で土煙が舞った。


「す、すごい……」

地上でその様子を見ていたなのはは思わず呟いた。
やがて自分の側に降り立ったユーノに、なのはは駆け寄る。

「ユーノ君! あの子大丈夫!?」

開口一番がそれだった。まあ、あの光景の後なら仕方ないだろう。
なのはらしいと、ユーノは苦笑しながらも頷く。

「うん、砲撃はちゃんと防御されてたからダメージはそれ程ないだろうし、地面に叩きつけちゃったけどバリアジャケットあるからそんなに心配しなくていいと思うよ」

「そ、そうなの?」

ユーノの言葉にまだ心配そうな顔を続けるなのは。まあ、人が上空から地面に叩きつけられるところを見たら当然だろう。
だが、ユーノがそう言うのであればと納得したのか、なのはは話題を変える。

「ユーノ君ってあんなに強かったんだ!
 途中でユーノ君が二人になったり、ビックリしちゃった!
 それに攻撃はからっきしで補助が得意って言ってたのに、攻撃も凄かったよ!」

なのはの口から出てきた心からの賞賛に、ユーノは苦笑。
だがそれは、謙遜していたことがバレたからとか、なのはに弱いと思われてたからという風ではなく、返答に困って浮かべるもの。

だがなのはがそれに疑問を持つより早く、

「サンダースマッシャー!!」

「!?」「っ!!」

叫び声と共に森の中から雷の砲撃が放たれた。
それに素早く反応してシールドを張るユーノ。そのシールドは多少押されながらも、危なげなく砲撃を受け切った。
次いで、砂塵を割って雷によってなぎ倒された木々の向こうから突っ込んで来たフェイトも、ユーノは冷静にシールドで対処する。

二度に続く不意打ちまでいなされたフェイトは、先程と同じ事にならない様に直ぐに引く。
彼女の額には冷や汗が浮かんでおり、呼吸は荒い。バリアジャケットもボロボロで、体には切り傷かすり傷がある。
引いて、彼女は緊張した面持ちでユーノにデバイスを向けながら、口を開く。

「デバイスも無しに高レベル魔法の同時連続使用……そしてジュエルシード反応……
 まさか、ジュエルシードを制御して使用しているのか!?」

「え!?」

そのフェイトの言葉に、目を見開くなのは。対してユーノは真剣な――硬い――表情で返す。

「別に、そんな大それたことしてないさ。
 ――それで、どうするんだい? このまま続ける?」

「――くっ」

ユーノの問いに、悔しげな声を上げるフェイト。
だが彼女は引こうとはしない。受身になってもジリ貧になることが分かっている彼女は、一気に仕掛けるために力を蓄えて……

「ここ!? やーっと着いた!」

それを爆発させる前にいきなり乱入してきた少女に、体を硬くした。
乱入してきた少女はもちろん弓塚さつき。
この間自分の使い魔をボロボロにした相手だという事にフェイトが気付かないはずも無い。
フェイトの胸中に今すぐに飛び掛ってアルフの仕返しをしたい衝動と怒りが沸き起こるが、必死に自分を制する。

「っ!」

葛藤も数瞬、流石に分が悪すぎると感じたフェイトは、そこから急いで離脱した。


「あっ!」

さつきが現れた、その次の瞬間にフェイトが離脱したことに思わず声を上げるなのは。思わず手を伸ばそうとする。
だが、もう追いつくことは出来ないのは明白。なのはは少し悲しげに目を伏せて、だが次の瞬間には決意を宿した表情でさつきを見やった。

一方のさつきはと言うと、

「あー、遅かった……」

どうやらもうジュエルシードの封印は終わっていると判断したらしく、地面に手を付いてうな垂れていた。

「さつきちゃん」

が、それでも真剣な声で自分の名前を呼ばれれば反応はする。
その声の真剣さを感じ取り、自分も雰囲気を真剣なものに変えて立ち上がるさつき。
その際、なのはの隣に立っていた少年に気付き怪訝な表情をするが、新しい協力者だろうと結論付けて何も言わなかった。

それを見たなのはは、今一度自分の心中を確認する。

(私はジュエルシードを集める。自分の意思でそう決めた。
 さつきちゃんはジュエルシードが欲しい。理由は言ってくれない。
 両方とも同じものが欲しいなら、ぶつかり合うことは仕方ないのかも知れない。話し合っても、何も変わらないのかも知れない。
 でも、だけど……知りたいんだ)

意味は無いかも知れない。何も変わらないかもしれない。それでもそこには、きっと意味があるから。変わるものもある筈だから。

(―――どうして、そんなに悲しい目をしているのか)

だから彼女は、目の前の少女の、更に深くに触れようと歩み寄る。

「さつきちゃんは、ジュエルシードが欲しいんだよね?」

今更な問い掛けに、しかしさつきは表面上はあくまで軽く、答える。

「うん、そうだよ」

「それって、さつきちゃんの願い事を叶えたいから……なんだよね?」

「他に使い道があるなら、教えて欲しいな」

なのはの更なる問いに答える声は、やはり軽い。だが、さつきの目は決して軽いものではない。

「じゃあ、「前から言ってるけど」っ!」

そしてこの後の言葉がある程度予想できたさつきは、ため息をつきながらそこでなのはの言葉を遮る。

「わたしの望みは言えないよ」

だが、それでなのはが止まるはずも無い。

「どうして!? 話し合いで解決できるかも知れないし、もしかしたら他の方法だって……
 私達だって、協力できるかも知れない!」

必死ななのはの言葉に、さつきは苦笑する。いや、それは傍から見れば明らかに自嘲だった。
その寂しげな笑みに一瞬息を呑むなのは。

「話しても、多分意味が無いから」

返す言葉は少ない。だが、さつきの胸中には様々な思いが渦巻いていた。

(意味が無いどころの話じゃない。不安要素が多すぎる。
 まず第一に信じられないだろうし……ううん、この子なら何の疑いも無く信じてくれるかも知れない。今まで会っただけでも、とんでもないお人好しだってこ

とは分かるし。
 でも……信じてくれたらくれたで、その時は確実に怖がらせちゃう。
 この町にも居づらくなるし、もしかしたらまた命を狙われるようになるかも知れないし、それに……
 …………流石に9歳の女の子からあからさまに怖がられるのは……ちょっと……)

心の中で反芻する声は軽いが、明らかにあえて軽くしている。
他人から、それもまだ年端もいかない少女から拒絶されると言うのは、精神的にかなり来る。さつきは、何よりもその瞬間が怖いのだ。
それに、話したところで他の解決策がポンと飛び出して来るとは思えない。出てきたら出てきたでとんでも無いが。

だが、そんなさつきの事情など知らないなのはは、尚も食い下がる。

「そういうことを簡単に決め付けないために、話し合いって必要なんだと思う!」

「………」

さつきは、無言。なのはは構わず続ける。

「私がジュエルシードを集めるのは、最初はユーノ君の手伝いだった。偶然出会って、お手伝いするようになったのも偶然で……
 でも今は、みんなに迷惑をかけたくないから、ジュエルシードで周りの人たちに危険が降りかかるのは嫌だから、自分の意思でジュエルシードを集めてる。
 これが私の理由」

「………」

未だにさつきは無言。だが、なのはは待つ。さつきが自分に答えてくれるその時を。
やがて、

「なのはちゃん……」

小さく自分の名前を呟いたさつきに、なのはの顔が一瞬期待で明るくなった。だが、さつきの口から出て来たのは、なのはの期待していたものとは別の言葉。

「なのはちゃんの言ってる事は、すごく正しいよ。他の人に聞いたら、絶対になのはちゃんの方が正しいって返ってくると思う。
 でもね、正しいだけじゃどうにもならないこともあるんだよ。
 こっちにだって、話せないのには話せないなりの理由があるの。傍から見た正論を振りかざしても、意味は無いよ」

さつきは笑みを浮かべながら言った。だが、やはりその笑みは……

「……んで……」

「?」

さつきの顔を見た瞬間、顔を俯かせて小さく何かを呟いたなのはに、さつきが疑問符を浮かべる。
やがてなのはは顔を上げ、悲痛な顔で一気に叫んだ。

「じゃあ、何でそんなに寂しそうに笑うの!!?」

「っ!」

なのはの言葉に、さつきは驚愕と共に一歩引く。その顔はどのような思いからか、強張っていた。
なのはの叫びはまだ続く。

「何で、いつもそんなに寂しそうなの!? どうして、そんな「やめて!!」っ! ………」

なのはの声を掻き消すように、放たれた、さつきの叫び声。

「やめて……お願い……聞きたく無い……」

自分の体を抱きしめる様に腕を回し、顔を俯かせるさつき。
彼女は怖かった。今なのはに言われたことを自覚するのが。自覚してしまえば、自分の中の何かが壊れてしまいそうで。

「………」

そんなさつきの様子に、さすがに押し黙るなのは。
と、その時、

――ピィィィィ、パシン!

「!!」「え!?」

ハッとして自分の周りを見るさつきと、驚きの声を上げるなのは。
いきなりさつきの周りをドーム状の薄緑色の光が覆ったのだ。お陰で、先ほどまでの空気は吹き飛び、曝け出されそうになっていたさつきの内面も、その内に引っ込んでしまう。
その障壁の見覚えのありすぎる魔力光に、なのはが声を上げた。

「ユーノ君!?」

「結界は、基本的に人を中に入れないようにするものだけど、少し応用して使えば、こういう風に相手を閉じ込めるのにも使えるんだよ」

ユーノのその言葉を聴いているのかいないのか、さつきは自分を閉じ込めている薄緑色に光る膜に手を当てる。
成る程確かに、さつきの手はそこで止まった。

「この間は力ずくでバインドを引きちぎられたけど、今回の結界はその程度の力じゃ壊せない。
 諦めて君の目的を話すんだ」

そう言ったユーノに、なのはが食ってかかる。

「ユーノ君! どうしてこんな事するの!?」

「なのは、交渉は決裂したんだ。このまま彼女の目的も知らないまま離しておくのは危険すぎる。
 こうでもして理由を聞き出さなきゃ」

「だからっていきなりこんな事……」

なのはもユーノの言い分は理解出来ている。だが、それでも納得は出来なかった。
と、その時さつきが口を開く。

「この光……『ユーノ君』……? って、もしかして君あのフェレット!?
 人間の姿にもなれたんだ!」

「………………」

ユーノは無言で崩れ落ちた。

「いや、これはしょうがない。うんしょうがないんだ。
 考えてみたら彼女と出会った場面では僕はいつもなのはのペットみたいな立ち位置だったし、
 正体が人間だと思わせるような言動もしてなかったんだから。
 でもなのは、いつも一緒に生活していた君まで僕のk………」

そのまま何やら遠い目をしてブツブツ呟き始めた。
出会い頭のなのはの認識違いの露見は、思ったより彼にダメージを与えていたようだ。
抑えていたそれが先程の一言で蘇ってしまったのだろう。

「ユ、ユーノ君?」

「……その子、何かあったの?」

何やら引きつった笑みに冷や汗を流しながらユーノに呼びかける元凶なのはと、何か悪いことをしてしまったのかと心配そうにしているトリガーさつき。


少し経って、復活したのか無言でスックと立ち上がったユーノは、先の出来事を完全スルーして言い放った。

「兎に角、これで君はもう逃げられない! 諦めて目的を白状するんだ! そしてついでに言っておくけど僕は元かられっきとした人間だ!」

「………」「………」

「見るな……そんな目で僕を見るなー!」

閑話休題(それはともかく)

「ふぅん、そっか。君人間だったんだ」

さつきが良い笑顔で、ユーノ達にも聞こえるぐらいの声で呟いた。

「ふふ、そうだったんだ。いやぁ、流石に小動物殴るのは抵抗があったからやめてたけど、
 人間なら1発ぐらい問題無いよね……?」

「………はい?」「?」

さつきのいきなりの言葉に戸惑うユーノ達。
その様子を見て、さつきは本当に良い笑顔で説明する。

「覚えてない? 君の不注意のせいで、わたしって出会い頭に魔法ぶっ放されるところだったんだよ?」

「あ゛ーーー……、」

それを聞いて納得してしまい、冷や汗を流すユーノ。
気まずそうに逸らした目が偶々なのはと合ったが、なのははそんなユーノに一言。

「ごめんユーノ君、フォローのしようが無いかも……」

「は、ははは……」

ユーノはもう乾いた笑いを上げるしか無かった。
でも、と気を取り直したユーノは宣言する。

「どっちにしろ君はそこから出られない。
 僕を殴ることも、こちらの質問を拒否することも出来ないよ」

だが、それに返されたのは不適な笑み。

「この程度で、わたしを抑えられると思ったの?」

「……え?」

まさか、あり得ないと思いながらも、さつきのその言葉に嫌な予感がしてならないユーノ。
その視線の先で、さつきが拳を振り上げた。

「ちょ、ちょっと待っ」

「せーのっ!」

ユーノの口から思わず出た制止の声を無視して振られたさつきの拳は、ユーノの張った結界にぶつかり、

――ドガンッ!!

「きゃっ!」「ぅわあ!」

とんでもない音を響かせて結界を、そして地面を震わせる……に留まった。
周りの揺らされた木々から、パラパラと青葉が落ちてくる。

「えっ硬っ!」

「……ふぅ」

その結果にさつきは驚き、ユーノは安堵の息を漏らす。
その内心は結構冷や汗ものだったが。

(確かに、今の威力じゃ普通の結界じゃ壊されてもしょうがないかも知れない。
 一体、どれだけの腕力をしてるんだ……)

しかし、戦慄するユーノを他所にさつきはまたもや腕を振り上げた。
それを見たユーノは(何度やっても……)と思うが、その目を見た瞬間先にも勝る嫌な予感が彼の体を駆け巡る。
さつきの目は本気《マジ》な目だった。

「はっ!」

――バガァアン!!

先程よりも本気の掛け声と、明らかに力の入れ方が違う拳。
それに呼応するかの様に再び響く先にも勝る大音量。だが、今度は地面はそこまで揺れはしなかった。
結界がその衝撃を完全に地面に伝える前に砕け散ったからだ。

「なぁ!?」

自分の張った結界の強度などいやと言うほど分かっているユーノは、驚きながらも現実味を感じられず同時に呆れる。
だがさつきはそんなこと知ったこっちゃ無い。ユーノの元まで一気に距離を詰めて、そのド頭に鉄拳制裁を下そうと拳を振り下ろす。

「! シールド!」

だが振り下ろされた拳はしかし、直前に気が付いたユーノが頭上に張ったシールドで止められた。
止められた、のだが。

「のわぁ!?」

そのまま振りぬかれたその拳のあまりの威力に、ユーノは膝を折ってしまう。足の裏があった部分はクッキリと陥没していた。
一応断っておくが、死ぬ程の威力ではない。彼にはバリアジャケットという便利なものがあるからだ。
だが体への衝撃ならバリアジャケットで緩和できるが、間接部分への負担はそうは行かない。結果、彼の膝は地面と接触してしまう。
そのもう避けようが無い死に体となった彼に向かって、再度さつきが拳を振り上げようとする。
が、その前にユーノが行動に出た。

「タウンバースト!」

至近距離で放たれる速射型の砲撃。威力は低く単発式だが、効果範囲が普通の魔力弾より広い。

「きゃっ!」

予想外にいきなり打たれた砲撃に、さつきは悲鳴を上げながらも急いで回避行動に出る。
斜め後ろに跳ぶことで砲撃を掠るに留めたさつきだったが、更に追撃が来た。

「イクスシューター!」

「うわわっ」

無数の魔力弾に迫って来られ、焦りながらもあるものはかわし、あるものは叩き落すも流石にたまらず距離を取るさつき。
そして、バックステップで地面に足が付いた瞬間、さつきの頭上に影が差す。

「?」

何事かとさつきが頭上を見上げると、

「……はい?」

そこには何本もの倒木が降ってくる様があった。



自分が転移させた、先の金髪少女との対戦中に倒された木々が見事にさつきの上に降り注いだのを見て、しかしまだユーノは警戒を解いていなかった。
何しろあの少女には今まででも予想外のことが多すぎるのだ。
どうなったか……とユーノが砂煙の向こう側へ視線を凝らしていると、

「待って!!」

彼のすぐ横からなのはの叫び声が上がった。当然それはユーノの耳にも届く。
続いて聞こえて来るのは何かが地面に倒れたような音。

(なのは!?)

何が起こったのか確認する為に慌ててそちらを振り返るユーノ。
そして声がした方を向いた彼の目に写ったものは、

「ぅぅ……」

自分に背を向けた状態で目をギュッと瞑り、両手を広げて仁王立ちしているなのはと、

「いったー」

その足下で横向きに倒れている、自分が木々の下敷きにした筈の弓塚さつきと名乗る少女だった。
ユーノの見ている先で、なのはが恐る恐ると言った風に目を開け、状況を理解してホッとした様子を見せる。
と、その弓塚さつきが肘に着いた土を払いながら立ち上がり、なのはに向かって叫んだ。

「ちょっとなのはちゃん! いきなり出て来たら危ないでしょ! もしかしたら止めれなかったかも知れないんだよ!?」

「だ、だってさつきちゃんがユーノ君を殴ろうとするから……」

なのははそれにビクつきながらも言い返す。

「ちょっと頭天に一発当てるだけだよ」

「ちょっとって威力に見えなかったんだけど!?」

だがそれにあっけらかんと言い返されてなのはは思わず突っ込んだ。
そのやり取りを見て、ユーノはある程度を理解した。
結局降らせた木々は弓塚さつきには当たらず、気づかない内に接近されていて、自分はその拳を喰らいそうになっていたのだろう。
そこになのはが割って入り、さつきは急いで拳を引いてその時にバランスを崩して倒れたと言ったところか。
ユーノはそう結論付け、そして落ち込んだ。唇を噛んで俯く。

(やっぱり、どうあってもユーノ・スクライアはなのはに迷惑を掛けてばっかり、か……)

と、そんな彼の耳になのはの声が届く。

「さつきちゃん、初めて会った時の事とか、さっきいきなり閉じ込めちゃったこととか謝るから、ユーノ君の事許してあげてくれないかな?
 ごめんなさい。お願いします!」

(なのは!?)

そのの台詞に驚き、急いでなのはの方を見るユーノ。彼の目に写ったのは、さつきに対して頭を下げるなのはの姿。

「な、――」

なのは、と言おうとしてユーノは言葉を途切れさせた。さつきが自分の方に視線を向けたのに気づいたからである。
交錯する視線。片方の瞳にはもう既に活力は無く、もう片方の瞳は何を思っているのか分からない。
それは時間にしては数瞬の事。その数瞬を経て、さつきははぁ~、とため息を吐いた。

「そんな風に言われたら、もう殴る訳にはいかないじゃない」

言って、さつきは踵を返す。それにぱっと顔を明るくして頭を上げるなのは。

(元々半分ノリと八つ当たりだったし……)

さつきが心の中でそんなことを思ってたりしたのは内緒である。
なのははそのまま立ち去ろうとするさつきにまだ何か言いたそうに声をかけようとするが、流石にあんな事があった後に先程の話題を再び持ち出すのも気が引け

たらしく、

「ぁ……ぅ……」

開きかけた口からきちんとした言葉が出ることは無かった。
さつきはそんなことには気づかず、そのまま
「あーあ、お金は無駄使いしちゃうし、ジュエルシードは手に入らなかったし、転ぶし服は汚れるし、良いこと無いなー」
とか何とかぼやきながら立ち去ってしまった。


やがてさつきの姿が見えなくなると、なのはとユーノの間に気まずい雰囲気が流れ出した。

「………」

「…………」

「………………」

「……………………」

気まずい。双方共に気まずすぎる。

「ゴメンなのは!」

やがて最初に言葉を発したのはユーノ。
なのははいきなり謝られたことに目をパチクリさせ、しかしすぐに表情を柔らかくして返す。

「ほんとだよ、ユーノ君いきなりいなくなっちゃうし、ジュエルシード一人で封印しちゃうし」

だが、ユーノはそれに気まずそうに視線を逸らす。

「うん……それもだけど、さっきも僕が勝手に彼女を拘束したせいで話しづらくしちゃったり、なのは自信を危険にさらしてまで助けてもらったり……」

ユーノの言葉に、だけどなのははキョトンとした顔になった。

「そんなこと?」

思わずといった風に零されたなのはの言葉に、ユーノは慌てる。

「そんな事って……なのははさっき何で僕なんかを助けてくれたの? さっきは本当に危険だったのに。なのはにはバリアジャケットも魔法も無かったのに」

「だって、ユーノ君は友達でしょ? 友達を助けてあげるのって当たり前じゃないの? 魔法が有っても無くても変わらないよ。
 さつきちゃんを閉じ込めたのだって、ユーノ君がそれが一番いいって思ってやった事なんでしょ?
 それは私は確かに納得できなかったし今も出来ないけど、でもそれでユーノ君を怒るのは何か違うと思うの」

ユーノはなのはの言葉に目を見開いて絶句。

「ユーノ君?」

なのはが怪訝に思ってユーノの名前を呼ぶと、彼は何か憑きものが落ちたような清々しい顔で「ふっ」と笑うと、なのはに真正面から向き直って彼女に聞く。

「なのは、僕って頼りないかい?」

なのははいきなりの事に戸惑い、首を傾げながらもそれに答える。

「ううん、ユーノ君今日初めて知ったけどすっごく強かったし、全然頼りなくなんか無いよ?」

「うん……、いや、じゃあさ、僕が本当に攻撃魔法の一つも使えなくて、補助魔法をあんなに上手く使うことも出来なくて、
 やれることと言ったら精々がなのはのサポートっていう駄目駄目なやつだったらどうだい?」

「? それでもユーノ君すごく物知りだし、なのはの魔法の先生だし頼りになるけどなぁ……」

「でも、一週間前の時だって僕は何にも出来なかったし、昨日だって普通は気づけた筈のジュエルシードの反応をみすみす見逃したり……」

「うーん、でも誰にでも得意不得意ってのはあるし、ユーノ君あの時疲れてたんでしょ? それに誰でも失敗ってあるものでしょ。そういう所を助け合う為に友達

とかがいるんだよ?」

「助け合う、か。でも、昨日まで……ううん、今日も僕はなのはの足手まといにしかなってない。なのはから一方的に助けてもらってばっかだ」

「そんなこと無い!」

なのはがいきなり叫んだことに、ユーノはビックリして少し後ずさる。

「ユーノ君足手まといなんかじゃ無いよ。なのはに魔法を教えてくれたり、なのはがどうしていいか分からない時に助けてくれたり、
 それにユーノ君がいなきゃ私が魔法と出会うことも無かったし、私が気づかずにだれかがジュエルシードの被害に遭ってたかも知れない。
 私もユーノ君に助けてもらってるんだよ」

「じゃあさなのは。今日の事は抜きにして、僕は邪魔でも、足手まといでも、迷惑でも……」

「無いよ。って言うより、友達に足手まといも迷惑も関係無いと思うけどなぁ……」

なのはの言葉に、ユーノは本当に満足そうにふっ、と笑う。そしていきなりどこにともなく話しかけた。

「だって。聞いてるんだろう、"ユーノ・スクライア"」







「?」

なのははユーノの言った言葉の意味が分からず首を傾げる。と、その時近くの茂みがガサゴソと動き、そこから一匹のフェレットが現れた。
いや、それはただのフェレットでは無く、明らかに……

「え? ユーノ君!?」

なのはの叫び声に一瞬困った顔をするも、すぐになのはの隣に立つユーノを睨むフェレットユーノ。

「どうして分かった?」

訊かれたユーノはそれに柔らかな笑みと共に答える。

「僕は君だよ。君が目が覚めて、近くで物音がして、見に行ったら僕となのはが近くにいて、僕がなのはに危害を加える様子が無かったとしたらどういう行動を

するか、よく分かる」

「………」

黙り込むフェレットユーノ。その時なのはがおずおずと切り出した。

「え、えーっと、ユーノ君と……ユーノ君? 何で? またさっきの魔法?」

それに答えようとしたのは後から出て来たフェレットユーノ。

「いや、なのは。そいつは……」

だが、それを遮るように発せられた声があった。

「僕は"本当の"ユーノじゃないんだよなのは。僕は"ジュエルシードそのもの"なんだよ」

「っ!」「? ………!!?」

それを言ったのはなのはの隣の――これからは偽ユーノと言おう――偽ユーノ。
彼の言葉にユーノは更に警戒を強め、なのはは少し困惑したあと驚愕で後ずさった。

「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は確かにジュエルシードの暴走体だけど、暴走の仕方が良かったんだ」

「………」「……どういうこと?」

ユーノは無言。なのはは純粋な疑問をぶつける。

「僕を発動させたのは、そこのユーノだよ。
 まあ、僕が……彼が何を望んだのかは言わないけど、
 彼の近くでジュエルシードが発動しそうになった時、ジュエルシードの事を知っていた彼はそれを"拒絶"したんだ。大慌てで、だから全力で。
 ジュエルシードはその願いも汲み取り、その結果、彼の願いを反映したもう一人の"ユーノ・スクライア"……僕が生まれた。そっちの僕はその時の衝撃で気絶

しちゃったけどね。
 あ、そっちの僕は本当に攻撃魔法は一つも使えなくて、さっきみたいに補助魔法を戦闘中に上手く利用する能力も無いから期待はしないでね」

「…………」「ほ、ほえぇ……」

ユーノは尚も無言。なのははあまりに予想外の急展開にしばし呆然としていた。

「…………」

ユーノはまだ無言。

「ユーノくん?」

流石に何かおかしいと思ったなのはがしゃがみ込んで彼の顔を覗くと、

「そうさ僕なんてどうせ役立たずさ今回だってジュエルシードに気付かなかったどころか発動させた張本人だし
 なのはに迷惑ばっかk」

「……………」

どうやら自分の分身の言葉にショックを受けていたらしい。

「……はあ、全く」

固まるなのはを尻目に、偽ユーノはユーノに近づくとその頭を裏拳の要領で叩いた。
パシン、と良い音がした。

「痛ぁ!?」

いきなりの衝撃に思わず声を上げるユーノ。頭を抑えて偽ユーノを睨むが、当の本人はそれを無視して話し始める。

「ユーノ・スクライア、君は僕なんだ。そんなに情けない姿ばかり晒さないでくれ。
 それに、君の悩みはもう解決されたと思うんだけど?」

偽ユーノのその言葉にうっ、っと呻くユーノ。

「……何で分かった?」

半眼になりながらのユーノの言葉に、偽ユーノは はあー、とため息を吐く。

「さっきから言ってるけど、君は僕で、僕は君なんだ。
 僕が生まれた瞬間から別々の個体になったけど、それまでの"ユーノ・スクライア"の考え、悩み、思い、記憶、その他諸々は全部君のもので、僕のものだ。
 当然、君も悩みと望みも僕の悩みと望みだった。わからない訳無いじゃないか」

「………」

ユーノは言い返せなくなりまたもや黙り込んでしまった。

彼の望み、それは『なのはの役に立ちたい』というもの。
彼の悩み、それは『自分はなのはの足手まといになっている』、『自分はなのはに迷惑に思われているのでは無いか』、『自分はなのはにとって邪魔なのではないか』というもの。
この日彼がなのはの元を離れたのだって、色々と自分に言い訳して納得させていたが、結局の所その行動の本質にはこの悩みによる不安があったのだ。
彼はジュエルシードが自分の望みに反応した瞬間、それを自覚した。
それがジュエルシードに望みを引き出された故なのか、目の前でジュエルシード発動の瞬間を見て、関連性から自分で自分の望みに気付いたのかは本人にも分か

らないが、とにかく自覚したのだ。
気絶する瞬間、彼が感じたのは自分の身勝手さに嫌悪する自分だった。

そして彼は思い出す。自分の悩みが洗い流された瞬間を。


―――嬉しかった。

   彼女の言葉一つ一つが嬉しかった。

   自分の偽者が質問する度にその内容に落ち込みそうになったが、それに何の迷いも無く、自分の心を軽くしてくれるような言葉を彼女は発してくれた。

   今はそんな場合じゃ無い、早くこの状況を何とかしなければならないと分かっていても、それでもあの時の自分の心はどうしようもなく震えていてそんな

事も気にできなくなっていた―――


と、そこまで考えてユーノは気付いた。

「お前、まさかあの質問全部分かってて……?」

ユーノのその質問に、偽ユーノはあからさまに

「こっちもドキドキしながら訊いた甲斐ががあったよ」

などと嘯いた。

「……………」

またもや半眼になって偽ユーノを睨むユーノ。だがその顔にはもう警戒の色は無かった。

「あ、あのー」

と、その時おいてけぼりを喰らっていたなのはが口を開いた。

「あ、ごめんなのは。取り敢えずレイジングハートは返しておくね」

「あ、うん」

そしてそれに即座に反応したユーノ。なのはの元へ駆け寄り、首から提げてたレイジングハートを咥えてなのはに差し出す。
なのははそれを受け取ると、レイジングハートに向かって言った。

「久しぶり……って言うのも変、かな?」

《After long time my master(お久しぶりですマスター)》

いつもと変わらない様子で返して来るレイジングハートに、なのははクスリと微笑みを浮かべる。
そしてユーノに向き直ると訊きたかったことを訊いた。

「とりあえず、あっちのユーノ君は本当はジュエルシードなんだよね? これからどうするの?」

「う、うーん……」

何とも返し辛い質問に、ユーノが困った顔で唸り声を上げる。
と、その様子を見た偽ユーノが自分から説明しだした。

「どうするも何も、本物の僕はもうなのはの元から離れるつもりは無いんだし……」

なのはがユーノに視線を向ける。ユーノはそれに頷き、しかし言い辛そうに言葉を紡ぐ。

「いや……、その……、なのはが邪魔じゃなければだけど……」

だが、それになのはは怒った風に返す。

「やっぱりそういう風に考えてたんだねユーノ君は。さっきも言ったけど、私達友達でしょう? どうしてそんな風に考えるかなぁ」

「ぅ……ご、ごめん……。じゃあ、これからも、よろしくお願いします」

なのはの言葉に勇気を貰ったユーノは、恐る恐るそう言った。

「うん、よろしくねユーノ君」

それに返すなのはは眩しいばかりの笑顔。そして二人して偽ユーノの方を向く。
偽ユーノは何か憮然とした顔をしていたが、先程の言葉の続きを続けた。

「じゃあ、僕が居る意味も無いし、ジュエルシードに戻るよ。
 このままじゃあ迷惑かけちゃうばかりだろうし、いつどんな事になるかも分からないし、お邪魔みたいだしね」

口調は軽い。だが、その台詞ははいそうですかと聞き流せるものでは無かった。特にこの二人にとっては。

「それって……」

なのはが何かを言おうとして、躊躇い、結局口を噤む。
一方のユーノは念話で偽ユーノに突っかかっていた。

《お前は、なのはに余計な重荷を背負わせるつもりか!?》

《僕はそんなつもりは無いけど》

あっさりと返して来た返事に、ユーノは更に憤慨する。

《惚けるな! ……悔しいけど、僕じゃあお前みたいに強力に発動したジュエルシードを満足に封印することは出来ない。
 君自身が自分を封印しようとしたら、封印の途中で必ず術が止まっちゃって酷く不安定なジュエルシードが残ってしまう。封印はなのはにやって貰うしか無い。
 でも君の元になってるジュエルシードを封印するって事は、君が消える――嫌な考え方をしたら、死ぬってことだ。
 彼女にそんな思いをさせる訳にはいかない》

憤慨し、悔しがり、苦悩し、必死に彼女を守ろうとする。そんなユーノに、偽ユーノは酷くアッサリと返す。

《僕だってそんなつもりは無い》

《……どういうことだ?》

まさかの偽ユーノの否定の言葉に、再び念話で尋ねたユーノ。だが、返ってきた答は念話ではなかった。

「じゃあねなのは、そっちの僕をよろしく頼むよ。
 ――見ての通り、頼りないやつだからね」

言葉と共に、彼の足元に魔法陣が現れる。しかしそれは暫く輝くと、そのまま消えてしまった。

「これは……まさか、封印の遅延魔法!?」

その様子を見ていたユーノが驚愕した様子で叫ぶ。
その声を背景に、なのははこれから偽ユーノが文字通り消えるつもりだというのを察した。

「ユーノ君……」

「こんな事を頼むのは本当に申し訳ないんだけど……君が、支えてやってくれないかな?」

結局、彼は最後まで"ユーノ・スクライア"だった。それだけのことだったのだ。
最初から最後までなのはの事を気にかけ、最後の最後で自分の欲が少しだけ零れてしまった、紛れも無い"ユーノ"だったのだ。

その言葉が終わると共に、彼の周りを薄緑色の風が覆った。
周囲の空気を巻き込み、球状に吹き荒れる薄緑色の風の中に、彼は飲み込まれる。

「ユーノ君!!」

その風が収まった後、そこにはただ、蒼色に輝く宝石が残っているだけだった。





「なのは!」

なのはが昼下がりの住宅地を歩いていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
彼女はその肩に乗せたユーノと共にそちらを向く。
そこには、自分に向かって駆けてくる兄、恭也と姉、美由希の二人の姿が。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

近づいてきた二人に向かって、なのはは駆け寄り、顔を伏せながら誤る。

「ごめんなさい。えーっと、お散歩の途中で道に迷っちゃって……」

それを聞いた二人は揃って脱力の表情。

「全く、心配させるなよなのは。お父さんもずっと探しに出てくれてるんだぞ。
 学校からも連絡が来たらしいし、みんな心配してたんだからな」

恭也の言葉に、ますます顔を曇らせるなのは。

「うぅ……ごめんなさい」

と、次の瞬間その顔がキョトンとした物に変わった。

「え? 学校から?」

その言葉を聞いた美由希が呆れた様子で言う。

「やっぱり、忘れてたでしょなのは。
 この間のことで振り替えになって、今日は学校あるんだよ?」

「え……ああ!? そ、そうだった!
 ど、どうしよ……え? じゃあ、お兄ちゃんたち学校抜け出して……ご、ごめんなさい!!」

思いっきり頭を下げて誤るなのはに、二人は苦笑。
そのまま二人とも気にするなという様な事を言ってなのはを宥め始めた。
と、ようやくなのはが落ち着いて来たところで、もう一つ。

「なのは!」「なのはちゃん!」

「アリサちゃん!? すずかちゃん!!?」

自分に向かって駆けて来る二人の親友の姿に、驚愕の表情を見せるなのは。彼女達の様子からして、学校をサボってずっと探してくれていたのは間違い無い。
なのはは二人の下へ慌てて駆け寄って行った。
そんななのはの肩の上で、ユーノはこんな暖かな人たちに囲まれているなのはから、友達だと言って貰えた幸せを、改めて実感していた。







あとがき

何か色々ありましたが、何とか投稿できました。第10話。
何故か寮に残れることになってしまって、今年から高学年なんで寮にパソコン持込OKなんだけどまだネットに繋がらない状態……

しかも今回申し訳無いほどの亀更新。いや、この話かなりの難産でしたけどね。
お前らそっちいくなぁぁぁあああぁぁぁああ!! と叫びながら書いてました。
え? どーゆー意味か分からない? えーっとですね。それについては僕の小説の書き方が関係していまして、以下纏めていくと、
・キャラクター達全員の性格、重要な過去、行動原理をインプットする
・出したいことを場面場面で考える(絶対に詳しく決めちゃ駄目)
・クライマックス、又はオチは決めておく
・後はキャラクターに勝手に動いてもらう
・考えていた場面に進むように周りの物やモブキャラを操作する
って感じなんですねはい。
詳しく流れ決めちゃうと、絶対にそのとおりに動かないのでやっちゃ駄目なんです。
こっちはキャラクター達が勝手に動いてくれるのを外的要因をもって操作するだけ(台詞回しとかは自分で考えるけど)。
さて、皆さんはこの方法の完全な欠点に気づいたでしょうか?

キャラが暴走すると作者自身が大変な思いをすることになるんです!!
前回のアリサしかり、今回のユーノしかり……
前回とか、普通に原作みたいな感じで終わらせようと思ったら何かアリサがなのはの隣にいないもんでどーしたのかな? と思ったら一人で責任感じちゃってるもんでマジで焦った。今回だって、あれ? 何かユーノの様子がおかしいな? と思ってたら何かなのはの元から飛び出してくし。
彼を引き止める手段を延々考え続けて、出したのが偽ユーノ。ついでにアリサとも和解しちゃうキッカケにしちゃおう! と思って振り替えで学校を出校日に。
いやー、前々から想像してたシーンじゃないとやっぱり書くの大変ですね。
しっかしこの作者、最後のシーンの纏め方相変わらず下手だなー;;;

そしてさっちんの脇役臭は異常。さっちんの見せ場考えてた場面がほとんど管理局出てきてからだから困る。
当初の予定だったらもう1、2話前に管理局出て来る予定だったのに……

あと、言い逃れするつもりはありませんがこの投稿が遅くなったのにはも一つ訳がありまして、
実は作者、月姫の翡翠ルートと琥珀ルートをまだマトモにやってなかったんです。
この間あんな事を言った手前、やらなきゃ不味いだろうなぁ……と思ってやってたんですすいません。
そして泣いた。普通に泣いた。翡翠トゥルーエンドとか寮の中にもかかわらず「何で……何でなんだよ!」と叫びながら泣いてしまった。
うん、月姫原作の琥珀を知らないくせに琥珀いいよねとか言ってる人達全員消えてしまえとさえ思ってしまった。その感想が今尚続いているのはすごい。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.029294013977051