ピンポーン。
ガチャ。
大きすぎる中庭を通り抜け、屋敷に着いたなのは達がチャイムを押す。
一泊置いて、待機していたとしか思えないタイミングで扉が開いた。
「恭也様、なのはお嬢様、いらっしゃいませ」
「ああ、お招きに預かったよ」
「こんにちはー」
中から出て来て挨拶をしたのは、月村家メイド長のノエル。
薄紫色のショートヘアーカチューシャで纏め、白と紫を基調としたメイド服に身を包むなのは曰く『美人でかっこいい』人。
「どうぞ、こちらです」
その少し前、月村邸のとある一室。そこには既にすずかとアリサ、そしてすずかの姉の忍と、すずかの専属メイドのファリンがいた。
ファリンは薄紫色のロングヘアーと背が少し低い以外はノエルと同じ格好をしており、なのは曰く『明るくて優しいお姉さん』。
アリサ、すずか、忍は丸机を囲むように座っており、それぞれの前には紅茶が置かれていて、普通ならとても優雅な絵面になっているはずなのだが……
そわそわ……
「あ、アリサちゃん……」
「何よすずか」
そわそわ……
「そんなにそわそわしなくても、なのはちゃんもうすぐ来るから……」
「べ、別にそわそわなんてして無いわよ! それに何でそこでなのはが出てくるのよ!」
そわそわ……
「昨日の事で色々と気まずいのは分かるけど……、もうちょっと素直になればいいのに……」
「だーかーらー! 私はそわそわなんてしてません!」
……押して知るべし。
忍とファリンはその様子を見て始終苦笑している。
やがて……
ピンポーン。
ビクッ!
「あ、なのはちゃん来たみたい」
「い、一々言われなくても分かるわよそんなこと」
あからさまに体を震わせたことにあえて誰も突っ込まなかったと言うのに、わざわざ自分から地雷を踏みに行くアリサ。
余程テンパッているらしい。すずかの言うように、もう少し素直になれば余計な気苦労を背負うことも無かろうに……。
少しして、ノエルに連れられたなのは達が部屋に入ってきた。
「なのはちゃん」
そちらを見て声をかけるすずか。
「すずかちゃん」
ちなみにアリサは一瞬だけなのはに目を向けたが、目が合った瞬間にそっぽを向いてしまった。なのははそれに暗い顔をしたが、
アリサを横から見えるすずかには彼女がついついなのはの方をチラチラ見てしまっていることが丸わかりで、それにクスッと笑ってしまう。
それに気付いたアリサが顔を赤くして慌てながら怒るのはご愛敬。
「なのはちゃん、いらっしゃい」
そんな中なのはへ声をかけたのはファリン。なのはも「はい」と返事を返したが、ファリンはこれでは終わらなかった。
「すずかちゃんがここ最近ずっと心配してたけど、大丈夫?
アリサちゃんなんてさっきまでずっとそわそわしてt」
「こらファリン!!」
と余計なことを喋り始めたファリンを、ノエルが叱咤する。そのままファリンのメイド服の襟を掴んで引きずって行った。
部屋を出る時に「後ほどお茶を運ばせますので、少々お待ち下さい」と言ってから消えたのは流石だろう。
ちなみに、恭也と忍はいつの間にか消えていた。今頃別の部屋で二人きりの時間を過ごしているのだろう。
なのはは「にゃはは……」と苦笑いながら、ノエルに引きずられて出て行くファリンを見ていたが、先程のファリンの言葉を思い出してアリサの方を向く。
と、その視線に気付いたアリサは慌てたようにまくし立てる。
「べ、別にそわそわしてなんかないわよ! 真に受けないでよねっ!」
その言葉を聞いたなのははまたもや苦笑するが、すぐにその顔を真剣なものへと変えた。
アリサとすずかはそれに気付き一度驚いたような顔をするが、すぐにそちらも真剣な表情になり、なのはの目を見つめ返す。
「アリサちゃん、すずかちゃんも、昨日……ううん。最近ずっとだったけど、ごめんなさい。
本当は私、悩みがありました。迷いもありました。それは今も変わらないけど……
……でも、やっと迷いが晴れて来たの。
何に悩んでるのかは、言えないけど……でももうすぐ必ず解決して、いつもの私に戻って来るから!
だから……待ってて、くれないかな……」
それはお願い。全ては言えない、だけど隠しはしない、嘘は付かない。だから待っていて欲しいと……
「何よそれ。結局全部自分一人で背負い込んで、自分一人で解決しますってことじゃない」
「っ」
だが、返って来たのはアリサの辛辣な言葉。なのははそれに唇を噛む。
すずかはそんなアリサに何か言おうとしたが、アリサの目を見てその言葉を飲み込んだ。
アリサの言葉は止まらない。
「そこまで一人でやりたいなら勝手にしなさい。そのかわり、ちゃんと解決しなさいよ」
「……え?」
アリサの言葉にあっけにとられるなのは。すずかはアリサを優しい目で見つめた後、なのはに向き直り自分も言葉を贈る。
「なのはちゃん、話せないことは話さなくていいけど……それでも自分一人で背負いきれなくなったら……
その時は、話せることだけでも、話してね。いつでも力になるから」
「すずかちゃん……アリサちゃん……」
なのはが感極まって二人の名前を呼ぶ。
それにアリサはそっぽを向き、すずかはニッコリと微笑んだ。それになのはが満面の笑みで頷き返そうとした時……
「はーい、お待たせしましたー! イチゴミルクティーとクリームチーズクッキーでーす!」
お約束というか何と言うか、そんな空気全てをぶち壊してファリンが入ってきた。
「………」
「………」
「………」
「…………はい?」
さすがのファリンも何か不穏な空気を感じ取るが、時既に遅し。
「ファリン……少し、頭冷やそうか……」
「え……、は、はいぃ!?」
何やらどす黒いオーラを纏ったすずかに連れられて行った彼女がどうなったのかは、誰も知らない。
さて、別の部屋でそんなことが起きている頃、恭也と忍は並んで椅子に座り、紅茶を飲んでいた。
「なのはちゃん……」
「ん?」
不意に、忍が切り出す。
「すずかもだけどアリサちゃんも、ずっと心配してたわよ? 本人は必死に隠そうとしてたけど……」
忍のその言葉に、恭也は「ああ、」と明るい顔で返した。
「昨日も言ったけど、大丈夫だよ。今日だって、何か吹っ切れたみたいだったしな」
「そう、なの?」
「ああ、あれならもう少し立てばいつも通りだろう」
「そう」
流石は兄、と言ったところだろうか。忍はその言葉に安心した様に返した。
「で、そっちの件はどうする? 今からもう始めるか?」
と、なのはの事で思い出したのだろう。恭也は昨日一緒に話に出たことについて聞きだす。
「そうね、今のうちに終わらせちゃいましょう。ノエル」
「はい」
と、忍が扉の横で待機していたノエルに呼びかける。彼女はすぐに返事をし、手に持っていた封筒を忍に渡した。
忍は封筒の中身を机の上に並べる。
「一々起こってることが大きくて、テレビとかでもニュースになってることが殆どだけど……
これが、家に侵入される3日前に起きた事」
「これは……マキハラ動物病院。確かにニュースになってたな。病院及びその付近の道路が信じられないぐらい破壊されていたって」
「ええ。"人間なら"機材とかを使わなければ出来ないぐらいにね」
「……成る程。次は……」
「これが進入された日。繁華街の洋服店が泥棒に入られたの」
「ああ、これも知ってる。大ニュースになってたもんな。"店の壁を壊して"盗みを働くなんて」
「ええ、でも、これも不自然なのよ。これはニュースでは流れなかったけど、この店の壁の破片、大きいのよ」
その忍の言葉に、首を傾げる恭也。
「それの何が可笑しい……待て、まさか……」
途中で言葉を切り、資料の写真を見る恭也。その写真は、恭也の想像通りの光景を写していた。
「嘘だろ。破壊されてるのは、狭い路地側の壁。
こんな所に持ち込める機械の大きさじゃあ、店の壁を砕いて崩していくしか無い筈……」
「ええ。それなのに、破片はそこまで小さくないどころか、粉塵も明らかに少ない量しか出て来なかった。
しかも、その破片も……」
「殆どが店の中へ落ちている、か……これじゃあまるで……」
「ええ、まるで、"力任せにぶち壊した"みたいなのよ」
忍の言葉に、おいおいと恭也は苦笑する。
「そんな事出来る機械とか、こんな道に入らんぞ」
「分かってるわよ。そういう意味じゃ、次のも同類ね」
「これか?」
「ええ、これも同じ日に起きた事よ。
これはあまり大きなニュースにならなかったけど、公園近くの森の木が何本か、力尽くでへし折られていたの」
恭也が写真を見る。それも明らかに不自然なものだった。
「こんな事するには、相応の機械が必要だろうが……周りの木が殆ど傷ついて無い。こっちにもそんな機械が入るスペースなんて無いぞ」
「そうね、これも"普通の人間には"無理。私達側の人間でも、それなりに骨が折れるでしょうね。
洋服店の方は……まあ、それに特化した人なら何とか可能……かな?
というより、こんな事するメリットって何?」
「……だな。盗みの方はともかくこっちは俺にも分からん。全くの謎だ」
恭也のその言葉に、「そうよね……」と溜息をつく忍。
「そう言えば、盗まれた物って何なんだ?」
恭也の問いに、「そこにリストが有るわ」と、資料の中程を指さす忍。
「何々。洋服(子供用)3着、スカート(子供用)2着、ズボン(子供・女性用)2着、シャツ(子供用)3着、
下着(子供・女性用)4着、ショーツ3着、毛布4枚、シーツ3枚…………何だこりゃ? 犯人は女の子、だとでも言うのか?」
「さあ? そういう趣味の男が、普通に買うのが恥ずかしいから盗んだってこともあるかもよ?」
忍が冗談めかして言うが、要するによーわからんということらしい。
そして忍は新しい資料に手を伸ばす。
「で、これがその次の日。この街から結構離れた所で起きたんだけど、どーも手口的に無関係に思えないのよね」
「どれどれ…………おいおいなんだこりゃ」
その資料を手渡された恭也が呆れた様に言う。そこにはボックスの外から無残に破壊されたATMが2機写されていた。
「警察の方も唖然となったらしいわ。しかも解析の結果、どうも拳大の大きさの穴を空けて、そこから左右に開かれたみたいなのよ」
「……成る程。確かにこりゃ無関係とは思えんな」
「しかもこれ、色々と厄介なおまけ付き。ATMって中に蛍光塗料が仕込まれてるのは知ってるわよね?
片一方にはそれがぶちまけられて使い物にならなくなったお札がそのまま取り残されていたんだけど、
もう片方には蛍光塗料がかけられた形跡が何も無くて、中のお金が全部掻っ攫われてたの。
というより、かけられた形跡どころか、"蛍光塗料があった形跡"すらも無いのよ。
塗料の詰まっているはずのカプセルの中身が、全部カラッポ。カプセルの内側にも全く残ってないと来たわ。
で、これも謎なんだけど、そこから数メートル離れた道路にその蛍光塗料と思われるのがベットリ。もう渇いてたけどね。」
そこまで説明された恭也は、もうお手上げとばかりに苦笑する。
「……おいおい、俺はシャーロック・ホームズじゃ無いぞ」
「彼でも解けるかしらね、この謎。でもまあ、これもまだ次のに比べれば可愛いものよ」
はあ、と溜息を吐きながら、忍は最後の資料を恭也に手渡した。
「……ああ、1週間前のあれか。酷い被害が出たもんな」
そう、それはビル街にいきなり現れた巨大樹の数々によって、街や道路があらかた破壊されたというもの。
木々が生長する時の衝撃で地震まで巻き起こり(と資料にはあるが、それは本当は一人の少女が巻き起こしたものである)、
幸い死者は出なかったが、重軽傷者は多数、破壊された道路のせいで救助は困難を極め、近隣の学校は数日休日になる等、海鳴市は大混乱に陥った。
「木々が現れた原因は不明、いきなり消滅した原因も不明、いきなり消滅したっていうから本当に木なのかも疑わしい、つまりは正体も不明」
そこまで言って忍は頭を抱えた。
「家に進入したやつの正体調べようと思っただけで、こんなに厄介なのばかり出てくるとは思わなかったわ。
しかも、このうちどれが本当に関係していて、どれが無関係なのか、もしかしたら全部関係あるのかもしれないし、全部無関係かもしれないってのが嫌らしいのよね……」
「はは……もし全部が全部関係してたら、こりゃもう俺達だけじゃどうにもならないな……。
特に最後のやつとか絶対シャレにならん気しかしないぞ。
それで、肝心の侵入者の資料は?」
「ああ、それは映像記録があるから別室よ。ついて来てくれる?」
言い立ち上がる忍に続いて、恭也は(やれやれ、厄介な事にならなきゃいいが……)と思いながら立ち上がる。
それでも、どんなことがあっても目の前の女性やその家族、自分の周りの人間だけは、絶対に守り抜くと彼はその時改めて誓った。
……結局彼らの心労は杞憂に終わるのだが、そんなこと知る由もない彼らであった。
場所は変わって屋敷の裏側の庭。周りを森で囲まれたそのど真ん中に、なのは達は机を据えてお茶をしていた。
周りには大勢の猫が屯している。アリサ曰く『すずかの家は猫天国』。
しかしそれを言うならアリサの家だって犬天国だと言うのがなのはとすずかの共通の感想だった。
ちなみに、三人の雰囲気は昨日の下校時の様にギスギスしたものではなく、幾分か柔らかくなっていた。
まだ、いつもの様に全員で笑い合うという様にはなっていないが、それでも話に花を咲かせる事は出来た。
なのはとすずかが笑い合っている時に、たまにアリサもつられて笑ってしまい、それになのは達が気付くと顔を赤くしてそっぽを向くというのもお約束である。
雰囲気的には、アリサのツンがレベルアップしていると言ったところだろうか。……本人の前では絶対に言えないが。
ちなみにユーノはなのは達が部屋に入った時から空気を読んで鞄の中でじっとしている。
昨日喧嘩したと聞き、多少なりとも原因は自分にもあったりするので結構気にしていたのだ。
そんな彼だったが、外の会話を耳で拾い、これなら大丈夫そうだとほっと安心していた。
そしてやれやれ窮屈だったと思いながら、鞄を内側から空けて外に出る。
そして、そこから彼の悲劇が始まった。
まずユーノの目に入ったのは、自分を見つめる一組の目。
それに一瞬で固まるも、ユーノの頭は自分を見つめているのは子猫であるという結論を導き出す。
だがただの子猫と侮るなかれ。その身長は今のユーノよりも大きく、その目はランランと輝いている。
小動物となっているユーノの生存本能が、ニゲロニゲロと命令を送っていた。決してコワサレルナラコワシテシマエ的な電波は受け取っていない。念のため。
だが、彼の体は自信の意志で硬直から抜け出す前に、外的要因によって再度ビクリと震えた。
それによって硬直から抜け出したユーノはしかし、錆び付いたブリキ人形の様な動きでその外的要因――ただならぬ複数の気配――の方を向く。
そこには、目の前の子猫の様に目をランランと輝かせた子猫達が……(大人の猫達は大人しくしていたのは唯一の救いだろう)。
追いかけっこが、始まった。
「きゅーー!」
「「にゃー」」「にゃ」「にゃにゃー」「「にゃにゃにゃにゃ」」
「ユーノ君!?」
「あっ、ダメだよみんな!」
直ぐそれに気付いたなのは達であったが、暴走する子猫達相手にどうする事も出来ない。
しかもユーノも逃げる事に必死で自分の行き着く先など見ておらず、周りの森に入ってしまう。
そして何とも間の悪い事に、ここで一つの事態が巻き起こる。
「――ぁっ!」
ユーノが茂みの中に入っていったのを呆然と見ていたなのはは、"それ"に気付き、思わず声を上げた。
すずかは子猫達が走っていった方を心配そうに眺めていたため気付かなかったが、アリサはそれにいかぶしげに首を傾げる。
だがなのはにそんな事を気にしている余裕は無かった。何故なら……
(ジュエルシード! 大変、もう発動しそうになってる!)
なのはが感じたのは、ジュエルシード発動の予兆だったからだ。
しかもそのジュエルシードがあると思われる方角は、ユーノが逃げ込んだ先だ。それもかなり近い。恐らく月村邸の敷地内だろう。
そこまで予想したなのはは、慌ててユーノに念話を送る。
《ユーノ君!》
……送った……のだが……。
《きゅーーーーーーーー!!》
返ってくるのはテンパッたユーノの声だけ。これでは事態に気付いてさえいないのではないだろうか。
なのはは焦った。目の前の二人の親友を交互に見る。こんな所で、この間のような事になったら、目の前の二人まで傷ついてしまうかも知れない。
そんななのはの耳に、すずかとアリサの話し声が届く。
「ユーノ君、大丈夫かな?」
「そうね、ネズミよろしく咥えられて戻ってくる前に、助けに行った方がいいかもね」
「だめっ!」
気がついたら叫んでいた。「あっ」と思うがもう遅い。アリサもすずかも驚いた様になのはを見る。
「えーっと……、私が探して来るから、二人はここにいて。
ユーノ君がここに戻ってくるといけないから」
急いで、思いついた理由を二人に言うなのは。だが、それはアリサの気に大いに障ってしまった。
「何よ、また一人で全部解決するからってこと?」
怒ったような口調でアリサが言う。それになのはが慌てた様に返そうとするが、アリサの次の言葉の方が早かった。
「いいわ、分かったわよ。さっさと一人で行ってきなさい」
そう言って一度は上げた腰を椅子に戻すアリサ。その腕は組まれていて、顔はそっぽを向いていて、不機嫌そのものだ。
だが、なのはの方も都合上ここで言い争っている場合では無かった。罪悪感を感じながらも、素直にその言葉に従う事にする。
「……うん、直ぐに戻ってくるから、待っててね!」
そう言い、なのはは急いでユーノが消えた方へと走って行った。
「――待ってる事しか求められない方の気持ちも、少しは考えなさいよね…………」
その背中にかけられたポツリとした呟きは、しかしなのはの耳までは届かなかった。
「きゅーーーーーーーーー!!!」
「「「「にゃー」」」」「「にゃにゃー」」
さて、こちらはジュエルシード付近の森の中。
ユーノはその中を目を回しながら逃げていた。追い手は勿論月村家誇る子猫軍団。
「きゅーーーーー!!」
っておい。ユーノの奴ジュエルシードの真横そのまま通り抜けやがったぞ。しかも気付いてる様子無いし。
と、ユーノの後ろを追いかけて来た猫の一匹がジュエルシードを蹴飛ばした。
「にゃ?」
いきなり自分の眉間の辺りに現れた石に、疑問の声を上げる黒い猫。次の瞬間、勢いよく発光する蒼い宝石。
「「「「「「にゃーーーーーー!?」」」」」
それに子猫達が驚いてちりぢりに散っていく。その頃になってようやく、ユーノはジュエルシードの存在に気付いた。
「これは、ジュエルシード!?」
足を止め、ジュエルシードの発光地点へと目を向ける。
いつの間にかいなくなっていた子猫軍団に心のどこかで安堵しながらも、何が起きても対処出来るように身構える。
やがて発光が収まると、そこにはジュエルシードが目の前で発動したため逃げ遅れた、しかし発動前と全く変わったところの無い黒い子猫がいた。
「?」
その事に拍子抜けしながらも、何が起こるか分からないのでユーノは再度気を引き締める。
すると目を閉じて丸まっていた子猫が恐る恐る目を空け、辺りをキョロキョロと見回す。
ユーノはその頃から何かやーな予感がしていた。やがて別に何も起きていない事を認識したのか、またもや目を止めるのは目の前にいる小動物(ユーノ)。
(や、やっぱり……)
その視線にユーノは冷や汗をだらだら流す。
「ちょ、ちょっと待っ」
瞬間、黒い風がユーノの頭上を駆け抜けた。
「……へ?」
固まるユーノ。彼の目の前に子猫はいない。
更なるいやーな予感と共に、彼は恐る恐る後ろを振り返る。
予想通りというか何と言うか、そこには子猫が困惑した様子でキョロキョロと辺りを見回していた。
――その足下に、何かを引きずった様な跡を残して。
(ま、まさか……僕を追っている途中でジュエルシードが発動したから、『僕を捕まえたい』って願いが正しく叶えられた……?)
まあ、普通に考えてそうだろう。ちなみに、ユーノががんじがらめになったりしてないのは、そこに『自分の力で』という意識があったためである。
「ユーノ君!」
その時、ユーノの後ろから彼を呼ぶ声をが響いた。なのはだ。
「なのは!」
振り向くユーノ。その声に反応して、黒猫が獲物を再発見したことには気付かない。
「ジュエルシードは!?」
ユーノに駆け寄りながら、なのはが訪ねる。
「それなら、あの子ネ」
言いながらユーノが振り向こうとした瞬間、またもやユーノの隣を黒い風が通り抜けた。身を強ばらせるユーノ。
それはなのはの横も通り抜け、砂埃を巻き上げて止まる。
「……へ?」
目を丸くするなのは。
「……あの子が持ってる。叶えられた願いは『僕を捕まえたい』。今のところ結果は見ての通り超スピード」
「にゃー?」
自分の力を制御できていないのか、またもや獲物を探してキョロキョロし始める子猫。
「って事は、ユーノ君が捕まればジュエルシードの効力も切れるの?」
「へ……って何言ってんのさなのは!! それにそんなことしてもジュエルシードの効果は無くならないよ!」
ユーノはなのはの言葉に慌てて返す。ユーノの必死な様子に、なのはは苦笑する。
「にゃはは、冗談だよ。それよりユーノ君、近くにすずかちゃんとアリサちゃんがいるんだけど」
「! そうか、ここだと人目がある。分かった。結界を張るね」
ユーノがすぐに準備に入ろうとするが、なのはは首を傾げた。
「結界?」
「僕となのはが最初に会った空間。空間内の指定した者と魔法に関わる者を隔離して、外部との時間進行をズラすのお!?」
語尾が変だが、変では無い。何故ならユーノが嫌な予感と共にその場を飛び退くと同時、彼の目の前を子猫が通過して行ったのだから。
段々狙いが良くなって来ているのは気のせいではあるまい。ちなみに、ユーノの説明の"者"とは"生物"ということで問題無かろう。
体勢を立て直したユーノは、直ぐに結界発動に取りかかる。
「くっ、封時結界、展開!」
言うと同時、ユーノの足元に薄緑色の魔法陣が展開され、そこからドーム状に広がる様に結界が展開された。
その結界は月村邸の敷地内の殆どを覆う大きさとなる。
現れたのはモノクロにカラーのマーブルが蠢く世界。
なのははその様に見とれていたが、ふと気付いた様にユーノに言った。
「ねえユーノ君、さつきちゃんってこの中に入って来れるのかな?」
「さあ? この結界を認識出来る人なら大抵は入って来れると思うけど……
この前『こういうのに敏感』って言ってたから、もしかしたら入ってこれるかもね」
「そっか……」
なのはが少し気落ちした風に言う。『もしかしたら入ってこれるかもね』と言うことは、普通は入って来れないということだろう。
(お話したいこと……訊きたいこと、あったのにな……)
「うぉわあ!」
と、少し自分の世界に入っていたなのはを引き戻したのは、ユーノの叫び声だった。
慌ててなのはがそちらを向くと、そこにいたのは冷や汗ダラダラ流しながら仰向けになったユーノ。
どうやら本当に危ない所で猫の攻撃を避けたらしい。
「な、なのは! とにかく早いとこアレの封印お願いぃぃ!?」
起き上がり、なのはに話しかけたユーノは直ぐさまヘッドスライディングに移行した。
その頭上を通り抜ける黒い風。明らかに切り返しが早くなってる。
と、なのは達の見ている前で子猫は木の側面に着地して、そのままユーノに躍りかかった。
「ほえっ!?」
「うわぁあ!」
その猫のいきなりな曲芸じみた動きになのはは驚き、スライディングしていたユーノは咄嗟に動けない。
だがそこはユーノ。咄嗟に猫と自分の間にシールドを張る。
だが、ユーノがユーノなら子猫も猫だった。
子猫がシールドに激突すると思われた瞬間、子猫は驚くべき身のこなしでシールドに"着地"、そのままシールドを踏み台にして垂直に飛び上がった。
「へ」
「おお!」
それにユーノが呆気にとられ、なのはが感心する中、子猫は頭上の木の枝に"逆さに"着地すると同時、その枝を蹴って真下のユーノに垂直落下を仕掛けた。
「うわぁあぁ!」
慌ててユーノが避ける。直後、ユーノがいた所で巻き上がる粉塵。煙が晴れた時そこにいたのは、何かを捕まえた様な格好で見事に着地していた子猫であった。
「流石猫」
なのははもうそうとしか言いようが無かった。
「感心してる場合じゃ無いでしょなのは! 早く何とかしてえ!」
ユーノの叫び声が聞こえ、そうだったとようやくレイジングハートに手を伸ばすなのは。
「レイジングハート、お願い!」
《All right. Set up》
レイジングハートはそれに答え、なのははバリアジャケットに包まれる。
が、バリアジャケットをセットアップし終わったなのはが再びユーノのいる方へ目を向けると、そこにユーノは居なかった。
「あれ? ユーノ君?」
「きゅーーーーーーー!!」
「ユーノ君!?」
怪訝な声を上げたなのはに返って来たのは、ユーノの悲鳴。
あの数瞬でいつの間にか移動していたらしい。なのはは慌ててユーノの元へ向かう。
そこいたのは、やたらめったら走り回るユーノと、それを追い回す子猫。
ユーノはたまにシールドを張ったりもしているが、子猫はそれすらも足場にして絶え間ない突撃をユーノに繰り返す。
先程のように突撃と突撃の間に間が無い。子猫はもうあのスピードを物にしていた。
木の幹や枝を使い、様々な方面からユーノに襲いかかる子猫。しかも、確実に楽しんでいるのだからタチが悪い。
ユーノもたまに全方面を覆う結界型のシールドを張ろうとしているが、子猫のスピードがそれを許さなかった。
急いでユーノの元へ駆け寄ろうとするなのはだったが、そこでレイジングハートから声がかかる。
《Master》
「どうしたの、レイジングハート?」
《Someone was perceived to use area search.(誰かが広域探索の魔法を使用したのを感知しました。)
In addition it comes at high speed toward here.(更にこちらへ高速で向かって来ます。)》
「へ?」
レイジングハートの言葉に一瞬さつきかと期待するなのはだったが、次の瞬間その期待は裏切られる。
「フォトンランサー 連撃、ファイア!」
「え?」
なのはが疑問の声を上げると同時、なのはからは木々で見えない上空からユーノ達のいるところへ向かって無数の雷撃の槍が降り注いだ。
巻き起こる粉塵。
「うわぁ!」
「にゃー!」
「ユーノ君!」
それに悲鳴を上げる猫とユーノ、そしてなのは。
なのはがユーノに駆け寄ると、粉塵の中からユーノの方がなのはに向かって駆けて来た。どうやら上手く躱したようだ。
「なのは」
「ユーノ君」
自分の肩に乗ったユーノに安心したように呼びかけたなのはは、先程は見えなかった上空を見やる。
そこにいたのは、木の枝に降り立つ金髪の少女。恐らくなのはと同じくらいの年齢。
漆黒の肌着に、漆黒のマントをはためかせ、手には戦斧を思わせる杖を持っている。
「っ!」
そしてその目を見た時、なのはは息を飲んだ。
(この子も……)
紅い瞳。なのははそれを純粋に綺麗だと思うと同時、それが何処か寂しげだと思えた。
さつきとはまた何かが違う、それでも同じように寂しさを称えた、その瞳。
だが、なのははすぐに気を取り直すと、杖を構えて問う。
「どこの子!? どうしてこんなことするの!」
その少し前、フェイトはジュエルシードの発動を感じてマンションを飛び出した。
元々高速移動が得意なフェイトである。目的地にたどり着くまで、さして時間はかからなかった。
だが、わざわざ空を飛んで目的地まで直行、しかも見られた場合の対処も全くしてないのはどうかとは思うが。
兎にも角にも、フェイトが目的地に着いた時、そこには結界が張られていた。
「これは……他の魔導師が居るのかな……?」
只単にジュエルシードが張っただけだと考えるのは虫が良すぎるだろう。
只でさえ、昨日の晩に正体不明の少女にジュエルシード絡みで襲撃(だとフェイトは思っている)されたばかりなのだ。
フェイトは昨日の事を思い出してギリ、と唇を噛んだ。
アルフはボロボロだった。
右の肋骨は全部粉砕骨折、左の方も2本折れていて、壁にぶつけた左肩も骨折、右の肺は潰れかけていた。
肋骨が粉砕骨折になっていたため、傷ついた肺に骨が刺さっていなかったのが唯一の救いだろう。
アルフが主人の魔力で命を繋ぐ使い魔でなければ普通は死んでいた。
だが、それでも当分満足に動けないような怪我だ。
先程もフェイトは、一緒について行くと殆ど動かせない体を無理矢理動かそうとするアルフを宥めて来たばかりだった。
(あの子は厄介だ……)
フェイトは別に自分が負けるとは思っていない。確かにあのパワーは凄いと思ったが、自分は高速で移動して躱してしまえばいいし、
なにより少しぐらい当たってもバリアジャケットで威力を弱められる。
最後の結界壊しも、まさか単純な腕力のみでやったわけでは無いだろう。あの時は動揺してしまったが、
自分の使い魔のアルフだってバリアブレイクという魔法を使えるしそれと似たようなものだろう(と、フェイトは思っている。知らぬが仏とはこのことだろう)。
彼女が本当に魔導師で、デバイスを持ってきたらというのもあるが、それでも自分の強さは自覚している。そんじょそこらの魔導師には絶対に負けない自信がある。
フェイトはその様に考えており、もし再度交戦する事になっても負けるつもりは無かった。
だが、それがジュエルシード集めの競争相手として現れた場合、その存在はとてつもなく厄介なものになる。
フェイトは彼女に負けるとは思っていない。だが、彼女の戦闘能力を過小評価してもいなかった。
単純な1対1の戦闘ではなくなった時、出来れば彼女とは鉢合わせしたくないとフェイトは思っている。
(私は絶対ジュエルシードを集めなきゃいけないんだ。母さんのために)
兎に角、今は早くジュエルシードの所に向かわなければ。
もし魔導師が彼女じゃない場合、彼女が来る前に終わらせられるかも知れないしと、フェイトは結界内に進入した。
だが、その中は別に派手な音や、目立つ物が有るわけでは無かった。フェイトはその事に困惑する。
(もしかして、もう終わってる!?)
その予感と共に、急いで広域探索の魔法を展開するフェイト。
彼女は発動中のジュエルシードの気配を感知し安堵するすると同時、そちらに向かって飛び出した。
フェイトがジュエルシードの反応があった場所を空から見ると、そこにいたのは黒い何かの突撃を必死になって躱している一匹のフェレット。
フェレットが時折バリアーを張っている所を見ると、恐らくは使い魔だろう。そして黒い方がジュエルシードの暴走体。
それを確認すると、フェイトはすぐに行動を開始した。
暴走体は早くて狙いを付けづらい。よって……
「フォトンランサー 連撃、ファイア!」
そこら辺一体に魔力弾をバラ打ちした。
巻き上がる砂塵。直後、フェイトから影になっていた所からバリアジャケットを着た一人の少女が現れる。
その少女が昨晩の少女でなかった事に心の中で安堵するフェイト。
すると、上手く避けたのかフェレットが砂塵の中から飛び出して少女の肩に乗った。
その様子から、恐らく少女があの使い魔のマスターの魔導師であろうことが伺える。状況から見て、ジュエルシードの探索者だろう。
フェイトは気を抜かずに近くの木の枝の上に降り立った。
見ると、少女の方もフェイトを見つめ返して来ている。
少女はフェイトと視線を合わせた途端少し後ずさったが、直ぐに杖を構えてフェイトに問うた。
「どこの子!? どうしてこんなことするの!」
だが、フェイトはその意味の無い問いを無視し、その手に持たれた杖に注目する。
「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス」
インテリジェントデバイスは、かなり高価な物だ。
そんな物を持っているという事は、この少女もまた、それなりの使い手なのかも知れない。
「……バル、ディッシュ?」
目の前の少女の視線が、自分の手に持つバルディッシュに注がれるのを見ながら、
フェイトは兎に角早くジュエルシードの入手を完遂することに意識を切り替える。
「ロストロギア ジュエルシード。
申し訳無いけど頂いて行きます」
《Scythe form》
バルディッシュから鎌の形をした刃が飛び出る。早口で言うが早いが、フェイトは少女に向かって突進し、その鎌を横凪に振るった。
まず邪魔をされる可能性のある者の排除、それが一番手っ取り早い方法だ。
「え!?」
少女はいきなりの攻撃に戸惑い、反応が遅れた。迎撃も防ぐことも出来そうにない。
だが、上手くいきそうでフェイトが安堵したその瞬間、少女とバルディッシュの間に薄緑色の魔力障壁が生まれた。
「きゃっ!」
「っ!」
少女はバルディッシュの魔力刃と魔力障壁がぶつかった衝撃に悲鳴を上げ、フェイトは歯噛みした。
使い魔の存在を忘れていた自分を恨みつつ、そのままバルディッシュを振り抜いて障壁を壊そうとする。だが……
(っ 堅い……)
その魔力障壁はやたらと堅かった。並の魔導師とは比べものにならない。
フェイトは仕方無く、一端距離をとる。
すると、少女はデバイスをフェイトに向けて来た。
「何で、いきなりこんな事……」
フェイトを睨みながら、少女が問う。だが、フェイトはそんな事には取り合わず、バルディッシュの先を少女に向ける。
《Device form》
バルディッシュが刃を仕舞い、その先に集まる雷撃を伴った魔力弾。
(防御されるなら……その上から、打ち抜く!)
「ああもう! 何でこの子もお話してくれないの!!」
《Shooting mode》
すると、目の前の少女も何事か叫びながらデバイスを変形させ、その先に魔力を集め出した。見たところ砲撃用の形態だろう。
だが、構うことは無い。チャージが終わり次第打つだけだ。防がれても目くらましにはなる。
《Thunder Smasher》
先にチャージを開始した分、フェイトの方が早かった。
《Divine Buster》
だが、すぐに少女の方もチャージが終了する。
「サンダー」
「ディバイーン」
「ニャー」
「「!?」」
「ぅわぁあ!」
お互いに攻撃を放とうとした時、いきなり聞こえてきた猫の声に出鼻をくじかれる二人。
いや、ただ猫の声が聞こえただけだったらフェイトは構わず砲撃を打っていただろう。
だが、少し状況が違った。襲われかけていたのだ。目の前の少女が。いや、その肩の上に乗ってるフェレットが。
襲いかかっているのはジュエルシードを持っていると思われる黒猫。フェイトも少女も、すっかり意識の外であった。
どうやら先程のフェイトの攻撃は子猫にも当たっていなかったらしい。音と衝撃で気絶でもしていたのか、丸くなって震えていたのか。
見たところジュエルシードに意識を乗っ取られている訳ではなさそうだが、
そのまま逃げたりしてないところを見ると何らかの精神的影響ぐらいはあるのかも知れない。
「ユーノ君!」
何はともあれ、子猫に飛びかかられたフェレットは、慌てて避けようとして少女の背中側に落ちてしまった。
少女は慌ててそれに振り返ろうとする。子猫はまだ少女の目の前。フェイトにとっては絶好の機会だ。
すぐさま打とうと思っていた砲撃を破棄、連射型の魔力弾に切り替える。
「ゴメン!」
《Photon Lancer Full Auto Fire》
フェイトが叫びながら魔法を打ち出す。最初に子猫とフェレットを襲った稲妻の槍が、無数に少女に向かって飛んで行った。
「え? きゃあ!!」
直前で少女が気付くも、遅い。為す術無く魔力弾の直撃を受け、子猫を巻き添えに吹っ飛ばされる少女。
そのまま木に激突しそうになった少女だったが、直前で薄緑色の魔法陣がクッションになってそれを避けた。
どうやら直前で使い魔が正気に戻ってやったらしい。少女の方は気を失っているだけのようだ。
「さっきの障壁と言い、いい使い魔を持っている」
呟き、フェイトは少し安堵しながら吹き飛ばされた子猫に近づく。
こちらも気を失っているようだが、少しの擦り傷だけで特に目立った外傷は無い。
《Sealing mode set up.》
バルディッシュが封印用の形態を取る。
その先から電流が走り、猫に取り込まれていたジュエルシードを分離させた。ジュエルシードの表面に、ナンバーが浮かぶ。
《Order?》
律儀に訊いてくるバルディッシュに、フェイトは最後の指示を出す。
《ロストロギア ジュエルシード、シリアル14、封印》
《Yes, sir》
バルディッシュの先から魔力が迸り、ジュエルシードを包み込み、封印は完了した。
《Capture》
封印が終わったジュエルシードをバルディッシュに格納したフェイトは、少しだけ自分が倒した少女に目を向けると、そのまま飛び去った。
ちなみに、さっちんは何をやっていたのかというと。
ジュエルシードの発動に気付き、尚かつ結界の発動まで感知したさつきはその発生源に急いで駆けつけていた。
時間的にはフェイトのもう少し後と言ったところだろうか。が、そこからが問題だった。
「こ、ここは…………」
冷や汗をダラダラ流しながら塀を見上げるさつき。思い出されるのは、最初にこの世界に来た瞬間の、半ば心的外傷(トラウマ)的な記憶。
(無理! むりムリ無理!! こんな銃撃ハウス今度入ったら絶対に死ぬって!!)
ガタガタガタガタ震えながら後ずさるさつき。しばらくして、ハッと思いついた様にリアクションをとる彼女。
(そうだ! 今ならなのはちゃんもフェイトちゃんもこっち来てるだろうし、今なら誰にも邪魔されずに他のジュエルシードゲット出来るじゃん!
さっすが私! そうと決まれば早速探しに行かなきゃ!)
……要するに、逃げ出すことにしたのだった。
空が朱くなり始めた頃の月村邸。その一室の廊下で、アリサが壁に背を向けて床に座り込んでいた。
その腕は両膝を抱えて、顔をうずくまらせている。
「……私のせいだ…………」
「違うよ、アリサちゃんのせいじゃ無いよ!」
そうポツリと呟いたアリサの言葉を、彼女の目の前にいるすずかが否定した。
「だって……だって! 私が、すずかの言うみたいに意固地になったりしなければ、あの時、ちゃんと私も着いてくって言ってれば!
なのはが、こんな怪我することも無かったかも知れないじゃない!!」
そう言い、涙を流しながら更に顔を埋めてしまうアリサ。
すずかはそんなアリサの言葉に首を振り、優しく話しかける。
「ううん、そんな事無いよ。誰もアリサちゃんを責めたりなんかしてないし、そんなこと言ったら私だってそうだよ。
ほら、部屋に入って、なのはちゃんが起きるの待とう?」
そう、彼女達の横の扉の向こう、そこでなのはは寝ている。
なのはの帰りが遅くみんなが心配し始めた頃、丁度様子を見に来ていた恭也達の所にユーノが駆けつけ、
足を挫いて気絶していたなのはの所まで引っ張って行ったのだ。なのははそれ以外にも所々擦り傷を負っていたが、
それ以外に目立った怪我も無かったため恐らくユーノを追いかけてる内に転んでしまったのだろうとみんなは判断した。
そして今は彼女の意識が戻るのを待っている所だ。
だが、アリサはすずかの言葉に激しく首を振る。
「どの面下げて会えって言うのよ。私がやった事なんて、ただの八つ当たりじゃない!
そのせいでなのはは怪我して、どうしろって言うのよ……」
「アリサちゃん……」
すずかには、アリサの言った『八つ当たり』の意味が分かった。
恐らく、昨日の会話だろう。
彼女は昨日、『じゃあ、私はずっと怒りながら待ってる。気持ちを分け合えない寂しさと、親友の力になれない自分に』と言っていた。
そう、彼女が怒っているのはなのはに対してじゃなく、『気持ちを分け合えない寂しさ』と、『親友の力になれない自分』の筈だったのだ。
そのことを考えれば、先程アリサがなのはに行ったことは確かに『八つ当たり』になるのかも知れない。
だが、流石にそれは行き過ぎだ。すずかがその事を指摘しようとした時、
「アリサちゃん、すずかちゃん、なのはが目を覚ましたぞ」
「っ!」
間が悪く、ガチャリと開いた扉の向こうから恭也が出て来てそう言った。
その言葉を聞いたアリサはビクリと体を震わせ、立ち上がって全く別の方向へ駆けだして行ってしまう。
「アリサちゃん!」
すずかが慌てて呼びかけるが、アリサは止まらなかった。
アリサはその後自宅で執事をしている鮫島を呼び出してその車に飛び乗り、そのまま家に帰ろうとした。
出来た人だった鮫島は流石にそのまま帰ることはせずに月村家と高町家の面々に挨拶をしに行ったため、
アリサは車の外からすずかや忍、恭也に呼びかけられる事になるのだが、彼女はそれでも車の隅で丸くなったまま出て来ようとしなかった。
結局、ガンとして聞く耳を持たないアリサを鮫島が見かねてその日はそのまま帰らせる事になったことと、
そうなった経緯をなのはが知ったのは、既にアリサが帰ってしまった後だった。
あとがき
よーやく書き上がった!
いや、当初は7話と8話とこれを1話ですませようと思ってたとかもうね。
途中でデュエル小説とか書いてるからこんな事になったんでしょうけど;;;
しかし向こうは感想が来ない。いや、叩かれないだけいいと前向きに考えるべきか……
ちなみに作者、無意味な伏線や気の長すぎる伏線を無闇に引きます。
第4話とかA’s終了後にしか意味を持たない伏線引いてるし。今回のだって……
ぶっちゃけて言っちゃうと、月村サイド、こっから当分出番無しです。イタイイタイ。本当にごめんなさい。
そしてアリサの事だっt(強制終了
それはまあ一重に僕の小説の書き方によるものなんですが、そんな事言ってもしゃーない(開き直るな
まあ、暖かい目で見守って下さい。
ちなみに今回さっちん出番ありませんでしたが、あそこにさっちん突っ込むと収集がつかなくなるので仕方無かったんです!
あの夜の事はこの為の伏線だったんだよ! いやマジで。
そして今回ユーノをもっと虐めたかったのに上手くいかんかった orz
くそう。自分の表現方法の下手さに絶望した。
絶望したと言ったら月姫8巻! やっぱりと言うか何と言うか琥珀の所削除られてた!!
くそう。こうして琥珀完全ギャグキャラ化計画は着々と進行して行くのか orz
しかし、こうして見ると型月作品って必ず一人は強姦されてる女の子出てくるんですよね。何と言うことだ。
そして真逆の完結じゃ無かった。次の巻はいつになるのだろうか。
そして漫画つながりで書くとコンプのFate立ち読みしてこっちにも呆れた。
あんなん原作設定知らない人見ても訳わからんだけな件について。
つーか順調にUBWルート行ってんな思ってたのに11巻の最後で嫌な予感がしてきて今回完全にセイバールート確定したって何それ。
しかもアーチャーの正体誰も気付いてないって聞いたんですけどどーゆーことだ。
ついでに口にすると、僕最近メルブラアクトカデンツァで(AA地元に無いんだ(泣 )さっちんの練習してるんですが、623のコマンドが入れれない!OTL
あれ使いこなせなきゃさっちん使えない子になるのに……今まではシエル先輩使ってたから何とかなったんですが(それでもシエルサマーやろうとしたら黒鍵投げたりとか色々酷いけど
何かコツとかあったら教えて下さい。真面目に。
まあ、それはそれとして、これを書いてる合間にサウンドステージ聞いて冷や汗流した件について。(話飛びすぎ
飛行魔法は初歩……だと……? え? あれ? だってStrikerSでは……と思ってNANOHAwiki見て納得。浮くだけなら比較的簡単ってなにそれ怖い。
kyokoさんの言っていた事がようやく理解出来ました。……しかしどうしよう。暇を見て修正するか。