「し、死ぬかと思った」
とある裏路地で両手両膝を地面に付きながら、さつきは未だにバクバク言ってる心臓を落ち着かせようとしていた。
いくら吸血鬼の体でも、飛び降り自殺の真似事は心臓に悪かったらしい。
飛び降り自殺者の死亡原因は、実は地面との接触よりも落ちている間のショック死の方が多いと言うことを知っているだろうか。
「足まだ痛い……じんじんする……」
ううー、とさつきは壁にもたれながら足をさすった。実際、ここまで駆けて来る間もずっと痛みでマトモに走れなかった。
(それにしても、何者なんだろうあの子達……)
ふう、とビルとビルの間から星空を見上げながら、さつきは先程の少女とその使い魔(と確か言っていた)の事を思い出す。
もうほぼ確実に、魔術師側ではなくなのは側の人間だ。
(何か異常に警戒されてたし、あそこから対等な交渉に持ってける見込み薄かったしなぁ……。
ジュエルシード持ってたとしても、どうせ全部封印してあるだろうし。魔眼で色々聞き出そうにも、あの狼中々目合わせてくれないんだもん)
さつきの魔眼は、相手を思い通りに操るのに目と目を合わせる必要がある。相手が複数人の場合、同時に目を見なければ片方を操ろうとする間にもう片方に攻撃されてしまう。
まあ、人間の心理的に同時に別々の人と目を合わせるというのは無理なので、相手が複数いたら基本的に魔眼の使い道は無い。
最初になのはに使った時は、ユーノがなのはの顔の隣に居たことと小動物だった事もあって(あと、さつき自信は気付いて居ないがあの時さつきの目は自信の意志に反して揺れていた。
その為二人ともと断続的に視線を合わせていたのだ)巻き添えで何とかなったのだった。
なので、今回も同時に巻き添えで何とか出来ないかなー、などと思っていたさつきであったが、当のアルフが目を合わせようとしなかったためその方法は使用出来なかったのだ。
フェイトの指示が見事功を奏していた。
ちなみに、アルフが沈んだ後だったら出来ない事も無かったのだが、また杖に邪魔される気がしたり、さつき自身は狼の手当の方法を知らなかったりしたので止めておいたのだった。
事が終わった後に魔眼から解放して手当させれば良かったかも知れないが、それじゃあ手遅れになるかも知れなかったし、色々と泥沼化しそうで面倒だった。
(あの感触じゃあ、右の肋骨全部折れてるよね……左の方も2~3本逝っちゃったかな? 肺とか傷ついて無きゃ良いけど。いや、ここまで来ると寧ろ命の心配……かなぁ……)
そんな惨状なら普通の生物じゃあまず助かっていないだろうと突っ込んで良いだろうか?
まあ、今更他人(?)の心配をしててもしょうがないと、さつきはその事を頭の片隅に追いやった。
(なのはちゃんの仲間……じゃあ無いよね? わたしの事知らなかったみたいだし。寧ろ取っ掛かりでも掴もうと躍起になってたし)
もしフェイトがなのはの仲間なら、さつきのことは少しは聞いている筈だ。そちらでも『正体不明』として扱われているだろうが、あの質問の仕方じゃあその線じゃないだろうとさつきは考えた。
何はともあれ、あの会話から察するに、向こうもジュエルシードを集めているのは間違い無いだろう。
(新しい第三勢力……か。あーもうますますジュエルシードゲットするの難しくなるじゃん!)
そう思うならあそこで潰しておくのが一番だったのだろうが、さつきはそれをするつもりは無かった。無論、これからも。さつきだって元は人の子だ。
だがまあ、それも切羽詰まってくると分からないのだが……。
今までさつきは、自分が生き続ける為になら人を殺して来た。それは自然の摂理だ。そして、このまま8年間何も対策を取らないまま過ごすという事は、人間として死ぬということと同義だ。
そしてそれは、再びあの暗く冷たい――寂しいセカイに落ちる事になると言うこと。
今でもさつきは、それを思い出す度に『あんな冷たい……寂しい思いをするのは、もう嫌だ……』と、肩を振るわせる時がある。
なまじ再び暖かさを取り戻してしまっただけ、救いの糸が見え始めただけ、その思いは強くなってしまっていた。
さつきもその事はあまり深く考えないようにしているためもあるが、本当に後が無くなった時、自分が何を優先するのか、彼女自身さえ分かっていない。
(それにあの子、杖や攻撃に電撃なんか纏わせて……擦っただけでも体が反応しなくなってくってシビア過ぎるって! 魔法少女のやる戦い方じゃ無いでしょ!!)
むちゃくちゃ言ってるが、実際シビアである。
最初さつきは、突きつけられた杖に電撃を纏わされた時はこの年で中々エグイと思ったし、攻撃を左腕で受け止めた時など感電して左腕の筋肉が思うように動かせなくなっていた。
それだけでは無く、電流は体を通って地面に返り、更に多くの筋肉の能力が低下する。
打ち出された攻撃を右手拳で殴った時も、電撃を殴ったところで電流は流れて来るので、しばらく右手がまた変な感覚に襲われていた。
しかも、電撃はその特性上直撃する必要は全くない。少し擦ればそれだけでもう直撃と大差無い効果が発揮される。シビア過ぎる。
(……まあ、わざわざ後ろ取ったのに叫んでから攻撃してくれたのは良かったけど。
アルフの方はあのタイミングだったから別にいいとして、フェイトちゃんの方は……あれかな? やっぱ魔法少女って技名叫びながら使わなきゃいけないのかな?)
まあそこには起動パスワード的な意味があったりするのだが、魔導師でもないさつきがそんなこと知る筈も無い。
さつきからしてみれば、アルフは気配で分かっていたがフェイトの方は完全な不意打ちだったのであそこで叫んでくれたのは普通に有り難かった。
(それにしても、あのマンション大丈夫かなぁ? 他の人たちはどうにかしてたみたいだけど)
『どうにかしてたみたい』というのは、あれだけ騒いで誰も文句を言いに来たり、野次馬として現れなかったことからさつきが判断したことだ。
どういう方法なのかは分からないし知らないし、気にする余裕も無かったが。
その為、あの時さつきは心置きなくアルフを蹴り上げ、戦闘に持ち込む事が出来たのだ。
追記しておくと、人々は結界の外にいた。……いや、結界の中の方が"外"だろうか。あの結界は、空間と対象者を世界から切り離し、"もう一つの同じ空間"を作るものである。
よって、結界内のマンションで戦闘が行われていた間も、他の人々は何事も無く部屋で寛いでいたのだ。マンションの損壊も、元の世界には反映されていない。
(まあ、そんな事気にしててもしょうがないよね)
結局その思考に行き着いたさつきは、それからふぅ、と小さく溜息を着いて背中と頭を完全に壁に預ける。
静かな気持ちで切り取られた星空を見ながら、それでも周りに集中して、待つ。
――――どれぐらい待っただろうか? 夜なので時間感覚が狂ってくる。さつきが冷えてきた体を丸くしていると、それはやってきた。
(……っ! やっと結界張った)
そう、さつきが待っていたのは、フェイト達が新たな拠点に結界を張るその瞬間。
あれだけ警戒していたのだから、知られた拠点にずっといることは無いだろうと待っていたさつきは正解だった訳だ。
ずっと気を張っていれば何とか気付く事は出来る。気付けばもう後はずっと認識出来る。
(……それにしても、恐らくは周りから隠れるための結界だろうに、そのせいで拠点がばれるって皮肉だよね)
そんなことを考え苦笑しながら、さつきはすっかり冷えてしまった体を擦って廃ビルへの道を歩き始めた。
それは、4日前のお話。
――ずっと考えてた。きっと、私と同い年くらいで、一昨日は助けてくれた、何かに怯えた様な……助けを求めているような……深い栗色の目をした、あの子のこと。
絶対に悪い子じゃ無い。あの時の、他人のために全力で怒ることの出来る子が、悪い子の訳が無い。
ジュエルシードが欲しいのだって、何かそうしなくちゃいけない理由(わけ)がある筈だ。
また合えば、今度はきっとあの子の言った通りぶつかり合うことになっちゃうけど。だけど――――
「なのは、なのは!」
「え?」
自分の名前を呼ぶ声に、ぼーっとしていたなのはは声を上げた。
「もう、なのは聞いてる?」
「う、うん。ごめんねユーノ君。ちょっとぼっとしちゃってたみたい」
一昨日ビル街で大騒ぎがあったため、昨日もこの日も学校は休み。
よって一昨日決意を新たにしたなのはは、張り切って魔法に更に磨きをかけようとユーノと共に魔法の練習をしていたのだが……
「なのは……」
ユーノとて、なのはが気を取られている原因は分かっている。あのさつきという少女の事だろう。これまでも度々同じようなやり取りがあった。
ユーノは後ろめたさを感じながら、それでも一つの言葉を告げる決意をする。
気まずそうな顔をしたユーノの口から、放たれる言葉。
「なのは、一つ言っておくよ」
「何? ユーノ君」
答えるなのはの顔は、"違和感のある"笑顔。無理しているのが丸わかりだ。
「なのはの決意は分かっているよ。でもねなのは、だからこそ言っておくね。
このままジュエルシードを集め続けていると、そのうちまた、あのさつきって子とぶつかるよ」
その言葉に、なのはの笑顔が崩れ、肩を震わせる。それを見て、ユーノの顔が更に暗くなる。
「あの子は多分、優しい子だ。それは昨日の事だけで言ってるんじゃない。
なのはは気付いてるか分からないけど、彼女と2回目に出会った時、彼女はこっちを傷つけない様に動いてた。
あの子の力なら、先になのはや僕を無力化しちゃった方が格段にやりやすいはずなんだ。
最後に彼女が焦って走った時、なのはは見てないけど僕見た。早すぎて辛うじて目で追えたぐらいだった。横から見てだよ。目の前でやられたら、反応出来ないかも知れない。
最初からあのスピードで向かってきて、あの力で殴られたらそれで終わるんだ。
……なのに彼女はそれをしなかった。多分、自分の望みの為に他人を傷つける事をためらえる子なんだ」
ユーノの言葉に、なのはの肩から力が抜けて行く。だがそれを見たユーノは、でもね……と言葉を続けた。
「あの子がジュエルシードを欲しがってる事にかわりは無いんだ。今はまだ躊躇ってくれてるけど……なのはは残りのジュエルシードの数を教えちゃったよね?
今の彼女は、どこまで行ったら後が無くなるのか分かってる。切羽詰まって来たら、今度こそあの子と直接ぶつからなきゃならなくなるかも知れない。
そうでなくとも、彼女が封印の本当の意味を知ったら、僕達が持ってるジュエルシードを狙って来る可能性もある。その時は交戦は避けられない。
なのはは……それでもいいの?」
無責任な言葉だとはユーノも思っている。自分から巻き込んでおいて何を言ってるんだと、自己嫌悪もしている。
しかし今なのはは、自分から、自分の意志でジュエルシードを集めようとしている。それならこれは、言っておかなければならない言葉だった。
それを聞いたなのはは俯き、何も言わない。
やがてなのはは、俯いたままポツポツと言葉をこぼし始めた。
「分からない……さつきちゃんの事、どうしたらいいのか、どうしたいのか……」
「なのは……」
「ごめんユーノ君。もうちょっと、時間ちょうだい……」
それは、昨日のお話。
「いい加減にしなさいよ!」
「あっ……」
昼下がりの教室で、目の前の少女にいきなり怒鳴りつけられたなのはは、はっとして顔を上げた。
いや、本当に"いきなり"だったのかは、なのはには分からない。何せ彼女はまた……
「こないだっから何話しても上の空でぼーっとして!」
「あ……、ごめんねアリサちゃん……」
思い当たる節のあり過ぎるなのはは、沈んだ声で謝るのみ。それにアリサはますます激高する。
「ごめんじゃ無い! 私達と話して、そんなに退屈なら、一人でいくらでもぼーっとしてなさいよ! いくよすずか」
「あ、アリサちゃん……」
二人の隣で何も言えずにいたすずかに、アリサは声をかけて教室を出て行く。声をかけられたすずかは、どうすればいいのか困ってしまった。
「なのはちゃん……」
「いいよすずかちゃん、今のは、なのはが悪かったから……」
困ったすずかはなのはに声をかけるも、そのなのはから"違和感のある"笑顔を向けられてしまう。
「そんなこと無いと思うけど……取り敢えずアリサちゃんは言い過ぎだよ。少し話してくるね」
そう言い、アリサを追って教室を出て行くすずか。その背中に、
「ごめんね……」
なのははポツリと呟いた。そして、もう一度、
「怒らせちゃったな……ごめんね、アリサちゃん……」
もう一人の親友にも、謝った。
「アリサちゃん、アリサちゃん!」
アリサの名前を呼びながら廊下を走るすずか。探し人は直ぐに見つかった。
階段の下にいた親友に、呼びかけながら近づく。
「アリサちゃん!」
「なによ」
だが、それに返ってくるのは不機嫌な声。
「なんで怒ってるのか何となく分かるけど……ダメだよ、あんまり怒っちゃ」
「だってムカツクわ! 悩んでるの見え見えじゃない! 迷ってるの、困ってるの見え見えじゃない!!
なのに……何度訊いても私達には何も教えてくれない……
悩んでも迷ってもいないって嘘じゃん!!」
アリサが言った言葉は、すずかの予想通りのもの。故に、自分もなのはやアリサに隠し事をしている身として、言う。
「どんなに仲良しの友達でも、言えない事はあるよ。なのはちゃんの秘密にしたい事だったら、私達は待っててあげる事しかできないんじゃないかな」
「だからそれがムカツクの! 少しは役に立ってあげたいのよ! この間だってそうよ!
一人で悩んで、こっちが訊いてもはぐらかして……次の日にはもう元に戻ってたけど、あの時だって頼ってくれても……!
……どんな事だっていいんだから、何にも出来ないかも知れないけど、少なくとも一緒に悩んであげられるじゃない!」
反射的に返って来た言葉に、すずかの顔が晴れた。目の前の少女は、確かに怒っている。でも、何も変わってない……何も……
(アリサちゃんの言う"あの時"だって、不機嫌を必死に隠そうとしてるアリサちゃんを宥めるのに四苦八苦してたっけ)
「やっぱりアリサちゃんも、なのはちゃんのこと好きなんだよね」
「そんなの当たり前じゃないの!」
顔を赤くしながらもハッキリと肯定するアリサに、すずかは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「あの子がいたから、私は独りぼっちじゃ無くなったんだ……」
「うん……そうだね……。私もだよ」
だれも居ない学校の屋上で、アリサとすずかは誰にともなく呟いた。思い出されるのは、"あの時"の記憶。
「なのはちゃんがいたから、私達、友達になれたんだもんね……」
それまで何となくという感じで呟いていたすずかが、雰囲気を変えてアリサに話しかける。
「初めて会ったころはさ、私、今よりずっと気が弱くて、思った事全然言えなくて、誰に何を言われても、何にも反論出来なくって……」
そんなすずかに気付いているのかいないのか……いや、気付いているのだろう。この二人に限って、気付いていないなんてことはあり得ない。
アリサも、それに乗った。
「私は我ながら最低な子だったっけね。自信家で我が儘で強がりで……だからクラスメイトをからかってバカにしてた。心が弱かったからね……」
「私も弱かったから、ちゃんと言えなかった。それはすごく大切なものだから返して……って」
思い出されるのは、学校の帰り道、すずかのリボンを取ってからかってたアリサ。
「やめなよって言われても聞かなかった。他人の言うこと素直に聞いたら、何かに負けちゃう気がしてたから」
そしてそこにやってきて、アリサをはたいた一人の女の子。
「あの時なのはちゃん、何て言ったんだっけ」
訊いた言葉は、だけど疑問系じゃなかった。
「『痛い? でも大事な物を取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ』」
「……そうだったね」
「その後、なのはと大げんかしちゃて。それを止めたのが、事の発端のひどくおとなしい子」
「あの時は……だって、必死だったんだよ」
恥ずかしそうに言うすずかを見て、アリサはふっと笑うと、雰囲気を変えて言った。
「で? すずかはそんな昔話をきっかけに、私にいったいどうさせたい訳?」
「分かってるくせに」
だが、苦笑混じりに返された言葉に、それは崩されてしまう。敵わない――そう思いながら、アリサは言葉を紡ぐ。
「……私達に、心配させたくないだけだって事ぐらい、分かってるから。多分、私達じゃあの子の助けにならないって事も。
待っててあげるしか、出来ないなら…………じゃあ、私はずっと怒りながら待ってる。 気持ちを分け合えない寂しさと、親友の力になれない自分に!」
「……いじっぱり」
返って来た言葉に、アリサは頬を膨らませた。
「ふーんだ」
それで話は終わりだと思ったアリサは、教室に帰ろうとするが……
「でもさ、アリサちゃん」
「何よ」
親友の言葉に、足を止めて振り返ると、そこには苦笑したすずかが。困った様にすずかが言う。
「明日、どうするつもり?」
「……え?」
「ほら、明日……」
すずかのその言葉に、アリサは《明日……》と考えて……
「あ……」
固まった。
学校からの帰り道、いつも通りに三人で帰ったなのは、アリサ、すずか。
まあ、アリサは始終機嫌が悪く、なのはは始終萎縮してて、すずかは始終苦笑していたが。
その別れ間際に思い出させられた約束に、なのはは溜息を吐いた。
「どうしたの、なのは」
今なのはがいる場所は、自宅の自室。
その椅子に座って溜息を吐いたなのはに、ユーノが声をかけた。
「ううん、ちょっと今日ね……」
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「そっか……喧嘩しちゃったんだ……」
「ちがうよ、私がぼーっとしてたから、それをアリサちゃんに怒られたってだけの話だから」
気落ちした様なユーノに、なのはが優しく返す。
「親友なんだよね……?」
「うん。入学してすぐの頃からずっと……ね」
なのはが思い出すのは、とある日の学校の帰り道…………以下略。
「っにゃっ!?」
五月蠅い。それはもうやった。
「う゛ーーー」
「ど、どうしたの、なのは?」
急に様子の変わったなのはに、ユーノは戸惑う。
「う、ううん。何でもないよ。何かすごく理不尽な扱い受けた気がしただけだから」
「そ、そう?」
当然、何のことやら分からず首を傾げるユーノ。
「じゃあ、今日は習い事無いから、ジュエルシード探しに行こ、ユーノ君」
「え、あ、うん」
さ、と椅子から立ち上がりドアに向かうなのはの肩へ、ユーノは急いで登った。
(それにしても、明日かぁ……)
またしてもはぁ、と溜息をついたなのはに、ユーノは心配そうな視線を向けた。
その頃、夕方の翠屋で皿洗いの手伝いをしている一組の男女が居た。
女性の方は、月村家当主であり、月村すずかの姉でもある月村忍。男性の方はなのはの兄である高町恭也である。この二人、実は付き合ってる。
不意に、忍が口を開いた。
「ねえ恭也、なのはちゃんのことだけどさ、最近、何か悩みでもあるのかな? 私が見てても思うし、すずかが結構気にしてるの」
「そうだなぁ……最近は夕方や夜の外出も多いしな……」
恭也はそれに対し、何か考え込む風に言う。
「お節介かも知れないけど、ちょっとお話聞いてあげても良いかな……?」
「それは有り難いことだが、多分何も話さないと思うな」
忍の提案を、遠回しに諫める恭也。
「私じゃダメかな……」
その事に忍は若干落ち込んだ様子だが、
「ああ違う、そうじゃ無い。忍には話さないって事じゃ無くて、多分誰にも話さない。あれは昔から、自分一人の悩み事や迷いが有るときは、いつもそうだったから……」
恭也はそんな忍を見て、急いで補足する。
「そうなんだ……」
「ま、あんまり心配はいらないさ。きっと自分で答えにたどり着くから」
恭也だって、心配はしているのだろう。だが、それ以上に信頼しているようだ。
「……そっか」
それを感じた忍は、まだ心配げだったが、一応は納得した。
「それよりも、そっちの悩みは解決したのか?」
と、ふと恭也が切り出した。"そっちの悩み"……恭也が知ってると言うと、あれしか無い。
「ううん、進展無し。でも、あれからちょくちょくとおかしな事は起こっててね。極めつけは1週間前のアレだけど……
資料がまとまって来たから、恭也明日、家に来るでしょう? その時に色々みて貰いたいの」
少しばかり困った風に(わざと)言った忍に、
「了解」
恭也は物怖じせず答えた。
その夜、なのははベッドの中で考えていた。もう一人の魔法少女がこの世界(地)に降り立ち、速攻でピンチになっているとも知らず。
久しぶりに思い出した、すずかとアリサと友達になる、キッカケになった日。そのお陰で、なのはの中のもやもやとした気持ちが方向性を見つけ出していた。
(アリサちゃんともすずかちゃんとも、初めて会った時は友達じゃ無かった。話を出来なかったから。わかり合えなかったから。
アリサちゃんを怒らせちゃったのも、私が本当の気持ちを、思っていることを言えなかったから……
さつきちゃんとは、少なくとも話は出来てる。わかり合えてないだけ。あの子が望みを、私に教えてくれないから。私があの子の望みを知らないから。
目的がある同士だから、ぶつかり合うのは仕方無いのかも知れない。だけど……)
その時、新たな決意を胸に、なのはは眠りに就いた。
(取り敢えず、明日はアリサちゃんにきちんと謝ろう……)
そして、今日。
なのはは以前から約束していたお茶会に行くため、すずかの家へと向かっていた。
メンバーは当然、すずか、アリサ、なのはである。
なのはの兄である恭也も、恋人である月村忍と会うために同行している。
悩みは晴れずとも、迷いはある程度晴れたなのはは昨日よりも明るい雰囲気で月村邸へと向かった。
だが、少女の思いに反し彼女の悩みは晴れる事を知らず、待つのは新たな悲しい目をした少女との邂逅。
運命はよく歯車に例えられるが、それではこれは何なのか。
それは歯車の様に互いに互いを回さず、ふれあう度にお互い絡み合っていく。
そうそれは――――まるで糸。
たがいの糸は、これから互いに絡み合い始めることになる。いや、或いはもう既に…………
あとがき
結論、無理だった!(オマ
いやー、こういう回を入れるってのは予定事項だったのですが、真逆これ程長くなるとは……いや、短いですけどね。全体の量は。でもこれからフェイト遭遇回入れると……
ついでにこの回書いてる時になのはのさっちんへの依存の仕方に違和感あったので6話の別れのシーン書き直し。
すいません度々こういう事しちゃって……これからもたまにあると思いますが、なにとぞよろしく。
と、言うより、この話かなりの難産でした。何故って? 日付が大変なんだよ色々と! 原作内の祝日休日率どうなってるんだ!! この後行く温泉もなのはの怪我治ってからだろうから少なくとも1週間後だし!!!
いっその事ゴールデンウィーク突っ込ませようかと思ってアニメ見直して確認してみたら管理局出てくる日が4月26日だし!!
そしてアニメ見ながら書く作業がいつもと違って別のとこから引っ張り出して来なあかんかったし! 場面飛び飛びだし!(←探すのマジ疲れた
まあ、原作と変わって来たのでやっと一々原作見ながら書く作業が終わりそうで一安心中。キャラ全員が原作と違った過去を持った! よっしゃ好き勝手書けるゼイ!! ……その内再発するけど。
いや、あれやると通常の2倍は時間かかるんだよね。めんどくさいし、文章違和感残るし。
完全オリジナルだった第0話_b&cが一番輝いとった気がする。だったらやらなきゃいいじゃんって話ですが、それは無理なんですよね。僕のポリシー的に(知らんがな
最後の方とかもう自分で何書いてるのか分からなくなって来たし! 解読求む!!(待
そしてト書きの素晴らしさを改めて思い知った今回。いやー、ホント雰囲気出す時重宝しますねあれ。使い方下手な人使うとただの駄文になっちゃうけど。え? この作品自体が駄文だって? そんな事言わないで下さい奥さん(誰
えーっと、さっちんの封印に対する勘違いってのは、多分管理局出てくる時ぐらいに説明します。いやま、NANOHAwiki見れば分かるけどね。寧ろ今まで説明出来る場逃しまくってただけだし。
あ、さっちんの手段と目的が入れ替わってるのには気付いてるんで、そこら辺のご指摘はお構いなく。その内OHANASHIやります。
感想見て思ったのですが、吸血鬼=生きる理不尽って、型月SSでは結構使われませんっけ……? なんかさっちん自体が理不尽って感じになってますけど……いや、それでも間違いじゃありませんけど、僕の思い違いかなぁ……?
p.s.やみなべ様のリリカルなのはRed'sが更新停止しそうという事態にちょっとばかし orz。偶には小説書く楽しさを思い出して社会人の生活の息抜きに書いてもらいたいです。