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No.12606の一覧
[0] 【2章完結】魔法少女リリカルなのは 心の渇いた吸血鬼(型月さっちん×りりなの) [デモア](2021/10/29 12:22)
[1] 第0話_a[デモア](2012/02/26 02:03)
[2] 第0話_b[デモア](2013/06/10 12:31)
[3] 第0話_c[デモア](2013/08/17 03:19)
[4] 割と重要なお知らせ[デモア](2013/03/11 21:50)
[5] 第1話[デモア](2013/05/03 01:21)
[6] 第2話[デモア](2011/07/05 20:29)
[7] 第3話[デモア](2013/02/16 20:33)
[8] 第4話[デモア](2014/10/31 00:02)
[9] 第5話[デモア](2013/05/03 01:22)
[10] 第6話[デモア](2013/02/16 20:43)
[11] 第7話[デモア](2013/05/03 01:22)
[12] 第8話[デモア](2012/02/03 19:23)
[13] 第9話[デモア](2012/02/03 19:23)
[14] 第10話[デモア](2012/08/10 02:35)
[15] 第11話[デモア](2012/08/10 02:38)
[16] 第12話[デモア](2013/05/01 04:48)
[17] 第13話[デモア](2013/10/26 18:49)
[18] 第14話[デモア](2013/07/22 16:51)
[19] 第15話[デモア](2012/08/10 02:41)
[20] 第16話[デモア](2013/05/02 11:24)
[21] 第17話[デモア](2013/05/02 11:09)
[22] 第18話[デモア](2013/05/02 11:02)
[23] 第19話[デモア](2013/05/02 10:58)
[24] 第20話[デモア](2013/03/14 01:03)
[25] 第21話[デモア](2012/02/14 04:31)
[26] 第22話[デモア](2013/01/02 22:45)
[27] 第23話[デモア](2015/05/31 14:00)
[28] 第24話[デモア](2014/04/30 03:14)
[29] 第25話[デモア](2015/04/07 05:15)
[30] 第26話[デモア](2014/05/30 09:29)
[31] 最終話[デモア](2021/10/29 11:51)
[47] Garden 第1話[デモア](2014/05/30 09:31)
[48] Garden 第2話[デモア](2013/02/20 12:58)
[49] Garden 第3話[デモア](2021/09/20 12:07)
[50] Garden 第4話[デモア](2013/10/15 02:22)
[51] Garden 第5話[デモア](2014/07/30 15:23)
[52] Garden 第6話[デモア](2014/06/02 01:07)
[53] Garden 第7話[デモア](2014/10/21 18:36)
[54] Garden 第8話[デモア](2014/10/24 02:26)
[55] Garden 第9話[デモア](2014/06/07 17:56)
[56] Garden 第10話[デモア](2015/04/03 01:46)
[57] Garden 第11話[デモア](2015/06/28 22:41)
[58] Garden 第12話[デモア](2016/03/15 20:10)
[59] Garden 第13話[デモア](2021/09/20 12:11)
[60] Garden 第14話[デモア](2021/09/26 00:06)
[61] Garden 第15話[デモア](2021/09/27 12:06)
[62] Garden 第16話[デモア](2021/10/01 12:14)
[63] Garden 第17話[デモア](2021/10/06 11:20)
[64] Garden 第18話[デモア](2021/10/08 12:06)
[65] Garden 第19話[デモア](2021/10/13 12:14)
[66] Garden 第20話[デモア](2021/10/29 13:09)
[67] Garden 第21話[デモア](2021/10/15 12:04)
[68] Garden 第22話[デモア](2021/10/21 02:35)
[69] Garden 第23話[デモア](2021/10/22 21:49)
[70] Garden 第24話[デモア](2021/10/26 12:37)
[71] Garden 最終話[デモア](2021/11/02 21:52)
[73] あとがき[デモア](2021/10/29 12:50)
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[12606] 第7話
Name: デモア◆45e06a21 ID:cba2534f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/03 01:22
夜の闇の中、金色の光がとあるビルの屋上に降り注いだ。
それを遠目に見た者は、ある者は雷かと思い、ある者は目の錯覚かといかぶしんだ。
やがて光が消えると、そこには代わりに少女がいた。少し離れた所には、オレンジ色という、普通では考えられない格好をした狼もいる。
少女の方も、ツインテールにした金髪、黒を基調とした、肩までしかない薄手の服、ズボンは無く、腰の辺りにスカート代わりとでも言うように巻かれている布の着いたベルト、
太ももまで届いている、これまた黒い靴下、それに黒い手袋と赤い裏地の黒いマントを着けているだけという、十分普通では考えられない格好だったが。

もうシリアスで続けるかギャグで行ってしまった方がいいのか迷う展開だが、今暫くシリアスをお楽しみ頂きたい。

少女の黒いマントが、夜の風にたなびく。そんな中、不意に少女が口を開いた。

「ロストロギアは、この付近にあるんだね?
 形態は蒼い宝石、一般呼称はジュエルシード……」

狼が少女を見つめる。端から見ればただそれだけ。だが、その狼と少女との間で、何らかのやり取りがあった様だ。

「そうだね。直ぐに手に入れるよ」

その少女の言葉に呼応するかの様に、狼が吠えた。





一方、こちらはお馴染みさっちんこと弓塚さつき。今夜もジュエルシードを探して夜の街を行く……のだが。

「うぅー、何で見つからないのー。
 21個も有るんでしょ21個も! 発動前のジュエルシードの一つや二つそこら辺に転がっててよ!!」

無茶を言うな。そしてたとえそこら辺に落ちてたとしても幸運ランク無表記のあんたじゃ絶対見逃す。

(これまでの経緯からいって、わたしの場合、ジュエルシードが発動しちゃってからじゃぁ目的達成するのはかなり難しいのに。
 逆に、まだ発動してないジュエルシードだったらすっごい簡単になるのになぁ……)

心の中でグチグチ言いながらも、至る所に注意を向け続ける。
だが、暗くなった街の中、女の子が一人であちこちキョロキョロしながら歩いているのは、どう見ても迷子である。よく通報されないものだ。

(んー、やっぱりさっき一瞬光が見えたとこ行ってみようかな。
 雷にしては空に雲は無いし、音も無かったし。ネオンライトの明かりとかだったとかだったらお笑いだけど、別にこのまま成果が無いんじゃ同じだし……)

と、さつきがそんな事を考えながら先程何やら光が見えた方向へ注意を向けると……

「え!?」

思わず叫んでしまった。丁度注意を向けていた時だったから気付いたであろう、違和感。元からあったのではなく、今、この瞬間に発動したからこそ気付けたそれは……

(世界の異常……結界が張られた!?)

だが何故、とさつきは思考する。

(ジュエルシードの反応は無かった。だからこれは、ジュエルシードと戦闘になって張ったものとか、ジュエルシード本体が張ったものじゃ無いみたいだけど……。
 じゃあ、やっぱりこの世界には魔術師が居て、その人が張った……? この間あれだけの事が起こったから、調査に来ちゃったのかなぁ?)

考えながらも、さつきの足はそちらへと向かっていた。
ジュエルシード絡みなら好都合だし、魔術師絡みでも、そっち方面へ接触出来るのならしといた方が良い。どちらにせよ、さつきには行かないという手は無かった。




「ここ……だね……」

さつきがたどり着いたのは、一つのマンションだった。中々に高級そうな、全面ガラス張りのマンションである。
結界は、そのマンション全体を包み込む様に張られていた。そのつもりで見ると、何やらマンション全体がうっすらと金色に光っている様に見えるが、真偽は定かではない。
さつきは、そのビルに手をつきながら考えた。

(マンション全体を結界で包み込んだ? まるでマンション自体が結界の境界線みたい……。
 もし魔術師の方だったらこのマンション自体が工房だってことになるんだろうけど……)

と、そこまで考えた時さつきの脳裏に何故か、マンションの壁を突き破って刀を構えた式が降ってくるヴィジョンが浮かんだ。

(……? 疲れてるのかな……?)

まあ、それはともかく。

(うー、ここが魔術師の工房なら、入って外敵と思われたら危険……なんだよね?
 『伽藍の堂』も橙子さんの工房らしいけど、そんな危険な感じしなかったけどなぁ……)

さつきは魔術師の工房、というものをよく知らない。
入ったらそりゃあもうとてつもなく危険、ということは知ってはいるが、
自身の工房もきちんとしたものでも無く、他人の工房の仕掛け等も見たわけでも聞いたわけでもないさつきは、いまいちその実感が沸かなかった。

(……まあ、何とかなるよね)

もし本当に魔術師の工房だったら軽率というのも生ぬるい思考で、さつきはマンションの中へ入っていった。




遠見市のとあるマンションの一室、そこでソファーに座って目を閉じる金髪の少女がいた。
長い金髪をツインテールにしたその少女は、服装は違えど間違いなく、先程ビルの屋上で佇んでいた少女である。
その姿は今度はきちんとした服装で、一見普通の少女と変わらない様に見えるが……やはりというか何と言うか、その姿は普通では無かった。
何と言っても、彼女の真下で、金色の魔法陣がこれでもかと言うように自己主張しているのである。

「フェイト、まだ初日なんだし、今日のところはそれぐらいにして寝ておいたらどうだい?」

ソファーの隣で寝そべっている狼が口を開いた。そこから零れるのは、紛れもなく人の言語。
話しかけられた少女――フェイトは、目を閉じたまま返事を返す。

「うん。でも、もう少しだけ」

その返事に、狼は溜息を吐いた。
このご主人様は、こう言いながらもいつまでたってもこの作業を続けるに決まっているのだ。

(全く、広域探索の魔法なんて、ただでさえ負担が大きいって言うのに……)

しかし、自分がいくら言っても無駄だと分かっている狼は、諦めて自らの前足の上に顎を乗せる。
ならばせめて、例え無意味でも、ずっとフェイトの側に居るつもりだった。

しかし、それにしても何もやることも無いので、人より敏感なその耳は、部屋の中が異常なくらい静かな事もあり、無意識的に周りの音を敏感に拾っていた。

と、その耳がこの部屋に近づいて来る足音を捕らえた。
別に珍しくも無い。ここはマンションなのだから、そんなことはしょっちゅうある。
その足音がこの扉の前で止まった。それもまだいい。向かいの部屋の住人かも知れないし、もしかしたら先程会った"管理人"という人間が何らかの用事で来たのかも知れない。

――だが。

(!!?)

その人物が呟いた言葉に、『結界』やら『魔術師』やらという単語が混じっているのは聞き逃せなかった。

《フェイト!》

急いで、己の主人に念話を送る。

《どうしたの、アルフ?》

返ってくるフェイトからの返答。わざわざ念話で呼びかけた意味を察したのか、返事も念話だった。
それに狼――アルフは、要点をかいつまんで早口で伝える。

《扉の前に、人が居る。多分魔導師だ》

《それだけで魔導師って決めつけることは……》

《喋ってる言葉の中に、『結界』とか『魔術師』とかいうのが混じってんのさ!》

「――っ!」

アルフの言葉に身を固くするフェイト。直ぐに展開している魔法を解除し、立ち上がる。

「バルディッシュ、セットアップ」

《Yes, sir. Get set》

小声で呟かれた言葉に、反応するのは彼女の填めているグローブ、その右手の甲に着いている金色のプレートだった。
同時に、彼女のバリアジャケット――冒頭の姿――も展開される。その右手には、彼女の身の丈ほどもある、戦斧の様な形状をした杖が握られていた。

《フェイト、どうするんだい?》

《相手の目的が分からない。踏み込んでくる前にここから離脱するのが一番かも》

早速臨戦態勢を取っている自分の使い魔に、フェイトは冷静に返す。
ジュエルシード関係なら黙っている訳にはいかないが、偶々この結界に気付いた魔導師かも知れないし、もしかしたら自分が転移してきた所を見られて野次馬で来ただけかも知れない。
交戦を仕掛けた場合、前者ならまだ良いが、後者ならそれで荒事になったらとんだ馬鹿だ。

《でもさ、ワタシ達がここに居る……ってかそもそもこの世界に居るって事を知ってる奴なんて、そうそう無いよ。
 言っとくけど、声はあの鬼婆のでも元々あり得ないけどリニスのでも無かった》

《だからこそ、ここで不用意に接触して、泥沼になるのは避けた方がいい。そこの窓を突き破って、離脱するよ》

尚も戦る気まんまんなアルフを宥めて、フェイトは体を窓の方へ向けた。飛び立つ為に、足に力を込める。

――だが。

《………フェイト》

《何、アルフ》

《今、扉の前のやつが"ジュエルシード"って言葉を口にしたんだけど》

「――っ!」

アルフのその言葉を聞くと同時、フェイトは体の向きを変え、離脱する為に溜めた力を扉へ向かう力へと変えた。床からそれほど離れてない空中を、駆ける。
既に手元にあるバルディッシュの先からは、まるで死神の鎌の様に彼女の魔力光である金色に光る刃が突きだしていた。

《アルフ! 封時結界を!》

《了解!》

マンションを覆う形でドーム型の結界が展開されると同時、フェイトは扉に向けてバルディッシュを振るう。振り終わったところで、非殺傷設定に切り替える。
崩れた扉の向こうにフェイトが見たのは、自分とさほど変わらないであろう背丈をした、茶髪をツーサイドアップに纏めた女の子。
その少女は、意表を突かれた様に硬直している。

「はあっ!」

取った、と思いながら、フェイトは容赦無く返す刃で少女に斬りかかった。




結界の中に入ったさつきは、早速迷っていた。
結界の内部に入るとハッキリ世界の異常を感知出来た。が。

(基点が……無い?)

いや、実際は基点が無い訳では無く、この結界自体が一個の基点の様なものなのだが。
何はともあれ、基点のある場所へ向かうつもりだったさつきは、そこからどうすればいいのか分からなくなってしまったのである。

(うーん、ここまで来てただ返るってのは嫌だし……あっ、そうだ)

と、さつきは見方を変えてみた。すると……

(あ、何か違和感あったけどもしかしてこれが魔力? 結界の中に入ったからだと思ってた……
 それなら、これを辿っていけば……)

そう、彼女が感じたのは、魔力。
さつきとて既にそちらの住人だが、それでもなにがしに内包されている魔力を感じることはできない。
年月を重ねていけばそのうち見れば分かる程度には確実に達するだろうが、まだ魔力というものに触れてさほど経っていないさつきには無理な話だ。
だがしかし、それがなにがしから"放出されている"魔力となると話は異なる。さつきも、そこまでくれば流石に自分とて何かしら感じ取れるのではないかと思ったのだ。
元々結界は基点から魔力を補給するため、この結界に向かう魔力の流れなどは分からないのだが、あちらが何かしら魔術的な行動を起こしてればと思ってのことだったのだが見事にビンゴした。

一度注意して魔力を感じてみると、確かに居た。大きな魔力をダダ漏れにしている存在が(広域探索をしているため)。
こんな状況でこのホテル内から魔力を放出している人物などもう確定だろう。

何はともあれ、行き先の決まったさつきは早速エレベーターを使ってマンションを登り、その部屋の前へと向かった。
ちなみにかなりの高台である。エレベーター見える景色もかなり良い。マンションの中も清潔そのもの。本当に良い物件だ。
魔力の感じられる部屋の前に着くと、さつきはさてどうしようかと考え始めた。

「うーん、この中にこの結界張った人が居るとは思うんだけど……こっからどうしよう?
 その人が魔術師で、ここがその工房なら、わたしがここに居る事はもうバレてる……よね。橙子さんも、部屋に着く前にわたし達の事に気付いてたって言ってたし」

ぶつぶつと呟きながら少し俯き、顎に手を添えて考え込む。

「……どうせバレてるんなら、もうそのままノックしちゃう? でも、そっからどう接すれば良いか……いきなり攻撃とかはされないだろうけど……
 ……そもそも、本当に魔術師なのかな? ジュエルシードも無かったし、結界の外と内でさほど変わった様子も無かったから魔術師だろうって結論付けたけど……
 それにしてはさっきのダダ漏れの魔力と言い……ってあれ?」

そこまで言って、さつきは先程程の魔力がもう感じられなくなっている事に気付いた。そのことに疑問を感じると同時、

「っ!?」

周りの色が、色の配色がおかしくなる。所々、モノクロのまだら模様が蠢いている。いや、どちらかというと色の有る方がまだらだ。
だが、それをさつきが認識する間もなく、事態は急転する。

さつきの目の前の扉が崩れ落ちる。それはまるで、何かで斜めに斬り崩された様で。

「え!?」

「はあっ!」

次の瞬間、そこから飛び出してきた少女に、さつきは逆袈裟に斬りかかられた。

「きゃっ!?」

だが、それを直前に察知したさつきは、急いで斬りかかられた方とは逆に……左手の方向に体を蹴る。
手を顔の前で交差させていたり、顔を背けたりはしているが、それでも硬直しなかったのは今まで何度も代行者の攻撃を臆さず殴り飛ばしていたからだろう。

だが、いきなりだった事もあり結構思いっきり跳躍したさつきは、直後バランスを崩す。
マンションの床に足が着いたと同時、さつきは強引に体を前に倒し、片膝を着き、片手を着いてスピードを殺した。同時に、前を睨む。

さつきの視線の先には、先程いきなり自分に斬りかかってきた少女がいた。距離にしておよそ9~10メートル。
薄手、というにも行き過ぎな格好で、マントを羽織り、手には死神の鎌の様な杖を持つ、漆黒の少女。
その少女は、驚きで目を見開いていた。バランスを崩している間に追撃が来なかったのは、どうやらまさか躱されるとは思ってなかったからのようだ。
さつきが構えているのを見て取った少女は、気を取り直して油断無くその手の杖を構えた。

その目を見て、さつきは体を強ばらせる。

(深紅の瞳――魔眼!?)

悟ると同時、さつきは飲まれない様に自分も吸血鬼の目を使用する。だが、本当はそんなことする必要は無かった。何故なら、それは"魔眼などでは無かった"のだから。
結果、少女の方がさつきの魔眼に飲まれ、身動きが取れなくなってしまう。
別にさつきが何かの命令を送った訳では無い。吸血鬼等の人外の魔眼は、魔術回路やそれに対する耐性を持たない人間など目を合わせただけでそれに飲まれてしまう程の威力を持つ。
威圧感に萎縮する様な感じなので、心の持ちようでどうにでもなるのだが。

その少女の様子に、さつきは違和感を覚えた。

(魔眼に当てられた? って事は、この子魔眼持ちでも無く魔術師でも無く……)

見ると、こっち側よりもなのは側と言った方が納得出来るような格好でもある。さつきがそこまで納得しかけた時、

「うおおおぉぉぉおおぉお!」

少女の頭上を飛び越えて、一匹のオレンジ色の狼がさつきに飛びかかってきた。

(……え?)

その奇怪な生物に、さつきは一瞬反応が遅れ、気を取り直した時には既に狼は目の前。

(くっ!)

だが、それでもまだ自分ののスピードなら躱せる。そう判断し、直ぐにバックステップで距離を取ろうとするさつきであったが……

「え!? 嘘っ!」

ここでまたバランスを崩してしまった。

さて、ここで物理のお勉強をしよう。物体と物体には、静止摩擦係数、動摩擦係数と言う物がある。
それらの値はそれぞれの物体によって異なり、上に位置する物の質量と併せて摩擦によって生まれるエネルギー量を計算出来る。
摩擦とは、物体Aが他の物体Bを擦った時に物体Aに返ってくるエネルギーであり、摩擦係数が少ないとその返ってくるエネルギー量も少ない。
まあ、理屈で説明するよりも、感覚で理解した方が早いだろう。要は、ゴムの上で鉄板をスライドさせるのと、氷の上で鉄板をスライドさせるの、どっちが手に力がかかるかという問題である。
そして、ここでもう一つ問題が存在する。まあ、簡単に言えば、この返ってくるエネルギー量、それぞれの物体同士毎に上限があるのだ。

そしてそして、これが一番の問題なのだが、さつきのスピードは、目の前の少女やなのはみたいに魔法の力で体を空中で動かすものではなく、"純然たる身体能力によるもの"だということだ。
つまり、さつきは足の裏(靴)で地面(床)を擦り、その返ってきたエネルギーで移動しているという事になる。
何もおかしな事では無い。体重移動やら何やらの問題もあるが、普通にみんなが歩く、走る、前方、後方に飛ぶ等の時に行っている事だ。
ただ、普通の人間なら、これで返ってくるエネルギーが"摩擦力の上限を超えることは無い"。

だが、今回さつきが期待した自分の体に返ってくるエネルギー量は、これを上回っていたのだ。木の上やアスファルト上ならともかく、今さつきがいるのは綺麗に掃除された高級マンションの廊下。
そして、返って来たエネルギーが期待していたエネルギー量よりも少なく、なおかつその分のエネルギーはさつきから見て前方に逃げるとすれば……当然、バランスを崩す。
まあ、少々大げさだが、氷の上でバックステップしようとした。みたいな物だと考えて欲しい。原理は同じだ。

先程少女から距離を取ったときに"9~10メートルしか"跳べなかったのも、その時にバランスを崩したのも、さつきはいきなりだったからだと思っていたがこれが原因である。
まあ、様は………

(ここの廊下ツルツル過ぎるーーー!)

こういう事である。
まあ、何度も言うが、"普通の力なら"何の問題も無いので、マンション側に責任は無い。

さて、バックステップしようとしてバランスを崩すとどうなるか。
当然、背中から床に倒れる。しかも、そうなったさつきの前には飛びかかってきたオレンジ狼。必然、避けられる筈も無く、さつきの両腕はその狼の前足で押さえられてしまう。

「くぅ……」

呻くさつき。実際、この程度なら力ずくで抜け出せる。だがさつきはそれをせず、思わず目をつぶってしまった瞬間に魔眼を隠した。
だが、それも次の瞬間にはまた唖然とした表情になる。

「あんた、フェイトに何をした!」

何と、狼が喋った。

(……えーっと、最近、喋る動物が流行ってるのかな?)

何かもう色々と疲れた様な気がするさつきだったが、気を取り直すと今の状況を整理し始めた。





「アルフ、そのまま押さえておいて」

さつきの目から解放され、動ける様になったフェイトがアルフに……いや、その下に組み伏せられている少女に近づきながら言った。

「フェイト、大丈夫なのかい!?」

そのフェイト声に、アルフは少し焦った様な声で返す。その目はずっと魔導師を睨み付けている。

「うん、大丈夫」

そうは言いつつもフェイトは先程の現象について頭を悩ませていた。

「嘘をお言い! アタシはあんたの使い魔だ。アタシのご主人様の事は、ラインを通じて少しだけだけど分かる! 何だったんだいさっきのは……」

そう、アレは一体何だったのか。フェイトもアルフも、それが気になっていた。

(目を合わせた瞬間、体が動かなくなった。まるで、強大な何かを前にしたみたいに、体が言うことを聞かなくなった……)

それは所謂気のせいというやつなのだが、そんな事を知らないフェイトやアルフは少女を警戒し続ける。

《取り敢えず、質問は私がするから、アルフは極力目を合わせない様にして》

《分かった》

やがてフェイトはアルフの隣に来ると、少女の眼前に刃を仕舞った己のデバイス――バルディッシュを突きつけた。

「何者だ」

「えーっと、ただの通りすがりの……」

そのふざけた答えに、アルフが唸り声を上げる。それを念話で宥めて、フェイトは質問を続ける。アルフは低く唸り続けていた。

「嘘を付くな。ジュエルシードの関係者だということは分かっている」

フェイトはバルディッシュの先に、魔力を集中させる。それはフェイトの魔力変換資質によって自然と視認出来るほどの電気となる。

「……答えたら、どうするの?」

「持っているジュエルシード、全て置いていってもらう」

「……残念ながら、わたしは1つもジュエルシードは持ってないよ」

その返答にフェイトは眉を潜めながらも、探査魔法を使い少女の体を調べる。成る程確かに、ジュエルシードは持って無かった。
だが、その結果にフェイトは更に眉を潜める。目の前の少女は、ジュエルシードどころかデバイスさえも持って無かった。

「……そう。なら、質問を変える。何故私達がここに居ると知っていた。私達の何を知っている。そして、もう一度聞く……何者だ」

これだけは聞き出さなくてはならない。何も知らないまま目の前の少女を野放しにしておくのは、危険すぎるとフェイトは判断した。
だが、少女はその質問に溜息を吐くと、

「…………あなたたちの事は何も知らないし、ここに居るのがあなたたちだと言うことも知らなかった……よっ!」

言い、アルフの腹の下にあった両足を曲げ、勢いよくアルフの腹を蹴り上げた。

「ギャンッ!」

「アルフっ!」

たかが少女の蹴りで、自分を挟んで少女の向こう側まで吹っ飛んでいったアルフに、敵の目の前だと言うのにフェイトの目はそちらに奪われてしまった。
フェイトが気付いた時には、少女は自分の懐の中。

「しまっ」

「それっ」

何とも戦闘中とも思えないかけ声と共に繰り出される少女の拳。それがフェイトの腹部に突き刺さる。
だが。

「くっ」

突き刺さっただけだった。それなりの衝撃に呻いてしまったフェイトだったが、ダメージらしいダメージは無い。

「えっ、嘘……」

そんな少女の台詞を尻目に、フェイトはバルディッシュを振るった。
鎌は出して居ない。この狭い空間では、そんなもの邪魔なだけだ。
だが、その一撃さえも少女は屈んで躱し、バックステップで距離を取った。

「もしかして、その服にも何らかの防御機能があったりするの……?」

顔を片手で覆って俯く少女。少女の言葉に疑問を抱きながらも、フェイトはバルディッシュを構える。
少女の方も、特に気負った風も無くフェイトの方を向いた。次の瞬間、フェイトは今度こそ確実に取ったと思った。何故なら……

「はあああぁぁぁあぁっ!」

少女の背後に、復活したアルフが飛びかかっていたからである。
それに直前に気付いた少女は背後を見るが、もう間に合わない。あの体勢から迎撃なんて、出来る筈も無い。

「それっ!」

だが、

「なっ!」「ギャンッ!」

目の前の少女は、それをやってのけた。やったことは簡単。体を回転させながら腕を振るっただけ。それでアルフの胸の部分を殴っただけ。
本来なら殆ど力の入らない体勢のそれは、アルフを吹っ飛ばし……ぶつかったマンションの壁を半壊させた。

「アルフーーーー!!」

フェイトの絶叫が響く。アルフは床に落ちてグッタリとしている。

「ふぇ、フェイ……ト……」

「アルフっ!」

何とかと言った感じで声を絞り出したアルフに、フェイトはホッとする。そして、少女を睨み付けた。
対して少女は、

「……で、こっちにはそういうの無い訳ね……ゴメンなさい。この子大丈夫?」

等と言っていた。
それで、フェイトの頭の中で何かが切れた。

「はあぁああぁぁあぁあっ!」

感情のままにバルディッシュで殴りかかるフェイト。
少女はそれを、左腕で受け止められる。

「きゃっ!」

だが、バルディッシュには電気をまとわせてある。少女はその電撃に悲鳴を上げた。
だが、直ぐに少女もフェイトを睨むと右手でアッパー気味に殴り掛かった。
それをシールドで防ぐフェイト。だが、少女の右手はそのシールドさえも突き破ってフェイトに迫る。
それに驚愕したフェイトは咄嗟にバルディッシュを盾にするも、それでもかなりの衝撃が体を襲い、かなりの距離を吹っ飛ばされる。バリアジャケット越しだったにもかかわらず、腕が痺れて上手く動かない。
先程の拳とは質が違った。

(何てパワー。この狭い空間であの力は驚異だ……)

それに、こんな狭い所では自分の持ち味を生かせない。
フェイトがその事を冷静に考え、どうしようかと逡巡していると、突然目の前の少女が身を翻して掛けだした。

「なっ」

それに驚き、また、何をするのかとも思う。何故なら、その先にあるのは何も無いガラス。その向こうは既にマンションの外、つまりは行き止まりだ。

「フォトンランサー、ファイア!」

デバイスも持たない人間が、何を出来る訳でも無い。そう思って困惑したフェイトだったが、何をするでも、このまま見ている手は無い。
そう思い、フェイトは自分の射撃魔法を打つ。打ち出されるは雷の刃。迎撃するは……少女の拳!?

「なぁっ!?」

何と、体を反転させた少女は、フェイトのフォトンランサーを全て"素手で殴った"のだ。殴られたランサーは、有らぬ方向へ飛んでいく。
あれがデバイスで叩き落としたのならまだ話は分かるが、素手で出来ることじゃ無い。
非常識な光景に言葉を失うフェイトだったが、次の瞬間彼女は真面目に硬直した。
何と、少女はガラスを(強化ガラス)突き破って外に――空中に身を投げ出したのだ。

「何をやってっ!」

数秒の硬直の後、フェイトは急いで後を追う。直ぐにマンションの外に出て下を見るとそこには落下していく人影が。
一体何階だと思っているのか。例え魔導師だとしても、デバイス無しにこんな所から飛び降りて、無事でいられる筈も無い。

「くっ!」

《Blitz Action》

間に合うか……フェイトは己の高速移動魔法を使用しながら、落下する少女を追いかけた。

結果は…………………………間に合わず。

「っ!」

フェイトの目の前で、少女は地面に叩き付けられた。バリアジャケットでも着ていればまだ話は別だろうが、彼女はそんなもの着ていなかった。
思わず背けた目を、恐る恐る戻して……

「え? ちょっ!!?」

再度、非常識な光景に目を疑った。何と、つぶれたと思った少女が元気に走っているでは無いか。しかも、自身のブリッツアクションとまでは行かずとも明らかに人外の速度で。

(え? え? ええっ!?)

ブリッツアクションを使えばまだ追いついただろうが、今のフェイトにはそんな余裕は無かった。
だが、困惑し、混乱し、もう何が何だか分からなくなってきたフェイトの目の前で、再度非常識な光景が展開される。

フェイトの視線の先で、少女が結界の境目にたどり着く。そしてその拳を振り上げると……

(!? !!? !!!? !!!!!!!!!?)

結界を殴った。そう、少女がやったのはそれだけ。その拳の威力で、結界全体が震えた。結界に罅が入った。結界が崩れ去った。

「あ、あり得ない……」

しばし呆然とするフェイトだったが、ふと気を取り直して周りを見回たしても、いつの間にか少女は消えていた。
それが、フェイトと"生きる理不尽"と呼ばれる吸血鬼とのファーストコンタクトであった。



その後、フェイト達はアルフがある程度回復し次第拠点を変えた。







あとがき

いや、全然長くなかったね。むしろ前に戻ってるね。痛いイタイごめんなさい。

いやぁ、旅行の予定とかスキー合宿とかすっかり忘れていたぜい。そしてスキー合宿でちょっとやらかしちゃって家で肩身が狭くてなかなかパソコン占領出来なくて……orz
同じ学校通ってるやついたらもうこれだけで僕の正体分かるんじゃなかろうか。いや、麻雀やってた4人組の誰かさんだけど。

いや、こっからさっちんパート書いてこうと思ったんですが、もう更新期間がヤヴァイので一区切り。
次回。さっちんがどの様な思考でここを乗り切ったのかから始まります。勿論、フェイトとなのは会います……多分。そしてすっかり忘れている人も多いだろう月村サイドも少しでます。
…………フェイトとなのは会うとこまで行けるかなぁ……;;;

ところで、摩擦のとこ、あれで会ってますよね? 何か自信無くなってきた件について。
あと、第6話ですが、遠野くん臭出し過ぎてたので修正入れました。いやぁ、読み返してみてあれはやりすぎ……てはないけど偏ってたなと。
さっちんって、ヤンデレ一歩手前ってイメージあるんですよね^^;;

p.s. 月姫7巻やっと出てきたと思ったらアッーーーがあって吹いた。
  そして魔箱で本家復活おめでとうなるものを見たのですが、もしかして月姫リメイク版もう出てたり……? さっちんルートは有るのだろうか?
  情報に疎いデモアでした。


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