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No.1259の一覧
[0] 猫使い[ide](2005/04/02 00:22)
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[1259] 猫使い
Name: ide
Date: 2005/04/02 00:22
プロローグ

「おめでとうございます、これで貴方も一人前の冒険者ですよ」

パチパチと手を叩きながら目の前の受付から冒険者証明書を受け取る。

「やっとこれで俺も一人前の冒険者か‥‥長かった‥‥」

何処か遠い眼をしてため息を吐くマスター。感無量と言う奴なのだろう。

「あのぅ、所で一つだけ不明な点があるのですが‥‥」

そんなマスターにおずおずと申し訳なさそうに受付嬢が話しかける。

「はい、何でしょう?」

きょとんと小首を傾げるマスター、受付嬢の顔が少し赤くなったがいつものことだ。

「この職業欄の所なのですが‥‥‥‥」

「はい、何か不備が?」

受付嬢の言いたいことがわからないのか眉根を寄せるマスター。

「いえ‥‥‥‥この”猫使い”って‥‥」

「?駄目ですか?」

普通は駄目とかそれ以前の問題なのだがマスターは疑問を最初から感じていないようだ。

「いえ、そういう訳ではないんですが、これって通常職業ではないですよね?申請はなされてるんですか?」

「はい、してますよ」

マスターは何でもないように言うが受付嬢は目を軽く見開く。

通常職業以外の職業を名乗る場合はそれ以上の実力が必要だからだ。

要はマスターが同じレベルの”戦士”と戦った場合”猫使い”のマスターが勝つという事だ。

「そ、それなら問題ないです、すいません初めて見た職業なもので‥‥‥」

申し訳なさそうに頬を掻く受付嬢、と言うかマスター意外に猫使いがいたら正気を疑う。

「いえ、珍しい職業ですから」

ニコッと微笑むマスター、珍しい以前にマスターだけだと心の中で突っ込む。

「それでは、ディース・紅葉(もみじ)職業”猫使い”レベル15、冒険者コード20344、確かに承りました」


ポカポカと気持ちのいい陽気の中、マスターのローブの中で私は軽く欠伸をした。

私の名はクロ、名前の通り黒い毛並みなのでマスターがそう名付けてくれた。

マスターの猫達の中では割と新人の方だと思う。

「クロ?どうした、外に出たいか?」

私がローブの中で軽く動いたのを感じたのかマスターが問いかける。

ちなみにこのローブ、常時10匹の猫を収容しており半端じゃない重さの上に見た目が頂けない。

何せマスターの体全体を覆いつくす真っ黒なローブだ、魔法使いでも今頃こんなローブを使わない。

『いえ、しかしこれでマスターも一人前の冒険者を名乗れるのですね、クロは嬉しいです』

「そうだな、これでちゃんとしたギルドからの依頼を受けれるからまともな飯が食えるしな」

そう言った意味で言ったのでは無いのだが‥‥‥。

『それでこれからどうするのですか?家でシロ達も待っていますし帰られますか?』

家で待っている双子の妹の姿を思い浮かべる、マスターがいなくてそうとうに荒れているに違いない。

「そうだなぁ」

軽く欠伸をしながら空を煽るマスター、そよそよとタンポポが風になびく。

『マスター?』

一向に返事の返ってこないマスターに訝しげに問いかける。

「クロ、動くなよ」

短くそう呟くと同時に急にマスターが走り出す。

何となくいつも厄介ごとに巻き込まれるパターンだと私と他の猫達は軽くローブの中でため息をはいた。
「はぁはぁはぁはぁ」

息を切らせながら後ろを振り向く、大柄な男が憤怒の表情で追ってくるのが分かる。

「こらぁぁああ!待ちやがれーーーーー!!」

何か怒声が聞こえるが待てといわれて待つ人間はこの世にいないのでは?と間抜けな事を考えたりする。

「何で追ってくるんですかぁああああああああ!!」

とりあえず礼儀としてこちらも叫んでみる。あー、息苦しい。

「オマエが俺の財布を盗んだからだぁああああああああああ!!」

何だか涙やら鼻水を全開で追ってくる男を少し哀れに思いながらとりあえず返答。

「ちゃんと財布は返しましたぁあああああ!ただし中の銀貨は全部頂きましけどーーーー!!」

「それが一番重要なんじゃボケぇええええええええええええええ!!」

たった銀貨5枚で五月蝿い人だ、魔法使いである自分の研究費になるんだからありがたく思って欲しい。

「しつこい男は奥さんに逃げられますよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「妻に3日前に逃げられて残った全財産がそれなんじゃああああああああああああ!!」

何だか心の傷をついてしまったようで男がさらに加速する。

「しつこいですね、これでも食らいなさい!!」

とりあえずいい加減に追いかけっこにも飽きたので口の中で軽く呪文を唱える。

『イメージは赤、火のイメージ』

レベルの低い魔法使いはまず色を思い浮かべてそこから火をイメージする。

と言う事で私はレベルの低い魔法使い。だが後ろを追ってくる名も知らぬオジサン一人撃退するぐらいの力はある。

さよならオジサン、恨むなら銀貨をたった5枚しか残してくれなかった奥さんを恨んでください。

「さよなら」

冷徹に呟いて後ろから追ってくるオジサンに呪文を解き放ってやる。

最初は火の粉程度しかなかった物が大気中のエーテルを”意思”の下に貪欲に食らい焚き火程度の炎になる。

「うわぁああああああああああ!?」

驚きの声を上げるオジサン、まあ、軽い火傷かその立派な髭が燃えるくらいでしょう。

髪の毛は既に無いですから安心ですね♪

「素人に呪文を放つとは関心しないな」

「へっ?」

突然後ろから聞こえた鋭い声に私は驚きの声を上げる。

パシュ

「助かったクロ」

『そこの子供の魔力の練り方があまりにも未熟だったので、小バエを落とすほうがまだ疲れますね』

とりあえず後ろから聞こえる自分を卑下する言葉にカチンと来る。

「な、なんですって! いくらなんでもそこまで!」

逃げる足を止める、ここまで馬鹿にされて何もしないなんて私の流儀に反する。

『とりあえず眠れ』

振り向いた私が見たのは全身真っ黒な子猫が私の顔に飛びついてくる姿だった。
「ご苦労、クロ」

魔法が迫ってくる恐怖で腰が抜けたご老人を開放しながらマスターが私の頭を軽く撫でる。

『いえ、この少女が思ったより魔法体性が無いので簡単に”落とせました”』

「ね、猫が喋ってる‥‥‥‥」

ご老人は私が喋っているのを見て眼を見開く、誰でも”私達”を見たときにする普通のリアクションだ。

「クロ、おいで」

マスターが苦笑をしながら私をローブの中に戻す、これ以上話が厄介になるのを避けたいのだろう。

「い、今、猫が喋ってたよな?」

「気のせいです」

「い、いや確かに「気のせいです」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「気のせいでよろしいですよね?」

「う、うむ」

何だか外の光景が安易に想像できる、マスターも相変わらず強引な会話をなさる。

「とりあえず‥‥‥っと」

ゴソゴソと少女の体を漁るマスター、一見するとマスターが怪しい人‥‥いや、格好からして既に怪しいが‥。

「お、おいあんた‥‥‥」

「これがこの子の盗んだ銀貨ですよね?はい」

「あ、あぁ、って良くこの子が銀貨を盗んだってわかったな」

「あんなに大きな声で走ってたら誰でもわかりますよ」

「そ、そうか‥‥」

そうして暫く話をしてご老人は手を振りながら去っていった。

「さて、この子‥‥‥どうするかな」

私の能力でまだ眠っている少女を見てマスターは思案顔になる。

『とりあえず一度家に連れて帰ろうよ、みんなも待ってるだろうし』

私たちの中で一番知恵の働く”水”(すい)がそう助言する。

「そうだな、また明日考えるか」

眠った少女をやれやれと持ち上げるマスター。

これがマスターの人生を左右する大事件になろうとは誰も思わなかった。

ちなみにマスター、それはお姫様抱っこなので普通の顔でしないでください。


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