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No.12496の一覧
[0] Muv-Luv Initiative (オリ主転生→BETA大戦世界) [still breathing][Caliz](2020/03/25 01:32)
[1] 第一部 第零話 ─二度目の人生─[Caliz](2012/06/01 19:10)
[2] 第一話 ─平和な日常─[Caliz](2011/11/26 18:02)
[3] 第二話 ─未知との遭遇─[Caliz](2011/07/21 07:12)
[4] 第三話 ─熟考する転生者─[Caliz](2011/07/23 04:07)
[5] 第四話 ─動き始める世界─[Caliz](2011/11/27 07:49)
[6] 第五話 ─それぞれの誕生日─ 前編[Caliz](2011/11/26 16:09)
[7] 第六話 ─それぞれの誕生日─ 中編[Caliz](2011/11/26 16:48)
[8] 第七話 ─それぞれの誕生日─ 後編[Caliz](2011/11/26 17:09)
[9] 第八話 ─Encounter─ 前編[Caliz](2011/11/26 17:11)
[10] 第九話 ─Encounter─ 中編[Caliz](2011/11/26 17:32)
[11] 第十話 ─Encounter─ 後編[Caliz](2012/07/09 09:14)
[12] 第二部 第零話 ─海の向こう─[Caliz](2012/07/09 10:14)
[13] 第一話 ─集いの兆し─[Caliz](2012/06/17 10:07)
[14] 第二話 ─TAO─ √I_R_G[caliz](2020/03/22 06:22)
[15] 第三話 ─大陸からのエトランゼ─[Caliz](2020/03/22 06:22)
[16] 第四話 ─因果連鎖─[Caliz](2020/03/22 06:20)
[17] 第五話 ─6/7─ 前編[Caliz](2020/03/22 05:57)
[18] 第六話 ─6/7─ 中編[Caliz](2020/03/22 11:24)
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[12496] 第八話 ─Encounter─ 前編
Name: Caliz◆9df7376e ID:097c81e2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/26 17:11
 霧山 霧斗はげんなりしていた。

「そこ行く少年、少し時間を取らせてもらっていいかな?」

 研究所から帰宅している途中、唐突に声を掛けてきた露骨に怪しい人物。
 怪しそうな帽子を被り、怪しそうなコートを羽織っている。
 もはや存在そのものが怪しかった。

「すみません、見知らぬ怪しい人には付いて行かないようにと厳しく両親に言われているので」

 霧斗は怪しい人をバッサリと切り捨て、この場から立ち去ろうとした。

「……いやはや、話には聞いていたが。子供らしからぬ切り返し。まるで大人と喋っているようだ」

 その言葉が、霧斗を引き止めた。
 ───話には聞いていたが?
 目の前の人物は自分について誰かから、何かを知らされているということか?

「それと、私は怪しい者ではない───"微妙"に怪しい者だ」

 その言葉を聞いた瞬間、霧斗の脳裏で何かが結びついた。
 いつかどこかで、この名乗りを聞いたことがあったような気がしたのだ。

「───貴方は」

「名乗る必要はないよ。私はただのメッセンジャーだからね……仕事のついでにこれを、とある人物から渡すように頼まれたのだよ」

 言葉を遮られ、一つの封筒を手渡される。
 真剣味を帯びたその表情と言葉に圧され、なすがままに受け取らされたそれを訝しげに睨む。
 そして詳細な説明を要求しようと視線を自称:微妙に怪しい者に向けたとき……既にその姿は消えていた。

「……今の、もしかして───」





 






 その後、霧斗は急いで帰宅し、自室にて険しい表情でモニターを眺めながらキーボードを叩いていた。
 
「───ふぅ。お約束に違わず、鍵がかかってる訳だ」

 外付けのスピーカーから流れ響くのは、霧斗にとって前世で馴染み深かった拒絶音。
 画面にはエラーの文字。古式ゆかしいパスワードロックが、霧斗の前に立ちはだかった。
 溜息を吐き、ラップトップPCからデータディスクを取り出すと目の前に掲げる。

「あのコート着た人……鎧衣左近さん、だったよな」

 帰宅直前に接触してきた一人の自称:微妙に怪しいメッセンジャー。
 今頃正体に気づいたのには理由がある。驚愕が大きすぎたというのもあるが、何よりも容姿や声の若々しさが認識を妨げた。
 彼の知る鎧衣左近は今から10年も未来の姿、声だ。驚きに飲まれていた思考で即座にその差異を感じ取り、特定の個人へと結びつけるには無理があった。
 研究所室長である祖父でもなく、極秘計画の核となる香月夕呼でもなく、世間的にはなんら特筆すべき役職に就いていない、ただ無駄に聡いだけの子供に過ぎない己に接触してくるという完全な不意打ちだったということもある。
 霧斗には、切り札である『G弾否定論』が未完成であるが故に出回ってすらいないこの状況で、自分に接触してくるという発想すらなかったのだから。

 霧斗は考える。
 一体誰が、何の目的で、帝国情報省所属の人間まで動かしてこのディスクを譲渡してきたのかと。

「……きな臭いんだよな……直接手渡しにきた癖に、ロックが掛かってるときてる……」

 呟くと、ディスクが入っていた封筒にヒントになりそうなものが入っていないかと考え、中身をひっくり返し始める。
 彼は内心、気が気ではなかった。知的好奇心がどうしようもなく疼いてしまう。
 ディスクの中には魑魅魍魎が跋扈しているのではないかと空想してしまうほどに。
 一体何が記されているのか。それを突き止めるためにも、切欠を見つけてパスしなくてはならない。

「わざわざ使いまで寄越してきたんだ。流石にノーヒントなんてことは……?」

 封筒から小さく折りたたまれた紙切れが零れ落ちる。

 ───ビンゴか?

 そう思った霧斗は手を伸ばし拾い上げ、ソレを開いた。












 
 ――それは、語られなかった他なる結末。

       とてもちいさな、とてもおおきな、とてもたいせつな、

                     あいとゆうきのおとぎばなし――














「─────────ッ!?」






 ガタン、と膝からずり落ちたラップトップPCが音を立てて床へ激突した。
 だがそんな些細な事は、自分が勢い良く立ち上がったことにすら気づいてない霧斗には認識の外の出来事でしかなかった。
 彼はただひたすらに、三行に渡る文字の羅列を睨みつけている。
 額には汗が滲み、目を大きく見開き瞬きすらせず、視線は縫い付けられたかのように微動だにしない。

 驚愕は当然だった。
 彼はこの瞬間、この世界で自分しか知らないはずのフレーズを、目の前に叩き付けられたのだから。

 数秒の後、理性を取り戻した霧斗の行動は迅速だった。
 深呼吸すると頬を両手で強く叩き、ずり落ちたラップトップPCを再び膝に乗せ、データディスクをインサートする。
 
 そして一つの物語、その題名を叩き込んだ。

 ───『 muv-luv 』───

 エラーは吐き出されない。画面が切り替わる。
 霧斗はデータディスクの閲覧権を、意図も簡単に手に入れていた。

「……茶番だ───ッ!」

 フレーズが書き綴られた紙を裂き、握り潰し、無茶苦茶に丸め、ゴミ箱へかなぐり捨てる。
 それは紛う事無き茶番だった。底の浅い芝居に付き合わされたと、霧斗は憤慨する。
 パスワードも、それを連想させるヒントも……彼、霧山 霧斗という極めて異常なその存在を理解出来ていないと意味を成さないモノだった。
 つまり、これの差出人はこう言いたかったのだ。


『私は君と同類であり、また君の全てを知り、そして───君よりも上の立場である』と。


「……歴史は勝手に捻じ曲がったんじゃない。明確な意志によって捻じ曲げられたんだ……」

 霧斗の中で今まで『If』だと思っていた……『If』だと思い込んでいた事象群が頭の中で繋がり、結合していく。

 そして彼は確信した。

 到底信じられることではないが、いる。
 信じる信じないではなく、現実に『在る』。
 『自分』以外に、『自分と同じようなヤツ』が。
 目下最大の『不安要素』が、帝国の上の方に食い込むように存在していると。
 そして───それに気付くのが遅すぎたのだ、と。
 余裕綽々と向こうから接触し、そして塩を送ってくる程にはイニシアチブを握られていた。
 疑いようのない事実として、変化を望み、そして実行に移した人間がいるのだ。
 それも相当手強い地位に。

「……ッ……けど、一先ずそれは置いておこう……先ずはディスクの中身からだ」

 霧斗は思考を切り替え、送られてきた情報に目を通すことにした。
 一体どのような情報が綴られているのか。『主犯』について考えるのは、それからでも遅くはないと霧斗は考えた。
 しかし───。

「……これは」

 データディスクの中に詰まっていたのは18人の個人情報と、とある港の地図。それだけだった。
 だが、その情報量は膨大だ。
 個人情報の方はもはや報告書と読んで差し支えないレベルで所々に注釈がなされている。

「僕の名前もあるな。画像まで完備か……全く、何時の間に……ッ?載ってるのは子供ばかり?」

 そこには、あどけない少年少女の画像が連なっていた。
 個人差はあれど全員が小学校上がりたてとしか思えない程幼い。
 しかしどこか知性的な印象を孕んだ写真が大半だった。子供特有の無邪気で天真爛漫な様子が見えない。
 違和感を覚えながらも、霧斗はリストアップされた18人の個人情報を読み取っていく。

「───なっ」

 何かに気づくと、机の引き出しから一枚の紙を取り出す。
 そこには、霧斗が研究室への出入りを何とか認めてもらう代わりに、室長である祖父から要求された資格があった。
 本来ならばその資格を所持していたところで到底足りるものではない。
 親の七光りを頼った。誠意を見せる為に他の研究者達への無償奉仕すら約束した。
 そこまでやって漸く、非公式の入室を許可されたのだ。
 ……その始まりの証が彼の持つ、高等学校卒業程度認定試験の合格通知書。

 ───リストに載っている人物全員が、これに受かっていた。

「……在り得るのか、こんなことが……」

 高認自体の合格率というのは、そこまで現実離れして低い数値ではない。
 受験者全体から見れば、合格者もそこそこにいる。
 だが、リストに掲載されている18人───その全てが、受験年齢の下限ギリギリの6歳というのはどういうことか。
 霧斗は戦慄しながらも18人の生年月日を間違えることのないよう、しっかりと再確認していく。

「……僕の誕生日は、1983年12月16日」

 そしてそれは、18人全員に共通する点だった。
 リストに載っている人物全員が霧斗と同じ日に生まれ落ち、最低年齢で高認を受験し、これを突破していた。
 
「……なるほど。二人目がいるなら、それ以上増えてもおかしくない、か……」

 霧斗は、この期に及んで自分を除く彼ら17人が、ただの『偶然同じ日に生まれ落ちた常軌を逸している天才達』であるという考えは醜いと判断し、破棄した。
 偶然は重複しすぎると必然となる。彼らは全員、自分と同じ存在だと考えるほうが自然なことだった。
 ───何とも不自然極まりないことだが、と思わず霧斗は苦笑してしまう。

「18人+α……少なくとも、後一人は間違いなくいる。リストアップされた面子は平凡な家庭の生まればかりだ……鎧衣さんのような人を動かせるような影響力は持ち得ない」

 家柄や家族構成等の情報から全員が白と判断すると、今後どれだけ増えるかな、と参ったように呟く。
 国内だけでこれなのだ。調査漏れもあるかもしれない。海外については……もはや考えたくもない、といった表情を霧斗は浮かべた。
 少なくともこの18人は自分が伸し上がる為、高認資格の存在を逸早く察知し、行動し、掴み取った───この世界で言うところの『より良い未来の選択』とやらを出来た人間ということになるのだろうか。

「……全く、誕生日も意味深じゃないか。全員が白銀 武と同じ日に生まれたなんて……」

 霧斗は自分の生まれた立場、そして己の誕生日が『白銀 武』の誕生日と一致していると気付いた時───ある種の覚悟をした。
 知らぬ間にお伽噺の舞台に放り込まれ、否が応でも行動を起こさなければいけないという状況に陥っていた。
 そして、それに追い打ちをかけるような運命的すぎる生い立ち。物語の中心人物と全く同じ瞬間に生まれ落ちたこの身、この存在。
 ただ時が経つだけで、魔女───香月夕呼と何の障害もなく接触が可能であるという都合のいい『霧山 霧斗』という器。
 そう……個人の意志を超越した次元で、戦う条件も、戦う理由も、初めから整えられていた。
 だから、きっとこれから自分一人で……たった一人で、何とか大団円を迎えるために戦わなければいけないのだろう。

 そう思った。

 だがまさに今この瞬間、想定以上に荒唐無稽な難事に巻き込まれていることに気づいてしまった。
 霧斗はリストアップされている面子の全員が思い思い好き勝手に動き回る状況を想像し、頭を抱えこんだ。
 彼ら全員に自分と同じく未来知識があると仮定すると、個々で勝手に動き出すのでは、という想定は強ち外れてはいなかった。
 だが───。

「───リストに載っている彼らも、そして僕も……早々に封殺される形になった」

 霧斗は自分が嫌な汗をかいているのを初めて自覚した。
 ……とんでもない人物が一人、存在していた。
 共通点から考えれば、御多分に漏れず同い年だろう、と霧斗は想定する。
 そう、今の時点で"まだ"7歳なのだ。

「どんな魔法を使った?何をしたんだ?一体、何をどうすれば───」

 ───TSF-TYPE88/F-16J 彩雲なんてイレギュラーを帝国に導くことが出来るのか。

 何時から行動に出ていたのか。
 どうやって周りの権力を持つ者達に、短期間で幼い己を認めさせたのか。
 そして今現在、どれほどの力を持ち、どのような立場に在るのか。
 悪い方にばかり思考が傾いていく。

「……最悪の状況も考慮すべきか」

 霧斗の言う最悪。
 それは即ち、件の人物が目指す未来と、正史である未来との絶望的なまでの乖離。
 既に敷かれているレールを壊すことを前提とし、歴史の針を進めようとしている可能性。
 未来を変えるということに何ら恐れを抱かない強者か、或いは……狂者か。

 そんな得体の知れない人物に、霧斗は目をつけられている。

 思考の傍ら個人情報とは別のもう一つのデータに、霧斗は目を奪われていた。
 港の地図。それは首都に置かれる舞鶴港のものだった。
 軍港区画の、それも一般人は立ち入りを禁止されている場所まで詳細に描かれ、先程の個人情報と同等の詳細さで注釈がなされている。
 警備員の配置や、監視カメラの位置と範囲、そしてそれらを掻い潜るように指定された進行ルート。
 そのルートの終点に示されていたのは───。

「───僕との接触を、望んでいる?」

 "大陸派兵の日、一〇〇〇、集合"

 それは、余りにも一方的な『密会』の命令だった。













1991,spling,oneday













「……すげぇ人集りだ」

 港。
 様々な人が集う、陸と海の玄関口。
 ここ舞鶴港もまた、多くの群衆により賑わいを見せていた。
 いや、賑わっているというのは語弊があったか。
 確かに人が集ってはいるが、どこか重苦しい雰囲気が漂っていた。
 ……それも当然か

 今日は、大陸派兵の日。

 帝国の誇る軍人達が、地獄と化した大陸へと赴く。
 其の命を賭して、BETAの侵攻を食い止めるために。
 ───もしかすると、これが今生の別れになるかもしれない。
 送り出す側も送り出される側も、その予感があるのだろう。
 だから、約束の言葉を交わす。
 行ってきますと、行ってらっしゃいと。
 ただいまを言うために、お帰りなさいを言うために。
 彼らは約束を交わす。少しでもその軽い命を重くするために。

「…………」

 俺、不破 衛士は群衆とは離れた場所からただ一人、その崇高な儀式にも似た遣り取りを無言で眺めていた。
 彼らは他人で、俺は見送る側ですらない。
 俺は、ただ両親の都合を自分の目的で利用して引っ付いてきた部外者。
 だからだろうか。自分はあそこに混ざってはいけないと、そう思ってしまった。
 しかし見ているだけでも、胸に込み上げてくるものは確かにある。
 自分が異常な存在であることは自覚しているが、それでもまだ何とか……人間らしい感情はあるみたいだ。
 今はそれが解っただけで良しとしよう。

「行くか」

 見送る家族と、大陸へと向かう兵士達から目を逸らし、周りを見渡す。
 そもそも俺が今ここにいるのは、例のイレギュラーな戦術機を見に来たのだ。
 F-16J、『彩雲』。コイツはまだ九州の方面には配備されていない。
 最寄りの基地の見学に行ったときに確認したから間違いない。
 それもそうだ、と思う。優先順位の問題だった。
 最新鋭機は最も戦場に近い場所に送られる───つまり、大陸派兵の為に集められるのだ。
 だから、首都に置かれる港から出航する大陸派兵軍の本体……今日、この場所に多数配備されている。

 わざわざ首都くんだりまで来たのだ。
 出来れば『彩雲』が動いている所を見ることが出来ればと思っていたのだが───。

「……ぼ、母艦に積込みが完了してる……!?」

 視界に飛び込んできたのは、多数の戦術機母艦から頭だけはみ出した状態の『彩雲』の頭だった。 
 確かに現実に、彩雲は存在している。俺はそれを肉眼で確認した。
 ……こうして、俺の今回の旅行の目的は完了してしまった。
 
「いや、待て、ちょっと待ってくれ……な、何だこの不完全燃焼……」

 ならば、もうこの際、陽炎でもいいんだ。
 とにかく動いている第二世代戦術機を眼にしないと帰るに帰れない。
 動いてる撃震は九州に帰っても見ることは出来る。
 だから遠巻きでもいい、どこかに動いている二世代戦術機は───。

 そこまで考えて戦術機がいそうな場所を探そうとした時、物凄い勢いで背後から何かがぶち当たって来た。

「───つッ!?」

 余りにも突然の衝撃によろめいて尻餅をついてしまう俺。

「っ、失敬。大丈夫かい? ごめんね、今ちょっと急いでい……」

 ぶつかって来たのは俺と同じぐらいの少年だった。
 後ろで無造作に束ねられたボサボサの茶髪を揺らし、謝罪しながら転んだ俺に手を差し伸べてくる。
 
「いや、こちらこそ悪かった。道を塞いでたみたいで───?」

 謝罪を返し、手を握った俺の眼をじっと見つめてくる少年。
 その気怠そうな瞳の奥で、何かが揺らいだ。

「───何だ、僕の他にも呼ばれていたのか。警戒しすぎだったみたいだね……他の連中にも連絡を取って示し合わせて来るべきだったか……で、君はこんな所で何してるんだい?そろそろ時間だ、急ごう」

 えっ。
 誰だ、この人。
 何故そんな、当たり前のように気さくに話しかけてくる。

「……えっと、すみません。どちら様でしょうか? 俺には見覚えがないのですが……」

 とりあえず当たり障りない言葉を選び、お前誰だよ人違いじゃね?と言ってみる。
 きっと友達か兄弟と間違えてるんだろう。そうに違いない。
 俺は人の顔と名前を覚えるのは割と得意なほうだ。今眼の前にいる少年は間違いなく初対面。
 こんなに口達者なガキが知り合いなら忘れようはずもない。
 故に、フレンドリーに急ごう、と言われてはいそうですか、と返すわけにもいかなかった。

「……慎重だね、不破 衛士。好感が持てる。だけど大丈夫だ。僕は君と同じだよ」

 ───正直、反応に困った。

 初対面にも関わらず、知ってる訳もない名前を的中させられた。
 これによって目の前の少年に対する警戒レベルが跳ね上がる。
 しかし、その一方で彼の余りの電波ぶりには目眩すら覚える。違うベクトルでヤバい存在だった。
 警戒レベルが揺れに揺れる。
 タダのキ○ガイなのか、それとも、どこぞの重役の子で俺のことを何がしかの形で知っていた?
 解らない。情報が少なすぎる。

「……ああ、確かに俺は不破 衛士って名前だ。だけど、悪い。君には本当に見覚えがないんだ」

「……礼を欠いたね。不躾だった。僕の名前は、霧山 霧斗だ。どうだい、これでイーブンだろ?」

 まだだ、まだ目の前の人物は勘違いをしている。
 コチラが彼のことを知っているのを前提とした会話だ、これは。
 いきなり名前を的中させられて、警戒して見知らぬ振りをした訳じゃない。
 本当に、コチラには面識がないんだ。
 ───どう対応すればいいんだ、この子。

「っとぉ、こんなことしてる場合じゃない。集合時間に遅れてしまう。ほら、早く立って」

「ちょ、おま!」

 少年───霧山 霧斗は俺の手を引いて立たせると、そのまま俺を連れて走りだした。
 向かう先は───軍港区の一般人立ち入り禁止区域。

「お、おい!ちょっとまて馬鹿!そっから先は一般人立ち入り禁止だ!!」

 全力で踏ん張って引きとめようとする俺。

「は?」

「は?って……ちょっと……もうやだこの子。命を掛けたスパイごっこに興じる趣味は俺にはない、一人でやってくれ」

「いや……ほら、地図にはこっちって書いてるじゃないか……あまり僕を困らせないでくれ」

 くぉぉおおお!
 困ってんのはこっちだ!!
 誰か通訳してくれ!
 俺がコミュ障なのか、コイツがコミュ障なのか、それとも実はどちらもコミュ障なのか、それすら解らなくなってきた。
 地図って何だ!?

 ていうか、お前誰だ!?

「大丈夫だよ、いきなり撃たれる訳ないだろう?向こうさんは、僕らと話し合いをしたくて接触してきたんだから」

「そ、そういうことじゃなくてだな……あーもう……」

 つ、疲れる……ッ。
 この身体になって今まで、これほどまでに精神的に疲れたことがあっただろうか。
 もういっそ、俺も電波をまき散らしてノッてみるか?
 確かにガキを見つけていきなり射殺はないだろうしな……。
 それぐらいの分別も余裕も、警備兵の人達にあるだろう……まだ日本は平和だしな。
 ちょっと説教くらって開放区画まで連れ戻される程度だろう。
 ……少し、乗るか。
 
「そうだな。うん、話し合い、な……で、霧山だっけ。この先には誰が待ってるんだ……?」

「僕にも解らないよ」

 ……わけがわからないよ。
 コイツは誰と戦って……いや、誰と待ち合わせしてるんだよ。
 というか……気付けばもう、一般人立ち入り禁止区域へと踏み入ってる。
 今ならまだ引き返せるが、あと何分か歩いたらヤバい所まで進んでしまうんじゃないのか?
 しかし……何だ?違和感がある。
 警備兵が、見当たらない?

「君は誰が待っていると思う?」

 ……くっ!考え事してる間に厳しい電波が飛んできやがった!
 誰?誰ときたか? か、考えろ、俺。ここから先は軍港区画、その先に待ち人。

「そ、そりゃー……お前……ぐ、軍の関係者以外にありえないだろ?この先は大陸派兵の今日でも一般開放されないぐらいにはセキュリティが高いんだから」

 ここは無難な選択で回答する。
 ガキのスパイごっこにしては使ってる単語が高度すぎる気がするが。

「……そうだね、僕も軍の関係者だと睨んでる。けど、それだけじゃ足りないんだ。僕らと同じ年というハンデがあるのに鎧衣さんと面識を持ち、『彩雲』なんてイレギュラーを帝国にもたらすに至った存在だからね」

 ───待て。何を言っている。鎧衣だと? 彩雲が……"イレギュラー"……?

「だから、僕は斯衛の上の方だと睨んでるよ。幾ら何でも個人がどうこう動いたところで正史に存在しなかった戦術機を誘致するのはやり過ぎだ。けどの幾度の口利きがあれば、不可能という訳でもないだろう。しかし、それだって横の繋がりと、例え飾りであったとしても相応の地位が必要になる」

 ちょっと待て。コイツは。

「だから必然的に高い地位に都合よく転生した人間が動いてるんだと、僕は思う。割とイイ線行ってると思うんだけど───君はどう思うかな?」

 ……お前は、何だ?

「不破君?」

 俺が間違ってたんじゃないか。コイツは電波なんかじゃなく。
 そして、気が狂ってるわけでもない。霧山 霧斗は至って正常なんじゃないか?
 コイツが狂っているというのなら……俺もきっと狂っている。
 ただ俺の情報量が少ないせいで話に付いて行けていないだけで……。
 
 ───だったら。

「すまん、霧山……今更なこと聞くけど、いいか?」

 通告し、ワン・クッション置く。
 これでスベれば、俺が馬鹿みたいに深読みしすぎだったというだけで終わる馬鹿話だ。
 後はここからダッシュで一般解放区域まで逃げ戻ればいい。
 けど───。

「……? どうぞ」 




 これを肯定されれば───。




「お前……転生者か?」




 俺は、この奥に行かなければならないだろう。




「初めに安心してくれと言っただろう。僕は君と同じ転生者だよ」





 肯定。

 何の迷いも振れもなく、霧山 霧斗はコチラの言葉を肯定した。
 その瞳には理性が色濃く反映されている。
 本気だ。少なくとも彼の中では、それが確固たる事実として認識されている。

 ───嘘だろ……俺と同じ存在が……他にも、いる?
 
 なら……コイツが向かおうとしている先に待つのは───。






「……こんなところで、何をしているのですか?約束の時間は既に過ぎています」

 肯定の返事を聞いいた俺に動揺が走った、正にその次の瞬間だった。
 建物の影から、子供用に繕った紅の斯衛服を纏う可憐な少女が姿を現し、霧山に苦言を申し立てた。
 
「霧山 霧斗……どうやら貴方は時間にルーズな人間のようだ。鎧衣様から港に入ったと耳にしたので安心して待機していれば……まさか探しに行くことになるとは思いもしませんでしたよ」

 ───彼女から俺は見えていない。
 間に立つ霧山の影に隠れる形になっていた。

「申し訳ない。迷子を見かけたので一緒に連れて行こうと思ったら中々強情でね。こんな時間になってしまったんだよ」

 少女に振り返りながら返答し、身体を横にずらす霧山。

「迷、子?───貴方は……っ!?」

 俺と視線が重なり、少女の顔に驚愕の相が浮かぶ。

「───何故、ここに居るのです。不破 衛士」

 まただ……また、俺の知らない人間から当たり前のように名前を呼ばれた。
 この斯衛の紅の少女が、待ち人か?

「何故って……彼も僕と同じく呼び出されたんじゃないのかい?」

 俺が口を出す前に、霧山が疑問を投げかける。
 有り難い……こっちは今、とんでもなく混乱してる。

「……いいえ、呼んでいません。我々は霧山 霧斗───貴方"だけ"と接触するはずでしたから」

 そう言って霧山と俺を交互に見ると、溜息を付いた。
 霧山はしばらく呆然としていると、こちらへ振り返る。
 紅い少女と同じく、その目には驚愕を宿していた。

「……つまり君は……『偶然』あそこにいて、『偶然』僕とぶつかって、『偶然』勘違いした僕に無理やりここまで連れて来られた、と。そういうことになるのかな」

 その問に、俺は緊張で引きつらせた笑顔で答える。

「───どうやら、そういう事になるみたいだな……不破 衛士だ。あらためて宜しく」













 あの後、「お二人を集合場所までお連れします」、と少女が宣言し、先導し始めた。
 俺達はそれから一言も言葉を交わすことなく、立ち入り禁止区域の更に奥へと進んでいる。
 その間に俺も何とか落ち着きを取り戻してきていた。
 この状況も……信じられないが、信じるしか無いだろう。
 信じるに値するワードは既に耳にしてしまっている。
 ……だから今は少しでも情報を集めたいところだ。
 先程から何か言いたそうな表情でチラチラ見てくる霧山の服を引っ張り、歩幅を緩めて先行する少女から距離を取る。 

「なあ、霧山。少しいいか」

 前を行く少女に聞こえないよう、小声で話しかける。

「……不破君、すまなかった。巻き込む形になってしまって……あらためて自己紹介するよ。僕は霧山 霧斗」

「謝罪はいいさ、むしろ感謝してるぐらいだ。蚊帳の外になるよりはよっぽどいい。それより、俺には事前情報が一切ないんだ。少しでも現状を把握したい。解る範囲で簡潔に説明してもらえるか」

 自分なりに折り合いをつけながらここまで付いてきたが……。
 結局のところ、今俺が何とか理解できているのは、俺と霧山と、それともしかしたら先を行く少女が……複数存在するらしい転生者の一人だなんていう荒唐無稽なことだけだ。
 今は藁にでも縋りたい。
 まだ霧山のひととなりは把握しきれていないが、立場的には少なからず俺と同じ"被害者"であることは間違いないだろう。
 今はコイツを善玉だと仮定して歩み寄るしかない。

「……順応性が高くて助かる。まず僕らみたいな存在だけど……僕、君、先行する彼女、彼女が言った『我々』の最小数である1、そして彼女らからリークされた情報にあったその他16人……最低で、20人いるみたいだ」

「───最低で、20人、だって?……いや、いい。続けてくれるか」

 ……俺達みたいな存在が、二桁の大台に乗ってる……?
 確かに二人目が存在するなら、それ以上増えてきても……おかしくはない、のか?
 どちらにしろ、ゾッとする。この世界はどうなってんだ。
 霧山が俺のことを知っていたのはそのリークされたとかいう情報のおかげか。
 顔と名前がバレていた……なら、プライバシーの保護は完全無視で丸裸にされたと思っておいたほうが気が楽だろう。

「最低で、って言ったのは調査される側に条件付けがされてるみたいなんだ。だから調査漏れもあるかもしれない」

「条件?」

「第一条件、生年月日……君が生まれた日を、8桁で言ってみてくれないか」

「1983 12 16、だな」

「僕もだよ」

「……なっ」

「君も僕も、情報にあった他の16人も……恐らく先導してくれている彼女も、これから逢う人物も。同じ年、同じ月、同じ日に生まれ落ちてる……そう、白銀 武と同じ瞬間に」

 ───偶然、で片付けていい一致じゃない、か。
 俺も奇跡的な一致だと思ってはいたが……その他の連中も、だと?

「続けるよ。第二条件、高認……君も合格しただろう。この資格、早期の人材発掘と低年齢における高等教育を受ける権利の授与を、なんていう名目で無茶苦茶な改革の後に実施されたらしいんだけど、要は大規模な釣りだったんだ。実験も兼ねてたらしい。転生者は世界の揺れ動きとチャンスに敏感かどうかっていうね───見事に相当な数が釣り上げられた訳だけど」

「……それで、生年月日と合格者から俺達が炙り出された訳か」

 完全に掌の上じゃないか……。
 確かに、伸し上がるチャンスだと思って迷わず食いついたが……。

「……他には?」

「後は、僕が何かのお眼鏡にかなって彼らに単身、呼び出されたこと。そして……君が『偶然』あの場所で僕に出会い、ここまで連れて来られているって事。それぐらいかな、今のところ間違ってなさそうな情報は」

 なるほど、思うところはまだあるみたいだが、それは推測にすぎないから不確かな情報は渡せない……ってところか。

「じゃあ今度は質問だ。お前の姓なんだが、もしかしなくても香月夕呼が世話になったっていう、帝大の量子物理学研究所の……」

 霧山。
 確か、そんな姓の教授がいたはずだ。

「ご名答。僕はその研究所の教授兼室長の孫だよ。割とマイナーな名前なんだけど……正史の知識に精通してるようで何よりだ」

「いや、たまたま覚えてただけだ……そういうお前はどうなんだよ」

「……現状がヤバいってことが理解出来る程度には、あると思ってるけどね」

「───TSF-TYPE88/F-16J 彩雲、か」

 Ifだと思っていた。勝手にそう思い込んでいた。
 だがそれは決してIfなどではなく……有り得ないはずのアウトサイダーが何らかの目的で故意に引き寄せた、この世界の歪みの象徴となった戦術機。

「少なからず帝国の戦力は増強されたと思っていい……もしかすると、最悪BETAの日本上陸が後ろにずれ込んでくるかもしれない」

 そう、それが問題なのだ。
 コレから俺達が逢おうとしている存在が、初めからそれを目的として彩雲を帝国に呼び寄せたというのなら……。

「なぁ、やっぱりお前を呼び出したヤツの目的は───」

「すまない……今は、それ以上は言わないでくれないか……大丈夫、それも想定してる。後は……逢って確かめるだけだ」

 青い顔をして胃のあたりを抑えながら霧山が呟いた。
 お互い、まだガキの身分なのに早くも胃痛の種に苛まれてるなんてな。
 ……言うな、と言われたなら仕方ない。
 その時まで自分の胸の中に閉まっておこう。

「お喋りはそれまでに……コチラです」

 どうやら、目的地に到着したようだ。この徒広い格納庫が集合場所らしい。
 中は照明が点いておらず、開け放たれた正面門から差し込む僅かな日光だけが唯一の光源となっていた。

「……アレは」

 目に映るのは暗がりの中、巨大なトラック……いや、87式自走整備支援担架の前に佇む人影。
 俺たちを先導する少女はその人影へと迷わず歩を進め、俺と霧山もそれに続く。
 暗闇にも目が慣れ始め、距離も近づき、その人影の輪郭がゆっくりと浮かび上がってくる。

「申し訳ありません。お待たせしました」
 
「是非もない。マレビトは想定外だったからな。お前が探しに行った後、入れ違いで鎧衣さんから情報が入ってきた」

 少女の報告に、振り返りながらそう答える人影。
 マレビト……俺のことか。
 芝居がかった口調が、嫌に鼻につく。
 コイツが、霧山を誘き寄せ、彩雲を招き入れる元凶となった───。

「お初にお目にかかる。斉御司 暁だ」

 そして、遂に輪郭をはっきりと捉える。
 青の斯衛服を纏った少年は───自らを斉御司 暁と名乗った。
 その姓、その衣装……正しく五摂家に名を連ねる者ということを証明するに他ならない。

「月詠。お前も自己紹介がまだなんじゃないのか?」

「ハッ」

 ────待て。月詠、だと?
 じゃあコイツは────。

「初めまして……ではありませんね。申し遅れました、月詠 真央と申します。以後、お見知りおきを」

 正史における月詠真那、月詠真耶と同じ『月詠』の家系の者だっていうのか……?
 
「……やはり、斯衛の青が出てくるか」
 
「聡明だな、と褒めるべきか。流石はその年で非公式ながら、あの研究所に踏み入っていることはある」

 霧山が険しい表情を見せながら、予測が的中していたことを嘆く。
 だが、それを嬉しそうな顔で言葉を返す斉御司。
 その余裕さ、そして彼我の持つ情報の圧倒的な格差にギシリと歯を鳴らし、霧山の顔が更に歪む。

「───悔しいけど、コチラの自己紹介は一切不要のようだね……なら、早く要件に入ってもらえないか」

「此方としてはそれも吝かではない。しかし、巻き込む形になってしまった不破 衛士には説明を聞く権利があると思うが」

「……いや、経緯は道すがら耳にした。要件に入ってもらって構わない」

 コチラに視線を向けながらそう提案してくる斉御司に、俺はそう返す。
 確かにまだ色々情報が抜けてはいるが、自分の中ではもう折り合い済みで、対応できているつもりだ。
 其れよりも何よりも、とっとと要件を述べろという霧山の気持ちがコチラにまで伝わってきた。
 その意見には、俺も同調できる。
 
「それは有り難い、手間が省けた……では、単刀直入に───」


 

 そして。





「俺達と協力して────武と純夏を救わないか」





 目の前の転生者は、そんなことを宣いやがった。






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