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No.12496の一覧
[0] Muv-Luv Initiative (オリ主転生→BETA大戦世界) [still breathing][Caliz](2020/03/25 01:32)
[1] 第一部 第零話 ─二度目の人生─[Caliz](2012/06/01 19:10)
[2] 第一話 ─平和な日常─[Caliz](2011/11/26 18:02)
[3] 第二話 ─未知との遭遇─[Caliz](2011/07/21 07:12)
[4] 第三話 ─熟考する転生者─[Caliz](2011/07/23 04:07)
[5] 第四話 ─動き始める世界─[Caliz](2011/11/27 07:49)
[6] 第五話 ─それぞれの誕生日─ 前編[Caliz](2011/11/26 16:09)
[7] 第六話 ─それぞれの誕生日─ 中編[Caliz](2011/11/26 16:48)
[8] 第七話 ─それぞれの誕生日─ 後編[Caliz](2011/11/26 17:09)
[9] 第八話 ─Encounter─ 前編[Caliz](2011/11/26 17:11)
[10] 第九話 ─Encounter─ 中編[Caliz](2011/11/26 17:32)
[11] 第十話 ─Encounter─ 後編[Caliz](2012/07/09 09:14)
[12] 第二部 第零話 ─海の向こう─[Caliz](2012/07/09 10:14)
[13] 第一話 ─集いの兆し─[Caliz](2012/06/17 10:07)
[14] 第二話 ─TAO─ √I_R_G[caliz](2020/03/22 06:22)
[15] 第三話 ─大陸からのエトランゼ─[Caliz](2020/03/22 06:22)
[16] 第四話 ─因果連鎖─[Caliz](2020/03/22 06:20)
[17] 第五話 ─6/7─ 前編[Caliz](2020/03/22 05:57)
[18] 第六話 ─6/7─ 中編[Caliz](2020/03/22 11:24)
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[12496] 第一話 ─平和な日常─
Name: Caliz◆9df7376e ID:5e4b39e2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/26 18:02
A.D.1986 Summer,oneday


夏。

家の庭で行われているのは、セミのうざったいほどの大合唱。

「……せからしか……」

あまりにも不快過ぎて思わず声に出してしまった。
五月蝿いだけではなく、暑さまで酷くなったように感じる。
それを多少は緩和してくれる乾いた風が肌に心地いい。
涼しげな音を鳴らす風鈴も幾分か気分をマシにさせた。
カラン、と両手で持った麦茶の入ったコップから氷の音が耳に伝わる。

「……はぁ……」

平和だった……呆れてしまう程に。

今この瞬間も大陸のほうでは地獄のような戦闘が行われているはずだ。
だというのに俺は日常の中に居て、そこは平和で満ちていて。
10年後に西日本が壊滅するなんて、まるで嘘のようで。
眺めていた庭から背後に視線を移してみると、父と母がまったりとスイカを齧りながら和やかに会話をしている。
纏っている雰囲気からは、焦りや不安といった負の感情は一切読み取れない。
この日常が壊される事無く、いつまでも続くと思っているのだろうか。
でもそれは、叶うことのない思いだ。

1986年。

大きな世界情勢の動きとしては、欧州のほうでECTSF計画のゴタゴタがあったはずだが、これは俺には無縁だ。
米国でF-16の配備、各国への売り込み開始。これもF-15が採用される日本には関係がない。
国内の動きは本土防衛軍の設立と、異機種間戦闘訓練で巖谷中佐───いや、今は大尉だったか。が、F-4J改『瑞鶴』でF-15撃破、か。
相手はイーグルドライバー……容易い相手じゃないだろうに、性能で劣る瑞鶴でよくやる。
そして肝心の大陸のほうは、統一中華戦線の誕生と……あぁ……そうか、もうそんな時期か。
H:12───リヨンハイヴの建設が開始される年だ。
コイツは物語が始まる2001年時点でユーラシア大陸最西端に位置し、フェイズ5になっているであろうハイヴ。
つまり、BETAのこれ以上の西進は、ない。欧州の戦力がそれを許さない。
あそこには文字通りの"英雄"がいる。それに単純に軍全体の練度が高い。対BETA戦の経験が段違いだ。
だから次は───東進だ。
父さん、母さん……。日常はそんなに長く続きそうにないよ。





俺が2度目の生を受けてから2年と半年。
1歳の誕生日より今日に至るまでに1年と半年が経過した。
その間に新しく入ってきた情報は、今後の行動方針を決定付けるのには十分すぎるものだった。

どうやら────俺は、権力やコネとは無縁の家に生まれたようだ。

勿論、幾つか想定した事態にこの状況はあった。
あったが……実際にその事実を突き付けられた時の落胆は凄まじいものだった。
両親の家柄、土地、職業、親族、全てに置いて権力者との繋がりが見られなかった。
これは俺がこの先、大規模な介入を行うことが出来なくなったということに他ならない。
大きなことを成すためには、大きな力が必要だ。
その力を直接持っていなかったとしても、力を持つものと繋がりさえあれば助力を請うという方法もある。
しかし、その繋がりすらもない状態からの開始となってしまった。
勿論、極めて過酷で険しい道程になるだろうが、作ろうと思えば作れる。
ただどうしてもそれ相応の時間というものが掛かってしまう。
軍への入隊は15歳からだ。
義務教育終了後に志願して訓練をこなし、一度目の総戦技演習で合格する。
これが最速での任官への道。
ここまでやって、漸く俺はゼロからのコネ作りのスタート地点に立つ事が出来る。
だが……BETA本土上陸時、俺はまだ義務教育すら修めきっていない14歳と半年のガキでしかない。
つまり、例え天地が引っ繰り返ろうとも俺はBETA本土上陸に対して大規模なアプローチを掛けることは出来ない。
俺はその時点で、未来の情報を最大限活かすことの出来る立場にいない。
発言に力がある訳もなく、後押ししてくれる人も居らず、故に耳を傾けてくれる者などほとんど出てこないだろう。
戯言、世迷言と切り捨てられるのがオチだ。
絶望の二文字が頭を過ぎる。

ダメだ。

権力が、地位が、コネがあれば……ついそういう無い物ねだりをしてしまう。
何とも情けない、みっともない行為だ。不毛極まりない。
だから、元よりそんな都合よく権力やコネのある家庭に生まれるほうが異常なのだと、そう考えろ。


俺は気分を落ち着けるために結露が起きたコップを傾け、キンキンに冷えた麦茶を喉に流し込み、不安と一緒に飲み干す。

……滞ってしまった思考を前に進めるため、1998年夏の大侵攻への対策は間に合わないという事実をとりあえず受け入れよう。
その上で、何かできる事を模索しなければならない。
だが、答えなど一つしか無い。三十六計逃げるに如かず、だ。
闘えないならば、死なないためにも、何より闘う者の邪魔にならないためにも逃げるのが賢い。
故に無力な民間人である俺に許された選択肢は、もう逃げの一手しかない。

しかし、不可解だ。なぜ3600万人もの死者が出てしまったのか。
疎開令が行き届いていなかった?馬鹿な、あり得ない。
去年に、帝国政府がオーストラリア・オセアニア諸国と経済協定を締結し、西日本が戦場になった場合を想定して主な生産拠点をそれぞれの国々へと移し始めたのを改めて確認した。
これは疎開政策の一つだ。
つまり……疎開は1985年から既に始まっていたということになる。
それならば10年後に、西日本の住民に対して疎開しろという政府の訴えかけが情報として渡り切っていない訳が無いのだ。
確かにそういった問題とは別に、疎開しろと言われて、はいそうですかと応じる訳にはいかない。
生活と言うものがあるのだ。今の生活を手放せと言われているのと同義だ。だから易々と頷けない。
だけど、戦場になる可能性があります、と言われて残るだろうか?
生活云々の前に死ぬ可能性があるというのに。
……BETAに蹂躙されて、死ぬかもしれないということなのに。

「……俺なら真っ平ゴメンだね」

恐怖すら覚える。
これは俺が悲惨な未来も、BETAの醜悪なフォルムも知っているからこそ沸いてくる恐怖心なのだろうか。
BETAの情報は一般大衆に対して秘匿されているから、恐怖感、現実感が沸いてこないということもあるかもしれないが……。
いや、やめておこう。
何にしろ、3600万人というあの死亡者数は逃げろと言われて逃げなかった人間の数字だ。
つまり死んだヤツらはBETAを過小評価した、または日本帝国の力を過大評価してその場に留まったということ。
判断ミスによる……自業自得。
そんな顔も知らない何千万人がくたばろうが、心を痛めることも、無い。
どうでもいい。所詮は他人だ。
俺にとっては有象無象。そう思い込んでおけばいい。
自分と両親を守る事が出来れば、それでいい。
俺の手は……そんなに広くも大きくも、無いんだ。
3600万もの人達の命を救うことの出来る方法なんて無い。
だから、BETA本土上陸に対する基本方針として────自分たちの避難を最優先とする。

喉に酷い渇きを感じ、再びコップを傾けて残っていた麦茶を勢いよく飲み干す。
いつの間にか氷が解けて、味が薄くなっていた。
見上げた空には雲一つ無く、ギラリとその存在を主張する太陽からは夏の強い日差しが降り注いでいた。
嫌な汗が滲む。そろそろ日差しが辛くなってきた俺は、空になったコップを持って立ち上がり、逃げるように縁側から立ち去った。
台所に入り、俺用の足場に昇ってコップを流しに置く。
そして両親に昼寝をすると伝え、寝室の布団に仰向けになって腹にタオルケットを掛け、目を閉じる。
すると子供特有の睡眠欲求というものなのだろうか、徐々にだが眠気がやってくる。
昼寝はもはや習慣になっていた。

眠りに落ちるまでの間、大まかな今後の流れをまとめてみる。

まずは、避難。
避難先の確保、避難のタイミング、避難先での生活レベルの確保など、考慮すべき点が幾つかある。
初めに避難先だが、身を預けれそうな親戚が2箇所に居るのを確認出来ている。
一方は沖縄。もう一方は茨城。
前者が母の、後者が父の実家とのこと。
あぁ、本当に……どれだけ実家が離れてるのかと。
去年にこれを知った時、よく二人は巡り会えたな、と本気で感嘆した。
そして幸いなことに、どちらも1998年に起きる夏のBETA大侵攻から連なる撤退戦を免れる事の出来る場所なのだ。
このどちらかに両親と逃げる事が出来れば一つ目の山を越す事は出来る。
次にタイミングだが……これはある程度の時間的余裕を持てれば、ぶっちゃけると何時でもいい。
それこそ、1998年に入ってからでも十二分に間に合う。
故に特別急ぐような事ではない。早いに越した事もないだろうが。
問題が、避難先での生活レベル確保だ。
こればかりは低下を避けられないだろう。だが可能な限り低下を和らげたいところだ。
国土の半分以上を失う事になる故に贅沢なんて言ってられないのだが、両親に辛い生活を強いりたくは無い。
だとすれば、やはり兵役に就き、危険な任務を遂行することによって発生する特別手当も考慮すべきか。
しかし父、不破 俊哉は既に徴兵期間を終えている。
衛士適正が無く戦車兵は嫌だとのことで整備兵として訓練したらしい。
再度徴兵される時期には40近くで適正年齢ギリギリ、仮にされたとしても過去に経験のある整備兵だ。
最前線に出されることはないだろう。
母、不破 涼子は既婚女性なので初めから徴兵対象外だ。
つまり、危険な箇所に配置される可能性が高いのは俺だけになる。
両親からすれば我が子だけが徴兵されるのは辛いだろうが、そこは我慢してもらい、比較的安全な所で暮らしてもらう。
その後は、どんな形でもいいから徴兵の際に横浜基地に所属できるように動き、2001年10月22日まで生き延び、白銀武と接触してその存在を見極める。
雌伏の時と言うヤツだ。この間に出来うる限りの"仕込み"をする。
二度目の武の邪魔にならないようにしつつも、一度目の武のフォローにも回らなければならない。
……これら徴兵からの流れについてはまだ詳細の構築に至っていない。
時間を掛けてじっくり練っていきたいモノだ。時間はまだまだある。
持っている情報を可能な限り出し切って有効活用し、予備案も可能な限り細かく何重にも張り巡らせたい。
最低限の未来────オリジナルハイヴ攻略へと続く流れを確保する為に。
ここまでは、俺にとっての義務だと思っていいだろう。
何せ、やらないと人類滅亡なんて冗談のような現実が待ち受けているのだから。
また流れの確保が出来た上で余力があれば、それを維持し、且つ要所要所で状況の改善を望めそうなら……可能な限り開拓していく。
それは"誰かが死ぬ"運命を捩じ曲げることだったり、"誰か"が敵に回らないようにすることだったり。
そしてその末に、オリジナルハイヴを攻略してしまえば、終わりだ。
日本からはBETAは駆逐された。
人類側は有利になった。
白銀武と鑑純夏は結ばれ、ループの束縛は解かれる。
そこまで来てしまえば、俺はお役ご免だろう。
これが、俺にとっての終着点。ゴールだ。
後は……香月博士に丸投げしていいと思う。
きっと残りのハイヴも何とかしてくれるだろう。

「……ふぁ……」

そこまで考えていよいよ眠気が臨界点を超えたのか、思考が鈍り、意識がゆっくりと闇に沈み始める。

ふと、そういえば、この眠りにつく感覚は死ぬ時の堕ちて行く感覚と似ているんだな、と思った。
あの深くて冷たい暗い闇に沈んで、全てが無に返っていく感覚。
けれど、あの時とは違って闇は暗くて深いけど、暖かい。
そしてまたちゃんとこっちに戻ってこれるっていうのが、理屈じゃなくて理解できる。
きっと何時もの様に一、二時間で母が起こしに来てくれるのだろう。
あの時、この世界に生れた時と同じように、俺を深い闇から掬い上げてくれる。
敬愛してやまない父と母。
感謝を。
新たな人生を、健やかな毎日の生活を与えてくれていることに、感謝を。
目が覚めたら夕飯になるだろう。
確か母さんが今日は素麺だと言っていた。楽しみだ。
暑い日が続くから、きっと美味しいはずだ。
3人で食卓を囲もう。
その後は父さんと風呂に入る。
毎回嬉しそうに水鉄砲を撃ってくるのはそろそろ簡便してほしいが。
そうやって日々を刻んでいこう。
いいと思う。今は、まだ。
まだBETAは来ない。
まだ日常は終わらない。

だから今は、この一時の平和を噛み締めていこう。


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