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No.1249の一覧
[0] 永久を紡ぐモノ[ルノ](2005/01/11 00:40)
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[1249] 永久を紡ぐモノ
Name: ルノ
Date: 2005/01/11 00:40
現代(いま)よりも遠い昔。

永久を生きる者在りし。


人は其を魔王と呼び恐れた。


魔王は世を大いなる闇に包み込む。


最後に残った聖なる光より一人の少女が現れる。


少女は聖なる剣持ち魔王の居城へと歩を進める。


魔王配下の邪な者を屠り、遂に少女は魔王の元へと辿り着く。


少女は死闘の末、魔王を打ち倒す。


しかし、魔王は死する事無き者。


少女は剣の力を使い、魔王の肉体と魂を分かつ事にした。


魔王の強大な魔力と、強力な肉体。


肉体を聖域に封印した少女だが、魂を封ずる場所を思い浮かばなかった。


なぜなら、魔王の魂は強力な魔力の塊である。


普通の封印では、それだけ力のある物を封印しておくことは不可能に近い。


そのため、少女は自身の身体に魔王の魂を封印したのである。


魔王を封印した少女を、人々は聖女と呼んだ。


しかし、間も無く少女は世から姿を消したのであった……。









それから数百年の時が流れた。


ある時、ルドラ大陸南東に存在する国、レイフィスとその西の隣国フォールの間に戦が起こった。


当初、軍力で勝るレイフィスの勝利が予想されたが、フォールでは世界でも逸早く"魔法"の軍用化に成功していた。


これによって、レイフィスの主力部隊である"竜騎士隊"の半数以上が打ち倒される事となる。


この事態を重く見たレイフィス国王は、フォールに対して和平を申し入れ、平和が築かれたのであった。


尚、ここで説明しておくが魔法というものはそれ以前にも存在していた。


しかし、大多数の人間の魔力は小さな火を起こせる等の弱い物であった。


そのために、魔法を戦力として考えることはほぼ不可能であった。


しかし、フォールはそれを可能にした。それ要因が、"選定システム"と"魔導学院"であることを疑うものはいないだろう。


フォール国内に生まれた子供は、生まれて間もなく"選定"を受ける。


これによって、その子供の魔力がどの程度の強さかを判断するのだ。


選定によって、ある程度以上の魔力を持つ子供たちを、魔導学院に入学させる。


ここは、魔法を使えるようにする為の修行の場所だ。


そこはフォール国内でも有数の力を持つ魔術師が、その叡智を授ける場所であった。








  永久を紡ぐモノ

   ~第一話・漆黒~





神暦317年、春。


レイフィスとフォールの戦争が終結してから三百年余の時が過ぎた。


今では友好的な関係を築いており、戦争がはじまりそうな気配もない。


この日、ルナリア=エイフィスはフォール北方に広がるデュロナ密林の中を歩いていた。


年は二十代の前半くらいだろう。


腰まである鮮やかな金色の髪はサラサラのストレートヘアで、瞳の色は透き通るような蒼。


目鼻立ちもスッキリと整っており、十人中九人は美人と認める美貌の持ち主である。


しかし、その形の整った口から漏れるのは嘆息であった。


「何で私がこんな所に来なくちゃいけないのかしら……」


デュロナ密林といえば、フォールの国民であれば知らぬ物は居ないといわれるほどの場所で、迷ったら一生出てこれないとまで言われるほどの場所である。


そんな場所に、なぜ彼女がいるのか? それは、今から三日前に遡る。









正式名称“フォール王立魔法アカデミー”


かつての名を“王立魔導学院”というここは、数十年程前に改名された。


大陸中に存在する魔導師育成機関の内でも、最も歴史のある場所である。


ルナリアは、ここで教員として働いている。


現在アカデミーは春休みということで基本的にヒマなのだが、この日は珍しく忙しかった。


フォール国内での魔法を使用した犯罪を取り締まる組織、魔法省からの知らせを受けたためである。


それによれば、北に広がるデュロナ密林で、特Aクラスの魔力放出を感知したと言うのだ。


特Aクラスといえば、第一級魔導師が加減せずに魔法を使ったときとほぼ同等である。


なお、魔導師のクラス分けには一番上に特級魔導師があり、そこから第一から第六まで全部で七種類があるのだ。


つまり、第一級魔導師は上から二番目ということになる。


それほどの魔力を放っておく訳にはいかないというのが魔法省の結論であった。


で、あるのだが、調査に行かせる魔導師も第一級以上であることが条件である。


これは、最悪でも生きて帰ってくることができるということだ。


しかし、第一級魔導師はフォール国内に二十人、特級魔導師にいたっては四人しかいない。


魔法省には第一級魔導師が六人と特級魔導師が一人いるのだが、何分多忙であるために余分な仕事を抱えることができなかった。


そのために、魔法省がアカデミーに調査を依頼してきたのである。


まあ、それもあまり珍しくはない話であった。


なにせ、アカデミーには特級魔導師二人を始め、第一級魔導師は十二人が籍を置いているのである。


そしてアカデミー内で白羽の矢が立ったのが受け持っていた生徒が卒業し、暇があったルナリアであった。


彼女は、二十四歳という若さでありながら第一級魔導師の称号をもっているのである。









「それにしたって、私じゃなくったっていいでしょうに……」


実は、彼女のほかにもあと二人ほど候補がいたのであるが、くじ引きによって彼女が見事に当りを引いたのである。


一番最初に引いたのは彼女なのだから、恨むならば自分のくじ運の無さの方である気もするのだが、彼女の怒りは残りの二人のほうに向いていた。


「全く、帰ったら何か奢らせてやるわ」


そんな事を考えていたからであろうか。


彼女は横の茂みから飛び出してきたものに気付くのがすこし遅れた。


左腕に鋭い痛みが走った。


ビュウッという音とともに彼女に飛び掛った物、それは一見するとイタチの様である。


しかし、その体躯は大体八十センチほどの大きさがあるだろう。


その大きさが、それが通常の動物であることを否定している。


ずんぐりとした体躯で、その爪牙は明らかに狩をする生物の物であった。


「まさか、魔獣――!」


ルナリアは息を呑んだ。


魔獣、それは普通の動物が魔法の力によって巨大化、凶暴化したものである。


これは由々しき事態である。


もしもこの魔獣が自然に生まれた物だとしたら、それはこの付近の魔力に歪のような物ができている事を意味する。


自然な魔力は普段、川の水のように大気を流れている物なのだ。


しかし、何らかの原因でその流れが止まってしまうと、その付近の魔力は段々と澱んでいく。


そうすると辺りの生物、植物などに悪影響が出るのだ。


「感知された魔力と関係あるのかしら?」


なんにしてもこれは捨て置くことはできない大事件だ。


なぜならば、魔獣が一体現れた場合、他にも魔獣が生まれている可能性が非常に高いのである。


つまり、根本的な原因を解決しなければならないのだ。


「なんにしても、やって見せる!」


左腕の傷も、浅かったようで動きには問題は無い。


戦うことを決断したルナリアは、両手を胸の前で組み、呪文を唱える。


その動きは、素早かった。


「風よ、わが声を聞き、鋭き刃と化せ。ウインド・スラッシュ!」


ルナリアは掌から発生させた風の刃を魔獣に向かって放った。


しかし、である。


「避けた!?」


魔獣は、そのずんぐりとした外見からは想像できないほどに素早かった。


ルナリアの魔法を上に跳んで避け、そのままの勢いでルナリアに飛び掛ってきたのだ。


鋭い魔獣の牙が、ルナリアの首筋へと迫る。


「クッ!」


死への恐怖でルナリアの身が強張った。


しかし、その牙が、ルナリアに触れることは無かった。


「出でよ炎!」


ルナリアのものではない、その声と共にゴアッという音がし、魔獣の身体がルナリアの前で燃え上がった。


「これは、魔法?」


一瞬にしてその魔獣は灰となったのである。


無論、それはルナリアの力ではない。


「大丈夫でしたか?」


目の前の出来事に呆然とするルナリアに、かけられた声。


はっとして声の聞こえた方向を向いたルナリアの目に飛び込んできたのは、一人の女性であった。


年の頃はルナリアと同じくらいだろう。


誰もが認めるであろう美しさを持っている。


しかし、一際目を引くのはその髪と瞳の色である。


彼女のそれは、どちらも吸い込まれるような漆黒の色をしていた。









髪と瞳の色。


その色は、精霊の守護を表している。


たとえばルナリアの金色の髪は光の精霊の、蒼い瞳は水の精霊の守護を表しているのだ。


それが同じ色というのはとても珍しいのである。


精霊の守護がそれだけ深いということになるのだ。


そんな色の中で、ただ一つだけの忌むべき色。


闇の精霊に愛された色、それが黒なのである


どちらも黒であるという者は、悪魔の子とまで言われる程、忌み嫌われていた。


神話に語られる魔王を始めとして、両方黒の者に悪に染まった者が多いことが大きな理由だろう。


現在は都市部ではそれ程ではないが、田舎の方に行くと今でも差別は多い。









その髪と瞳の色に見入っていたルナリアであったが、ハッとして自分を戒めた。


「すいません、助けていただいたのに、お礼も言わずに」


「いいえ、気にしないで下さい」


「あ、自己紹介もまだですね、私はルナリア・エイフィス。アカデミーで教員をしています」


「アカデミー? ……ああ、魔導学院の」


「あ、ええ、そうです」


ルナリアは少々不思議に思った。


魔導学院という名前が現在の魔法アカデミーになったのは、今から何十年も前のことである。


時折、年配の魔導師が学院と言うのを聞いたことがあったが、ルナリアにしてみれば生まれる以前の事であった。


そのため、目の前の、一見したところ自分と同じくらいの年の人間が使うには少々古臭い言葉に思えたのだ。


「それで、貴女はなぜこんな所へいらっしゃったのですか?」


「ええっと、それは……」


ルナリアは理由を言うべきなのか、迷った。


先ほどの魔法、あれは一撃で魔獣を葬ったのだ。


それ程の魔力をもつ彼女こそ、魔法省に感知された魔力の持ち主ではないのだろうか?


もしそうだとしたら、彼女は何者なのか?


疑問点が多すぎるのだ。


「ああ、まだ自己紹介をしていませんでしたね、私はレイナ・セルク。レイナと呼んでください」


「レイナさん、さっきのあれは、魔法ですよね?」


「ええ。そう、ですね」


「あんなに強力な魔法を使うなんて、あなた、クラスは?」 


その質問に、レイナは困ったような表情を浮かべた。


「……クラス分け、されてないんです、私」


「え?」


魔導師のクラス分けは、今から十数年前から始まった制度で、見習等を含めて全ての魔導師に適用されている。


それが、無いというのは本来ありえない事だ。


「私、魔法が使えることは秘密だったんですけどね」


「あ……」


ルナリアは、その理由に心当たりがあった。


それが、彼女、レイナの髪と瞳の色である。


魔法の力。


それは“使えない人々”にとっては脅威である。


無論、全ての魔導師が悪であるとは誰も思っていない。


しかし、黒い髪と瞳である、という、その事だけで状況は変わってしまうのだ。


人々から疎まれ、嫌われる。


しかも、魔法が使えるなどと知られたらどうなるか?


ルナリアには、用意に想像が付いた。


「さっきは、咄嗟に使ってしまったんですけど」


「……でも、未登録の魔導師が魔法を使うことは禁止されています」


ルナリアがそういうと、レイナは自嘲的な笑みを浮かべた。


「私も、使いたくは無いですよ、こんな力」


「レイナさん、貴女、ご家族は?」


「昔、私が小さいころに死にました」


そう言ってレイナは昔を思い出すように、遠い目をした。


「そうだったの……それは、悪いことを聞いちゃったわね」


「いいえ、もう昔のことですから」


辺りに流れた気まずい空気を振り払うように、ルナリアは口を開いた。


「それにしても、レイナさんはどうしてこんなところに?」


「二、三ヶ月位前からこの辺りで暮らしてるんです」


「え、貴女一人で?」


「ええ、そうですけど」


「駄目よ、そんなの! こんな所で一人暮らしなんて、危険だわ!」


「自分の身くらいは、自分で守れます」


そう言うと、レイナはルナリアから遠ざかろうとした。


しかし、ルナリアはレイナを呼び止めた。


「待って!」


「……なんですか?」


「レイナさん、貴女、うちで……アカデミーで働かない?」


「私が?」


「ええ。いま、アカデミーは人手不足で困ってるのよ。優秀な魔導師はどこも引手数多で。貴女ほどの魔導師なら、きっとできるわ。いろいろな手続きがいるかもしれないけど、その辺のことはきっと学長が何とかしてくれるし」


「………」


「どう、お願いできないかしら?」


「……私は、構いませんけど……」


「なら、話は決まりね。さあさあ、早く準備しましょ?」


「はあ……」








なぜ、このときレイナを半ば強引にアカデミーに引っ張って行ったのだろうか。


ルナリアは、時々思い返す。


無論、任務の事もある。


レイナが検出された魔力の持ち主であるとしたら、捨て置くことは出来ないだろう。


しかし、それだけではないのだ。


多分、遠ざかるときの背中が、寂しそうに見えたから、だろう。


誰からも必要とされないこと。


それは、とても寂しいことなのだ。


だから、放って置くことは出来なかった。


ルナリアも、その寂しさを知っていたから。












つづく



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