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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:a70380e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/09 19:50
補給物資を受け取ったデルヴァスコンの動きは素早かった。内部容量を拡張する秘術容器の梱包を解くと現れた矢弾などの武装を始め、回復用のポーションや消えずの松明、錬金術師の炎といった雑多な品が流れるように再編を済ませた部隊へと配備されていく。

驚くべきことにその荷の中にはウォーフォージドの戦士までもが含まれていた。荷が奪われ、略奪者が開封した際に痛撃を与えるために彼らは重要な荷と共に封印されていたのだ。ウォーフォージドは鉄と石、そして木から構成されており呼吸や飲食を必要としない。さらに単独での任務に耐えるべく施された訓練により強靭な精神を宿しており、そのような環境下に置かれていたにも関わらず精神にはいささかの揺らぎも感じさせない。

それどころか胸を張って歩くその重厚な姿はついに訪れた戦いを前に気力が充実しきっているように見える。最終戦争がスローンホールド条約により終結した後、人権を与えられたとはいえ戦争を生業として産み出されたウォーフォージド達の多くはそのまま戦いの中に身をおくことを望んだ。与えられた任務を遂行することこそが彼らにとっては生きがいであり、自分たちにしか成し得ないことであればそれこそが自らの存在価値であると考えているのだ。

セントラル・ブリッジを前に組まれた戦列の最前列の多くはそういったウォーフォージドが占めていた。薄い太陽の明かりを照り返し彼らの装甲が眩く輝いている。無論その後ろに並ぶデニス氏族の剣兵たちも士気では劣っていない。まるで火にかけられたポップコーンのように今にも破裂しそうな熱量を彼らから感じる。だがその時が訪れたとしても彼らは無軌道に飛び跳ねるような真似は決してしないだろう。

苛烈ではあるが整然と。隊を伍し隣に立つ戦友と呼吸を合わせて一個の巨大な生物のように動くことが、この大地での戦いで生き延びるために必要だということを彼らはよく知っているからだ。そして彼らの前には立派な体格の軍馬に跨ったアグリマーの姿があった。作戦を開始する、その号令がこれから発されるのだ。


「同志諸君!」


初めて会ったときとは異なり、重厚な鎧を纏ったアグリマーが乗騎の足を止めるとその口を開いた。


「長い夜が明け、我らが望んでいた朝がようやく訪れた!」


深く響き渡るバリトン・ボイスが周囲を満たす。それを聞く一同は身動ぎ一つせずに、その声が身に染み渡るのを待っているかのようだ。ただ1つ、彼らが兜に刺している羽を模した意匠──デニス氏族のトレードマークであるキメラを示して薄く三色に染められている──それだけが風に揺らいでおり、草原に揺れる草のように見えた。


「丸一日、短くも激しい戦いの中で多くの同胞の命がドル・アラーの元に召された。その中にはこの砦に配属されたばかりの新兵も、最終戦争を私の隣で生き抜いた古参の兵もいた。死は平等に我らの元を訪れたのだ。

 だがそれは敵にとっても同様だ。ソヴリン・ホストの思し召しか、我々は心強い仲間を得ることが出来、連中の四肢の内その過半を失わせ、今や敵はそのやせ細った体以外には腕の一本と頭を残すのみとなった!」


精兵達を見回すように視線を巡らしながら馬上のアグリマーは続けた。


「既に敵の企みの大部分は潰え、生き残った軍勢の多くは穴蔵に逃げこみ、残った諦めの悪い連中が戦いの始まったあの丘に集結している。

 いずれ訪れる増援を待てば我々は苦もなく、再びこの地を取り戻すことができるだろう──」


そこでそう言葉を切ると、司令官は背後、北東の空に視線を飛ばす。それはストームリーチの街がある方向だ。僅かにそちらを眺めた後、再び振り返ったアグリマーは強い口調で演説を再開した。


「だが、その判断は我々にとって誤りである!

 敵は太古の秘術に通じた巨人族だ。彼らが我らの及ばぬ秘知を所有していることは認めねばならん。

 であるならば、未だこの地に残り抵抗を続ける敵軍には何らかの謀があると考えるべきだ!」


それは再び時間を設け、俺たちと会談した際に出した結論だ。秘術刻印が刻まれたピラーは全て無力化した。だが空に渦巻く雲はいまだその規模を縮小する気配を見せず、敵は戦力を転移門付近に集結させている。

単に撤退するのであれば転移門の復旧をまたずとも、砦の敷地を離れ南のジャングルへと逃げ込めばいいのだ。巨人達は夜目もきくし、夜陰に乗じて脱出すれば追撃は困難だったろう。その手を取らなかった以上、敵はあの場所で何かを企んでいると考えて良いはずだ。


「我らが訓練を受けているのは何のためだ? 血と汗を啜り、泥に塗れこの砦に残る意味はなんだ?

 我々は常に最悪の事態を想定しこれを防がねばならない! 危険の芽があるのであれば、それを見過ごしてはならないのだ!

 "炎の海"への門が開かずとも、我が同胞らの死体を弄ぶあの忌むべき死霊術師を取り除くまでは我々の戦いは終わらない!」


優れた死霊術師は死体を用い、アンデッドを作成する。秘術というリソースを消耗する以上無尽蔵にとはいかないが、時間を置けば置くほど敵の戦力が充実することは確かだ。

さらに彼らが何かを企んでいるというのであれば、大規模な増援が即座には得られない以上こちらから早急に打って出る必要がある。巧遅よりも拙速を。そして災いの芽は決して残さない。アグリマーはその強い意志を込めた瞳で戦列を見渡していた。


「我らに必要なのは"決断"ではなく、行うべき"当然"に過ぎない! この地より連中を叩き出し、人々が枕を高くして眠れる夜を取り戻さなければならない!

 我ら"歩哨"の一族の誇りはこのような戦いの中でこそ得られるのだ! 最後の剣の一振りとなるまで戦うことをドル・アラーに誓おう。

 そして銀炎の導きの元、奴らをドルラーへと送り込むのだ! 我が"ファイアーブランド"の名にかけて!」


馬上で抜かれた剣が朝日を受けて輝く。立ち並んだ剣士達も皆が同時に抜剣し、獲物を空に掲げた。燦然と光を反射する光景はまるで光を放つ木で出来た森のように見える。


「それでは出撃だ諸君! この大地の光当たるところには、既に彼らの住むべき場所など無いと教えてやれ!」


最後にそう告げるとアグリマーは馬首を巡らせ、セントラル・ブリッジへと進路を定めた。こうして三度目にして最後となる、デニス氏族の反撃の狼煙があげられたのだ。









ゼンドリック漂流記

5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6












陽の光の差し込まぬ暗い洞窟の中、音もなく動く影があった。その身をミスラルに包んだウォーフォージドの兵士だ。鉄を魔法金属に置き換えて創り上げられたその体には、戦闘ではなく斥候の訓練が施されている。呼吸をせず、血の代わりにオイルを静かに流すその体は隠密に向いているのだ。

微かな下り坂を気配を殺しながら進むと、やがて前方に明るく開けた空間が広がっていた。鈍い光彩はその光源がいずこからか吹き出した溶岩であることを示している。天井の高さは変わらぬものの、かつては舗装されていたのか下り階段のような急勾配の段差が先に広がっており、それによって突如下方向に開けた形になっている広間には静かに佇むヒル・ジャイアントと喚き合いながら宙を飛んでいる数匹のメフィットの姿があった。

十分な距離がお互いの間にあることを確認し、斥候のウォーフォージドは片手を挙げる。その掌に塗られた塗料は、対応する特殊な加工を施されたレンズを透過することで暗闇でも緑の光を放って見える。彼が小さく円を描くように手を回し、暫くの時間が経過するとその隣には軽装を身に纏った複数の人間たちが並んでいた。

足音を殺すため体の動きを阻害しない程度の薄手の革鎧を身に纏い、さらにその上から体の出す音を吸収する役目を持った外套を羽織っている。矢筒を背負い、手には弓を持っている以外は小剣すら帯びていない。そうやって武装を犠牲にしてまで得た隠密性によって、彼らは戦術的優位を手に入れていた。

幸い洞窟の通路は巨人が容易にすれ違うことが可能なほど広く、人間であれば10人近くが並ぶことが可能だ。その道の幅をいっぱいに活用し一列に並ぶと、彼らは弓を構え音が出ぬように最新の注意を払いながら、蝸牛の歩みほどのゆっくりとした速度で弦を引き絞った。

複合弓のなす二重湾曲に張り詰めたその緊張は、ウォーフォージドの兵がその腕を振り下ろしたことを合図として解き放たれた。弦が震える音が重なり、闇夜に溶け込む黒塗りのアローは宙を舞っていたメフィットたちへと殺到した。硬い果実を踏みつぶしたような音が続き、その仮初の肉体を矢が貫くと火の次元界からの来訪者達は体を崩壊させていく。奇襲から放たれた矢は無警戒に浮遊していた敵に余すところ無く命中し、彼らを撃滅したのだ。

哀れな来訪者たちが最後に発した悲鳴により、ヒル・ジャイアント達はようやく侵入者達に気がついた。だが彼らが丸太の如き棍棒を振り回しながら駆け寄るより速く、その体へも矢が放たれる。しかし彼等のその身の頑健ぶりは、か弱い来訪者のそれとは比較にならない。確かにその大きな体は的としては目立つ。だが分厚い外皮はそれ以上に矢が突き立つことを妨げ、獣の皮をなめした粗末だが厚手の衣服も鎧としての役割を十分に果たしていた。無論全ての矢を防げるわけではない。だが彼等はその矢傷をものともせず、現れた侵入者達へと突進を開始する。

だがその行動は想定通りだ。弓手達は射撃を続けながらも、隣に立つ者どうしが互い違いに前後に並ぶように隊列を組み替えた。そうやって開いた戦列の隙間から、大盾を手にしたウォーフォージドの重戦士たちが飛び出したのだ。配置されている中でも特別に選抜された彼らは、鉄ではなくアダマンティンを素材としており、その装甲の硬さに並ぶものはいない。その体の重さ故に隠密行動に向かず、距離を開けた後方に待機していた彼等は戦闘の開始を合図に、メフィットの悲鳴に紛れて一斉に動き始めていたのだ。

弓兵達を抜き去った彼らは階段の半ばまでたどり着き、そこで盾を構えると巨人の棍棒と激突した。轟音に大気が震え、それ以上に受け止めた盾が震える。階段の段差があるとはいえ、その身長差を覆すほどではない。大地ごと叩き潰さんと振り下ろされたその大質量を、熟練した戦列兵である戦士はその体に盾を固定して踏ん張った。左右に並ぶ盾の友らも叩きつけられた衝撃をいくらかでも引き受けるべく、狙われたウォーフォージドの構える盾に自らの盾を重ねあわせている。一個体の能力では敵わなくとも、制御された一隊としての能力であれば拮抗しうるのだ。

さらに彼らは最終戦争時に自らより大型として建造されていた巨大兵器との戦闘経験を、この大地での対巨人族戦術へと転化させ活かしていた。打撃力で押しきれなかったデカブツたちが取る戦法は概ね同じものだ。それは体格差による蹂躙。ヒル・ジャイアントがその棍棒から一方の手を離し、厄介な戦列兵を取り除くべく腕を伸ばしてくる。その膂力で中核を為す戦士を掴み、放り出そうというのだろう。

だがそれはウォーフォージド達の狙い通りの行動だ。盾を回りこむようして槍が突き出される。それは伸ばされた腕の下を潜ると、外皮の薄い脇の下へと突き立てられた。"創造"のマークを持つカニス氏族が鍛えた槍はその傷口を焼き焦がすように熱を発する。それは火に対する耐性を持たないヒル・ジャイアントに絶叫をあげさせるに十分な痛みだ。戦機を悟り次々と巨人へと武器が叩きつけられ、後方からもここぞとばかりに矢が降り注ぐ。巨人の叫びが途絶え洞窟が戦士たちの勝鬨を上げる声で満たされるまで、長い時間はかからなかった。




† † † † † † † † † † † † † † 




「洞窟の制圧と封鎖はいずれも完了したようだ。これも君たちが今まで前線で戦ってくれたおかげだ。我々だけでは反撃の余力を残すこともなく疲弊しきっていたかもしれないからな」


大きく部隊を展開させた先、巨人達の物資集積点を制圧し設けられた仮設司令部で、秘術兵の念話による状況報告を受け取ったアグリマーがそう語りかけてきた。テーブルの上に広げられた地図の大部分は、既にデニス氏族を示すナイトの駒で占められている。残る例外はひとつ。南西部分に置かれた、赤いビショップの駒だけだ。

他の敵兵達は意気軒昂な戦隊により次々と捕捉、排除されていった。そもそも体格に優れた巨人やトロル、ミノタウロスといった連中が身を隠しておけるところなどそう多くはないのだ。分散の愚を犯したそういった敵兵達は次々と暗闇の中で奇襲を受け、打ち倒されていった。


「今度は我々が君たちを万全な状態で目的地まで送り届けよう。敵副官までの障害は我々が取り除く。

 地上敵戦力の掃討が終わり地下との連絡路を封鎖してしまえば、上空が封鎖されていたとしても安定した補給が受けられるようになるだろう。

 敵の将軍が引き篭っている地下遺跡の探索には冒険者の協力が必要だ。ストームリーチとの連携を行う上で、地上の安全は確保しておきたい」


アグリマーの言葉を聞いて俺は頷きを返した。どうやら作戦は順調に進んでいるようだ。今この"嵐薙砦"の各地では、温存されていたデニス氏族の部隊が戦闘活動を行なっているのだ。次々とあがってくる報告はいずれもがこちらの勝利を伝えるものだ。

単純な火力でこのデニス氏族の駐留軍と俺達を比較した場合、その軍配は俺たちの方へと上がるだろう。だがそれは単に破壊力の比較に過ぎない。殺し合いではなく、陣地の取り合いや補給路の確保を含めた戦線を構築する能力で言えば圧倒的に優れているのは彼らの方だ。

少人数の俺達には占領という作戦行動を行うには不向きだ。またこのレベルの冒険者に依頼するに必要な莫大なコストのことを考えればその使い道は自然と限られる。それは今までやってきたとおり、その少数での類まれなる戦闘火力を活かした破壊工作──暗殺である。


「予定通りというところだな。集結している敵軍に動きは?」


気になる敵の動きについての質問に対して、アグリマーの反応は残念なものだった。首を横に振りつつ息を吐き出し、肩を竦めてみせる。


「こちらの偵察の範囲では特にこれといった動きは見られていない。無論秘術で幻術を看破できるほどの距離まで近づいているわけではないが、それでもある程度規模のある敵兵の集団には変化が見られない。

 丘の三方は背の高い石壁に囲まれていて、移動できる先は北方向に限定されている。そちらには洞窟がひとつ、そして今我々がいる地点へと繋がる通路があるわけだが……不気味なまでに動きがない。

 丘の麓と洞窟の入口に配置している斥候は心術に対する備えをしているし、呪文による支配などを受けて虚偽の報告を上げているとも考え難い。

 おそらく敵には何かの考えがあるのだろうが、それが何かは判断がつかないのだ。無責任な言葉ですまないが、気をつけてくれ」


テーブル越しに差し出された手を握り、がっちりと力を込める。ドラゴンマークを発現させていないにも関わらず最前線の司令官を任されるだけのことはあり、アグリマーの体はよく鍛えられている。だがその本分は戦士ではなく指揮官としてのものだ。最終戦争の終結後も、この大陸に渡って戦い続けたその経験は氏族の中でも有数のものだろう。

そういった優秀な将校をデニス氏族は抱えており、ゼンドリック大陸で諸部族からの侵攻を各地で防衛する任に当たらせている。巨人族以外にも敵対的なドラウや蛇人間ユアンティといった様々な脅威から人類の生活圏を護っているのだ。ここで俺たちが敗北すれば、このアグリマーと彼率いる部隊の多くは失われてしまうだろう。そうならないためにも、ここで俺たちが踏ん張らねばならない。


「そちらこそ。どんな仕掛けが地下に用意されているのかわからない以上、ここだって安全とは限らない。油断しないでくれよ」


言葉と共に笑みを返し、身を翻して天幕を離れる。数歩も歩くうちにそれぞれ時間を潰していた仲間たちが隣や後ろに並ぶ。そんな俺達を待つのは軍馬とそれに跨る重装の戦士たち。カタニ率いるデニス氏族の精鋭部隊の一つだ。


「待ちくたびれたぞ、準備は出来ているな?

 これより我らがお前たちを目的地まで送り届けよう。生憎片道切符だ! 帰り道の迎えは期待してくれるなよ」


彼女の指揮に従う戦士の数は10。従兵は存在せず、その全員が騎兵だ。俺たちがメイの呼び出した《ファントム・スティード》に乗り終えたのを合図に、彼らは整然と陣形を組んで駆け出す。鎧が微かな日光を反射して光る輝きが線を描き、鏃となって敵陣へと進んでいく。俺たちはそんな彼らの中央部で護られるようにして幻馬を駆っている。

崩れ落ちアーチ状の残骸を残すのみとなった壁面跡を乗り越え、整地された開けた空間に出るとそこは巨人達の支配領域だった。トロルの戦士やミノタウロスの術士などが自分たちの勢力圏を誇示するかのようにそこらじゅうを歩きまわっている。だが弾丸のように放たれた騎兵達は一切の躊躇いを持たず愚直に進んでいく。


「突撃!」


カタニの声が高く響き渡った直後、ランスを構えた彼らは散会しそれぞれ敵兵へと向かっていく。軍馬の質量と勢いが十分に乗せられたその鉄の穂先は人間単独で発揮しうる殺傷力を遥かに凌駕した攻撃を敵へと見舞う。車同士が正面衝突したような音が幾重にも鳴り響き、その蹄にかけられた敵兵達は皆物言わぬ骸と成り果てる。まさに文字通りの一撃必殺。再生能力を持つトロルたちも肉片を盛大にまき散らしており、暫くは立ち上がれまい。

勿論その攻撃力を代償に騎馬の移動経路は限りなく直線的となる上に、突撃を行う助走距離が必要なため本来であれば連続で行うものではない。だが今回の場合、敵は範囲魔法による攻撃呪文を警戒してか散会していた。カタニ達騎兵はその空隙を衝いて次々と敵へと突撃を敢行していく。

どこかで敵を撃ち漏らし、反撃されることになればその時点で自分の命が失われるハイリスク・ハイリターンな一撃必殺の戦術とそれに特化した命知らずの突撃兵達。平地での会戦において巨人族を打ち破るためにデニス氏族が鍛え上げた薄く鋭い刃物のような武器──それが彼女たち、デニス氏族の鉄騎兵なのだ。


「突撃による一瞬の破壊力と高速機動による一撃離脱を兼ね備えた攻撃か……確かに非力な人間が巨兵を打ち倒すには理に適った戦法だ。

 その分危険性が高いにも関わらず、乗騎を駆る様子に一切の躊躇が見られない。我が故国も騎兵の練度では名が知られているが、それにも劣らぬ見事な統率ぶりだな」


騎兵達の動きを見ながらエレミアが呟いた声が俺の耳に届いた。彼女の育った"ヴァラナー"は最終戦争で最も恐れられた騎兵隊で知られる国だ。寿命の長いエルフが武芸の研鑽を積んだ時、その技量は人間とは比較にならないものとなる。またヴァラナーは特殊な名馬の産地として知られており、その軍馬は他に倍する速度で戦場を駆けたという。かのヴァダリス氏族が手塩にかけて育てたメイジブレッド・アニマルといえどもそこまでの能力を有することはない。ヴァラナーの騎兵隊、それこそがコーヴェア最強の騎兵集団なのだ。

その国でも今や有数の使い手であるエレミアの目から見ても、このデニス鉄騎兵は相当な練度のようだ。人間相手と巨人相手では戦い方に違いがあるとはいえ、人騎一体となって戦場を駆けるその姿には合い通じるものを感じるのだろう。

しかし敵もやられっぱなしではない。一体のヒル・ジャイアントの指揮により彼らはその密度を増すように密集陣形を取った。前列の兵が突撃で討ち取られたとしても、騎兵が切り返している間に周囲から押し包んでしまおうという作戦なのだろう。倒れた巨大な柱などの構造物を巧みに利用したその陣は迂回することも出来ず、先に進むには突破するしか無い。

本来であればそのような陣形を組めば攻撃呪文のいい的だ。だが全員が重い鎧を着こみ、ランスを構えて暴れまわっている様子から秘術呪文の使い手はいないと考えたのだろう。そしてそうやって整えられた方陣に、楔形の騎兵達が突き刺さった。デニス氏族の鍛えられた槍は真正面から敵に向かって叩きつけられたのだ。

人馬の重量と勢いが乗せられた穂先は、盾や武器といった障害物の一切を無視して自らの慣性に従って押し進んだ。体の中央に炸裂したその一撃は肉体をバラバラに吹き飛ばし、飛び散った四肢が遥か宙を飛んでいく。そして突撃を終えた騎兵に群がろうとした敵兵目掛け、さらに次の騎兵が襲いかかる。激突音が響く度に血と肉片が撒き散らされ、石畳に濃い染みが形作られていく。

しかしその光景も長くは続かない。多勢に無勢、3倍強の敵集団に飛び込んだ騎兵達は敵陣半ばまでその鏃を食い込ませるものの、ついにそこで動きを停止する。巨人達の肉壁がデニス氏族の鍛えた刃を受けきったのだ。振り上げられる無骨な棍棒。だがそれらを振り下ろすより早く、騎兵達の槍から突如秘術の力が溢れ出す。


「ファイア!」


カタニの号令に合わせ、3本の槍の先端から扇状に火が広がった。今まさに嬲ろうとしていた相手から反撃を受けた兵たちは、鼻っ柱を焼かれ攻撃の呼吸を遅らせた。さらに突如発生した霧が騎兵達を包む。濃い霧は騎兵達の姿を覆い隠し、間合いを不確かなものに変える。

《バーニング・ハンズ/火炎双手》に《オブスキュアリング・ミスト/覆い隠す霧》。いずれも低位だが使い勝手の良い秘術呪文だ。どうやらこの騎兵達の半数は"ダスクブレード"──剣技と秘術の境界を黄昏のごとく曖昧にすることでその双方の理を学ぶもの──だったようだ。

視界を塞がれ騎兵に肉薄することを余儀なくされた敵たちは武器を振るうが、それは呼吸を外されたことで全力攻撃からは程遠いものとなる。その攻撃をある者は鎧で受け流し、またある者は手綱を駆って華麗に攻撃を回避する。運悪く攻撃を受けた者もその一撃で倒れるようなことはない。衝撃を自分の体の中で受け流し、致命的な負傷を防ぐ技術を長い経験の中で培っているのだ。そしてそうやって敵の攻撃を凌いだ騎兵達に反撃の時が訪れる。

ランスを捨て流れるような動作で背負い袋から秘術呪文の込められた巻物を取り出したダスクブレード達が、その篭められた力を解放する。巻物を使用する際の精神集中の隙をついて接近したミノタウロスが斧を振るうが、一方の手で握った手綱と馬の胴体を挟み込んだ両足で巧みに乗騎を操って体に刃を触れさせないその姿は見事の一言に尽きる。そしてその直後、完成した呪文は巨大な閃光となって放たれた。


「連なる雷よ、薙ぎ払え!」


霧を断ち割って雷光が疾る。楔形の頂点と中間部、5箇所から前方に向けて放たれたその稲妻は敵の群れに突き立つと炸裂し、その余波が周囲を焼き払う。《チェイン・ライトニング》の呪文だ。そうやって敵集団を薙ぎ払ったその先にいるのは敵の分隊指揮官、ひときわ突き抜けた巨体のヒル・ジャイアントだ。陣の最後方に立つその巨人には荒れ狂う雷撃の余波も届いていない。だがそこに至るまでの道筋は既に切り開かれている。焼け焦げた巨人達の屍を乗り越え、二騎の騎兵が突進する。その構えるランスが直前に疾った雷光を想起させるほどの迷いない一直線の疾走。

"キャヴァリアー"の称号を得たものだけが可能とする必殺の突撃。中でも気高い威風を纏った白い軍馬が接敵の直前で大きく跳躍すると、先ほどの雷光よりも太く、力強い鋼鉄が敵指揮官の頭蓋を抉った。さらに対となるもう一方の騎兵が地を駆け交差する刹那に二撃を繰り出している。頭部と両肺を貫いたそれらの攻撃は周囲の体組織も巻き込んで破壊する。特別な秘法や術に護られていないものが胸部を根こそぎ破壊されて命があるはずもなく、断末魔の叫びを上げることもなくヒル・ジャイアントの指揮官は打ち倒された。


「突破!」


カタニの号令が響く。指揮官が倒されたことで広がる動揺の隙、そこを突いて騎兵達は一気に敵陣を抜けた。残る敵には目もくれず方陣の中央を貫き、一気に駆け抜けた先には不気味な丘が広がっている。


「見送りはここまでだ! 我らは追ってくる連中の足止めを請け負おう。後ろは気にせず、お前たちはあの死霊術師を討て!」


くるりと反転し丘に背を向けたカタニはそう言ってランスを捨て、長剣へと持ち替えた。先ほど武器を捨てたダスクブレード達も乗騎に運搬させていた予備のランスを取り出し、《マジック・ウェポン/魔法の武器》や《キーン・エッジ/鋭き刃》といった呪文で思い思いに武器への付与を行なっている。キャヴァリアー達は指揮官を失いながらも追ってくる敵の方向を睨みつけ、突撃を開始する機会を測っている。

だが敵はそれだけではない。丘の麓には地下へと続く大空洞が大きな口を開けている。その前で炊事当番を行なっていたコボルド達が慌てて暗闇の中へと姿を消したのはつい先ほどのことだ。おそらく連中は増援を連れてくるのだろう。だが騎兵たちに気負いは見られない。やるべき事をただ実行する、その強い意志だけを瞳から放ち口からは何も発しない。


「──ああ、任せたぞ!」


そんな彼らの姿を背に、俺たちは幻馬を丘へと向けた。繰り返された激しい戦いで焼け抉れたその斜面は激しい凹凸と打ち捨てられた死体の山で、普通の馬では騎乗したまま進むことなど出来そうもない。それが強力な破壊力を有するカタニ達鉄騎兵があの場に残った理由の一つだ。空をも駆ける《エーテル・マウント》はそんな足場にも左右されず、道無き道を往く。その先には地獄に見えるこの光景を作り出した丘の主、ファイアー・ジャイアントのパイアス・グルールがおり、彼が頂上からこちらを見下ろしているのが判る。

神殿のような建築物を背に奴は邪悪な笑みを浮かべながら手招きをしている。こちらを視認し、その上でなお余裕を見せつけているのだ。既に他の3人の副官達が討ち取られていることを知っているだろうに変わらぬその態度は巨人族特有の驕りによるものか、それとも何かしらの策があってのものなのか。いずれにせよ、俺たちのやることは決まっている。見上げるその距離は300メートルほどか。相手の能力を測るには都合のいい間合いだ。


「いけ!」


俺が手を振ると魔法具が起動し、眼前に4つの火球が現れた。通常の《ファイアー・ボール》よりも大きなそれは、俺の手振りに応じるように丘の斜面を駆け上がる。今が夜であればまるで地上から飛び立つ流星のように見えたであろうそれは、《メテオ・スウォーム/流星雨》の呪文によるものだ。狙い過たず四つの火球はファイアー・ジャイアントに直撃する。爆音と閃光。離れているこの位置まで空気がビリビリと震えているのが伝わってくる。最高位の呪文だけにその破壊力は相当なものだ。

だがその爆発による砂塵が収まった時、そこに見えるのは直前と変わらぬ姿のファイアー・ジャイアントの姿だ。呪文発動後、駆け寄りながらもその様子を眺めていた俺たちはその状況を見て敵の能力の分析を続ける。先ほどの《メテオ・スォーム》は敵の殺傷を狙ったものではない。呪文によって呼び出された隕石の衝突による衝撃──殴打ダメージが敵に通用するかを確かめたのだ。

(敵の能力は"呪文に対する耐性"のはず──最高位の呪文にも影響を受けないということは一定以下の呪文を抑制する類ではないと考えていい。強力な呪文抵抗を付与されているのか? まだ何手か探りを入れる必要があるな)


念話でメイと情報交換を行いながらも騎馬を操り、敵との距離を詰めるべく動き続けている。さらに俺は《アシッド・アロー》を発動、緑色の球体を先ほどと同じように投げつけた。グリーン・スライムのようにまとわりつき生体を焼き溶かす強酸は確かに巨人へと向かうが、それは命中する直前に掻き消されるように消失した。まるで最初から存在しなかったかのように、痕跡も残らない。


(やはり本来呪文抵抗が不可能な呪文についても解呪されますか……では予定通り、私はフォローに回りますね)


状況を確認したメイはそう言うと用意していたロッドを持ち替えた。敵に直接作用する呪文については効果が望めそうもないことから、戦術を変更するのだ。そんな俺達の様子を見て死霊術師は笑みを浮かべてこちらを挑発する。


「こっちへ来い、小さな友よ。今まで来た奴らと同じようにこの山で朽ち果てるのだ! さあ、来るのだ


二度目の呼びかけは俺達に向けられたものではなかった。巨人の声に応じて、周囲で放置されていた死体が立ち上がり始める。そのほとんどは激しい炎に焼かれたのか肉はなく、残された骨が黒く煤けて見えるスケルトンだ。剣士、弓兵、秘術使い──かつてはこの丘を守り、奪還すべく戦ったデニス氏族の戦士たちの遺体が、敵となって俺達へと牙を向いたのだ。

丘の斜面は見る間に死者の軍勢に埋め尽くされた。メイの呼び出した《エーテル・マウント》達で空を行くことも出来るが、高所を飛べばそれだけ多くの敵から一度に狙われることになる。特に敵に多くの術者や弓兵が混じっているような状況であればそれは自殺行為だ。幻を編んで創られた虚構の幻馬は攻撃に脆い。高速移動中に乗騎が破壊され、投げ出されては一大事だ。幸い地表は瓦礫や地面の陥没などで遮蔽に富んでおり、一度に全ての敵を相手にする必要はない。本音を言えばもう少し距離を詰めておきたかったが、諦めて俺たちは全員が下馬した。

そんな俺達に対して、大量のスケルトンが殺到する。無論彼等の魂は既に死によってドルラーへと向かい、肉体には記憶の残滓が留まっているに過ぎない。だがその蓄積された戦いの経験はアンデッドとして使役される遺体に並外れた戦闘能力を与えている。おそらくはこれも古代巨人族の秘術なのだろう、本来であれば鈍重な動きしか成し得ないはずのスケルトンが生前同様の鋭い剣捌きを見せ、矢を射掛け、秘術のエネルギーを解き放つ。


「こいつらに炎は効かない! 群れている連中は俺の電撃魔法で、単独の奴は各自で対応してくれ。急いで頂上まで駆け上がるぞ!」


掛け声を挙げて外套の飛翔能力で先行しつつ、包囲を開始した敵集団の一角を突き崩さんと秘術使いと思しきスケルトンへ接敵。両手で構えたモールを振り下ろした。死者と対極の存在である生のエネルギーを極限まで凝縮して込められたその緑鉄の大槌はアンデッドモンスターに特に効果的だった。黒く染まった頭蓋に命中するとまるで飴細工のように頭部を粉砕。そのままの勢いで背骨を蒸発させながら股下まで抜け、一撃で敵を文字通り葬った。撒き散らされた肋骨や四肢の骨も武器が放つ"グレーター・ディスラプション"のオーラを受けて光の粒となり消えていく。

そんな俺に続いてエレミアとフィアが周囲に集ってくる骸骨の剣士達へと向かっていき、剣を振るう。瞬く間に数度翻る剣閃は見事にその全てが敵の頚部や脊椎といった箇所を切断し、敵を解体していく。あっというまに周囲の骸骨たちは物言わぬ亡骸へと還り、与えられていた仮初の生命力を散らしていった。そうやって生まれた包囲網の欠損を、メイやルーといった後衛陣を守りながら突破していく。だが敵を数体打ち払った程度ではまったく影響がなさそうだ。丘の斜面の起伏、立ち枯れた木の影、崩壊した遺跡の構造物の隙間──ありとあらゆる死角からスケルトン達が沸き出してくるのだ。


「哀れな生き物だ。自分の立場を守るためにそこまで必死になるとは。それだけの力があれば自らに依って立つことも出来ように。

 その苦行から解き放ってやろう。死による解放がどのようなものであるか、我が手にかかって知るがいい!」


死を告げる声と共に再びスケルトンの群れが大挙して押し寄せる。その中には人間の骨だけではなく、あきらかに大型生物のスケルトンも混ざっている。仲間の死体であれ、関係なく使い潰すつもりのようだ。生きている間は殺し合っていた巨人と人間達が死体になってからは歩調を合わせて俺達へと襲いかかってくる。これが死による解放だというのであれば質の悪い冗談だ。


「いちいち倒していたらキリがないな。ルー、風で呼んで敵を吹き飛ばせないか?」


「……ん、わかった。天つ風よ!


俺の意を汲み取ったルーが自然に語りかけ、その腕を振るう。すると天を覆っていた緑色の雲が裂け、その指先の動きに従うように莫大な大気の塊が丘を押しつぶすように落下してきた。大地に接触し、地表を叩いて揺らすその様はまるで空そのものが落ちてきたかのようだ。セントラル・ブリッジを覆っていた竜巻を何倍にも拡大したかのような規模で空気が荒れ狂う。人型の骨は鉄槌を叩きつけられたかのように砕け、さらに竜巻に飲み込まれて吹き散らされていく。

何よりも驚くべきはミキサーで掻き回されたようなそんな光景の中、俺たちの周囲はエアポケットとして完全に保護されているというところだ。そしてルーの言葉と腕の振りに応じ、大気の狂騒は見る間に姿を変えていく。


──雲の通い路を開け


前へ押し出すように伸ばされたその腕の動きに従って眼前の大気の壁が割れていく。そして出来上がった風の回廊は丘の斜面に沿ってまっすぐ上へと伸びている。その先に見えるは火巨人の死霊術師と、運良く暴風に吹き飛ばされなかった数体のスケルトンの姿のみ。


「見事。仕上げは任せてもらおう!」


エレミアが不安定な地表ではなく空中を蹴って進み、俺とラピスがその後に続く。それを迎え撃つパイアスは不敵な笑みを浮かべてこちらを見下している。移動しながらも数種の呪文を放つが、その全てが水鉄砲のように巨人の体表で虚しく散っていく。そして反撃とばかりにパイアスは掲げた掌を大きく開いた。そこに輝くのは五つの火球。遅延操作可能な火球──《ディレイド・ブラスト・ファイアーボール》だ。維持限界の5つをその五指に宿し、死霊術師はその腕を振り下ろす。


「フェルニアの炎に焼かれるがいい!」


先ほどこちらが放った《メテオ・スウォーム》よりも炸裂半径こそ狭いものの、密度の高い火球が5つ。それらがお互いの尾を絡ませるような軌道を描きながらこちらへと迫る。そして俺たちの陣形の中央で火球同士が接触し、その衝撃で内包しているエネルギーを解き放った。儀式を妨害したとはいえ、炎の海フェルニアは今だこの砦に近しい位置に留まっている。それにより火のエレメントが活発化し、火球は本来発揮し得る最大限の威力を具現化する。

地上に現れた小型の太陽。効果範囲に存在するもの全てを焼き払う死の宣告。おそらくは火に対する耐性を有していないあらゆる生物を殺害しうるエネルギーがそれには篭められていた。だがその炸裂は俺達にまで届かない。炸裂が開始した瞬間、その火球達を包むように力場障壁が現れたのだ。《フォースケージ/力場の檻》と呼ばれる、物理的効果に対する完全耐性を有する障壁。メイの展開したその呪文が、5つの火球の爆発を完全に封じ込めたのだ。

不可視の障壁に熱エネルギーと爆風は完全に押さえ込まれ、呪文によって呼び起こされたそれらは留まることもなく消え去った。後に残されたのは中空に浮かぶ力場の立方体のみ。通常の呪文による解呪であればひとつの火球を掻き消すに留まり、残る4つの火球に焼き殺されていただろう。敵の呪文を洞察し、それを最小の手数で最大限無力化する手段を一瞬で判断して実行する。まさに理想のカウンタースペルだ。


「小癪な、一瞬でドルラーへと渡してやろうという我が慈悲がわからぬようだな……ならば苦しみ抜いて死ぬがいい!」

 
苦々し気なパイアス・グルールの声に応じて、巨人の足元の地面を突き破ってさらにスケルトンが現れた。どうやら余力を残していたようで、それなりの数の黒骨たちが新たに戦闘態勢を取り始めている。剣と盾を持った者たちはこちらへと突進し狭い回廊を塞ぎ、弓を構えた者たちはその場から遠隔攻撃を開始した。その攻撃は俺やラピスにとってはさして脅威ではない。だが後衛であるメイにとっては別だ。《ミラー・イメージ》などによる虚像で敵を欺くにしても運に頼る部分があり、放置するわけにもいかない。そして彼女の支援抜きで先程のような呪文攻撃を受ければ大きな被害が出るだろう。だが俺が判断を下す前に小さな影がひとつ飛び出した。


「敵の剣兵どもは任せよ!」


そう言って突出したフィアはその小剣を振るった。信仰心により切れ味を増したその鋭い刃は黒化した骨を容易に断ち切る。敵を選ばぬ高い殺傷能力と、さらにアンデッドを払うパラディンとしての力を持った彼女は確かにこの骨達の相手をするのに適任だろう。狭い無風の回廊で敵の軍勢を押しとどめるように戦線を形成した彼女の頭上を超え、俺たちは前へと進んだ。絶え間なく射かけられる矢は剣で切り、外套で打ち払ってお返しに弓兵集団へ電撃呪文を打ち込んで薙ぎ払う。時折スケルトンの頭蓋骨を足場に、風の谷間の上半分を不規則な軌道を描きながら跳ねるように先へと進んだ。


「その首、貰い受ける!」


ついにエレミアがその間合いに死霊術師を収めた。あと数歩踏み込んで剣を振るえばその一撃は巨人の体を断ち割るだろう。そして剣の舞い手である彼女にとってその距離は瞬く間に詰められるものだ。だがその間合いを前にして彼女の歩みが止まる。死霊術師を中心に広がった不可視の領域。それが彼女を妨げているのだ。


「我が侍らすは死者のみよ! 生者が我が身に触れることは叶わぬ。

 絶望にその魂を染めて逝け、それが貴様らが選択した結末だ!」


再び巨人の掌に火球の炎が灯り、今度は即座に炸裂した。自分をも効果範囲に巻き込んだその攻撃は、人間の術者であれば自殺行為に等しい所業だ。だがファイアー・ジャイアントにとってはフェルニアの影響によって活性化されたものだといえども、爆風は涼風のようなものだ。周囲の黒骨達も同様、火への完全耐性を有しているからこそ可能な凶悪な呪文攻撃。溜めの時間がないため炸裂した火球は一つだけではあるが、最大化されたその呪文の破壊力は一流の冒険者を殺害するに十分な火力を有している。

だが、それは直撃すればの話だ。今前線に立つ俺とラピス、そしてエレミアは装具や自身の能力としてこういった範囲攻撃の影響を受け流す"身かわし"を備えている。迸るエネルギーの乱流を見極め、あるいは干渉することで飽和攻撃からでさえもその身を守る特殊な体術。特に敏捷に優れた俺たちにとっては、高位の術者の緻密に制御された呪文であっても恐れるには足りない。

しかし敵の攻撃を防いでいるだけでは勝利はない。こちらから攻勢に出なければならない。幸いエレミアの足を止めた呪文については心当たりがある。《アンティライフ・シェル/対生命体防御殻》──その名の通り、命ある存在を一定の距離まで寄せ付けない効果を持った信仰系に属する呪文だ。その間合いは剣や槍より広く、例え武器を持ち替えたとしても接近戦を挑むことは出来ないだろう。

眼前の火巨人は秘術系呪文の使い手だが呪文書に信仰系の呪文を追加する手段が無いわけでもないし、ひょっとしたらオルターダーやインスガドリーアから巻物を調達していたのかも知れない。後者であれば持続時間切れを待つことも選択肢として考えられるかも知れないが、巻物から発動したとしてもそのストックが残っていた場合は受けに回る時間が倍々に増えることとなる。そうなれば消耗は避けられない。そうなる前に片をつけるべきだろう。

役目を果たしたモールを消し、代わってブレスレットから新たな武装をロード。領域のギリギリ、最接近可能な距離まで近づいて投擲した。大きさの異なる2つの十字を互い違いに重ねたような形状の手裏剣。モンクとしての能力を宿したこの身によく馴染むその武器は手から離れてもその秘められた魔力でなお加速を続け、視認も難しいほどの速度で飛んで行く。だがその刃は巨人に触れる寸前、あらぬ方向へと進路をねじ曲げられた。

不可視の風の障壁、《ウインド・ウォール》が射撃攻撃を逸らしたのだ。なるほど、やはり呪文の内容から容易に想像のできる攻撃手段については対策しているようだ。近接攻撃と射撃攻撃を呪文により妨害し、呪文による攻撃は秘石による加護で打ち消す。そのうえ自身の呪文は阻害されずに行使可能。なるほど、ここまで接近されてもなお余裕を失わないその態度の裏にはこういう絡繰があったわけだ。


「剣だろうが矢だろうが、呪文であろうが問題ではない。古の巨人王の秘法、それを目にしたことを光栄に思うがいい!」


死霊術師から負のエネルギーが放たれた。大波のように押し寄せたそれは体内へと浸透すると、全身に倦怠感を引き起こす。足はもつれ走ることができなくなり、武器を振る腕はまるで鉛のように重い。《ウェイヴズ・オヴ・イグゾースチョン/過労の波》によって体内が一気に負のエネルギーで満たされたのだ。こちらの力を削ぐ戦術に切り替えたのだろう。あるいは俺達を嬲るつもりか。だがそれは愚かな選択だ。俺達がここまで距離を詰めた時点で、既に勝負は決しているからだ。

俺が巻物を取り出しその篭められたパワーを解放すると、先ほどとは対極の正のエネルギーが爆発する。《マス・レストレーション》と呼ばれるその呪文は体に蓄積した疲労を抹消し、体は万全の状態を取り戻された。そしてその機敏さを取り戻したラピスが呪文を展開する。こちらの狙いを読んだのか、慌ててパイアスはその呪文を相殺しようと動き始めるが、その相殺呪文は俺が同一の呪文をぶつけることで相殺する。霧散する巨人の呪文構成とは対照的に、ラピスの描く呪文がその回路に魔力を注入され起動した。

すると彼女の周囲にもあるはずの、生者の侵入を妨げるはずの防壁が溶け崩れたかのように道を開いた。《アンティマジック・フィールド》──インスガドリーアの不死性を解呪したのと同じ、超常の力を無効化する空間がラピスを中心に展開されているのだ。確かに秘石の加護は定命の存在の力では解呪できないだろうし、巨人に付与された呪文に対しても解呪抵抗を与えるのかも知れない。だが、その周囲に広がった秘術の領域は護りの対象外だ。それは先程から俺が幾度も放った呪文により確認できている。複数種類の呪文を打ち込むことで秘法の効果範囲や対象といったものを少しずつ調べていたのだ。


「さっきの大口のツケを払いな!」


ラピスの細剣が閃光のごとく疾る。彼女自身も秘術の恩恵を受けられないため、その鋭さは幾分かぬるいものとなる。だがそれですら、巨人の肌を傷つけるには十分だった。膝関節を側面から貫通され、苦痛の叫びをあげる死霊術師の元へさらに双剣を構えた死神が駆け寄る。

ヴァラナー・ダブルシミター。伝説の時代に数多の巨人の首を刎ね、血を啜った英雄の刃が、相応しき担い手の元でその能力を十全に発揮した。彼女がその剣の間合いに巨人を捉えたその次の瞬間、パイアス・グルールの体の複数箇所から血が吹き出す。前衛型であったインスガドリーアさえ瞬く間に切り伏せた彼女にとって、同じ巨人族とはいえ秘術使いの体など麻布と大差ない。俺の呪文火力に匹敵する殺傷能力。ひとたびその間合いに囚われた巨人に生き延びる術は無い。あっという間に地面は巨人から吹き出した血で赤く染まり、そこに横たわって死を待つパイアス・グルールはジャイアント語で罵りの言葉を吐いた。


私が賜った秘法を穢すか、小さい者たちよ。炎の王の名において呪われるがいい!

 お前たちの魂はドルラーの安息に捕らわれること無く、地獄の炎に永久に焼かれる苦行を味わうだろう!



切り裂かれた喉からかすれた声を出す死霊術師。その体は他の副官達と同じように末端から徐々に光の粒へと変わり、空中に溶け消えていく。ヘロスは全身を一瞬で焼き尽くしてしまいチリも残らなかったため確認できなかったが、オルターダーやインスガドリーアも同じような現象を起こしていた。他の巨人族の戦士たちに見られなかったことから、秘法に絡んだ事象なのかもしれない。そう考えている間にも光への転化は続き、残るは首から上のみとなったパイアス・グルールは最後に再び悪態をついた。


私は死によってさらなる力を得る──今度会った時には貴様達の目を抉り出してくれよう!


死霊術師らしい捨て台詞を吐いて消滅する火巨人。副官の最後の一人だというのに、呆気ないものだ。そして跡にはやはり砕けた秘石の破片が落ちている。もしも事前知識なしで戦うことになれば想定外の事態に戦闘が長期化し、スケルトンという物量と高位の秘術呪文使いというアドバンテージを得たパイアス・グルールに苦戦させられたかも知れない。だが手品の種が割れている以上、こちらは無駄なく的確に動くことが出来る。そうなればあとは詰将棋のようなものだ。あるいは創りだしたスケルトンをせめて何体か自身の制御下に置き、こちらの呪文を相殺するなどしていても相当に状況は変わっていただろう。数を増やすことに専念し、質を高めることを怠った死霊術師の失策だ。

他の副官達の例に漏れず、地面に落ちている秘石の破片──"ヴィルブータ・シャード"を拾い上げようとして気付く。石が仄かな光を放っている。何事かと慌てて拾い上げようと腰を屈めた所で、視界を染める色彩が変化した。パイアス・グルールが背負うようにして立っていた遺跡、その入り口付近の空間が渦を巻くように捩れている。その渦の中心から赤い光が迸っているのだ。その光が濃度を変え、宙に渦巻模様を描いている。

幾条かの赤光が溢れ、尾を引いて飛び散った。するとその軌跡にそって炎が踊る。その痕跡はまるで赤光の通ったあとの空間が塗り替えられたかのようだ。いや、真実そうなのだろう。"炎の海フェルニア"──そこは万物が永遠に燃え続ける世界。燃料や空気など不要。ただ、そこでは燃焼という概念がありとあらゆるものに付与されているのだ。地面も空も海も雲も、それぞれは密度の異なる炎の一様態に過ぎない。そんな苦界が、この物質界を切り裂くように侵食しつつあるのだ。


──とにかく、何か手を打たなければ。


誰もが脳裏にそんな考えを走らせる。だがその思考を粉砕するかのように、渦の中心から突如巨大な柱が飛び出してきた。いや、正確には柱ではない。黒曜石と見紛うその漆黒の円柱には、鮮やかな炎に見える毛が生えている。何よりその先端は平面へと変化した後、いくつにも枝分かれしている──それは指、これは、何か巨大な生物の腕なのだ

先ほどまで相対していたファイアー・ジャイアントと比較してその倍以上の太さ。逆算すれば体長は10メートルを越えるであろう体格の持ち主。その腕が渦を貫き、伸ばした指先を握り締める。


──結べ


その音は本来であれば意味など通じぬものであった。にも関わらず、それは聞いたものすべて──人や生物を超え、大地や木石、大気すらへもその意思を認識させる。そしてその言葉の力は世界の有り様をねじ曲げ、変質させる。赤光の軌跡を彩る炎が爆発的に膨らみ、丘を中心とした世界を染め上げた。

赤から白へ。とっさに覆った掌を貫通して莫大な光が目を刺す。視界が奪われたのは一瞬か、それとも数秒か。再び俺が目を開いた時には眼前には巨大な人型生物が立っていた。

先ほどの腕の主。並のファイアー・ジャイアントの倍近い巨躯でその膝の位置は俺の頭よりも高い。ずんぐりとした体格はドワーフを拡大したようなシルエットだが、その引き締まった四肢を見れば力の密度は逆に何倍にも高まっていることがわかる。そして腕の肌同様、赤光に照らされ微かに輝きを帯びた黒い肌は鍛えられた鋼を遥かに越える頑強さを感じさせた。


──新たな炎の王の前であるぞ。ひれ伏すのだ


ファイアー・ジャイアントを率いる将軍が炎の王の後継を宣言し、炎の海フェルニアを纏ってこのストームクリーヴ・アウトポストへと降り立ったのだ。


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