<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12354] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:e809a8c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/01 23:07
太陽がその身を地平線に横たえ、空の色が徐々に黄昏に滲み始めた時にその現象は起こった。視界に広がる森の一帯が蜃気楼のように揺らぎ、波紋が広がる水面のようにその姿を震わせ始めたのだ。それはまるでシャボン玉越しに風景を眺めているかのようだ。

だがその現象は長くは続かなかった。突如揺れの中央部からその揺らぎが吹き飛んだかと思うと、そこには丘が姿を現している。巨石がそこかしこに転がり、背の低い潅木に覆われたその姿は確かに先程までには見当たらなかったものだ。あれが目的の洞窟のある丘なのだろう。


「実際にこうして目にしてみても不思議なもんだね。とんでもない気候の変化ってやつは有名だし知ってたけれど、地形まで変わっちゃうなんてのは随分とデタラメだ」


メイに留守番役を交代してもらったラピスが俺の隣で今の光景の感想を呟いた。確かに、まるで出来のいい幻術を見せられたような気持ちだ。確かに中位の秘術には地形を別のものに見せかける幻術があるが、それにしたって丘一つを覆うことは不可能だ。

それに現実に地形を作り替えたり、差し替えたりするような呪文はさすがに存在しない。神格であればその影響下にある次元界を変動させることで地勢を操作できると聞くが、今俺たちが目にしたのは正にそれに近い現象だったのかもしれない。

広がった森の様子から判断すると、地形は上書きされたのではなく割りこむような形で出現している。はたしてあの瞬間に歪みの中心にいたらどうなってしまうのか等、興味は尽きない。ファルコーはこの"トラベラーの悪戯"とでも言うべき事象を『泡が弾けるよう』と言っていたが、確かに的を射た表現だと思う。ただしその弾けた泡の中から現れたものが問題だ。この高台からヒル・ジャイアントの洞窟までの距離は3kmほど。巨人が速歩で移動すれば10分強でたどり着く距離だ。

いくら何でもそんな距離に敵対的な存在を放置したまま遺跡の発掘を続けられるものではない。ファルコーがいうにはこの現象自体はやがて収まって、あの丘は出現しっぱなしになるらしい。そうなれば余計に圧力は増すだろうし、俺たちに対応を依頼するのも当然のことだろう。


「中腹辺りに見えるのが件の洞窟か。たしかにここから望遠鏡を使えば出入りの状況は確認できる。連中がこちらに気づかないうちに仕掛けるとするか」


そう言って予めメイに召喚してもらっていた幻馬に乗り手綱を引くと馬はその蹄で宙を蹴り、先ほどまで立っていた高台よりもさらに高く舞い上がった。そんな俺に続いてエレミア、ラピス、フィア、ルーの駆る幻馬も駆け上がってくる。夕日の光射す空に舞い上がる5頭の幻馬。これも十分に幻想的な風景ではある。

だが俺の視界にはそう見えているだけで、実際には皆はすでに秘術で姿を消しており敵からは視認できないはずだ。姿を消し中空から一気に攻め寄せてまずは洞窟周辺を制圧する。その後は手早く洞窟内を探索すれば今回の依頼は終了だ。


「さて、それじゃ観光の時間はお終いだ。残った仕事を片付けて、とっとと我が家に帰ろうじゃないか」


目的地付近の空中で短時間の付与呪文を各自に施した後、タイミングを合わせて俺たちは丘の中腹めがけ急降下を開始した。










ゼンドリック漂流記

5-4.レッドウィロー・ルーイン2












上空100メートルに迫った時にそれは起こった。突然降下先に黒点が生じ、大きさを増していく。直観が脳の判断を待たずに体を動かし、手綱から手を切って空中で幻馬から飛び降りる。その判断はどうやら正しかったようで、翻した体を掠めるようにして巨大な物体が通り過ぎていった。

勿論その通過線上に居たはずの幻馬の姿はもはやない。許容量を遥かに超えるダメージを受け、秘術の結合が溶けてしまったのだろう。そこまで理解が及んだ時には既に次の一撃が俺へと襲いかかってきていた。

ブーツに付与された飛行能力で体を制御し、今度は余裕を持って回避することに成功する。さらに通過していくその物体を観測したことでこの襲撃の正体を把握する。これはヒル・ジャイアントの投石攻撃だ。先ほどの黒点は投げつけられた岩塊というわけだ。それを不可視状態の巨人が投げたため、突然岩だけが出現したように見えたのだろう。

しかもそれはただの石ではない。恐ろしいことに彼らはアダマンティンの巨大な鉱石をこちらに投じてきているのだ。投げつけられたそれは一辺が50センチを超えるほどの大きさであり、直撃していれば象すら屠りそうな威力だ。

周囲を見渡してみれば他の皆も既に馬を撃ち落され、事前に付与されていた飛行呪文や魔法具により滑空している。しかし体を覆っている不可視の呪文の効果はまだ残っている。どうやら彼ら巨人達は予め不可視を見通す《シー・インヴィジビリティ/不可視視認》の呪文を準備していたようだ。

一方でこちらは同じく《インヴィジビリティ》により姿を消した巨人の姿を捕らえられておらず、一方的に狙い撃ちされている状況だ。そして幻馬を屠ったことに気を良くしたのかさらに複数の、砲弾と呼んでも構わなさそうな投石攻撃がこちらを襲ってきた。

おそらくは彼らは攻撃後に移動することで位置を隠そうとしているのだろう、今度の攻撃は先ほどの投石とは異なる位置から行われた。俺は飛翔のベクトルを下へ向けることで一気に降下して砲弾の軌道から離れ、丘に着陸して辺りに散らばっている巨石の影に身を隠した。

着地したのが麓側だったため目的の洞窟を見上げるような形になるが、この際贅沢は言っていられない。他の皆も慣れない空中機動を行いながら無事着陸したようだが、敵の砲撃で全員が纏まった位置には落下できなかったようだ。


「どうやら我らの奇襲は露見していたようだな。相手にも腕のいい占術師か司祭がいるのだろう」


すぐに俺の横へエレミアがやってきた。隊列的に先頭を走っていた俺達二人は比較的近い位置に落ちたようだ。他の3人の位置は今の場所からでは見えないが、上空から見ていた地形と直前の状況から大体の状況を察することはできる。同じような遮蔽のある位置に向かったはずだし、その数は多くない。

そして敵のこの迎撃具合を見るに、おそらくエレミアの言ったことは正しい。今も姿を消した巨人たちから俺たちのいる場所へと漆黒の砲弾が間断なく叩きこまれている。その着弾点には岩が砕けた跡だけが残り砲弾は見つからない事から、おそらくはあのアダマンティンの砲弾には"リターニング"の魔法効果が付与されているのだろう。さすがに連中も貴重な鉱石を使い捨てにするつもりはないようだ。

この一連の迎撃の動きは事前準備無しとは思えない。《シー・インヴィジビリティ》の呪文の効果時間は術者の技量にもよるが1時間弱から2時間程度。大勢に予め付与しておくにはピンポイントすぎる。《ディヴィネーション/神託》などの呪文はまさに神の視点から有用な助言を受けることが出来るし、おそらくはそういった占術を使用したのだろう。

今回の場合であれば『黄昏時に空より来る侵入者に注意せよ。不可視への備えが必要になるであろう』くらいの情報が出ていても不思議ではない。ヒル・ジャイアントくらいは余裕だと思っていたが相手は想像以上に入念な準備を整えていたようだ。

しかも今の俺達にはあまり相談に時間を掛けている余裕はなかった。背にしている巨石は今も削岩機で削られているかのように徐々にその身を小さくしていっている。避難場所としては長くはもたないだろうし、早急に打って出る必要がある。

こちらも《シー・インヴィジビリティ》の呪文を用意していなかったことが悔やまれる。《トゥルー・シーイング》を付与するゴーグルがあれば十分だと思っていたが、この効果は36メートルしか及ばない。これほどの長距離で不可視の敵と相対することを想定していなかった俺のミスである。だが、まだ十分に挽回できる範囲だ。


「連中の不可視をどうにかするにはもうちょっと近づく必要がある。俺が突っ込むからエレミアは姿を表した連中を相手してくれ。他の3人も俺が動き出せば合わせてくれるはずだ」


周囲の木や岩を砲弾が砕く轟音響く中、手短に方針を伝えた俺は遮蔽から乗り出し丘を駆け登り始めた。巨人たちまでの距離はおそらく100メートルほどだろう。それだけの距離を詰め、さらに巨人たちの姿を炙り出してやらなければならない。

姿を表した俺目掛け、漆黒の弾幕が殺到した。何もない中空から突如アダマンティンの黒光りする鉱石が射出され、とんでもない勢いでこちらへと向かってくる。その全てが直撃コースということはなく、いくつかはこちらの進路を制限するように火線を集中させている。

静止した砲台であればその場所に火球でも放りこめば済むが、相手もそれをさせまいと頻繁に動き回っている。距離を詰めるために瞬間移動の呪文に頼ればいいと思うかもしれないが、これだけ防備が整えられている拠点であれば何らかの対策がされていると考えたほうがいい。つまり結局の所、俺はこの丘を弾幕を避けつつ駆け上るしか無いというわけだ。

砕けた石で足元は不安定、しかも登りの傾斜もそれなりにあり移動困難な丘での100メートルは普通に考えると非常に遠い距離だ。平地の直線であれば疾走で6秒弱といったところだが、この足場ではその3倍近くの時間がかかる。吹き下ろす風の強さを考えるとさらにその時間は増えるだろう。だがそれだけの時間を与えればその分相手に対応の手段を取らせることになる。それは避けねばならない。

そこで俺は一つ手札を切ることにした。ブレスレットから外套を一つ選択し、今装備しているものと置き換える。それにより"クローク・オヴ・コンフォート"に妨げられていた熱帯特有の熱さが体を包むが、今はそれを気にしている余裕はない。言葉通り心頭滅却して熱気を無視し、そして替わって現れた外套に付与された魔法の効果を起動させる。すると外套は黄昏時の光を反射して煌びやかに輝いた。

微細な金糸で編み上げられた羽が幾重にも重なり、その表面には細かいルビーが散りばめられている。それでいて重量はまるでシルクのように軽い。風を受けてその外套がはためくと俺の体もまるで羽毛になったかのように宙に浮かび上がった。そして俺が地上を走るのと同じ速度で丘の斜面すれすれを飛翔していく!

これは"フェニックス・クローク"という非常に強力なマジックアイテムだ。通常の《フライ》の呪文であればある程度慣性に縛られた機動を余儀なくされるが、このアイテムは違う。望みうる完璧な空中での機動制御を行うことが出来、巨人たちの目を惑わすようなトリッキーな機動であっという間に洞窟の入口近くまで俺を運んでしまう。

そこまで近づいたことで《トゥルー・シーイング》の効果が透明化していた巨人たちの姿を暴きだした。その数6体、俺から見て左右に別れて3体ずつだ。その全員が棍棒を片手に、もう一方の手にアダマンティンの砲弾を構えている。彼らは突出してきた俺へその弾幕を打ち出してきたが、姿さえ見えていれば単なる投石に過ぎない。十分余裕を持って回避できる。そしてさらに俺は状況を一変させるべく呪文を発動させた。


「《グリッターダスト/きらめく微塵》!」


俺が両手に握りこんでいた雲母の飛沫をそれぞれの巨人のグループへと投げつけ、力ある言葉を放つとその粉末は金色の雲となって彼らを包み込んだ。透明化したその表皮が金粉で覆われ、巨人の輪郭が露になる。さらに粉末は巨人たちの目にも飛び込んでおり、彼らは突然視界が金色に覆われたことで盲目状態となったはずだ。先ほどまでとは丁度逆の立場に巨人達は立つことになったのだ。

視界を失った巨人たちに、遅れてやってきたエレミアの刃が襲いかかりその命脈を断つ──そう思われたのだが、なんと巨人は振り下ろされたエレミアの攻撃を持っていた巨大な武器で受け止めた。目が見えていないにも関わらず、彼はしっかりとした動きでエレミアの攻撃に対応したのだ。鋭いダブルシミターの刃がその棍棒の深くまで切り裂くが、無骨な木塊であるそれを両断するには至らず、武器としての機能にさしたる影響を与えたようには見えなかった。


「非視覚的感知か? エレミア、こいつらの目は潰れちゃいない、油断するなよ!」


《グリッター・ダスト》の呪文は手応えからしてもしっかりと効果を発揮していた。おそらくは《ブラインドサイト/擬似視覚》などの別の呪文が付与されているのだろう。これも不可視対策の一環だろうか? 数分しか持続しない呪文までが事前に準備されていることでますますこの戦いが面倒になりそうなことが予想される。しかも今眼前に立つ巨人たちは恐らくは前衛。これらの呪文を付与したであろう術者の姿がまだ見えないのだ。

この状況ではラピスたちと合流すると危険かもしれない。二手に別れることで各個撃破の可能性は増すが、一方が罠に嵌められた時にフォローしてくれる側が必要になる。そう考えた俺はこちらへ向かって別方向から丘を登ってきていた彼女達に簡単な合図でメッセージを伝え、巨人たちへと向かい合った。

少なくともこの6体の巨人は装備からしても使い捨ての兵隊ではなく、相手にとって重要な戦力のはずだ。それをすり潰せば相手に動きが出るはず。俺はエレミアが相手取ったのとは異なるグループの集団へ駆け寄ると手近な一体へと斬りつけた。

振り抜いた"ソード・オヴ・シャドウ"は相変わらずさしたる抵抗もなく相手を切り裂くが流石に巨人の体は大きく、一撃ではクリティカルしたとしても相手を絶命させるには至らない。そして3体から反撃として棍棒の乱舞が相手から繰り出される。二次元の動きでは対応出来ないと判断した俺は空中に飛び上がって回避する。空を飛べるということは単に地形による移動困難を無視するだけではなく、立体的な移動による複雑な戦闘行動を可能にするのだ。

だが俺のその行動すらもひょっとすると敵に予知されていたのかもしれない。身を翻して再び斬りつけようとした時に俺の体は突然吹きつけた暴風によって吹き飛ばされた。先程から吹きつける風が突然その強さを増したのだ。

俺は数メートル空中を押しやられ、そこで地面に叩きつけられた。衝撃自体は大したダメージではないが、口に入った砂利が苦味を伝えてくる。痛みよりもピンポイントすぎる突風の発生に俺の思考は乱された。


(巨人の魔法攻撃──じゃない!? 一体この風の正体は何だ?)


突然の出来事に混乱しつつもすぐに立ち上がって体勢を立て直し、巨人との戦闘を再開しようとするが暴風は一瞬ではなく持続的にこの周囲に吹き荒れているようだ。空中にいた俺と異なり、地に足をつけていたエレミアは吹き飛ばされこそしなかったものの強みである機動力を封じられ、風に耐えるためその場に釘付けにされてしまっている。

そこに叩きつけられる巨人たちの棍棒。巨人たちは多少動きづらそうにしているものの、淀みなく冷静に攻撃を加えているように見える。エレミアは既に1体を倒し、次の敵にも手傷を負わせていたようだがこの暴風によって形勢は逆転している。身動きできない状況で、相手はリーチの差を活かして彼女の武器が届かないところから攻撃してくるのだ。

今はまだダブルシミターで攻撃を逸らして凌いでいるが、じきに腕がもたなくなるだろう。この原因となる風は洞窟の入り口を中心に渦巻いている。この洞窟の中に風を生み出すなんらかの仕掛けがあるのだろう。

おそらくその正体は"住居の守り"と呼ばれるマジックアイテムだ。住居の周囲に風を巻き起こし、敵の侵入を防ぐ効果を持つものだ。その防衛力は特に空を飛ぶクリーチャーに対して有効だが、街中で使える類の品ではないことから自分の家には設置を見送った品でもある。

体格差と暴風を呼ぶ"住居の守り"を活かした戦術。どうやらこれが相手の防衛手段のようだ。吹き飛ばされた俺とは異なり、巨人たちはしっかりと地に足をつけて動き回っている。風を受ける面積は巨人たちのほうが大きいはずだが、それ以上に彼らは重い。その重量が彼らを風で吹き飛ばぬ程度に安定させ、この暴風の中での活動を可能にしているのだ。

緊急事態だと判断しエレミアのところまで転移しようとするが、編み上げた術式は発動するも俺の体はアストラル界に溶けこまず物質界の地面に横たわったままだ。呪文の不発ではなく、転移の制限。おそらくは《アンハロウ》のような結界に次元間移動を制限する呪文が定着されているのだろう。やはりこの一帯には瞬間移動に対する制限がされている!


「愚かな小さき者よ。我らは再び一つとなり、その力をもってお前たちをこの大陸から消し去る。死ね、強奪者め!」


おそらくはこの風を起こしている元凶であろう声が洞窟から響く。その宣告の後にさらに風の勢いが増した。先ほどまでは風速40メートルほどだったものがその倍を超える勢いとなり、周囲に生えていた木がへし折れ吹き飛ばされていく。もはや耳には風の怒号しか聞こえず、巨人たちはいつの間にか姿を消している。


(まだ風が強くなるのか? これ以上はマズい──吹き飛ばされる!!) 


風速は既に100メートルに達し、周囲の全てを巻き上げ薙ぎ払う竜巻が発生していた。俺たちの体も当然それに巻き込まれ、地面ごと吸い上げられると岩石と木のミキサーでかき混ぜられた。激しい殴打に見まわれ、事前に付与していた《ストーンスキン》の保護が貫かれ全身に痛みが広がる。

激しいシェイクに平衡感覚が失われ上下左右も判断出来ず、振り回される。俺は痛みに耐えながら呪文を発動させ自分の傷を癒すが、同じく巻き込まれたはずのエレミアはそうもいかないはずだ。俺の手の届く範囲かせめて視界に映ってくれればまだ対応のしようもあるのだが、この竜巻の中で目が見えるわけもない。彼女にも呪文の護りが幾重にもかけてあるが、そう長くは持たないだろう。

まさかここまで風が強くなるとは。確かこのクエストのボスはクレリック技能持ちのヒル・ジャイアントだったはずだが、そんな程度では済まない資産がこの洞窟の守護には投入されている。コボルド・アソールトでゼアドと遭遇したようなイレギュラーが起こっているようだ。このままだとこの竜巻の中ですり潰されてしまうだろう。最早形振り構っている場合ではない──。

だが俺が全力で抗うことを決意するその直前、突如竜巻が消滅した。唐突な出来事に姿勢を制御することも出来ず、あわや地表に叩きつけられるところだったが俺の体はその直前で柔らかく受け止められていた。


「……出遅れた、ごめんなさい。傷は大丈夫?」


俺を受け止めたのはルーだった。すぐ近くにはエレミアを受け止めたフィアの姿もある。どうやらルーが《コントロール・ウィンズ/風の制御》の呪文で周囲の暴風を抑えつけているようだ。彼女の周囲10メートルほどは完全な無風の領域で包まれている。

その外には未だに竜巻が荒れ狂っておりそれらは俺たち目掛けて突き進んでくるのだが、一定の距離まで近づいた瞬間その風の束は解きほぐされ、そよ風すらも残さない。最高位の風速カテゴリーに属する竜巻を完璧に制御するとは、ルーのドルイドとしての術者の技量は最高峰に達しているということを意味する。つまり彼女のレベルは俺達の中の誰よりも高い、ということだ。


「ああ、助かったよ。これはルーが?」


身長差の都合で横抱きに抱えられていた状態から身を起こし、彼女に尋ねるとルーは小さく頷きを返した。


「私が風を抑えて道を作る。貴方は中の者達の相手を」


そう言ってルーが前方へ腕を差し伸ばすと、俺たちを包んでいた竜巻の壁が割れていき洞窟の入り口への道が作られた。局所嵐のような天候の中、さらにその中心に作られた無風地帯。先ほどまでは到達不可能だと思われていた洞窟の姿が露になり、さらにその内部の風も抑えられているようだ。

そこには先程相対していた巨人たちの姿が見える。どうやら風の護りが失われたことに驚きを隠せないようだ。次々に武器を構えていくが、その動作はどこかぎこちない。こんな事態は想定していなかったのだろう、打って出るか迎え撃つか、それぞれが悩んでいるようだ。そしてその逡巡が彼らの命を縮めることになる。


「先ほどは随分と手厚い歓迎をしてくれたからな。その返礼はせねばなるまい」


風に翻弄されながらも武器を手放さなかったエレミアが立ち上がった。《ストーン・スキン》の保護は既に消えているようだが、そのおかげで深い傷を負わずに済んだようだ。フィアの"レイ・オン・ハンズ"で既に完全に調子を取り戻しているように見える。木々を根こそぎ吹き飛ばす竜巻の猛威も彼女の心までは折れなかったらしい。

エレミアが再び双刃の舞を再開すると巨人は1体また1体と倒れていき、その速度を俺とフィアが加速させる。多少訓練を積んだ程度のヒル・ジャイアントは十全に能力を発揮した俺達の敵ではない。通路を塞ぐように立っていた5人の巨人は俺たちに手傷を負わせることもなく、30秒ほどで壊滅することになった。そして俺たちは息をつく暇もなく奥へと進んでいく。おそらくはこの先にいるだろう敵に対処する時間を与えないためだ。

最低限の注意を仕掛けられているかもしれない罠に払いながら先に進むと、下りの通路を通り抜けた先は鍾乳洞が広がっていた。小さめの野球場程度の広さがある空間で、俺たちはちょうど観客席へと続く通路から現れたような位置にいた。奥への通路もいくつか散見されるが、今注目すべきはすり鉢状に窪んだ広間の中央に立つ巨人たちの姿だ。その数は4体。いずれもが見覚えのない聖印を身につけており、クレリックなのだろうと思われる。


「侵入者め、ここまで入り込んできたか。その魂をカラックに捧げん!」


こちらが視界に入った瞬間、巨人達は投石を放ってきた。今度はアダマンティンではなく普通の岩のようだ──だが、その岩には小細工が仕掛けられていた。その内のいくつかが壁に当たって俺たちの足元へと転がり、表面に刻まれたルーンが俺の視界に映る。


(この文字は……"シンボル"の罠か!)


敵の意図を察したときには既に遅く、意味を読み取られたことで発動した《シンボル・オヴ・ペイン/苦痛のシンボル》が周囲に呪力を撒き散らした。体に纏わり付くそれは触れたところから痛みを与え、判断力や行動を鈍らせようとしてくる。体全体に力を込め、その入り込んでくる異物感に抵抗するとやがて呪力は体の表面で弾かれその影響力を失った。

だがさらに残りの巨人は呪文が発動させて追撃を加えてくる。突如周囲の温度が下がったかと思うと雹が荒れ狂い体へと叩きつけられた。《アイス・ストーム/氷の嵐》の呪文だ。さらに冷気は地表を凍らせ、足取りを重くさせる。あまりの密度に"みかわし"で避けることも適わず、ジリジリとこちらの体力を削ってくる。

敵ながら中々堅実な呪文選択だ。確実にこちらにダメージを蓄積させることを狙い、更に足止めも兼ねている。しかしそんな敵の狙いを一切無視して先へ進む者達が居た。ルーとフィアだ。彼女達の強力な呪文抵抗を破ることは巨人たちにも出来なかったようで、二人が歩みを進めると氷嵐は割れ地表の凍結は溶けていく。特にフィアは段差を物ともせず、苛烈な跳躍で敵集団の中央へと突撃していた。


「倒れるのはお前たちだ。我が一撃を受け汝が神のもとへ赴くがいい!」


精神集中の結果として得られる極度の見切りにより、彼女の繰り出したショートソードはその武器の持つ限界を超えた殺傷力を発揮した。強さと速さと判断力、そして知性もが加わった破壊力が信仰心によって増幅され、打ち込まれた刀身が巨人の肉体を刺し貫いた。武器の軌跡が白と紅の残光として残る。

『ルビー・ナイトメア・ブレード』、彼女特有の武技による瞬間火力を重視した攻撃──言ってしまえば必殺技のようなものだ。その苛烈な攻撃は、巨人の強靭な耐久力に加えさらに付与されていた呪文による防護を消し飛ばし、一撃で相手を絶命させていた。

ただの一撃で同胞を失った巨人たちはその意識を一気にフィアへと引きつけられることとなった。その機動力のため突出することになった彼女に向けて隣接している巨人は棍棒を振り回し、距離が離れている者達は次々と呪文を放つ。

動きを縛る《ホールド・パースン/対人金縛り》や呪いをかける《ビストウ・カース/呪詛》、病魔を呼び起こす《コンテイジョン/伝染病》といった厄介な呪文をフィアは全て持ち前の抵抗力で無力化し、交差するように左右から襲いかかってきた棍棒を完全に回避できないと見るや一方の巨人の手元へと飛び込み、出来るだけダメージを軽減すべく握り手に近い部分で打撃を受けた。

小さな体に体重を遥かに超える武器が叩きつけられたわけだが彼女はその一撃をうけても膝をつくことはなく、戦闘態勢を維持している。そしてフィアの目的はその時点で達せられていた。彼女が稼いだその時間の間で、ルーが巨人たちを射程に捉えていたのだ。この洞窟の中には苔以外の植物は見当たらず、《エンタングル》は使えない。だがそれでも彼女にはまだ敵を制する呪文があるのだ。


「──星の光を束ねし縛鎖よ」


ルーがその腕を広げると、煌く光の帯が巨人たちへと伸びていく。それは彼らに巻き付くとあっという間に四肢を絡めとり、組み伏せてしまったのだ。《ケルプストランド/海藻の縄》の亜種だろうその呪文は巨人たちの抵抗する力にもビクともせず、完璧に捕えてしまっていた。だが巨人たちもそのまま無為に倒れはしない。動きが封じられただけで呪文の詠唱は可能なのだ。


「最後の守護者カラックよ、我らに加護を与え給え!」


巨人は彼らの崇拝する神──コーヴェアのソヴリンホスト信仰では暗黒六帝の一柱であり死と腐敗を司る"キーパー"と同一視される──に祈りを捧げた。《フリーダム・オヴ・ムーブメント》が彼らを束縛から解き放ち、自由になった術者は次々と《ライチャス・マイト/正義の力》や《ディヴァイン・パワー/信仰の力》といった信仰心を戦闘力に変えて自らに付与する呪文を使用した。

前者の呪文は巨人の体格を倍加し、質量は8倍まで膨れ上がらせる。後者の呪文は類稀な筋力強化に加え、戦士の卓越した技術を彼らの身に宿す。ドラウの双子の呪文抵抗を破るのは困難と判断し方針を近接攻撃に切り替えたのだろう。その中でも特に巨体となった一体の巨人が朗々と聖句を歌い上げ祝福を願うと、その巨人の身につけていた聖印が力を放ち彼らに力を与えたのが判った。《リサイテイション/朗唱》の呪文だ。

そしてその支援を受けて残る巨人が棍棒を振るう。もはや壁のような圧力を持って襲いかかる敵の武器は受け流しが通用する規模ではなくなっている。だが双子が稼いだ時間は《アイス・ストーム》に足止めされていた俺達を戦場に運ぶには十分な時間だった。


「スイッチだ!」


声を聞いてフィアとルーが後退し、代わって敵の中央に躍り出た俺に向かって棍棒が叩きつけられる。迫る攻撃は最早壁のようだ。隙間なく視界を埋め尽くしたそれをクロークの力を使い、空を駆け上がることによって回避する。だがそれすら一時凌ぎにすぎない。両側面の巨人から一呼吸の間にそれぞれ四撃が振るわれ、大質量の物体が高速で動き回ることで洞窟の中央部は"住居の守り"をルーが相殺しているにもかかわらずミキサーでかき混ぜたような状態となっていた。

攻撃を続ける巨人たちの戦闘力は狂乱したゼアドに匹敵する。常軌を逸した打撃力だ。巨人が生来持つその戦闘力を信仰呪文により最大限引き出しており、その圧力を身に受けて五体満足でいられる生物など滅多に存在しないはずだ。俺ですら時折竜紋の刻まれたローブの硬度を活かして攻撃を受け流さねばならないほど、この巨人たちの攻撃は鋭く重かった。だが今回はその打撃力が裏目に出ることになる。

3体の巨人は正三角形を描くように位置しお互いを治癒できる間合いを保っている。高位の司祭としての能力も有する巨人たちのその陣形は確かに盤石なもので、力押しで崩すのは厳しいだろう。だが俺はその中の二体にわざと挟み込まれるような位置まで進んだ。さらに"威圧"を行うことでこの巨人たちの注意を俺に引きつける。


「まるで火に飛び込む虫のようだな。死ぬがいい! すぐに仲間も送ってやる、寂しくはないぞ!!」


地の利を得た巨人たちは呼吸を合わせ、俺を挟み撃ちにしてきた。だがそれは俺の狙い通りだ。俺はしばらくその攻撃をやり過ごしてリズムを掴むと、二体の間をフラフラを漂うように動いた。無論それはただの移動などではない。《捕らえがたき標的》と呼ばれる技法により相手の距離感を狂わせる幻惑の歩法だ。

それにより間合いを計りそこねた敵は俺を狙ったはずの攻撃を仲間へと直撃させてしまう。予期せぬ深手を突然負わされた巨人の絶叫が洞窟に響き渡り、絶叫と共にその巨人が俺に向けて繰り出した攻撃もが俺をすり抜けると正しくお返しとばかりに向かい合った巨人へと炸裂した。それらの負傷は残る一体の巨人が行使した治癒呪文により間もなく癒されたが、繰り出す攻撃は次々と仲間を傷つけていく。そのショックたるや生半可なものではないだろう。

俺を殺すつもりで放った攻撃が自らの仲間の肉を抉り、同時にその仲間の攻撃が自分を傷つけているのだ。一度であれば不運な偶然で片付けられたかもしれない。だが武器を振るう度にそれは目の前の人間ではなく向かい合う仲間へと向かう。人間など一撃当たれば殺せるはずだというのにその攻撃はいつまでたっても当たらず、獲物である人間は武器すら抜いていないにも関わらず自分たちはどんどんと負傷していく──。

本来であればエレミアやフィアといった他の仲間を狙うといった発想が出たのだろうが、今この巨人たちは俺の"威圧"を受けたことで俺へと意識を集中させられており他のことが目に入っていないのだ。しかも"威圧"されたことで俺を倒さねば逆に殺されるという意識を植え付けられており、それを避けるには攻撃を続けるしかないというのにその攻撃自体は味方を傷つけるという悪循環。

彼らの心が呪文などによって呼び起こされたのではない、純粋な恐怖によって折れるまでにかかった時間は大したものではなかった。一方の巨人が大きく後退り、包囲を崩した。それにより陣形が崩れ、突出することになったその巨人に向かってエレミアとフィアが襲いかかった。それを横目で確認しながら俺はもう一方の巨人へと攻勢に転じた。今まで棍棒の先端が触れる程度に保っていた距離を縮め、空を駆けて巨人の顔の前へと躍り出る。


「化け物め!」


そう力なく呟いたのを最後に、巨人の頭部は胴体から切り離された。生命力を失った肉体は付与呪文の力を失って元の大きさへと戻りながら地面に崩れ落ちる。流石に一撃では切り落とせなかったが、《ヘイスト/加速》とルーの呪文による支援も加えた四連斬は瞬く間に巨人の生命力を削りとったのだ。もう一方の巨人もエレミアとフィアの集中攻撃を受けて地に伏している。

支援に回っていた最後の一体が範囲回復を行おうにも陣形を崩したことで二体の巨人を効果範囲に含めることが出来ず、躊躇しているうちに仲間たちは治癒の届かぬ骸となってしまっていたのだ。どちらか一方を諦めて残りを生かそうとすれば助けることは出来たかもしれない。だが今となっては既に手遅れだ。


「馬鹿な、こんなことが! ホブゴブリンどもは何をしているのだ、主の危機だぞ!」


一気に劣勢を自覚させられたことでヒル・ジャイアントの司祭はその巨体を震わせながら大音声で叫びを挙げたが彼の望む返事はどこからも返って来ない。その代わりにいつの間に忍び込んでいたのか、奥の通路からラピスが姿を現した。


「偉そうな口上を垂れておいていざとなったらゴブリン達に頼るのかい? 生憎だがそいつらは先にドルラーに逝っちまってるよ。大事なお宝を護らせるならもう少しくらい強い連中を使うことだね」


そう言ったラピスの手には強い魔力を宿したオーブが握られていた。光を脈動させているその宝珠の周囲が歪んで見えるほどの力を放っているのが解る。それを見た巨人はその分厚い外皮に覆われた顔色を変える程に激昂し、怒りの声を挙げる。


「偉大なるストームリーヴァーからの授かりものを、コソ泥風情が手にするなど身の程を知れ。呪いに打たれて死ぬがよい!」


だがその声をラピスはどこ吹く風とばかりに聞き流した。代わりとばかりに掌の上の宝玉をコロコロと動かしたかと思うと一転して握りこみ、その腕を巨人に向かって指し伸ばした。


「じゃあお前はその授かりものとやらで死ぬといい。本望だろう?」


ラピスがそう言葉を発した瞬間、宝玉が光を放ち巨人が膝をついて倒れこんだ。突如洞窟内に発生したダウンバーストが巨人を地面に叩きつけたのだ。


「馬鹿な……我ら選ばれし巨人のみが扱うことを許されし宝具を、奴隷種族などが!」


しかしその声が最後まで俺たちに届くことはなかった。突如発生した竜巻が巨人を飲み込んだのだ。驚くべきことに洞窟という閉鎖空間の中に発生しているにも関わらず、その風は巨人のみを包み込み此方側にはそよ風一つ流れてこない。轟音と目に映る光景だけがその竜巻の存在を伝えてくるその様はまるで映像を鑑賞しているかのように現実感がない。

だがその威力はこの身を持って体験済みだ。様子から察するにあの宝珠がこの住居に風の護りを与えていたマジックアイテムだったのだろう。正面突破以外の手段で洞窟へと侵入したラピスは、住居の護りを無効化し自らの制御下に置いたのだ。巨人はしばらくは竜巻から逃れようともがいてたようだが、やがてその動きは止まった。残ったのは血を吸い込んで赤く染まった竜巻だけだ。


「ふん、外で見たときにも思ったけどゴミ掃除には丁度良さそうだね」


ラピスがそう吐き捨て、伸ばしていた腕を自然体に戻すと竜巻は瞬時に消え去った。含まれていた血が雨のように降り注ぎ、洞窟の一角を赤く染め上げる。それは巨体だけあって人間とは比較にならないほどの量で、窪地に貯まって不気味な水たまりを形成している。

このようにしておそらくトールガンという名前だった巨人族のクレリック、"最後の守護者"カラックの信奉者は哀れな最後を迎えた。彼らが一体どんな企みを隠していたのか、それはこれから残された死体に聞くことになるだろう。

周囲の危険が去り、戦闘が一段落したことを確認した俺はその情報を集めるため、自分が切り落とした巨人の首に向けて歩みを進めるのだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031754016876221