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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 3-5.塔の街:シャーン5
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:58eaed57 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/24 10:57
『ドラゴンアイズ』における"タイランツ"との情報交換を終えた後、俺はメイと合流して《タヴィックス・ランディング》を下層へと降りるリフトに乗っていた。

昨夜メイに占術を使ってもらったのだが結果が芳しくなかったため、今回は直接的な偵察を行ってもらおうと思ったのだ。

既に粗方の事情は説明しており、快く同意してくれた彼女は必要な呪文を準備してくれている。

目指すは《コグ》と呼ばれる、シャーンの塔の基部よりもさらに深い位置にあるエリアだ。

カロン達は「一人目のサイラス」が殺された際に、頭部を失った被害者の蘇生が行えなかった事から既にタルカナン氏族を怪しんでいた。

それというのもタルカナン氏族は"魂の暗殺"を稼業として行っているのだ。

『キーパーズ・ファング』という恐るべき能力を秘めた武器を彼らは所蔵しており、この武器で殺された者は霊魂が邪神キーパーの領域に囚われるため蘇生することが出来ないと言われている。

この情報が確かであれば、俺の有する《トゥルー・リザレクション》でも蘇生することは出来ないだろう。蘇生で身の潔白を証明すると言う手段を選択しなかったのは正解だったようだ。

唯一の手段はデーモン荒野と呼ばれる荒れ果てた土地の地下に存在するというキーパーの神域を訪れ、囚われた魂を開放することだと言われている。まさに伝説級の冒険と言えるだろう。

とてもではないが、今の俺に可能なクエストだとは思えない。

リフトがようやく停止し、《コグ》へと繋がるドアが開くと熱気と煙の匂いが流れ込んできた。薄暗い照明に照らされた長い街路は、煤に覆われて黒ずんでいる。

タルカナン卿がシャーンを壊滅させたとき、地底深くに存在する"炎の地底湖"に通じる水路がいくつも開かれた。そこを通じてここ《コグ》には自然の摂理を超えた温度で煮えたぎる溶岩が沸き上がっているのだ。

その熱を利用してこの地下空間ではアダマンティンを初めとする金属加工が行われているのだ。おびただしい数の溶鉱炉と鋳造所が魔法の力と自然の力を融合し、巨大な工業地帯を作り上げている。

この街区の住人の多くはウォーフォージドであり、彼らは食事も睡眠も必要としないその頑強な肉体をもって昼夜の区別なく働き続けている。

観光客の目には決して触れることの無いこの地下空間が、物理的にも経済的にもシャーンを支えているのだ。

捕縛されたファイアー・エレメンタルが勢い良く炎を吹き上げている溶鉱炉を後目に、俺とメイは上層よりも遥かに細く整備の行き届いていない街路を進む。

俺たちの目的地はここから30分ほど歩いた先、《カイバーズ・ゲート》と呼ばれる街区だ。

直接リフトでは向かえないその街区にある建物の一角に、昨夜遭遇した"腐れの"バルがいるという情報を得たからである。

工業地帯を抜け、地盤を刳り貫かれた道を歩むと目的地と思わしき街区へと到着した。

目に見える住宅も商店も全てが壁のなかに掘り込まれている。天井は思ったよりも高く、5メートルほどか。街路もそれなりの広さを有しているようだ。

街路の暗がりからはゴブリン達がこちらの様子を窺っており、道の先に目をやれば2体のオーガが千鳥足で酒場から出てくるのが見える。

ドロアームからやってきたモンスター系移民がこの街区の主な住人であり、ここにいる誰もが脛に傷を持つ身だ。

ここにいる間は一瞬たりとも警戒を怠ることは出来ない。物陰に潜んでいるのはゴブリンだけではない。

ヴァンパイアやワーラットやラークシャサ、あるいはもっと危険なフィーンドかもしれないのだから……。










ゼンドリック漂流記

3-5.塔の街:シャーン5














地下の空洞はやがて大きく広がった。元は巨大な建築物の広間に相当する部分だったのだろう、苔に覆われた壁面には所々人工的な意匠の痕跡が見受けられる。

こうしたシャーンの基礎部分にある滅んだ文明の遺跡部分は、今では立派なダンジョンを形成している。

人間がここに街を築く前、ここはジャシャーラットと呼ばれるホブゴブリンの都市があった。彼らは塔を建てるのではなく、岩盤を掘り進んで街を建造した。

地下へと掘り進んだ彼らはやがて"炎の地底湖"へと到達し、ダカーン帝国が誇る偉大な戦士たちの武器はその溶岩の熱を利用して作られることとなった。

5,000年を超える繁栄の後、デルキールと彼らが率いる恐怖の軍勢が次元界の壁を抜けてこのエベロンを襲うと、帝国は異形の者たちの前に膝を屈しジャシャーラットは蹂躙され瓦礫の山と化した。

そしてホブゴブリン達はこの地を"嘆きの白刃"──ドゥールシャーラットと呼び、隣の大陸から人間が移住してくるまでの長い間、廃墟として放置されたのである。

今いる地下部分はそういった過去の遺跡の上層部だ。カイバーへと続くと言われる地下空間はダカーン帝国の遺産を求める数多くの冒険者を吸い込み、そして疫病と蟲の大群を吐き出している。

俺が目的とするタルカナン氏族の拠点の一つは、こうした地下遺跡上層部の一角にあった。


「……見張り番をしてる方がいますね~」


メイが作り出した秘術の眼──《アーケイン・アイ》がその拠点内を探っている。秘術エネルギーで編まれたこの不可視の感知器官は術者の意思を受けて小さな隙間から様々なところへ潜り込み、視界を提供する。

このような歴史の重みに耐えかねて崩れつつある建造物であれば、それこそ何箇所にも潜り込む穴があるものだ。

彼女が使用しているこの呪文は、こういった偵察に非常に有用なのだ。俺にはまだ使用できない中位の術であり、彼女の助力は非常にありがたい。

巻物が入手できれば俺にも同じことが出来るのだが、このあたりのレベルの呪文の巻物は既に入手が難しくなってきているのだ。このため入手した巻物を使ってメイに呪文を習得してもらい、彼女に呪文を発動してもらっているというわけである。


「入り口から少し進んだところに左右にドア、武装した方達が待機してらっしゃいます。長剣が3名に弓が1人。

 トーリさんなら問題ないと思いますけど、全員の腕や肩から特異型マークが見えています。どんな能力かまではわかりませんし、注意してくださいね」


念のため距離をおいた状態でこうしてメイに内部の偵察をお願いしている。武闘派組織の拠点ということで、それなりの備えがあるだろうと判断してのことだ。

それに入り口以外の脱出路があるのであればそれを把握しておく必要がある。


「居ました! 昨晩私達を襲ったローブの男性です。

 奥にある部屋の一室で座ったまま目を閉じているみたい」


どうやら目的であるところのバルの所在は確認出来たようだ。瞑想でもしているのだろうか?

モンクの修行は肉体だけではなく、精神の鍛錬も含まれる。磨きあげられた心身は病気や老化を防ぎ、打撃の鋭さはやがて鉄すら貫くようになる。まさに超人といっていい。

目的の人物は発見したが、情報収集はそれで終りではない。呪文の制限時間一杯まで偵察を続け、拠点の大まかな構造や人員の配置を掴む。突入のリスクを最低限にするための労力を惜しむようなことはしない。


「倉庫らしき部屋を調べるよりも先に、戦力を無力化したほうがいいだろうな。

 俺がこの正面から敵を誘い出して撃破しながら進むから、メイは念のため裏口側で待機しておいてくれ。

 増援を呼ばれると厄介だし、しばらくの間無力化してくれればそれでいいから」


とりあえず今回の目的はバルを捕獲し、情報を吸い出すことだ。暗殺者とはいえあれだけの実力者であれば色々と情報を握っているだろうし、何より俺を狙った件からも事情には通じているはずだ。

偵察の結果、中にいるのは10人ほどで非戦闘員の姿はないということが判明した。それであれば半数が裏口に回ったとしてもメイなら一網打尽に出来るはずだ。

ここに盗品を保管していればいいのだが、そうでない場合はすぐに別の場所へ向かうことになる。襲撃の情報が伝達されるような事になれば厄介だろうし、連携は絶っておくべきだ。


「わかりました。それじゃトーリさん、気をつけてくださいね」


お互いの安全を祈った後、メイは《インヴィジビリティ/不可視化》の呪文を詠唱して姿を消すと裏口に通じる通路へと向かっていった。

ゆっくり100ほどを数え、彼女が配置につくまでの時間を待った後に俺は壁際の暗がりに隠れるようにして目指すタルカナン氏族の拠点へと進んでいった。

メイが言った通り、崩れ落ちているかのように見える入り口では確りと手入れされた革鎧に身を包んだ男が周囲を警戒している。

滅多に来客もないであろうこんな場所の見張りにしては彼は熱心に仕事をしているようだ。タルカナン氏族の結束力の強さのあらわれだろうか。

だが、その努力も虚しい結果となる。装備によってブーストされた"隠れ身"の技能により気配を殺した俺の姿は、例え視界に入ったとしてもそれと気付けない程存在が薄れている。

壁沿いに移動した俺は容易に見張りの背後を取ると、手刀の一撃でその意識を刈り取った。崩れ落ちる男の体を支え、通路へと踏み込む。

無駄な音を立てなかったために他の連中が気づいた気配はない。覗き込んだ先は一直線の通路になっており、左右のドアをいくつか超えてしばらく進んだ先に下り階段が続いている。

壁面はところどころに穴が開いており、そこからは部屋にいる連中がカードに興じている声が漏れ聞こえてくる。

足音を殺したまま通路を進み、ドアを開けて即座に部屋の中心部目掛けて《ショックウェーヴ/衝撃波》の呪文を開放した。

左手に握りこんだ小さな水晶玉が砕けると同時に、部屋は浸透性を持つ力場の爆発で埋め尽くされた。

シャーンの街を紹介するサプリメントで追加されたこの呪文は、永続的なダメージを一切与えることなく範囲内の生物の意識のみを奪う。

均一に広がる力場の波動は、ローグのような"身かわし"能力も無効化し頭蓋に浸透すると脳を揺らす。複数の特技により威力を増幅された波動は部屋にいた3人に十分な非致傷ダメージを与えて気絶させる。

この呪文のさらに有用なところは生物以外の物体には働きかけないため、爆発音が出ないことだ。おかげで反対側の部屋の連中は俺の襲撃にまだ気付いていない。

足元まで引っ張ってきていた見張りの男を今しがた掃討の完了した部屋に放り込むと、俺はもう一方の部屋でも同じ作業を行うべく通路を挟んだ位置にあるドアを開いた。



同じような事を3度ほど繰り返した後、俺は階段を降りた下のフロアにある最奥の部屋へとやってきていた。

ドアを押し開けると、その音に反応してか坐禅を組んでいたバルがその瞼を持ち上げるのが見えた。薄暗く今にも崩れそうな部屋の中で、バルの瞳が爛々と輝いているように見える。

袖なしの薄手の服の下で、彼の体を這うように覆っている特異型マークの紋様が赤い輝きを放った。


「よお、昨晩ぶりだな。お邪魔してるぜ」


声をかけながら一気に間合いを詰める。立ち上がる隙を与えずに間合いに捉えたことで、苦々しげな表情でバルはこちらを睨みつけてきた。


「昨晩の男か。招待状を出したつもりは無かったのだがな……。

 ここまで入ってきたということは、昨日のはマグレでは無かったようだな」


立ち上がろうとすればその隙をついて俺の攻撃を受けることが解っているのだろう。バルはこちらの挙動を見逃すまいとしながらも俺に対して口を開いてきた。

ここでバルを打ち倒すことは容易いが、今回の目的は情報収集でもある。俺はまずバルの誤解を解いてやることにした。


「時間を稼いでも無駄だぜ。上にいる連中は今頃いい夢を見ている頃だ。

 運が悪ければ丸一日は眠ったままだろうな」


完璧に不意を突けたことで、この拠点にいたタルカナン氏族の連中はバル以外の全員を既に無力化済みだ。

いくつか凶悪な罠も仕掛けられていたが、発動させなければ張子の虎にも劣る。

裏口で待機してくれているメイには悪いが、今回は出番無しだ。

自然に抜けていく非致傷ダメージとはいえ、適切な治療を受けなければ回復量は微々たるものだ。運悪くクリティカルした衝撃波を喰らった連中は、下手をすれば二日くらい寝込むかもしれない。


「わざわざこんな所まで来たのは、アンタに教えて欲しいことがあったからさ。

 無論、嫌とは言うまいね?」


目的を告げながらもさり気ない動作で腕を一振りし、力ある言葉を解き放った。高速化された《チャーム・パースン/人物魅惑》の呪文が完成し、呪文の発動に気づいたバルが体を起こすよりも先にその心へと侵食していく。

だがさすがはシャーンでも有数の戦闘者。厳しい修練によって鍛えられた鋼の精神が呪文に抗い、人間の限界を超えて強化された知力によって精緻に組み上げられた呪文構成を食い破る。


「マヤカシなど効かんぞ!」


バルは自らを奮い立たせるように大音声でそう叫ぶと、座り込んだその姿勢から突如独楽のように回転し足払いを繰り出してきた。俺がその声と攻撃に押されるように後方に軽く跳躍して足払いを回避すると、それを好機とばかりに立ち上がったバルが追撃を加えてくる。

こちらの呪文を構築する動作を妨害するように、至近距離での攻防が繰り広げられる。モンクとして積んだ修練により指先ひとつの挙動を見落とすことが敗北に繋がる、それだけの破壊力をお互いが有している。

激しい拳打が応酬され、部屋の中にはお互いの攻撃が空を切る音だけが響き渡る。数秒の間に10を超える攻防が行われるがその全てがお互いの体に届いていない。

お互いの攻撃について相手よりも一手先を読むことで打倒しようとする、卓上遊戯のような読み合いが大人の体ですらも容易に屠ることのできる打撃を媒介にして行われる。

技量と手数はバルが圧倒的に上回る。だが俺にはチートによってブーストされた能力値とアイテムが有り、それによる回避能力はそれこそバルの攻撃精度の遙か上を行く。

読み合いが続きお互いが格闘戦において決定打を放てないのであれば、手札にバリエーションの多いこちらに軍配が上がる。バルの妨害を掻い潜って発動された何度目かの魅惑の呪文が鉄壁を誇ったバルの精神防壁に穴を穿ち、一瞬で彼の精神を染め上げた。

呪文の影響により攻撃の手を止めたバルから距離を取り、言葉を投げかける。


「なあバル、組み手はこんなものでいいだろう?

 そろそろ俺がここにやってきた用件に答えてもらいたいんだが」


《チャーム・パースン》の呪文の影響下にあるバルの思考を誘導するように話を組み立てる。今の今まで自分にとってもっとも親しい人物に対して攻撃を行っていた事実がこの言葉によって都合の良いように改変され、バルの口から了承の言葉を引っ張り出す。


「……すまない、少し気合が入りすぎたようだな。

 聞きたいことがあると言ったな? 用件を言ってみろ」


先程までバルの体を満たしていた緊張感はどこかへいってしまったようだ。少し体を動かして再び坐禅を組み、リラックスした姿でバルはこちらへと話しかけてきた。

口調がそれでもぶっきらぼうなのはこの男の個性なのだろう。椅子をすすめられたがそれは断り、ドア近くの壁に背を預けた状態で話を続けた。


「何、昨日の件でね。ひょっとしたら俺の捜し物の在処を知ってるんじゃないかと思ったんだが、知っていたら教えてくれないか?」


俺がそういうと、バルはそのボロボロな唇を強く噛みしめて顔を伏せた。今、彼の心は何故自分は昨夜あのような凶行に及んでしまったのかという悔恨に満ちているはずだ。


「済まない、昨晩の俺はどうかしていた。

 あんな手荒な真似をするつもりは無かった。ただ少し話を聞こうと思っただけなんだ」


こちらから視線を逸らしたままバルは呟く。呪文の抵抗に一度失敗しただけで、高名な暗殺者もこの有様。借りてきた猫のようなおとなしさだ。

即死呪文であればチートアイテムで防げるが、精神を支配する類の呪文を完全に防ぐことは今の俺には出来ない。目の前のバルを眺めながら俺は改めてこの世界の魔法の恐ろしさを感じていた。


「氏族の同胞に関する情報をお前が知っているのではないか、という話があったんだ。

 あるいは我らに対する工作を行っているエージェントではないか、と。それで話を聞きに行ったんだが」


俺がそんなことを考えているうちにもバルの独白は続いていた。そしてその内容は俺の予想と異なった方向へと進んでいる。


「ちょっと待ってくれ、バル。

 昨晩俺にタルカナン氏族がちょっかいを掛けてきたのは、"トワイライト商会"の押し込み強盗の件が関係しているんじゃなかったのか?」


バルの語り口に違和感を感じた俺は、単刀直入に用件を訊ねることにした。ひょっとしたら俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない。


「そうだ。お前が『ウォーデン・タワー』で証言したマークの紋様は、我らの同胞ベリンダが持っていたものに酷似していた。

 我らの紋様は純血などと浮かれている連中のものと違い、同じものなど無い。賜り物は各個人の資質に応じて異なるのだ。

 カニスの連中が作る大量生産品のようなマークを有難がっている連中の低俗さが知れるというものだ!」


マークについて語るバルの口調は荒く、敵意に満ちている。今も純血マークの氏族たちは特異型マークを忌むべき存在として扱っている。

ましてやその特異型マークの結社、タルカナン氏族が相手であれば水面下で激しい闘争が行われていることに疑いはない。


「……話は逸れたが、証言では小柄とはいえ犯人は男だという。それに彼女のマークには塔の壁面を破壊するほどのパワーは無かった。

 であればベリンダとは別人ということになるが、マークの正確な紋様を知るものは同胞の中でも限られている。彼女は滅多にその力を行使しなかったこともあるが……

 いずれにせよ、彼女の行方が知れなくなってから一月近くが経過している。失踪した他の同胞達も含め、初めての手掛かりということもあって、俺が出向くことになったのだ」


バルが呟くように紡ぐその言葉の一つ一つを吟味しながら咀嚼し、自分の脳内で組み上げる。


「つまり、お前たちタルカナン氏族は"トワイライト商会"への襲撃を行っていない。

 何者かが襲撃の罪を氏族に被せようとしていると判断し、俺に接触してきた……そういうことなんだな?」


考えたくない展開だったが、どうやら彼らは"シロ"ということらしい。確かに安直な推測に過ぎなかったが、期待していただけに落胆が激しい。

これで捜査は振出しに戻ったことになる。手掛かりなどもはや皆無と言っていい。こうなっては仕方ないかと指に輝く指輪に意識をやろうとしたが、それは扉の外から伝わってきた音に妨げられた。

厚底の靴が石造りの床を擦る音。一応足音を殺す努力はしているようだがそれよりも速度を重視しているのだろう、複数の足音は真っ直ぐにこの部屋に向かってきているようだ。


「(タルカナン氏族の増援か? 襲撃のことが漏れているとは考えにくいし、定期的な連絡員がいたか単に立ち寄っただけか……いずれにせよ、戦闘は避けられそうにないな)」


まだ気がついていない様子のバルを横目に、さり気なく扉から見えにくい位置へと移動しながら思考を整理する。

タルカナン氏族が商会の襲撃犯でないのなら、これ以上ここにいても得るものはないだろう。速やかに撤収してメイと合流し、次の手を打つ必要がある。

複数相手となると少々面倒ではあるが、ここは衝撃波で気絶させるよりはバル同様に心術で無力化するべきか。今更手遅れな感は否めないが、無闇に敵愾心を煽るようなことは避けておきたい。

幸い、他の連中も気絶しているだけで命を奪ったり体に障害が残るようなことはない。プライドは激しく傷ついただろうが、昨晩の件と合わせればお互い様ということでまだ和解できなくはない範囲だろう。

だが再び《チャーム》呪文の準備を開始した俺の思惑は、強烈なノックによって中断される。石造りの建物に間に合わせで取り付けられた不揃いな木製のドアが、鈍く響く音を発して撓んだ。

扉からは音の原因と思われる、鋭利な金属が顔を出している。それが大型の武器──グレートアックスのものだと気付いた次の瞬間、毛むくじゃらの足が扉を蹴飛ばして伸びてきた。

先程の一撃でガタがきていたのだろう、散り散りに吹き飛んで行く木片の影からは狼面獣身の姿が現れた。先日も出会ったノールという種族だ。

そのノールは鋭い牙を生やした口から涎を滴らせ、血走った目で室内を見回すとバルに向けて両手で構えた斧を叩きつけるように振り下ろした。

だがバルはそんな単調な攻撃を喰らうような男ではない。ドアが破られる時には既に立ち上がっていた彼はその斧の攻撃を紙一重でかわすと、強力な掌打を見舞った。

顎をかち上げるような攻撃を受けたノールは、足の甲を踏み抜かれているために吹き飛ぶことも叶わず首を支点に頭部を後方へと縦回転させる羽目になった。間違いなく頚椎が破壊されている。あれは即死だろう。

だが瞬く間に一体が屠られたにも関わらず、後続のノール達はその勢いを落とさずに部屋へと雪崩込んできた。その数は3体。気配からするに廊下にはもういないようだが、上の階からは乱暴に歩き回る連中の足音が伝わってくる。


「紋様の男だ! 連れ帰れば教祖様は褒めてくださるぞ!」


「腕と足は食っちまって構わないんだろう? 早い者勝ちだ!」


「用済みになったら頭蓋を削って祝杯にするぞ!」



口から欲望をまき散らしながら、バルを囲んだノール達は彼に向かって踊りかかった。


「犬っころ風情が! 貴様等程度がこの俺を囲んだ程度でどうにかしようとは片腹痛いわ!」


バルの周囲をぐるぐると回りながら、3体のノールが波状攻撃を仕掛け始めた。バルは危なげなくそれらの攻撃を回避すると、懐から取り出したポーションを飲み干した。

直後、展開された魔力の力場がバルの体を覆う。《メイジ・アーマー/魔道士の鎧》だ。魔力で編まれた鎧は中装鎧程度の装甲を有しながらも、体の動きを一切妨げることがなくモンク独特の体捌きを可能にする。

立ち回りを開始した連中は放置し、俺は廊下へと抜け出た。おそらくはバルが連中を圧倒するのにそう時間は掛からないだろう。

途切れたと思った手掛かりがこうして向こうから訪ねてきてくれたのだ。この襲撃の指揮官なりを締め上げれば情報を得れるだろう。

気配と足音を殺しながら廊下を進む。どうも連中の狙いはここの氏族のメンバーの身柄のようだ。俺の呪文によって気絶した連中を縛り、運びだそうとしている。

ノールはその外見にそぐわない事に《鋭敏嗅覚》を有していない。装備による補正を得た隠密行動を行っていれば容易に連中に気取られずに進むことが出来た。

だが上のフロアと続く階段へ差し掛かったところで俺は歩みを止めることになった。


「……隠れて逃げ出そうとしている者がいるぞ!」


階段の踊り場に立っていた黒いローブを目深に被った男がしわがれた声で叫ぶと、突然足元に冷たい感触が伝わった。肌を刺すような冷気により、体から力がじわじわと抜けて行くのを感じる。

足元に目をやると、廊下の床から突き出た影が手の形をとって俺の足首を掴んでいるのが見えた。生ける闇のクリーチャー、『シャドウ』だ!

触れた生物から筋力を奪い、殺した対象を同族にしてしまう恐るべき非実体のアンデッドである。

慌てて影の手を振り払い、その場を離脱しようとするが相手は非実体の特性を活かしある時は壁から、ある時は床からその手だけを伸ばしてこちらへの接触攻撃を試みてくる。

何せ、連中は触れるだけでこちらの能力値に直接ダメージを与えてくるのだ。筋力の能力値がゼロになった時に待っているのは死であり、そうやって殺された者はその後シャドウとして蘇るという。そんな未来は御免被る。

狭い廊下では回避するにも限界がある。俺は覚悟を決めると一気に階段を駆け上がった。おそらくこの男が指揮官だろうし、速攻で無力化してここを脱出したほうがいいとの判断だ。

俺にちょっかいを掛けていたシャドウは突如駆け出した俺の速度に追いつけず、後方に置き去りだ。攻撃を受けることを恐れて姿を表さない彼らの移動は壁か床の中を通り抜けるというルートを取る必要があり、制限が多い。

本来は俺と同速な上に完璧な飛行機動性を誇る連中であっても、今はその制限が枷となって俺に追いつくことが出来ない。

《ショックウェーヴ》の射程距離に男をおさめ、力ある言葉を解き放った。階段の踊り場を中心に力場の爆発が巻き起こり、その場にいる生物の脳をシェイクする。

だがローブの男の姿はそこにはなかった。呪文が炸裂するその瞬間、足元の影に溶けるように沈み込むと姿を消したのだ。

影渡り──上級クラス"シャドウダンサー"の持つ特殊能力だ。影を媒介に短距離ではあるが《ディメンジョン・ドア》と同じ瞬間移動を可能にする能力である。

脳裏にその上級クラスのデータが走り、その中の項目の一つを理解した俺は咄嗟に自身にブーツに込められた《フライ》の呪文を使用した。

刺繍された跳ね馬に羽が生えて天馬となると、俺の体は重力から開放されて飛び上がった。

その直後、複数の影が床から盛り上がると俺が直前まで占めていた空間を通り過ぎて天井へと抜けていく。"シャドウダンサー"クラスによって使役されるシャドウの数は最大で3体に至るのだ!


「ほう、我が影の攻撃を凌ぐか。活きがいい素体を処分するのは気が引けるが、今宵は多くの特異型に加えて久々の真正マークも刈り入れることが出来た。

 教祖様も十分にお喜びであろうし、貴様はここで朽ちるがいい!」



声の方向に咄嗟に呪文を放つが、再び影渡りの能力で回避される。次に男が現れたのは俺の背後だ。配下のシャドウ達のように、俺の影を媒介として転移してきたその男は苛烈な連撃を放ってきた。

どうやらこのシャドウダンサーはモンクあがりのようだ。纏わり付くように肉薄することでこちらの選択肢を奪いつつ、折を見て配下のシャドウ達に攻撃させる。

呪文の出掛かりを感じると攻撃を放つことで集中を乱しそれが適わない時には影渡りで逃げる。ゼアド同様、《魔道師退治》の訓練を積んでいるうえに自分は呪文を妨害することに徹底している。


「(自爆覚悟で自分を巻き込んで《ショックウェーヴ》を打つか? 駄目だ、この男との体力の削り合いで勝ったとしてもシャドウが残る。

 先にシャドウを潰さないことにはどうにもならないが、こちらが狙ったシャドウは床に隠れてしまう!)」


相当に連携の訓練を積んでいるのだろう。一糸乱れぬ統率で役割を分担した4体を相手取るこちらは押し込まれる一方だ。

影が床から出た瞬間を叩こうにも、それを察してか影たちは陽動を繰り返してこちらの注意を散らしてくる。

通路よりは広い踊り場だから少しはマシとはいえ、3メートル立方の空間を縦横に動き回りながら慣れない三次元戦闘を行うのは非常に精神をすり減らす行為だ。

ゲームでの戦闘とは違い、シャドウはその体のどの部分でもいいから俺に接触させれば影響を及ぼすことができるようだ。

だが体全体で飛びかかってきてくれれば一刀両断してやるものの、連中は皮一枚掠める程度の攻撃でこちらの移動を阻害・制限しながら連携のとれた攻撃を繰り出してくる。

ブーツの効果で宙を舞い、床や壁から距離をとっているから回避し続けられているものの、この魔法効果による飛行機動性は完璧ではないため回避の動きを優先するとどうしても攻撃を繰り出す余裕が無い。

しかし決定打が無いのは相手も同様だ。このまま耐えていればおそらく下のフロアのノールを片付けたバルがやってくるだろう。

まだ《チャーム・パーソン》の効果が残っている彼が駆けつけてくれれば、連中に隙が生まれるはずだ。そこを突いてアイテムから《デス・ウォード/死からの守り》呪文を発動させることが出来ればシャドウの攻撃は無力化できる。

そうなればローブの男に集中出来るし、1対1であれば十分に捕獲することが可能のはずだ。

だが再び俺の思考は裏切られる。上の階層から新たに現れた気配を察知したと同時に、頭上にある踊り場の天井が崩壊し建物の残骸が降り注いできたのだ。

視界を埋め尽くすかつて天井だったものの破片越しに上のフロアを見ると、そこには赤く輝く特異型マークを腕に宿した男が立っていた。"トワイライト商会"を襲った黒装束の男だ!

そのマークを宿した腕からは強力なエネルギーが吹き荒れており、それが建物の構造を破壊しているのだ。今やこの建物は階段の踊り場だけではなく、全体が崩壊しかかっているようだ。

咄嗟に転移系の呪文で脱出しようにも体に当たる瓦礫が集中を乱し、纏わり付くシャドウ達が落下物を物ともせずにこちらを攻撃してくる。

彼らの主も瓦礫の影からいつでも転移が可能なためか、こちらの妨害を続けている。いつの間にかローブの肩口が裂け、そこからはうごめく繊毛に覆われた長い鞭のような触手が生え、俺を捕らえようとその手を伸ばしてくる。どうやら人間では無かったようだ。

このままだと生き埋めになってしまう。そうなればシャドウ達の攻撃から逃れる術はない。追いつめられて意識が集中しているせいか、コマ送りになった視界には瓦礫に身を隠しながらこちらに手を伸ばしてくる影や触手の姿が映る。

攻撃を受けることは最早避けられない。だがその代償に呪文を行使することはできる。であれば、逃げるべきか敵を撃つべきか。その判断を下そうとしている俺の視界に、再び黒装束の男の姿が映る。

左腕から《ディスインテグレイト》呪文を放出することで建物の崩壊を行った男は、右腕で何か荷物を抱えている。先日の白いザックではない、視界に僅かに映るそれは青い布のようだがその表面はまるで鱗のような独特の刺繍が編み込まれている。


「メイ!」


その姿を認めた瞬間、思考が沸騰した。微かな転移光に包まれながらも消えていく黒装束が右手に抱えているのは仲間のハーフエルフの少女に他ならない。

シャドウ達からの攻撃を受けながら、無駄と判っていながらも短い距離を《ディメンジョン・ホップ》により空間を跳躍し、黒装束の男へと肉薄する。ブレスレットから取り出された片手剣が付与された火炎を撒き散らしながら黒装束の首を刈る。

だが首の皮一枚を斬りつけた時点で男の姿は抱えられたメイと一緒に掻き消えていた。燃え盛るシミターはその勢いのまま宙を薙ぎ、俺を追撃してきていた1体のシャドウを炎上させた。

中空で炎に染め上げられる影というその奇怪なオブジェも、やがて崩れ落ちた瓦礫に覆い隠された。貴重な機会を感情に流されて浪費した代償として、俺の視界が降り注ぐ瓦礫に埋め尽くされるのはその一瞬後の事だった。


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