翌日の早朝。
アマルガムが待つバリケード外へ向かうと、そこには戦闘準備を整えた3人組の姿があった。
「トーリ殿、水臭いではないか。
私は貴方に受けた恩を返すと先祖の霊に誓ったのだ。
勝手にどこかにいかれては困るな」
「あのタコ共には少なくとも頭に四つ穴を開けてやらないと気が済まないからね。
僕も一口乗らせてもらうよ」
「秘術呪文使いのサポートは大事ですよ~
お姉さんの頼れるところを見せちゃいますから!」
うーむ。確かにゲームとは少し状況が異なっているし彼女らの助力は有難い。
おそらくマインドフレイヤーが2体増えており、それにより従えている敵の増加が考えられるのだ。
だがその分確実に危険性は増すのだ。だが、きっと彼女たちはそれも承知の上でここに集まってくれたんだろう。
ここは彼女達の好意に甘えるとしよう。
「よし。それじゃあ俺達の恐ろしさを連中に教育してやるとするか」
ゼンドリック漂流記
1-13.ミザリー・ピーク
アマルガムに先導され、雪の積もるミザリー・ピークの峰をかき分けるようにして進んだ。
日の出直後の時間帯ということもあり、サフアグンの姿もカルティストの姿も見えない。進軍するにはちょうど良い時間だったのだろう。
時折、昼夜厭わず活動している狩人・・・この環境に適応したアイス・スパイダーなどに襲われたが危なげなく切り抜け、ついに頂上付近にある小さな洞窟にたどり着いた。
「わが主はこの先であなた方をお待ちです。
私はここで警戒しています。あなた方にソヴリン・ホストの加護があらんことを」
そう言って彼は立ち止まり、俺達に先に進むように促した。万が一に備えて退路を確保してくれるのだろう。
アマルガムと別れ、薄暗い洞窟を先に進む。
俺とラピスが先頭に立ち中央にメイ、殿にエレミアという隊列である。
しばらく進むと魔法の明かりに照らされたやや広い空間が広がっており、そこにはラースと彼に連れられた3人の冒険者の姿があった。
「ははっ、トーリか。そりゃもう難破船に乗るのはお互いコリゴリだもんな!」
こちらを見るや、その中の1人が声を掛けてきた。
ジーツというハーフリングのローグである。浜辺で倒れている俺を見つけて声を掛けてくれたのが彼だ。
「貴方がこの島で悪を相手に戦い続けてきた活躍には私も励まされましたよ、トーリ。
ですが気をつけてください。今度の戦いでは私は貴方を守ってあげる事ができないわ」
シルヴァー・フレイムのクレリック、セリマス。不慣れな俺を連れてサフアグンの住む洞窟を突破するために数々の呪文で助けてくれた。
「作戦への協力、感謝する。
我々は前回のミッションでもいいチームだった。今回もいいチームであれるよう、力を尽くそう」
ウォーフォージドのソーサラー、タルブロン。強力な呪文の使い手であり、あの時に最も多くのサフアグンを倒したのも彼だった。
彼ら三人は浜辺に打ち上げられていた俺を村まで連れてきてくれた、チュートリアルクエストで一緒だったパーティーである。
「良く来てくれた。
トーリはこの私の仲間に見覚えがあるだろう?
私達のチームが敵の注意を引き付け、おびき出す左手となり。
お前達のチームがマインドフレイヤーの背中にダガーを突き立てる右手となる。
勿論これはたとえ話だが、我々が実際の両手のように連携していなければ今回の作戦は成り立たない」
彼らを代表してラースが作戦を説明してくれるようだ。しかし、彼らは一体いつ知り合っていたんだろうな・・・。
「左手やら右手やらなんのことやら。
判りやすく話してくれよ」
ラピスの態度は少々刺々しい。まぁ嫌悪するシルヴァー・フレイムのクレリックが居るのだ。仕方のないことかもしれないが。
「ではまず状況の説明をするので聞いてくれ。
ドラゴンとカルトさえ無くなってしまえば、サフアグンの脅威など無いに等しい。
そうすればそのうち奴等を海へと追い返せるだろう。
だがあのドラゴンがいる限りはコルソスに未来は無い」
その通りだろう。サフアグン自体は村人よりも単体の戦闘力は高いが、それほどの脅威ではない。
ドラゴンによる島の封鎖、それを何とかすることが出来れば外部からの救援を得ることも出来る。
「そこでドラゴンのことを調査した結果、希望の光が射してきた。
あのドラゴンも自らの意思でサフアグンに力を貸しているわけではない。
マインドフレイヤーに思考を操作され、サフアグンたちを自らの仲間だと思わされて協力させられているのだ」
「確かにマインドフレイヤーの精神操作の力は怖ろしいといいますけど・・・
そんなことが可能なんですか?あれほど歳経たドラゴンにはそういった呪文は効果がないと思ってました」
術者として気になったのだろう、ラースの説明に対してメイが質問をした。
対してラースは大仰に頷いてそれに答える。
「そこが鍵となるのだ。
マインドフレイヤーは魔法のアーティファクト、『マインドサンダー』という物を使って力を増幅している。
そのマインドサンダーを破壊することが出来れば、ドラゴンを操るものから解放させる事が出来るだろう。
そうすれば我々にもチャンスがあるかもしれない」
確かに、理に適った作戦である。
「ということは、我々はその『マインドサンダー』とやらを破壊すればいいということか」
エレミアも真剣にラースの言葉に耳を傾けている。
「そうだ。我々のチームが出来るだけ騒ぎを起して大半の敵の注意を引く。
ドラゴンも我々であれば時間を稼ぐことが出来るだろう。
我々が彼女の注意を引き付けている間に、マインドサンダーを見つけ出して粉々に破壊してくれ」
展開はゲームのシナリオ通りのようだ。特にこちらとしては口を挟む必要もないように思える。
「なるほど。作戦は判った。
俺たちの準備は出来ている。そっちの準備が出来ているなら直にでも始めよう」
今更足りない物資があるわけもなく、俺達のチームは術者としてそれほど実力が高くないことから呪文の持続時間は短い。
呪文による強化はダンジョン内でその場に応じて行うことになるだろう。
「では、私とトーリの間に《テレパシック・ボンド/精神接合》のリンクを繋げるぞ。
大勢には使用できないので私とお前だけの間となる。何か緊急の事態が発生した場合はこのリンクを使用して呼びかけてくれ。
だが、万が一相手に感付かれる恐れもある。使用は最低限に留めてくれ」
そういうとラースはワンドに似た呪文の発動体を行使した。アーティフィサーとしての能力で作り出した使い捨てのマジックアイテムだと思われる。
そのアイテムが発動すると、自分のすぐ近くにラースの存在を感じる。確かに目の前に彼はいるのだが、まるで背後にぴったりと背中合わせで存在するような感覚だ。
おそらくこれが《テレパシック・ボンド》の効果なのだろう。
「では私は皆さんに《レジスト・エナジー/元素抵抗》の呪文で冷気への抵抗を付与しましょう。
こちらに集まってください」
セリマスは範囲型の防御術を使用し、8人全員に一度に冷気抵抗を付与してくれた。
この呪文、ゲームにも採用されていない、TRPGの基本ルールブックにも無い呪文である。
セリマスのような信仰呪文使いは神格より呪文を授かるという話だし、秘術呪文使いには流通していない呪文も扱えるのかもしれない。
「よし、では準備は完了か?
では我々はマインドフレイヤーがお前達に気づかないように働くとしよう。
我々はその左の通路から突入する。
お前たちは右の通路から忍び込んでくれ」
「いくわよ!突撃!!」
「ヘマするんじゃないぞ!俺達がドラゴンの餌になっちまわないようにな!」
「これ以上多くの魂が失われぬために!」
ラースの指示に従い、セリマスらは雄叫びを上げて通路に突入していった。作戦通り派手に動いてくれるようだ。
「よし、俺達も行こう。
万が一マインドフレイヤーと遭遇したら散開するんだ。
連中のマインドブラストで一網打尽にされたら御終いだからな」
ラピスを先頭に、先ほどの隊列でしばらく進む。
幸いにも洞窟内は完全に密閉されているわけではなく、所々から日が差しており特に照明を必要としない。
足音を殺しながら進むと、前方に3人のカルティストを発見した。どうやら連中はまだこちらに気づいていないようだ。
「エレミアと俺の弓で仕留めよう。討ち漏らしはラピス、任せたぞ」
小声で指示するとラピスはそのまま気配を殺しながら連中に近づいていく。
ある程度の距離まで近づくのを見てから、タイミングを合わせ弓を射た。
「ぐ、一体誰・・・?!?」
ディヴァウラーの信徒たちはそれぞれが首から上に矢を生やして地に伏せる。
ラピスは念のため、と連中に止めを刺して回っている。
このくらいの人数であれば不意打ちに成功すればほぼ無抵抗のまま無力化できる。
その後も何度か同じような規模の遭遇を切り抜けたが、先に進むうちについに不意打ちだけではどうにもならなさそうな規模の敵集団に遭遇した。
「アーチャーが高台で警戒しているな。敵の数も多い」
天然洞窟の中に氷で出来たロフトのような構造体が出来上がっており、その上に弓を構えた射手が2人立っている。
しかも嫌らしい事にそこに上がるには一旦ロフトの下を抜けなければ上に繋がる段差がない状態である。
他にも司祭服に身を包んだクレリックと思われる姿があり、階下にも数人のカルティストがいるようだ。
「呪文で援護しますよ~
エレミアちゃんには私が《ジャンプ》の呪文を掛けますので直接上に行って貰いましょう。
トーリさんも上に行って、あの司祭服の方達をお願いします。
ラピスちゃんはその他の人をお願いね」
いい作戦だ。特に司祭服の敵が呪文の使い手だとすると不意打ちで無力化しなければ、何らかの呪文でこちら側の襲撃を離れたところに伝えられかねない。
少し離れた物陰で《ジャンプ》の呪文を付与する・・・どうやら今のでは連中に気付かれなかった様子。
音声要素の必要な呪文は、ある程度の声量での発声が必須なため距離をとって仕切りなおしたのが功を奏したようだ。
幸いこちらの前衛3人は隠行に長けている。
万が一アーチャーに気付かれたときの事を考えてメイにはその離れた場所で待機してもらったまま、物陰に身を隠してギリギリの距離まで近づいた。
(GO!)
ハンドサインでタイミングを合わせ、俺とエレミアは呪文の援護を受けてロフトに飛び上がった。
5メートルほどの助走をつけてから飛び上がった二人は無事上のフロアに乗り込むことに成功。そのままそれぞれのターゲットに急襲を掛けた。
それぞれが1人を斬り伏せたが、そこで敵側に反応がある。どうやら物陰で見えなかった位置に別の司祭服がいたようだ。
「侵入者を殺せ!」
そう叫びながらこちらに向けて呪文を放とうとしている。あの回路には見覚えがある。先日メイが使用した《サモン・モンスター》だ。
味方の数を増やそうとしたのかもしれないが、その選択は悪手である。あの呪文は完成までに何秒もの時間を必要とする。
その間に距離を詰めると、余裕を持ってその首を刎ねる。すると力を注ぎ込まれきられずにいた回路はそのまま霧散していく。
後ろではエレミアが弓から持ち替えさせる暇も与えず、残るアーチャーを倒しているようだ。
既に下からも戦闘音は聞こえてこない。おそらくラピスが上手くやってくれているはずだ。
敵の気配が既に周囲に無いことを確認して、メイに合図を送り合流を促す。
小走りにメイがこちらに駆け寄ってくると、その反対側から前方を偵察に行っていたラピスが戻ってきた。
「この先に石造りの障壁があるね。開閉装置はこの辺りにあるんじゃないかと思うんだけど」
ラピスはそう言いながら高台の壁際付近でなにやらゴソゴソと作業を始め、暫くすると前方から何かが転がるような大きい音が聞こえてくる。
「ある程度の時間で自動で閉まる仕掛けもあるみたいだ。早く通り抜けるとしよう」
ラピスに促され4人一団となって石でできた大きなアーチを駆け抜けると、その直後巨大な石の円盤が回転してそのアーチを塞いだ。
大仰な仕掛けの扉である。開閉のたびに大きな音が立つことからも、近くの敵に感付かれたかもしれない。
アーチのこちら側はわかりやすい位置にレバーがついている。閉じ込められたというオチではないようだ。
アーチを抜けた先は、非常に広い空間が広がっていた。天井まで50メートルはあるのではないか?
今までは洞窟の通路といった感じだったが、ここに来てその横幅も高さも一気に広がった。
どこからか差し込んでいる日の光が雪や氷に反射して空間全体が柔らかな光に包まれている。
荘厳な景色に心奪われそうになるが、この光景に馴染まない不浄な存在が物陰からこちらに近寄ってきた。
「食料だ!」
「貴様らの骨髄をスープのように啜ってくれる!」
腐肉に飢えたグール(食屍鬼)達がこちらに四つん這いの姿勢でにじり寄って来る。
「グールです!
噛み付きには『食屍鬼熱』という病気に感染する危険があります!
それ以外にも爪や牙には麻痺毒があるはずです。注意してください~」
敵の正体を看破したメイから注意が飛ぶ。
防御の薄いメイを扉に押し付けるようにして、周囲を3人で取り囲むように方円陣を敷いて迎え撃つ。
「死に損ない共め・・・
やりづらいなぁもう!」
主に生物の急所を狙うことでダメージを与えているラピスにとっては、既に死んでいるクリーチャーは急所が存在しないため相性が悪い。
虎や熊のライカンスロープであれば高い膂力で粉砕できるのだろうが、彼女はスピードで相手を翻弄するタイプである。
ここは彼女には足止めに徹してもらい、攻撃は俺とエレミアで行うべきだろう。
幸い、アンデッドたちはそれほどHPの高い存在ではない。
暗闇などで奇襲されればその恐るべき特殊能力で苦戦したかもしれないが、この状況であれば落ち着いて戦えば負けは無い。
1体をラピスが引き付けている間に、残った1体をエレミアと攻撃を集中して死体に戻す。後は取り囲んでしまえば楽勝だった。
「やっぱり生身じゃない連中は刺し甲斐がないね。手応えが悪いよ」
死体の放つ悪臭に顔を顰めながらラピスは呟く。一刻も早くこの場を離れたいのだろう、先へと1人で進んでいく。
「この先はこんな連中ばかりかもしれないな。不意打ちには注意しないと」
アンデッドは生物と違い、じっとしていれば臭い以外の手がかりを発さないため潜まれていると事前に聴覚等で感知するのは不可能に近い。
先ほどのように突っかかってきてくれれば良いのだが、中には知恵の回る連中がいないとも限らない。
先行しているラピスを追い、この広い空間に立つ氷の壁や氷柱を避けながら奥へ進むとそこには入り口にあったような大きな石造りのアーチがあった。
この重い扉の両側には2つのシグナル・クリスタルが今はその輝きを失った状態で嵌め込まれている。
広間のどこかにこれを操作する仕掛けがあるかもしれないが・・・。
「うーん、このシグナルにパワーを与えてやれば開く仕掛けだと思う。
仕掛け自体はこの空間のどこかにあるとは思うんだけど」
扉を調べていたラピスも同じ考えのようだ。しかし、これだけの広い空間を探し回るのは効率が悪い。
「時間が惜しい。破壊して進もう」
先ほどと同じ構造だとすると石の分厚さは1メートル弱。ならば無理やり押し通る事も不可能ではない。
3人を後ろに下げると、"ソード・オブ・シャドウ"を取り出して両手で構える。
世界最高硬度を誇るアダマンティン製であり、切れ味についても最高峰であるこの剣にチート筋力が加われば切り裂けるはず。
振り下ろした黒い刃が石壁に吸い込まれると、キィンという澄んだ音がして斬撃が通り抜けた。
1撃での破壊は不可能でも、人が通り抜けるくらいの隙間を切り抜けば良い。そのまま3度グレートソードを振り2メートル四方ほどを刳り貫いた。
「・・・相変わらず怖ろしい切れ味だ。身震いがするな」
以前この大剣を見ているエレミアも少々驚いているようだ。
「その黒い刀身、ひょっとして刃全てがアダマンティン製なのか?」
「凄いですね~。ダガーくらいのサイズであれば見たこともありますけど、両手持ちの大剣でアダマンティン製だなんて。どうやって鍛えたのかしら」
魔法のオーラを隠蔽しているためか、この剣の持つ影のエッセンスの致死性には二人は気付かなかったようだ。
「さあ、先に進もう。早く『マインドサンダー』を破壊しないとラース達がドラゴンの餌に成りかねない」
確かゲームの記憶によればここで折り返し地点くらいのはずだ。
ラース達もその間ずっと戦い続けている訳ではないだろうが、負担は大きいはず。先を急ぐに越したことは無い。
再び細くなった曲がりくねる洞窟をカルティストやアンデッドを排除しながら進んでいくと、再びアーチが見えてきた。
「今度はこちら側にレバーがついているようだな。さっきみたいな無茶をしないで済むのは助かるな」
レバーをラピスに任せ、扉向こうからの奇襲にエレミアと二人で対応するつもりで正面に立つ。
この分厚さの石越しでは反対側の物音なども聞こえないため、待ち伏せされている危険性があるのだ。
だが、スライドしていく石造りの円盤が横に流れていった時、その影から姿を現したのは巨大なドラゴンの姿だった!
距離にして30メートルほど先に、広大な空間の床の上に伏せているその姿は全容を捉えるだけでも一苦労である。
通常のホワイトドラゴンの基準を遥かに超えるその巨体に、数多の白い鱗はその全てが鏡のように磨き上げられており周囲の雪を反射して美しく輝いている。
尻尾の先端まで含めれば全長は20メートルほどであろうか。重量は10トン近いと思わせる巨体である。
ゲームであればここで遠距離からタルブロンが攻撃呪文でドラゴンの気を引いてくれるのだが・・・
(さっきのショートカットで先行しすぎてしまったか?)
未だにラース達がこの広間に到着する気配は無い。
そして絶望的なことに石のアーチが立てるゴロゴロという音に興味を示したのか、白竜は目を開けてその鎌首をこちらに向けた。
巨体に似合わぬ俊敏な動作で立ち上がると、その顎から冷気の奔流を垂れ流しながらこちらに向かって飛翔してきた!
「ドラゴン・ブレスだ! 避けろ!!」
声を掛けるものの、他のメンバーに動く様子は見受けられない。
(く、『畏怖すべき存在』か!?)
歳経た竜が持つこの能力は、ただ竜が存在するだけで敵の心胆を寒からしめる効果を持つ。
おそらく皆あの竜の放つ存在感に打たれて立ち竦んでしまっているのだろう。
(白竜のブレスは円錐形の拡散型・・・扉で遮蔽のあるラピスはまだしも、このままじゃエレミアとメイは直撃だ!)
レバーを操作していたラピスは位置的にブレスの効果範囲外だが、隣に立つエレミアと後ろに居るメイの命はこのままでは無い。
咄嗟に判断し、非常用に準備していた呪文を『高速化』して起動する。
「《ディメンジョン・ホップ/次元跳躍》!」
この呪文は『接触したクリーチャー』を僅かな距離だが瞬間移動させることが出来る。
未熟な今の技術では3メートル程度が限界だが、今のこの状況はそれで十分である。
まずメイをラピスのいる扉の影に送り込み、次に『高速化』と並行して起動していたもう一つの同じ呪文でエレミアを反対側の影に飛ばす。
ここまで行動した時点でドラゴンは彼我の距離を半分にまで詰めていた。
その大きく開けられた口からは凝縮された冷気の奔流が今まさに吹き付けられようとしている!
(南無三!)
装備を変更している暇は無い。作戦前にセリマスの与えてくれた冷気抵抗を信じ、ドラゴン・ブレスをその身に受ける。
だが無防備に受け止めるわけではない。
モンクやローグといったクラスには「身かわし」という特殊な能力があり、こういった範囲攻撃に対してダメージを軽減することが出来る。
こういった爆発などによるエネルギーの奔流は、その威力故に乱流の性質を持つ。
その流れの中で最もエネルギーの影響の少ない地点を把握し、そこに身を踊らせる事によって本来回避不能な範囲攻撃から身を守るのである。
冷気の衝撃波が過ぎ去った後、体の状態を即座にチェックするが特に異常は無い。
呪文による抵抗を上回る冷気のため指先が少々強張っているが、戦闘に支障はないと判断できる。
だが安全地帯にいる三人は今だ身動きが取れそうな状態ではない。
このままここで戦闘を開始すればこの三人を巻き込むことになる。ここは俺1人でこのドラゴンを引き付けなければならない。
(ラース!作戦変更だ)
《テレパシック・ボンド》を通じてラースに呼び掛ける。
(トーリ、どうした。何があった!?)
即座にラースから反応が返ってくる。思考でラースに返事を返しながら、体はドラゴンの横を通り過ぎて反対側へと向かう。
隙ありとホワイトドラゴンは上から首をもたげ噛み付きを行ってくるが、背後から来るその攻撃を強行突破して通り抜けに成功する。
(ホワイトドラゴンに気付かれた!彼女は俺に御執心なようだ。
俺がコイツを引き付けておくからそっちはこちらの他の3人と合流して『マインドサンダー』を破壊してくれ!)
通り抜け様にブレスレットから取り出したワンドを振りかざし、呪文をキャスト。
「《スコーチング・レイ》!」
灼熱の閃光が3本、一直線にドラゴンの巨体に命中する。この距離でこの巨体相手であれば外しようもない!
そのうちの1本は高い呪文抵抗に阻まれ効果を発生させる前に掻き消されてしまったが、2本は確かに命中して白竜の鱗を何枚か焼け落ちさせることに成功した。
弱点である[火]属性の攻撃呪文を受けて怒ったのか、もはやホワイトドラゴンの注意は完全にこちらに向いているようだ。
(おい、トーリ!く、我々も急ぐ。死ぬんじゃないぞ!)
ラースからはその焦ったような言葉の後はもう何も伝わってこなかった。こちらの邪魔にならぬ様、慮ってくれたのだろう。
「こっちだデカブツ!
熱いのをまたお見舞いしてやるぜ!」
引き離すように距離をとりながら射程距離ギリギリで再びワンドから熱光線を放つが、その光線が着弾する直前にドラゴンの巨体全体を呪文の効果が覆うのを感じた。
(《レジスト・エナジー/元素抵抗》による火への抵抗か!)
なるほど、流石は最強の幻想種である。一度衝かれた弱点を放置しておくような甘さはないようだ。
着弾した熱線はその鱗に届く前に呪文による魔法のオーラに軽減され、焦げ跡一つすら鱗に残すことは出来なかった。
こうなっては一先ず距離を稼がなくてはならない。
3人の安全を確保するためにも、開けた空間の反対側へと疾走を続けた。
後ろからはドラゴンが大地を踏み荒らしながら追ってくるのを感じる。
圧倒的な速度を誇る翼による飛翔を行わないのはこちらを嬲るつもりで居るのか。
どんな理由であれ、こちらとしては好都合だ。
ドラゴンの地上移動速度はアイテムで強化したこちらと同程度である。
移動と回避に専念している限り、距離を詰められることはない。
そう考えていると突然足場に違和感を感じた。よく見れば周囲に靄のようなものがかかっており、その範囲内で徐々に地面が凍結していっている!
(拙い。足場が不安定になれば今まで通りのスピードが出せない!)
無論氷上で生活するホワイトドラゴンにはこのような条件は悪影響などない。
おそらくはこの靄すらも、ホワイトドラゴンの作り出した魔法効果に違いない。
足に装備していたブーツを『ストライディング/馳足』による移動距離増幅効果から、不安定な足場でも変わらず移動できる効果のある装備に変更する。
そしてその分の移動距離増幅効果を指輪として装備し、アイテムの組み換えを行ったところでホワイトドラゴンが追いすがってきた!
「GRRRRRR!!!」
噛み付きを横に転がって回避し、次に左右の前腕の爪による薙ぎ払いをバックステップしてやり過ごすと直上から翼の先端が押し潰さんと落下してくる!
巨大な柱が降り注ぐようなその攻撃はギリギリに体を反らしてやり過ごすと、さらにドラゴンは体を回転させ尾による横方向からの面攻撃を仕掛けて来た!
高台に飛び上がって以来維持していた《ジャンプ》呪文の助けを借りて後方の空中に身を躍らせ、ドラゴンからの距離を取るとようやく攻撃は一段落したようだ。
とはいえ彼我の距離は10メートルも離れていない。こちらの攻撃は届かないが、ドラゴンからすれば首を伸ばせば届く範囲であろう。
ドラゴンの攻撃によって舞い上がった雪埃越しに至近距離で彼女を観察する。どうやら頭部に穿孔は見られない。
流石にこの巨体のドラゴンの脳を啜ることは出来ていないようだ。これであればまだ希望はある。
『マインドサンダー』さえ破壊できればドラゴンの怒りは利用してきたマインドフレイヤーに向くはずだ。
そろそろ『畏怖すべき存在』から立ち直ったであろうエレミア達がラースと合流して、やり遂げるまでの間逃げ切ればいい・・・。
肝の冷える近接戦闘をずっと行うことは出来ないが、機会を見て距離を取れば良い。
そう思考を走らせていると雪埃の向こうから強力な魔法が発動されるのを感じた。
今まで見たことのないタイプの回路図である。
(力術系統・・・攻撃呪文か? そのわりにはフィールド系の構成式?)
その疑問は即座に解消された。
竜の雄叫びと同時に、俺を中心とした半径10メートルほどの範囲で凍りついた地面から大量の氷の槍がツララのように立ち上がってくる!
(《フィールド・オブ・アイシィ・レイザーズ/氷槍の平原》か!基本セットにない呪文攻撃、しかも上位呪文じゃないか!)
五感をフル稼働させ、立ち上がる槍の前兆を捕らえることで串刺しになるのを右へ左へと移動することで避けながらドラゴンとの距離を取り続ける。
(呪文を発動した今が好機。一気に距離を稼がせてもらう!)
呪文の発動には精神集中が必要であるため、行使と同時に多くの距離を移動することは出来ない。
槍衾となった地面から脱出すると、勢い良く地面を蹴って走り始める。
ある程度距離を稼いだところで振り返ると、ドラゴンは先ほどと同じ位置で立ち止まっていた。
(・・・何をするつもりだ?)
中距離から遠距離で効果を発揮する呪文は多々存在する。しかもどうやらあのドラゴンは通常のホワイトドラゴンを大幅に上回る秘術呪文使いのようだ。
果たしてどれだけの呪文を貯めこんでいるのか、想像すらできない。
しかし予想以上に距離が離れてしまったことで彼女の発動しようとしている回路模様を読み取ることが出来ない。
そのまま白竜は何らかの呪文を発動しながら、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてきた。
(何の呪文を使っている・・・?)
距離を取るべきかどうか、悩んでいるところでついにその呪文の効果が周囲に影響を及ぼし始めた。
俺を取り囲むように氷の壁が生み出され、逃げ場を塞いでいく。このままでは閉じ込められてしまう!
咄嗟の反応で氷の棺が完成する前に範囲から転がり出たが、その移動した先でもどんどんと氷の壁が生み出され続けている。
(ダメだ、時間稼ぎなんて甘い考えの通じる相手じゃない!このままじゃ追い詰められてジリ貧だ!)
少なくともこの呪文の詠唱を止めなければ遠からず封殺されてしまう。
後の事を考えて余計なダメージを与えないようにしていたが、もう躊躇っている場合ではない。
「《メテオ・スウォーム/流星雨》!」
ブレスレットから強力な呪文がチャージされたアイテムを取り出し、周囲の氷壁を破壊すると同時に呪文の妨害を狙い複数の火球をばら撒く!
狙い通り辺り一面の氷壁は炸裂した火球に焼き払われ、その姿を崩していく。
そして2発の燃え盛る流星がホワイトドラゴンを狙って突き進んで行き・・・そしてその姿を貫通した!
(まさか・・・幻影?五感を全てを惑わすほどの幻術、《プログラムド・イメージ》か!
だとすると本体はどこに・・・・!)
そこまで看破した瞬間、足元の地面が崩落したかと思うと白竜がその顎を広げて大地を割って出現した!
足場を失った状態では回避などできようはずもない。そのまま竜の牙による咀嚼を受け、全身を引き千切られるような痛みが襲う!
それだけに留まらず、顎に捕らえられた状態のまま竜の口内で冷気のブレスがゼロ距離で炸裂した!
その勢いで吹き飛ばされたことにより牙からは逃れられたものの、満足に着地することもできず無様に地面に転がることになる。
(ぐ、そうかホワイトドラゴンは地中を移動する能力があったんだっけ・・・)
セリマスの冷気の加護のおかげでブレスの威力は相当軽減できてはいたが、その前の噛み付きと合わせたダメージはかなりの量だ。
今生き残っているのは数々のHP補正のアイテムと特技、ブーストされた耐久力のおかげである。
そのうちどれ一つ欠けていても生き残ることは出来なかっただろう、それほどのダメージである。
「《テレポート/瞬間移動》」
とある豪族の屋敷から頂戴した設定のアイテムを使用し、一気に距離を取る。
広大なホールの壁面の高所に飛び出た、ギリギリ人一人が立てるスペースの足場に転移する。
このアイテムを使えば村に逃げ帰ることも出来る。だが、そうなっては他の皆の命はないだろう。
彼らの助力なくしてこのクエストを完遂することは出来ない。俺がここで踏ん張ることには意味がある。
まずはHPを回復しなければ。このままでは次どんな軽いダメージを受けても戦闘不能になってしまうだろう。
回復用のポーションをガブ飲みし、同時に回復のワンドを使用して最速でHPの回復を行う。
見れば遠方から今度はドラゴンが低空を飛行しながらこちらへ近づいてくるのが見える。
だが、転移後に装備したアイテムのおかげでまたもやそれが幻術であることが見て取れる。
おそらく本体は床と壁の間を移動し、こちらに奇襲を仕掛けてくるつもりなんだろう。
(だったらそれ相応の出迎えをしてやらなきゃな・・・)
もはや殺すか殺されるかである。回復が終わった後にドラゴンの襲撃に備えて大量のトラップを仕掛けていく。
幻術の竜はその劣悪な飛行性で上昇するため、広い半径で広間一杯をぐるぐると周回しながらじわじわと時間をかけて高度を上げてくる。
良く出来た幻影である。先ほど騙されていても、この挙動を見れば本物であると信じてしまいそうになる。
ともすれば竜が二体居たと錯覚したかもしれない。そこまで繊細に作りこまれたこの呪文はとても美しい。
竜そのものの美しさもあるのだろうが、もはや一種の芸術作品だと言えるだろう。
幻影の竜がある程度の高度に達したとき、壁向こうから押し殺された微かな振動を感じた。どうやらもうそこまでドラゴンは迫っているらしい。
タイミングを図って、20メートルはある高所から幻影の竜目掛けて飛び降りる。
同時に壁面から現れたドラゴンは俺の元居た地点にその牙を叩きつける・・・がそこに既に俺の姿はなく、そこには設置されていた罠、
《ディレイド・ブラスト・ファイアボール/遅発火球》がその牙に反応して盛大な爆発を起す!
維持限界ギリギリの5発の火球は竜の口の中で炸裂し、さしもの巨竜もその威力には耐えかねて突出した勢いのまま地面に向かって落下していく・・・かに見えた。
突然世界がモノクロに変化したかと思うと全てが停止し、その中で唯一ドラゴンの紡ぐ魔力回路だけが姿を次々と変えていく。
(まさか・・・《タイム・ストップ/時間停止》か?!)
存在する中でも最高位の呪文、限定的に時間を停止させ術者の呪文行使のみをその停止した時間の中で行う奇跡の技である。
空中で自由落下をしている状態で停止している俺の周囲に氷の壁を形成する魔力回路が展開されていき、やがてそれは完全に周囲を覆った。
その上から空間移動を抑止する《ディメンジョナル・ロック》の呪文が被せられる。
その状態でさらにフィールド系の力術が氷の壁面を覆っていく。
(全周を壁面で覆った上で、そこから《フィールド・オブ・アイシィ・レイザーズ/氷槍の平原》!
しかも空中では身動きも取れない・・・テレポートによる脱出も不可能・・・耐えられるか?)
しかも1回だけではなく、停止している時間の許す限り何度も何度も氷壁に込められていく氷槍の呪文。
あと体感で数秒後、時間停止が解除された瞬間に氷壁で覆われるこの半径3メートルほどの球体の内部は何千本という氷の槍で満たされるだろう。
(時間が動き始めた瞬間、自爆覚悟で《流星雨》を即時起動・・・氷の壁を吹き飛ばすことが出来ればまだ生き残る目はあるか?)
だが、氷と異なり今俺には火に対する抵抗が付与されていない。上手く氷壁を吹き飛ばしたとしても《流星雨》のダメージだけでも死に至る可能性はある。
最悪の場合、氷壁の内部の密閉空間で発生した高温高圧に焼かれながら槍に貫かれて死ぬかもしれないが・・・
(しかし何もしなければ確実に死ぬ・・・であれば自分で何か出来ることをやってみるべきだ!)
覚悟を決めてその瞬間を待つ・・・だが時間停止が解除される瞬間、周囲を覆っていた呪文回路は掻き消え、ドラゴンもその姿を消した。
空中で身を翻し、落下直前に《フェザー・フォール/軟着陸》の効果をもったアイテムを装備して地面に降り立ったが周囲は静まり返ったままだ。
いつの間にかドラゴンの生み出した《プログラムド・イメージ》の幻影も消え去っている。
(まさかさっきのトラップで死んだってことはないだろうな・・・)
楽観的な考えであるが、それならば詰む直前までいった呪文の効果が霧散したのも説明できる。
だが警戒を解かずに装備の入れ替えを行う。あのドラゴンで真に恐るべきは最高位までの呪文を操る秘術呪文使いとしての実力だ。
であれば、物理攻撃の被弾率を上げることになっても呪文に対する抵抗力を上げるべきだとの判断である。
周囲に壁役の意味も持たせて『アース・エレメンタル』を召喚し、いざとなったらブレスなどに対する遮蔽として使えるように待ち構えた。
だが予想に反して、おそらくは『テレポート』による瞬間移動で姿を現したドラゴンは先ほどまでの闘志に満ちた瞳ではなく、理性的な瞳でこちらを見つめると害意がないことを示すように地に伏せた。
「小さきものよ。お前達はあの姑息なイリシッド達より私を解き放ってくれた。
特にお前は私を前にして逃げず、その知恵と力を持って私に痛手を与えたのだ。
800年ほどの時を過ごしたこの身であるが、これほどの力と勇気を示した者はお前が始めてである。
我が身を救った褒美に、何か一つ願いを言うがいい。
この身に叶えられる事であれば叶えて見せよう」
どうやらエレミア達がマインドサンダーを破壊してくれたようだ。
そのおかげで竜は正気を取り戻し、俺に対する攻撃を止めてくれたということだな。
・・・あと一瞬でも遅ければ俺はおそらく死んでいただろう。ギリギリのタイミングだったようだ。
「その前に一つ聞かせて欲しい。俺の他の仲間達は無事なのか?」
「イリシッドの首魁と対峙していた7人であれば命に別状はない。
一時的に支配されていたことにより混乱はあるやもしれぬが、直に治まるであろう」
どうやら皆生き延びてくれたらしい。これにはホっとさせられた。
・・・しかし願いを一つ、か。
妥当に考えれば《ウィッシュ/望み》の呪文を使ってくれるということだろうか。
であれば、聞くべきことは一つである。
「俺はこの世界の住人じゃない。
俺を元の世界の戻すことは出来るのか?」
その問いに対して竜は一瞬瞳を閉じると、再び瞳を見開いて答えた。
「稀人よ。そなたの世界が何処にあるかは我には掴めぬ。
そなたが帰還するためにはこの世界の、次元界の枠を超えた理解が必要となるであろう。
そしてそれはこの世界の理に縛られた我には出来ぬこと。
そなた自身の手でそれは成されなければならぬ」
・・つまり他人の呪文の効果では帰還することは出来ない。
自分のレベルを上げていけば可能になるかもしれない、という事か。
「故に我はそなたの願いを叶えてやることは出来ぬようだ。だがそなたの恩には報いねばならぬ。
故にそなたがそれを成すことについて、一度の助力をしよう」
そう言うと彼女はこちらに顔を寄せた。その揺らめく顎が大きく開いたかと思うと、金色のブレスが俺の体を覆いつくした。
不思議なことに暖かい熱を感じるが痛みはない。
「そなたに竜の祝福を与えた。わが名『オージルシークス』に連なる竜はそなたに敬意を示すであろう。
また竜の祝福はそなたにさらなる活力を与えるであろう」
ゲーム中でドラゴンの陣営のクエストをこなしていると得られた『ドラコニック・ヴァイタリティー』か。
確かHPが若干増える効果があったはず。また口振りからすると竜がこちらを識別するなんらかの機能があるのかもしれない。
そう語る彼女・・・オージルシークスの背に遠方から矢が飛来して鱗に弾かれるのが見えた。
視線をやると、エレミア達が弓を引いている姿が見える。
・・・どうも今のシーンを見てブレスを浴びせられていると勘違いしたのかな?
幸いなことにオージルシークスは気にしていないようだ。
「ではさらばだ稀人よ。
シベイの天輪が巡る時、また会うこともあろう!」
そう言うと彼女は翼を広げ、一際大きな雄叫びを挙げた。
その音と圧力に吹き飛ばされそうになりながら、踏ん張って別れを告げる。
「ああ、さらばだオージルシークス!
あと、俺の名前はトーリだ!次に会う時まで忘れるんじゃないぞ!」
果たして俺の声は彼女に届いただろうか?
瞬間移動の際の光の煌きを残して消える際の彼女は僅かに口元を歪めていた様な気がする。
まぁ竜の表情なんか判らないので、あれが微笑んでいるのか馬鹿にしているのかなんて見分けはつかないんだけどな。
とりあえずマインドフレイヤー達(竜風にいえばイリシッド)は滅び、ドラゴンは去った。
こちらに駆け寄ってくる7人のほうを見て、俺は疲れを癒すべく雪の積もった地面に身を投げ出して大の字に倒れるのでった。