商人達から離れてから約1日半。
ようやく大きい建物が見えてきた。
おそらくあれが町だろう。
暗闇で先が見えなくなる夜以外はずっと走り続けていた。
…こんな世界じゃ夜に明かりなんて星しかないからなぁ。
ランタンがあったから良かったようなものの、無かったらどうなっていたことか。
このランタンは、火が燈っているわけじゃない。
中には円柱状の光の棒が固定されていて、
それが光源になっている。
というか、このランタンも普通のものではない。
なにせ明かりが燈りっぱなしだ。
便利ではあるんだが。
何か物音や気配があれば、すぐさまランタンをしまい息を殺して隠れた。
なんで逃げなかったのかって?
魔物や獣であれば、逃げても無駄だからだ。
結局追いつかれるし、逆に物音や目で追われる危険が高まる。
この体、走って疲れないで済むのはありがたいがあまり速くは走れない。
正確にはわからないが、50M走で11秒ぐらいではなかろうか。
汗をかかないみたいだから、おそらく匂いでは見つからないだろうしな。
山賊であれば、走って逃げ切れるかもしれない。
しかし、走って疲れないというのが、自分だけなのか、この世界の人すべてなのかすらわからない現状では逃げられない。
もし俺だけならいいが、希望的観測は命取りだ。
隠れていれば、見付からない可能性だってあるのだ。
まぁ、何の荷物も持ってない俺を襲っても利益なんてないけどな!
と、前置きはいろいろ置いたが結局は何事もなかった。
あるいは気のせいだったのかもな、勘が働かないし。
しかしもうそろそろ夕方だ。
早いとき町に着きたいところだ。
しかし思いの他遠い。
結構大きい街なのかもしれん。
見え始めてから結構走り続けているのにまだ着かない。
遠目からだんだん大きくなってきている町は、
周囲をぐるっと砦のような高い壁が囲みこんでいて、易々と進入できないようになっている。
今俺が走っている街道の先は、でかい門に続いており、
開いている門の辺りで衛兵らしき数人が、人の出入りのチェックをしているようだ。
街の出入りってこんなに厳重なものなのか?
魔物が居るからと言えばそうなのかもしれないけど…。
実際にこんな防備を固めているのを見ると圧巻だ。
改めて文明の差と、生活での危険性を認識した。
物珍しげに城壁と人々の格好を観察しているとすでに門の前に着いていた。
ここでこれ以上こうしていても仕方ないし、早く門から町に入ろう。
ふぅ、特に衛兵には見咎められなかったな。
「用無き者は入れられぬ」とか言われるたらどうしようかとヒヤヒヤしてたんだが。
壁の中の町は活気に満ちていた。
外国に行ったことがなくてもわかる、明らかな西洋風の町並みだ。
相当発展していることが伺える。
人も多いし、地球の中世ヨーロッパのように窓から糞尿を捨てている様子もない。
下水道は完備されているようだ。
これが一番嬉しかったかもしれない。
さて、奥のほうに見えるあからさまにでかい建物が学校なのかな?
街の名前になるくらいだ、一度見ておいて損は無い。
そちらに進むとさっきまで見えなかった同規模の建物がいくつかあるのに気づく。
これみんな学校か?
校門と思わしき場所に何か書いてある。
なになに、
『イスタディア魔法学校 ここからさきは学校関係者以外立ち入り禁止』
『至高神エリア神学校 ここからさきは(ry』
『イスタディア商業学校 ここから(ry』
『ラギア王国国立騎士学校 ここ(ry』
…さすが学術都市。
結構な種類があるね。
さて、最初の目的地である街には無事つくことができた。
お次は…。
お金稼ぎと情報収集かな。
これから何をしようにもお金がかかる。
それに…
「今、一文無しだから。宿に止まるお金もないし…」
ハァ…。
こっちに来てから溜息ばかりついている気がする。
とりあえずの目標は決まった。
住み込みで働けるところを探さないとな。
とりあえず人手不足そうな食べ物系の店行ってみるか。
…
……
…………
「すまんな。うちは、仕事も出来ないヤツを雇う余裕のある店じゃない」
え?
「何枚皿割ってやがるッ!出て行けッ、この役立たず!!」
あら?
「ごめんね、あなた仕事遅すぎるの。もうちょっと自分で家事してから来て頂戴ね?」
なん…だと…?
…おかしい。
何でだ。
いくら現代人の俺とは言え、皿洗いや給仕くらい普通に出来るし、バイトの経験くらいある。
今まで自分のアパートで一人暮らししてたのに、簡単な料理すら出来なくなってる。
今までで考えられないほどの不器用になってる…。
いくらなんでもこれは変だ。
「こんなことまで技能不足なのか…?」
いや、そういうわけじゃない。
時間はかかるが出来ないわけでもなかった。
皿は割ってしまったけど…。
技能以外で関係ありそうだというと。
「ステータス確認」
頭の中に文字が流れる。
これか!
ステータスの器用さ。
しかしわかっても手がない。
ステータスを上げるにはレベルを上げなきゃならない。
そのためには装備や技能がいる。
でも、装備を買う金もない。
なら手は一つ。
「技能か」
しかし、技能には限界がある。
無駄な技能は上げられない。
これから必要になりそうで、更にお金になる技能を考えなきゃ行けない…。
その上でどうやってその技能を取るかも考える必要がある…。
それよりまずは、宿に泊まろう…。
食事なしの宿代ぐらいは小屋の家具を売れば何とかなるだろ…。
所持金変動
バイト1 +10
バイト2 +0
バイト3 +60
椅子売却 +50×2
テーブル +200
宿代 -150
合計 残220ガット