あれからしばらく。
座って休んでいるんだが、全然足の痛みが消えない…。
HPを確認。
やはり7のままだ。
どうやら座って休んだ位じゃ回復してくれないらしい。
しばらく寝転んでみる。
やはり回復はない。
自然回復は無しなんだろうか…?
かといって回復ポーションなんてない。
そんなの持ってたらとっくに使ってる。
残るはRPGゲームの定番回復手段にして今思いつく最後の手しかないな。
まずは枕を出して…
痛みを無視してそのまま寝る!
…
……
目が覚めた。
あれだけ響いていた痛みはきれいさっぱり消えた。
足に触れてみてもなんともない。
ということは…。
お、全回復してる。
それにしても、一回寝たぐらいで全回復とは…。
この体のせいで見えないが、狼に深く噛まれたはずのダメージが1日で治るはずが無い。
つくづくゲームとは理不尽だな。
しかし、こんな重要な選択を外してしまうとは…。
あれ? そういえば勘、直感って技能なのだろうか?
…ステータスによると今の技能は無しってことになってる。
もしかして体が替わったせいで今までの技能、というか特技も無くなった…のか。
思い当たる節もなくはない。
『シオン』になってアイテム取り出そうとしたときに全然見当違いの事やって時間を無駄にしたり、こうなった原因にちっとも勘が働かなかったり…。
くそっ。
この体のおかげで逃げ切れたと思って少しは感謝してたのに。
死にそうになった原因もやっぱりこの体のせいじゃないか!
「あぁ、もうなんだこれ」
溜息。そして深呼吸。
落ち着け。イライラしたところで時間の無駄だ。
この体は利点ばかりじゃないってことを認識しただけでも価値がある。
そう考えよう。
よし、体力も回復したことだしそろそろ小屋の左手側の道から先に進むか。
疲れないことだし走りながらな。
左の道は右手側の道とは異なり、進んでいくとだんだん道幅が広くなってきた。
心なしか、植物の密集率も下がってきている。
よし、やはり道なりに進んで正解だったようだ。
木々を掻き分け走り抜ける。
だんだん木が疎らになっていく。
そのまま道を真っ直ぐに辿ると、ついには森を抜けた。
ふぅ。
やっと餌にされる恐怖からは開放された。
視界が開けているだけでこんなに安心できるとは…。
後は街道沿いに行けば町に、人に会えるはずだ。
それにしても行けども行けども町並みの欠片も見えない。
こんなに広い土地は日本にはないだろう。
少なくとも、ここは日本じゃない。
…願わくばここが地球であって欲しい。
街道を走っていると、さきに人影が見えてきた。
やっと人に会える…。
5人。
相手もこちら側を確認したらしい。
商人らしい1人を守るように3人が周りを警戒。最後の一人が剣に手をかけ、こちらを伺っている。
どうも商人とその護衛のようだ。
どうやら、思いっきり警戒されているみたいだ。
護衛なんだから当然かもしれないが。
いきなり、街道を自分達に向かって突っ走って来るヤツがいたら誰だって警戒する。
山賊か何かの囮役だと思われてるのかも。
しかしこの分じゃココ、明らかに地球じゃないな…。
相手の武器は普通の剣だけみたいで銃を持っている様子もないし、剣を持ってる人の服装はゲームとかでしか見ないような皮鎧だ。
なにより今時分、歩いてる商人なんて普通はいない。
トラックでも使わないと、運べる荷物が少なすぎる。
といっても、俺と同じように荷物を持っていけるならいらないのかもしれないが。
とりあえずある程度まで近づくと、声を掛けてみる。
「すみませ~ん!」
「止まれ!それ以上近づくな!」
…どうやら予想以上に警戒されている。
今にも剣で切りかかられそうだ。
おとなしく従うべきだろう。
それにしても明らかに外国人の外見なのに言葉が通じる。
元の俺は外国語はカタコトでもしゃべれなかった。
『シオン』の体のせいか?
こちらは普通に日本語をしゃべっているつもりなんだが。
最悪ボディランゲージになるかと思ってた分、楽ができる。
こちらが止まるとそのまま声を掛けてきた。
「何のようだ」
疑うような目つきでこちらを睨む。
…なんにもしないよ。
「道をお聞きしたいんですが」
「なんだと?」
訝しげに、聞き返してきた男はさらに警戒心を上げたようだ。
「ここは街道だ。そのまま道なりに進めば町に出るというのにどこの場所を聞くつもりだ?」
なるほど。ごもっとも。
「いえ、完全に方向を見失ってしまいまして、どの方向にいけばどの町かわからないんです」
「ふむ、なるほどな。ではどちらの町に行きたい」
「それは…」
その聞かれ方は困る。とても困る。
そう聞かれたら普通はどちらかの町の名前を出す。
しかし俺はこの世界の町の名前を知らない。
知らないものは答えられない。
答えようがないのだ。
ぬぅ、ならば何とか誤魔化すしかない。
「どちらの町が働き口が多いでしょうか?」
「ん?どういうことだ?」
よし、相手が乗ってきた。
「私達の家族は森の奥の小屋に住んでいたのですが、そこに狼が現れ、家族が食い殺されました。私は命からがら逃げ延びましたが、家族は全員…」
「そ、そうか…」
「狼がまだいるかもしれない家に戻ることも出来ません。お金も持ってこられませんでした。早く町に着かないと飢え死んでしまいます」
「すまない、嫌な事を聞いたな。わかった教えよう」
そう。これなら食料も服の用意もないことの説明が一応着く。
が、よくよく考えれば不自然な点なんて山ほど見付かる。
この人が気付かないうちに、聞いたらすぐに畳み掛けて逃げなければ。
「我々が来た方角には鉱山都市マテディナがある。その名の通り、鉱石発掘の仕事がほとんどだ。
鉱石掘りの技術と体力が無いと厳しいだろう。それにかなり遠い。徒歩で半月ほどの距離だ。
そして、君が来た方向、我々がこれから向かう側には学術都市イスタディア。様々な学級の輩が集まる都市だ。
この都市は学生達を迎えるための施設や、学生の運営する店があって、働き口が多い。こちらを薦める。
こちらは徒歩で3日だしな」
ずいぶん同情してくれたみたいだ。
かなり対応が柔らかくなった。
かといって警戒を解いたわけでもなさそうだが。
まぁ、当然かもな。
すぐに信用するようでは、仕事に差し支えるだろうし、実際作り話だ。
「なあ、少し保存食を分けてやろうか、いくらなんでも3日も食わずには持たないぞ?」
常識的な親切心、とてもありがたい。しかし、食料を分けてもらうのにあなたが仲間に俺の事情を話したとき、矛盾がばれるとマズイ。
早々に立ち去ろう。
「お気持ちはありがたいのですが、これ以上ご迷惑を掛けるわけにはいきません。大丈夫、
森で暮らしていたのは伊達ではありません。食べられる野草ぐらい見分けられます」
無理だけどな。
そんな野性味あふれる能力、持ってない。
「そうか…達者でな」
「それでは、失礼します」
相手の傭兵が仲間たちに事の顛末を説明しに戻っていった。
そしてその間に俺は全速で離脱する!
あとがき
今までの2話分を1話ずつに統合しました。