ギルドの依頼に書いてあった牙ウサギの発生地は、
ミシェル先生から教えてもらった薬草群生地から一キロほど進んだ場所にある。
何時もの如く走り進むと、直ぐに着いてしまった。
ん~、地図ではここになってるんだが……。
さっきまで歩いていた平原と少しも変わってない。
あらかじめ目的地を知っていなければ気にも留めずに通り過ぎたろうな。
慎重に周りを見渡す。
…着いてすぐに襲い掛かってくるようなことはないみたいだ。
考えてみれば、自分から戦おうとしているのはこれが初めて。
やはり緊張していたのか、要らないところに力が入り体が強張っていた。
深呼吸を数回。
そして音を立てないようにしながら、軽く屈伸運動。
…よし、少しは落ち着いた。
油断も禁物だが、気負い過ぎてても仕方ないからな。
弓を装備して警戒しながら探索だ。
大体10分ぐらい経った頃か、視界に今までなかった薄茶色の毛玉が映った。
あれか?
7匹ほどが群れを作っている。
幸運なことに此方にはまだ気付いていない。
現在の弓の有効射程は、だいたい30M。
その付近まで気付かれずに近づいて行かなくては。
しかし、ウサギを見つけてから妙な感覚を感じる。
7匹居る中で、気になるのが4匹。
残りの3匹は相手にしなくてもいい気がするのだ。
この感覚は、薬草採集のときとどこか似ている。
多分何かの技能が反応して補正をしてくれているのだろう。
持っている技能をステータスで確認。
……たぶん魔物知識だ。
おそらくあの中の三匹は魔物じゃないんじゃないだろうか?
が、確信がないのでそのまま射る。
両方射てば間違いない。
判断は終わった後にしよう。
『パワーショット』だと使用MPが多いから、ここは『ロックオンシュート』。
まず狙うのは魔物じゃないと思われるウサギ。
地面に伏せながら矢を放つ。
スマンな、(おそらく普通の)ウサギよ!
飛んだ矢は吸い込まれるようにウサギの体に突き立った。
仲間の異常に気付いたウサギはすぐさま逃げ出す。
ただし、逃げていく数は2。
残りの4匹は周囲を警戒しだした。まるで逃げる気配を見せない。
続けざまに2の矢、3の矢をロックオンシュートを使って打ち続ける。
狙い違わず次々と獲物を仕留めていく。
ここで場所がバレた。
真っ直ぐこちらに向かってくる!
そのままもう一本矢を放つと弓を装備からはずす。
その間に目と鼻の先にまで相手は迫っていた。
そのまま牙をむいて飛び掛ってくる。
うお、顔怖ッ!
飛び掛ったウサギはほとんど普通のウサギと変わらない姿形だった。
ただ、顔を除けば。
口から出ている牙が異様に発達している。
口を閉じられないのか、常に剥き出しだ。
そのせいで顔が常にしかめているように歪んでいる。
観察しているうちに体は勝手に相手の突進を避けていた。
飛び掛った勢いでバランスを崩しているウサギに蹴りを叩き込む。
ふう、これで…
ドン、と背中に衝撃。
見ると最後に放った矢はスキル無しで撃ったせいか、外れていたようで無傷のウサギが一体。
…しかし、あんまり痛くないな。
相手に向き直り拳を構える。
そして…次の突進を待って、それにカウンターを入れる!
先ほど蹴った一匹よりも強烈で生々しい感触が手に伝わり、そのまま動かなくなった。
そしてそこでレベルアップ。
…こんなものなのだろうか?
弱すぎる。
さっきの一発食らってしまった突進だって、強めに突き飛ばされた位の衝撃しか来なかった。
HPも3しか減ってない。
はっきり言って楽勝だ。
生き物を殴り殺す罪悪感さえ感じなければの話だが…。
あまり気にしないようにしなくては。
地球でも、食事をするには何か殺して食ってるわけだから、自覚がないだけで結局は殺してる。
気にしてたら生き残れない。
何よりも、死にたくないからな。
少ししんみりしてしまった。
倒したウサギたちを一箇所に回収する。
ついでに矢も回収。
予想通り、最初の一匹は普通のウサギだった。
やはり技能で判断可能らしい。
…でも、先日の鳥喰い蜂の時にはわからなかったな。
もしかして確立で成功判定か、敵のランクで判定でもあるのかな?
そしてウサギたちを回収している最中にもウサギの一部分が気になった。
こっちは、魔物素材技能か?
気になる箇所に触ると、きれいにその部分が抜けてしまった。
[牙ウサギの前歯を取得しました。ウサギの尾を取得しました]
…クエストに出す肉に歯とか尾とかいらないよね?
多分。
ところで問題が一つ。
…このウサギから肉を剥ぎ取るのって自分でやるのか?
さすがにそれは無理なんだが。
とりあえず鞄に放り込んどくか…。