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No.12318の一覧
[0] 転生者はトラブルと出会ったようです 【次スレに移行】  [さざみー](2012/01/17 00:52)
[1] 第1話[さざみー](2010/04/09 17:54)
[2] 第2話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[3] 第2話(幕間)[さざみー](2009/10/31 19:13)
[4] 第2話(後編)[さざみー](2010/02/02 11:03)
[5] 第2話(終幕)[さざみー](2009/10/04 17:22)
[6] 第3話(前編)[さざみー](2010/04/09 18:26)
[7] 第3話(後編)[さざみー](2010/02/02 12:35)
[8] 第3話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/04/13 09:54)
[9] 第4話(前編)[さざみー](2011/02/20 11:20)
[10] 第4話(後編)[さざみー](2011/09/05 21:21)
[11] 第4話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:56)
[12] 第5話(前編)[さざみー](2010/03/02 20:14)
[13] 第5話(幕間)[さざみー](2009/10/13 01:36)
[14] 第5話(後編)[さざみー](2010/03/02 20:32)
[15] 第5話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/06/09 12:22)
[16] 第6話(前編)[さざみー](2010/07/01 10:58)
[17] 第6話(幕間)[さざみー](2010/03/21 19:43)
[18] 第6話(後編)[さざみー](2010/03/21 19:50)
[19] 第6話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:55)
[20] 第6話(終幕というか、蛇足の蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:58)
[21] 第7話(序幕)[さざみー](2009/12/28 02:18)
[22] 第7話[さざみー](2010/03/22 00:46)
[23] 第8話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[24] 第8話(後編)[さざみー](2010/03/22 00:56)
[25] 第8話(終幕)[さざみー](2010/03/22 01:09)
[26] 第8話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/02/01 02:57)
[27] 第9話(前編)[さざみー](2011/02/02 04:41)
[28] 第9話(後編)[さざみー](2010/03/22 09:18)
[29] 第10話(序幕)[さざみー](2009/11/06 18:09)
[30] 第10話(前編)[さざみー](2010/03/22 09:56)
[31] 第10話(後編)[さざみー](2011/12/14 21:40)
[32] 第11話(前編)[さざみー](2009/12/28 11:02)
[33] 第11話(後編)[さざみー](2009/11/13 01:37)
[34] 第12話(序幕)[さざみー](2009/11/27 18:39)
[35] 第12話(前編)[さざみー](2009/12/28 13:00)
[36] 第12話(後編)[さざみー](2009/11/18 03:53)
[37] 第12話(終幕あるいは、開幕)[さざみー](2009/12/28 14:23)
[38] 第13話(エピローグ前編)[さざみー](2009/11/26 14:52)
[39] 第13話(エピローグ後編)[さざみー](2010/06/03 14:09)
[40] 閑話第1話[さざみー](2011/09/05 21:24)
[41] 閑話第2話[さざみー](2010/03/22 15:32)
[42] 閑話第3話[さざみー](2010/03/22 15:37)
[43] 閑話第4話[さざみー](2010/02/01 03:21)
[44] 閑話第5話[さざみー](2010/03/22 16:18)
[45] 閑話第6話[さざみー](2011/08/08 23:12)
[46] 閑話第7話[さざみー](2009/12/07 08:10)
[47] A’s第1話(1)[さざみー](2010/01/18 12:12)
[48] A’s第1話(2)[さざみー](2010/01/18 12:17)
[49] A’s第2話(1)[さざみー](2010/01/26 10:40)
[50] A’s第2話(2)[さざみー](2010/01/26 11:58)
[51] A’s第2話(3)[さざみー](2009/12/30 02:06)
[52] A’s第2話(4)[さざみー](2011/07/20 20:50)
[53] A’s第3話(1)[さざみー](2009/12/30 02:05)
[54] A’s第3話(2)[さざみー](2010/01/26 17:17)
[55] A’s第3話(3)[さざみー](2010/01/26 17:24)
[56] A’s第3話(4)[さざみー](2011/08/08 23:13)
[57] A’s第4話(1)[さざみー](2010/04/13 19:07)
[58] A’s第4話(2)[さざみー](2010/03/11 03:31)
[59] A’s第4話(3)[さざみー](2010/03/11 03:33)
[60] A’s第4話(4)[さざみー](2011/01/12 00:01)
[61] A’s第5話(1)[さざみー](2011/01/12 00:30)
[62] A’s第5話(2)[さざみー](2010/05/23 22:59)
[63] A’s第5話(3)[さざみー](2010/02/04 17:21)
[64] A’s第6話(1)[さざみー](2010/04/11 11:54)
[65] A’s第6話(2)[さざみー](2011/01/04 04:09)
[66] A’s第7話(1)[さざみー](2010/02/27 02:18)
[67] A’s第7話(2)[さざみー](2011/09/05 21:37)
[68] A’s第7話(3)[さざみー](2010/03/11 02:38)
[69] A’s第7話(4)[さざみー](2010/04/08 08:55)
[70] A’s第8話(1)[さざみー](2011/09/05 21:39)
[71] A’s第8話(2)[さざみー](2010/04/08 09:10)
[72] A’s第8話(3)[さざみー](2011/09/05 21:40)
[73] A’s第8話(4)[さざみー](2010/07/24 20:03)
[74] A’s第9話(1)[さざみー](2011/08/08 23:15)
[75] A’s第9話(2)[さざみー](2010/07/24 20:27)
[76] A’s第9話(3)[さざみー](2010/04/26 18:41)
[77] A’s第9話(4)[さざみー](2010/04/30 04:31)
[78] A’s第10話(1)[さざみー](2010/05/05 04:16)
[79] A’s第10話(2)[さざみー](2010/05/20 01:04)
[80] A’s第10話(3)[さざみー](2011/08/08 23:19)
[81] A’s第10話(4)[さざみー](2011/11/06 11:05)
[82] A’s第11話(1)[さざみー](2011/11/06 10:51)
[83] A’s第11話(2)[さざみー](2011/11/06 11:14)
[84] A’s第11話(3)[さざみー](2011/06/11 14:58)
[85] A’s第11話(4)[さざみー](2010/06/22 00:33)
[86] A’s第12話(1)[さざみー](2011/01/04 04:07)
[87] A’s第12話(2)[さざみー](2010/07/17 02:59)
[88] A’s第12話(3)[さざみー](2010/08/12 17:07)
[89] A’s第12話(4)[さざみー](2010/11/19 21:26)
[90] A’s第12話(5)[さざみー](2011/02/18 03:24)
[91] A’s第13話(1)[さざみー](2011/02/18 03:26)
[92] A’s第13話(2)[さざみー](2011/09/25 23:36)
[93] A’s第13話(3 あるいは幕間1)[さざみー](2011/02/11 19:51)
[94] A’s第13話(4 あるいは幕間2)[さざみー](2011/02/18 03:28)
[95] A’s第13話(5 あるいは幕間3)[さざみー](2011/11/06 13:03)
[96] A’s第13話(6 エピローグ・前編)[さざみー](2011/03/24 00:25)
[97] A’s第13話(7 エピローグ・後編)[さざみー](2011/12/25 13:54)
[98] End of childhood 第1話[さざみー](2011/09/05 21:43)
[99] End of childhood 第2話[さざみー](2011/06/18 12:59)
[100] End of childhood 第3話[さざみー](2011/02/20 11:21)
[101] End of childhood 第4話[さざみー](2011/02/24 05:07)
[102] End of childhood 第5話[さざみー](2011/07/23 12:16)
[103] End of childhood 第6話[さざみー](2011/03/04 22:03)
[104] End of childhood 第7話[さざみー](2011/03/11 03:45)
[105] End of childhood 第8話[さざみー](2011/04/10 13:24)
[106] End of childhood 第9話[さざみー](2011/04/10 13:50)
[107] End of childhood 第10話[さざみー](2011/06/05 11:42)
[108] End of childhood 第11話[さざみー](2011/07/31 21:04)
[109] End of childhood 第12話[さざみー](2011/09/18 13:14)
[110] End of childhood 第13話[さざみー](2011/09/04 23:55)
[111] End of childhood 第14話[さざみー](2011/11/06 10:42)
[112] End of childhood 第15話[さざみー](2011/09/18 19:04)
[113] End of childhood 第16話[さざみー](2011/11/21 00:43)
[114] End of childhood 第17話[さざみー](2011/12/21 00:54)
[115] End of childhood 第18話[さざみー](2012/01/05 21:10)
[116] End of childhood 第19話 プロローグに続くエピローグ[さざみー](2012/01/17 00:42)
[117] 番外編 転生者はクリスマスも仕事のようです[さざみー](2011/02/06 08:41)
[118] 番外編 転生者はトラブルとすれ違ったようです[さざみー](2010/04/20 14:41)
[119] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(前編)[さざみー](2011/09/18 21:11)
[120] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(後編)   [さざみー](2011/09/18 21:12)
[121] オリキャラ一覧(終了時点) NEW[さざみー](2012/01/17 01:09)
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[12318] A’s第13話(2)
Name: さざみー◆01bdadd3 ID:09864760 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/25 23:36
A’s第13話(2)



「クロノ執務官、少し時間を頂けないだろうか?」

 アースラに戻ってきたクロノを待ち構えていたのはヴォルケンリッターの面々だった。
 彼女たちは一様に神妙な面持ちで、クロノを見つめていた。

「どうしたんだ? 急な用事でなければ後ででいいか?」

 クロノの態度はぶっきらぼうだが、別に他意はない。彼は本当に急いでいた。
 なんせ前回のPT事件の重要参考人である盟主を捕らえる事に成功したのだ。彼女とシスター・ミトとの関係は不明だが、彼女たちの組織で重要な地位にいる事は間違いない。
 うまくいけば一網打尽……、そこまでいかなくとも、フェイトの母親であるプレシア・テスタロッサに関する手がかりが得られるかもしれないのだ。無論、闇の書の防衛プログラムを操るなどといった非常識な真似をやってのけた少女の取調べは一筋縄ではいかないだろう。それでも、重要な手掛かりに違いは無い。
 それ以外にも、盟主捕縛により色々と調べなければならない事が多数出てきた。次元航行艦ヘイローズで得た盟主に関する情報は、クロノ一人で調べきれる量では無い。
 まだ若いクロノが、事後処理があるとはいえ最も重要な部分に決着がついただろう闇の書よりも、盟主捕縛に気がいくのはしかたがない事だった。
 もっとも、それをヴォルケンリッターがどう受け取るかはまた別の問題だ。ヴォルケンリッターを代表して、シグナムが暗い表情で話を続けた。

「それほど時間はとらせるつもりはない。我らの処分の事だ」
「え?」

 シグナムの言葉に、思考が一瞬停止する。
 何を言い出すんだと思う。そんなクロノの感情に気がつくことなく、シグナムはさらに話を続けた。

「我らヴォルケンリッターの4人は管理局の如何なる処分にも従う。ただ、主はやてとリインフォースだけは見逃してやってほしい」
「いや……」
「なあ、頼むよ。あたしらは短い間だけど、はやてに色々もらった……でも、あいつは」
「お願いします、クロノさん。私たちの過去にはやてちゃんを巻き込みたくないんです」
「無茶な注文なのは重々承知だ。だが、頼む」

 シグナムの言葉を口切に次々に懇願するヴォルケンリッターを前に、クロノはようやく事の次第、彼女たちが何を心配していたのかを把握する。
 そしてそれと同時に妙な脱力感を覚えた。

「ちょっとまて、君たちが何を心配しているのか知らないが、はやてが管理局から処分されるという事はないぞ」

 八神はやての立場は、“管理局に協力した管理外世界の魔導師”だ。彼女が闇の書を得たのは偶然であり、制御ができるような代物でもなかった。そしてなにより、彼女は管理局の要請を快く受けてくれた善意の協力者だ。
 そんな彼女を、しかも管理外世界の住民である彼女をどう裁けというのか?

「だが、我らが過去に行ってきた事はどうなる?」
「同じ事だよ。八神はやての守護騎士である君たちを裁く法は管理局に存在しない」

 一方のヴォルケンリッターの立場は微妙だ。
 ヴォルケンリッターは過去の主の下、何度も犯罪行為を行っている。その事で彼女たちを危険視し、処分せよという意見が無い訳でもない。あるいは、それを理由に徴発しようという動きもあった。
 とはいえ、現在の彼女たちは八神はやて個人が所有する守護騎士……使い魔である以上、おいそれと処分や徴発など出来ない。
 一部の者が知る“物語”のようにヴォルケンリッターがはやての制御を離れ、管理世界で犯罪を行ったならともかく、現存しているヴォルケンリッターははやての制御を離れる事なく、事件終了まで一貫して管理局に協力的だった。
 そしてこれまでの経緯から、彼女たちは理由も無しに暴れるような存在では無い事がはっきりしている。
 調査できる限りの歴代の主は、揃いも揃ってろくな連中ではなかった……あるいは、その時代が群雄割拠の戦乱の時代であり現在の価値観では計れない状況だった。
 こうなると、社会的立場を持たない使い魔……言い方は悪いが、道具に過ぎない彼女たちに法的な責務を背負わせる事は難しい。

 現在なんら問題は無く、更に管理外世界の住民の個人所有である以上は、管理局といえどもそう簡単に手を出せない。
 管理局は法の番人ではあっても、無分別な正義の味方ではないのだ。

 とはいえ、実のところ彼女たちが即時殲滅指定を受けた闇の書の付属物である以上は、その気になれば法的に問題なく処分、徴発する手段が無い訳でもない。
 だが、少なくともクロノやリンディにはそのような手段をとる意思は無く、とらせる気も無かった。
 こういったロストロギアがらみのグレーゾーンに関わる問題は、担当した士官の意向が強く反映される。担当官がクロノである以上、よほどの事が無い限り管理局が彼女たちに法的な責務を問う事は無いだろう。

 だが、それでもシグナムたちは納得できなかった。それだけの誇りを持ち合わせていたし、それ相応の理由もあった。

「それでも我らの罪は……」
「もう過去の事だ。少なくとも今の君たちが気にするような事ではない」
「だが、貴殿の父は!」
「その事か……」

 シグナムの言葉に、クロノは内心で天を仰いだ。
 彼女たちが11年前の事件を調べていた事は当然知っていたし、いずれは父クライドの事にも行きつく事はわかっていた。
 調べられて困る事では無いので放置しておいたのだが……。まったく、何が心の無い守護騎士プログラムだ。本当に人間そのものじゃないか。
 適当な記録をとった連中に内心で文句を言いながら、クロノはきっぱりと気にする事ではないと言う。

「君たちが気にする事じゃない」
「それで良いのか!?」

 結局、過去はどこまでも鎖のように絡み付いてくるのだろう。グレアム提督がその輝かしい人生を狂わせたように、彼女たちもまた、過去の鎖から完全に逃れられないでいる。
 クロノだってそうだ。闇の書に人生を狂わされた一人として、怒りと悲しみは確かにこの身の内に存在する。
 復讐を考えなかった、と言えば嘘だ。もし闇の書が無ければ、もっと平凡な人生を歩んでいただろう。何で母があんなに苦労しなければならなかった? 平凡な家庭に何度憧れを抱いただろうか? 執務管を目指した動機に復讐が混じっていなかった訳ではない。
 彼女たちが救いようの無い悪党ならばクロノも処分を躊躇わなかっただろう。口では復讐など考えていないと言いながら、心のどこかでは望んでいた。
 だが、彼女たちもまた闇の書の悲しみの連鎖の被害者でしかない。そんな彼女たちに復讐をしようなどと、クロノは思わなかった。
 
 悲しみの連鎖は誰かが断ち切らなければならないのだ。いくつもの悲しい事件を見てきたからこそ、クロノは強くそう思う。

 もっとも、それを素直に口に出来るほどクロノは大人ではなかった。ようするに、照れくさいのだ。
 そんなクロノの口から出たのは、ぶっきらぼうな言葉だった。

「闇の書に関わる悲しい事件の全ては、もう終わった事だよ。君たちに復讐しても父が帰ってくるわけではない。法的にも君らを裁けない。君たちが……」

 続けるべき言葉はアースラを襲った巨大な振動により中断を余儀なくされた。




 * * * * * * * * * * * * * *




 何が!?
 いくら中破していたとしてもアースラは時空管理局の次元航行艦だ。よほどの事が無い限り、大きく揺れるなんてありえない。
 この異常事態の到来に、それまでののんびりとしていた空気は一気に吹き飛んだ。

「何がっ!?」

 急な事態に俺は立ち上がりながら通信を開こうとする。とりあえず現状確認をしないと……。
 もっとも、現状確認に関しては、するまでも無く何が起きたのか判明する事になる。俺と同じように立ちあがろうとしていたなのはが、窓を指差しながら呆然と声を上げた。

「そ、そと、ふねが!?」

 その言葉に俺とフェイトも窓の外を見る。そこには時空管理局の次元航行艦ヘイローズが浮かんでいるのだが……なんだよ、あれ!?
 アースラと同型艦のヘイローズだが、その表面にはびっしりと木の根のようなものが……って、見覚えが……あっ!?

「闇の書の防衛プログラム!?」
「ええっ!?」
「それってどういう事!?」

 呆然と呟く俺に、なのはとフェイトが驚きの声を上げる。

「11年前の闇の書事件で闇の書が暴走、エスティアが乗っ取られた時の状況に似ているんだ!」

 そりゃ見覚えがあるはずだ。俺も今回の事件で出向するにあたり、エスティアに関する記録を見ている。
 でも、あの侵食スピードは記録映像で見たエスティアの比じゃない。巨大な艦がはっきりと分かる速度で根っ子のような触手に覆われてゆく。

【ヴァン!!】
「ユーノくん、何があったの!?」

 ユーノからの通信に真っ先に答えたのはなのはだ。

【なのは? ヴァンとフェイトも一緒?】
「ああ、3人とも一緒にいる。何があったんだ?」
【分からないんだ。防衛プログラムは確かに破壊したはずなのに……】

 そう、防衛プログラムは確かに破壊した。闇の書に関わるもの……書の本体に、管制人格であるリィンフォース、さらにはヴォルケンリッターと主であるはやて。その全てはアースラにある。
 防衛プログラムを操って見せた盟主の危険性を考え、ヘイローズには闇の書に関する物は一切持ち込んでいない。逮捕者ですら分担せずにアースラに全て収容したぐらいなのだ。
 一体何が……って、あ。

「ユーノ、クロノさんは!?」

 たしか、ヘイローズに行くって言ってなかったっけ?

【クロノはもうアースラに戻っているよ! 今はシグナムたちと一緒にブリッジに向かっている。ヴァンたちもすぐにブリッジに来て!】
「わかった」

 この非常事態に、なのはやフェイトといった戦力を集中させたいんだろう。
 俺は……まぁ、ただのおまけだ。いや、俺とティーダさんのアースラでの配置はクロノさん付きでブリッジだけどね。



「ヴァン・ツチダ空曹、高町なのは、フェイト・テスタロッサ到着しました!」

 ブリッジに駆け込みながら俺は到着を報告する。どうやら俺達が一番最後だったらしく、ユーノにクロノさんにティーダさん。さらにヴォルケンリッターの面々も到着していた。
 通常なら遅いと怒鳴り声の一つでもきそうなものだが、皆それどころでは無かった。状況を確認しようと、オペレーターの怒号が交差する。

「通信はまだ回復しないの!?」
「駄目です。ブリッジとの通信が回復しません! 内部スキャンも受け付けません!!」
「緊急脱出ポットの射出を確認!」
「すぐに動ける魔導師に確保に行かせて!」

 中で何が起きているのか状況が分からない。その事にブリッジが焦燥に包まれている。

「いったい、何が……」

 芸の無い台詞だが、何度目かになる呟きに誰も答えられないでいた……と思っていた。
 だが、以外にも俺の……いや、アースラクルーの疑問に対する答えはすぐに出ることになる。俺の呟きに答えるかのように正面のメインモニターが切り替わった。

【ははははははは、闇の書の闇の最後の足掻きだよ。ヴァン・ツチダ!】

 って、盟主!?
 画面に映った映像に、俺達は息を飲む。
 出てきたのは確かに盟主……だったものだ。だが、アレは一体なんなのだ?
 上半身は確かに、盟主を名乗っていた少女のモノだ。だが、下半身は木の様な物に飲み込まれ半ば一体化し、腕もまた木の枝に絡め取られ埋没している。皮膚のあちこちは破れ、肉は爆ぜ、その内にある骨や機械が露出していた。
 って、今違和感が……。

「まさか、貴様……」

 俺が違和感に気がつく前に、何かに気がついたシグナムが怒りを滲ませながら盟主に問う。

「貴様、防衛プログラムに飲み込まれたのか!?」
【飲み込まれたとは酷いな、烈火の将。防衛プログラムを体内に取り込んだのさ】

 ちょ、ちょっとまて。それって、まさか!?
 盟主が何をしたのか、それに気がつかない者はこの場にいなかった。その証拠に、皆の顔が一斉に蒼白となる。

「貴女、何をしたのか分かってるの!?」

 シャマルが悲鳴を上げる。

【私自身が闇の書の闇の一部となるという事に何か問題でも?】
「無限転生で逃げる気か! ……だが!」
【まさか。私に受肉した時点で転生機能は完全に停止している】

 はっきり言って、正気じゃない。

 管理世界で極刑並の処理とされている氷結封印だが、あくまでも封印刑であり死刑ではない。封印された者を殺さないように、生命活動の一部は必ず維持されるよう術式に組み込まれている。
 盟主はそこをつき、氷結封印される直前に防衛プログラムのコアを体内に取り込んだのだろう。
 そして、盟主自身の生存に当てられる生命活動の全てを防衛プログラムの回復に当てる。辛うじて生かしておくだけの生命活動では人間が封印を解く事は出来ない。ところが、魔力さえあれば秒単位で回復、増殖してゆく防衛プログラムならその僅かな生命活動だけで十分に復活できる余裕があったのだ。
 だが、これは同時に自殺に等しい手段だ。防衛プログラムに取り込まれるわけだから逃げる事もかなわず、確実に暴走に巻き込まれる。しかも、闇の書ならまだしも生身の人間だ。あんな状態では無限転生機能など動かない。
 今の盟主は、防衛プログラムに貪り食われながら、暴走による破壊を待つ以外に何も出来ない状態だ。いや、それどころか、あの状態で暴走まで自我が持つのか?
 防衛プログラムに飲み込まれ身体が崩壊しているんだぞ?

「正気か……」
【正気? ははははははは、人形風情が正気を問うとはな!】
「何を言っていやがる!」
【この世界の真理さ】

 盟主の放つ狂気に、さすがのブリッジクルーも真っ青になる。
 奴がこの世界を作り物だと認識する。俺と同じ転生者なら、あるいはありえるかもしれない。
 だがそれでもだ、苦痛や、空腹、生理的反応は紛れも無く現実として襲ってくる。
 というか、肉体が崩壊しつつある現状で笑えるなんて……。何度も言うが、絶対正気ではありえない。

【まぁ、貴様らには分かるまい。ははははは、全てが終わる時までな】

 そう言い放つと、盟主はひとしきり高い哄笑を上げる。
 そしてその哄笑は徐々に小さくなっていき、木の根にその姿が埋もれていき……っていけない!

「えっ、ちょ、ちょっと!?」
「ヴァン!? 何を?」

 何が起きるか察した俺は、大慌てでなのはとユーノの目を隠す。隣を見ればクロノさんもフェイトの目を隠していた。

「エイミィ、メインモニターをシャットダウンするんだ!」
「だめ、強制通信でシャットダウンできない!?」

 くそっ、最後の最後まで底意地の悪い!

「すいません、後で始末書書きます! ヴァン、お前は……」
「俺は局員です!」

 ティーダさんはそう叫ぶと、メインモニターに向けて魔法弾を放つ。
 防ごうと思えば防げたはずなのに、クロノさんもリンディ提督も止めなかったところを見ると子供に見せるべきでは無いと判断したのだろう。
 実際、サブモニターには凄惨な光景が映し出されている。あんなもの見せ付けられたら、トラウマが残るぞ。いや、なのはたちも見ていないだけで、何が起きているのか想像しているのだろう。腕の中で小刻みに震えている。
 正直俺も目を背けたかったが、仕事の手前背ける事は許されない。

 この仕事についてからある程度死に耐性がついたというのもあるだろうが……、不思議と奴の死には何も感じなかった。
 もっとも、単に感じる暇がなかっただけかも知れない。

【アースラ、聞こえるか! アースラ!】

 盟主が消えた次の瞬間、サブモニターが切り替わり、厳つい顔の提督が現れた。ヘイローズの艦長、無事だったのか。というか、盟主の奴今の今まで通信妨害までしてたのか……。
 傷だらけではあるが、どうやらまだ無事のようだ。ホッとする俺達だったが、次の瞬間、事態の悪化が想像以上のスピードだったと思い知らされる。

「こちらアースラです!」
【通じたか! ブリッジも何時機能を停止するか判らない。すぐにアルカンシェル発射準備をしてくれ!】

 突然何をと皆が一瞬思ったが、ブリッジオペレーターの叫びにその理由を知る。

「ぼ、防衛プログラムの反応が増大! 次元震発生の予兆が見られます!」
「なっ!」

 通信妨害の狙いはコレだったのか、ギリギリまでアースラに事態の進行を悟らせないために……。
 いや、それだけじゃない。明らかに11年前の時よりも事態の進行が早い。何処から魔力を引っ張ってきやがった、あいつは!?

「だが、乗組員は!」
【魔力炉を緊急停止して、出来る限り進行を抑えていたがもう限界だ! 脱出できたクルーの回収をお願いします!】

 ブリッジが一瞬シンと静まり返る。いや、そんな気がした。
 提督の言っている事を理解できない者などこの場にいない。船にまだ多数のクルーが残っている事は、誰の目にも明らかだった。

 提督は、自分たちごと防衛プログラムを撃てと言っているのだ。

 いや、理屈はわかる。ヘイローズが乗っ取られた場合、どれだけ被害が出るかわからない。通常の巡回中だった為にアルカンシェルなどの大規模破壊兵器こそ積んでいないが、次元航行艦の魔力炉は人間のリンカーコの火ではない出力を持っている。あれが本格的に暴走を開始したら、恐らくもう手がつけられない。
 完全に乗っ取られる前に、破壊する。そうしなければならない。
 だが、クルーの大部分は脱出できず、取り残されている。

「アースラは、これよりアルカンシェルの発射準備を……。チャージが完了次第、クルーの回収を打ち切り……、安全域まで後退後、防衛プログラムの残滓を……殲滅します」
「艦長!」

 リンディ提督の命令に、クロノさんが非難の叫びを上げる。
 だが、それ以上はクロノさんも何も言えなかった。リンディ提督の顔が、見たこともないぐらい真っ青だったから。
 これじゃ11年前の事件の焼き直しじゃないか! いや、あれの比じゃない。11年前の事件で愛する夫を失った女性が、息子の目の前で大勢のクルーの命を奪う事を覚悟で引き金を引く。
 こんな悪夢が存在して良いのかよ!

【すみません、リンディ先輩。妻と娘に……】

 サブモニターが砂嵐に変わる。ヘイローズの通信機能が死んだのだろう。
 なんとか、なんとかできる手段はないのか?
 氷結封印は……、魔力砲は……、なんか、なんか手段は。せめてクルーだけでも。

「リンディさん! 私が助けに!」
「いけません! 次元飛行訓練も受けていないなのはさんをこの場では出せません!」
「何か手はないのか!」

 皆が焦る中、さらに通信が入ってきた。

【リンディさん! リインが、リインフォースが……】
「どうしたの!」

 今にも泣きだしそうなはやての言葉を継いだのはイオタだった。はやてを抱きかかえ、こちらに向かい通路を走っている。
 先ほどの衝撃でぶつけたのか、額から血を流しているイオタは真剣な表情で状況を説明した。

【すまん! リインフォースが一人で出て行った!】
「なんですって!?」

 こんな状況でどこに?
 そんな言葉を誰かが口にするより早く、ブリッジオペレーターが状況を報告する。

「艦長!」
「今度は何!?」
「防衛プログラムの侵食スピードが低下しました! この魔力反応は……リインフォースです!」
「リインフォースさん!?」

 言われてみれば確かに、ヘイローズ周辺を薄い黒い魔力が覆っている。

「リインフォ-スさんと通信をつないで!」
「りょ、了解!」

 リンディ提督の命令に、エイミィさんが大慌てでリインフォースと通信をつなぐ。
 サブモニターに祈るような姿勢で魔力を放出するリインフォースの姿が映った。

「リインフォースさん!」
【リンディ提督ですか……。非常時だったために無許可で出ました。すいません】
「そんな事より、何を!?」

 苦しそうに魔力を放出するリインフォースに、リンディ提督が問いかける。
 リインフォースは苦痛を滲ませながら、それでも笑顔で質問に答えた。

【防衛プログラムの侵食スピードを抑え、クルー全員が脱出する時間を稼ぎます】
「できるの?」
【はい。これは私の一部でしたから……。制御は不可能でも、侵食スピードを遅らせるぐらいは】

 彼女の言葉に、皆が安堵の表情を浮かべる。闇の書の悲劇が繰り返されるのは、もう御免だ。
 だが、そんな淡い期待はブリッジに飛び込んできたイオタの言葉で打ち砕かれた。

「馬鹿を言うな! 君の身体はすでに限界が近いんだ! そんな無茶をすれば、存在が維持出来なくなるぞ!!」

 そう言えば、そんな事を……!
 はやてが、涙をにじませ叫びを上げる。

「戻ってくるんや、リインフォース! 今ならまだ間に合う。みんなの力を合わせれば、一人で犠牲にならなくても!」
【無理ですよ、主はやて。これは同じ闇の書の一部だった私だけが出来る事です】

 防衛プログラムはリインフォースから分離した存在だ。
 彼女が持っていたアクセス権を利用して、防衛プログラムの動きを抑えているに過ぎないのだろう。
 だが、既に切り離した別の存在である以上、干渉するのには無理が生じる。

「あかん! だめや、リインフォース!」
【主はやて……駄々っ子は、ご友人に嫌われますよ……】

 リインフォースの肩が弾け、頁へと変わる。
 マテリアルの少女たちが消えていった時と同じ様に、徐々に身体が分解していく。
 彼女は防衛プログラムの進行を抑える為に、身体を維持している最後の魔力を使っているのだ。

「そんな! なんで! リインフォースさんが……。ようやく悲しいことは全部終わったのに!」

 なのはの叫びに、答えられる者はいなかった。
 当たり前だ。闇の書事件は終わった。後は残務処理だけだと思っていたじゃないか。なんで、リインフォースが消えなきゃならないんだ?
 こんな結末、誰も望んでいないのに!

【誰かがやらねばならない事です。主はやての代で闇の書の、終わらぬ夜は終わったのです。これ以上犠牲者を出すわけにはいかない】
「そんな、そんな簡単にあきらめるなよ!」
【貴方まで無茶を言わないでほしい。でも、ありがとう、高町なのは、ヴァン・ツチダ。それに管理局の人たち……。最後に優しい人たちに出会えて良かった……】

 消え行くリインフォースは、優しく微笑む。そんな、そんな! もっと、もっといい未来があったはずじゃなかったのかよ! もっとやさしい未来だってあったはずじゃないのかよ!
 こんな状況で、何を言っているんだよ! 俺は優しくなんてない。偶然出会わなきゃ、はやてを見捨ててたかもしれない人間なんだぞ。俺みたいに偽者じゃなくて、もっと優しい人たちに囲まれるべきじゃないのかよ!
 だれか、誰か何とかしてくれ……。

「あかん、やめて、リインフォース! 私がそっちに行って何とかするから!」
【我侭を言うものではありません。主はやて、良いのですよ。ずいぶんと永い時を生きてきましたが、最後の最後で貴方に綺麗な名前と心をいただきました。騎士たちも、信頼できる友も貴女の側にいます。心配はありません】
「心配とか……そんな……」
【私は笑っていけます……】

 その言葉の間にも、彼女の身体は崩壊を続けている。
 想像も付かないほどの苦痛を、彼女は味わっているはずだ。それでも、リインフォースは最後まで笑顔だった。

「一度は暴走を止めたんや! 今度もきっと大丈夫や! 今度も私が、私たちが……」
【あの時とは状況が違います。それに、もう時間切れです……】

 現実は無情だ。俺たちの祈りなど何の意味もなく、ついには最後の瞬間を迎える。リインフォースの崩壊は加速度的に進む。
 はやてはイオタの腕の中から飛び降りると、少しでもリインフォースの側に近寄ろうと、這ってモニターの前に向かった。 

「そんな、いっぱい、いっぱい悲しい思いしてきたんや……、これから、もっと幸せにしてあげなきゃならんのに……」
【大丈夫です。私はもう、世界で一番幸福な魔導書ですから】
「リインフォース……」
【主はやて、ひとつお願いがあります。私は消えて、小さく無力な欠片へと変わります。もしよければ、貴女がいずれ手にするであろう、魔導の器に送ってあげて頂けますか?
 祝福の風、リインフォース。私の魂は、きっとその子に宿ります】
「リインフォース……」
【はい、我が主……】

 そういって、彼女は最後にもう一度だけ、微笑をはやてに向ける。
 リインフォースの最後の微笑みは、本当に綺麗で、なにより悲しかった。

 何で、何で死ぬのに、あんなに優しく微笑む事が出来るんだよ。俺たちみたいなのが二度目の生を謳歌しているのに……なんで、なんでこうなるんだよ。

【主はやて、守護騎士たち、それから、小さな勇者たちと勇敢な番人たち……。ありがとう。そして、さようなら】

 リインフォースの姿が頁となり、最後に一筋の光となって消える。
 それと同時に、ヘイローズを覆っていた木は動きを止めた。

「リインフォースさんが作ってくれた時間を……無駄に出来ません。急いでヘイローズのクルーを回収して頂戴」
「了解」

 少女たちが涙を見せる中、リンディ提督は表情を変えることなく命令を発する。
 ただ、握られた手を覆う白い手袋に、真っ赤な染みが広がっていた。



 俺たちが関わった闇の書事件は、アースラから放たれたアルカンシェルの輝きで終わりを告げた。



 次元航行艦ヘイローズは闇の書の防衛プログラムの浸食を受け制御不可能となった為に、アースラに搭載していたアルカンシェルで撃沈する。
 犠牲者は自爆攻撃を仕掛けた自称不破ナノハ一名。ヘイローズのクルーは全員脱出に成功して無事だった。
 事件の規模に対して人的被害は極めて軽微というのが、この事件に対する世の評価だ。

 ただ、最終報告書の物的被害欄に記されている“第97管理外世界現地魔導師、八神はやて個人所有ユニゾンデバイス。個体名リインフォース”の消滅は、この事件に関わった人々の心に深い爪痕を残す事になった。


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