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No.12318の一覧
[0] 転生者はトラブルと出会ったようです 【次スレに移行】  [さざみー](2012/01/17 00:52)
[1] 第1話[さざみー](2010/04/09 17:54)
[2] 第2話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[3] 第2話(幕間)[さざみー](2009/10/31 19:13)
[4] 第2話(後編)[さざみー](2010/02/02 11:03)
[5] 第2話(終幕)[さざみー](2009/10/04 17:22)
[6] 第3話(前編)[さざみー](2010/04/09 18:26)
[7] 第3話(後編)[さざみー](2010/02/02 12:35)
[8] 第3話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/04/13 09:54)
[9] 第4話(前編)[さざみー](2011/02/20 11:20)
[10] 第4話(後編)[さざみー](2011/09/05 21:21)
[11] 第4話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:56)
[12] 第5話(前編)[さざみー](2010/03/02 20:14)
[13] 第5話(幕間)[さざみー](2009/10/13 01:36)
[14] 第5話(後編)[さざみー](2010/03/02 20:32)
[15] 第5話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/06/09 12:22)
[16] 第6話(前編)[さざみー](2010/07/01 10:58)
[17] 第6話(幕間)[さざみー](2010/03/21 19:43)
[18] 第6話(後編)[さざみー](2010/03/21 19:50)
[19] 第6話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:55)
[20] 第6話(終幕というか、蛇足の蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:58)
[21] 第7話(序幕)[さざみー](2009/12/28 02:18)
[22] 第7話[さざみー](2010/03/22 00:46)
[23] 第8話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[24] 第8話(後編)[さざみー](2010/03/22 00:56)
[25] 第8話(終幕)[さざみー](2010/03/22 01:09)
[26] 第8話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/02/01 02:57)
[27] 第9話(前編)[さざみー](2011/02/02 04:41)
[28] 第9話(後編)[さざみー](2010/03/22 09:18)
[29] 第10話(序幕)[さざみー](2009/11/06 18:09)
[30] 第10話(前編)[さざみー](2010/03/22 09:56)
[31] 第10話(後編)[さざみー](2011/12/14 21:40)
[32] 第11話(前編)[さざみー](2009/12/28 11:02)
[33] 第11話(後編)[さざみー](2009/11/13 01:37)
[34] 第12話(序幕)[さざみー](2009/11/27 18:39)
[35] 第12話(前編)[さざみー](2009/12/28 13:00)
[36] 第12話(後編)[さざみー](2009/11/18 03:53)
[37] 第12話(終幕あるいは、開幕)[さざみー](2009/12/28 14:23)
[38] 第13話(エピローグ前編)[さざみー](2009/11/26 14:52)
[39] 第13話(エピローグ後編)[さざみー](2010/06/03 14:09)
[40] 閑話第1話[さざみー](2011/09/05 21:24)
[41] 閑話第2話[さざみー](2010/03/22 15:32)
[42] 閑話第3話[さざみー](2010/03/22 15:37)
[43] 閑話第4話[さざみー](2010/02/01 03:21)
[44] 閑話第5話[さざみー](2010/03/22 16:18)
[45] 閑話第6話[さざみー](2011/08/08 23:12)
[46] 閑話第7話[さざみー](2009/12/07 08:10)
[47] A’s第1話(1)[さざみー](2010/01/18 12:12)
[48] A’s第1話(2)[さざみー](2010/01/18 12:17)
[49] A’s第2話(1)[さざみー](2010/01/26 10:40)
[50] A’s第2話(2)[さざみー](2010/01/26 11:58)
[51] A’s第2話(3)[さざみー](2009/12/30 02:06)
[52] A’s第2話(4)[さざみー](2011/07/20 20:50)
[53] A’s第3話(1)[さざみー](2009/12/30 02:05)
[54] A’s第3話(2)[さざみー](2010/01/26 17:17)
[55] A’s第3話(3)[さざみー](2010/01/26 17:24)
[56] A’s第3話(4)[さざみー](2011/08/08 23:13)
[57] A’s第4話(1)[さざみー](2010/04/13 19:07)
[58] A’s第4話(2)[さざみー](2010/03/11 03:31)
[59] A’s第4話(3)[さざみー](2010/03/11 03:33)
[60] A’s第4話(4)[さざみー](2011/01/12 00:01)
[61] A’s第5話(1)[さざみー](2011/01/12 00:30)
[62] A’s第5話(2)[さざみー](2010/05/23 22:59)
[63] A’s第5話(3)[さざみー](2010/02/04 17:21)
[64] A’s第6話(1)[さざみー](2010/04/11 11:54)
[65] A’s第6話(2)[さざみー](2011/01/04 04:09)
[66] A’s第7話(1)[さざみー](2010/02/27 02:18)
[67] A’s第7話(2)[さざみー](2011/09/05 21:37)
[68] A’s第7話(3)[さざみー](2010/03/11 02:38)
[69] A’s第7話(4)[さざみー](2010/04/08 08:55)
[70] A’s第8話(1)[さざみー](2011/09/05 21:39)
[71] A’s第8話(2)[さざみー](2010/04/08 09:10)
[72] A’s第8話(3)[さざみー](2011/09/05 21:40)
[73] A’s第8話(4)[さざみー](2010/07/24 20:03)
[74] A’s第9話(1)[さざみー](2011/08/08 23:15)
[75] A’s第9話(2)[さざみー](2010/07/24 20:27)
[76] A’s第9話(3)[さざみー](2010/04/26 18:41)
[77] A’s第9話(4)[さざみー](2010/04/30 04:31)
[78] A’s第10話(1)[さざみー](2010/05/05 04:16)
[79] A’s第10話(2)[さざみー](2010/05/20 01:04)
[80] A’s第10話(3)[さざみー](2011/08/08 23:19)
[81] A’s第10話(4)[さざみー](2011/11/06 11:05)
[82] A’s第11話(1)[さざみー](2011/11/06 10:51)
[83] A’s第11話(2)[さざみー](2011/11/06 11:14)
[84] A’s第11話(3)[さざみー](2011/06/11 14:58)
[85] A’s第11話(4)[さざみー](2010/06/22 00:33)
[86] A’s第12話(1)[さざみー](2011/01/04 04:07)
[87] A’s第12話(2)[さざみー](2010/07/17 02:59)
[88] A’s第12話(3)[さざみー](2010/08/12 17:07)
[89] A’s第12話(4)[さざみー](2010/11/19 21:26)
[90] A’s第12話(5)[さざみー](2011/02/18 03:24)
[91] A’s第13話(1)[さざみー](2011/02/18 03:26)
[92] A’s第13話(2)[さざみー](2011/09/25 23:36)
[93] A’s第13話(3 あるいは幕間1)[さざみー](2011/02/11 19:51)
[94] A’s第13話(4 あるいは幕間2)[さざみー](2011/02/18 03:28)
[95] A’s第13話(5 あるいは幕間3)[さざみー](2011/11/06 13:03)
[96] A’s第13話(6 エピローグ・前編)[さざみー](2011/03/24 00:25)
[97] A’s第13話(7 エピローグ・後編)[さざみー](2011/12/25 13:54)
[98] End of childhood 第1話[さざみー](2011/09/05 21:43)
[99] End of childhood 第2話[さざみー](2011/06/18 12:59)
[100] End of childhood 第3話[さざみー](2011/02/20 11:21)
[101] End of childhood 第4話[さざみー](2011/02/24 05:07)
[102] End of childhood 第5話[さざみー](2011/07/23 12:16)
[103] End of childhood 第6話[さざみー](2011/03/04 22:03)
[104] End of childhood 第7話[さざみー](2011/03/11 03:45)
[105] End of childhood 第8話[さざみー](2011/04/10 13:24)
[106] End of childhood 第9話[さざみー](2011/04/10 13:50)
[107] End of childhood 第10話[さざみー](2011/06/05 11:42)
[108] End of childhood 第11話[さざみー](2011/07/31 21:04)
[109] End of childhood 第12話[さざみー](2011/09/18 13:14)
[110] End of childhood 第13話[さざみー](2011/09/04 23:55)
[111] End of childhood 第14話[さざみー](2011/11/06 10:42)
[112] End of childhood 第15話[さざみー](2011/09/18 19:04)
[113] End of childhood 第16話[さざみー](2011/11/21 00:43)
[114] End of childhood 第17話[さざみー](2011/12/21 00:54)
[115] End of childhood 第18話[さざみー](2012/01/05 21:10)
[116] End of childhood 第19話 プロローグに続くエピローグ[さざみー](2012/01/17 00:42)
[117] 番外編 転生者はクリスマスも仕事のようです[さざみー](2011/02/06 08:41)
[118] 番外編 転生者はトラブルとすれ違ったようです[さざみー](2010/04/20 14:41)
[119] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(前編)[さざみー](2011/09/18 21:11)
[120] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(後編)   [さざみー](2011/09/18 21:12)
[121] オリキャラ一覧(終了時点) NEW[さざみー](2012/01/17 01:09)
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[12318] A’s第8話(4)
Name: さざみー◆01bdadd3 ID:9f18423d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/24 20:03
A’s第8話(4)



 わ、我ながら無茶をしたものだ。

 小型次元航行艦の貨物室に滑り込んだ俺は、安堵の溜息を付く。
 密輸銃器の摘発に何度か立ち会ってるし銃撃戦の経験もあるけど、弾幕の中を突っ込むなんて経験は初めてだ。
 船に連れ込まれるなのはを見て頭に血が上ってやってしまったが、出来れば二度としたくないものである。

 さて、ゆっくりと休んでる暇なんてない。
 この船で逃げるつもりなんだろうけど、もしかすると時の庭園から距離を取って個人転移なんて可能性もある。召喚魔導師でもない限り大きな荷物を運ぶ事は出来ないが、女の子一人ぐらいなら余裕だろう。
 これをやられると、管理世界の探知網内でも追跡は難しい。もっとも、見たところ軍船じゃないから、長距離転移用の転移装置なんて便利なものは無いと思うけど……。

 俺は立ち上がりながら装備を確認する。
 俺が持たされていたカートリッジの予備マガジンは2つ。はじめから装着していた分を含め3つ。P1SCのマガジンは3連装で、ここに来るまで4発使ったから残り5発……。
 まぁ、今まではカートリッジ無しでやってきたんだし、何とかなるか。

 さてと、まずなのはのいる場所を確認しないと……。俺は船の構造を探るべくサーチャーを飛ばそうとする。
 しかし……。

「見つけたぞ!」
「侵入者はこっちだ!」

 どやどやと、銃火器を持った連中が、貨物室にやってくる。
 そりゃ、アレだけ派手に進入すれば気が付くよな。ゆっくり進入しているような時間が無かったとはいえ、これは少しばかりピンチだ。
 やってきた連中の中から俺とそれほど年の離れていない騎士が少し驚いた顔で出てくる。

「あんたは確か、騎士クラウス?」
「君は、たしかヴェロッサと一緒にいた……?」

 ここでわずかとはいえ知った顔の登場……、特に一回は肩を並べて戦った人が敵に回るってのは正直最悪な気分だ。

「ツチダ空曹だったね。高町なのはを追ってきたのは君だったのか」
「ええ、そうです。時の庭園の通信妨害は解除されました。誘拐……いや、一連の事件は管理局が把握する事となりました。これ以上罪を重ねるのは止めて、武器を捨てて投降してください!」

 実際、誘拐事件……いや、聖王教会がテロリストと組んでいる事は管理局の知るところとなっている。
 状況的に考えればこんな投降勧告なんて無意味というか……。

「そうか……。だが、降伏は出来ない。君こそこの数相手に何が出来る? 降伏したまえ、悪いようにはしない」

 やっぱ無駄か。動揺するかなと思ったが、兵士達の銃口はしっかりとこちらを向いたままだ。
 どういう計画でやってるのかは知らないが、この程度は覚悟済だろう。

「誘拐の現行犯です。なのはを……攫った女の子をすぐに返すんだ!」
「それは出来ない。もう一度言う、降伏するんだ」

 俺の言葉に、騎士クラウスが答える。もっとも、彼も俺が降伏するなんて考えて無いだろう。念のための確認という奴だ。
 俺だって彼らが降伏するとか、素直になのはを返すとか考えていない。
 互いに緊張が高まる。俺はフォースセイバーを、騎士クラウスは槍型のデバイスを構える。

「降伏しませんか」
「当たり前だ」

 少なくとも、ドクター・スカリエッティが絡んでいる以上、俺に降伏という選択肢は無い。
 絡んで無くても、なのはを助けないなんて選択肢はもっと無い。

「仕方ないか。お前たちは後退して、隔壁を閉鎖。そのままその場で待機だ」
「了解です、騎士クラウス」

 騎士クラウスの命令に従い、兵士達は入ってきた入り口から消えていく。
 俺を説得しよう……ってわけじゃないよな。貨物室という狭い空間で、表は次元の海だ。さらに白兵戦主体のベルカの騎士なら、銃による援護なんて邪魔なだけだろう。
 うっかり壁に穴でも空けたら、大変な事になってしまう。俺たち魔導師はバリアジャケットを纏っているから次元空間内でも平気だが、一般人が飛び出したら防護服を着てない限り生きていけない。

「本当に降伏する気は無いんですか? 事件は管理局の知るところになりました。アコース査察官が悲しみますよ」
「ロッサは関係ない! それに、君さえ拘束すれば誘拐事件は無かった事になる。高町なのはは時の庭園の戦闘で行方不明扱いで終わるんだ。そういうところからの命令なんだよ……」

 うわ、なんか、スカリエッティ博士がらみかと思ったら、それより上の所からの命令っぽい。
 実在しているかどうか知らないが……最高評議会……、じゃないよな。命令系統が違いすぎる。となると、聖王教会のトップクラスからの命令か……。
 しかし、そうなるとますます誘拐の理由がわからなくなる。
 才能は豊かだが、魔導師としてのなのはは特筆するべき点はそれほどない。オーソドックスなミッドチルダ式魔導師だ。

 まぁ、グダグダ考えても仕方ないか。どうせこの場ではそんな事は関係ないしね。
 彼がなのはを解放して管理局に投降する意思が無い以上、彼を何とかしない限りなのはは助けられない。

「最後のチャンスだ。降伏しろ、ツチダ空曹」
「あなたこそ投降するんだ。逃げ切れないぞ、騎士クラウス」

 互いににらみ合い、魔力が高まる。
 そして、先手を打って動いたのは俺だった。



 * * * * * * * * * * * * * *



 計画が管理局にばれた段階で、計画は破綻していた。
 恐らくは自分達は騎士アルフォードの配下として全員逮捕されるであろう。仮にヴァン・ツチダを拘束してもその結果は変わらない。
 そんな事は、クラウスにもよく分かっていた。

 仮に現在持っている管理局理事の地位を失ったとしても、聖王教会における彼の地位に揺らぎは無い。
 仮に自分達が全員逮捕されたとしても、自身には何の痛痒も無い。そういう存在なのだ、ソナタ枢密卿は。

 結局、もとからこうなる運命だったのだ。ヴェロッサや騎士カリムに出会ったのが、悪い夢だったと思うしかない。

 顔見知りと戦う事、さらにはその相手が親友の知人である事を考えれば、最悪の気分だ。
 噂に寄れば、彼はハラオウン執務官の一番弟子らしい。そんな少年を打ち据え幼い少女を攫う。
 さらに、転生者としてみてみれば、彼の行動は物語の決定的な崩壊を意味する。これから起こる幾つもの事件に対応する主役がいないのだ。枢密卿が何故高町なのはを欲するかは分からないが、非合法な手段を用いるのだから恐らくは碌な目的ではないだろう。
 クラウスは自嘲の笑みを浮かべる。もはやヴェロッサやカリムには顔向けできない。

 だが、これが自分の選んだ道なのだ。転生者だろうが、なんだろうが、この世界の仕組みには逆らえない。

「最後のチャンスだ。降伏しろ、ツチダ空曹」
「あなたこそ投降するんだ。逃げ切れないぞ、騎士クラウス」

 互いに最後の警告を発する。
 皮肉な話だ。物語に存在しない二人が、物語の主人公をめぐって戦いを起す。いや、それほど綺麗なものではないか、所詮自分は誘拐犯だ。
 だが、彼が高町なのはとどのような関係か知らないが、自分にだって譲れないものがあった。守るべき家族が、兄弟が、仲間がいる。ここで捕まるわけにはいかないのだ。

 互いににらみ合い、魔力が高まる。
 先に動いたのは、ヴァンであった。圧倒的に力量差で劣る彼は、主導権を握られたら勝てないと考えたのだろう。低空で浮遊し、後方に下がりながら魔法弾を連射する。
 誘導はともかく、連射性能は大したものだ。

 だが……見える。

 彼の持つレアスキル『未来察知』の導きに従い、全ての魔法弾を余裕を持って避けヴァンに肉薄した。



 * * * * * * * * * * * * * *



 全部避けられた!?
 取り立てて早いわけじゃ無いが、騎士クラウスは的確な動きでシールドを張る事無く魔法弾を全て避けてしまう。
 そして、そのまま肉薄すると槍で突いてきた。
 俺は何とか避けようと身を捻るが、騎士クラウスは思い切った踏み込みで槍を振るう。穂先はまるで俺の動きを察していたかのごとく俺に迫ってくる。

 避けきれない!

 俺はそれを悟ると、左肩を突き出し肩に槍を食い込ませる。胸を貫かれるよりはこちらがマシだ!
 そして刺さる一瞬に、P1SCで切り払う。
 鈍い痛みと共に、左肩から鮮血が吹き出す。

「避けたかっ! でもっ!」

 次々に槍を繰り出してくる騎士クラウスに、俺は為す術もなく切り裂かれる。
 どの攻撃も早いわけじゃないのだが、的確に俺のいる位置を狙ってくるのだ。避けれる攻撃が一つもない。
 こうなると、次善の策をとるしか無い。急所に当たりそうな攻撃だけをシールドとP1SCで防ぎ、致命傷にはなりそうも無い攻撃は放置する。 
 あちこちが切り裂かれ、痛みで動きが鈍る。

 ってか、このままじゃ押し切られる。多少のダメージを覚悟しても距離をとらないと……。
 俺はフォースセイバーを構えると、爆破をしようとする。

「ブ……」

 俺がここまで呟いたその瞬間、突如騎士クラウスは大きく後ろに下がる。
 ってまずい!?

「レイク」

 俺の呟きに、フォースセイバーが大きな音を立てて爆発する。俺は大きく吹き飛ばされると、コンテナの一つにぶつかる。
 この爆発で距離を取るつもりだったんだが、巻き込まれたのは俺だけだった。自爆しただけだな、これじゃ……。

 俺は痛みと眩暈を堪えながら何とか立ち上がる。
 一方の騎士クラウスは距離を取ったまま、こちらをじっと見ていた。
 戦闘開始から約1分。それだけで俺は満身創痍で、全身から出血をしている。特に最初の一撃を受け止めた左肩の痛みはひどい。痛覚遮断をしてこの痛みだと、骨にひびくらいは入ってるかもしれない。

 こっちはこの有様なのに、あちらはまったくの無傷だ。
 まぁ、何時もの事だと、俺はくじけそうな心に活を入れた。



 * * * * * * * * * * * * * *



 1分。

 『未来察知』の作動時間内に仕留め切れなかったのは久しぶりである。
 事前に与えられていた資料によれば、彼のランクは確か空戦Cだったはずだ。それなのに仕留め切れなかったという事は、あの年齢にして相当の修羅場を潜り抜けてきたという事だろう。
 実戦経験という点で、騎士団は管理局に到底及ばないという事か。

 強力無比に見える『未来察知』であるが、使い方を誤れば途端に弱体化を招く暴れ馬のような能力だ。
 例えばクラウスは数秒先の未来まで見えるが、その実大雑把にしか見ていない。その気になれば詳細な部分まで見えるのだが、そこまでやると無数の選択肢の全てが見えてしまい、とてもではないが情報処理が間に合わない。
 見える先が最大でも数秒なので戦闘以外の使い道に乏しく、戦闘にしても大雑把な未来予知しかできない。そのくせ集中力を欠くと極端に精度が落ちる。
 さらに、相手の咄嗟の反応にも完全には対応しきれない。特に戦い慣れたベテラン相手だと、手痛いしっぺ返しを食らう事もしばしばだ。

 それでも、特に白兵戦においては無類の強さを持つレアスキルなのには変わりが無い。

 とりあえず、次の『未来察知』の使用可能時間までは少し間がある。
 あの出血と傷だ、無理にこちらから攻める必要はあるまい。



 * * * * * * * * * * * * * *



 まだ立てるし、まだ動ける。

 今の攻防……ってか、一方的にやられていただけだが、とにかく分かった事は二つ。騎士クラウスはクロノさんやなのはレベルで強いという事と、足捌きから見て陸戦魔導師だって事ぐらいだ。どっちもあんまり役に立たないか。
 天井の低い貨物室では、陸戦魔導師相手でもそれほど有利にはならない。
 とはいえ、俺が勝ってそうなのはその一点だけだ。なら、それで攻めるしかない。

 俺は空中に浮かび上がると、フォースセイバーを発動させ、騎士クラウスに突撃をする。

『Flash Move Action』
「その出血で、こんな狭い空間で高速移動魔法だって!? 正気か!!」
「正気だよ、こんちくしょう!」

 罵声を上げながら俺は突っ込む。確かに、大量に出血している時に身体に負担が大きい高速移動魔法なんて正気の沙汰じゃない。
 とはいえ、正気で勝てる相手じゃないならやるしかないだろう。
 なにより、命に代えてもなのはを助けなきゃならないのだ。

 俺は常人では目にも止まらない速度で飛び回り、騎士クラウスに斬りつけた。
 この攻撃に流石の騎士クラウスも対応しきれず、何度か俺の攻撃を喰らいよろける。
 もっとも、俺だって無傷じゃない。
 出血しながら高速で飛び回るんだから、血がますます流れ出る事になる。狭い室内、しかも戦闘中の高速移動魔法は制御を失敗すれば大惨事だ。怪我と極度の緊張で集中力がどんどんと低下していく。

「うわあああああああああっ!」

 だが、それでも俺は止まらなかった。
 獣のように雄叫びを上げながら、高速で騎士クラウスに斬りつける。
 これなら行ける。そう思ったその時だった。

「そこっ!」
「……えっ!?」

 高速で飛び回っていた俺の目の前に、突然槍の穂先が現れる。
 いや、騎士クラウスが俺の軌道上に槍を置いたのだ。

 ちょっとまて、高速移動中の魔導師の進路を読むだって!? クロノさんじゃあるまいし、そんな非常識な真似!?
 俺はその槍を回避することが出来ず、正面から衝突してしまう。咄嗟にP1SCを前に突き出し防御をする事により、串刺しになる事だけは避ける。もっとも、串刺しを避けただけで、無理な機動変更と衝突の衝撃に勢いよく跳ね飛ばされ、天井を突き破り上のフロアの天井に衝突。そのまま転がり落ちた。
 ぜ、全身がいてえ……。

「し、しまった!」

 下の貨物室から騎士クラウスの声が聞こえる。あんだけ見事にカウンターをしておいて、しまったってなにさ。
 俺は朦朧とする意識で立ち上がり、周囲を見渡す。

 そして、俺は呆然と呟く。

「なのは?」

 そう、そこには見たことも無い術式のバインドに縛られ椅子に座らされたなのはがそこにいた。
 相変わらず表情はうつろだが、見たろころ傷は無い。胸元でチカチカ輝いているのはレイジングハートか。反応を見せない主に必死に呼びかけているのだろう。

「なのは……」

 なんだ……、こんな傍にいたのか……。
 俺はのろのろとなのはの傍に近づく。

 やべえ、こんな状況なのに、なのはの顔が見れて嬉しいや。
 PT事件のときも似たような状況があったけど……。

「助けに来たよ、なのは」

 返事がないと分かっていながら、俺はなのはに語りかける。
 ぱっと見なので詳しいプログラムは分からないが、催眠系の術式が混じっているっぽい。あのバインドは身体だけじゃなくて精神の活動を縛っているのだろう。

 なのはの顔を見たことで、少しだが冷静さが戻ってくる。

 いや、本当に冷静さを欠いていたな。
 小型の次元航行艇は貨物室のすぐ上が乗客室なのが一般的なんだから、いたっておかしくは無い。そんな単純な事に気が付かなかったなんて。
 そもそも冷静に考えていれば船に飛び乗らなくても、小型次元航行艇……しかも、軍用船じゃないのならカートリッジを使えば外壁に穴を開ける事ぐらい出来たはずだ。
 そうすれば、船の出航は出来ないわけで、足止めが出来たはず。

 なんか、なのはが攫われたって聞いて、よっぽど気が動転していたっぽい。
 俺みたいな力の弱い魔導師は頭を使って出し抜かなきゃいけないのに。

「ツチダ空曹」

 床に開いた穴から騎士クラウスが登ってくる。
 彼は俺となのはを見ると、再び降伏勧告を口にした。

「降伏するんだ、ツチダ空曹。これ以上の出血は危険だ。実力差がありすぎる事ぐらいわかっただろう、君に勝ち目は無い」

 実力の差なんて端から分かってるよ。

「やだね」

 ややぞんざいな口調だが、これは勘弁してもらおう。出血と痛みでそんな事を取り繕う余裕が無いのだ。

「俺はなのはを連れて帰る」
「そんな事が出来ると思っているのか! 実力差が分からないわけじゃないだろう。いや、そもそもこの命令は……」
「上から来ているって? 聖王教会のお偉いさん……しかも、トップクラスの誰かだろう」
「知って……」
「貴方が口を滑らした事から推測したんだけど、当たってたみたいですね」

 俺の言葉に、騎士クラウスはこちらを睨みつける。

「そうだ、君の言う通りだ。仮にここを切り抜けても、次はもっと悪辣な手で彼女を捕らえに来るかもしれない。君だって分かってるだろう、聖王教会という組織の力を!」

 彼の言う事は間違いじゃない。聖王教会の力は絶大で、管理局といえども彼らの意向を無視できない。
 管理局に出資者で理事席を持っているというのもあるが、それ以上に宗教組織としての力が大きすぎるのだ。信者数を背景とした財力や情報網は馬鹿に出来ない。局員にだって信者は多いし、独自戦力の騎士団も強大だ。
 俺みたいな木っ端役人の首なんて、瞬時に飛ばせるだろう。

「知ってるよ。でもさ、それが何?」

 俺の口調が癇に障ったのか、騎士クラウスは声を荒げる。

「何じゃない! 大きな力には結局勝てないって分からないのか!」

 んなもん、分かってるよ。でもさ……。

「そんな事関係ないさ。
 俺はなのはの事が好きだから。相手が何であっても、俺はなのはの事を守る」

 我ながら陳腐な台詞だ。そういや、前にも似たような事を言ったっけ。
 まったく、俺って奴は成長が無い。
 でも、あの時と少し違う。
 ああ、そうなんだ。俺はこんなにもなのはの事が好きなんだ。同じ世界で生きる人間として、ずっと彼女の友達でいたいんだ。

 言葉を口にしたとたん、胸の中でわだかまっていたものがすっと溶けてゆく。

「そっか。俺はなのはの事が好きなんだ」

 もう一度俺は同じ言葉を口にする。
 ふと、少し前の喧嘩の事を思い出して可笑しくなった。
 ああ、そうか。あれはただ彼女に八つ当たりをしていただけなんだ。
 頭ごなしに、同じ言葉を繰り返すなんて馬鹿げている。あんな言い方じゃ小さな子供だって反発するだけだ。まして相手は頑固者のなのはだよ。そんな事をすればこじれるなんて俺は知っていたはずじゃないか。
 傍に居たいって思ってるのに、無理に遠ざけようなんて考えて喧嘩をして。そりゃ、姉ちゃんやユーノが呆れるわけだ。

 冷静になって考えれば、能力的に今の俺となのはが同じ事件に関わるって事はありえない。前回や今回の事件が異常なだけで、俺と一緒にいると危ないんじゃないかなんて考え事態がトンチンカンなのだ。
 天才たちに囲まれて、のぼせ上がっていただけなのかもしれない。
 危ない事は極力しないで欲しいというのは変わらないが、なのはの人生をとやかく言う権利は無いはずなのに。少し先を知っているからなんだって言うんだろう。

「好きだからって……そんな青臭い子供の台詞」

「子供で悪いか! 俺はなのはが好きだから、俺はなのはを守る! 相手が聖王教会だろうと何だろうと、俺の邪魔はさせない!」

 3度目の叫びをあげる。身体は痛い。出血が酷い。相手は強い。でも、不思議と力が漲ってきて、今まで止まっていた頭が回転を始める。
 それと同時に、今まで気が付かなかったことに気が付く。周囲の状況、俺の勝利条件、騎士クラウスの苛つき。

 俺のいるところは、次元航行艇のゲスト室だろう。かなり広い部屋で、壁の窓から次元の海と時の庭園が見える。
 次に勝利条件。そもそも、あんな強い魔導師と戦う必要は無かったんだ。なのはを無事に助け出せればいい。なんとかアースラに連絡をしてこの船を拿捕するか、なのはを転移回収してもらえばそれでクリアだ。この船には何らかの対策がしてあるだろうが、それさえ何とかしてしまえばいい。

 そして、理由はわからないが騎士クラウスは苛ついている。
 俺の意外な抵抗に……違うな、そういう雰囲気じゃない。思い出してみればアコース査察官の名前が出てきたあたりから、雰囲気が変わっていた。
 あるいは少し前の俺と同じように、自分の境遇と俺を重ね合わせているのかもしれない。
 だとしたら……俺は何も出来ない。
 偉そうに説教など出来る立場じゃないし、やって良いとは思えない。自転車泥棒に拳骨を食らわせるわけじゃないのだ。多分、俺には何かを言う資格は無いし、問われてもいない他人が偉そうに正論を言っても空しいだけだ。もし言って良い人がいるなら、それはアコース査察官だけだろう。
 俺がやって良いのは、俺のやりたい事をぶつけるだけだ。

 俺の頭の中で一つのプランが立ち上がる。
 かなり無茶な手だが、恐らくは俺が勝てる唯一の策。必要なのは、勇気だけだ。

「なのはは返してもらうぞ!」

 俺は失敗の恐怖を振り払うべく叫び声を上げる。
 一方の騎士クラウスは阻止するべく、怒声を上げて突っ込んできた。

「させるかっ! 僕にだって負けれない理由があるんだ!」

 でも、動きが荒い。
 俺は高速移動魔法を発動させると、全速力で部屋の隅まで逃げる。彼から大きく距離を取り、カートリッジを1発使用した。

「カートリッジか」

 次の攻撃を警戒し、騎士クラウスは身構える。
 だが、俺が使ったのは攻撃魔法ではなかった。

『Sphere Protection』

 PT事件の際、ユーノから習って……結局魔力不足で使えなかった防御魔法を発動させる。
 なのはの周囲を球状の防壁が覆う。
 これなら、無理に破ろうとしない限り、数時間は誰もなのはに手出しは出来ない。なのはの安全はこれで保障できる。

「防御魔法?」
「派手にやるからね。勝負だ、騎士クラウス!」

 俺はそう叫びながら、デバイスから光の刃を消す。
 カートリッジをさらに一発使い、俺が出せる最大火力の魔法を発動させる。
 それがどんな魔法か悟ったのだろう。騎士クラウスは驚きの表情を浮かべた。阻止しようとして動くが彼の移動速度だったら俺の魔法発動の方が速い。

『Blaze Cannon』
「船内で砲撃だと!? 正気か」
「正気だって言ったろう! 撃ち抜けぇぇぇっ! ブレイズキャノン!」

 俺の叫びと共に、青白い閃光が騎士クラウスに迫る。
 下手に回避すれば船を傷つける。騎士クラウスはその場で足を止め、シールドを発動させる。
 シールドと砲撃がぶつかり火花を散らす。
 このままなら、地力で勝る騎士クラウスが砲撃を防ぎきるだろう。だけど……。

「なっ!」
「でええええいっ!」

 騎士クラウスが驚きの声を上げる。無理も無い、発射した砲撃の軌道を、強引に変えたのだから。
 青白い砲撃はそのまま騎士クラウスのシールドから外れ、次元航行艇の壁をぶち破る。

 船の壁に大きな穴が開き、次元の海が姿を現す。
 次元の海は、人間が作った篭の中身を強奪するべく、その牙を剥く。
 空気が、調度が、船外に吸い出される。警告音がけたたましく鳴り、この部屋の入り口の隔壁が下りおる。

「船の壁に穴を開けるなんて!? 正気か!?」

 騎士クラウスの叫びはある意味当然だ。次元航行艇の壁を破るなんて正気の沙汰じゃない。

「3度目だぜ! 正気だってな!」

 吹き荒れる突風に、騎士クラウスは槍を床に刺し何とか耐えようとする。
 一方の俺は、突風に身を任せた。

「あっ……しまった!」

 突風に身を任せたのは俺だけじゃない。結界に包まれたなのはもまた、突風に流され船外に吸い出される。
 普通なら吸い出されたら一巻の終わりだが、そうならないよう事前に結界を張りなのはを守ったのだ。

「なのはは確かに返してもらったぞ!」

 俺はなのは入りの結界の傍に行くと、このまま押し出す。
 あとは船の探知妨害圏内から脱出すれば良いだけだ。だが、諦めないって言うのなら騎士クラウスも同じだった。

「逃がすかっ!」

 俺達が船外に脱出したのを見るや否や槍を構え飛び上がる。
 だが、その動きは緩慢だ。俺がこの脱出を決意した理由がこれだ。彼に対して俺が勝っているのは、空戦の能力だけだろう。
 攻撃は一切回避できず、攻撃は尽く外れる。同じ土俵では戦っては絶対に勝てない。

 そんな相手にどうやって出し抜くか。
 簡単だ。俺の土俵に引きずり込めば良い。それで勝率が劇的に上がるわけではないが、0よりはマシになる。

「近づかせるか!」

 俺はデバイスを前に突き出すと、フォースショットを連射する。
 だが、騎士クラウスは魔法弾を槍で弾きながら肉薄してきた。槍と光の刃を失ったデバイスが交差する。

「ツチダ空曹、覚悟! 烈風一迅!」

 魔力を乗せた斬撃を振るう。
 肩口に、槍の穂先が食い込む。

 そして……。

「えっ?」

 騎士クラウスの口から、惚けた声が漏れる。
 そりゃそうだろう。光の刃を失ったはずのデバイスが、彼の胸元に刺さっているのだから。
 俺は苦痛に堪えながら、最後の魔法を発動させた。

「あんたが何を背負ってるのか知らないが、俺の邪魔はさせない! フォースセイバー、フルドライブ!」

 俺の叫びに呼応し、最高の一撃を放つために姿を隠していたフォースセイバーが再び出現する。

 冷静になって考えれば、彼のカウンターは異常だった。
 攻撃は常に俺を追尾し、回避は常に成功する。シールドすら必要としない。そんな事可能だろうか? さらに、病院での戦闘では高速移動に対応できていなかったはずなのに、今回は対応して見せた。
 クロノさんにしても、完封モードに入るまでは防御魔法を駆使して戦うし、俺やフェイトの高速移動に対応するのは基本的に出始めか終点でだ。クロノさんでも、高速移動中の魔導師は捕らえきれないと言っていた。

 そこで、俺は一つの仮説を立てた。騎士クラウスは見て対応できる超反射神経の持ち主なんじゃないかと。
 まぁ、この仮説は当たって無くても遠からずだろう。見えない光の刃をいうトラップにはまった所を見ると……。

 無論、普通にやっていては、見えない刃と言えども当たらなかっただろう。
 だが、彼は俺がなのはを助けると言ったあたりから明らかに冷静さを欠いていたし、無理やり空戦に引きずり込む手段が俺にはあった。
 勝率1割に満たない、しかも外れれば後が無い危険な賭けだったが、俺はその賭けに勝ったのだ。

「う、うおおおおおっ! 負けれるか!」

 だが、胸の中央を貫かれながらも、騎士クラウスは槍を振りぬこうと力を込めてくる。槍のカートリッジシステムが稼動し、槍に強力な魔力の輝きが宿る。
 ホント凄いよ、この人。
 だけど、俺も負けない。

「それはこっちだって同じだ! カートリッジリロード、全弾持っていけ!」

 俺はマガジンを入れ替えると、残ったカートリッジの全て注ぎ込む。
 デバイスが音を立てて稼動し、空薬莢が3つ排出される。
 槍が深くめり込み、骨にひびが入る嫌な音が耳に届く。
 それと同時にフォースセイバーがひときわ強く輝く。
 
「うおおおおおおっ!」
「うわあああああっ!」

 もはや言葉にならない叫びを、俺達二人は上げる。
 そして、勝負がつく。

 フォースセイバーの輝きが、騎士クラウスの意識を刈り取ったのだ。

「俺の勝ちだ……」

 意識を失った騎士クラウスに向かって、俺は小さく呟いた。



 とと、こんな事をしている場合じゃない。
 俺は気を抜くと意識を失いそうな痛みを発する身体に鞭を打って、なのはの元にたどり着く。
 胸は上下している。よかった、無事だ。

「レイジングハート、聞こえているか?」
『Yes』
「主じゃなくて悪いが、救難信号を発信してくれ。近くにアースラがいる」
『All right』

 俺はレイジングハートが点滅するのを見て、騎士クラウスに向かってバインドを飛ばす。
 弱々しいバインドで、抵抗すれば瞬時に破壊されるようなものだったが、どうやら抵抗は無いようだ。

 あっと、フィールドで包んでおかないとな。意識を失ったからといってすぐにバリアジャケットが解除されるわけじゃないが、念の為ってやつだ。
 俺がそう思い、首を上げる。

「えっ?」

 俺は信じられないものを目にし、惚けた声を上げた。

 誰が予想するだろうか。時の庭園をすっぽりと覆うほどの巨大な三角形の魔法陣の存在なんて。一辺がどれくらいの長さなんだよ、あれは!?
 って、時の庭園が魔法陣に飲まれている? あ、いや、違う。アレは、転移魔法陣!?

 時の庭園ごと転移だって?

 俺が魔法陣の正体に気がつき驚きの声を上げるとほぼ同じタイミングで、P1SCが警告音を発する。

「って、何!? 魔法陣に引っ張られている?」

 良く見れば俺達だけじゃない。今しがた脱出したばかりの小型次元航行艇も、魔法陣に引っ張られている。
 船ですらそうなのだ。生身で次元空間に飛び出した俺達など逃げれるはずも無かった。

 俺となのは、それに騎士クラウスはその巨大魔法陣に引っ張られ、いずこかの世界に転移を果たす。





「ここは……」

 真っ先に感じたのは、潮の匂いだった。
 周囲を見渡せば、確かに海だ。
 何処かの海岸線に、俺達はたどり着いていた。 少し離れた沖合いににょきっと突き立っている次元航行艇がかなりシュールだ。
 いや、それ以前に空に浮いているのは……時の庭園か。

「なのはは?」

 もっとも、探す必要すらなかった。
 よっぽど気が動転していたのだろう。しっかりと抱きしめたままだった。

 転移の衝撃でバインドも解けている。

 良く見れば、騎士クラウスも少し離れた場所に倒れていた。

 周囲がやや薄暗い……。これは封時結界かな?

 俺はさらに周囲を確認する。
 海岸線の公園……。海に突き出した洒落た桟橋が見える。って、その光景は凄い見覚えがある。
 というか、絶対に忘れない光景だよな。

「ここって、海鳴市?」

 そう、俺達が転移したその場所は、俺がほんの前まで過ごしていた町だった。
 そしてこの町が、“闇の書事件”の最後の舞台となる事を俺はまだ知らない。


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