<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.12318の一覧
[0] 転生者はトラブルと出会ったようです 【次スレに移行】  [さざみー](2012/01/17 00:52)
[1] 第1話[さざみー](2010/04/09 17:54)
[2] 第2話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[3] 第2話(幕間)[さざみー](2009/10/31 19:13)
[4] 第2話(後編)[さざみー](2010/02/02 11:03)
[5] 第2話(終幕)[さざみー](2009/10/04 17:22)
[6] 第3話(前編)[さざみー](2010/04/09 18:26)
[7] 第3話(後編)[さざみー](2010/02/02 12:35)
[8] 第3話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/04/13 09:54)
[9] 第4話(前編)[さざみー](2011/02/20 11:20)
[10] 第4話(後編)[さざみー](2011/09/05 21:21)
[11] 第4話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:56)
[12] 第5話(前編)[さざみー](2010/03/02 20:14)
[13] 第5話(幕間)[さざみー](2009/10/13 01:36)
[14] 第5話(後編)[さざみー](2010/03/02 20:32)
[15] 第5話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/06/09 12:22)
[16] 第6話(前編)[さざみー](2010/07/01 10:58)
[17] 第6話(幕間)[さざみー](2010/03/21 19:43)
[18] 第6話(後編)[さざみー](2010/03/21 19:50)
[19] 第6話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:55)
[20] 第6話(終幕というか、蛇足の蛇足)[さざみー](2010/03/21 19:58)
[21] 第7話(序幕)[さざみー](2009/12/28 02:18)
[22] 第7話[さざみー](2010/03/22 00:46)
[23] 第8話(前編)[さざみー](2011/08/08 23:11)
[24] 第8話(後編)[さざみー](2010/03/22 00:56)
[25] 第8話(終幕)[さざみー](2010/03/22 01:09)
[26] 第8話(終幕というか、蛇足)[さざみー](2010/02/01 02:57)
[27] 第9話(前編)[さざみー](2011/02/02 04:41)
[28] 第9話(後編)[さざみー](2010/03/22 09:18)
[29] 第10話(序幕)[さざみー](2009/11/06 18:09)
[30] 第10話(前編)[さざみー](2010/03/22 09:56)
[31] 第10話(後編)[さざみー](2011/12/14 21:40)
[32] 第11話(前編)[さざみー](2009/12/28 11:02)
[33] 第11話(後編)[さざみー](2009/11/13 01:37)
[34] 第12話(序幕)[さざみー](2009/11/27 18:39)
[35] 第12話(前編)[さざみー](2009/12/28 13:00)
[36] 第12話(後編)[さざみー](2009/11/18 03:53)
[37] 第12話(終幕あるいは、開幕)[さざみー](2009/12/28 14:23)
[38] 第13話(エピローグ前編)[さざみー](2009/11/26 14:52)
[39] 第13話(エピローグ後編)[さざみー](2010/06/03 14:09)
[40] 閑話第1話[さざみー](2011/09/05 21:24)
[41] 閑話第2話[さざみー](2010/03/22 15:32)
[42] 閑話第3話[さざみー](2010/03/22 15:37)
[43] 閑話第4話[さざみー](2010/02/01 03:21)
[44] 閑話第5話[さざみー](2010/03/22 16:18)
[45] 閑話第6話[さざみー](2011/08/08 23:12)
[46] 閑話第7話[さざみー](2009/12/07 08:10)
[47] A’s第1話(1)[さざみー](2010/01/18 12:12)
[48] A’s第1話(2)[さざみー](2010/01/18 12:17)
[49] A’s第2話(1)[さざみー](2010/01/26 10:40)
[50] A’s第2話(2)[さざみー](2010/01/26 11:58)
[51] A’s第2話(3)[さざみー](2009/12/30 02:06)
[52] A’s第2話(4)[さざみー](2011/07/20 20:50)
[53] A’s第3話(1)[さざみー](2009/12/30 02:05)
[54] A’s第3話(2)[さざみー](2010/01/26 17:17)
[55] A’s第3話(3)[さざみー](2010/01/26 17:24)
[56] A’s第3話(4)[さざみー](2011/08/08 23:13)
[57] A’s第4話(1)[さざみー](2010/04/13 19:07)
[58] A’s第4話(2)[さざみー](2010/03/11 03:31)
[59] A’s第4話(3)[さざみー](2010/03/11 03:33)
[60] A’s第4話(4)[さざみー](2011/01/12 00:01)
[61] A’s第5話(1)[さざみー](2011/01/12 00:30)
[62] A’s第5話(2)[さざみー](2010/05/23 22:59)
[63] A’s第5話(3)[さざみー](2010/02/04 17:21)
[64] A’s第6話(1)[さざみー](2010/04/11 11:54)
[65] A’s第6話(2)[さざみー](2011/01/04 04:09)
[66] A’s第7話(1)[さざみー](2010/02/27 02:18)
[67] A’s第7話(2)[さざみー](2011/09/05 21:37)
[68] A’s第7話(3)[さざみー](2010/03/11 02:38)
[69] A’s第7話(4)[さざみー](2010/04/08 08:55)
[70] A’s第8話(1)[さざみー](2011/09/05 21:39)
[71] A’s第8話(2)[さざみー](2010/04/08 09:10)
[72] A’s第8話(3)[さざみー](2011/09/05 21:40)
[73] A’s第8話(4)[さざみー](2010/07/24 20:03)
[74] A’s第9話(1)[さざみー](2011/08/08 23:15)
[75] A’s第9話(2)[さざみー](2010/07/24 20:27)
[76] A’s第9話(3)[さざみー](2010/04/26 18:41)
[77] A’s第9話(4)[さざみー](2010/04/30 04:31)
[78] A’s第10話(1)[さざみー](2010/05/05 04:16)
[79] A’s第10話(2)[さざみー](2010/05/20 01:04)
[80] A’s第10話(3)[さざみー](2011/08/08 23:19)
[81] A’s第10話(4)[さざみー](2011/11/06 11:05)
[82] A’s第11話(1)[さざみー](2011/11/06 10:51)
[83] A’s第11話(2)[さざみー](2011/11/06 11:14)
[84] A’s第11話(3)[さざみー](2011/06/11 14:58)
[85] A’s第11話(4)[さざみー](2010/06/22 00:33)
[86] A’s第12話(1)[さざみー](2011/01/04 04:07)
[87] A’s第12話(2)[さざみー](2010/07/17 02:59)
[88] A’s第12話(3)[さざみー](2010/08/12 17:07)
[89] A’s第12話(4)[さざみー](2010/11/19 21:26)
[90] A’s第12話(5)[さざみー](2011/02/18 03:24)
[91] A’s第13話(1)[さざみー](2011/02/18 03:26)
[92] A’s第13話(2)[さざみー](2011/09/25 23:36)
[93] A’s第13話(3 あるいは幕間1)[さざみー](2011/02/11 19:51)
[94] A’s第13話(4 あるいは幕間2)[さざみー](2011/02/18 03:28)
[95] A’s第13話(5 あるいは幕間3)[さざみー](2011/11/06 13:03)
[96] A’s第13話(6 エピローグ・前編)[さざみー](2011/03/24 00:25)
[97] A’s第13話(7 エピローグ・後編)[さざみー](2011/12/25 13:54)
[98] End of childhood 第1話[さざみー](2011/09/05 21:43)
[99] End of childhood 第2話[さざみー](2011/06/18 12:59)
[100] End of childhood 第3話[さざみー](2011/02/20 11:21)
[101] End of childhood 第4話[さざみー](2011/02/24 05:07)
[102] End of childhood 第5話[さざみー](2011/07/23 12:16)
[103] End of childhood 第6話[さざみー](2011/03/04 22:03)
[104] End of childhood 第7話[さざみー](2011/03/11 03:45)
[105] End of childhood 第8話[さざみー](2011/04/10 13:24)
[106] End of childhood 第9話[さざみー](2011/04/10 13:50)
[107] End of childhood 第10話[さざみー](2011/06/05 11:42)
[108] End of childhood 第11話[さざみー](2011/07/31 21:04)
[109] End of childhood 第12話[さざみー](2011/09/18 13:14)
[110] End of childhood 第13話[さざみー](2011/09/04 23:55)
[111] End of childhood 第14話[さざみー](2011/11/06 10:42)
[112] End of childhood 第15話[さざみー](2011/09/18 19:04)
[113] End of childhood 第16話[さざみー](2011/11/21 00:43)
[114] End of childhood 第17話[さざみー](2011/12/21 00:54)
[115] End of childhood 第18話[さざみー](2012/01/05 21:10)
[116] End of childhood 第19話 プロローグに続くエピローグ[さざみー](2012/01/17 00:42)
[117] 番外編 転生者はクリスマスも仕事のようです[さざみー](2011/02/06 08:41)
[118] 番外編 転生者はトラブルとすれ違ったようです[さざみー](2010/04/20 14:41)
[119] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(前編)[さざみー](2011/09/18 21:11)
[120] 番外編 転生者はクリスマスの街を案内するようです(後編)   [さざみー](2011/09/18 21:12)
[121] オリキャラ一覧(終了時点) NEW[さざみー](2012/01/17 01:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[12318] End of childhood 第11話
Name: さざみー◆01bdadd3 ID:6c302dbc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 21:04
End of childhood 第11話



「人の家だと思って、随分と好き勝手やっていますね」

 地下プラントを貫く桜色の光を観測していたウーノは、呆れ混じりの感想を述べた。
 ただの地下プラントでは無い。スカリエッティお手製の防御対策が何重にも施されていた地下プラントだ。
 それを最深部まであっさりと貫くのだから、これはもう呆れるしかない。

「そう言えば、物語では聖王のゆりかごをぶち抜いていたね。あの威力なら、確かにそれもあり得るか」

 隣で同じ映像を見ていたスカリエッティの声にも、若干の呆れが混じっていた。
 もっとも、顔には何時もの嘲笑が貼りついたままだ。明らかにこの状況を楽しんでいた。

「威力だけではありません。的確に防衛システムを無力化しています」
「ほう? 被害は?」
「既にガジェットドローンの60パーセントが機能を停止、その他の防衛システムも47パーセントがダウンしています」

 その数字は、プラントの防衛機能がほぼ停止した事を意味する。残っているのは、陸士の追い込みを行っていた機体と、雑務用の機体だけだ。
 砲撃の威力を考慮しても、被害が大きすぎる。

「最高評議会がプラントの内部情報をリークしたのでしょうか?」
「それは無いよ、ウーノ。プラントは彼らの資産でもあるんだ。まだ利用価値がある以上、無力化するにしても、もっと穏便な手段を取るだろう」

 そもそも、最高評議会に伝えてあるデータは不完全な物だ。さらに、最近になって拡張した区画もある。
 ここまで的確なプラントの無力化は、最高評議会の持つデータでは不可能だろう。

「ドクター、このままでは計画に支障が出る恐れがあります」
「まいったねぇ……」

 言葉はともかく、口調には全く困った様子が無い。それどころか、この期に及んでも楽しそうだった。
 そう、スカリエッティという男にとって、未知なる物とはすべからく興味深い面白いものだ。
 とはいえ、ここで計画が狂えば更なる研究が出来なくなる。それを判断する理性と忍耐力も、彼は持ち合わせていた。

「そうだね、倉庫にタイプⅡの先行量産型とオリジナルが何機かあったろう。あれを使うとするか」
「タイプⅡはOSが未完成ですが?」
「あっさりプラントが落とされても困るからねぇ、精々粘らないと。アレは今回はデータ取りだと諦めるとしよう。どの道、タイプⅣまではばれているんだから、隠しておく意味なんて無いさ。それと……」

 次の指示を出そうとするスカリエッティの言葉を遮るように通信が入る。モニターに焦った様子のトーレが現れた。

「どうしたんですか、トーレ?」

 良くも悪くも武人肌のトーレは、取り乱す事などほとんど無い。そんな彼女が焦っているのなら、よほどの事があったのだろう。

『はい、先ほどの砲撃で、独立開発ラボの外壁にひびが入りました』
「それ以外に被害はありませんか?」
『はい、チンクが調べたところ、内部にダメージは無いようです』

 独立開発ラボは今回の計画において重要な施設だ。それ故に幾重にも防御を施しておいたはずだった。

「ああ、トーレ。チンクは今どこにいるのかな?」
『ラボにダメージが無いか、引き続き確認させていますが……、呼び戻しますか?』
「いや、それには及ばない。チンクはそのままラボの防衛にあたってくれ」

 多少危険ではあるが、チンクなら自力で何とかするだろう。最悪の場合の指示も既に出してある。

『了解しました』
「ああ、折角だから、彼にも一働きしてもらうとするか」
『プレラをですか?』
「そうさ、彼にも食費分ぐらいは働いてもらわないとね」





「全員無事ですか?」

 ルーチェの呼びかけに、周りにいた隊員たちが次々に返事をする。

「ういーす、ちっと額を切りましたが、無事ッス」
「こっちも問題ありません」
「うう、俺は駄目だ。ここは一つ、隊長の熱い人工呼吸を……」
「よし、アレックスさん。そこの馬鹿に熱い人工呼吸をして差し上げなさい」

 とりあえず全員無事らしい。この場にいない隊員も、先程の念話で無事を確認している。

「了解であります!」
「こら、やめろ! くるな、こらっ!」
「嫌がるなんて、燃えるじゃないか」
「ばかやろう、俺はノーマルだっ! って、ギャー!」

 さて、どうするか。とりあえず目の前の地獄絵図から目をそらし、千里眼で軽く辺りを見回す。
 ゼスト隊を中心とした突入班は、既にプラント内部に突入していた。先程の砲撃でガジェットドローンの数を大分削っておいたので、そう易々と不覚は取らないだろう。
 ヴァンたちは、あのプレラという魔導士と戦闘中だ。強敵ではあるがなのはとフェイトがいる上に、ヴァン自身もそこそこ腕が立つ。一人なら特攻しかねないヴァンも、少女たちと一緒なら無茶はするまい。危険ではあるが何とかなるだろう。
 今一番危険なのはティーダたちだ。落ちた場所が悪かったのか、既にプラントの内部にいる。幸い此方も全員無事なようだが、辺りにいたガジェットドローンが集まってきており交戦が始まっていた。

 出撃の直前にルーチェが最高評議会から受けた指令は、スカリエッティの確保だ。
 マスコミをはじめ、事件は各方面の知るところになっている。最高評議会といえども、完全な事件の隠匿は不可能な状況だ。
 この事態に最高評議会はスカリエッティの確保を決定した。抹殺では無く確保なのは、最高評議会は今だスカリエッティを利用するつもりだからだろう。
 幸い出撃した二つの部隊は、どちらも最高評議会がある程度コントロール出来る部隊だ。海……いや、理事会派の介入を招かない限りは、身柄の確保は難しくない。
 もっとも、実際に現場に出るルーチェからしてみれば、あのスカリエッティのアジトに突入するなど、まっぴら御免だった。
 こんな商売だ。危険は承知だが、わざわざ死亡フラグを踏みたいとは思わない。その為の砲撃の雨だった。最高評議会はプラントを無傷で確保したかったのだろうが、そんなものはルーチェの知ったことではない。

(ヴァンさんとは違うのですよ、ヴァンさんとは)

 ほっとくと自分から危険に突っ込んで行く部下を思い出し、クスリと笑う。

「お、今の隊長はちょっと可愛かった!」
「隊長、どうしましたか?」
「ちょっと思い出し笑いをしただけです。それより、もう一度確認しますが、全員大丈夫ですね?」
「はい、全員問題ありません」
「では、これより私たちは施設内部に突入。ティーダ班と合流をした後に、陸士救出とスカリエッティ一味の捕縛にあたります。皆さん、気合いを入れていきますよ」
「隊長、そこは可愛らしく『みんな、頑張って♪』と言って下さい」

 一番やりたくなかったスカリエッティのアジトへの突入だったが、ここまできたら腹をくくるしかない。
 ルーチェはふてぶてしく笑う部下たちを頼もしく思いながらも、普段と同じ可愛らしくもなんとも無いぶっきらぼうな口調でこう答えた。

「お断りします。さあ、馬鹿を言ってないで、行きますよ!」





「ディーロ、クインキ。お前らは一旦下がれ!」
「ですが、隊長!」
「カートリッジが切れているぞ! さっさと入れ替えてこい!」
「は、はい!」

 ゼストの言葉に抗議をする隊員にカートリッジ切れを指摘すると、ガジェットドローンの群れに切り込んでいく。
 やはり実戦に出すには時期尚早だった。ゼストは内心で歯噛みする。

 新生ゼスト隊はアームドデバイス運用部隊として新規に集められた試験部隊だ。
 陸士から選抜し、近代ベルカ式の適性がある者を集めたのだが、元々ミッド式を使っていた隊員が大半だったため、一から魔法の再訓練をする羽目になった。
 中にはベルカ式と高い親和性を見せる隊員もいたが、基本的には術式変更についていくのがやっとだ。
 それでも、初出動がもう少し軽い事件なら何とかなったかもしれない。だが、魔法を打ち消すAMF搭載兵器の群れの相手が初任務では、いささか厳しすぎた。

 そこまで考え、ゼストはその考えを否定する。
 いや、むしろこの任務でよかったかもしれない。

 聖王教会から派遣された二人の騎士、シスター・シャッハと騎士クラウスの活躍も目覚しいが、其れより何よりこの戦場で活躍しているのは3097隊の面々だった。

 彼らは連射が難しい多重弾殻射撃を集団で使い、弾幕を張りガジェットドローンを近づけないでいる。ごくまれに接近を許すものの、魔力槌を使い上手い具合に捌いていた。
 色々と問題を起こし各隊を追い出された連中の吹き溜まりと聞いていたが、なかなかどうして錬度が高い。
 3097隊のフォローが無ければ、錬度が足りないゼスト隊は死者が出ていてもおかしくない状況だ。

 しかし、少人数で動くなら、ミッド式の射撃とベルカ式の近接をセットで運用するべきかもしれない。戻ったら上申してみよう。
 ゼストはそんなことを考えていた。其れが僅かな隙になったのかもしれない。
 だから、その部下の動きを一瞬だけ見逃してしまった。

「突入!」
「ああ」

 部下が部屋のひとつに突入を開始する。

「女の子?」

 突入した部下の一人が、呆然とつぶやく。
 10歳前後だろうか。銀色の髪の小さな少女が、部屋の中央で一人立ち尽くしていた。

「君、大丈夫か?」

 実のところ、こういった違法プラント、あるいは違法軍事施設で幼い子供が囚われているのはそう珍しい話ではない。
 管理世界に広まっている魔法技術と生命体の兵器改造は相性がよいのだ。無論、管理局法および次元世界各国の大半の国の法律では厳重に禁止されている行為なのだが、裏の世界では開発を行おうという者が後を絶えない。
 一騎当千の協力無比な魔道師は一軍に匹敵するのだから、倫理観をかなぐり捨てた連中が出てくるのも無理のない話しだった。

 だからだろう、その局員は少女の幼い外見も相まって、ほぼ無警戒で近づいてしまった。その事に、ゼストが気付いた時にはもう遅かった。

「ああ、大丈夫だ。これ以上はお前らの好きにはやらせん」
「えっ?」

 少女がポツリとつぶやくのと、空中に無数の短剣が出現するのは同時だった。
 突然のことに、局員たちは動けない。

「危ないっ!」

 咄嗟に動けたのはゼストだけだった。出撃前に、騎士クラウスより銀髪の髪の戦闘機人という存在を聞いていたからかもしれない。
 部下たちを庇うように前に出ると、手に持った槍を一閃させる。

「うおっ!」
「弾けろっ!」

 ゼストの槍から発せられた衝撃波と、短剣がぶつかり合い大きな爆発を起こす。
 余波で隊員が吹き飛ばされたが、直撃は無い。3097隊がフォローに回っている、大丈夫だ。
 ならばっ……。

「この程度で!」

 爆発を突っ切り、少女に向かって斬りかかる。
 だが、少女もいつの間にか準備していた大剣で迎え撃った。文字通り大人と子供の体格ではあるが、少女の力は尋常ではない。
 鍔迫り合い越しに、少女の目を覗き込む。戦いに迷いが無く、目の輝きの力が違う。

「ここを守っている、戦闘機人か……」
「ああ、その通りだ」

 1年ほど前に保護したギンガやスバルと違い、中身まで子供という訳ではなさそうだ。
 ならば、手加減は無用。手心を加えればこちらがやられる。

 ゼストは槍に力を込めると、いったん少女と距離をとる。

「時空管理局ミッドチルダ地上本部首都防衛隊が騎士、ゼスト・グランガイツ……いざ、参る!」





 * * * * * * * * * * * * * *





 砲撃の雨に晒されていた森に、一瞬の静けさが戻る。
 無論、それは錯覚でしかない。今この瞬間にも別働隊やはぐれてしまったうちの部隊の連中は戦っているはずだ。
 だが、そう錯覚するほどの静けさと、緊張を感じていた。

 プレラともう何回も戦った。同じ人間とこう長期間戦うなんて、初めての経験だ。
 まぁ、良く俺は生きているものである。まぁ、一度はマジに殺されかかったが……。

 ふと、静かな風が俺たちの間を通り過ぎ、それにのって一斉に周囲の鳥が飛び立つ。
 空一面を鳥が覆い、一瞬太陽の光をさえぎった。

「さて、まずは小手調べと行くか……」

 プレラはそうつぶやくと、銃型デバイスをこちらに向ける。
 って、まずいっ!

「させないっ!」

 戦闘技術はともかく、魔力量と破壊力はなのはをも上回る。そんな奴に先手を取られたら、そのまま主導権を奪われずるずるといく可能性があった。
 それはなのはやフェイトもわかっている。真っ先に飛び出したのはフェイトだった。
 バルディッシュの先端に雷の鎌を生み出すと、プレラに斬りかかる。

「直線的な攻撃など!」

 その攻撃をプレラは右手に持っていた刀型のデバイスで受け止めた。
 確かにフェイトの攻撃だけならそうかもしれない。でもっ!

「ディバインシュート!」

 プレラがフェイトの攻撃を受け止めた瞬間、なのはが魔法弾を解き放つ。
 12の光弾が弧を描き、プレラに迫る。

「ちいっ!」
『Protection』

 プレラの持つ銃型デバイスが輝き、防壁が出現する。
 なのはを上回る魔力量で張られた防壁は強固だった。なのはの放った魔法弾は防壁の前に砕け散り光の粒子に変わる。

「まだだっ!」

 でも、俺たちの連携攻撃は終わってない。俺は加速魔法を使うと、プレラの背後に回りこむ。

「くらいやがれっ!」
「ヴァン・ツチダ!」

 そのまま加速を解かず一気に懐へ飛び込みフォースセイバーを発動、プレラに斬りかかる。

「まだだっ!」

 プレラがそう叫んだ瞬間、ピンポイントで発生した小型のバリアが魔力剣を受け止める。

「って、器用な真似を!」
「ヴァン! 戦うならこの程度の芸当は必須!」

 名前を連呼するなっつーの。それに、俺の攻撃はまだ終わってない。
 俺はカートリッジを炸裂させフォースセイバーの出力を強引に上げると、シールドに切っ先を押し込んで行く。普段なら1ミリも押し込めないだろうが、紫電一閃の訓練で若干ながらフォースセイバーの出力が上がっており、なのはとフェイトの攻撃を受け止める為にプレラがシールドにまわした魔力が少なかった事が幸いした。
 徐々にだが魔力剣はシールドにめり込み、先端が僅かだけシールドを突破する。

「0距離ブレイズキャノンだっ! いけー!」
『Blaze Cannon』

 魔力剣の先端から放たれた青白い魔力の奔流がプレラを飲み込む。
 いくら俺の魔力が弱いといえども至近距離、しかもバリアジャケットだけで防ぎきれる代物じゃない。

「この程度の砲撃などでっ!」

 吹き飛ばされたプレラだが、空中で体勢を立て直すと得意の魔力放出でブレイズキャノンを吹き飛ばす。
 ……ノーダメージじゃないけど、ほとんど効いて無いな、ありゃ。いくらSランクでも、普通なら至近距離の砲撃を食らえば無事ではすまないはずなんだけど。
 相変わらず、やたらに頑丈な奴である。

「いくよ、フェイトちゃん!」
「うん、なのは!」

 もっとも、俺の砲撃では吹き飛ばすのがやっとでも、なのはとフェイトなら話は別だ。
 レイジングハートとバルディッシュ、二人のデバイスの先端で桜色と金色の魔力が輝き唸る。

「ディバインバスター!」
「プラズマスマッシャー!」

 なのはとフェイトが同じタイミングで砲撃を放つ。桜色と金色の光の奔流がプレラを撃つ。
 一瞬遅れて、轟音と共に爆煙がプレラを包み込む。

「やったか!?」

 思わずつぶやく俺だったが、そうは問屋が卸さなかった。
 煙の中から、黒い魔力の針が飛んでくる。

「この程度で落ちはしない!」

 この程度って……、AAAランク魔導師二人の砲撃だぞ!? って、呆れている暇は無い。
 視界が黒くなるほどの魔法弾の雨に、俺たちは防御を余儀なくされる。
 途切れることの無い弾幕になのははシールドを張り防御を、俺とフェイトは速度で回避をした。

 って?

 回避を続けていた俺だったが、突如がくんと速度が落ちる。
 って、フラッシュムーブ・アクションの継続時間が切れた!? ま、まずい!?

「勝機!」

 俺の速度が落ちたことにプレラも気がついたのだろう。黒い魔力の針が俺に向かって振りそそぐ。
 1発目、躱す。掠めた針から、腕が引きちぎれそうな衝撃をうける。二発目、なんとかフォースセイバーで弾く。一発弾いただけで、腕にしびれが走った。3発目、4発目…・・・だめだ、これ以上は避け切れない。

「ヴァンくん!」

 咄嗟になのはがこちらに来て、シールドで俺をかばう。

「すまない、なのは」
「うん、それよりも、くるっ!」

 プレラの攻撃はこれで終わりではなかった。際限なく魔法弾を打ち込んでくる。
 なのはたちも並の魔導師ではないが、プレラもまた非常識なまでの才能を秘めた魔導師だ。砲撃魔法に匹敵する魔法弾の猛攻の前に、なのはも一歩二歩と後退を余儀なくされる。

「シールドが持たない!?」
「んなっ!」

 いや、それどころかシールドが持たないって、闇の書の闇……、防衛プログラム並みの出力ってことだぞ!?
 俺がそう驚いている間に、なのはのシールドが音を立てて砕け散る。

「きゃあああああああっ!」
「うわああああっ!」

 いくらか威力は削がれたが、それでも十分な破壊力のある魔法弾が俺たちに降り注ぐ。俺達二人の周囲で爆発が起こり、大きく吹き飛ばされる。

「なのはっ! ヴァン!」

 魔法弾を回避していたフェイトが叫び声を上げる。

「もらった!」

 一方、プレラは俺に向かって突っ込んでくる。
 この状況じゃ躱せない?

「させないっ! ソニックフォーム……」

 プレラの攻撃の妨害が間に合わないと判断したのだろう。フェイトは切り札であるソニックフォームを発動すると、プレラの前に回りこんだ。
 フェイトの速度に対応し切れなかったのか、やや不自然な体制でプレラは刀を振るう。バルディッシュと、刀型デバイスがぶつかり合い火花を散らす。

「私はこの戦いの為に生き恥を晒し続けた、いわば修羅と呼べる存在! 立ちふさがるなら容赦はしないぞ、フェイト!」
「今更何を言う!」

 強大な魔力同士のぶつかり合いで火花が散る中、プレラの怒声が響く。
 二人はぶつかり合い、ほぼ同じタイミングで一歩下がると、再び剣を合わせた。
 巨大な火花と閃光が飛び散り、次の瞬間フェイトが大きく吹き飛ばされた……って、えっ!?

「きゃあああああっ!」
「最大の武器である速度を生かすために、防御を捨てる覚悟は良し! だが、その速度を生かす航空剣技が未熟だ! 足を止めれば防御の薄い魔導師に成り下がる! 強敵と呼べる相手にめぐり会う機会を失った弊害だな、フェイト!」

 フェイトを吹き飛ばしたプレラはそう叫ぶと、更に追撃の突進をしようとする。
 ……もしかして、シグナムと戦う機会を失った事を指しているのか?

「フェイト!」

 あ、いや、それどころじゃない! フェイトの反応が鈍いって、あれは意識が半分飛んでる!?
 体勢を立て直し、フラッシュムーブアクションで……だめだ、加速魔法のチャージが間に合わない! 30秒の時間がここまで長いと思ったことは無い。

「フェイトちゃん! お願い、レイジングハート!」
『Restrict Lock』

 プレラが突撃する一瞬前、なのはの放ったバインドがプレラの左腕を絡め取る。

「高町か! この程度のバインド!」

 もっとも、それはほんの一瞬の足止めにしかならない。プレラは右手の刀を器用に振るうと、一瞬でバインドを切り払った。
 だけど、一瞬でもあれば……!

「なのは、フェイトを頼む! プレラ、お前の相手は俺のはずだ!」
「ヴァン! 真正面から来るか!」

 体勢を立て直し飛び上がった俺は、落下速度と合わせてプレラに真っ向から斬りかかる。
 それほど長く持つとは思えないが、フェイトが意識を取り戻すくらいの間は!

「悪いか!」

 最初の一発目は刀型デバイスで軽く弾かれる。
 やっぱり、普通の攻撃じゃ歯牙にもかけないか。
 ならっ!

「シグナム直伝のこの技なら!」
「なんとっ!」

 未だに魔力のチャージと収束が上手くいかない。当たり前だ、凡人の俺が半年で形になるほど簡単な技ではない。
 だけど、単純な接近戦の威力ならこれが一番高い。
 過剰な魔力を乗せた魔力剣を構え、一気に振り下ろす。

「紫電一閃!」
「くっ!」

 この技は予想外だったのだろう。
 プレラは一瞬あせり、刀型のデバイスで俺の攻撃を受け止める。刀と剣がぶつかり合い火花を散らす。
 とはいえ、このまま押し切ることは今のプレラには難しい。完成した紫電一閃やブレイズキャノンならプレラの防御を突破できるだろうが、今の俺はどちらも『もどき』の域を出ない。
 ならばっ!

「ブレイク!」

 次の瞬間、フォースセイバーが爆音を立てて炸裂する。
 フォースセイバーに仕込まれた爆裂式……しかも、フォースアームにも採用した指向性の爆発だ。
 今の爆発なら……、今のうちに……。

「この程度の爆発など!」
「なっ!」
 
 爆発の煙の間から、プレラが平然と現れる。
 そりゃ、なのはとフェイトの攻撃に耐えて見せたんだから、ダメージはそれほど無いのはわかっていたが、2~3秒で体勢を立て直すなんて!?

「何時までも奇策が通じると思うな!」

 そのままデバイスを持たない左手でぶん殴ってきた。プレラの拳は俺の頬にめり込み、俺は再び大きく飛ばされる。

「ヴァンくん! ディバインシュート!」

 俺に迫るプレラに対し、なのはが牽制の魔法弾を放つ。

「邪魔をするなら容赦はしないと言ったぞ!」
「そんなっ! 止まらないなんて……!」

 プレラは魔法弾を刀で弾くと、なのはに向かい突き進む。
 なのはも魔法弾と砲撃の弾幕でそれに向かうが、プレラの突進は止まらない。砲撃が、魔法弾が当たるたびに爆発を起こすが、無傷で爆発の中から出てくる。
 いくらなんでも、あの耐久力は異常だ。最初は耐え切ったのかと思ったが、なのはの砲撃はそう何度も耐えれるような代物じゃない。そもそも奴はシールドすら張って無い。
 しかも、あの爆発でほとんど無傷なんて……って、あっ!?

「なのはっ! 狙いを少し後ろにつけるんだ!」
「えっ? えええっ!? シュート!」

 俺の言葉に一瞬困惑するなのはだったが、すぐに指示通りの場所にディバインシューターを打ち込む。
 プレラを無視して飛んでいった魔法弾がやや後方の、何も無いように見える空間で、何かに命中する。透明な空間が砕け散り、その中からかなりのダメージを負っているプレラが姿を現した。

「やっぱり、幻術か!」
「見抜いたか、だがっ!」

 そう、プレラの言う通り既に遅かった。
 プレラはなのはに肉薄し、刀型デバイスを振り上げる。
 なのはもそれを防ごうとレイジングハートを構えた。デバイス同士がぶつかり合い、魔力光を発する。

「えっ?」

 なのはの口から、驚きの声が漏れる。
 そのなのはの腹に、銃のグリップがめり込んでいた。

「魔導師としては天賦の才があっても、経験と練度が圧倒的に足りん。攻撃時は魔導師としての才能でゴリ押しできても、苦手な接近戦では素人とそう変わらん……。今まで落ちなかったのは、単に運が良かっただけだ」

 プレラが言い終わると同時に、なのはが膝から崩れ落ちる。
 たった一発の打撃で、なのはの意識を刈り取ったのだ。
 なのはが意識を失ったのを確認したプレラは、銃型デバイスを地面に投げ捨てると両手で刀を構え、こちらに向き直る。

「幻術を見抜いたのは流石だが、若干遅かったな」

 褒められているつもりのようだが、まったくうれしくない。
 嫌な汗だけが流れるだけだ。

 今回、プレラの奴はガジェットドローンの幻術を纏っていた。それを考えれば、奴がやった事も想像がつく。
 おそらく、自分の少し前方に強固なシールドを張り、その上に自分の幻術を纏わせたのだろう。
 弱い攻撃は幻術を纏ったシールドで受け止め、砲撃など防ぎきれない攻撃は回避する。こちらの照準がずれているのだから、今の奴の実力なら回避はそう難しくない。掻き消えた幻は、爆煙の中で再び作れば良いし、攻撃はその瞬間だけ自分と幻術の動きを合わせればいいのだ。
 
 何時の間にこんな魔法を使ったのかは知らないが、信じられないほど器用な真似をする。

 しかし、こいつの成長速度は一体なんなんだ?
 出会った頃は、魔力の高いだけの不器用な魔導師だった。最初こそその魔力で大暴れをしたが、何度か戦い手の内を晒した後はCランクの俺にいい様にあしらわれた挙句、AランクのユーノとCランクの俺に撃墜されている。その程度の素人魔導師だった。
 確かに、シグナムと戦わなかったフェイトの航空剣技は未熟かもしれない。ユーノやクロノさんの指導があったとはいえ、基本的に独学だったなのはは苦手分野に関しては素人に近い癖の強い魔導師だろう。
 だが、1年前の奴は、二人をこうもあっさり下せるような魔導師ではなかった筈だ。

 何が奴を、ここまで変えたんだ……。

「さて、どうする? 何時かみたいに逃げるか。私はそれでも一向に構わん」
「出来るかよ」

 意識を失ったなのはとフェイトがいるのだ。スカリエッティのテリトリーであるここで、そんな真似なんて出来る訳が無い。
 何とかプレラの奴を出し抜き、二人を連れてこの場を逃げる。それが俺の最終目標だ。
 とはいえ、紫電一閃も、ブレイズキャノンもほとんど効かなかった。正直俺に手は……いや、奥の手があるにはあるか。

 俺は覚悟を決めると、P1SCにフォースセイバーを纏わせる。

「覚悟を決めたか」

 奴の言葉に、俺は答えない。必至に奴に一撃を当てる手段を模索する。
 奥の手……ほぼ自爆技だが、フォースセイバー・フルドライブなら……何とか奴の防御を突破できるだろう。元々、フルドライブは対プレラに開発した魔法だ。
 というか、それ以外に俺に奴を出し抜く手は無い。

「やれやれ、だんまりか……。まぁ、いい。行くぞ、ヴァン!」

 口をきいている余裕なんて無い。一手でも間違えれば即死間違いないのだ。俺が死ぬだけならまだ良いが、なのはやフェイトの事もある。絶対に負けられない。

 剣だけで決着をつけるつもりなのか、刀型デバイスを両手で構え突進してくる。
 俺はフォースセイバーを構えると、奴の剣を受け流す。
 何度もぶつかり合って、ひとつ気がついたことがある。純粋な剣の腕だけなら、若干ながら俺の方が上だった。無論、魔導師としての出力が違いすぎるので、すぐに力負けするのだが……。

「受け流すことくらいならっ!」

 奴の剣は重い。一発受け流すだけで腕がしびれるような気がする。
 魔力の乗りが1年前とは段違いだ。なんというか、攻撃に『重み』がある。
 一手、二手、三手……プレラの猛攻を剣で受け流す。攻撃はしない……というより出来ない。防御を抜かれればそれだけで終わりなのだ。いや、奴の気が変わって射撃を使われたらその場で終わる。

「腕を上げた、ヴァン!」

 そりゃ上がっただろうさ、シグナムから色々教わったからな。……でも、シグナムと戦わなかったからフェイトは……。いや、考えるな。
 思い出せ、シグナムの剣はもっと鋭かった。
 受ける、ひたすら受け流す。チャンスは必ず来るはずだ。

「だがっ!」

 普通の剣技では俺の防御を突破できないと考えたのか、プレラは一度大きく後ろに下がると腰を落とし突きの体勢を取る。
 刀の切っ先に黒い魔力が集う。
 見覚えがある技だ。1年前、奴と一対一で戦った時、殺されかかった奴の突進技だ……。

「勝負だ! ヴァン・ツチダ!」
「乗ってやるよ! プレラ!」

 奴の叫びに応えると、俺はカートリッジを炸裂させ剣を正眼に構える。剣に収束しきれない魔力が火花を散らす。
 魔力がもれているのだ。形だけならまだしも、凡人の俺じゃ半年程度で紫電一閃は習得などできないのだ……。だけど、奴の突進を利用したカウンターなら……。

「行くぞ! 天剣龍牙!」

 黒い魔力の軌跡を残し、プレラが凄い勢いで突進してくる。
 なんというか、緊張と恐怖のあまり周囲がまるでスローモーションのように見える。
 怖い。正直かなり怖い。逃げたい。
 でも、だめだ。ギリギリまでひきつけないと……。

 バリアジャケットの裾が奴の魔力の端に触れる。それだけでバリアジャケットが引き千切れ魔力に帰って行く。
 胸鎧にひびが入る。すでに立ってるのも辛い。
 切っ先が迫る。俺は魔力と体力を振り絞り、剣を避ける。
 芯は外した。でも、刃でわき腹に切り傷が出来る。
 ほんの少し、ほんの少しかすっただけなのに、体が真っ二つになるんじゃないかという衝撃が来る。このまま意識を手放せればどれだけ楽だろうか。
 でも、視界の隅になのはの、フェイトの姿がある。負けるわけには行かない。
 俺は食いしばって衝撃に耐えると剣を振り下ろす。

「紫電いっ……」

 そう、振り下ろそうとした瞬間だった。

「崩撃!」

 突きの体勢のまま、プレラは更なる加速をする。
 しかし、それは剣で突くためだけではなかった。奴は肩に魔力を溜めると、ショルダータックルをかましてきた。
 刀の切っ先に勝るとも劣らない魔力が俺の胴に当たる。俺の耳に、肋骨に皹が入る嫌な音が届く。

 もう、紫電一閃どころではなかった。

 俺の身体はゴム鞠のように軽々と空中に投げ出され、重力に惹かれるまま地上に激突する。

 痛い……という感覚すらなかった。ただ、一瞬身体の感覚が全て無くなっただけだ。
 神経が、意識が千切れそうだ。思考が粉々に砕けそうになる。
 
 だけど、ここで意識を失うわけには行かない。
 視界の片隅に、なのはの、フェイトの姿が写る。それだけを頼りに、砕けそうな意思を繋ぎ止める。
 二人を安全なところに連れて行かなければ、死んでも死に切れない。

 誰かが悲しむ姿は見たくない。
 自分に絶望するのは、もうごめんだ。

 プレラの姿が視界に入る。
 奴が俺に止めを刺そうとした瞬間が、なのはやフェイトに手を出そうとした瞬間が、俺を倒したと思いこの場を去った時がチャンスだ。倒すにせよ、逃げるにせよ、それ以外に俺に残された手は無い。
 フォースセイバーフルドライブ、起動……。フラッシュムーブアクション……スタンバイ。

 プレラがゆっくりとこちらに近づいてくる。
 刀型デバイスは腰の鞘に収めていた。銃型デバイスはまだ地面だ。
 こちらに近づいてくる。俺を倒したかどうか確認する気なのか?
 このまま倒したと思って去るなら、それでよし。止めを刺そうとするなら反撃する。

 プレラは俺が動かないのを確認すると、なのはたちのほうに向かう。森を掻き分けてやってくるガジェットドローンが姿をあらわす。……まさか?
 夏の出来事の時に感じた恐怖がぶり返す。今すぐにでも立ち上がりたい。
 でも、我慢だ。プレラの意識が完全に俺から離れるのを待たねば……。

 プレラもガジェットドローンが来た事に気が付いたのか、そちらに向かう……。

 もう駄目だ……今しか!

 俺は加速魔法と飛行魔法を使い、音も無く立ち上がると、残った魔力をありったけつぎ込んで姿が消えたフォースセイバーを振りかぶる。
 気合も掛け声も無い。ただ、全ての力をこの一振りに!

「この魔力量差だ……。死んだふりが卑怯とは思わないが、言った筈だ。」

 えっ?

「奇策が何時までも通じるとは思うな」

 後ろを向いたままのプレラがつぶやく。俺がその意味を悟るより早く、背中に強い衝撃が走る。
 衝撃に体制が崩れ、バリアジャケットが砕け散った。
 プレラが振り向くと、手に持った刀を振りかぶる。

「技で上回っていても、それを支える地力が足りなかったな、ヴァン・ツチダ。決着だ!」

 それでも、最後の抵抗にP1SCで防御しようと前に突き出す。
 でも、俺の抵抗はそこまでだった。

「で、デバイスが!」

 魔力の篭った一撃の前に、P1SCが砕け散る。気合や根性などではどうにもならない圧倒的な力が、俺の胴体を襲う。
 もう、何が何だかわからなかった。自分が立っているのか倒れているのかも、わからない。
 意識が急速に薄れていく。

 ぼやける視界の片隅に、なのはの姿が移る。

 ごめん、なのは……約束を破って……。俺は……君を……守れなかった……。

 せめて、最後の抵抗になのはに向かい手を伸ばそうとして、俺の意識は完全に闇に沈んだ。





 * * * * * * * * * * * * * *





 残心という言葉がある。
 技を決めた直後、相手が倒れても決して油断しないことを指す。あくまで身構えに対する心構えの一つではあるが、これを実際に実践するのは難しい。
 人間というものは、一つのことが終わるとどうしても安心し、弛緩してしまうものだ。
 緊張によるストレスに対する、自己防衛なのかもしれない。

 相手が何をしでかすかわからない男だったとはいえ、今回のプレラは見事に残心が出来ていたとも言えよう。
 見事にヴァンの不意打ちを察知し、止めを刺すことが出来たわけだ。

 プレラはヴァンが完全に動きを止めたのを確認すると、溜息を一つつく。
 油断する気は無いが、やはり一つのけじめだ。心のどこかに安堵するものがある。

 もっとも、喜ぶにはまだ早いが……。いくつかしなければならないことがあるのだ。

「まずは……」

 プレラは遠隔操作をしていた銃型端末のリヒトを拾い上げると、無造作に魔法弾を放つ。
 魔法弾は接近していたガジェットドローンを、まるで空き缶をのように易々と撃ち抜いた。ガジェットドローンは一瞬だけよろめくと、次々に爆発を起こす。

「人の上前を撥ねようとするのは感心しないな」

 プレラは不機嫌さを隠さず、覗き見をしているだろう連中に言う。スカリエッティ一味がこちらを監視しているのは気がついていたが、勝負がつくや否や出てくるとはなんとも無粋だ。
 しかも、実のところ完全にはついていなかったのだから、間抜けとしか言い様が無い。
 茶々を入れられた報復という訳では無いが、プレラはスカリエッティの好きなようにさせる気はさらさら無かった。

『あらあら、傭兵を名乗っている割には雇い主に逆らうんですか?』
「飯代替わりに爆撃の阻止を手伝っただけだ。そもそも、トーレが個人的に頼んできただけであって、正式に依頼は受けていない」
『あら、ドクターから言われたのではなくて?』

 ガジェットドローンが沈黙すると同時に、空中にモニターが開く。通信を入れてきたメガネの女を、プレラは冷たくあしらう。
 正直、プレラはこの女の事が好きではなかった。いや、それ以前にスカリエッティ一味を信用していない。

 トーレやチンクのように個人として付き合う分には信じて良い者や、ディエチのようにある程度良心を持ち合わせている者。セインのようにそもそも疑うのが馬鹿馬鹿しい娘などもいるにはいるが、基本的に彼らは自分たちの小さなコミュニティの外に対しては冷淡であり、個人よりもスカリエッティ一味の、ナンバーズとしての立場を優先させる。
 闇に生まれ、そこしか知らない彼女たちにとっては仕方の無い事なのかもしれないが、正直あまり気持ちの良い話ではない。
 そんなナンバーズの異端児が、このクアットロだ。ほかの娘たちは自覚の有無にかかわらず、あくまでもスカリエッティの創造物という立場を崩さない。だが、クアットロだけは微妙に違うのだ。
 姉妹の性格、ドクターの望みを理解した上で、歪め自らの欲望をかなえようとしている。ある意味、もっともスカリエッティに似たのが彼女だろう。
 彼女の欲望と狡猾さ、そして人を見下す態度は時に姉妹であるナンバーズや創造主であるスカリエッティにも向けられる。造られた性格なのか、それとも望んでこうなったのかは知らないが、好感を持てというのが無理な話だ。

「どちらにせよ同じだ。そもそも、一番厄介な3人をサービスで倒したんだ。身柄を引き渡すのはサービス過多すぎる」
『あーら、二人じゃなくて?』

 クアットロの視線を追えば、なのはとフェイトを見つめていた。転生者であっても、たいした力の無いヴァンは彼女の中では脅威にカウントされていないらしい。
 3人とも厄介なことに変わりは無いが、実践で一番手に負えないのは、とにかく場を引っ掻き回すヴァンだというのに……。
 自分もそうだったが、この手のタイプは紙に書ける程度のスペックで人を判断し見下す。意思や感情など数字には表せないものがある事は知っていて利用する事はできても、その価値を真に理解する事ができないのだ。それゆえに、感情を愚かだと言い切ってしまう。
 かつての自分がそうだった。一度痛い目に合わないと、考え違いをしていた事などわからないだろう。
 そう考えたプレラはクアットロにその事を指摘しなかった。

「3人だ。まぁ、いい。貴様たちも忙しいのだろう、これ以上欲張れば計画が破綻するぞ」
『あら、探っていたとは意外とやりますわねぇ』
「さてな」

 調査に関しては素人のプレラ程度に計画の確信を悟らせるほど、スカリエッティの脇は甘くない。
 それでも、施設の配備状況や自分に対するスカリエッティの厚遇と検査を考えれば、彼の興味がどこに移っているのかおおよそ推測はつく。

 ここ数週間で、明らかに基地にあったガジェットドローンの数が減っていた。
 一味が目的を持って、この基地を管理局に攻撃させるように仕向けたのは明白だ。

『まぁ、良いですわ。それじゃ、協力関係はここまでですわね』
「お前に協力した気は無い。心にも無い事を言うな」

 デバイスに仕掛けた自爆装置を使うと脅したつもりなのかもしれないが、プレラはつまらなそうに答え通信を一方的に切ってしまう。
 どうせ、現時点のクアットロは大した事など出来ない。スカリエッティの興味が自分たちトリッパーにある以上、貴重なサンプルの自分は泳がせるはず。
 そして、クアットロがなのはとフェイトにしか興味を持たなかったという事は、これはスカリエッティの指示ではなく彼女の独断だろう。自分と同じトリッパーであるヴァンに、スカリエッティが興味を抱かないはずが無い。
 独断であるならば、これ以上のちょっかいは、もうかけてこないはずだ。流石に命令違反過ぎる。

 実際、デバイスは自爆することも無く、正常に稼動を続けていた。

「さて、どうしたものか」

 通信をきると、プレラはかなり困った表情で周囲を見回す。
 先ほどクアットロと会話をしていた時よりも、表情が幾分幼く見える。何せこの時のプレラは、キャラ作りを忘れるくらい困っていたのだ。

「このままって訳にはいかないよなぁ……」

 ヴァンの姿を見てハイになっていたとはいえ、後先考えず3人を倒してしまったのは失敗だった。
 このまま倒れている3人を放置してこの場を去るというわけには行かない。ヴァンはほっといても生き延びるだろうが、少女二人を放置していくのはさすがに良心が咎めた。
 ならば最初からやるなと自分でも思うのだが、焦がれていたヴァンとの決着の前に、そんな自重はすっぱり飛んでしまったのだ。

「起きるまで見ておく……だめか。起きたとたん戦いになる可能性があるな」

 なのははともかく、自分を嫌っているフェイトや何をしでかすかわからないヴァンが起きた時に戦いにならない保障は無い。
 どこかに連れて行くにしても、一度にこの人数を転移させるのは難しい。飛んで運ぶにしても、管理局の監視があるだろうから余計な戦いを起こすだけだ。
 幻術による変わり身を使ってはいたが、なのはやフェイトの砲撃を完全に回避できていたわけではない。プレラもかなりのダメージを負っている以上、連戦は避けたかった。

「とりあえず、この場から移動だけはしておくかな……」

 移動するにしても、どこに行くべきか。
 一人悩むプレラだったが、その悩みは結局必要が無かった。
 なのはたちを回収しようと近づくプレラに、遠方から放たれた鉄球が迫りくる。

「これはっ!」

 不意打ちではあったが、プレラは後方に下がりなんとか回避する。
 後方に下がったプレラに対し、赤い影が更なる追撃を仕掛けた。

「テートリヒ・シュラーク!」

 迫りくる鉄槌に、プレラは堪らずシールドを張る。
 シールドごしに受けたのにもかかわらず、踏ん張ったはずの地面を削りながらプレラは徐々にだが押されていく。
 そしてそれが限界に達したとき、プレラは大きく後ろに吹き飛ばされた。

「うおっ! ヴォルケンリッター……、ヴィータか!?」
「てめえ、なのはに……、こいつらに何をしやがった!」

 空中で体勢を立て直し着地をしたプレラに、飛び込んできた赤い影……ヴィータは怒声を浴びせる。
 この時、ヴィータは恐怖を覚えていた。おぼろげに覚えている、闇の書の騎士だった頃の記憶がうずくのだ。
 好きになった奴も、仲良くなった奴も、尊敬した奴も、皆消えてしまった、あの頃の記憶だ。嫌な奴ですら生きて欲しかった、そう思ったことは何度あっただろう?
 結局はすべて闇に消えていき、彼女に出来たのは心を閉ざし荒む事だけだった。
 その頃のおぼろげな記憶と、傷つき倒れている3人の姿が被るのだ。

「何と言われてもな、戦っただけだ」

 そんな少女の剣幕を見たからだろうか、プレラは逆に冷静になる。
 このままヴィータになのはたちを回収させよう。そう都合よく考えてもいた。

「まぁ、目的は達した。この場は引かせて……」
「そう都合良く行くと思っているのか?」

 不意に背後から声がかかる。
 相手が騎士でなければ、不意打ちを受けていたかもしれない。

「シグナム!?」
「初対面だと思うが?」
「君たちは有名だからな」

 そう答えながらも、周囲を見回す。
 倒れているなのはをシャマルが診ており、ザフィーラが彼女のカバーに入っている。さらに、上空にははやての姿まであった。

「夜天の書の主と、ヴォルケンリッターか……」

 気がつけば、完全に囲まれている。怒り狂っていても、やはり彼女たちは守護騎士だ。先ほどのヴィータの派手な突撃も、自分の注意をヴァンたちからそらす為だったのだろう。やはり自分は未熟だ。プレラはその事を悔しがると同時に、まだ高みは存在すると密かに安堵していた。
 しかし、先ほどクアットロが通信は、彼女たちの接近の警告もかねていたのかもしれない。あの独断の行動は、プレラから通信を切らせるよう仕向けたのか?
 あの性格の悪い女なら、やりそうな話である。

「3人とも、無事です!」

 シグナムとヴィータがプレラをけん制する傍ら、倒れた3人を診ていたシャマルがこう叫ぶ。
 その報告に、ヴィータとシグナムの表情に若干の安堵が浮かぶ。

「あんた、夢の中で私とリインフォースを助けてくれた魔導師やろう?」
「そんな事もあったな」
「ここの悪い奴らの仲間やったんか?」
「残念ながら仲間ではない。傭兵なので、雇い主に言われたように戦っただけだ」

 はやてもプレラの事は聞いている。もっとも、PT事件の際にヴァンたちと敵対した……といった、簡単な説明だけで、詳しく何をしでかしたのか聞いていない。
 その為、何度か助けてくれた魔道師の少年と恐ろしい犯罪者というイメージがどうしても結びつかなかった。
 もっとも、こうやって倒れている友人を見れば、やはり恐ろしい犯罪者だったのかと納得もしたのだが……。

「スカリエッティ……って人に雇われたんか?」
「まぁ、おおむねそんな感じだ」

 飯代替わりに働いた……とは流石に言わない。ちょっと情けなさ過ぎる。

「一応は助けてくれた恩人や。手荒なまねはしたくない。降伏してくれへんか?」
「むぅ……」

 流石に、今の状況でヴォルケンリッターと夜天の主と戦うのはかなり厳しい。
 ヴァンたちとの戦いはプレラにとっても消耗する戦いだった。ヴァンに付け込まれないよう大してダメージを受けてないように装っていたが、なのはやフェイトの攻撃は余波だけでも消耗を余儀なくされるような攻撃ばかりだ。ヴァンが戦力的に足手まといになっていなければ、負けていたかもしれない。
 ヴォルケンリッターと戦えば、負ける可能性が高かった。

「なかなか魅力的な提案だな……」

 ヴァン・ツチダ打倒という最大の目的はすでに達している。そういう意味では、捕まっても良い……そう考えない訳でもない。アギトの件を考えれば、ここで自分が消え、はやてたちの元に行くよう仕向けるのも良いだろう。

 だが、盟主が作り出した、悪意に満ちた転生者組織の件がある。
 捕まればどうなるか……。管理局に勤めるこの世界の父は、自分の出世以外に興味が無い人だ。自分を切り捨てる事はしても、助けはしない。情状酌量の余地も無ければ、管理局に頭をたれる気も無い。
 管理局に捕まれば厳重な魔力封印の上に長期間の拘束となるだろう。自分のやってきた事を考えれば、そうなる事ぐらいプレラもわかっていた。
 自分の手でけじめをつけたい以上、今ここでつかまる訳にはいかない。

「だが、悪いが降伏する訳には行かない。私にはまだやるべき事がある」

 プレラの返答に、シグナムとヴィータが警戒を強める。
 なのはやフェイトをほとんど一方的に倒した魔道師だ。二人といえども楽に戦える相手ではない。
 徐々に包囲を狭めてくるヴォルケンリッターに、プレラは余裕の表情を崩さないよう努める。少しでも弱気になれば、一気に攻め込まれるだろう。

「そうか、ならば少し手荒になるぞ」
「容赦はしねえぞ!」

 シグナムが、ヴィータが武器を構える。
 そんな二人を視界の隅にとどめながら、プレラははやてに話しかけた。

「そうそう、私が恩人だと言ったな。つまり、君は私に借りがある訳だ」
「だから見逃せと?」
「そこまでは頼むのは恩着せがましい。ただ、少しヴァン・ツチダに伝言を頼みたいと思ってな」
「時間伸ばしをする気か?」

 ヴィータが口を挟んでくる。やはり鋭い。
 だが、そんな彼女の発言を無視してプレラは言葉を続けた。

「なに、大した事ではない。盟主の組織だがな、まだ活動を続けているぞ」
「盟主!? 盟主ってあの?」

 やはり食いついてきたか。リインフォースの仇であるのだから、当然と言えば当然だ。
 予想通りの反応に、プレラは内心で安堵のため息をつきながら、さらに話を続ける。

「あいつは死んだだろう!」
「本人が死んでも組織は関係ない。実働部隊であるシスター・ミトの配下は一人も動いていないからな。それにだ……」

 プレラはここで言葉を切って、組織にいたころのことを思い出す。
 よくよく考えてみれば、盟主の死亡自体がかなりおかしい。

「盟主一味がPT事件で誰を連れて行ったか……。スカリエッティ一味との取引、プロジェクトF、記憶転写技術、古代ベルカの生命操作技術……、組織は専門の遺跡発掘チームも持っていたな」

 プレラ自身は所属が違った為に詳しい内容までは知らないのだが、古代ベルカの技術研究をしていた事は知っていた。
 そして、組織がプレシア・テスサロッサをPT事件の際に連れ去り、ジェイル・スカリエッティと取引があった事も知っている。この3つの共通点を考えれば、おのずと答えも出てきた。
 そもそも、計画を立て、組織を動かしていた盟主が一人の護衛もつけずに前線に出てきて暴れる自体おかしいのだ。あれは、死んで見せることを前提として動いたと考えるほうがしっくりくる。
 死んだ盟主とは別に、“盟主”に相応するモノがいまだ存在しているのだろう。乱暴な推理だが、そう外れていないはずだ。

「どういう事や?」

 直接明言した訳ではない。つい先日までごく平凡な少女だったはやてには、彼のいった言葉の意味の大半はわからないだろう。
 だが、はやては聡い子だ。彼が何を言っているのか、おぼろげながら理解しているはずだ。

「全て聞こうというのは虫が良すぎるぞ。自分で調べるか、無限書庫に詳しい者に調査を頼むんだな」
「お前を叩きのめして聞き出すってのがあるぞ」
「怖いことを言うな、そこのちびっこいの」
「誰がちびだ!」

 短気なヴィータがプレラの言葉に激昂する。そうでなくとも、彼女たちにとっては聞き捨てならない内容なのだ。

「落ち着け、ヴィータ! 安い挑発に乗るな」
「ザフィーラ」

 一歩引いたところで聞いていたザフィーラがヴィータをとめる。
 激昂したヴィータが落ち着くのを見て、プレラは内心で舌打ちをした。挑発して隙を作るのは、これ以上は無理だ。

「ヴィータが失礼した。貴殿の言った言葉に……」
「嘘は嫌いでね、事実しか言っていない。組織名はタナトス。いくつかの遺跡荒しをやっていて、管理局にも名前を知られている。調べてみれば簡単に分かるはずだ」

 ある程度冷静さを取り戻した以上、挑発じみた物言いは意味が無い。
 別に彼女たちに喧嘩を売りたい訳ではないのだ。

「それをなぜ我らに教える? 貴殿に何の得がある?」
「そうだな……、君たちとタナトスが争えば、私にも奴らを討つ隙ができるというものだ。おっと、連中の攻撃対象にはおそらく君たちも入っている。知らなければ……は通用しないぞ」

 シグナムに問われ、とっさにプレラはこんな事を口にする。
 ぶっちゃけ、時間稼ぎとヴァンに対しての伝言……さらに言えば、かっこつけ以上の意味は無いのだが、それなりにカッコイイ台詞になったなと自画自賛を内心でした。

「そんなら、協力して迎え撃てば……」
「君は優しい子だな、八神はやて。闇の書の制御人格も最後で良い主人を持ったものだ。だがな、決して交わる事の出来ない人間と言うのもいるのだよ」
「そうか、だがわれらは管理局よりの依頼でここにいる。貴殿を逃がすわけにはいかない」
「それは怖い」

 おどけながら、大きく後ろに下がる。それを逃げるための動作だと判断したシグナムとヴィータが追撃に入る。

「逃がすかよっ!」

 迫りくる鉄槌をプレラは回避する。体勢が崩れたプレラにシグナムが追撃を行おうとする。
 だが、その追撃が行われるより早く、木々の合間より魔法弾の雨がこの場に降り注ぐ。

「ブレネン・クリューガー」

 けん制の魔法弾に、シグナムたちの動きが一歩遅れる。
 さらに魔法弾には発火作用が付与されていたらしく、周囲の木々が勢いよく燃え上がり始めた。

「伏兵!?」
「でも、周囲に人影は!?」

 伏兵の存在に、シャマルが驚きの声をあげる。
 もっとも、これは無理も無いだろう。まさか、身長30センチ程度の人が潜んでいるなど、この時点の彼女たちが想定するわけが無い。

「悪いが引かせてもらおう」
「この程度の炎で、あたしたちがとまると思ってるのかっ! まちやがれっ!」

 ヴィータが炎の壁を突き破り突進する。
 だが、炎はいわゆる目くらましだった。本命は別にあった。

「ユニゾン・イン!」
「なっ!」

 姿は見えないが、どこからか少女の声が森に響く。
 次の瞬間、膨大な魔力がプレラから湧き上がる。その余波だけでヴィータの突進は止められ、弾き飛ばされた。

「ヴィータちゃん!」
「まさか、融合騎か!?」

 そう、発火式の魔法弾でのけん制し、炎の壁で視線をさえぎる。その上で森の影を利用してプレラはユニゾンをしたのだ。

「まさか……」
「夢の中で言ったと思ったが……、私には相棒がいると」

 そう答えながら、プレラは炎の中より姿を現す。漆黒の炎をまとった、白い衣の騎士がそこには存在していた。
 周囲に、ありえないほど強力な魔力があふれ出す。体勢を立て直しながら、ヴィータが小さくつぶやいた。

「悪魔め……」

 ヴァンたちとの戦いには奴はユニゾンデバイスを使っていなかった。それでは、全力で戦ったヴァンたちはなんだったというのだ。奴はヴァンたちをもてあそんだと言うのか?
 もっとも、これはある程度中にいるユニゾンデバイス……アギトも同感だったようで、プレラの中で思わずぼやいた。

【あのチビの言うのももっともだよなぁ……。管理局の魔道師相手にはあたし抜きで戦うし、隠れてユニゾンするし……。まったく、かっこつける事ばかり考えてさ】
【別にカッコつけではない。ヴァンとの因縁の決着は、できれば一対一でつけたかっただけだ】
【女の子たちを巻き込んでたじゃんか】
【不本意だがな】

 なのはたちが引いていたら、一対一で決着をつけていた。戦うのは好きだが、決着をつけたかったのはあくまでもヴァン一人だ。
 それに、出来ればアギトを自分の因縁……しかも、犯罪にかかわるものに巻き込みたくないというのもあった。アギトをはやてたちの目に晒さなかったのも同じ理由だ。

「悪魔か……、悪魔でもいいさ」

 まさか、自分がこの台詞を言われるとは……。若干驚きながらも、ヴァンと戦うために二人の少女を叩きのめした自分の所業は、まさしく悪魔だと納得する。

「この場は引かせてもらおう」
「くっ!」
「逃がすかっ!」
「待つんや! シグナム、ヴィータ!」

 追いすがろうとするシグナムとヴィータを、はやてが制止する。
 ユニゾンした騎士は、もはや魔道師ではない。一個の生きる兵器だ。アレが戦うと言うことは、周囲一体に甚大な被害が及ぶということを意味している。
 普段なら自分の騎士を信じるはやてだが、今は意識を失っている3人がいた。この場で戦うには危険すぎる。
 シグナムとヴィータが動きをとめたのを見て、プレラはふわりと浮き上がる。これ以上この場にいるのは、危ないだろう。
 だが、その前にひとつだけやっておくことがあった。

「おっと、ヴァンにだが……」

 プレラは思い出したかのように、はやてにこう告げた。

「これで、一勝一敗だ。ストライカーズの足手まといになって、私を落胆させるなよ。と、伝えてくれ」

 そう言うと、プレラは一気に加速をしてこの場を立ち去る。
 管理外世界の地球とは訳が違う。のんびりしていて、管理局に捕捉されては面倒だ。

「はやて、いいのかよ!?」

 飛び去っていくプレラを見送りながら、ヴィータがはやてに聞いてくる。
 それに対し、はやては首を横に振りこう答えた。

「流石に3人の安全を確保しながら戦うのはきつい。それに、私らがオーリスさんに頼まれたのは局員たちへの援軍や」

 戦って勝てない……とは思えない。ユニゾンした騎士と言えども、決して無敵ではないからだ。
 だが、そこにいたるまでの消耗、ヴァンたち3人の安全、さらに局員への援軍を考えれば、この場から去ることを宣言している騎士一人にこだわる意味は無かった。
 未来に禍根を残した気がしないでもないが、今を生き延びなければ未来もへったくれも無い。

「今は、しかたあらへん。少なくとも、すぐに敵対する気は無いみたいやしな……」

 それに、少し気になることもある。
 彼はユニゾンデバイスを“相棒”と言った。その相棒のユニゾンデバイスは、どうやら炎を使うようだ。
 そして、炎のユニゾンデバイスなら一つだけ思い当たる節がある。時の庭園で自分たちを襲撃したテロリストが使っていたらしきユニゾンデバイスが、炎使いだった。彼にも何か事情があるのかもしれない。

 もしかすると、良い人かもしれないしな……。

 はやては心の中で一言だけ付け加えると、意識を切り替えた。
 自分たちの仕事は、この下で戦っている管理局の局員たちの救援だ。他の事を気にしていて出来ることではない。





 だが、はやてはこの時知らなかった。
 すでに地下で、最後の決着がつきつつある事を……。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034822940826416