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No.1230の一覧
[0] フェイク[黒点](2004/01/03 00:00)
[1] フェイク[黒点](2004/01/03 00:01)
[2] :フェイク[黒点](2004/01/03 00:01)
[3] フェイク[黒点](2004/01/03 00:33)
[4] あとがき[黒点](2004/01/11 21:22)
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[1230] フェイク
Name: 黒点 次を表示する
Date: 2004/01/03 00:00
「レイちゃん。早く行かないと遅刻しますよ」

「わかってるって」


 いつもの事ながらスグはよく急かす。

 まあ、大体の場合、時間ギリギリに家を出ようとする僕が悪いのだけれど。


「うっし、終わりっと」

「そんなのんびりしてないで下さい。時間がないんです。学校に遅刻してしまいます」


 スグは我慢できないように腕を振っていた。

 はためく着物の裾。

 背中まで伸ばし、真ん中ほどで一本に纏めた艶のある黒髪が、横に揺れる。

 いつ何処であろうと着物を着ているのだ、スグは。それが学校であっても。


「スグ、うるさい」

「う、うるさい!? 私はただレイちゃんの心配を」


 これだ。

 心配されるのは嬉しいが、やっぱりスグには僕離れしたほうがいいと思う。

 立ち上がりながらそんな事を考え、スグを避けて玄関を出た。


「えーと、時間は……」

「時間なんてありません! ほら、はやく歩いて下さい」


 手を引かれた。

 なかなかにすべすべな肌触り。


「白昼の誘拐」

「し、しません誘拐なんて!」


 ただの冗談を、真面目に返してくるのがスグの面白いところである。

 スグの家は日本舞踊の大きなところだ。

 僕にはそれ以上説明の仕様もないし、知識も無い。

 そんなところで育てられた所為か、スグの言葉遣いはすごく丁寧。僕との会話の時は少し崩れるけど。

 でも常時着物の着用はおかしいと思う。学校が私服OKだとしても。


「ねえ」

「なんですか?」

「それ着てて疲れない? 早歩きなんかして」

「……誰の所為だと思ってるんですか」

「スグ」

「レイちゃんです! 考察余地の欠片も無く!」

「別に置いてけばいいじゃん」

「駄目です。レイちゃんを真人間にすると決めたのですから私は」


 人を駄目人間みたく言うなっつーの。

 見た目に反してスグの力は強い。とりあえず僕を引っ張っていける程には。

 それで綺麗な顔立ちをしているのだから、つい、からかいたくもなる。


「今の僕らってさ、愛の逃避行にも見えると思わない?」

「…………思いません」


 スグの歩みが速くなった。顔は前に向けたまま。

 手を取られている僕も、つられて速度が上がる。

 
「じゃあこっちみて」

「お断りします」

「まあいいけどね。スグの赤い顔は僕の方からでも見えるし」

「――――え!?」

「あはは、嘘」


 赤く染まった顔が振り向かれた。

 相手に困らない容姿をして、スグは純情なところがあるのだ。


「レイちゃん!」

「あ、見えてきた。スグ、牽引ご苦労さま。もう離していいよ」

「……あ、はい」


 最近でもないけどクラスメイトの目もある。

 パッと離せばいいのに、何故かゆっくりと、少しずつ離されていくスグの手。

 なんだかすごくくすぐったい。

 校門の辺りは、生徒はまばらだった。視線の遥か先には走ってくる者もいる。

 スグがいなければ、僕もその仲間入りをしていたのだろう。


「すこぶる便利だ」

「? 何がですか?」

「スグ。今度から君のことをドラちゃんと呼んであげようか?」

「どのような思考回路を経て、その結論に至ったかは私の知る由にありませんが、慎しんでお断りいたします」


 つれないご返答だった。

 スグ、君は僕の期待を裏切ったんだ。


「くぬやろっ」

「いたっ、なんで私が叩かれなくちゃいけないんですか」

「ふっ、キミのお父様がいけないのだよ」

「意味が分かりません! そんなのだから同性の方にも評判が悪いんですよ」

「ブッブー、的外れ、全然違う。僕の愛の拳はいつだって、スグにだけ向けられているんだぜ?」

「どこに愛があるんですか、どこに!?」

「ここ」


 握りこんだ拳の小指の付け根を指す。

 特大の溜息を吐かれた。


「呆れてモノも言えません」


 それはまるで、人生に疲れた老人のようだった。

 少しばかり罪悪感が胸を締める。

 労わりの心が足りなかったと反省。

 あとで温泉のモトでも買ってきてやろう。そんな事を考えながら学校に入っていった。


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