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No.12088の一覧
[0] ジオンの姫 (機動戦士ガンダム)[koshi](2010/10/31 20:47)
[1] ジオンの姫 その2 家族の肖像[koshi](2009/09/27 01:58)
[2] ジオンの姫 その3 貴族[koshi](2009/09/27 01:58)
[3] ジオンの姫 その4 お坊ちゃん[koshi](2009/09/27 01:58)
[4] ジオンの姫 その5 人型兵器[koshi](2009/09/27 01:59)
[5] ジオンの姫 その6 シミュレーター[koshi](2010/10/31 23:06)
[6] ジオンの姫 その7 姫と王子(1)[koshi](2010/11/09 00:13)
[7] ジオンの姫 その8 子守り[koshi](2009/10/06 01:37)
[8] ジオンの姫 その9 お髭のおじ様[koshi](2009/10/09 01:44)
[9] ジオンの姫 その10 ジオニズム[koshi](2009/10/12 21:34)
[10] ジオンの姫 その11 ガンタンク(1)[koshi](2011/04/17 12:32)
[11] ジオンの姫 その12 ガンタンク(2)[koshi](2011/04/17 12:36)
[12] ジオンの姫 その13 戦争目的[koshi](2009/10/25 02:04)
[13] ジオンの姫 その14 MS-06FザクⅡ[koshi](2009/10/31 15:28)
[14] ジオンの姫 その15 質量兵器(1)[koshi](2009/11/07 15:53)
[15] ジオンの姫 その16 質量兵器(2)[koshi](2010/01/11 02:42)
[16] ジオンの姫 その17 王子と子守り[koshi](2010/01/11 02:40)
[17] ジオンの姫 その18 ルウム戦役(1)[koshi](2009/12/13 01:22)
[18] ジオンの姫 その19 ルウム戦役(2)[koshi](2009/12/30 21:29)
[19] ジオンの姫 その20 蛍光ピンク[koshi](2010/01/11 02:45)
[20] ジオンの姫 その21 陽動作戦[koshi](2010/01/30 18:06)
[21] ジオンの姫 その22 君はどこに落ちたい?[koshi](2010/02/11 02:20)
[22] ジオンの姫 その23 大渦巻き[koshi](2010/02/11 22:29)
[23] ジオンの姫 その24 降下前夜[koshi](2010/03/09 02:22)
[24] ジオンの姫 その25 降下部隊[koshi](2010/03/10 00:14)
[25] ジオンの姫 その26 流血の境[koshi](2010/03/24 22:35)
[26] ジオンの姫 その27 悪しき世界[koshi](2010/04/20 21:09)
[27] ジオンの姫 その28 MS-07グフ(蛍光ピンク)[koshi](2010/05/04 03:54)
[28] ジオンの姫 その29 サイド7[koshi](2010/05/19 22:55)
[29] ジオンの姫 その30 大地に立つ![koshi](2010/06/10 23:42)
[30] ジオンの姫 その31 破壊命令[koshi](2010/07/14 23:04)
[31] ジオンの姫 その 7.5 デベロッパーの憂鬱[koshi](2011/06/19 20:49)
[32] ジオンの姫 その32 キシリア出撃す[koshi](2011/09/18 21:01)
[33] ジオンの姫 その33 包囲網を破れ![koshi](2011/06/19 20:54)
[34] ジオンの姫 その34 キシリア散る(1)[koshi](2011/08/13 00:38)
[35] ジオンの姫 その35 キシリア散る(2)[koshi](2011/09/19 00:44)
[36] ジオンの姫 その36 キシリア散る(3)[koshi](2011/10/23 20:52)
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[12088] ジオンの姫 その26 流血の境
Name: koshi◆1c1e57dc ID:36fe636f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/24 22:35


「これまでだな」

北米大陸旧合衆国西岸、キャリフォルニアベースと総称される連邦軍の一大拠点の中でも大陸最大の規模を誇る空軍基地の司令官は、穴だらけの滑走路の向こうから迫るジオンのモビルスーツ部隊を遠望しながらつぶやく。

「我々は降服する。抵抗をやめるよう、全ての兵につたえろ」

コロニー落としに伴い発生した大津波により、キャリフォルニアベースに限らず太平洋岸のすべての基地、そして都市は、甚大な被害をうけた。一時的にでも水没した地域は、海岸から実に数百キロの内陸地帯にまでおよび、数え切れないほど多くの人が死んだ。水が引いた今も基地は完全には復旧せず、都市機能は麻痺したままだ。

巨大人型兵器を駆る宇宙人達が降下してきたのは、軍も行政も大混乱のまっただ中の時だった。中央アジアに降下したモビルスーツを主戦力とするジオン第一次降下部隊が易々と橋頭堡を築きあげたのを目の当たりにした連邦軍は、第二次降下部隊がジャブローを目標とすることを恐れ、生き残った地上軍を南米に集結しようとした。だが、ジオンの連中は無理をしなかった。守りの堅いジャブローではなく、混乱の渦中にある北米に狙いを定めたのだ。意表を突いた電撃的な第二次降下作戦により、東海岸はあっという間に奴らの手に落ちた。西海岸のキャリフォルニアベースも、風前のともしびだ。

宇宙人共の戦術は狡猾を極めた。まずは、反撃不可能な衛星軌道上からの度重なる爆撃により、コロニー落としの被害からなんとか逃れた軍事施設は徹底的に破壊された。特に、空軍基地は、偏執的なまでの執念をもって繰り返し狙われ、その戦力はまったく生かされることの無いまま、ほぼ完全に壊滅。そして、制空権が完全に奪われた後、空を覆うほどの降下カプセルとともに、やつらは降臨したのだ。

航空支援が望めぬ状況で、さらに電波兵器の使えない地上の戦場において、やつらの主力兵器モビルスーツの機動力は、恐るべき威力を発揮した。降下済みの地上戦力だけでもやっかいなのに、その上さらに、やつらの援軍がいつ、どこに出現するのかまったく予想できないのだ。戦闘地域、あるいは戦略的に重要な地点の上空には、衛星軌道で待機していた奴らの予備戦力が、突然予告もなく大気圏に降下してくる。迎撃体勢が整う前、成層圏の段階でモビルスーツはカプセルから分離、そのまま地上に降下すると同時に戦闘に参加してくるのだ。降下が始まってからほんの数分の猶予しかあたえられないまま、我々の地上戦力はまったく突然に背後から重装備のモビルスーツ部隊に襲われることになる。そのような戦い方を、地球上のいったい誰が想像できようか。

たとえばやつらを都市におびき寄せて立てこもり、市街戦にもちこむことができれば、あの人型巨大兵器に対して有効な戦い方もあるのだろうが、故郷が戦闘によってこれ以上破壊されるのを見るのは忍びない。今は無理しなくともよいのだ。ジャブローとレビルさえ健在ならば、すくなくとも地上の連邦軍の立て直しは可能だろう。

「……結局、あの小娘を有効活用することはできなかったか」

司令官は、基地からそれほど遠くはないアナハイムシティの方向を眺めながら、ひとりごちる。

旧カリフォルニア州に属する大都市アナハイムシティを発祥の地とする地球圏有数の大企業、アナハイムエレクトロニクス社が、本社工場の病院にジオンの姫君を匿っている事実を知る人間は、地球圏全体でもそう多くはない。カーバイン会長は、ジオンと連邦の双方に、等しく恩を売るつもりだったのだろう。彼は、地球に落下したヤザンナが無事であるという事実を、ジオン、連邦の両軍のトップに対してのみ、それも非公式な個人のチャンネルを使って通告してきた。当然、双方からヤザンナの自軍拠点への移送が要求されたが、それは絶対安静であるヤザンナの病状を理由に、アナハイムがやんわりと拒否。連邦軍としては、力づくでアナハイムからヤザンナを奪い取り、ジャブローに移送するという手もあったものの、さすがに人道的見地からそれはできなかった。

連邦軍は、カーバインに売られた恩を、有効活用できそうもない。せっかくこちらの懐に飛び込んできた敵の姫君は、そのまま奪還されることになりそうだ。まぁ、それも仕方あるまい。中世の戦争ではあるまいし、たとえばヤザンナ・ザビを人質にしたところで、それであのギレン・ザビが地球侵攻を諦めるとは考えられない。それ以前に、未成年の少女、しかも命の危機に瀕している少女を政治的な道具に使うなど、宇宙世紀の民主主義の軍隊が行うことではない。

「せめて、名誉ある降服としようか」

彼は、ジオン軍第二次降下部隊のガルマ・ザビ大佐に対して通信するよう、部下に命じた。



司令官の思いとは裏腹に、連邦軍の前線の兵士達の中には、降服の中に名誉を保つことの困難に直面している者が少なからずいた。ヤザンナが入院しているアナハイムエレクトロニクス本社敷地内の病院を警護している兵士たちも、それに含まれる。

彼らは、市内に進駐してくるであろうジオン軍に対して、ヤザンナを無事に引き渡すことが命じられている。西海岸においては、ジオンの連中は津波で破壊された都市にはほとんど興味を示さず、連邦軍の基地だけを集中的に攻撃していた。しかし、基地のほとんどがすでに降服してしまった今、やつらの人型機動兵器がアナハイム市街に侵入してくるのは時間の問題だろう。

だが、彼らはたった数日もヤザンナを守り切る自信がなかった。彼らの目の前には、津波によって住む家を奪われ、ジオンと連邦の地上戦に追い立てられた、膨大な数の避難民達がいたのだ。

アナハイム本社工場は、連邦軍の支援もあり、いち早く津波の被害から復旧することができた。この数少ない安全で広大な敷地を目指し、旧カリフォルニア州全土から、数万人に及ぶ避難民の群れが集まりつつあるのだ。避難民達は、アナハイム社による受け入れを求め、本社のゲートへ殺到する気配だ。連邦軍兵士達は、傷つき、飢え、血走った目をした彼らから、ヤザンナを守らねばならないのだ。



「これは、……やばいね」

アナハイム工場の敷地の外、敷地への受け入れを求める避難民と、それに対峙する連邦軍兵士たちのにらみ合いを病院ビルの窓から遠望しながら、シーマ・ガラハウ少佐はつぶやく。

シーマは、もちろんジオンの軍服姿ではない。カーバイン会長によってアナハイムエレクトロニクス社員の身分を与えられ、本社工場の制服を着用している。

メラニー・カーバイン会長のシャトルと共に大気圏に突入したファルメルのコムサイは、旧合衆国西岸、アナハイムシティ郊外にあるアナハイム本社工場にむけ降下する軌道をとった。突如大気圏に降下してきたジオンの突入カプセルに対し、連邦軍は当然迎撃を試みる。対空ミサイルの直撃を受けたコムサイは太平洋上にてバラバラに分解、いくつかの大きな破片がアナハイムの敷地内に落下することとなった。いうまでもないが、破片として連邦軍のレーダーに映ったのは、コムサイが撃墜される直前に射出されたシャアのザクである。ザクのコックピットには4人が無理矢理詰め込まれていたが、シャアの操縦によりアナハイム工場の敷地内に無事着地に成功。ヤザンナはその場でアナハイム系列の病院に緊急入院することとなった。

もちろん、この程度の小細工が連邦軍に通用するはずもなく、アナハイム社は、真相の説明と降下したジオン兵の受け渡しを連邦軍から執拗に求められる事になる。だが、カーバインはその政治力をフルに活用し、頑として、徹底的にしらを切り通した。そして、ヤザンナの容態がとりあえず落ち着き、峠を超えたのを見計らってから、あらためて連邦軍およびジオン軍トップに対してヤザンナの無事を通告したのである。

シャアとドレンは、ヤザンナの無事を見届けた後、アナハイム社の手引きによりサイド6経由で既に本国に向かっているはずだ。彼らはカーバインからギレン宛のメッセージを託かったらしい。だが、どうしても本国に還る気にはならなかったシーマは、ヤザンナの護衛という名目でここに残ったのだ。

「あの様子じゃ、避難民達が敷地に侵入してくるのも時間の問題じゃないか」

「我が社としては、だ。創業の地ゆかりの人々が家を失ったというのならば、名目上の本社の敷地を提供することになにも問題はない。どうせジオンが進駐してくれば、この工場は連邦軍相手の商品は作れなくなるのだからな」

シーマの後ろで、まるで彼女を監視しているかのように腕を組む男、ウォン・リーが誰へともなく口走る。ウォン・リーは、カーバイン会長の懐刀のひとりと言われている。カーバインがアナハイム社の実質的な本拠地となって久しい月にいる間は、彼がヤザンナの扱いについて任されているのだ。

「……だが、避難民達はジオンを心底憎んでいるだろう。もしここにザビ家の一員がいると知れたら、ただじゃすまない。せっかく助けたのだ。我が社とジオンとの関係を良好に保つためにも、そんなことは避けたいものだな」

アナハイムエレクトロニクス社にとって、ヤザンナはこの戦争で利益を上げるためのカードなのだ。混乱の渦中にある連邦軍にはこのカードを有効につかえなかったが、ジオンに対しては極めて有効だろう。ギレンに対してはもちろん、キシリアに対してはジョーカーとなる可能性もある。シーマの頭の中に、『死の商人』という言葉がうかぶ。

「一応、逃げる準備をさせよう」

ウォン・リーの提案に対し、シーマが答える。

「しかし、絶対安静で今動かすのは危険だと……」

「なぶり殺しにされるよりはましだろう。それから、ジオン降下部隊のガルマ・ザビ大佐にも連絡を取らねばな。姫君がここにいることを、本国から伝えられてはいない可能性もある。ザビ家の連中はいろいろ複雑だが、とりあえず我が本社の扱いについて当面の交渉相手となるのはガルマ・ザビだ。彼に手柄を立てさせておいても、損は無かろう」




避難民の数は、目に見えて増えている。食糧もなく着の身着のまま集まった人々は、既に数万人の規模に達している。半径数百キロ以内に、彼らが雨風をしのげる場所はない。伝染病の心配が無く、十分な食糧が供給される場所もない。そんな彼らにとって、津波の被害も爆撃の被害もなく、電力も供給されているアナハイム本社の敷地は、天国にみえた。

すでに西海岸の連邦軍基地はすべて降服しているらしい。なのに、なぜ目の前の連邦軍兵士は我々の避難を邪魔するのか? なぜ、地元のアナハイム社は我々を助けてはくれないのか? そもそも、なぜここは爆撃されないのか? 宇宙人共と繋がっているのではないのか?

不条理きわまりない戦災による不幸が突然にふりかかった人々に、合理的な判断を求めても無駄である。しかも、彼らの疑念は半分は当たっている。ギレン麾下のジオン宇宙軍がアナハイム本社を爆撃しなかったのは、ヤザンナの件もふくめて、たしかに今後の関係を配慮したせいだ。

「これ以上避難民が増えると、守りきれません」

正門を封鎖している連邦軍兵士から、守備隊の指揮官のもとに悲鳴にも似た通信がはいる。避難民達は、自分の命を、そして家族の命を守るため、力づくでも安全な場所に侵入しようとしている。彼らの中には、自衛用の小火器で武装した者も少なくはない。

さらに困ったことに、連邦軍の兵士自身も、避難民と同様、冷静な判断力をなくしつつあった。

……我々は、誰から誰を守ろうとしているのだ?

我々が銃口を向けているのは、本来我らが守るべき連邦市民だ。我々が背後に守っているのは、コロニー落としを仕掛けてきた宇宙人共の娘だ。これが我々連邦軍人の仕事なのか?




「ヤザンナがアナハイムにいるというのか!」

キャリフォルニアベースを目前にしたガルマ・ザビが、オデッサのマ・クベ中将からヤザンナが無事との通信をうけとったのと、ウォン・リーから同じ内容の連絡をうけたのは、ほぼ同時刻であった。

地球に降下して以来、侵攻作戦はほぼ計画通り順調に進んできた。北米大陸の全てを占領しようというこの段階になって、計画外の事態が起こるとは。

なぜ、兄上や姉上は教えてくれなかったのだ?

ガルマの頭に真っ先に浮かんだのは、その疑問である。ヤザンナが生きているということは、もちろん嬉しいことに違いない。だが、事前にわかっていれば、降下直後にまず助けにいったものを。なぜ、北米の降下部隊の司令官であるはずの自分だけが知らされていなかったのか。自分は、ザビ家の男として信用されてはいないのではないか? その無念さを叩きつけられたのは、秘匿回線の向こうのマ・クベ中将だった。

「なぜ、事前に教えなかったのだ! もしヤザンナに何かあったら、どうするつもりだ! 私をバカにしているのか!!」

多くのジオン軍人にとって、ザビ家の人間に罵声を浴びせられるということは、軍人として、場合によっては人間としての死にも直結することがある。だが、マ・クベはまったく動じない。いわゆる軍人らしさ、剛胆さがあるわけではない。逆にクールで冷たい人間というわけでもない。単に、ガルマを一人前として扱っていないのだ。『やれやれ』とは実際に声にこそ出しはしないものの、この若造には困ったものだという態度を隠しもせず、彼はひとつため息をつき言い放った。

「ガルマ・ザビ大佐。名目とはいえ、地球侵攻軍において私は君の上官にあたる。口を慎みたまえ」

「なっ……」

ガルマは言葉に詰まる。そして自分を恥じる。

「……いっ、いや、申し訳ありません、マ・クベ中将。無礼をお許し下さい」

この素直さは、得難い才能といえるだろう。

「結構。ギレン総帥は、ヤザンナ様ひとりのために作戦を修正する必要を認めません」

厳重に暗号化され、いくつもの衛星を経由し、ミノフスキー粒子の影響で雑音混じりとなったマ・クベの声からは、感情が感じられない。

「しっ、しかし、ヤザンナもザビ家の人間です。それなのに……」

「ガルマ様。総帥はあなたが手柄を立てることをお望みです。そして、キシリア閣下は、ヤザンナ様が無事であることを知らされてはおりません。この意味がおわかりですね」

ギレンは、カーバインから差し出された好意を、素直に受け取ることにした。ヤザンナの生存についてはギリギリまで秘密のままにしておき、父デギンを実質的な失脚に追い込んだ。そのうえで、北米への降下部隊の司令官には、キシリアではなくガルマを任命したのである。

もともと、ヤザンナひとりのために作戦を修正するなど、ギレンにとっては論外である。だが、国内におけるヤザンナの人気の高さについては、彼も理解している。ヤザンナを無視した作戦に対してデギン公王や軍内部から無用の反発が出るのを避けるためには、できるだけ秘密にしておいた方が得策であろう。もしそのために、連邦軍からヤザンナが害されることがあれば、その非人道性を非難してやればよいのだ。さらに、ギレンは降下作戦が成功した後のことも考慮した。北米への降下作戦は、本来ならばキシリアが指揮することを前提として計画され、準備が行われてきた。だが、陰謀により殺されかけたヤザンナの身柄を、殺しかけたキシリアに託すことは、冷徹さを自覚しているギレンにも、さすがにためらわれた。このため、ルウム占領において政治的なセンスの一端を披露したガルマを抜擢し、彼に経験を積ませるという名目で指揮官に据えたのだ。

ガルマも、ルウムに逃げ込んできたファルメルの件により、ヤザンナとドズルの不幸にキシリアが一枚噛んでいることは感づいていた。感づいていたが、それを信じたくはなかった。だが、ギレン兄は自分で確かめろと言いたいのだろう。ヤザンナに直接尋ねれば、すべてがわかる。

「了解いたしました。北米大陸の占領を完遂後、ヤザンナ・ザビの救出いたします」

マ・クベとの通信を切ると同時に、ガルマは、ヤザンナ救出のためアナハイムシティへの進撃を命令した。




アナハイム本社前の争乱は、ピークを迎えつつあった。

その噂の源がどこだったのはわからない。しかし、おそらく無数にあるアナハイム本社の敷地のゲートのどれかひとつで、突入しようとする避難民と問答していた連邦軍の守備隊の兵士の一人が口を滑らせたのだろう。そこから発生した噂は、ほんの30分ほどで広大な敷地を取り囲むすべての避難民にさざ波のように広まり、ほとんどの避難民がそれを事実として受け入れた。

ザビ家の娘が中にいるらしい。

ザビ家によって実行されたコロニー落としにより家を失い、家族を失った避難民達の顔色がかわる。それまで悲しみで満たされていた彼らの目に、憎しみの炎がともる。手に手に瓦礫をもち、鉄筋を握りしめ、ヤザンナを守る連邦軍兵士を睨みつける。銃を手に取り、連邦軍兵士の向こうにある病院に向ける。今はかろうじて保たれている秩序が失われ、ジオン・連邦双方にとって不幸な破局が訪れるのは、時間の問題だった。

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切れのよいところまで書きたかったのですが、長くなっちゃったので分割しました。

2010.03.25 初出



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