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No.1201の一覧
[0] 無限剣製と千の後継(ネギま!×Fate/)【短編】[EN](2007/04/18 18:35)
[1] Re:無限剣製と千の後継(ネギま!×Fate/)多分後編。もしかすると、二話目[EN](2007/04/26 01:02)
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[1201] 無限剣製と千の後継(ネギま!×Fate/)【短編】
Name: EN 次を表示する
Date: 2007/04/18 18:35
『爺さんの夢は、俺が―――』

誓う。

『■■■、あなたを―――』

誓う。

『後悔なんて、きっと―――』

誓う。





誓い、信じて、突き進む。伽藍の心を埋めた輝きに魅入られて黄金の微笑にその理想を護られて抱いた刃金は唯一つの夢を貫く力を宿し一欠けらの疑心すら産まず足を踏み出して身の内より引き抜いた剣は見も知らぬ誰かの笑顔のために血を啜り恐怖と蔑みの視線を受けて刹那の安寧に歓喜を抱き向けられた刃に血を流しけれどそんなものは■にとって裏切りにもならず――――。





断頭台へと歩を進める。眼が見えず、口も利けぬがそれだけは知っている。



両腕は微塵に砕かれて、軟体に堕ちたそれらを縄と鎖の二重によって封じられ、その上から更に重厚な枷を嵌められていた。

腕と同じく砕かれた顎は止まらぬ黒血を垂れ流して、先端から舌根までを並ぶように打ち付けられた釘々は意味のある音を生み出せない。潰され孔の開いた喉笛は獣に食い散らかされたかのよう。

膝頭から足裏にまで突き抜けた鉛製の杭は何時頃からか肉を腐らせて、今動けているのは首を引き絞る荒縄によって力づくで先導されているからに過ぎない。

首が軋む程の重量を持つ眼帯は頭部のほぼ全面を覆い隠し、唯一自由な耳朶は周囲から生まれる罵倒と怨嗟のみを意識へと届かせた。

飛び交う無数の蔑みは彼独りを標的として、取り囲む世界全てがその存在を否定する。



(…良かった、こんなにも多くの人々が生き残ってくれた―――。)



この期に及んでそのような思考を生み出す男―――大罪人「エミヤ・シロウ」は紛れもない狂人であり、一つの大陸を二分するほどの災禍を刻んだ先の大戦に於ける一線級の英雄だった。



ありとあらゆる戦場に現れ、銃も爆薬も―――あらゆる近代兵器をも用いずに、ただ無数の「剣」によってのみ争いを収束させてきた、表裏を問わず世界にその存在を知らしめる「剣製の魔術使い」。

剣を産み、争いを止め、救いを施す。

何人の立場も理想も顧みず、争いが有れば現れ、その手から産み出された刃による圧倒的な暴力を用いて静寂を造り出した。

…平和、ではない。平穏、ですらなかった。それはただの静寂。無限の剣によって武器とその四肢を破壊し尽くされた人間だけが倒れ付す、安穏とした死すら許されない沈黙の戦場跡。

彼の訪れた戦場では只一人の死者すら生まれなかったけれど、生き残った者達は自身を襲い来る無常の刃を心に刻み込まれて、残留した生命に大きな恐怖を侍らせる。鈍色の痛みは距離を得てすら常に魂を苛み、其処に本当の意味での救いなどありはしなかった。



争い、傷付き。傷付け、傷付き、傷付けられ、傷だけを抱いて生き残る。



そうして人々の間から争いは無くなった。

空を飛ぶ剣群に精神を喰い潰されて、心を、魂を腐らせながら、漸くにして立ち上がる。





剣の災厄―――反英雄エミヤを駆逐するために。

人々の内に“アラヤ”が宿り、襤褸の心しか残らぬ退廃した未来を拒絶する。





エミヤ・シロウは壊れていた。

救いを求める声を振り払い煉獄の地より一欠けらの理想と共に生還して、ただ借り物の輝きのみを拠り所に生きた歳月は正に伽藍の時。望む心を持たぬが故そこに彼の幸福は無く、他者の笑顔だけを救いと免罪の証と信じて突き進む姿は転落を知らぬ愚者の行軍。転げ落ち血を流し尚踏み出す姿は表する言葉すら無くその本質は界の外側にのみ在りて。



だからこそ彼は、只の一度も理解出来ない。



命奪うことを悪と思い戦う術のみを斬り裂き奪う。

―――死すら許さぬ苦痛の末路は、痛みの根源たる“彼”へと向かう恐怖と憎悪。

争い失き未来こそが真の平和であり人々の幸福と信じて躊躇う事無く刃を鍛つ。

―――“アレ”は死神だと。闘争を望んで蹂躙に溺れる、人を象った刃の群れだと震えて嘆く。

他者を傷付ける自身を悪と認じて、それでもそうすることで誰もが傷付かぬ世界を築けると信じて。

―――悪だ。悪だ。アレこそが「人」の悪心、皆で手を取り悪を滅ぼせ、アレの消滅こそ我らが幸福。



自身の生命を糧として神秘の限界を超える。埒外の幻想を紡ぐその魔術に世界の“表”は恐怖を抱き、世界の“裏”はただ驚愕した。

ただの一度の敗走もなく、唯一望んで受け入れたその敗北こそが彼の望む免罪。人々が手を取り合った、「悪」無き世界、理想の形。





熱持たぬ枷に囚われて、冷えた刃が胴より首を斬り離す。

その身によく馴染んだ切断の感触は微塵の狂いもなく彼の命を奪い去って逝く。

刹那脳裏に浮かんだ黄金の幻影は、まるで哀れむかのような微笑みを魅せて。





その日、人々は紛れもない「幸福」を手に入れた。





□□□□□□□□□□□□□■■





―――とある「英雄」の話をしよう。

それは生ける伝説と化した偉大なる魔法使いを父に持ち、雁字搦めの運命によってその身と魂を研磨され、長じて魔法界最高の英雄に至ることを約束された運命の寵児。

有り余る素質を内に秘め、偉大な父の幻想を追って今はただ無垢に生きる少年。



―――とある「世界」の話をしよう。

運命の大樹を基礎として、伸びて蔓延る枝葉の先、数多の可能性、幾多の並行世界。その一つ。

約束された英雄と、堕落するままに逝き着いた反英雄。本来出会う筈無き二人の英雄と、無限の内より引き寄せられた一つの可能性。その世界。





始まりは朱い世界。

陽炎に揺らぐ邂逅、その光景はまるで万華鏡の一欠けら。





―――とある「運命」の話をしよう。

行き着く先は、少年と剣製の織り成す赫色の戦場。

歪み定められた流れに呑まれ絶望の終幕へと堕ちて逝け。





□□□□□□□□□□□□□■■





走る。走る。走る。

息が切れ、荒く蠕動する喉を鉄錆のような熱が食い荒らす。

遠目に見えるのは燃え上がる村々、住み慣れた故郷。ゆらゆらと揺れる橙はそれらを蹂躙する破壊の色。弾けて舞い散る火飛沫は綺麗だけれど、そこに宿る小さな熱は自分の大事なもの達を奪って尚余りある。



「――ッハ、ハァ、ハァ゛…ッ、ハッ」



犬のように息を乱し、カラカラに渇いた喉に唾液を流し込み僅かだけ潤す。何の救いにもならない粘液染みた水分は逆に呼吸を阻害している気もしたけれど、そんなことに頓着するほどの余裕は残っていない。

―――村が燃えている。

丘の上から見下ろした光景は朱く、焦燥と不安のまま必死に駆け下りてようやく近付いたそれらは尚紅かった。



「お、姉ちゃ…んっ」



叫び声をあげる。全力疾走のために酷使した喉は擦れた音しか生み出さず、それでも必死に呼び声を響かせた。

燃え落ちる家屋は炎の向こうに黒ずんだ“何か”を映し、それが何かを意識する前に幼い両足を前へと振り回す。込み上げる熱いものを必死に忘却して、周囲の状況を全力で否定して、ただただ姉の姿を求めて声を張り上げた。喉奥に澱んだ血の味は、もとより識の外。

走って、走り、それでも走った。

泣きながら酸素を求めて喘ぎ、名を呼びつつも脚は止まらない。両の腕はいつしかまともに振り回すことすら出来なくなっていた。それでも。



(…僕、が。)



惑乱した行動は止まらず、炎に焼かれた村内を駆けながら、頭の中にはたった一つの思考が生まれていた。



(僕が、“ピンチになったら助けに来てくれる”なんて思ったから…っ!)



舐るような熱が小さな体躯を撫で上げる。

因果の繋がらぬ自責は事実以上のものを求めず、巻き起こる不安は止まらぬ肉体運動によってのみ遠ざかる。





少年―――「ネギ・スプリングフィールド」は魔法使いだ。



現時点に於いて魔法と呼べるだけの技術を行使し得るか、そんなことはこの際関係ない。ただ、少年は“それ”が常識である世界に生まれ、これから長く続くであろう生涯をその中で過ごし、些かの疑問も差し挟む事無く“それ”に成る。少年も、周囲を取り巻く環境も、そんな未来を信じていた。

父は魔法使い。姉も魔法使い。見知った大人達も皆、魔法使いだった。

唯一つ、ほんの少しだけ特別だったのは、ネギ・スプリングイールドの父親が、他に比類無き伝説級の魔法使いだったという、ただそれだけの真実。





子は親に憧れる。

厳密に確実に絶対的に約束された法則ではなくとも、幼子は何らかの幻想に対して、絶対の尊敬を抱く。

ネギ・スプリングフィールドにとっての幻想は、名と功績以外を一切知らぬ、未だ見ぬ父―――ナギ・スプリングフィールドだった。

それだけならばやはり凡庸なもの。子供が偉大な父親に憧れて、自分もいつかそんな存在になろうと瞳を輝かせる、そんな有り触れた夢に過ぎない。目指す先の非凡さなど問題ではなかった。彼は純粋な子供で、彼の父は他よりも少しだけ優れていたと、たったそれだけの、普通。



顔を知らず、声も知らず、頭を撫でられた記憶もなく、それでも憧れた自分の父。最も身近な英雄で、事実英雄であった人。

―――だから、彼がそんな偉大な“お父さん”に会いたいと想ったことも、本来なら取るに足りない夢の筈。



(僕が、僕がピンチになればお父さんに会えるだなんて、そんなことを思ったから―――っ!)



村が燃える。見知った家屋が燃え落ちる。慣れ親しんだ世界が消えていく。自身の常識が食い荒らされる。

全身を襲う赤色の熱波は喉を焼き、零れだす涙は宿した以上の熱を孕む。

壊れていくだけの世界に歯の根が噛み合わなくなる。見知った筈の情景は最早どこにもなく、現状は疑いようのない“ピンチ”であり、だからこそ幼い感情は簡単な解を胸に抱く。



(僕が、お父さんに会いたいって、思った、から…っ)



―――だから、“こう”なった。

だから、これは望み通りの光景。自分の望んだ状況は確かにここにあり、抱いた願いの半分は間違いなく叶っている。

あとはヒーローが助けに来るだけの予定調和だ。お父さんはきっと光のように現れて、見た事もない魔法であっという間にこの熱いもの達を消してしまい、最後に僕の頭を撫でて微笑んでくれる。そうして僕も笑い返すのだ、そうしてお父さんが僕の名前を呼んでそれが凄く嬉しくて僕は





「ご…っ、めん、なさぃ゛……っ」





ごめんなさい。ごめんなさい、望んでしまって、ごめんなさい。

泣いて、謝って、けれど応える声はどこにもない。





視界の向こう、翼持つ黒のヒトガタと艶の失い見知った姿のヒトガタ達が、緋色に色付きこちらを見つめた。





□□□□□□□□□□□□□□□





ごろりと落ちた。



本当は認識に至るほど大きな音が鳴ったわけではないだろう。落ちた、と思った自意識が、ならばそういった音が生まれるのだろうと、捏造した虚実を聞いただけ。

冷たくも厚い刃は確かに自身の首を断ち、半瞬ごとに霧散していく己という名の精神は、微塵の停滞もなく這い寄る「死」を感じて有るか無いかの震えを宿す。今更死ぬことを怖がっているのかと、そんな自嘲が脳裏を掠めた。砕かれた口端は形だけの笑みすら刻んでくれなかったけれど。



濁った視界は自身が先程まで居た場所を映していた。

頭部を覆っていた筈の枷もいつしか消えており、白に染まっていく世界では人相すら窺えない筈なのに、そこにいる一人一人の表情が精細に理解出来る。

笑っている人、哂っている人、嗤っている人。

喜んでいる人、慶んでいる人、悦んでいる人。

泣いている人、鳴いている人、啼いている人。

様々な人たちが様々な表情で■■■■■■の死を認めていた。様々な感情が様々な形で■の中に入り込んでくる。■はもう自分のことすらろくにわからなくなっているのに、■を見つめる人達の想念だけははっきりと理解できていた。そのことに疑念を抱く暇もなく、釣り上げられるような速度と共に視界が上へ上へと昇っていく。



速度によって生まれる世界との摩擦で■は削られていく。磨り減っていく■は益々研ぎ澄まされて、削り取られた■の欠片はまるで粉雪のように地表へと落ちていった。



流れる視界に色は無く、だからこそ微かに見えた気のするソレらは深く意識の奥へとこびり付く。



黒色を飾る燃え立つ赤が視えた気がする。

昏く微睡む青色が視えた気がする。

静かな、けれど快活な白銀色が視えた気がする。

深い臙脂の色が視えた気がする。

褪せた白色が視えた気がする。

視えた気がする。視えた気がする。視えた気がする。視えた気がする。視えた気がする。



遥か遠くに黄金が在り、けれど差し伸ばした手は決して届かない。





ただそれだけが酷く寂しいと想い、





■■■■■■は、墜落する。





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角があり、蝙蝠にも似た翼があり、開かれた顎には牙とその奥へと続く空洞があり、鈍く光を放つ二つの眼孔があり、だからこそ幼きネギ・スプリングフィールドは“ソレ”を「悪魔」だと思った。

だからこそネギ・スプリングフィールドは“ソレ”に背を向けて、―――逃げた。



泣いて、喘いで、必死に走って。その背に追い縋る足音は一つや二つでは到底足りない。

赤く燃え上がる家屋の間、砕かれた廃材や瓦礫を踏み越えて逃げ続ける。逃げられるかどうかという疑問は持たない。微かに見えた気のする、顔見知りと同じ形をした石人形のことは考えられない。死ぬか生きるかという究極的な回答も必要ない。状況に対する理解も無理解も関係ない。先程まで脳裏を埋め尽くしていた自責と明確な対象の存在しない無価値の謝罪も消えている。



人間だ、生き残りだ、追え、殺せ、契約だ、と。人とは異なる器官を通したそれら不快な怒号に全身が震える。あらゆる全ての感情が吹き飛び、先程目にした「悪魔」の異形と、形を定めることすら許さない無限大の恐怖が逃走を強制した。



「あ、うぅうぁぁああ、あぁ、あうああああ……っ!!」



喉の奥から漏れる悲鳴は明確な声にすらならない。揺れるまま、震えるままに音が漏れ出す。

流れ落ちる涙も、鼻水も、涎も、外面を気にする一切の余裕が消えていた。数分前、姿の見えぬ姉を求めて走った時の恐怖とは比べ物にならない。走らなければ死ぬ。逃げなければ死ぬ。動かなければ死ぬ。何よりも明確に……自分は、死ぬ。確定された未来予想が心を侵し、唯一つの行動以外を許さない。

生まれて数年に満たない小さな心は、村を呑み込む赤色を知ってからの、ほんの一時間にも満たない間に壊れかけていた。





それを止めたのはとある一人の老人の声とその勇敢なる挺身であり、その崩壊を早めたのは、勇敢なる老魔法使いをすら見捨てて逃げ続ける、憧れた英雄とは掛け離れた、自身の醜さだった。





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■■■■■■という人間が産まれた場所は、例えるなら煉獄の最中。

赤色の大地を独り当て所なく歩き続ける子供が居て、その小さな姿に救いを求め、打ち捨てられた無数の嘆きを黒い太陽が静かに見つめていた。

焼かれて黒く染まった腕が、脚が、貌が、皆一様に空を見上げる。人の形をしたヒトだったモノ達を横目に、子供は構うことなく歩を進める。救いを求めるように差し伸ばされた腕と腕、それがまるで担い手を待つ「剣」のようだと、そんな益体も無い思考が過ぎっては消えていく。



数分か、数時間か。いつしか、体力の無い子供が倒れ付したのは必然だった。



赤い大地に倒れ付した小さな体躯、見上げた空には真っ黒な太陽。死んでいく皆を見守るようなそれに、小さなため息だけを返した。

歩けない、脚はもう動かない。起き上がれない、腕は引き攣るように震えていた。息が出来ない、口腔も喉も半ば炭化していたのかもしれない。

動けない自分は、もう幾許もなくそこらの「剣」達の仲間入りをするのだろうと思った。ああして掴んでくれる者もなくずっと待ち続けるのも、ひょっとすると楽しいかもしれない。楽しいという感情も既に遠くに行ってしまったけれど、失くしてしまった■■も、皆と同じになることで取り戻せるかも知れない。



だから、腕を上げた。

引き攣れた黒い棒のようなそれをふるふると揺らしながら上げて、半ば溶けて融解した五指を開いて太陽に翳そう。

そうして来もしない誰かを待ち続けるのだ。ずっと。

それはきっと、失くしてしまった何かを取り戻すために必要なこと。待ち続けて、誰も来なくて、だからこそいつか■は戻れるのだから。燃え残った自分ではなく、燃えてしまった■のために、ここでこうして「剣」になろう。



そうして掲げた右の「剣」。遅れて震える左の「剣」。





それを、―――その「剣」を掴んで貰えたのは、果たして■■■■■■にとって幸福だったのだろうか。





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ネギ・スプリングフィールドが壊れかけた“何か”を失くしてしまうよりも刹那早く、燃え上がる村跡を襲ったのは無数の光と輝きと、それと同数の轟音の群れだった。



「――――ぁ、」



呆けたように顔を上げる。見上げた空には白色の雷が舞い、砕かれ吹き飛ぶ廃材に紛れて、無数の悪魔が視界を掠める。

状況を理解できぬままに空を見る。

聞こえる轟音は二箇所から生まれており、向かって右には白い光と風の群れ、左の空には鋭い輝きが止まる事無く煌いていた。

少年の視界に見えた悪魔達は何事かと音源を見遣り、自失した子供を視界に映しながらも空を翔る。



少年は、ただ空を見上げ続けていた。



右の空が吹き飛ぶ。無数の家屋が瓦礫と化し、種々の悪魔が空を舞い、塵へと還る。

左の空が鋭く光り、何かが突き刺さる音が聞こえたかと思えば次いで爆音が鳴り、橙の炎を呑み込む赫色が空を舐めた。



左右から生まれる破壊の音と光を見ながらも、ネギ・スプリングフィールドの頭の中は真っ白なままだった。

周りからは悪魔の姿が消えて、今自分を恐怖させるものなど何もない。けれど、だからこそ動けない。少年を置いたまま流れていく状況は認識すら置き去りして、原因のわからない二種の破壊と悪魔達の消え逝く様はどこか非現実だった。





「…ネギ、ネギなのっ!?」





僅か遠くから聞こえる懐かしい呼び声。

感情無く振り向いた先に見えた笑顔と全身を包む温かさに、つるりと一雫の熱が落ちた。





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→ Side:“■■■■■■”





驚愕した貌、脅えた貌、慟哭する貌、憤る貌、立ち向かう貌、無貌。

最初に認識したのは固められた無数の感情であり、その内の過半が負に満ちていた事実は恐らく嘆いても良い類の事象だろう。



「―――――」



次に認識したのは黒いヒトガタの群れ。

翼を持ち双角を持ち人とも獣とも異なる異形の躯を持ち爪を持ち牙を持つ大躯。刃を持ち多関節を持ち硝子にも似た無垢の玉瞳と艶めいた肌。蝙蝠にも似た翼と赤い瞳と子犬にも満たぬ小躯と歪な尾。

雑多な異形を持つ獣の群れ。そしてその傍ら、泣き叫ぶ貌と恐怖に挑む貌とありとあらゆる表情を固められた人間の成れの果て。石人形。



それらを視界に映し、唯一つの結論を弾き出す。曰く、――――■■、開始。



「剣製開始(トレース・オン)」



呟くのが先か、現実が塗り変わるのが先か。意味ある言葉と共に全身―――内界たる■■■■■より「剣」群を射出。

具象化された「悪魔」の如き異形、その頭部肩部喉頭部胸部腹部その他全身の主たる間接部を貫き、詠唱する。



「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」



―――爆。

一体の異形を串刺した無数の剣が爆砕し、ヒトガタにも似たソレを内側からぶち撒け、炎に包む。只管に破壊力を追求した結果に取得した攻撃法の一つだが、やはり「剣」が砕けていく様は好きになれそうもない。それがただの感傷に過ぎないとはわかっているのだけど。



首を巡らせて状況を把握する。

周囲には五体の異形。破壊され、赤く燃え上がる木造家屋。恐らくは仲間だったのだろう先の一体を殲滅したからか、爆砕の余波を受けた周囲の異形達は身を屈め、こちらへと飛び掛ろうとしている。自身の保有魔力は十全。先程の一斉射によって目前の異形達に有効打を与え得る武装は選定済み。更なる情報を取得し、より一層の効率化を図る。





「I am the bone of ―――」





状況は見えず、けれどやるべきことだけは解っている。

意味ある言の葉を紡ぎ、■■■■■■だったモノは、ただただ戦闘へと埋没していく。



―――戦闘・高速思考を開始。

■■■■■より検索開始。視覚情報からの推測に基づき退魔性・聖性を持つ武装を選出、剣製、射出。視覚以外からの情報取得は自身には困難、試行開始。「黒鍵」を該当対象として試行―――直撃。目前の敵対象に用いるには若干の不足。当該対象の位階は不明。多重・推測・思考続行。「黒鍵」を選択肢より除外。

検索。剣製。射出。射出。殲滅。除外。検索。剣製。射出。殲滅。殲滅。該当。該当。除外。残敵数・二。



「貴様、魔ボグォ――――ッ!!」



敵対象の発言を強制停止、詠唱・言霊の阻止並びに追撃。殲滅。現時点に於いて敵対象の魔眼所持の有無は未確認、聖骸布の装備を確認。引き続き要警戒。聴覚遮断推奨、暫定承認。並びに視覚遮断、却下。殲滅。現時点での敵対象の全滅を確認、対象の遺骸、完全消滅を確認。不可解。

―――戦闘思考停止。通常思考へと移行。



「化生の類のようだが、遺体が残らないのは、一体…?」



あのような合成獣も魔獣も、類似形はともかくとして自身の既知内には存在しない。徒党を組んでいたことから特定の一カテゴリーに属するモノだろう推測は容易い、しかし―――…いや、

軽く息をつく。殲滅自体は、必要消費魔力は度外視しても、所持している武装で可能だった。魔力を感じ、周囲には石化の魔術を受けたと推測される人間…らしきもの。アレらは自身の討つべき“敵”で間違いは無い。無い、が……



そもそも、





「俺は、誰だ…?」





それこそがわからない。

零れ落ちた■■は、自身の過去との決定的な齟齬を生む。





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Reverse → Side:“Negi Springfield”





ピンチになれば、“僕”が危険な目に遭えば、きっとお父さんは助けに来てくれる。

だから、お父さん―――「サウザンドマスター」と呼ばれるその人に会いたくて、思えばバカな事ばかりしていた。

ちょっと危ないことをして、少し危ないことをして、もう少しだけ危ないことを試みて。それでも、止まらない。これだけでは足りないのなら、もう少しだけ危なくなれば来てくれるのだろうか、もっと危なくなれば、会えるのだろうか。―――そう考えて、気が付けばそのことばかりを考えていた。



転んだくらいじゃ来てくれなかった。

犬に追いかけられたくらいじゃ来てくれなかった。

熱に魘されたくらいじゃ来てくれなかった。

…僕が願ったくらいじゃ、来てくれなかった。

来てくれなかった。来てくれなかった。来てくれなかった。だから、もっと、もっともっと、もっと―――





そんなことばかりを考えていたから、こんなことになったのだろうか。





「ァ、あぁ、ネギ、逃げ、て…っ!!」



必死な叫び声が聞こえる。お姉ちゃんの声が聞こえる。とても痛そうなのに僕のことを助けようと、逃がそうとして必死に叫んでいる。

だから逃げないといけない。だから見捨てないといけない。スタンお爺ちゃんみたいに、さっきみたいに、また僕だけが逃げないといけない。まだ危険が足りない。早く逃げないといけない。お姉ちゃんが叫んでいる。逃げて。逃げないと。逃げないと。逃げて。お姉ちゃん。逃げて。



目の前には先程と同じ、悪魔。

僕の後ろには両足を石にされたお姉ちゃん。凄く辛そうな顔をして、それでも僕に逃げるようにと叫んでいるお姉ちゃん。見捨てないといけないのに逃げないといけないのに怖くて恐くて足が動かない全身が震えて動かない恐くて動けない。

震える両手を広げて、後ろからの叫び声に震えて、目の前の悪魔に震えて、足を踏みしめて、動かない。



お父さんはピンチになったら助けてくれる。ピンチにならないと助けてくれない。お父さんはかっこいい、「英雄」、だから。だから、きっと本当に危なくなったら助けてくれる。危険な“振り”じゃなくて、本当に危なくなったら、きっと、絶対。

動けない。動かない。動きたくない。



「ネギ―――ッ!!」



恐い。怖い、怖い、怖い。悪魔が怖い、お姉ちゃんが怪我をしているのが怖い、こうして立っているのが怖い、逃げるのが怖い、お父さんに会えないのが怖い、お爺ちゃんを見捨ててきたのが怖い、怖いのが……恐い。



それでも逃げないし逃げたくない。ここで逃げるのは怖くて、お姉ちゃんを置いていくのが怖くて、悪魔が近付いてくるのが怖くて、さっきから僕の身体がお姉ちゃんを隠すように立ち塞がっているのも怖い、お父さんが来ないのが怖い。ピンチになったら来てくれる。でもピンチにならないと来てくれない。ピンチになっても、来てくれないかもしれない。

僕がお父さんに会いたいって思ったから、だからこんなことになって、お爺ちゃんもお姉ちゃんも僕を守ろうとしてくれて、だから僕は逃げないといけなくて、逃げることが怖くて、見捨てることが怖くて、それよりなにより、僕は、





お父さんが助けに来てくれないような、本当の誰かのピンチにすら逃げ出すような、そんな「“英雄”の子供/臆病者」にはなりたくなくて。





「―――――ッ」



振り下ろされる。息を呑む。悲鳴が聞こえる。脚は動かない。動けない。動かすことなんて、お姉ちゃんを置いて、こんな怖い場所から、自分から、逃げだしてしまうなんて、そんな怖いことだけは、絶対にしたくないっ!!





―――ぞぶり。

音が鳴る。音が鳴った。鋭い物が柔らかい物を突き抜けて飛び出したような、そんな音。



「ネ、ギ…、」

「ぁ、―――」

「ガ―――」



お姉ちゃんの声。僕の声。悪魔の声。

震える声。呆けた声。吐き出すような声。





「―――無事か?」



刃金色の声が耳に届く。

平坦な、低い、男の人の声。温かみなんかなくて、けれど視界に燃え盛る炎よりも熱い、声。

そして、目前の悪魔の胸を貫く黒鉄色の鏃。苦しむように数度蠕動した悪魔の躯が溶けて消滅すると、悪魔に突き刺さっていた“何か”も淡雪のように光って消える。それはこの地獄に酷くそぐわなくて、なのに眩しいくらいに綺麗に見えた。



薄れいく光と、緋色の向こう側。見えたのは、深い赤色の外套。





「お父、さん…?」





壊れた呟きに、錆色の瞳が視線を返す。





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無限剣製と千の後継 - Route:Thousand Blades -




□□□□□□□□□□□□□■■





Reverse → Side:“■■■■■■”





「お父、さん…?」



呟きは目前の少年から。赤茶の髪にあどけない顔、涙と鼻水と唾液で酷く汚れてはいるが、きっと常には美しい容姿をしているだろう小さな子供。

呆けたような視線はこちらへと向けられて、呟かれた言葉は自分に向けられたものだと理解する。

お父さん。或いはオトー・サン。人名だろうか。嫌、恐らくは「お父さん」、「My Father」。つまり、いや、……成程。



「俺の息子か」



記憶は混濁している。むしろ空っぽに近い。だが、だがしかし、幼子が涙を流しながら自身を父と呼んだのだ。そこに一切の虚偽など含まれていないことは想像に難くない。むしろ自明の理であろう。

…息子。息子か。そうか、俺には息子が居たのか。一体何処で何をどのようにして子を儲けたのかは目前に居る息子本人や未だ見ぬ妻に聞かなければいけない。記憶の混濁についても話し、出来うる限りの理解を得たいと思う。そして叶うのならば失った記憶を取り戻し、仮にそれが出来ずとも自身の全てをかけて家族を愛さねばならない。正論であり理想論でしかない思考の流れ、しかしそれを“正しい”と感じている俺は間違ってなんかいない。断言しよう。



―――故に、自身の成すべきことは一つだった。





「…ああ、大丈夫だったか?」

「ぉ、…お父さんっ!!」



ひしっ。

擬音が生まれるほどの熱く、強い抱擁。抱きとめた小さな身体は酷く脆く感じ、この子は自分が守らなければならないと、再度決意を引き締める。

ひょっとすると記憶喪失以前の自分はこういったことに慣れていなかったのか、若干不器用な手付きで頭を撫でて、すすり泣く息子に温かな声をかける。



「もう、大丈夫だ」

「う、うぅっ、ごめんなざ、僕、お父さ…っ」



泣きじゃくる言葉の内容は不可解でもあったが、それすらも包み込もうと、もう少しだけ抱く力を強めた。恐らくは先程の仮称・「悪魔」達によって襲われ、軽度、或いは重度の恐慌状態に陥っている。多少の時間をかけたとしても、その罅割れた心を慰めてあげよう。それが、俺の今するべきことだ。



ふと、抱きしめた愛息子の向こう側、倒れ付す金色の髪をした少女が見えた。

視覚を貫く金色に、何か酷く惹き付けられるものを感じ、





「…そうか、」

「うぅ、うっ、ぐすっ」



理解した。





「あれが、――――俺の“妻”か」





倒れ伏す少女は意識を失しており、抱きとめた少年は忘我の涙を流す。

―――故に今この場に、裁定者(ツッコミ)は存在しなかった。





身を挺して自分達の息子を守っただろう妻に、若干の愛おしさと、穢れ無き尊敬を抱く。

その砕けた両脚は、半ば石化しているが故に出血も無く、負傷としてはまだ間に合う状況だ。

傷付いた彼女を一刻も早く治療の出来る場所に連れて行くため、俺はもう一度だけ息子の頭を撫でると、見上げる瞳に微笑み返して立ち上がった。





□□□□□□□□□□□□□□□





Reverse → Side:“Negi Springfield”





“身体は剣で出来ている”。



そのような言葉を耳にして、意味を理解するよりも尚早く、無数の剣群が父の体躯より躍り出る。

身体の表面を突き抜けて生まれたかのような光景。けれどその身には傷一つなく、まるで幻のような現象はしかし、刹那の後、無数の悪魔を還す様に現実だと認識させられた。



―――『サウザンドマスター』。

それが自分の父の名前で、名の持つ意味は“千の魔法”。それを操る最強の魔法使い。ずっと憧れていた、無敵の英雄(ヒーロー)。

目の前でいとも簡単に悪魔達を倒していく様は疑うことなき英雄の姿で、先程までの恐怖感も、悪魔達の異形・醜さも、幻想的な剣達の美しさの前には考えることすら無粋に過ぎる。圧倒的な強さ、圧倒的な美しさ、圧倒的な、幻想。夢の形。



「すごい…」



すごい。言葉なんて思いつかないくらいに凄い。

悪魔達を的確に貫く剣の数は無数。その装飾は、輝きは無限。こちらへ向けられた赤い背中は、周囲を燃え上がらせる炎よりも強く、気高いものに見えた。
ずっと夢見ていた英雄が、憧れていたお父さんが今目の前に居る。自分の信じていた通り、決定的な“ピンチ”に現れて、自分と姉を助けてくれた。村を跳梁する悪魔達をあっという間に倒していく。その光景に、悲しさや苦しさなんか関係ない、純粋な涙が零れ落ちた。



千の剣。千の魔法。――――故に呼ばれるべき名は『Thousand Master』。


本来、人が目にすることの叶わない“英雄”を前に、抑えようのない憧れだけが、胸の内を満たしていた。





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Reverse → Side:“■■■■■■”





そうして、「悪魔」達はその全てを滅ぼされた。

可愛い息子の前だからと調子に乗って剣製をし過ぎて、表面上は取り繕っているが実はもういっぱいいっぱいだった俺は、俺達以外にも悪魔達に対抗しているらしい白い光の輝く方へと向かい、色々あって今現在、よくわからない感動の場面が展開されていた。





「そうか…、お前が、ネギか…」

「え…?」



フードを被り大きな杖を持った青年が、うちの愛息子に向けて優しく微笑んでいる。なんだろうか、この温かな空気は。

俺は未だ意識を失っている自身の妻を抱えながら、その石化した両脚を治療してくれた謎の魔術師と、“ネギ”という名前らしい息子の間に蟠る、理解不能でありながらもどことなく察せられそうな雰囲気に、沈黙を保ちつつ傍観していた。



「大きくなったな…」

「え、え…っ?」



ネギの頭を撫でる謎の魔術師。敵意がない事は当の昔に確認済みだから構わないのだが、撫でられているネギ本人は状況を理解していないのだろう、不思議そうな顔で俺と魔術師を交互に見遣る。……が、ここまでくればハイテナイ・シスター曰く“ぶっ壊れている”らしい俺にも、若干のエアリード機能が働いた。…記憶の混濁が激しい。“ハイテナイ・シスター”って何だ。



だが、正直、困る。というか、…困った。



「…お、そうだ。この杖をやろう」

「え、あ、はい。ありがとうござい、ます…?」

「俺の、形見だ」

「え?」



言葉の意味を理解できていないだろうネギに対し、魔術師の青年は笑みを浮かべる。その様子がどこか寂しそうに見えて、俺の空っぽの胸がずきりと痛む。


「悪ぃな、お前には何もしてやれなくて」

「はぁ…、え、」



宙に浮かび上がる男と、呆けたように見上げるネギ。

刹那、俺へと向けられた青年の強い眼差しに、俺は出来うる限りの決意を篭めて頷いた。



「元気に育て、幸せにな―――」



声と共に、ローブに包まれた姿が消えていく。その様は先程まで戦っていたあの「悪魔」達にも似ている。





「…え?」





最後まで事態を理解できず、ただ空を見上げ続けた小さな姿に、俺は、たった一つの、そして決定的な間違いを後悔していた。





「なんでさー…」





渇いた声。何処か言い慣れた言葉。

結論としては、俺に“息子”なんて居なかった、らしい。…どうしよう。



空を見上げるネギの背中と、抱きかかえた金髪の少女(恐らくこの子も俺の妻では無い。よく見ると随分若いし)。

それらを視界に映しながら、魔力不足のため薄れていく自身の身体に、身体を魔力よって構成されているその理由はわからずともこのまま消えてしまいたくなった。



――――これは、そんな並行世界の話。





End!
◇◇◇◇◇

~後書き~



 PS2版Fateが発売されるらしいのでお粗末ながらも記念に…などと考えつつも、「ネギま!」とのクロスにしてしまう自身の凡庸さに暫し黙考。

本来Fate再構成ものに用意していたネタを使い回し、暴走するままに書き下ろした”アーチャー?×ネギ”という恐ろしくもハートフルな出来栄えにもう自分は色々な物が駄目なのかもしれません。

 三人称に挑みつつも気が付けば一人称になっているワンダーな本作、真面目に読まれる方がおられれば嬉しいのですが。



…続きません。本当に。


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