一回目の探索でぼろぼろになった一行。たった一回の戦闘でこうもやられるとはエルフ三人娘は思っていなかったに違いない。
「いや、けっこうやれたな!こりゃ先行き明るいぜ」その様子を見て元気付けるように声を上げる次郎。
「おお、確かにずぶの素人にしちゃかなりやったと思うぜ」
イチエイも声を大きめに出し、盛り上げるようにする。
「なんせ、今回は敵が弱かったといっても誰も死ななかったからな。ホント。運がいいぜ」
「そんなにも……死ぬものなのか?」サラが聞く。
「ああ、レベル一のやつらばっかで行っていきなり強いやつらにあったら全滅することも珍しくねーのさ。ここで死亡率が高いレベルって言うとまずレベル一。それからレベル十以上の歴戦のやつらだからな。今はとにかく命拾いしたこと喜ぶべきだぜ。ほんと。」
「そ、そうか。やはり簡単には金を稼げないものなのだな。」がっかりしているサラ。
「そういや、あんたたちなんでこんなやばいところにいるんだ?姫とか呼ばれるってことは一応貴族なんだろ?」後ろを振り返りつつ問う。これは他のメンバーも知りたかったことだ。皆の視線がエルフ三人娘に集まる。
「じつはですねー。うちの領って貧乏なんです」のほほんとした口調でタニヤが言う。
「そう、うちはな、土地も痩せていておまけに鉱山とかそういう金になる物がまるで無いんだ…」ふっ、と哀愁を感じさせるサラ。
「それで私たちが音に聞こえた金の山、ここリルガミンで出稼ぎしているって訳さ」マナもいつもの堂々とした態度でなく目線を斜め下にして答える。
「な、なるほどな。いろいろ貴族って言うのも大変なんだなー。」うーむ、と唸ってしまう。
「………私も出稼ぎ。」マユルがボソッという。
「俺も元々は出稼ぎ組みさ」イチエイが明るく言う。
「最初こそ色々苦労したがこの頃は結構まとまった金を故郷に送れるようになってる。お前さんたちももうちょっと頑張ればすぐにそうなるさ。実はな、レベル6なんてのは最初のレベル一の洗礼を無事潜り抜けたあとだと結構早くなれるもんだ。こうなれば後は適当なパーティ見つけて迷宮にもぐればいい稼ぎになるぜ。しかし、貴族様でも出稼ぎか。ちょっとかわいそうになったからレベル一の間は、取り分は七分の2でいいぜ」
「そ、そうか!それはありがたい。早速明日再びもぐろうかと思っているんだがどうだ?」
目を輝かせているサラ。やはり少しでも金が欲しいらしい。
「いや、明後日にしよう。明日もあいてることはあいてるが、あんた、まだ傷が完全じゃないだろ。明日はマユルに回復してもらう時間にしな。そうすると、明日はマユルの魔力がつきてる計算だ。マユルの術が完全に回復してないうちに洞窟に入るのは自殺行為だぜ。」
「すまんね、色々教えてもらったり付き合ってもらって。」出稼ぎでリルガミンに来ているのに、こんな初心者パーティに付き合うってことはよほどお人よしなんだろうなー。と思う次郎だった。
次の日の朝
「イチエイ、いるか?」
彼の部屋のドアを叩きながらたずねる。
「おお、ジロウか。なんだ?。」
「いや,昨日、今日も空いてるって言ってたからさ、あんたが装備を買っている店屋なんかを紹介してもらいたいと思ってな。いいかな?」
ドア越しに会話する。
「ああ、そういうことか。良いぜ、今日はどうせ昨日の稼ぎでちょびちょび酒でも飲もうかと思ってただけだからな。ちょっと待っててくれ、今着替えるから。」
「おまたせ。」
昨日と同じく冒険者らしい姿で出てくるイチエイ。仕送り組らしくまともな服はあまり持っていないらしい。
「そうだなー、リルガミンでは結構店があるが、やっぱり一番いい店って言ったらボルタック商店だな。あそこは絶対に鑑定済みの商品しか店に出さないから変な呪いつきの装備なんか絶対に掴まされないし、オーダーメイドで鎧なんかを小さくする魔法のサービスなんてのもやってるからな。」
「げ、やっぱりボルタックなのか……」
少し嫌そうな顔をする次郎。それはそうだろう。このゲームを愛している人間の中では、ボルタック商店はボッタクル商店とも言われている悪名高き店だ。なにせアイテムの鑑定一つに多大な金(売値と同額)を要求するのだ。また、未鑑定のアイテムは只でも引き取らない。つまり、鑑定士がいない(ビショップのみが鑑定できる)パーティはアイテムを売ってもまったく儲からないのだ。これがボッタクル商店といわれる所以である。
「お、ボルタック知ってるのか。まあ、あそこも鑑定士がいないときついってのは有名だから、その噂だけ聞いてんだろ?でも大丈夫だ。ちゃんと酒場鑑定士ってのがいるのさ」
「酒場鑑定士?なんだそれ??」
首をかしげる。
「呼んで字の如く酒場にいるビショップだよ。一回10から1000Gぐらいで鑑定してくれるビショップだ。鑑定料は拾ってきた階層によって違う。あと、もし鑑定士が呪われたらその解呪料も負担させられる。はっきり言ってビショップなんて連中はあまり戦力にならないからな、ドロップアイテム選り好んでモンスター殺しまくるような連中のパーティ以外では取り分が少ないんだ。酷い場合だと他のヤツの2分の一位しかくれない、なんてこともあるんだぜ。その穴埋めのこずかい稼ぎさ。尤も超上級ビショップともなると話はまったく違ってくるけどな。噂によるとそいつらはラダルトとかマディとかを一人で唱えることが出来るらしい。まあ、こういうのは中央の高級官吏にさえいなくて、大司祭様、とか呼ばれるような人たちだけらしいけどな。でも、ここにも何人かいるらしいぜ、そういう化け物が。もちろん取り分はめちゃくちゃ高い。7割8割持っていくらしいぜ。でも、まあそんなのが一人いればかなり無茶も出来るからな。適当な取り分だろうよ。」
「ふーん、そういうのがいるのか。」
ゲームでもほぼ初期レベルで酒場に待機させていたビショップがいたことを思い出す。「かんてい」って名前のそのまんまなキャラだったなー、と振り返るジロウ。あと、「そうこ1」とか「そうこ2」、とかな……
「そういえば、ここら辺にものを預かってもらえるところあるのか?」
数々の「そうこ」たちを思い出し,聞くジロウ。
「俺たちが泊まってる『うまごや』にはちゃんと預けものサービスがあるぜ。やっぱり冒険者専用の宿屋だからな、料金はちょい相場より高いけどそういうところはしっかりしてるぜ」
次郎たちの泊まる『うまごや』は一泊最低でも10Gする。だいたい1Gが千円くらいだと思ってもらってもいいから一泊約1万円だ。ちょっとした観光客ならまだしも普通の人間なら常宿にするには少々高すぎる。しかし、毒を食らって戻ってきたときはすぐに解毒もしてくれるし、かなりの数のアイテムもきっちり保管してくれる。何度も書くが、まさに冒険者のためだけの宿なのであった。
「ホント、イチエイにあの時会えて助かったよ。感謝してますぜ、旦那」
頭を下げ、ナームーと拝むジロウ。
「よせよ、おい」
こちらはちょっと照れているイチエイ。肘でジロウを軽く突っついていたりする。結構可愛いところがあるやつだ。
「お、大黒商店だ。あそこは最近出来た店なんだ。ちょっと変った外装だろ?東方の国、確か日の本とかいう国に本店があるとか聞いたな。外装も変ってるけど、売り方も変わっててな、未鑑定の品を袋に入れてワゴンセールすることがあるんだ。一年に一回新年のときな。福袋とか言うらしいけど、結構いいものが入ってたりしてわりと人気なんだ。最近名前が売れてきてる店の一つだな。でも、通常日はボルタックとまったく変わらない営業形態だ。噂によると二つの店は提携しているらしい。あくまで、噂だがな。」
あれっ、と思うジロウ。大黒商店。聞いたことが無い店だ。そもそもゲームの世界ではボルタック商店しかなかったのだから無理は無い。が、しかし、何か頭に引っかかる。
『まあ、思い出せないんだから大したこと無いことだろう。』
次郎はそのままスルーした。
「さあ、ここがボルタック商店だ!」
イチエイが指差した方向には大きな店があった。人の出入りも激しくあり、またその人間の殆どが冒険者のような格好をしている。
「まあ、中に入ってみようぜ」
二人は中に入る。鉄の匂いがきつい。周り中いたるところに武器や防具が置いてあるのだから当然だといえば当然だった。
「おお、イチエイじゃねーか。またなんか売りに来たのか?」
ムキムキのドワーフがカウンター越しに声を掛けてきた。
「こんちは、ボルタックさん。いや、今日は新入りに店の紹介して回ってるんだよ」
「隣のやつが新入りかい?おれは51代目ボルタック。お前さんの名前は?」
「ジロウです。よろしくおねがいします。」
ふーんといった感じで次郎を見るボルタック。
「まあ、これからよろしくな。今のあんたには買えない物ばかりだろうけど、内には色々いいもんがあるぜ。目の勉強のためにもイッパイ見とくことをお勧めするぜ。」
「はい、勉強させてもらいます。」
といいながら次郎は頭を下げた。
改めて周りのものを見るといかにも対モンスター用といった感じの大仰な武器や、鎧が並んでいる。品物にはこれがなんであるかという符だが付いていてなかなか親切な店だな、と思った。さらに明らかに高価そうなものもあり、ここもゲームの世界と大きく違うなと感じた。何せゲームの中では自分たち自身が武器などを売らないと碌に品物がそろわないというシステムだったからだ。しかし、この世界では自分たち以外にも迷宮に入り込んでいるパーティも多く存在するのだ、品がある程度そろっているのはあたりまえだともいえた。
「あの、ここら辺にかかってるようなやつって実際に手に持っていいんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ん、ああ、ショーケースに入っているようなやつ以外は手に持ってみてくれていいぜ」
フム、なかなか礼儀正しいヤツだなと思いながらうなずく。
「そうだ、ジロウ、へへへへ」
イチエイがいかにも面白そうなことを見つけたといわんばかりにニヤニヤする。
「あの壁にかかってある剣持ってみろよ」
ほら、とジロウの背中を押して急かす。
「これか?」
次郎は落とさないように慎重に両手で持つ。
「んん???オメーそれ、軽々と持ってるけど……だんだん重くなってこないのか??!!」
驚くイチエイ。
「いや、なんか逆に軽くなってきてるんだけど……」
首を傾げる。徐々に羽毛のような軽さにまでなっている。
「おい、ボルタック爺さん!あれってナイトソードだよな??」
自分の勘違いかと思い、店主に確かめてみる。
「おう、そうじゃ。それがどうかしたか?」
「どうかしたか?じゃねー!!こいつ、職業「とうぞく」、なんだぜ!」
「えっ???」
ボルタックの店主も目が点になっている。
「どういうこった?こりゃ??間違いなくそりゃナイトソードのはずじゃ。お前さん職業間違えて覚えておらんか??」
「いえ、『ステータス』・・・・・・やっぱり職業盗賊ってなってます」
確認する次郎。それを横から眺めるイチエイ。両者共に確認したが、確かに盗賊だった。
「いったいどういうこった??ボルタック爺さん、ファイアーソード持たせてやってくれないか?」
「おお、いいぞ!なんだか面白いやつ連れてきたなお前!」
ショーウィンドの中にある真っ赤な刀身の剣をジロウに渡す。「ほらよ」
「どうだ、ジロウ?」
わくわくした顔で答えを待つ。
「なんか、さっきのヤツより軽く感じるし力が自分に流れ込んでいく気がする。」
「やっぱりか!」「なんと!」
二人の驚嘆の声。しかし、一番びっくりしていたのはジロウ本人だった。
「それではこっちの鎧はどうじゃ?プレートメイルじゃ。着てみろ。」
壁に掛けてある鉄の塊のような鎧を引っ張り出す。
「あの、着方判らないんで...」
戸惑う次郎。
「それくらい教えてやるワイ。ほれ、こうやってな、・・・・・・・・・・・・・・・」
「よし、できた。一度かるくジャンプしてみろ」
鼻息荒く、興奮した面持ちのボルタック
トン、と軽くジャンプしただけで天井に手が付きそうに成る。
「やはりか!!お前さん、なぜか盗賊の武器以外にもナイトなんかの装備も出来るようだな!!ワシャ長い商売で初めて見たワイ。」「次は侍の装備試してみようぜ!」
「いや、今度は逆に僧侶とか魔法使いの装備をさせてみよう!」
………結局ジロウはありとあらゆる装備を付けさせられたのであった。・・・・・・・
「すごい!お前さんはどうやら冒険者の装備のあらゆるものが装備できるようじゃ。こりゃすごいことだぞ!侍の攻撃力を持ち、戦士の防御力を持つ盗賊。忍者以上の逸材じゃ!」
「いいか、これから装備を買うならうちに来い。いくらかまけてやるから。その代わり、手に入れた財宝はうちに売りに来いよ!お前さんならレアアイテムも拾ってこれるくらい強くなるだろうからな。」
ボルタックは興奮しつつも抜け目無く次郎に提案したのであった。
着せ替え人形よろしく次々に衣装を替えられた次郎はふらふらになりながら冒険者の宿に帰り早々にベッドに入った。
寝入る瞬間また、『声』が聞こえた気がする。
「これもギフトの一つさ………」