「何が目的だ」
「………………」
こんにちは、就活中のメイです。
それが何故かプロハンター級の人たちに囲まれてます。
9話
話は天空闘技場でファミレスのバイトをしていたころにまで遡る。
俺のスカートの中を盗撮しようとしてカメラが爆発した馬鹿の23人目が警察に連行される時に言った言葉が俺に衝撃を与えた。
「僕もまた、メイド服に踊らされた被害者の1人にすぎないのさ…………てかなんで常にメイド服なんだよ、本職?」
『なんで常にメイド服なんだよ』
まあ、最近は気にしていなかったが普通におかしいよね。面と向かって言われたのは初めてだった。
相手は犯罪者だけど。
今一度自分を客観的に見ると、ただのコスプレ女でしかない。
……………これは駄目だ。
だが、このメイド服は制約であり俺を守る鎧でもある。
なら答えは一つだ。
そうだ、メイドになろう。
そう決めてからは速かった。
使用人関連の求人を探し、ハンター専用サイトまで使って雇用条件のいい職場を探した。
中にはどう考えても地雷な募集先もあったけど。
ゾルディックとか。キルアくんやイルミさんと同じ名字じゃん。普通に死亡フラグ。
そしてその中からとっておきの職場を見つけた。
大富豪バッテラ。
有名な大富豪の使用人として働く。
なんかカッコいいじゃないか。
しかも、ハンター専用サイトにしか載っていなかったが、念能力者も募集していた。
使用人やSPなどの求人の方には書いていなかったが、念を使える人材も隠れて募集しているということだと思う。
確かに、大富豪ともなれば敵も多いだろうから強い人材は必要だ。
つまり、念能力者である俺が雇って貰える可能性は高い。
プロハンターレベルの使用人を求める、給金のいい職場。
まさに俺にうってつけ。
運命を感じた。
そして面接。メイドとして働きたいということは伝えてある。
場所はバッテラ氏の屋敷の一つ。バッテラ氏もいるらしい。
面接官は執事っぽい初老の男性。
本物の執事だ……俺はメイドだけど。
「こんにちは、面接の段階からメイド服とは気の速い方ですね」
「すいません。一身上の都合でして………」
「? 別に構いませんよ。
それでは面接を始めます。
まず、自己紹介を」
「メイ=ドートゥウェイです。
設定年齢は永遠の17歳。
本当の年は知りません。
持っている資格はプロハンターライセンスです」
「………………特技は」
「イオナズ……ギガスラッシュです」
「……ギガスラッシュとは?」
「はい、『飛ぶ斬撃を見たことがあるか?(ギガスラッシュ)』という感じのもので、大体は言葉通りです」
「…………もう結構です」
「あれ?いいんですか?
やっちゃいますよ?ギガスラッシュ」
「ギガスラッシュでもアルテマソードでも好きにしていいので帰ってください」
「では」
『右手は恋人』を発動させて最大の身の丈サイズにする。
そこにオーラを溜める。三秒ほどかけて。
そしてその右手を思いっきり振り切る!!
『ギガスラッシュ!!』
面接に利用していた部屋の壁に2メートル弱の傷がついた。
いや、貫通してるから穴か?
ここで能力説明。
『飛ぶ斬撃を見たことがあるか?(ギガスラッシュ)』
・『右手は恋人、左手は愛人(セルフハンドラバーズ)』の派生能力。
刃物上にしたオーラにさらにオーラを乗せて振り切ることで発動。
『手』よりも切れ味の弱い刃物状のオーラを正面に飛ばす。今の切れ味は本来の1割にも満たない、極めたとしても6割がいいとこだろう。しかし、それも飛ばした段階の話であり、メイから離れていくほど威力は落ちていく。
今の飛距離は10メートル程だが、いずれはメイの「円」が使える範囲まで飛ばせるようになるかもしれない。(メイの現在の「円」の範囲は70メートル。修行で伸びるかもしれないが、伸びないかもしれない。
単にオーラが多ければ「円」の範囲が広いというわけではないからだ)
欠点は、『手』のサイズを最大にしなければいけないこと。
そこへオーラを溜める時間が長いこと。
腕を振り切らなくてはいけないこと。
溜めは改善の余地はあるだろうが、いずれにしろ前動作が多いので実戦で使うのが難しい技である。遠距離からの奇襲も、今の射程では無理。
つまり、今は形だけはできたという段階。雑魚には十分通用するけど。
説明終わり。
壁の穴から見える隣の部屋の様子を見ると、特に何かが切れてるとかはなかった。
壁を壊して力尽きたらしい。
これなら適当に蹴り砕いたほうが速い。前途多難な能力である。
さて、能力まで見せたわけだけど面接官の反応は……………
「………………ツェズゲラさーーん!!!
来てくださいツェズゲラさーーーんっ!!!!」
半狂乱になりながら部屋から走って出ていった。
チェジュゲダサン?
そして待っていたら冒頭の状況。
何がどうした。
多分、孔明の仕業だろう。
何か起きれば孔明のせいにしておけばいいから楽だ。
「何が目的、と言われても………面接を受けに来ただけなんですけどね」
「面接?
グリードアイランドのプレイヤー募集はオークションが終わってからだが………」
そう答えるなんかリーダーっぽい人。多分チェジュゲダさん。
というか、
「グリードアイランド?
なんですか、それ?」
「え?」
「え?」
いろいろとグダグタだな。
「待て、1つずつ確認しよう。
君は念能力者だな?」
「はい」
「そして『面接』を受けにきた」
「はい」
「つまりバッテラ氏に害意はない」
「はい」
「面接とはなんの面接だ?」
「見て分かりませんか?」
「分からん」
「はあ………」
やれやれだぜ。
「そこはかとなくムカつく溜め息なのだが」
「何処からどう見てもメイドになりたいメイド(仮)じゃないですか!」
「壁が切れてなくて、君が嫌なオーラを纏っていなければそう見えたかもな」
「いや、やれるもんならやってみろ的なことを言われたので面接の一環だと…………」
「………害意がないならばそれでいい。
もともと、俺の職務は護衛ではないからな。
………ところで、君はプロか?」
「はい、メイ=ドートゥウェイ。今年合格したばかりのプロハンターの卵です」
「ドートゥウェイ…………まさか、『死神』『童貞王』キングの関係者か!?」
ひでえ渾名だ。
「……………ええ。兄ですけど………兄の友達ですか?」
「いや、知り合いだ。
………あいつに妹がいたのか………」
気の毒そうな目で見てくるチェジュゲダさん。
それより!
「あの、兄の知り合いだったのなら葬式ぐらい出てくれても良かったんじゃないですか?」
ぶしつけな気もするが、1人で葬儀をする俺の寂しさといったら………
「葬式?
……ヤツは死んだのか!?
いつだ!?」
「…3ヶ月ほど前ですけど………」
「……すまない。その時は忙しくて気づかなかったのだろう。
………わかっていても、葬式に出た保証はないが」
「何故ですか?」
1人も知人が来なかったわけを知りたい。
「そうか、君は知らないのか…………妹の前では普通だったのか?
……………ここ数年はいい噂を聞かなかったが、昔のヤツは優秀なハンターだった。
俺と同じ一ツ星に認定されるほどのな」
何気に自慢入ってるぞ。
「しかし、ここ数年のヤツは仕事をしなくなった。昔は暇さえあれば賞金首を刈り取っていたというのに…………」
「…………」
やべえ、なんかわかってきた。
「ヤツは自分の部屋に籠るようになった。
そして『理想の嫁』を作ると言い出して女性の死体を集め、弄び…………狂ってしまったんだ、ヤツは」
返す言葉もねえよ。
「できれば関わりたくなかった。
ヤツはプロハンターの中でも嫌われものの1人になっていたんだ。
…………血縁者の君への風当たりは厳しいものになるだろう」
頑張れ、と言って俺の肩を叩き部屋を出ていくチェジュゲダさん。
周りの人たちも一緒に出ていった。こちらを気の毒そうに一瞥くれながら。
その後、面接は何事もなかったかのように再開された。
合否は3日後に、この屋敷で教えてくれるらしい。
しかし、俺は合否よりも、これからハンター社会の中でどう立ち回ればいいのかを考えていてそれどころではなかった。
戸籍変えられないかなあ?
<続く>
さあ、お前のメイドの数を数えろ!
作者です。
新能力はあの一連の流れのためだけに作られたと言っても過言ではありません。
そして生きてても死んでも害しかないキング。
メイはメイドになれるのか?
また次回。