さて、勢い余って先頭まできたものの……
「階段ですか」
ちょっと不味いかも。
体力ではなく、スカートの中身が。
角度あれば後ろのヤツらに見られるんじゃないか?
そう思ったけど、杞憂だったようだ。
後ろの集団から「ちっ」とか「なぜ見えない……」とかの怨みがましい声が聞こえてくる。
………どうやら『メイド服(ゴッドクロス)』はスカートの中も守ってくれるらしい。
2話
階段に突入してからは脱落者が増えた。
高低差があるとキツいよね。胸が揺れて邪魔。
俺の前を走る試験官は、普通に歩く感じで二段飛ばしで登ってる。
見た目が気持ち悪い。
そんな感じで先頭を走っていると、10歳越えたぐらいの男の子二人が前の方に出てきた。
一人は釣竿を持った黒髪のツンツン頭で、もう一人はスケボーを持った白髪…というか銀髪の生意気そうな子。
こんな子供が試験に参加してるのにも驚いたが、先頭集団に来たのにはもっと驚いた。
銀髪の方は汗ひとつかいてない。俺もだけど。
二人で会話する余裕もあるようだ。
なんとなく聞き耳を立てていたら結構いろいろ分かった。
黒髪の方の名前はゴンくんで、銀髪はキルアくん。
ゴンくんはハンターの父親を探すためにハンターになりたいそうだ。
ろくな父親じゃねえ。
キルアくんは難関だから受けてみた、だけど簡単で拍子抜け。みたいなことを言ってた。
まあ、それは俺も思ったけど。まだ一次試験だし。
専門的なことを扱う試験が出てきたらかなり危ないだろうな、とも思う。
盗み聞きしてると地上に到着。どっかの湿原に出た。
服汚れそう。あ、汚れても綺麗になるんだったよな、確か。やっぱ便利だな『メイド服』。
試験官の説明によると、ここは『詐欺師の塒』。
人を騙して餌にする動物とかの住み処とのこと。
……ようは試験官にぴったりくっついてたら安全ってことですね、わかります。
完璧な計か「嘘だ!そいつは嘘をついている!」く……はあ?
試験官が説明していると、自称試験官の男が、今の試験官は猿で自分が本物の試験官だとか言い始めた。
確かに…今の試験官の見た目は自称試験官が持ってきた猿そっくり。だけど、今の試験官…サトツは念能力者。
猿ごときに負けんだろ。
そう思ってると、自称試験官の顔にトランプが突き刺さった。サトツの方にも投げられていたが、しっかりキャッチ。
投げた馬鹿は……例のヒソカってヤツだった。
アイツも念能力者ならサトツは本物だと分かるだろうに…なんで試験官に喧嘩売るんだよ。オーラの感じも好戦的だし。
バトルマニアとか殺人狂だったりするのかな?
結局、なんだかんだで上手いことまとまって試験続行。
俺は当初の予定通り試験官の後ろでぴったり。
だって、ヒソカのオーラがなんかヤバい。後ろの方にいたらアイツの暴走に巻き込まれそうだ。
念能力者に自分がどこまで通用するのか試したい、とも思ったけどアイツは難易度高過ぎる。オーラがまがまがしいし、殺気がおかしい。
……オーラのまがまがしさなら負けてない自分が悲しい。
走っていると後ろの連中がはぐれたりして人数が減り、悲鳴も聞こえてきた。
…うん、平気だ。
他人の命にドライになっているのが分かる。その方が精神衛生上いいけど。
後ろのゴンくんとキルアくんは大丈夫そうだな。霧で全然見えないが会話は聞こえるし。
さっきはゴンくんが大声で友達を呼んでた。
うん、前に来ないと真面目に死ぬぞ。
ふと、空気が変わった。
ヒソカが殺戮を始めたのだろう。聞こえる悲鳴の種類がさっきと違う。
まあ、はぐれた時点でほとんど死んだようなものだから、速いか遅いか程度の違いしかないんだろうけど。
だけど、ゴンくんが後ろにいる友達を助けに行ったのは予想外。戻ってこれるの?
というか、あんな子供を殺したりは流石にない…よね?
……殺しそうだなあ。
助けてあげたい気もするが、試験官から離れたら確実に迷う……。
こっちも生活かかってる=命がかかってるからな。
こんな試験に自分から参加したんだ。死んでも自己責任。
何か戻ってこれる策もあるかもしれないし。
悶々と自己弁護してたら、いつの間にか第二試験会場到着。
体育館ぐらいの大きさの建物の中から獣の唸り声っぽいのが聞こえる。
着いてから試験開始まで待っていると、成人男性を抱えたヒソカが到着。死体ではないようだ。
もしかして友達?
遅れて少し。ゴンくんと金髪の少年が到着。金髪の少年がさっき呼んでた友達かね。
それにしても生きてたのも凄いが、なんでたどり着けたんだろ。ヒソカも。
ゴンくんと金髪の少年はさっきヒソカが抱えてきた成人男性に駆け寄る。
知り合いらしい。
相互関係とか霧の中で何が起きたのかとか超気になる。
とにかく、ほっとしたけどね。盗み聞きなんてするんじゃなかったな。多少情が移った気がする。
そして第二試験開始。
試験官はメンチとブハラ。メンチはスタイルのいい美人で、ブハラは肉の固まりだった。ジョジョ第五部のポルポみたい。
さっきから聞こえてた音はブハラの腹の虫だった。ひでえ。
二人とも念能力者。オーラの感じは……普通。
これで俺が知ってる念能力者でオーラがまがまがしいのは3人、オーラが普通なのも3人。
………いや、もう薄々気付いてるんだよね。こっちが少数派だって。まがまがしい側は殺人ピエロに顔面針畑になんちゃってメイドさんだ。
だけど……あの二人と同列に見られるのは嫌だな……。
試験内容は、メンチとブハラが出したそれぞれの課題の料理を提出し「おいしい」と言わせれば合格。
…………一番危惧していた試験に近いかもしれない。
料理は得意な方だが、専門的な料理が課題に出されたら手も足も出ないぞ。
最初はブハラ。課題はブタの丸焼き。
ここに棲んでるブタをなんでもいいから捕まえて丸焼きにしろとのこと。
あれ?楽じゃね?
ブタに負ける気はしないし、丸焼きなら軽い下処理だけで済む。
探すこと5分。異様に鼻がデカいブタがいた。
しかも突進してきた!?
「ちっ!『右手は恋人、左手は愛人(セルフハンドラバーズ)』!」
咄嗟に能力を発動して縦に真っ二つにしてしまったけど、念は必要なかったかも。前の体の価値観とこの体での価値観が混ざってるのが面倒なところだ。
それにしても、いい切れ味。骨にも手応えを感じずに切れる。
「半分でも丸焼きっていうんですかね……」
真っ二つにしたブタを焼いてブハラのところに持って行った。
ブハラは特に気にせずに食べてた。
というか他の人たちの焼き方がアバウトすぎる。
ほぼ生だったり、もはや炭になってるブタもある。
それを旨いというブハラはなんなんだろ…しかも食べる量がおかしい。
持ってこられた約70頭を全部食べてた。
………見てるだけで吐きそうだ。
続いてメンチの課題。
『スシ』だった。握り寿司しか認めないとも言ってた。
これは、マジでツいてるのかもしれない。
早速川に魚を取りにいった。ご飯は準備してあったし。
川にそこら辺にあった大岩を叩きつけて魚を気絶させて漁終了。
何匹か身繕って会場に戻り調理開始。
会場に戻る最中に川に向かう受験生たちと入れ違ったけど、ヒントが出たりしたのかな?
まずは一番海魚の見た目に近いフグっぽい魚で作ってみた。ちょっと食べて見たけど結構美味しかったので提出。一番乗り。
「ブフゥッ!!」
盛大に噴出されました。
メイド服に飛び散った分が自動洗浄される。
「この魚!思いっきり毒があるじゃない!成人男性百人殺せるわよ!!
あんた試験官殺す気!?」
「え?私が食べても平気でしたけど…」
「どんな胃袋してんのよ…。
とにかく、もう持ってくんな!!」
ヤバい。超ヤバい。
一次試験で試験官にトランプ投げたヒソカより危険人物になってしまった。
てか、なんで俺は平気なんだろう……………『メイド服(ゴッドクロス)』か!
『いろいろ』の範囲が広い。もしかしたら防御タイプの能力じゃ最強クラスなんじゃないだろうか。
多分、肌が荒れたり髪が痛んだりしないのも『メイド服』のお蔭だしな…こりゃあ『健やか』に暮らせるわ。
悩んでる間に他の受験生が面白寿司作ったりハゲの忍者が作り方バラしたりしてた。
俺は新しい寿司を持って近づくたびに睨まれて追い返された。
最終的に、合格者ゼロ。誰かがメンチにメンチ切ってた気がするが割りとどうでもいい。
メンチの言い分は理不尽極まりないが、俺の件については俺の方が悪い。試験官を毒殺しようとする受験生は今年じゃ俺だけだろう。
絶望してると、お爺さんが空から降ってきた。
審査委員会の会長だそうだ。
あのお爺さん…半端じゃなく強い。総オーラ量ならそこそこいい勝負できるように思えるが、お爺さんのオーラは今まで会った(まだこれで6人)誰よりも洗練されてる。勝てる気がしねえ。
お爺さん…ネテロ会長からの進言で再試験が行われることになった。
お題はゆで卵。
クモワシとかいう、崖にクモの巣に似た巣を作る鳥の卵を使って作るというもの。
卵は簡単に取れた。崖を飛び降りるのには勇気が必要だったが、スカートの中の心配が必要ないと思うと意外と何でもできるもんだ。
既に前世の価値観が麻痺してきてる。
今度は合格。相変わらず警戒されてたようで、卵を取ってくるところから茹で終わるところまで監視された。
毒なんて所持してません。
飛行船に乗って三次試験の会場へ。ネテロ会長も一緒に来るみたい。
翌日の朝8時開始とのこと。起きられるかな?
あ、トンパさんが金髪少年とヒソカに担がれてた成人男性に注意してる。
……なるほど。開始時間や次の会場がブラフで、ここで試験が行われる可能性もあるのか。
それなら
「じゃあ、トンパさんは寝ててもいいですよ。
試験が始まったら起こしてあげます」
「うおおおおおっ!!
いつからそこにいた!?」
「トンパさんがさっきの二人に話しかけた辺りからです」
『絶』を使って近づいたのは失敗だったな。驚かれてしまった。
「ということで、トンパさんは休んでください。
私は全然疲れてないし、一晩寝ないくらいどうってことはないので」
起きられない可能性を考慮すれば寝ない方がいいかもしれないし。
『絶』状態なら体力を温存できる。
「いや、疲れてないってのはさすがに……」
「いえ、本当に疲れてませんよ」
マジで。
「………それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰うよ」
「はい、お休みなさい。
明日も頑張りましょう!」
「ああ、お休み……」
すんごい疲れた顔をして部屋の隅に行くトンパさん。
四捨五入すれば50代。一般的にはかなりハードな試験だし、疲れるのも当然かな。
このくらいの手助けならしてあげてもいいと思う。
こっちの世界で初めて優しくしてくれた人だし。
さすがにまだ時間はあるだろうし、とりあえず備え付けのシャワーでも浴びるかな。
<続く>
感想掲示板には紳士が多いようですね。
能力名が酷いと突っ込む人は作者と同じレベル、もしくはハイレベルの紳士です。
主人公たちと少しは絡ませるつもりだったのに、未だにトンパとしか会話してねえ………