あの後、電話は諦めたらしくメールが来た。
俺がヨークシンにいるかを確認したかっただけらしい。
とりあえず「いる」と返信はしたが…………
『何かあったら手伝いを依頼するかも◆』
と言ったメールも届いた。
嫌な予感しかしない。
あ、わかってると思うけどヒソカからの連絡である。
「はあ………」
溜め息が出るのもしょうがないと思う。
「……さっきから様子がおかしいが、大丈夫なのか?」
『黙れ』とか言っちゃった俺の心配をしてくれるナックルさんは間違いなくいい男。
「大丈夫ですけど……精神的に疲れました。
今日はもう宿で休みます」
まあまだオークションの期間はあるし、早めに帰る日があってもいいだろう。
「んじゃあ俺も戻るわ。
纏と練の修行ぐらいはやっとかねえと落ち着かないからな」
おそらく気を使ってくれてるナックルさん。
「………ツンデレですか?」
思わず聞いた俺に罪はない。
「なんだそりゃ?」
「分からないならいいです」
13話
さて、宿に帰ってきたわけですが…………
「ナックルさん。私たちの宿から悲鳴やら命乞いやらが聞こえてくるんですが」
「奇遇だな、俺もだ」
これは酷い。オークション期間中はマフィアとかも来るから、こういうことが起こってもおかしくないが…………。
「とにかく、適当に止めましょう。
宿が無くなるのは困るし、荷物も心配です」
「応ッ!」
何故か気合い十分な現在の相棒さん。こういうところは見た目通りだ。
騒ぎの中心っぽい部屋に行くと、マフィアっぽいヤツの死体を片手に持ったムキムキの原始人スタイルの男がいた。
こいつ………強いな。
ナックルさんも微妙に強張ってる。
「念能力者が2人…………てめえらもこいつらに雇われてんのか?」
尋ねてくる原始人。
俺たちをマフィアの御抱えと勘違いしているようだ。
「そんな人たち……もとい糞袋たちなんて知りません。
あえて言うなら、せっかく素敵な人と楽しい旅行に来てたのに宿泊中の宿が大変なことになってる哀れなメイドですよ、私は」
冗談めかしながら、非難するように言う。
原始人は俺を見て、隣のナックルさんを見て、「素敵な人?」と言いながら首を傾げた。
………人を見た目で判断すんなや。
そしてナックルさん、変に狼狽すんな。
「あー………そいつは悪かったな。
もうここでの用事は済んだからすぐに出ていく。
後は好きにイチャイチャしてろ」
そう言ってマジに出ていこうとする原始人。
………まあ、マフィアの抗争に関わってもいいことないからな。
ここは見逃すのが最善か?
「オラァッ!」
「ッ!」
「ナックルさんっ!?」
なのにいきなり原始人を殴りつけた馬鹿一名。
何考えてんだ?
「……何しやがる?」
原始人のオーラが交戦状態になっていくのが分かる。
このオーラ量は…強化系かな?
「この惨状を見せられて、はいそうですか、と帰すと思うか?」
「ナックルさん、それじゃあ丸っきりマフィアです。
というかこの人と戦う意味は……」
「ないかもな。
だけど、こいつを野放しにするのは不味い……。
なんでかそう思うんだ」
よく分からないが………間違ったことは言ってないよな。この状況を見るに、相手は善意の人ではない。マフィアに悪意を持って関わってる念能力者、という時点で危険人物だ。
「はあ……」
今日、何回目の溜め息だろうか?
「仕方ない……か。
まあ、最近運動不足だったからちょうどいいですね」
そう言いながら懐からベンズナイフを取り出す。
「随分強気だな……もう見逃して貰えると思うなよ…」
既にキレてた原始人だが、今の俺の台詞で完全に臨戦体制になってしまった。
……だって、強気にもなるさ。
「そっちこそ、言葉には気をつけな」
「こっちは2人です。それに……」
そう、2対1!
しかも、すでに攻撃は始まっている!
『時間です。利息がつきます』
「!!」
原始人は気づいていなかったようだが、さっきナックルさんが攻撃した時からアイツの隣にかわいい物体が浮遊していたのだ。
そしてそれが何かを告げる。
俺も初めて見たが、あのマスコットみたいなのがナックルさんの能力なんだろう。
効果は分からないが、あの原始人の視線が俺たちから逸れた!
その瞬間に一気に近づき、手に持ったナイフで切りつける
が、
「皮膚だけですか……でもっ!」
「俺の肌に傷をつけるだけでも大したもんさ」
ドゴォッ!!
「かはっ」
相手の胸の皮膚に数ミリの厚さの傷をつけるのが精一杯。かなり鍛えた能力者のようだ。
しかも会話をしながら殴りつけてくるおまけ付き。
ボディーにいいのが入った。『凝』は間に合ったからダメージは殆どないが、隙ができてしまった。
それを見逃さずに追撃がくる。
「まず一人!」
「だから、2対1なんですけど」
ちょっと油断しすぎじゃね?
「らあっ!」
「くっ!」
ナックルさんのフォローが入る。
ほんと、頼りになる人だ。
「……悪いな、嘗めてたぜ。
そろそろ本気で「そらっ!」…って、そんなん当たるかっ!!」
なんか敵キャラの死亡フラグな台詞を言い始めた原始人の額にベンズナイフを投げつける。
避けられるが(つまり、ナイフに何か付与効果があるかを警戒していたということ)、避ける動作で隙はできるし、俺が武器を手放したことでまた油断が入る。
………単純馬鹿、とは思わない。自分の強さに自信があるだけだろう。
だが、それが命取り!
『右手は恋人、左手は愛人』
能力を発動し、右腕を切り飛ばした。
「ぐっ……があああぁぁ!!!」
こうも上手くいくと楽しくなる。
まずはベンズナイフを使い、相手に自分の攻撃力は『あの程度』だと思わせる。
会話やオーラから自分の強さに自信がある強化系だというのは分かっていたし。
ナイフに能力があるのかと考えさせることに成功したのも大きい。
最初に切りつけた時に『でもっ!』とか思わせぶりに言ったりしたが、実はなんの意味もなかったのにね。
『時間です。利息がつきます』
「畜生が……」
ナックルさんの能力は未知数ながらも健在。
しかも腕を一本取られたことでオーラも軽く乱れている。
これは、勝ったか………って!?
「ビッグバンインパクトォ!!!」
「「!!」」
「てめえら……次会ったら絶対に潰すっ!!」
原始人が残った左腕にオーラを集めて床を殴りつけた!
しかも威力がおかしい。床は崩れ落ちるし、建物全体が揺れている。
そして俺たちが体制を立て直そうとしているうちに、アイツは切り飛ばされた右腕を持って窓から逃げ出した。
9月3日。
あの後、普通にあの宿は使用不能になった。
「なんだったんでしょうね、昨日のアレ」
確実にヒソカレベルだった。ヒソカのが普通に怖いが。あの原始人は………なぜか弱く感じた。
肉体の強さならヒソカより格段に上なのに。
「ポットクリンは付いたままだし、効果範囲に入れば俺が分かる。
次は逃がさねえさ」
別にどうでもいい。
「……昨日はあの後、新しい宿探しで疲れました」
ジト目で睨む。
昨日の戦闘の原因はナックルさんによる所が大きいし、実際なんのメリットもなかった。
「いや、その、すまん」
「……別にいいですけど。
怪我したわけでもないですし」
「あのパンチを喰らって無傷ってのも………」
「何か文句でも?」
「ないです」
人を化け物みたいに……失礼な。
この日も適当に街を回った。
途中でゴンくんたちにも会ったけど………サザンピースのカタログを買うためにハンターライセンスを質に入れるなんてアホなことしてた。
今はハンターライセンスをまた買い取るためにオークションで稼ぐつもりらしい。
鑑定家(?)みたいな人も雇ってた。
せいぜい頑張ればいいさ。
俺は普通にその発想には着いていけないから。
9月4日。
なんかヒソカから
『死体はフェイク◆』
とかいうメールが届いた。
なんの脈絡もない。
とうとう狂ったか。南無。
<続く>
戦闘シーンは苦手です。
ヒソカ、痛恨の送信ミス。
以下、ヨークシン編の流れ。
ゴンたちは、3日目に旅団の追跡をしなかったのでパクノダの存在を知らない。
ウヴォーギンはクラピカと戦う前にメイたちにやられたのでアジトに帰ってマチに治して貰った。よってクラピカとの戦闘はなし。
当然、また出掛けようと駄々をこねるが、団長に「今日は仕事だ」的なことを言われたので渋々我慢。
クロロ対ゾルディックは原作通り。
ヒソカはクラピカに送るはずのメールを間違えてメイに送信。直前にメイにもメールしてたが故のミス。
よって、クラピカの中では旅団のことが決着する。手を血に染めずに。
これからは仲間の眼を探すことが目的になる。
旅団の方も、特に欠員が出たとかではないので今回はホームに戻った。我が儘言ってるのはウヴォーだけだし。
一応ウヴォーを占ったが、『メイドに17分割される』とストレートに書かれてたので皆に強く止められる(特にノブナガに)。
そんなわけでパクノダとウヴォーは生存。当然、団長は念が使えるまま。
団長と戦うのがまたお預けでヒソカ涙目。
ポットクリンはウヴォーのトレードマークになりそうです。シズクが気に入ってる。
微妙にスクワラ生存。
大体こんな風に変化しました。
ちょっと無理矢理だったでしょうか?
だが、私は謝らない。
『なんでナックルにしたん?』という質問があるかもしれないが、それはただ単に作者がナックルのキャラを好きだから。
ではまた。ヨークシンが一気に終わってグリードアイランド編に。
ある意味、一番むずい部分です。