3日後。バッテラ邸にて。
「不合格です」
そう告げる先日の面接官さん。
「……………」
何がいけなかったのだろう………やはり、雇い主の屋敷の一部を破壊したことか?
「ですが………」
「なんでしょうか?」
研修を受けさせてくれるとかかな?
期待を込めた視線を送る。
「ツェズゲラさんが、『もし仕事がないのなら9月にヨークシンに来い』、と。
……気に入られたのかもしれませんよ?」
「?……どういう意味でしょうか?」
「もちろん性て………同じハンターとして、何か思うところがあったのではないでしょうか?
今は詳しいことを言えませんが、仕事(ハント)の誘いですよ。これは」
「………」
先日の様子を見る限り、チェジュゲダさんは気を使ってくれてるのだろう。
「話はこれで終わりです。
……使用人になるより、プロハンターとして頑張った方がいいですよ。余計なお世話かもしれませんが……」
それに特に答えもせずに退室する俺。
そしてバッテラ邸を後にする。
屋敷から十分離れ、近くに人がいないことを確認すると、
「落ちた……………」
へたりこんだ。
というか、面接だけなのは頂けない。実技試験ぐらいやって欲しかった。
ラ○スで言うなら、スキル:メイドLv3、ぐらいは働けるっていうのに……………………………………いや、ごめんなさい、流石に嘘です。
それでも、この肉体のスペック的には最凶のメイドになれるはずなのに…………。
………………………うだうだ言ってても仕方ない。
次を探すか、面接官さんの言ってたようにプロハンターとして頑張るか。
いや、プロハンター云々以前にメイド服を着てても自然な環境……つまり、メイドとハンターの両立? 意味が分からない。
「メイドハンター?」
なんとなく呟いたが、どこの変態だ。メイドが遺跡や幻獣と同一になってる。
しかし、メイドハンター…………なんか引っ掛かる。メイド………ハンター……………メイド……………閃いた!!
そうだ!何故思いつかなかったんだ!てか思いついた俺って天才!
そうと決まったらハンターサイトの交流掲示板に書き込みをして…………上手くいくかな?
10話
1週間後。俺は大自然の中にいた。
「ビーストハンターのナックル=バインだ。宜しく頼むぜ」
「メイドハンターのメイ=ドートゥウェイです。宜しくお願いします」
そういってお辞儀する。
俺が思いついたアイディアとは、プロハンターたちのメイドになることだった。
ハンターとしての活動をしつつ、メイドっぽく働く。
特定の主を持たない、フリーランスのプロハンター専用メイド。
これはメイドにとってもハンターにとっても新ジャンルだ。
「では、契約内容を確認しますね。
期間は1ヶ月。この山に生息する希少動物を密猟者から保護、ないしは密猟者の捕獲のサポート。
…よろしいですか?」
「おう」
「あと、掲示板にも書きましたが私の仕事について詳細を説明しますね。
メイドハンター、と名乗りましたが、正しくは『メイドのハンター』や『ハンターのメイド』と言ったところです。
基本的には雇用者の身の回りの世話をしつつのハントのサポート、ご利用者に快適なハントを提供します。
そして雇用者がハントで立てた功績や得た富には関係なく、料金は事前に話し合って決めた額の前払いです。それ以上を望むことはありません。
ナックル様のようなビーストハンターの場合ですと、ナックル様が歴史に残る希少動物を見つけて富を得たとしても、私は分け前を要求しません。
そして、私が新種動物などを発見したとしても発見者の名義はナックル様のものになります。
逆に何もなかった場合でも、返金請求は受け付けません。
…………他に確認したい事項はありますか?」
「…………特にはねえが、あんた、それでいいのか?」
「と、言いますと?」
「………掲示板で『メイドハンターいりませんか?』とかいう題名の記事を見た時はさっぱり意味が分からんかったが、クリックして中身を見てみると意外と真面目な内容で驚いた。
サポート専門のハンターってのもいるからな。
…………だが、それでも大抵は功績とかは山分けする。
今回の仕事ではあんまり意味ねえけど、固定料金だけってのは割に合わないんじゃねえか?」
………………この人、ヤンキーみたいな見かけによらず優しい?
「そんなことはありません。
身の回りの世話やメイドとして従う立場になることもあって、料金設定はサポート専門ハンターにしては高めですしね。
……それに、雇用者の方が偉大な発見をしたとしたら、そんな偉大な人に仕えていたという事実だけでも嬉しいものです。
まあ、簡単に言いますと………」
「?」
「奉仕上等ってことです。メイドですから」
本当は、あまり目立ちたくないだけだったりする。
それでも、ハンターとして未知のものを探したりとかはやってみたいよね。前世ではできないようなことだし。
元は男の子。力があるのなら好奇心を満たしたい。
「ぷっ…………ハハハハハッ!なんだよ『奉仕上等』って…くっ…ハハハハハ!」
「あのー……」
なんかツボに嵌まったようだ。
「ハハ………はー………悪かったな。
そうだよなー。目指すハンター像なんて人それぞれだよな」
「爆笑された後に言われても………」
「だから悪かったって。
改めて宜しく頼むぜ、メイ」
「はい、ナックル様」
「別に『様』はいらねーよ。むず痒いぜ」
「メイドですし…………あ、オプションについての説明を忘れてました」
「オプション?」
「はい。基本的な呼び方のパターンは『様付け』『御主人様』などですが、追加料金で好きな呼び方を指定できますよ。御主人様」
「い、いきなり御主人様とか呼ぶんじゃねえ!」
「例として『旦那様』『先生』『ちゃん付け』『パパ』『豚野郎』『お兄ちゃん』などですね。
……本当ならこれも前払いなのですが、お兄ちゃんは初めてのお客様なので追加料金はいりません」
「だから辞めろ!怪しい夜のお店かテメーは!」
「…………『下の世話もして貰おうか』のような命令は受け付けてませんよ」
「………し、しねーよ!!!」
その間はなんだ。何故どもった。顔が赤いぞ。
「呼び方はもっと普通でいい!様付けも無しだ!」
「では、『ナックルさん』で」
「……………疲れた」
この人、こちらがメイドだと分かって頼んだわりにノリが悪いな。
まあ、顔合わせは上手くいった。
プロハンターとしての初仕事だ。気合い入れていこう!
気合い入れた結果……………。
「元々俺が受けた依頼はな、『ここらを縄張りにする密猟組織を一掃すること』だったんだ」
「…………」
「普段なら一緒に仕事する相棒とは予定が重なっちまったし、お前に依頼を頼んだんだ。
実力がよく分からなかったから期間を1ヶ月にして」
「…はあ」
「だが、お前は凄かった。『円』はかなり役に立ったし、実力もある。
……オーラ量に至ってはウチの師匠を越えていた(しかも凶々しい)。
………つまり、まさか1週間で仕事が終わるなんて思ってなかったってことだ」
「3週間余りましたね。
返金請求は受け付けていないので、このまま身の回りの世話をさせたり次の仕事に同行させた方がお得ですよ」
「………調理器具や食器をどこから出したのかは分からんかったが、飯も旨かった。
ハントがあそこまで快適だったのは初めてだ。
………病みつきになる」
「ではこのまま残り3週間も契約続行でよろしいですか?」
「ああ………なんか堕落しそうで怖いけどよ」
「そこまで責任は取れませんが」
超好評である。
流石メイドボディ。あらゆる意味でチートだった。
元々、ナックルさんは『1人じゃキツいかな?』ぐらいの感覚で助っ人を求めていたらしい。
そこで偶々目に入った俺の書き込みを見つけて依頼をした。
だが、予想外に俺が便利だったようで最初の依頼内容を1週間で完遂してしまった。
しかし期間は残っているので、契約は続行中というわけだ。
うん、最初の依頼人がナックルさんで良かった。
自信もついたし、向こうもこちらを気遣ってくれた。
………よく考えたらまともに仕事をしてるプロハンターに悪質な人間はいないよな。
それにナックルさんはキングのことも知らなかったようだし、以外とハンター社会でもなんとかなるかもしれない。
今のところは順風満帆。先週就活に失敗した人間とは思えないほど、今の俺は充実している。
ようやっと『やりたいこと』が見つかったのかな、と思えた。今はまだ。
<続く>
最近は勘違い要素がないですね。無理に作るものではありませんが。
というかアバンストラッシュ・クロスが感想掲示板で先に言われたー!!
いつかネタにしようと思っていたのに……!
まあ、ハンタの戦闘じゃ全然意味ないですけどね。
ではまた。