シルバは大きく息を吐き、頭を掻いた。
おそらく、魔法の類で飛ばされたのだろう。
ならば今、シルバがすべき事は闇雲に動く事ではなく、仲間の状況の確認だ。
ひょい、とシルバの肩に、ちびネイトが出現する。
「どうやら二人きりのようだぞ、シルバ」
「そうか。ならまずはスモークレディを呼び出そうと思う」
シルバは懐から、煙管を取り出した。
「堂々と浮気宣言とは、さすがシルバだ。いいぞ。男の甲斐性だ」
「……誰が何と浮気してるって言うんだよ。狼煙代わりだ狼煙代わり。分散した時、一番気になるのはやっぱり仲間の行方だからな。次に自分の居場所。それが分かれば、みんなも落ち着いて行動出来ると思うし」
火打ち石で火を点けると、うっすらと煙が浮かび上がる。
細い煙が徐々に空中に塊だし、それはやがて若い女性の姿を取った。
スモークレディの出現だ。
彼女が細い腕を上げると、ゆるゆると高く煙が昇り始めた。
「皆が、見えるところにいればな」
「……ま、確かにどこに飛ばされたのか分からないからそれもあるだろうけど、やれる範囲の事はやっとくべきだろ」
煙を見上げながら、シルバは言う。
みんな、これに気付いてくれると、いいのだが。
「肉の臭いとか混ぜておくと、ヒイロ君辺りは何処にいても飛んできそうだが」
「さすがに場所によるだろ!? それに今、スモークレディがすごい嫌そうな顔したぞ!?」
「なるほど、せめて香水とかにして欲しいと」
納得したようにポンと手を打つネイトに、煙体であるはずのスモークレディが目を輝かせた。
「そんな事、スモークレディが――って、そこで嬉しそうな顔するの!? 煙が香水の匂いさせて嬉しいの!?」
コクコクと頷く。
嬉しいらしい。
ふむぅ、とネイトが唸る。
「これは都市に戻ったら一つ、買ってやらなければならないな」
「えぇ~~~~~? って何そのやる気のない煙。脅迫? 俺、脅迫されてんの?」
シルバが渋ると、スモークレディから出現する煙があからさまに細く、ヘタレ始めていた。
「ポプリというのも悪くないと思うのだ。どうだ、君。うむ、どうやらやる気になってくれたようだ」
ネイトに乗せられ、再びスモークレディの狼煙は勢いを取り戻した。
「召喚のモンスターが、んなキャラクター性出さんでも……」
「今なら、サービスで暗号信号も付けるってさ」
「サービスとかそういう問題じゃなくて、普通に出そうよ!? ええい、とにかく他のみんなの居場所も知らせないと」
呟き、シルバは地面にウェスレフト峡谷の地図を広げた。
その地図を利用して札に、『世界』の絵柄を出現させる。
続いて、金袋から硬貨を取り出す。
書物のレリーフのコインを、地図の端へ。
そして小さな硬貨を七枚ばらまくと、倒れたそれらは自動的に地図の方々へとスライドしていく。
内の一枚は、シルバとネイトのいる場所で停止した。
コインの位置は、そのままシルバとその仲間の位置を表しているのだ。
「ふむ、おそらく第三洞窟を抜けた先のこれは、魔法の効かないタイラン君だな。しかしシルバ、他の皆は区別が付くのか?」
さすがに、コイン単体ではシルバも分からない。
が、ある程度、その動きでキャラクターを掴む事が出来ないでもない。
「……この落ち着きなく動き回っているのは、おそらくヒイロ。逆に、全然動いていないのは多分リフかシーラだな」
タイランは崖で孤立しているようだ。
そこから少しだけ離れた場所に、動かないコインが一枚。
北方、かなり離れた川の近くに二枚。
南方と南東の岩山のある場所に二枚。
それを見て、ネイトは十字を切った。
「二人ほど、残念な事になっているようだな。南無」
「土に埋まっているんじゃなくて、岩山の上だろこれは!? もしくは洞窟かだ。俺達が通った洞窟以外にも、そういう空洞があってもおかしくないからな」
「なるほど、名推理だ、シルバ」
「推理って程じゃないし、お前だって本当は勘付いてただろうが。とにかくばらけているのは、なるべく合流させた方がいい。外にいるなら煙に気付いてもらえると思うけど、もし本当に洞窟にいるならまずいな」
スモークレディに指示を送り、信号を昇らせる。
シルバの無事と、(おそらくは)タイランの孤立、それぞれの立ち位置は、各々に推測してもらうしかない。
「ちなみに精神共有による通信は距離があって無理だ。さすがに遠い」
皆の合流を待つべきか、それとも自分から動くべきか。
少し考え、シルバは決断した。
「ここで待機して、連絡に専念って訳にもいかないな……スモークレディは煙を出し続けてくれ。火種は置いておくから、自分で足せるな? 魔力が尽きたら休んでくれていい。俺達は……まずはタイランか?」
たき火と薪代わりの枝、書き置きを用意して、シルバは洞窟のある方角を向いた。
「間に合えばいいがな。正直、あの怪鳥相手に、タイラン君一人ではきつかろう」
シルバは頷いた。
第一、今のタイランの装備は水陸両用仕様だ。
普段の身体よりも、動きが鈍いのは目に見えている。
疑問があるとすれば、何故タイランは三つ目の洞窟に引っ込まないのかという点だ。怪鳥イタルラの大きさを考えれば、あそこに逃れるのが一番妥当だし、タイランだって馬鹿じゃないはずだ。
……それが出来ない理由があるのだろうか。
とにかく、現地に言って確かめるのが一番か。そう考えるシルバだった。
「っていうか、あそこまで俺が一人で行けるかどうかも疑問だけどな……」
最初の洞窟のグリーンゼリーですら、まともに戦えば苦戦する自信がシルバにはあった。
まともに戦えば、だが。
実はもう一つ、一気にタイランの元にたどり着ける方法があるにはある……が、着陸方法に難があるのだ。
「ま、その辺は私の心理障壁か、『隠者』の札で何とかするしかあるまい。それにしても忙しないデートになりそうだな、シルバ」
「デートじゃねえだろ!?」
「しかもショッピングも演劇鑑賞もないと来ている。殺伐だ。実に殺伐だ」
「お前は戦いに一体何を求めているんだ」
「萌え」
「あるかんなもん!!」
「ならば、圧倒的優位からの超爽快な殲滅戦」
「そういうのは、カーヴ・ハマーにでも頼め! ウチは無理だ!」
「シルバは苦労人だなぁ」
「今更過ぎるだろ……」
※という訳で、シルバ視点でした。
次は他のヒロインの視点で。