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No.11810の一覧
[0] ミルク多めのブラックコーヒー(似非中世ファンタジー・ハーレム系)[かおらて](2009/11/21 06:17)
[1] 初心者訓練場の戦い1[かおらて](2009/10/16 08:45)
[2] 初心者訓練場の戦い2[かおらて](2009/10/28 01:07)
[3] 初心者訓練場の戦い3(完結)[かおらて](2009/11/19 02:30)
[4] 魔法使いカナリー見参1[かおらて](2009/09/29 05:55)
[5] 魔法使いカナリー見参2[かおらて](2009/11/14 04:34)
[6] 魔法使いカナリー見参3[かおらて](2009/10/27 00:58)
[7] 魔法使いカナリー見参4(完結)[かおらて](2009/10/16 08:47)
[8] とあるパーティーの憂鬱[かおらて](2009/11/21 06:33)
[9] 学習院の白い先生[かおらて](2009/12/06 02:00)
[10] 精霊事件1[かおらて](2009/11/05 09:25)
[11] 精霊事件2[かおらて](2009/11/05 09:26)
[12] 精霊事件3(完結)[かおらて](2010/04/08 20:47)
[13] セルビィ多元領域[かおらて](2009/11/21 06:34)
[14] メンバー強化[かおらて](2010/01/09 12:37)
[15] カナリーの問題[かおらて](2009/11/21 06:31)
[16] 共食いの第三層[かおらて](2009/11/25 05:21)
[17] リタイヤPT救出行[かおらて](2010/01/10 21:02)
[18] ノワ達を追え![かおらて](2010/01/10 21:03)
[19] ご飯を食べに行こう1[かおらて](2010/01/10 21:08)
[20] ご飯を食べに行こう2[かおらて](2010/01/10 21:11)
[21] ご飯を食べに行こう3[かおらて](2010/05/20 12:08)
[22] 神様は修行中[かおらて](2010/01/10 21:04)
[23] 守護神達の休み時間[かおらて](2010/01/10 21:05)
[24] 洞窟温泉探索行[かおらて](2010/01/10 21:05)
[25] 魔術師バサンズの試練[かおらて](2010/09/24 21:50)
[26] VSノワ戦 1[かおらて](2010/05/25 16:36)
[27] VSノワ戦 2[かおらて](2010/05/25 16:20)
[28] VSノワ戦 3[かおらて](2010/05/25 16:26)
[29] カーヴ・ハマーと第六層探索[かおらて](2010/05/25 01:21)
[30] シルバの封印と今後の話[かおらて](2010/05/25 01:22)
[31] 長い旅の始まり[かおらて](2010/05/25 01:24)
[32] 野菜の村の冒険[かおらて](2010/05/25 01:25)
[33] 札(カード)のある生活[かおらて](2010/05/28 08:00)
[34] スターレイのとある館にて[かおらて](2010/08/26 20:55)
[35] ロメロとアリエッタ[かおらて](2010/09/20 14:10)
[36] 七女の力[かおらて](2010/07/28 23:53)
[37] 薬草の採取[かおらて](2010/07/30 19:45)
[38] 魔弾の射手[かおらて](2010/08/01 01:20)
[39] ウェスレフト峡谷[かおらて](2010/08/03 12:34)
[40] 夜間飛行[かおらて](2010/08/06 02:05)
[41] 闇の中の会話[かおらて](2010/08/06 01:56)
[42] 洞窟1[かおらて](2010/08/07 16:37)
[43] 洞窟2[かおらて](2010/08/10 15:56)
[44] 洞窟3[かおらて](2010/08/26 21:11)
[86] 洞窟4[かおらて](2010/08/26 21:12)
[87] 洞窟5[かおらて](2010/08/26 21:12)
[88] 洞窟6[かおらて](2010/08/26 21:13)
[89] 洞窟7[かおらて](2010/08/26 21:14)
[90] ふりだしに戻る[かおらて](2010/08/26 21:14)
[91] 川辺のたき火[かおらて](2010/09/07 23:42)
[92] タイランと助っ人[かおらて](2010/08/26 21:15)
[93] 螺旋獣[かおらて](2010/08/26 21:17)
[94] 水上を駆け抜ける者[かおらて](2010/08/27 07:42)
[95] 空の上から[かおらて](2010/08/28 05:07)
[96] 堅牢なる鉄巨人[かおらて](2010/08/31 17:31)
[97] 子虎と鬼の反撃準備[かおらて](2010/08/31 17:30)
[98] 空と水の中[かおらて](2010/09/01 20:33)
[99] 墜ちる怪鳥[かおらて](2010/09/02 22:26)
[100] 崩れる巨人、暗躍する享楽者達(上)[かおらて](2010/09/07 23:40)
[101] 崩れる巨人、暗躍する享楽者達(下)[かおらて](2010/09/07 23:28)
[102] 暴食の戦い[かおらて](2010/09/12 02:12)
[103] 練気炉[かおらて](2010/09/12 02:13)
[104] 浮遊車[かおらて](2010/09/16 06:55)
[105] 気配のない男[かおらて](2010/09/16 06:56)
[106] 研究者現る[かおらて](2010/09/17 18:34)
[107] 甦る重き戦士[かおらて](2010/09/18 11:35)
[108] 謎の魔女(?)[かおらて](2010/09/20 19:15)
[242] 死なない女[かおらて](2010/09/22 22:05)
[243] 拓かれる道[かおらて](2010/09/22 22:06)
[244] 砂漠の宮殿フォンダン[かおらて](2010/09/24 21:49)
[245] 施設の理由[かおらて](2010/09/28 18:11)
[246] ラグドールへの尋問[かおらて](2010/10/01 01:42)
[248] 討伐軍の秘密[かおらて](2010/10/01 14:35)
[249] 大浴場の雑談[かおらて](2010/10/02 19:06)
[250] ゾディアックス[かおらて](2010/10/06 13:42)
[251] 初心者訓練場の怪鳥[かおらて](2010/10/06 13:43)
[252] アーミゼストへの帰還[かおらて](2010/10/08 04:12)
[254] 鍼灸院にて[かおらて](2010/10/10 01:41)
[255] 三匹の蝙蝠と、一匹の蛸[かおらて](2010/10/14 09:13)
[256] 2人はクロップ[かおらて](2010/10/14 10:38)
[257] ルシタルノ邸の留守番[かおらて](2010/10/15 03:31)
[258] 再集合[かおらて](2010/10/19 14:15)
[259] 異物[かおらて](2010/10/20 14:12)
[260] 出発進行[かおらて](2010/10/21 16:10)
[261] 中枢[かおらて](2010/10/26 20:41)
[262] 不審者の動き[かおらて](2010/11/01 07:34)
[263] 逆転の提案[かおらて](2010/11/04 00:56)
[264] 太陽に背を背けて[かおらて](2010/11/05 07:51)
[265] 尋問開始[かおらて](2010/11/09 08:15)
[266] 彼女に足りないモノ[かおらて](2010/11/11 02:36)
[267] チシャ解放[かおらて](2010/11/30 02:39)
[268] パーティーの秘密に関して[かおらて](2010/11/30 02:39)
[269] 滋養強壮[かおらて](2010/12/01 22:45)
[270] (番外編)シルバ達の平和な日常[かおらて](2010/09/22 22:11)
[271] (番外編)補給部隊がいく[かおらて](2010/09/22 22:11)
[272] (番外編)ストア先生の世界講義[かおらて](2010/09/22 22:14)
[273] (番外編)鬼が来たりて [かおらて](2010/10/01 14:34)
[274] (場外乱闘編)六田柴と名無しの手紙[かおらて](2010/09/22 22:17)
[275] キャラクター紹介(超簡易・ネタバレ有) 101020更新[かおらて](2010/10/20 14:16)
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[11810] 魔法使いカナリー見参3
Name: かおらて◆6028f421 ID:656fb580 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/27 00:58
 最初に作ってたプロットから後半大きく変更した為、更新の時間が遅れました。
 本来がどういう話だったかは、本文途中のシルバ・キキョウによる精神共有コントから察して下さい。
 今回はまた賛否両論あるだろなーと思いますが、どうぞよろしくお願いします。


 学習院からかなり離れた、割と大きめの酒場。
 冒険者達で混雑する、そんな店に四人は入った。
 学習院の理事に叔父がいるというカナリーが、使いの者に騒動後始末の手紙を託し、戻ってきた。
 何故か、カナリーは壁に引っ付く形で造られた長椅子に腰掛ける、シルバの左隣に座った。
「……何だ、この席の並び?」
 ちなみに右隣はメニューを眺めているキキョウだ。
 四人席であるにも関わらず、3対1という構図になっていた。
「仕方がないだろう。敵と味方がよく分からないんだから」
 小声で、カナリーが囁く。 さすがに彼も、もはやエーヴィが見た目通りの大人しい女性とは、思わないらしかった。
「某はシルバ殿の味方だぞ?」
 メニューから目を離さないまま、同じようにキキョウも呟く。
 すると、正面のエーヴィがキッとシルバをにらみ付けた。
「ロックールさん、ナツメさんから離れてください!」
「いや、どう見ても今身を寄せたの、キキョウの方だよね!?」
 しかし彼女はシルバの抗議を無視して、今度はカナリーの方を向いた。
「それで……一体、何故、ナツメさんがこんなボロボロになっているのか、説明してもらえますよね、ホルスティン先輩」
「え? や、やっぱり、僕が説明するのか?」
 カナリーが戸惑うように、シルバ達を見た。
「俺達としては、サッパリ話が見えないんだが。まず、俺が襲われた理由を知る為にも、二人のどちらかには話してもらいたいな」
「まったくだ。ところでシルバ殿。このバナナチョコクレープパフェというのを注文してもよいかな?」
 キキョウは真剣な顔をシルバに向けると、メニューの一点を指差した。
「キキョウ、お前も空気読め」
「うむ。では、某はこれにしよう。あとイチゴセーキだ」
「俺は香茶とフライ定食」
 とりあえず、シルバも注文する事にした。ウェイトレスを呼ぶ為、軽く手を挙げる。
「ロックール。君も空気を読め」
 苦い顔をするカナリーに、シルバはジト目を向けた。
「腹減ってるんだよ。余計な運動したから」

 注文を終え、カナリーの説明が始まった。
 それほど難しい話でもない。
 呼び方からも分かる通り、カナリーとエーヴィは先輩後輩の仲なのだという。
 特に親しい間柄、というほどではないが、基本的にカナリーは面倒見がいい性格らしく、沈んだ様子をしていたエーヴィに相談に乗って欲しいと言われ、授業が終わってから時間を作った。
 そして、食堂の隅でエーヴィの話を聞いてみると、これが実に由々しき事態だった。
 卑劣な男に脅迫され、無理矢理肉体関係をもたされている、などという話を聞かされ、カナリーは黙っていられる性格ではない。
 即刻その男を締め上げようとした所、相手は同じ学習院に所属しており、運良くキャンパスで見つけたという次第だった。
 つまりその男というのが、シルバである。

 もちろん、シルバには一切、身に覚えのない話だった。
 しかも、キキョウが話に入る余地がまったくない。何故、彼女が怒っているのか、今の話ではまるで分からない。
 いや、何となく予想は出来るのだが……。
 微かに頭痛を憶えながら、シルバはテーブルを指で叩いた。
「ちょっと話を整理してみよう。ホルスティンは、ブラントさんから俺が鬼畜だという話を聞き、成敗しに来た」
「うん。悩みがあると言うから聞いてみたら、そんな内容だった」
 ずいぶん短気な奴だな、とシルバは思った。
「しかし、俺にはまったく身に覚えがない」
「それを証明出来るか」
「むしろ、彼女の告発以外に、明確な証拠はないのか? 何回も関係を強要したと言うが、その具体的な時期を教えてくれ。俺はその時のアリバイを証明しよう」
「……という事だが、ブラント君?」
 カナリーが、エーヴィに尋ねた。
「そんな事は、もうどうでもいいんです」
「何!?」
 アレだけの騒動を起こしておいて、余りと言えばあまりな言い分だった。
 さすがに、カナリーも絶句したようだった。
「それよりも、ナツメさんが怪我をした事が、わたしにとっては重要なんです!」
 エーヴィは、キキョウの方を向くと、一転して心配そうな表情をした。
「大丈夫でしたか、ナツメさん」
「う、うむ。シルバ殿に治療してもらったし、大したダメージはない」
 シルバは彼女から目を離さず、カナリーの脇腹を肘で小突いた。
「……おい、ホルスティン」
「……ああ、ロックール。多分、同じ事を考えている。だが、動機は何だ?」
 ヒソヒソと、話し合う。
「そりゃ俺が排除されて、彼女に得があるんだろ? そしてキキョウが傷を負った事で、彼女は怒っている。まあ、学習院の時点で薄々気付いていたけど、彼女の真の目的は俺じゃない」
 シルバとカナリーの視線が、同時にキキョウに向けられた。
「某か!?」
「貴方さえいなければ、ナツメさんは解放されるんです。早くパーティーを解消して下さい」
 エーヴィの糾弾が、シルバの推測を裏付けていた。
 が、もちろんそんな事で、納得するシルバではなかった。
「……いや、キキョウの意志はどうなるんだ?」
「そんなのわたしと同じに決まってます。パーティーが解消されれば、一緒にいる時間が増えるんですから、嬉しいに決まっているじゃないですか」
 エーヴィは断言した。
 そんな彼女の様子に、不意にシルバは背筋に寒気が走った。
 大人しそうな外見に騙されてはいけない。
 目の前の女性は、下手なモンスターよりもよっぽど厄介な存在だ、と本能が告げていた。
「……キキョウ、ホルスティン。俺は今、この場から猛烈に逃げたい気分なんだが」
 自分一人なら、即刻席を立っている所である。
「奇遇であるな。某も同じだ」
「全く同感だ。こんな茶番に付き合ってはいられない」
 しかし、ここでケリをつけないと、いつまでもしつこく付きまとわれそうでもある。
 逃げ腰になる自分の心を奮い立たせ、シルバは何だか妙にどんよりとした瞳をした、エーヴィを見据えた。
「そもそも、ブラントさんはキキョウの何な訳?」
「決まっているじゃないですか。彼女です」
「違っ……!?」
 キキョウは涙目でシルバの袖を掴み、必死に首を振った。尻尾がピンと立ち、総毛立ってもいた。
 カナリーも動揺で、身を乗り出していた。
「つ、付き合ってたのか!?」
「そうです。一緒に買い物にしたりしましたし」
 そうなのか? とシルバが尋ねると、キキョウはシルバの腕にしがみついたまま、彼女に尋ねた。
「そ、それは、酒場の買い出しの事ではないのか?」
「よくお話もしますし」
「そ、それは、同僚だから当然であろう……?」
「一緒に帰った事だってあります」
「帰りを送った事は一度もなかったはずだが……す、すまぬが、それに関しては全く身に覚えがないぞ?」
「やだな、わたしのじゃありません。ナツメさんの帰りですよ。早朝の。ちょっと距離おいてますけど」
 あまりにも二人の間の認識に齟齬があるなと感想を抱き、思わずシルバは口を挟んでいた。
「距離ってどれぐらい?」
「たいした距離じゃないですよ。私とナツメさんは、心と心が通じ合っているんですから、50メルト程度、問題じゃありません」
 突然、カナリーが立ち上がった。
「ロックール、悪いが僕はこれで失礼させてもらう。詫びは後日、改めてと言うことでよろしく頼む」
 ポケットから取り出したハンカチで汗を拭う彼の腕をつかみ、シルバはカナリーの逃走を封じた。
「待て。お前も当事者だ。ここで逃げるなんて許さん」
 そういうシルバ自身も、背中から嫌な汗が流れているのを自覚していた。
 下手をすれば、カナリーの{生命力吸収/エナジードレイン}を喰らいかねないが、むしろ望む所だった。いっそ、気絶したいぐらいである。
「離してくれ。こんなサイコサスペンスに僕を付き合わせるな」
「断る。こういうのを死なばもろともって言うんだ。旅は道連れともな」
「とにかく、ホルスティン先輩は、ナツメさんを傷つけた事を謝って下さい! それからロックールさんはさっさとパーティーを解散させてくれないと、わたし達、困るんです」
 一括りにされてしまい、さすがにキキョウも黙っている訳にはいかないようだった。
「……いや、困るのは、ブラント嬢だけであろう。某はパーティーを抜ける気はない」
「ナツメさんは騙されているんですよ!」
「騙されていない! そもそも、ブラント嬢は単なる同僚以外の何者でもないではないか!」
「……ナツメさん、可哀想。すっかり洗脳されちゃってるんですね」
 哀れむように、エーヴィはキキョウを見た。
「シルバ殿……助けてくれ」
 キキョウは途方に暮れたような声を上げた。
「……むしろそりゃ、こっちの台詞だ」
 何と言う事、一番の当事者はシルバなどではなく、キキョウだったのだ。
 その時、ちょうど注文の料理が届いたので、話は中断となった。
(何とも厄介な話だよなぁ、キキョウ)
 シルバは香茶を飲みながら、精神共有を使ってキキョウにぼやいた。
(……すまぬ)
 キキョウが悄然と項垂れる。
 しかし、そのままパフェを食べる手は休めないのだから、器用な話だ。
(別にお前のせいでもないだろ。こんな酷い話、初めてだし……まあ、手がない訳でもないんだけど)
(本当か!?)
(うん。まず、根本的な問題ってのが分かりやすい。つまり、彼女は自分がキキョウと付き合っているという妄想の中にいる。だから、その妄想をぶち壊せばいい)
 ちぎったパンをスープに浸しながら、シルバは心の中で答える。
(……例えば、某が誰かと付き合っていると嘘をつく、とか?)
(その通り)
(だがシルバ殿、今度は某の相手役になる娘に災難が降り掛かるだけではないか)
(いや? そうでもないぞ。相手は別に女である必要はない。例えば相手を男にすれば、もしかしたらブラントさんはお前を嫌ってくれるかも知れない。まあ、この場合は俺かカナリーが適当だが)
(――それで行こう、シルバ殿。是非それで頼む)
 決断早っ!?
(問題点がないでもないんだ。つまり今後、俺とキキョウが周囲から、そういう好奇の目で見られるっていう……)
(某は一行に構わぬ。むしろ望む所)
(うぉいっ!?)
「……さっきから、何故、黙っているんですか?」
 訝しげな視線を、シルバとキキョウに向ける、エーヴィ。
(……さっきの案は、それなりにリスクがある。という訳で、もう一つの方法で片を付けようと思う)
(うう……こういう事には某、とことん無力ですまぬ。よろしく頼む、シルバ殿)
(おっけー。任せろ)
 シルバは精神共有を打ち切ると、大きく息を吐いた。
 腹は、一応満たされた。
 左隣を見ると、カナリーがまずそうに、赤ワインを舐めている。
 萎えかけていた精神を奮い立たせ、姿勢を正した。
「ブラントさん」
 カップを皿に戻し、シルバはテーブルに乗せた手を組んだ。
「何ですか?」
「まず、貴方はホルスティンに詫びるべきだ。彼がキキョウを傷つけたと主張しているが、そもそも種を巻いたのは貴方自身でしょう? 本来無関係の人間である彼を巻き込んだ非は、貴方にあります」
「それは……」
「第一、そんな卑劣な手段を使う人間を、キキョウは好みません」
「そうなんですか!?」
 驚くエーヴィに、当たり前だろうとシルバは思ったが、表情には出さなかった。
「う、うむ。それは、当然だろう」
 同じ思いらしく、キキョウも頷いた。
「……分かりました。その点については、謝ります。ホルスティン先輩、すみませんでした」
 あっさりと、頭を下げるエーヴィだった。
「う、うん。分かってもらえればいい」
 とはいえ、反省はしてないよなーと思う、シルバだった。
 しかし、順序というのは大切で、一つずつ段階を踏んでいかなければならない。
 ここからが、厄介な所だ。
「そして次に、君はキキョウとは付き合っていない」
「貴方が決めないで下さい!」
 案の定、エーヴィはきつい目でシルバを睨んできた。
「……ブラント嬢にも決める資格があるとは思えぬがなぁ」
 キキョウの疲れたようなぼやきは、彼女の耳に届かないようだ。
「色恋沙汰を他人が判断するのは難しいけど、聞いた限りではお二人が交際関係にあるとは到底思えません。そう思いませんか、ホルスティン」
 突然話を振られ、カナリーはちょっと驚いた。
「ん? あ、ああ、そうだな。それは僕も同意しよう」
「何なら、学習院の友人達に聞いてみるといい。勤め先である酒場のマスターや常連客でも構わない。貴方のやっている事はただの付き纏いに過ぎません」
「違います! わたしはナツメさんと恋愛関係にあるんです!」
 エーヴィが主張し、シルバはキキョウの脇腹を突いた。
 一瞬驚いたキキョウだったが、すぐに頷いた。
「ブラント嬢、もう一度言うが某は貴方を同僚以上の存在と思った事はない」
「……っ!」
 わずかに怯んだエーヴィは、次に標的をシルバに絞った。
「貴方が……! 貴方が余計な事を、ナツメさんに吹き込んでいるんです! そうに違いありません! どうしてわたし達の恋路を邪魔するんですか!」
「そりゃ当然だろう」
 口調を戻し、シルバはエーヴィの目をジッと見た。
「キキョウは、ウチのパーティーの一員なんだから、守るのが俺の務め。こっちだって、アンタの身勝手な行動に迷惑してるんだ」
「っ……!」
「で、最後にもう一回尋ねるけど、どうしてもキキョウを諦める気はないんですね?」
「と、当然よ!」
 エーヴィの肯定に、キキョウが心底うんざりした表情になった。
「キキョウの方は、付き合ってないと主張する。いいよな」
「もちろんだ」
「ではま」
 テーブルの上の空になった皿を重ね、空いた場所に革袋を置く。
 学習院の図書館で借りた書物だ。
「今度教会で、司教様の仕事の手伝いをちょっとする事になってさ。その勉強の為に借りたんだが……」
「と、突然、何ですか……」
 怯むエーヴィに構わず、シルバは袋の中から分厚い本を取り出した。
「エーヴィ・ブラントさん。この都市の法廷が、どこにあるか知ってる?」
 シルバは、革張りの『法律書』に手を叩き付けた。
「……今度から、喧嘩を売るなら相手を選んだ方がいい」


 あと一回続きます。


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