【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第71話 いんたーみっそん。「全ての準備は整ったわ。袁術を討つ!」孫策は宣言し、およそ9万の兵を従えて、揚州・建業より東・・・袁術領地である淮南(わいなん)へと向かう。その9万には義勇兵も混じっているから一部質が悪いということになる。また、時間との戦いにもなるだろう、と周喩は予測しておりなるだけ素早く勝ちを拾いに行く、とも言っている。周喩や陸遜は曹操が割り込んでくる可能性を考えており、もしそうなれば美味しいところだけを持っていかれる事を危惧しているようだ。確かに反袁術の気風が高まっているし、漢王朝の正統を保護・掲げている曹操にとっても袁術は不要な存在である。だからこそこの件に介入してくる事はあり得るし、介入を許せば「領地は全て漢王朝のものだ」と袁術の領地も奪われる事も、またあり得る。それだけの余裕が今の曹操にはないのだが、ともかく速く決着を付けたいというのは偽らざる心境だった。孫策側の武将は孫策を始めとしたほぼ全武将。朱治や孫静などは後方の防御に当たっていて、文官もほとんどが残ったが、必要と思われる武将は全て出撃。その中には高順も含まれている。彼らも孫策軍と共に進軍しており、一応は軍勢の一翼を担う形になっている。その高順隊だが、趙雲などは「袁術軍が野戦を挑んでくれれば良いのだが」と思っている。孫家に属してからの戦いは何と言うか、暇だった。攻城戦のみだったからだ。それでも楽進や李典など、攻城でも活躍できる武将はいたが基本的に高順隊は野戦でこそ真価を発揮する。これは「鬱憤が溜まっている」というべきだろう。本来の自分達の持ち味を生かせない闘いばかりだったから、それも仕方の無い話ではある。袁術側は、というと盧江へと迎撃戦力を駐屯させて孫策軍を迎え撃つ構えを見せている。袁術の本拠は寿春で、そこにも守備兵力はあるが、総大将が出撃しないのでそれほど士気は高くない。それでもその兵数はおよそ10万強。孫策軍より多いが、それゆえに篭城をあまり考えず一気に決着をつけようという魂胆である。袁術は「ぐぬぬぅ~、孫策めー! 助けてやった恩も忘れおってー!」と怒っていたが、孫策にしてみれば「よくもあれだけこき使ってくれたわね・・・」とこちらも怒り心頭。結局、両者にとっては目論見どおりの形での戦になったようだ。~~~盧江城より東に50里ほどの場所~~~孫策軍は陣を張って野営。ここで一度軍議を行い実際の戦場を確認、陣形・編成などを決めていく。軍議を行う陣幕には孫家のほぼ全ての武将が揃っている。孫策・周喩・黄蓋・孫権を始めとした最初期からの孫家の武将。会稽、呉を手中に収めてから仕官してきた武将も多く陳武、董襲、朱桓、賀斉、呂範、徐盛、歩騭等。官吏としてならば虞翻、厳畯、顧雍等。どちらかと言えば武将のほうが多いのだが、それはまだまだ武働きが重視されているという事でもある。(別に官吏を軽視している訳でもないが。この中には高順も入っていて、一応軍議の席にも出ているが、彼は自ら進んで末席に着いていた。孫策や周喩に求められてということがあっても、自ら仕官をしてきた人々とは違ってなし崩し的に、という側面がある為、高順は常に末席を選んでいた。別段の軍功を立てているわけでもないし、偉そうな事を言える立場でもないから・・・と高順は常に命令を受けるだけの場所にいた。そういったところがあるせいか、高順は孫家の一部の武将に軽んじられているところがある。軍議は周喩の一声から始まった。「此度の戦、袁術軍の兵力は10万を超えるという。物見の報告ではもっと多いかもしれないということだが・・・対して此方の兵力は9万。義勇兵も含めての数だが将の力量ではこちらが押し、士気も高い。押し負けるということは無いだろう。」そこに陸遜が「盧江に在る袁術軍の総大将は袁胤(えんいん)。袁術の血縁ですね~」と間延びした声で補足を入れる。「袁胤~? ただの雑魚じゃないの・・・。袁術は?」孫策の問いに、陸遜は「ええとぉ」と報告書をめくりながら答える。「寿春にいるそうですよぉ~?」「決戦の場に出てこないって・・・? はん、舐められたもんねぇ。それとも、臆病風に吹かれたかしら?」「どちらかと言えば、この戦いの重要性をまるで認識していないという事だろう。大将軍の張勳も来ていないそうだからな。」「成程ね・・・向こうは手下さえ繰り出しておけば何とでもなる、と考えている。・・・はっ、孫家も甘く見られたものよね。ま、すぐに後悔させてやるけど。ねえ、蓮華?(れんふぁ、孫権の真名)」「当然です!」孫策の言葉に孫権が応じ、黄蓋や程普など、古参の将も頷いている。 彼女達にとってこれは孫家が袁術から完全に独立するための戦いだ。舐められている事に若干でも腹は立てている。「孫策や孫権殿の言う通り、我々を侮った事を後悔させてやりましょう。では、出撃編成を決めるとしよう。まず先鋒だが・・・」この言葉に、若い武将達が「俺が行く!」「いいや、私だ!」と、名乗りを上げ、その中には孫権も含まれていた。孫権は孫家の者として前面に立つ覚悟を示すべきと考えているが、他の若い将は功名を立てたいと思っていて(そういう野望がなければ士官などしないだろう)、名を上げる絶好の機会と考えている。孫策や周喩はこれを黙って聞いていて「さて、誰を出すべきか」と考えている。意外な事に黄蓋も黙って聞き、見る側の一人だ。熱くなりやすい黄蓋だが、彼女は孫家の重鎮。虎牢関や汜水関の時のように武将が不足しているならば自分が先鋒に、と言いもするが、武将も多くなってきた事もあって「若い者どもに功績を稼ぐ場を与えなければ」と思って見守っている。その黄蓋がふと、末席に座る高順の姿を見た。高順は先鋒として誰が行くのか、という軍議の席でただ事の成り行きだけを見ていた。発言する気が無いのか、それともそんな資格が無いとでも思っているのか。(まったく、あ奴は。きっちり参加せぬか)あれでは功績のこの字もないわ、と嘆息した。確かにそれほど良い立場ではないかもしれないが、だからと言って発言ができないわけではないのだ。他の場所は知らないが、孫家の武将となったのなら孫家のやり方に慣れてもらわなければ困る。その高順は周倉のみを伴って軍議の末席にいた。本来は趙雲や楽進などもいる筈だがあまり大勢で行っても意味は無い、ということで部隊をいつでも動かせるように外で警戒をさせている。周倉は高順の護衛と言う名目だが、その周倉は高順の隣に座って「いいんすか、何も言わなくて?」と聞いてくる。「良いんだよ。」「むー、ですけどぉ。」「俺達に発言権は無いんだよ。成り行きに任せておけばいいさね。」「うーん・・・・・・」周倉が更に何かを言おうとした時、黄蓋が「おい、高順!」と声をかけてきた。「うぉえ!?」呼ばれることを予想していなかった高順は変な声を上げた。そのタイミングがちょうど静かになった瞬間だったので余計に目立ってしまう。目立ちたくないから発言をしなかったのに、これでは逆効果である。「うぉえ、ではない。お主も何ぞ言わぬか。」「何ぞ、とか言われても・・・。」ああもう、じれったい奴め、と黄蓋も苛々している。彼女は孫策のほうへ顔を向けてこんな事を言い出した。「策殿、此度の戦いの先鋒には高順を推しまする!」と。これには、多くの人々が「何ー!?」と叫んだ。ようやく仕官した者達にとっては、孫家の将として初めての手柄の立て所。それを特に働いていない(と思われている)ような奴に奪われるのは気に入らないのだろう。さて、そこで叫びを上げなかった人々・・・孫策や周喩だが、高順騎馬隊を先鋒に、というのは彼女達も考えていることだった。反董卓連合に参加している武将は皆知っているが、高順隊の攻撃能力は高い。周泰や陸遜らは参加していないが、高順の人柄は理解しているらしく、彼の部下である趙雲や楽進が高い能力を持つ人材である事も知っている。彼らに足りなかったのは働き所だけで、それさえ乗り越えれば他の武将にも認められるだろう、と言うことは考えている。甘寧も渋々ではあるが高順隊の能力の高さは認めている。それに、袁術軍は野戦を挑んでくるという情報を得ている。そうなれば突破力に優れ、防御力もある騎馬隊を使わないのは勿体無い。「そうねぇ・・・じゃあ、高順にしましょ。」「うわ、あっさり一言。」本当にあっさり決めた孫策に、高順は思わず突っ込みを入れる。「いいのか、孫策。そんなに簡単に決めて?」周喩も苦笑しつつ聞くが、孫策は「あー、いいのいいの。」と適当である。正直に言って、孫策から見ても配下武将の高順への扱いの酷さには閉口するものがあった。それには自分たちが高順を重用している事が原因でもあるのだが、実際の働きが無いのに黄蓋やら周喩やらにあれこれと声をかけられて上の覚えがめでたいという嫉妬があるようだ。悪口雑言が絶えないらしく、それだけを聞くと「女々しい奴らだ」なのだが、確かに働きも無いのに重んじられていては他の者は面白くないだろうし、高順達も気分はよくないだろう。何より不味いのは、趙雲ら高順の配下武将の悪口はなく、その長たる高順にばかり攻撃が集中しているということだ。高順自身も表面上は周りに心配をかけまいと平然としているが、時折酷く疲れた表情を見せることもあって相当に参っている事は孫策も知っていたし、周りの人々も何気に感づいている。それを解消するには誰もが認めるほどの戦功を稼がせてやればいいのだが、今までは生憎、騎馬隊を活かせそうな戦いが無かった。先方の事で考えていた事の結果も「今がそのときだ」と言う事になる。周喩にしても仕官してきたばかりの武将にはまず経験を積ませたいと言う考えがある。もともとの兵力を持っているものなどっほとんどいないし、いてもその数は数百程度。そんな武将にいきなり数千を任せることなど出来ない。叩き上げの屈強な将となるなら弱さを知る戦いも必要なのだ。高順も最初は一兵士から始めてここまで来た。下積みをしたから兵の気持ちを知っているし、数百だろうが数千だろうが数に見合った働きが出来るのだろう。この決定に不満を持つものは多かったが、孫策が決めてしまった以上は仕方が無い。高順にしても「んな強引な・・・」と言っていたがそれは無視された。他の武将の配置も決められていき、最終的に。先鋒中央に高順、先鋒右翼が孫権。先鋒左翼に韓当。中陣に黄蓋と若手の武将多数。黄蓋は監督役というところか。後陣、つまり本陣には孫策や周喩。押さえとして程普といったところだ。どの陣にも孫堅四天王、つまり今の孫家の中核である程普・黄蓋・韓当を配置してあるのは、若い武将の抑え役である。先鋒は暴走の危険性はないが、中陣はその可能性が大きいので、そこには黄蓋だけではなく周泰なども配置している。一番暴走しやすいであろう孫策を抑える為に後方に程普と周喩。他にも陸遜・呂蒙なども押さえとして残っている。暴走しやすいのが君主である孫策というのがちょっと笑えないかもしれないが、基本的に戦では先頭に立ちたがる性格なのでそう見えやすい。こんな感じで部隊配置も決まり武将が陣幕を出て行く中で、程普は高順の後ろを通っていく時に肩を叩き「期待しているぞ、坊主」と声をかけた。黄蓋も高順の背を叩いて「何、お主の戦いぶりを見れば若い連中も難しいことは言えぬであろうさ。」と彼女なりの檄を飛ばして陣幕から出て行った。彼らと同じく四天王であった祖茂は高順隊との戦いで討たれ、その点を見れば恨まれていても仕方が無いのだが、彼らはその事で高順を嫌うつもりは無かった。幾度も同じ戦場を駆けた仲間であり、実力があった祖茂を平然と討った実力。孫策の元に降った後でも仕事を真面目にこなしており、その辺を評価されているらしい。高順も自分の陣に帰還して、主だった武将を集めた。今回の戦いの概要と言うか、こういう配置になったよ・・・という説明の為だ。先鋒の、しかも中央に配置された事を知った趙雲達は「何ですと!?」と驚き、そして喜び勇んだ。そして同時に趙雲と楽進が「先陣を切るのは私にお任せを!」と叫んで「・・・むぅ」とにらみ合った。「趙雲殿、たまには私に譲っていただいても罰は当たらぬと思いますが。」「ふ、何を言うか楽進。こういう役目は譲る譲らぬの問題ではないぞ?」「あの、2人とも・・・」高順が仲裁しようとするが、2人は全く聞かない。「いつも趙雲殿ばかりではないですか!」「当然だ。この役目は私が一番向いているからな!」「あの、ちょっと話を聞いt「高順殿(隊長)は黙っていてください!」・・・はい。」喧々諤々。喧しく口論する二人。うん、全然聞いてもらえない。としょんぼりした高順だが、その横に座っている蹋頓がすごく冷たい笑みというか冷たいものを纏わり付かせた雰囲気でゆらぁりと立ち上がった。この冷気は、皆が覚えている。高順が暗殺されかかった時に見せた、人を人と思わぬ強烈な狂気。「えあ、ぅ・・・」「う、くっ・・・」「お二人とも・・・少し宜しいですか?」蹋頓は趙雲と楽進の首根っこを掴んで微笑んだ。しかし、その笑みのなんと冷たいことか。「高順さんが「聞いてくれないか」と言っているのですからぁ・・・静かにしましょうね・・・?」『ハイ(がたがたぶるぶぶる)』そのまま手を離した蹋頓はにっこりと笑って「さあ、お話の続きをどうぞ」と高順を促して自分の席に座った。(やっぱりこの人怒らせると洒落にならないな・・・)と高順まで真っ青になるが、ごほん、と咳払いをした。「先鋒なんだけど、これは周倉に任せる。」この言葉に、全員の視線が周倉へと向けられる。「・・・え? ええ!? 俺ぇっ!?」「そ、周倉。他の人々は部隊の統率してください。」高順にも一応考えがあって、戦いそのものはいつもと同じだが周倉を先陣に出してみたい。彼女は自分の役割を「親衛隊」と思っているようだが大規模な戦で身辺警護と言うのは、彼女の力量を考えると勿体無い。彼女は素足で馬と同等の脚力と速力があるし、元は賊なのだが戦いぶりや訓練を見ていると「軽業師」というのがしっくりくる。周倉の得意とする武器は二斧や山刀だが、これをもう少し太刀、といわないまでもそこそこに長く軽い武器にしてみたらどうだろう? と思って李典に武器を作成させてみた。その結果、柄が短く刃の長いバルディッシュっぽい戦斧が二振り、内側に反った刃(グルカナイフ、或はククリ)の短刀長刀一振りずつ。それに投擲用の小さい斧のようなものを多く作成していた。今の周倉は賊兵というよりも強襲兵と言った方がしっくりくる。そのくせ、真正面から戦っても強い。周倉ならば騎乗している人間の首を狙うことなど容易だし、単体で敵部隊撹乱も可能であり、タイプとしては周泰に近いのかもしれない。もっとも、周泰のように諜報活動は不得手としているので戦闘特化と言うべきだろう。その周倉に先陣を任せたいというのは、彼女を自部隊の切り込み隊長候補と見ていたからだった。趙雲でも楽進でもいいのだが、彼女達はどちらかと言えば部隊統率をするべき立場に変わって来ている。それならば趙雲達ほど統率力はないが個人武力ならばそれほど劣らない周倉に、というのが高順の考えである。もっとも、高順自体が先頭を行きたがる・・・どちらかと言えば孫策に近い戦い方を好むので、あまり意味は無いのかもしれないが。李典はそういうことには拘らないし、沙摩柯と蹋頓は部隊を与えられているが高順の脇を固める立場なので先鋒とかはどうでもいい。閻柔と田豫も先頭きって戦うタイプではなく、趙雲・楽進は現在ガタブル中なので反論のしようもなし。反対意見は何も出ず「じゃ、決定ねー。」となってしまった。高順は「向こうの配置まではわからないが」と前置きして、この戦いに参加している袁術側の武将の名を挙げていった。紀霊、閻象、陳紀、雷薄、陳蘭、李豊、橋蕤(きょうずい)、梁綱(りょうこう)。この戦いに参加していない張勳、一部荊州の袁術領を守る楽就(がくしゅう)などを除けば、袁術軍の主だった武官は全て盧江に集結している事になる。皆、それをきっちりと聞いているように見えたが周倉だけは冷や汗をダラダラと流して話半分。自分が先鋒にされるとは思っていなかったらしく、ド緊張しているようだ。その後もあれこれと話を続けたが、周倉はその内容を殆ど覚えておらず、その日の夜も中々寝付けなかったという。~~~翌日~~~早朝、孫策軍は野営陣地を引き払い盧江へと進軍。対して盧江守備軍の長である袁胤は出撃を下知して自分は城に引きこもった。軍勢を任された紀霊は思わず嘆息した。総大将が出なければ、それを任された袁胤様も出ない。勝ち目が薄い戦いだな、と自分達の敗北を悟ったかのように、ぼやいた。(孫策殿の兵は強いし、士気も高いだろう。それに比べて我が軍は・・・)袁術は蜂蜜が好物で、それを買いあさるために民衆に重税を課している。城の穀倉には市民が食べられないような肉や穀物が大量に納められ、中には時間が経ちすぎて腐っているものまである。そんな贅沢をしている袁術だが、それに反して(市民は当然として)兵士も随分と貧しい暮らしだ。将軍級であればまだしも、一部隊の隊長のような立場のものでも淮水で貝を漁ってそれで飢えを凌いでいるような情勢だ。これで士気が上がろう筈も無い。絶望的な状況、という現実を考えると溜息くらいは許されるのではないだろうか。しかし、それを部下の前で見せるわけには行かない。負けが見えている状況でも、部下の為に戦わなくてはならない。それが一軍の将である自分達の役割だ、と紀霊は自分を奮い立たせて戦場へと向かった。孫策軍9万に袁術軍11万。(これとは別に盧江に篭るのが2万ほど。盧江より東、30里ほどの場所で対陣する両軍。袁術側の先鋒軍は雷薄、陳蘭。孫策側は孫権、韓当、高順。その先鋒の真ん中、高順隊の一番先頭に周倉がいた。(・・・うう、お、俺なんかが先鋒・・・無理! ぜってぇ無理!)未だに周倉は震えていた。まさか親衛隊の自分が先陣を切るなんて、という考えがまだ頭の中にあるようだ。黄巾の時にも万の規模での大会戦を経験しているし、賊となってからも何百何千の手下を引き連れていたものだが・・・。敗戦に呑まれたりとか、勢力が減退したりとかばかりで、先陣切って突撃をしたりとかは無かった。隣にいる裴元紹も「大丈夫ですかい、姐御」と聞いてくるがむっつりと無言のまま。こりゃやばいなぁ、と裴元紹は頭を掻いた。いつもなら「姐御とか言うんじゃねぇ!」と叱責が飛んでくるはずなのに。頭を掻きつつ後ろを振り返ると、そこには。「あ・・・大将。」「やあ。」巨大な黒馬に跨り、重厚な鎧を身につけた自分達の大将。後ろに控えている筈の高順がやって来ていた。彼は、孫家に降ってからほとんど鎧を着用していない。そのせいか、重厚と言うか重厚すぎるというかハッタリのききすぎた鎧、巨大な体躯の虹黒の威容も合わさって孫家の若い武将は「・・・すげぇ」と呆然としていたのだがそれは別の話だ。「何だ、周倉はまだ迷っているのか?」普段はあんなに強気なのに、緊張しやすいんだなぁ、と高順は笑う。それでも反応が鈍い周倉を見て「やれやれ」と高順はわざわざ虹黒から降りて周倉の隣に立った。「周倉、ちょっといいかい?」「あ・・・ぅ? た、たいしょー・・・」「そんなに緊張するな。いつもどおりやれば大丈夫だ。」「う、で、ですけども俺みたいな賊あがりが」「卑下するなってば。ふむ・・・じゃあ、部隊を率いた事のある先輩として一言だけ、偉そうな事を言わせてもらおうか。」「え、偉そう・・・?」「ん。先鋒なんてもんを任されて困るのは解るけどな。皆、周倉が先鋒っていっても結局反対はしなかったろ。回りはきっちり周倉の力量を認めてるんだよ。」「うぐっ。そ、そりゃ嬉しいんですがぁ・・・」「認めてなければまだ早いって反対意見もあったと思うよ。だから自信を持って良い。それと、緊張させるわけじゃないけど」「?」「孫家の軍勢全部が周倉についていく、と思ってくれ。周倉が突撃を始めたのと同時に、孫家の軍勢が続く。」「!?」余計に緊張させる事を・・・と、裴元紹は頭を抱えた。見れば、周倉の体ががくがく震えて「たいしょぉ~・・・」と情けない声で泣きそうになっている。「周倉が勇気を見せて戦わないと孫家全体の士気が低下するんだよ。で、俺達にはそういう役割が期待されているわけ。」「うぅー・・・。」「で、俺も周倉に続く。趙雲さんも、楽進も、他の皆もだ。せっかく回ってきた舞台なんだ。今まで賊上がりだとか、役に立たない騎馬隊だとか言われていたんだぞ?」「・・・。」言外に「見返してやろうよ」と言われている事を、周倉はすぐに気付いた。「はは、それに付き合わされる敵兵は溜まったもんじゃないかもなあ。」高順は最後に握り拳で周倉の胸を「どん」と叩いて「絶対に死ぬんじゃないぞ、元紹も、他の皆も。こんな所で捨てていい命じゃないんだから」と笑みを見せてから虹黒に騎乗。周倉隊のすぐ後ろに位置する自分の部隊へと下がって行った。去っていく高順を見送り、少ししてから裴元紹はもう一度周倉の様子を窺うように「姐御ぉ。」と言った。「・・・うっせ。姐御ゆーな。」「おっ?」周倉は一度、両手で自分の顔を「ぱぁんっ」と張った。「大将があそこまで言ってくれてんだ・・・ここで気張らにゃ、大将の顔に泥つけちまわぁ。」彼女なりに気合を入れたのだろう。周倉は戦斧を構えて袁術軍を睨む。「いいかてめぇら。一番首も一番槍も俺達がかっさらうぜ。手柄ぁたててみせろや!!」『姐御っ!!』「言うなってんだろーーー!?」~~~孫策軍中陣~~~馬上の人となった黄蓋は先鋒中央の高順隊の動きを見ていた。あの黒の鎧、黒の巨馬。かなり遠くから見ても相当に目立つ高順の姿を見て、黄蓋は頼もしげに笑う。最初は味方、次は敵、そして今は共に戦う仲間。最初に出会ったときは率いる数も少ない客将で、敵として出あった時は悩まされた。それが今や仲間として同じ戦場に経つ。人の縁と言うのは本当にどうなるか解らぬものよ、というのが偽り無い気持ちである。そんな黄蓋の様子を見ていたのは配下として付けられた若い武将の一人、徐盛。彼は「あいつ、役に立つんですか?」と胡散臭そうな目で高順隊を見やった。「ん? ああ、お主は知らなんだな。まあ、見ておれば解る。」「はぁ・・・。」なんとなく納得行かなさそうに曖昧に返事をする徐盛だが、他の若い武将も同じようなものである。だが、黄蓋は楽しそうだ。自分たちが散々に悩まされた虎牢関と汜水関での高順との戦い。自分たちが受けたあの奇襲、そして真正面からの突撃戦。それを仲間として見れるということが、黄蓋にとっては嬉しいものであった。両軍が対峙、睨み合って数十分。孫策の命令で、紀霊の命令で、孫・袁両軍の銅鑼の音が戦場に響く。銅鑼の鳴り響く音を皮切りに、両軍先鋒部隊が突撃を開始した。~~~楽屋裏~~~暑いわあああああああああああっ! あいつです(挨拶こうも蒸し暑いと嫌になっていますね。人生が(何本格的な戦いは次回になります。今回はその前のお話しと言うことで。で、高順もある程度は嫌がらせを受けている、というのは仕方のないことだと思います。降伏同然なのに上層部からはアレコレとお声がかかれば、周りの武将は面白くないと思いますし・・・。紀霊さんは自軍の状況を嘆いておりました。一応、史実でも袁術軍の兵士は貝とか漁ってたというお話が残っていたりしますね。どんだけ搾取していたのか・・・それと、周倉でもぇろすーなお話を考えようとしたあいつはド外道です。さて、周倉は生き残れるのか、それ以前に高順達は勝てるのか。いや、勝てるって言っちゃってるんですけどね。ではまた次回。