【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第12話 「せえええいっ!」「はああっ!」馬で駆ける袁紹と曹操。各々の獲物が煌き交差する。曹操が繰り出した一撃を、袁紹は危なげなく受け止め、すぐに「何も無い」場所へと刀を振り上げた。瞬間、曹操の追撃がその刀で受け止められる。袁紹は最初の一撃は釣り、二撃目が本命である事を見切っていた。「ふん、良く見えてるじゃない。らしくないわね、麗羽!」「うるさいですわね。余計なことを言う暇があるなら!」袁紹は、鎌を押し返して斬りかかって行く。「そのつもりよ、このお馬鹿!」「やかましいですわ! このちんくしゃ!」なんかすっげぇ言われようである。一気に怒りのボルテージというかリミットゲージをぶち抜いた曹操は、思わず袁紹の胸を指差して怒鳴った。「ち、ちん・・・! 言わせておけば!? 大体何よあんたのその胸は! 栄養が偏りすぎなのよ!」「はん、羨ましいんでしょう! その 発 展 終 了 なだらか絶壁(?)には何年かかってもたどり着けぬ領域ですわ!」「きーーーーっ! 何よ何よ! そんなのは将才には欠片も関係ないんだから!」「才能云々では勝てなくても背の高さと身体の発育の良さなら絶対に負けませんわ!」「何よ!」「何です!?」『・・・・・・。』最早、ただの痴話喧嘩に過ぎないレベルのド低脳な言い争いをしつつ、両者は剣を交えている。(けっこう仲はいいのかもしれないこの緩いのか何なのか良く解らない状況に両軍の兵は「ポカーン」としていたが、すぐに思い直して戦い始める。曹操軍の一部部隊が既に集積所に入り込んでいるが、それを守備隊はよく守っている。張遼や干禁に追い立てられ、或いは討たれている将兵は多いが、そこ以外は概ね良く守っていると言っても良い。集積所からも袁紹軍が突撃を仕掛け、曹操軍を追い立てようとするが、曹操側の兵は精鋭揃い。自分達より数が多くても優位に戦っている。集積所に入り込んだ兵は少なく、だからこそ袁紹軍が有利とも見える。やはり兵の能力が違ったという事だ。有利なのは顔良・文醜・審配を始めとした武将が奮戦しているからで、それにも限界はある。この状況に袁紹は焦り、そして曹操も焦っていた。袁紹は兵が保ちそうに無い事、曹操は袁紹軍本陣から援軍が来る事を恐れている。早く勝負を決めなくては、と思いながらも、2人は一騎打ちを続けていた。「はぁ、はぁっ」「ふー・・・ふぅっ。」曹操と袁紹が獲物を叩き付け合う事数十合。両者共に息が上がり始めている。曹操は自分自身が優れた武将で、一般兵相手ならばあっさりと片付ける能力はある。袁紹は曹操に敵うほどの腕前ではないが、気力を込めた応酬でありその分息が上がるのも早かった。袁紹は余裕がなさそうだが、曹操の表情は楽しげですらあった。麗羽をここまでまともに変えた「何か」に興味を覚えたが、今はどうでもいい。曹操は楽しんでいた。与り知らぬ「何か」で自分と同じ場所に登ってこようとする麗羽。自分と違って天運などは欠片もなさそうな麗羽は、自分の意思で覇者・・・いや、もしかしたら王者たらんとしているのだ。自分が向かおうとする場所に、自分とは少し違う方法で行こうと。天下盗りに、障害が無ければ面白くない。曹操はそう考えて、その障害になりそうな者にある程度の目星をつけていた。1人は劉備、1人は劉備と同じく晩成していないが孫策・・・或いは孫権か。袁紹などは、路傍に石に過ぎないと、高をくくってさえいた。それがどうだ、今目の前にいるこの女は。まさか、麗羽がここまでの存在になるなんて誰が予想できただろう。自分が烏巣まで攻めてくることを予見して力不足ながらも機動力重視の編成で自分より先んじ、劣勢でありながらも自分の攻撃を凌ぐとは。全く予想していなかった好敵手の出現。この事実を、曹操は喜び楽しんでいた。この時二人の一騎打ちの邪魔をするものは無く、徐々に戦いの場が集積所へと移っていた。まだ付近で戦っている者は多いが、数で勝っているはずの袁紹軍は劣勢に陥っており、集積所からは火の手が上がり始めた。この戦いを見守る者はただ1人、典韋のみ。尚も両者は馬を駆り、何度も切り結ぶ。曹操は鎌を振るい、袁紹の乗る馬の首を切り落とすが、袁紹は馬がそのまま前方に倒れこむ反動を利用して曹操の馬の足元に跳躍し、足を斬り捨てる。「ちっ」舌打ちをした曹操は馬を捨てて袁紹同様に地面に立つ。お互いに武器を構えなおし、じりじりと隙を窺う。そうしている内にも、火の手は強まり袁紹軍の一部が壊乱。戦場は錯綜し、2人の足元にまで矢が飛び、人馬入り乱れての混戦状態になっている。「集積所は燃えているわね。もう勝負はついた・・・そう思わない、麗羽?」「そうかもしれませんわね。ですが、我々の勝負は終わっていませんわ。貴方を討てば、その勢いも止まる。」「それこそお互い様ね。今の袁紹軍は麗羽・・・貴方一人で保っているも同然。今の貴方の跡を継げるような人材は・・・そうね、田豊なら可能かしら。」その名が出た瞬間、袁紹の表情に僅かに苦痛めいたものが浮かんだ。「なんであれ、私と貴方の行く道が違う以上・・・決着をつけなくてはいけません。」「そう。やっぱり貴方らしくない覚悟だわ・・・いいでしょう、来なさい!」袁紹も曹操も息を整え、構えを直し、最大の一撃を繰り出そうと足腰に力を入れる。だが、一本の流れ矢がこの勝負を台無しにした。距離を詰めた袁紹の右肩に矢が命中。袁紹が思わず怯んだところで、曹操の放った鎌の先端が袁紹の右の太ももに突き刺さった。咄嗟に曹操が力を緩めたので切断とまではいかなかったが、これで決まったも同然である。「あっ・・・」「ぐ・・・くぅっ・・・!」袁紹は痛みと衝撃に耐えかねて、右肩から転倒。右肩に刺さった矢が折れて、矢じりが余計に深く刺さったようだ。刀を杖に何とか立ち上がるが、もう戦闘などできるはずがない。「んぅ・・・はぁ、まだ、勝負は、っ・・・これ、から・・・」「・・・。」痛みに顔を歪ませる袁紹に、ばつが悪そう・・・いや、憮然とした表情で袁紹を見つめる曹操。誰が放ったかは知らないし、まず流れ矢だということは解っているがこれは違う、と曹操は唇を噛んだ。こんな決着など求めていない。対等の条件で死合って勝つことに、この闘いの勝利の意味があるというのに。もう勝負は付いた。自分が全く望まぬ形で付いてしまった。さて、どうするべきか。と思考したところで、集積所から審配・顔良・文醜らが僅かばかりの兵を率いて向かってきた。「殿、ここはもう保ち・・・殿!?」袁紹が傷だらけになっているのを見た審配は血相を変えて、馬に鞭をくれて駆けさせる。止めようと思えば止められたし、典韋もいるから多少の将兵が向かって来ても蹴散らせる。だが、彼女はわざと動かなかった。いや、道を譲るかのように下がった。審配が袁紹を抱え上げ、顔良らが突破口を開くために先駆けていくのも黙って見送った。彼らが駆けて行った後、典韋が「良かったのですか?」と恐る恐る聞いてきたが「かまわない」と曹操は答える。見れば集積所は焼け、張遼や干禁が意気揚々と向かってくるのが見えた。「あらかた掃討したでー。逃げるんは放っておいたけどなぁ」と機嫌よく言う辺り、守備をしていた将兵を多く討ち取ったのだろう。多数いた袁紹の兵も逃げるか降伏するかしたようで、勝利は勝利と言うことだ。もっとも、軍勢が勝利しただけで自分は勝利と言い難い。袁紹が無傷でも自分は負けなかっただろうが、対等な条件での勝利ではなかったし、もう2度と同じような機会は訪れまい。地味に落ち込む曹操だったが、生き残った自軍の将兵を整列させて命令を発していく。「皆、苦労だったわね。我々は余勢を駆って袁紹軍本陣に攻撃を仕掛ける。沙和(さわ、干禁の真名)、春蘭たちに攻撃を開始するよう伝えてきなさい!」「はいなのー!」「他の者は・・・そうね、流琉(るる、典韋の真名)は捕虜を連れて沙和と共に一度本陣へ向かいなさい。後の処理は風に任せてすぐに出撃するように。」「はい!」「袁紹の追撃はどうするん? あいつら、逃げてったけど。」「放置しておきなさい。あの程度の兵と、あれだけの傷・・・本陣に戻る余力は無いわ。もし戻れるとしても、此方の速度には追いつけない。」袁紹軍本陣には15万以上の兵力があって楽観は出来ないが、こちらも10万を超える兵力がある。そして、軍需・兵糧物資がほとんど失われたことで袁紹軍の士気は最低になっているはずだ。殆どの兵は逃げるか降伏してくるだろう。「・・・ところで。」「???」「あの「三人」はどうなったのかしら。」「ああ。あれらな。許攸以外は馬に踏まれて死んだみたいやけど。」「・・・チッ」「え、今舌打「忘れなさい」・・・ええけど。」なんともまあ、悪運の強い。馬に踏まれて地獄に落ちろ、ではないがお似合いの末路だろう。生き残った許攸だが、この戦いの後に「曹操が勝てたの自分のお陰だ」とか、後に曹操が鄴(ぎょう、袁紹の本拠)に入城した時にも「自分が居なければ曹操はここに来ることなど出来なかった」やらと吹聴して周り、激怒した曹操に処刑されている。曹操は代わりの馬に乗って、袁紹軍本陣へと向かっていく。その表情は、好敵手との決着を付けられなかった無念と、勝利が確定したことの安堵が入り混じった複雑なものだった。後、曹操は官渡から出撃した夏侯姉妹の軍勢と合流、袁紹軍本陣へと総攻撃を仕掛ける。最初は楽に終わるかと思った戦いだが、(烏巣が陥落した事を知っても)主将の麹義らの士気は高く、激戦を繰り広げる事になる。この闘いは3日以上も続き、結果的に麹義は戦死、他の武将も「最早これまで」と降伏のやむなきに至るのだが・・・。兵糧や矢束が無い中でも、袁紹が戻ってくることを信じて彼らは奮戦し続けたのである。曹操は最後まで抵抗、自軍に損害を与え続けた麹義の死を惜しみ、また降伏してきた袁紹軍将兵も寛大に扱う事を決めた。彼らの奮闘振りに敬意を現したつもりである。また、この後に袁紹の領有する各都市を降伏させていくのだが、それにも幾ばくかの時間がかかっている。袁紹の治世を慕う者も多く、曹操も「まさか、ここまでの素質を秘めていた、いや実力を持っていたなんて」と驚き、あんな形での決着を心底惜しんだという。袁紹を担いだ審配と、顔良ら僅かの兵は森を駆け、南東方面へと逃げていた。本当は本陣へ向かいたかったが、袁紹の怪我が思いのほか酷く、全力で馬を駆けさせることが出来なかった。曹操に追いつかれるだろうし、物資があらかた焼かれてしまったこともすぐに知れ渡る。北へ逃げるにしても、今はまだ状況が悪すぎる。森に隠れるほうが生き残れる確立も高いと考えての事だった。ある程度の距離を稼いだ、と審配は部隊を止めて袁紹の手当てをする為に馬から降りた。応急手当用の道具を出して、軟膏やら包帯やらで止血をしていくが・・・肩に刺さった矢をそのまま抜くのは不味い。そこで、途中で気絶していた袁紹が目を醒ました。「・・・・うぅ。」「お気づきですか!?」「審、配さん・・・? 今の状況、は・・・つぅっ・・・」「我らの負けです。力及ばず、烏巣は陥落。淳于瓊らは討たれ軍勢は四散。無念です、殿・・・」「・・・そう。」倍以上の兵力を持ち出してこれとは。曹操の力を甘く見すぎたか、それとも自分に力が足りなかっただけか。どちらであれ、自分は負けた。自分に出来る全力を尽くしたつもりだったが、曹操に勝つことは出来なかった。この戦の勝敗は、そのまま両陣営の勝敗へと繋がり・・・袁家も滅びるのだろう。袁家の将兵が意地を張らず降伏すれば、曹操もそれを受け入れるだろうし、彼女なら領民も大事にしてくれるだろう。そこに救いを求めることが出来るだけまだマシだったのかもしれない。後はどうやって自分を助けてくれた審配達を生かすか。それを考えるよりも早く、出血と痛みで意識が遠のいてきた。夢は、終わった。その事実だけを理解して、袁紹は再び意識を失った。~~~同日、同時刻。田豊の居館にて~~~容態が悪化していた田豊は、意識が混濁して昏睡状態になったり小康状態になったり、を繰り返していた。診ている薬師なども「今日を生きれるかどうかすら解らない」という状況。その田豊が、小間使いや薬師が見守る中、不意に目を覚ました。まさか目を覚まされるとは、と周りが騒ぐ中、田豊は「殿・・・」と、一言呟いた。しわがれた、弱々しい声で「殿、殿・・・」とまた呟き、静かに瞑目。それが、田豊の最後の言葉となった。袁紹の夢を結実させんと老骨に鞭打って奮闘した老宰相、田豊。彼は袁紹の夢が砕けた瞬間、まるで自身の役割を終えた事を知ったかのように・・・静かに世を去っていった。~~~楽屋裏~~~はやぶさ、お疲れ様。あいつです(挨拶袁紹敗北。しかも両者共にとても納得の行くような形ではありませんでした。この結果を招いたのは天運でも天命でもなくただ「運」だったのでしょうか。そして、田豊も病死。正史よりはマシな逝き方だったと・・・マシかなぁ・・・?長かった袁紹編も次回で終了(多分そして本編は・・・こう、加速度的に坂道を転げ落ちるが如く勢いで(ぁではまた次回にて。【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 異伝その2。高順と蹋頓が世を去り二ヶ月。広陵(こうりょう)で陳羣が多忙を極める中、一人の来客があった。それは閻行。高順の母親である。陳羣は最初「閻行」という名を聞いて「誰だ?」と首を傾げていたが、「高順様の母君だそうです」と取次ぎの言葉を聞いて「・・・ああ。」と思い出した。そういえば、この広陵に住んでおられたのだったな、と思い出して「すぐに会いに行く」と伝えた。今、彼女のやることは数多い。正式に太守となってから、高順一党のやっていた仕事をほぼ1人で兼任することになって寝る暇も無い。特に、武力に秀でたものが軒並みいなくなったことが響いている。その上「虹黒が飯食ってくれないーーーー!」と夏侯惇が泣きついて来てその世話までやらされる羽目に。なんというか、虹黒は高順を殺されたことをきっちり理解しているらしい。傷の手当はともかく、食事などは殆ど口をつけない。にも拘らず夏侯惇は何とか自分に馴れさせようと奮闘していたが、虹黒の夏侯惇嫌いは決定的になっている。とにかく、曹操側の人間と見ると「自分に近づくな!」とばかりに暴れまわる。夏侯淵は「やめておけ、姉者」と諦めさせるつもりである。彼女は「高順を死なせた自分達に懐くわけが無いだろう?」と、高順・虹黒の関係を(曹操軍の中では)一番に理解していた。自分の相棒を死なせた私達に懐く道理が無い、諦めろ。と何度も言っている。なお諦めきれない夏侯惇だったが「陳羣ならどうだろう」と思いついて、泣きついてきた・・・というのが真相だった。陳羣は「私に出来るとは思わないけど」と言いつつ、虹黒にリンゴやら人参やらを出してみた。その夏侯惇やら淵やらは広陵にいない。袁家・・・といっても南の袁術だが、それが北上するような動きを見せたので、警戒をして許都へと帰還していたのだ。虹黒は最初こそ警戒していたが、陳羣のことを覚えているようで、「ふんふん」と匂いを嗅ぎつつ食事を摂りだした。それ以外の人間が食事を出しても摂ろうとしないので、最終的に「太守なのに馬の世話役」というへんてこな状態。そして、閻行の訪問はそんな中での話だった。本来はきっちりと段階を踏んでから客人と会うものだが、高順の母ならば会わないわけにも行かない。何せ、高順は広陵に残した金を全て「俺に何かあったら好きに使ってね」と影を通じて・・・遺書になってしまったが、陳羣に届けている。彼の残した多額の資金は広陵を富ませ、また民の為に使用される。しかし、何故に高順様の母君が? と不思議に思いつつ、彼女は政務室を出て客間へと向かった。「お待たせしました」部屋に入って挨拶をした陳羣の目に映ったのは、旅装姿の閻行だった。閻行は閻行で「お忙しいでしょうに、お会いしていただいて感謝しています」と頭を下げた。閻行の姿を見れば「恐らくは趙雲殿達の下へ向かうのだろう」とは予想が付く。それにしても、何故自分に合う必要があるのだろうか。その疑問にはすぐに答えが出た。「では用件だけですが。息子の遺したものを全てお譲りいただけませんか?」「全て、ですか・・・。」高順の、いや、高順と蹋頓の遺品は全て陳羣が引き取り、物資保管場所に収めていた。蹋頓の槍はともかく、三刃槍や髑髏龍の鎧を着こなせるものはいない。だが、陳羣はボロボロになった鎧をある程度修復させている。誰にも使えないのだから残しておく必要など無いし、あの鎧を着るものなど誰もいないのだから、ということを解っていても、修理を施し、手入れをして保管してある。それを閻行が譲ってくれ、というのは・・・自分が使用するつもりか、それとも趙雲達に渡すつもりか、そのどちらかだろう。そして全てというのは、恐らくだが虹黒もだろう。あの馬が閻行を背に乗せるかどうかはともかく。陳羣は少しだけ迷うが、すぐに気持ちを決めたのか護衛の兵を退出させてから、こんな風に切り出した。「今から独り言を言うので、適当に聞き流してください。」「独り言?」「今日の夜、「偶然にも」厩と武具保管所の見張りがいない状態となっていまして。」「・・・」「そこに物盗りが押し入って、鎧一領とそれに付随する刀数本に槍二本、それと馬が一頭いなくなるかもしれませんが・・・まあ、誰にも使いこなせないので何ら影響はありません。更に」一度、息継ぎをして畳み掛けるように続ける。「これまた偶然に、夜中であるというのに、北門の見張りがいません。職務怠慢ですね? ですが人手不足で仕方が無いのです。その上一時的に開け放たれているようですが、これも人手不足で仕方がありません。」「・・・ぷっ。」閻行は、思わず噴出した。高順と蹋頓の遺品を全て渡した上で、自分が北へ行くのを黙認するというのだ。虹黒を渡してしまえば夏侯惇あたりが黙っていないだろうが大勢に影響は無い。「しかし、宜しいのですか。」「独り言、と申しました。ま、もし露見したところで、私の首1つで済むならそれはそれで安いでしょう。」陳羣は肩をすくめた。自分が、太守としてやるべき事は解っている。だが、高順の配下であったことを忘れる気持ちも無い。人として譲れない部分があって、その譲れない部分が「閻行に協力すればいい」と主張しているのだ。これくらいなら曹操にとっては痛手でもないだろう。もし露見して自分の首で購う事になっても、自分で言った通り「安いもの」としか思っていない。それから、時間の打ち合わせを行い閻行が退出する間際、陳羣は一つだけ聞いた。「あの、高順様の父君はどちらに?」「夫ですか?「行きたくないぃ、ワシは静かに暮らしたいのだー!」と抜かしたので簀巻いてます」(簀巻いてるって何だろう・・・)おかしな疑問を感じる陳羣だったが、一つだけ納得した事がある。高順様の割と小心な所は父君に、時折見せた武才は母君から受け継いだのだな。~~~深夜、厩にて~~~虹黒は誰もいない厩でふと気配と物音、匂いを感じた。懐かしい匂いだ。高順の匂い。だが、あいつは死んだ。・・・誰だ?少し落ち着かず、物音のした方向へ耳を向けて警戒をする。だが、その警戒はすぐに薄れた。現れたのは閻行。「あ、いた・・・よし、久しぶりですね、虹黒。随分傷だらけになって。」「ぶる」そうか、高順の母だったか。高順と閻行の匂いは良く似ている。というか親子だから似ていて当然である。その閻行、三刃槍と蹋頓の槍を担ぎ、鎧櫃(よろいびつ)を背負い、何故か簀巻きにされた夫を足元に転がしている。「虹黒、これから北へ行きます。苦労でしょうが、私達を乗せてくれませんか。」「・・・ひひんっ」虹黒は、高順以外は乗せる人を選ぶ。その虹黒から見る対人関係は、というと。相棒:高順。相棒じゃないけど乗っても良い人:蹋頓・沙摩柯・閻行・張遼・趙雲。世話をしてくれるし、嫌ってはいないので場合によっては乗っても良い人:楽進ら三人娘・閻柔と田豫・陳羣。世話をしてくれて、まだ幼いので乗せることが出来ないけど好んでいる人々:丘力居・臧覇・闞沢。嫌いな人々:曹操一派。死なすっつーか殺る:夏侯惇。と、こんな感じ。つまり、閻行は頼めば普通に乗せるのである。というか、素で怖いし。閻行は虹黒の背に鞍を置き、その上に夫やら何やらを担いで乗っかる。そのまま厩を出て、城を出て、街を北に抜けていく。陳羣の言う通り、巡回の兵士に出くわすことなく北門を抜け、振り返ることもなくただ北へと虹黒を駆けさせていく。北門城壁上では陳羣が佇んでおり、去っていく閻行の後姿に拱手し、静かに見送っていた。閻行は無言だったが、虹黒の背の上にあって(あの親不孝息子は、いつもこの目線で戦っていたのですね)と実感を持った。息子が虹黒の背から見ていたのは何だっただろうか。ただ戦場を見渡していたのか、それともその先にある何かだったか。答えが帰ってくるはずも無いのに、閻行は亡き息子にそんな事を語りかけていた。閻行は北平へ向かい、特に問題もなく趙雲達と合流。呂布らもいて、高順達を除く皆が揃っていた。そこで、閻行は貴方達なら使えるでしょう、と三刃槍を華雄に。(ここで、閻行は自分の斧を返してもらっている鎧と、乗りこなせるだろうということで虹黒を沙摩柯。丁原、そして高順の遺刀を干禁に渡した。蹋頓の槍は「丘力居に渡したほうが」ということで趙雲に託し、高順と蹋頓の死を皆に伝えている。(趙雲にとっては青釭の刀が高順の遺品となった皆辛かったし、妊娠をしていた(高順に伝えていなかった)張遼は「・・・うちと順やんの子、ずっと父親の顔も知らんと生きていくんかいな・・・」と嘆いていた。呂布達を快く受け入れた公孫賛も「あの馬鹿、逝き急ぎやがって・・・」と静かに泣いていた。高順の父は疲労しており、すぐに部屋に押し込まれて休む事に。趙雲は閻行に「あの子の遺した人々は、貴方が受け継いでください」と頼まれ、高順からも「俺に何かあったときは趙雲さんに」と言っていたことから反対者が出ることも無く、正式に高順隊の全てを引き継ぐ事になった。その趙雲は、閻行が(恐らくは)闘いに復帰すると思いながらも「母上殿はどうなさるおつもりです?」と聞いてみた。聞かれた閻行の表情に、僅かではあったが凄まじい殺意のようなものが浮かぶ。それは趙雲に向けられたものではなく、曹操や劉備に向けられたものだったろう。背筋に寒気を感じた趙雲だが、すぐに閻行は普段通りの穏やかな表情に戻る。「・・・やるべき事をやるだけですよ、超雲さん。息子夫婦を殺されたのですからね・・・。その代価は命で贖っていただきますよ。」そんなことを言って、閻行は賈詡に「少しお話が」と、何事かを相談し始めた。趙雲は、今の殺意に充てられ、そして思い出していた。あの殺意、ともすれば狂気に近い何か。どこかで見た覚えがある、と。それは直ぐに記憶から掘り起こされた。(そうか・・・。丁原殿が呂布の攻撃で致命傷を負ったとき。郝萌が、朱厳殿が、上党の兵が散っていったあの戦場で高順殿の見せたあの殺意だ・・・)あの時、高順は底の知れない殺意を呂布に向けた。その時までは勿論見たことも無かったが、今に至るまであれほどの殺気・殺意を漲らせたのはあの一度だけ。あの優しい、優しいどころか臆病といってもいい高順が見せた殺意。あれは自分だけでなく沙摩柯すら恐れるほどだった。高順殿のあの優しさは、父君だけから受け継いだものではないのだ、と実感する。多少の影響はあるかもしれない。だが、恐らくだが高順は母から受け継いだもののほうが多かったのだろう。母上殿は「西涼の狼」と言われてもおかしくないうちの一人だ。そして、狼とは家族・・・自分の周りの存在を大事にする。高順は、自分の回りの人々が傷つく事を、喪う事を恐れていた。そうならないようになるだけ力を尽くしていたし、係わり合いの薄い自部隊の兵でも、戦死すれば落ち込むということもあった。その優しさがあるから、丁原の死に怒り、呂布に挑んだ。あまり敵を作らず、大抵の人とは敵対をしない彼にしては珍しく、呂布との関係は最後までしっくりせず終わっている。優しい彼があの時見せた殺意、母上殿が見せた殺意。あと少しでも、たがが外れしまえば狂気そのものになりかねない、大きな感情だった。閻行という西涼の狼は家族を大事にしている。夫や子供である高順に対しての扱いはかなりぞんざいと言うか・・・ちょっと暴力的なところはあるが、あれは家族に対しての甘えと信頼の現われではないだろうか。事実、彼女は自分や楽進らに対して、意味も無く暴力を振るうことはないし、手合わせで完敗させられても必要以上の攻撃は加えていない。華雄も、配下の四将軍を家族同然に感じていたようだし、今も三刃槍を握り締めて騒いでいる。「こーろ-すー! 曹操も劉備もぜってーころすー!」放って置けば本気で行きかねない華雄を、徐栄や楽進が後ろから抱きとめて必死で抑えている。「あああああ、高順と蹋頓が殺されたのが辛いのは解りますが落ち着いてくださいー!」「そうです、今から行ってもどうしようもないです! 姐さん落ち着いてー!」「離せ徐栄、楽進っ! 今から行って仇を討つんだ!」「だからそういう問題じゃないです! 誰か、止めるの手伝ってぇぇぇっ!!」「仇を・・・高順と蹋頓の仇を討つんだーーー!!」涙目になって2人をズルズル引っ張っていく華雄。そこに李典や張遼も加わって何とか止めたのだが、華雄は「ちきしょおおおおぉぉ」と泣き出してしまっている。感情過多と言うか何と言うか。しかし、方向性は違えどこれは馬超・・・西涼の人間によくある性格だ。高順は、母の「家族を大事にする」という性質を母親以上に強く持っていたのではないか?だとすれば、自分が今まで高順に対して持っていた評価は少し違っていた、ということになる。(・・・いや)そんな事はもういい。今更評価が違ったとか、そんな事など。趙雲は苦笑し、首を振って頭の中で組み立てた話は綺麗に忘れようと努めた。ただ、1つだけ確信してそれだけは忘れまいと思う。狼から生まれた子は狼だ。高順もまた閻行の血を受け継いだ、西涼の血を引く優しい狼だったのだ、と。子を喪った閻行と言う狼は、もう一度戦場へ舞い戻り、己の敵に鋭い爪牙を突き立てんと疾駆するだろう。その日が来るのは、そう遠くない。(ここまでやったら)続(けないといけない空気なので最後まで書)く・・・かも。~~~もう一回楽屋裏~~~むぅ、後1回くらい出来そうな・・・w>異伝このルートだと閻行まで怒らせる羽目になるのですな。曹操も可哀想に・・・西涼の方々は家族愛が強そうなイメージ。明らかにオリジナル設定なこの作品の流れる先は一体どこだというのか。しかしあれだ。異伝、1話を書き直したい(笑或いは異伝だけ纏めて、あと加筆修正も多少やってから1つの話として投稿するべきかなぁ。・・・自分の苦労が増えそうなだけなので止めておくべきですかね(駄目ちなみに、泣いてる時の華雄姐さんは(`;ω;´)になってたと思われます(ぉ