【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第10話 官渡大戦。官渡要塞より2~3里ほど北。白馬より進軍してきた袁紹はそこに陣を構築。衝車(城門攻撃兵器)や井蘭車(城壁守兵を攻撃するための移動可能な櫓。弓兵を配置する)を持ち出し、万全の状態を築き上げている。また、兵糧集積としては烏巣を選び、ここに淳于瓊(じゅんうけい)・眭元進・(すいげんしん)・韓莒子(かんきょし)・呂威璜(りょいこう)など、武将数名と兵士3万を配置。他20万前後は全て官渡北陣地である。明日出陣、というその前夜。袁紹は界橋の時同様に戦場を見渡すための高台を作らせてあり、その場所に一人立っていた。「・・・。」風が吹き、袁紹の身につける外套・・・マントがたなびく。明日は曹操との決戦。勝てば全てを得、負ければ全て失う。しかし、要塞の守りは堅そうで多少の力攻めでは落ちそうにない。何とかして釣り出したいが、やはり一度二度は力攻めをしなければならないだろう。さて、どうしたものか。あれこれと考えている袁紹はじっと官渡へと目を向けている。だからだろうか、すぐ後ろに審配が歩いて近づいてきた事に、気付いていなかった。「何か見えますか?」「・・・っ、・・・ああ、審配さんですか。驚かせないで頂きたいですわ。」「はは、驚かせたつもりはありませんでしたが。」審配も隣に並んで、じーっと目を凝らして官渡要塞を見つめる。「別に何を見ていた、というわけではありませんわ。どう攻めるべきか、とね。」そう言って再び官渡へと顔を向ける袁紹。そんな袁紹の横顔を見る審配は「立派になられた」と心中に頷いていた。審配は少し話題をずらすように、こんな事を言い出した。「ここが天下分け目の合戦、というのかどうかは解りませんが・・・その地に殿と曹操が立つ。これも天命と言うものでしょうか。」袁紹は「天命?」と審配を見つめた。私にはそう思えるのですよ、と審配は言うものの、袁紹はすぐにそれを笑い飛ばした。審配を笑ったのではない。天命と言う言葉に笑ったのだ。「・・・何かおかしな事を言ったでしょうか。」「え? ふふふ。審配さんの事を笑ったのではありませんわ。しかし、天命ね・・・」「・・・?」「審配さん。私と曹操さんがここに在る事は天命でも何でもありませんわ。」「では、何だとお思いで」「曹操さんはどう思うか知りませんが、私がここに立つのは私の意思。」何もかもを天命などと決め付けられるのは癪ですわ、とまで言い切る。「天に確たる意思などなし。在るはただ人の意思、ですわ。運命というものはあるかもしれません。ですが、天意・天命などはありませんわ。時代が動くのも、戦が起こるのも、天命ではなく人の意思。」疫病や、イナゴなどによる食料事情の悪化はただ「運が悪い」だけなのだろう。彼女は今、韓馥の事を考えていた。天意があるというのなら、韓馥が死ぬのも天意だったろうか。いや、そんな筈は無い。あれは自分の不始末であり、自分の未熟さが招いた結末だ。自身の意思が届かなかったから、あんな事になったのだ。天意などという不確かな言葉に踊らされる必要など、人である自分には必要が無い。天意・天命と言う言葉で自分を赦し、乱世を赦すほどに自分は突き抜けてはいない。「私は私自身の意志でここに立っておりますわ。それとも、審配さん・・・貴方がここにいるのは天意とでも? 貴方は貴方の意思で戦うことを選び、今ここに在るのではありません?」「むぅ・・・いやはや、何とも。」何とも言い返しようのない審配であった。官渡要塞。曹操もまた、城壁に上がって袁紹のいる北を見つめていた。(しかしまあ、何と言うか。あの麗羽がね・・・。)曹操の思案はその一点のみを考えていた。昔、洛陽で知り合ってから、悪友と言うべきか・・・微妙な間柄である。お互いの真名を呼び合っていい仲だし、あの頭の悪さとか凄絶にお馬鹿で、周りをイラつかせる事に定評のあった袁紹。その馬鹿さ加減が妙に憎めないから不思議なものである。そのお馬鹿がこの曹孟徳の覇道を妨げんと目の前にあれだけの威容を整えている。何かあって変わったのか、それともお馬鹿のままなのかはまだ解らない。ただ、袁紹軍の気勢は只ならぬものがある。という事は理解していた。「攻めてくるのは明日でしょうね。打って出るか、それとも守りを固めるか。」袁紹軍は要塞を責めるための攻城兵器を押し出してくると思われる。先ずはあれらを破壊しないと守備に徹する事もできないだろう。それに関しては投石器を作らせていて、それで対処をする。李典の作成したものを干禁が覚えており(うろ覚えながらも)数は揃えている。当然、李典が直に作成したものより性能は格段に劣るが、それでも砦に篭りつつ強力な反撃能力があるというのは心強い。「さぁ・・・麗羽、貴方はどう出るのかしら」翌日。袁紹は出撃する準備を、曹操は迎え撃つ準備を終えて開戦の時を待つ。「殿、全軍の攻撃準備、完了いたしました!」審配の声に袁紹は「宜しい」と答える。彼女は既に騎乗、その前には烏巣守備隊以外の全ての将兵が揃っている。袁紹は馬を少しずつ歩ませて将の名を呼んでいく。「顔良さん、文醜さん!」『はいっ!』「審配さん、呂曠さん、呂翔さん、麹義さん、陳琳さん、周昂さん、蘇由さん、王修さんっ!!」『ははぁっ!』この戦いに参加していない高幹と蒋義渠(しょうぎしょ)は公孫賛・張燕に対しての牽制で残されている。高幹が張燕にしてやられたのは、城攻めに移行しようとした所で投石機で撃退された・・・らしい。そのやり口をしっているなら、同じヘマは2度としないだろう、と考えて再度張燕に対しての牽制を行わせている。この戦いを終わらせれば、再度北へ向かう。そして公孫・張、そして烏丸の連合を降伏させる。それでこの大陸の半分は獲った事になるのだ。後は時間をかけてゆっくりと勢力を伸ばしていけばいい。どれほどの時間がかかるかは解らないが、都市を、街を、村を少しずつでも豊かにして行けばそれで良い。袁紹は腰から吊るしている袁家の宝刀「至誠三綱(しせいさんこう)」を鞘から抜き放ち、高くかざす。陽光を受けた刀身は眩く輝いた。(行きますわよ、華琳さん・・・!)官渡要塞にある曹操軍も既に迎撃の・・・いや、出撃の準備を整え終わっていた。夏侯姉妹、張遼など、一騎当千の兵たちも、曹操の合図を待つ。曹操自身が陣頭にたち、袁紹軍の鬨の声を待つばかり。(さぁ、かかってきなさい・・・麗羽!)袁紹が宝刀「至誠三綱」を掲げ、曹操が愛鎌「絶」を掲げ。お互いの姿、声も聞こえず。それでも、その言葉だけは自然と重なった。「全軍っ!」「攻撃・・・」曹操が、袁紹が、己の得物を敵へと向かって振り下ろす。『開始っっ!!』将兵の鬨の声が重なり、官渡の地を揺るがせた。袁紹軍は官渡要塞へと突撃。そして、曹操軍も要塞から出撃。わざわざ有利な防衛戦を選ばないのだから自信が・・・と言いたいところだ。曹操側は短期決戦を望んでいる。やはり、兵糧が長持ちしない。備蓄してある食糧が少なくて長期篭城を選べない状況にある。もっとも、先陣を切って突き進んだのは曹操軍の最精鋭部隊と、あの夏侯惇である。その突撃を受けて、意気揚々と進んできた袁紹軍先鋒の中央部隊を易々と打ち崩し、更に突き進んでいく。「はっはっは! どうしたどうした、この夏侯元譲を止められる者は袁家にはいないかーーー!!」いるわけがない。少なくとも、雑兵では止める事ができない。「まったく、姉者は・・・あれほど単独で突っ切るなと言われているだろうに。」姉の猪突猛進を尻目に、その妹である夏侯淵は左翼にて弓を構え、味方の遺体を乗り越えて進んでくる袁紹軍に矢を浴びせていく。夏侯淵は基本的に弓兵を束ねるが、別に歩兵を扱えない訳でもないし、自身も肉弾戦が不得手な訳でもない。彼女も夏侯惇同様に軍を率いて左翼で袁紹軍と真正面から切り結んでいる。今は歩兵を率いているが、その歩兵部隊後方に弓手が多くいて、また城壁にいる弓兵の援護射撃もあって有利な状況で戦っている。そして右翼。こちらでは張遼騎馬隊が突撃を仕掛けている。「なぁっはっはっはっは! 脆い、諸すぎるわぁっ!」袁紹右翼側は蘇由という武将が率いているのだが、これが相手にならない。張遼得意の神速突撃を真正面から受けてしまい、中央同様あっさりと崩されている。その蘇由の後陣を守るのは周昂。蹴散らされる蘇由部隊を収容しつつ、矢を何度も射かけつつ少しずつ後退。手堅い防戦である。張遼はそれをものともせず突撃を仕掛けていくが、やはり守りが堅く今度は容易に抜けない。真正面からかち合う両部隊だが、そこで張遼隊の後ろに隠れつつ温存されていた干禁の遊撃部隊が一斉に周昂隊の横腹を付くように動き始めた。蘇由の兵を収容しつつ何とか守っていた周昂だが、相手は張遼。元から分が悪いのに体力の有り余ってる新手を加えられてはどうしようもなく。こちらも徐々に崩れていく。干禁も馬上で二刀を振り回して、面白いように周昂隊を横脇から斬り散らしていく。「どけどけなのー! 立ち塞がるやつはなます切りにするのーーー!」「うおわぁぁあっ!?」流石に、戦に参加した回数事態は少なくとも、参加した戦自体が凄まじい規模のみである干禁。(高順一党全員に言えることだが修羅場、或いは死線を潜り抜けた中で培った技術、戦に対しての勘は中々のものであり、袁紹軍の兵を瞬く間に蹴散らしていく。蘇由・周昂の軍勢も耐えようとするが、張遼の攻撃に抗しきれず、これ以上は被害が大きくなると考えたのか退き始めた。張遼・干禁は追撃を敢行するが、流石にそこから先は甘くなかった。麹義率いる弓弩隊が待ち構えており、意気に乗って突撃した騎馬隊の兵を次々と射抜いていく。麹義は自軍の目の前に展開する張遼隊の動きを見て「この条件であれば公孫賛と同じやり方で通用する」と見る。中央・左翼・右翼は上手く連携が取れておらず(夏侯惇の猛進が原因)で、危機に陥っても援護をしてくれる部隊は少ない。麹義は、真正面・遊撃隊が進んでくるであろう左側に対して矢を構えて撃ち込んで行く。張遼と干禁は矢を叩き落しながら「これ以上は無理だ」と判断、部下を下がらせる。ここで追撃があれば不味い展開だったろうが、麹義隊は中央で苦戦する呂翔、呂曠の援護を優先させるべきと考えて、そちらに向かう。蘇由・周昂隊もけっこうな被害を出しており、彼らも焦って追撃をせずに、守りを固めたのである。そのお陰で無事に撤退、再度出撃準備を整える張遼隊であった。中央を進む夏侯惇。彼女と、彼女率いる部隊の突撃力は凄まじかった。何せ夏侯惇が進むところ袁紹軍の兵の屍が積み重なっていくのだから。鎧袖一触、とでもいうべきか。延々進み続けて、部隊が孤立しかかっているのだが、そんなこともお構いなし。「どうした、袁紹の元には良き武人がおらぬと・・・んっ!」その突進が、不意に横合いから襲ってきた兵の斬撃によって止められた。もっとも、それは夏侯惇が咄嗟に後ろに飛びのいたので命中していない。夏侯惇は楽しそうに笑い、斬りかかってきた者を見据える。「ふむ・・・?」「こ、これ以上はいかせません!」自信なさげに立ちはだかる武将。それは呂翔、呂曠の部隊を援護するために進んできた顔良であった。「ふん、お前か。まあいい、少し退屈していてな。相手になってもらおう!」(ひぇぇえぇ・・・勝てるわけないよぅ・・・!)獲物を見つけた猛獣のように、目をぎらぎらさせて刀を構える夏侯惇。その姿にビビリつつも、二刀を構えて対峙する顔良。本来、顔良の武器は文醜によって(無理やり)持たされた大金槌であったが、右手に長刀、左手に短刀・・・いや、小太刀と言ったほうがいい長さの刀を持っていた。元々小回りの利く武器を得手としている顔良なので、小太刀を選んだのだが、それだけでは殺傷力に劣ると長刀を持っている。「さあ、行くぞ!」びびってる顔良に構わず、夏侯惇は一足飛びに距離を詰め、刀を両手で構え斬撃を見舞う。「ひゃっ」顔良は、上段から繰り出された一撃を小太刀で斜め下に受け流し、右手の長刀で刺突攻撃を繰り出した。その刺突を、受け流されて地面に叩き付けられた刀を持ったまま前方へ空中回転して避ける夏侯惇。無理な体勢であったが、きっちり着地。すぐに振り向いて顔良の背中左側に突きを見舞うも、それを読んでいた顔良は背を向けたまま僅かに右へ移り、小太刀を水平に構えて刃が交差した瞬間に上に叩き上げた。ガキィン、という音が響いて夏侯惇の刀が上へ払いのけられる。「くっ!?」「せぇぇい!」夏侯惇がバランスを崩した隙に、顔良は右側から後方へと回るように、長刀で回転斬りを放った。「ちぃ・・・!?」身を逸らせて避けようとするが、長刀の間合いを僅かに計り損ねたらしい。右側から迫ってくる刃をほんの少しだけ避けきれず、長刀の先端が夏侯惇の頬を切り裂いていた。僅かに血が飛び、夏侯惇は「ほぅ!」と感嘆した。「なかなかやるな・・・? お遊びで片をつけられると思っていたが・・・はははっ! 楽しくなってきたぞ!」(や、やっば・・・本気にさせちゃったっぽい!?)やっと楽しめそうな奴が出てきた、と嬉しそうに刀を構えなおす夏侯惇。顔良は恐ろしさのあまり泣きそうになりつつも、少しずつ後ろに下がりながら応戦する。これは袁紹の「猪突猛進の夏侯惇をこちらの陣まで引きずり込んでから多勢で押しつぶす」という策に則っての動きだ。ある一定の位置まで誘き出してから、後陣に控える審配・文醜隊が前進して囲む、というものだった。(でもやっぱり怖いぃぃぃいぃっ!)顔良の苦労はまだまだ終わらない。左翼では。こちらは中央・右翼のように突出、あるいは後退せずに出撃初期の位置を堅持している。というのも、本来はもっと要塞側に誘き出しつつ後退、投石器で攻撃。それに怯んで後退を始めたら一気に猛追、ある程度の損害を与える。これが当初の予定だったのだ。それが、思った以上に夏侯惇があっさりと先鋒中央を打ち破ってしまったので、何かもうグダグダになってしまっている。(姉者・・・。華琳様の命令を全く理解していなかったな・・・)張遼にしても、程ほどに攻め込んで程ほどに退いているのだが・・・ただ1人、夏侯惇だけが無茶苦茶に攻め込んで全く戻ってこない。結果、中央部に敵兵が集中する感じになって、左翼の重圧事態はそれほどでないから楽は楽なのだろう・・・が。夏侯惇を連れ戻す手立ても無く、ただ耐えて戦うことしか出来ないジレンマ状態だ。当然、自分の盤面を崩された曹操が面白がるはずもなく。 「行かせなさいっ! あのお馬鹿はーーーー!」「駄ー目ーでーすーっ!だから、華琳様(曹操の真名)が言っちゃだめですってば!」「え、流琉(るる、典韋の真名)も一緒に行こうよ。」「馬鹿なこと言わないで、っていうか季衣(きい、許褚の真名)も一緒に行こうとしないでよ!」本陣では、行かせろ行かせないの押し問答が発動していた。「これじゃ、こちらの作戦が滅茶苦茶だわっ! いいから行かせなさい、ついでに袁紹軍も斬り散らしてくるから!」「いよぉし、僕たちの出番だね!」「あああぁぁああっ! だから、皆で出ちゃ駄目だって華琳様が言ってたんですよーーー!!!」許褚と曹操は行く気満々。典韋は止めるのに精一杯である。曹操からすれば珍しい事だが、今回は割と素で怒っていた。あのままでは夏侯惇だけでなく、夏侯淵も押し込まれる羽目になる。張遼、干禁は一度態勢を立て直すために退いて、今度は上手く敵を防いでいるが。このままでは不味い、という僅かな焦りと夏侯姉妹の危機に、曹操は我を忘れかかったようだった。そんなところへ、郭嘉が程昱が駆け寄って来た。「な、何事ですか!」「おお、華琳様が憤っておられるのです。珍しい光景に風(ふう、程昱の真名)も・・・ぐぅぅ」「寝るなっ」「・・・おぉっ!? うららかな陽気に誘われて」「・・・。今は戦争中ですよ、風。じゃない、一体どうしたのですか。」微妙且つ毎度の漫才をやり終えてから、郭嘉は典韋に聞く。「ああ、稟(郭嘉の真名)さんに風さんっ・・・お願いですから一緒に止めてくださいよぅ、華琳様がどうしても出撃するって」「は・・・? しゅ、主君たるものがこのような状況で出て行くことに何の益が!?」「五月蝿いっ。これ以上は見過ごせないだけよ!」典韋を引きずってまで出撃しようとする曹操。その典韋と同じように、曹操を引っ張って止めようとする郭嘉。程昱は(何故この時代にあるかは全く不明だが)ぺろぺろキャンディーを舐めつつ、ぽそりと呟いた。「主君たるもの、勇敢であっても好戦的ではいけないのですよー。春蘭ちゃんが心配なのは解りますけどー、このまま華琳様ままで出張るのは逆効果です」「その通りです、ですからお止めください!」程昱の主張に郭嘉は賛同、曹操も少し冷静になって足を止めた。「ふー、ふーっ・・・。でも、このままじゃ不味いのは解るでしょう。」「いっそ、銅鑼を春蘭ちゃんの頭にぶつけるとかー。」「・・・どこまで遠くに飛ばせばいいのよ。」はぁー、と曹操は溜息一つ。「銅鑼はともかく、不味いのは事実ですねー。春蘭ちゃん、けっこう袁紹軍の陣の奥まで引き込まれてますしー。」それは曹操も知っている。あのままでは夏侯惇は敵中深くに孤立する。彼女の連れて行った部隊も微妙に引き離されてしまっているのだ。「あの麗羽がそこまで考えた・・・? いや、しかし」「華琳様、今の袁紹を華琳様の知っている袁紹と同一に考えるのはお止めになったほうが・・・」あの麗羽にそこまで出来るはずがない、と否定しかかった曹操に郭嘉は提言をする。曹操は面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らした。「それよりも、あのお馬鹿をどうやって連れ戻すか、よ」「手が無い訳ではありませんよー。春蘭ちゃんに「ご飯の時間よー」とでも伝えればすぐに帰ってきま・・・す、ぐぅ」『寝るな!』「おぉっ!?」またしても眠りそうになる程昱に、全員で突っ込みを入れておいて。「でも、そんな恥ずかしい手段で何とかなるものかしらね・・・?」なんというか、そんなことを大声で言うのも嫌だ。しかも、何となく普通に帰って来そうではある。「一番いいのは「早く帰ってこないと飯抜き」とか「夜のお勤めでしばらく声をかけず」とか「・・・ぶはぁっ!」あ。」夜のお勤め、という言葉を程昱が口にした瞬間。むっつりスケベかつ、脳内妄想ピンク色の郭嘉が、鼻血を見事なアーチで噴出し卒倒するのであった。何を想像したのやら。本当に大丈夫なのだろうか、これで・・・?曹操は最終的に「春蘭ちゃんなら多少岩がぶつかっても平気ですよー。やっちゃいましょー」という、程昱のとんでもない策を実行。左翼・右翼の袁軍に対して投石機を作動させた。虎牢関で投石機相手に苦戦した事を覚えていた袁紹は、「このままでは前線部隊の士気が低下する」として、惜しげもなく後退命令を出した。投石が開始されたことで夏侯惇も「あ、あれ・・・?」と、自分の任務を思い出して慌てて後退。審配・文醜部隊が出る前の話だったので、袁紹の策は不発に終わる。その代わり、引きずり込んで袁紹軍先鋒に大打撃を与える、という曹操の策も不発。お互い痛み分け、という形で官渡初戦は幕を閉じるのであった。~~~楽屋裏~~~あれ、今回は出る予定の無かった稟&風コンビが・・・あいつです(挨拶この2人は出てくると必ず寝るか鼻血を出す。運命ですね(何がさて、官渡初戦はこんな感じでした。袁紹軍の左翼を率いたのは・・・誰なのでしょうね、朱霊か王修のどっちかでしょうねw~~~番外編、その頃の孫家~~~楊州で、ついに純粋な意味での自分達の地盤を手に入れた孫家。その意気は大きく、すぐさまに「袁術討つべき」の声が挙がっている。だが、孫策も周喩も勢いに流されずに自制をしていた。何故か。単純に兵力の問題が1つ。一度に領地を広げた為に兵力の増強が追いつかない。その2に、兵を増やしたとして、その兵を養うだけの物資が無い。もともと孫家に懐いている江南の民は、孫家・・・というか孫策の帰還を心から喜んでいた。そうでない人々も多少はいるが、ごく少数と言っていいだろう。また、袁術は地味に荊州に領地を広げており、袁術と敵対してしまうと荊州まで攻略対称に入る可能性が高い。劉表もいずれ倒して荊州を得ることを画策している孫策ではあるが、一度に、そして戦力豊富である二勢力を相手にするつもりは無かった。さあ、どうしようか・・・と、孫家の首脳陣が頭を悩ませている頃のお話である。甘寧と周泰。孫家の武将の中で、軍を率いる才能も高く、個人の戦闘力もある。そして情報収集もできる・・・と、色々な戦闘術に才覚を発揮する2人は、城の中庭で稽古をしている。甘寧はいびつな形をした曲刀、周泰はあまり反りの無いが日本刀に近いものを得物としている。抜き打ち、というよりも居合い・・・というほうがいいだろうか。精神修練というほうが正しいような内容である。両者共に、一定の間合いを開けたまま微動だにしない。じっと刀の柄に手をかけて必殺必中の一撃を繰り出す「機」を探っている。高順がそこを通りかかったのは、二人がその機を窺っている真っ最中の事であった。「大将、親衛隊の事なんすけどー」「何だよ、その親衛隊って?」「親衛隊は親衛隊っすよ?」周倉と高順は並びあって歩いている。周倉。彼女は高順が孫家に流れる前に、ちょっとした事が縁で彼に仕えるようになっていた。元々黄巾賊に身を置いていたのだが、それがあえなく消滅してしまったので仕方無しに、仲間達と共に山賊に身をやつしていた・・・という境遇の女だ。賊らしく、胸を適当な布で隠し、その上に胸当て。使う武器は二刀というか二斧。外見に見合ってサバサバというか乱暴な性格だが、ネジくれている訳でもなく割と真っ直ぐな性質だったりする。その周倉は、高順の親衛隊長として張り切っているのだが。「だから、何で親衛隊かな。俺ってそんなご大層な身分じゃないですよ?」「身分とかじゃなくて・・・んー、俺達の自負というか自尊心というか心意気というか。」「何ですよ、それ・・・。」「ほら、強い奴でも身の回りを守る兵はいるじゃないっすか。あれっす、あれ。」「解るような解らないような。で、その親衛隊がどうしたの?」「十人ほど、戦死したっす・・・。」周倉は少し寂しそうに言う。周倉は、山賊に身をやつしながらも親衛隊(仮)を率いていたのだ。「・・・。そっか、その人たちに家族は?」「いねーっす、皆天涯孤独っすからね。きっちり弔いやした。」「ん。今はいなくても、いつか家族も出きるだろうからね・・・そうなったら申告してくれよ。家族手当とかも出す・・・お?」「へ?」高順が何かに気付いて、そちらに顔を向けたのに釣られて周倉もそちらを向いた。みれば、甘寧と周泰が対峙している。「何だありゃ。訓練っすかねぇ。」「みたいだね。」高順はそれを見て興味が沸いたらしい。孫家の武将同士の訓練と言うのを見た事が無い、という事もあった。つい先日まで戦争をしていたので当然と言えば当然である。高順はそちらへと歩いて行き、周倉も続く。甘寧達はその動きに気付いたが、それで集中を途切れさせるような事もなかった。その沈黙は更に続くのだが、不意に彼女達の間にあるピリピリとした空気が不意に「ぐにゅり」と曲がる。高順と周倉もそれを感じたようで「おや?」と思ったその瞬間。今まで沈黙を保っていた甘寧と周泰の風を巻くような一撃が交差。金属がかち合う音が響き・・・その僅か後に、周泰の手に握られていた筈の刀がくるくると宙を舞い、地面に突き刺さった。「あくっ・・・」「勝負あり、だな。」甘寧は冷静に言い放ち、周泰は衝撃で手が痺れたのか、右手の甲を抑えて蹲った。「いやぁ、たいしたもんだ」高順はそう声をかけて、周泰の刀「魂切(こんせつ)」を拾い上げる。そのまま周泰に近づき、はい、とそれを手渡す。周泰は「あ、ありがとうございますです!」と恥ずかしそうに笑いつつ受け取り、鞘に納めた。「ふん、貴様か。」対して、甘寧は少し不機嫌そうだった。「あぁ? 文句あんのかテメェ。」「黙れ、殺すぞ・・・」「はいはい、辞めなさいって。」甘寧の態度に周倉が反応してにらみ合いになるが、高順が間に入って仲裁。にらみ合っていた二人は「ふんっ」とそっぽを向いた。(本当に相性が悪いんだなぁ、この人たち・・・)最初の出会いからして印象最悪だったみたいだし、と高順はそっと溜息をついた。甘寧は高順に心を許していない。だからといって蛇蝎の如く嫌っているわけでもない。新参でありながら、孫策・孫権など呉の上層、主要人物に評価されている高順が気に入らないのだろう。或いは、自分を負かした沙摩柯の上司であるからかもしれない。もっとも、高順は甘寧を嫌っていないし、敵意も無い。自分が嫌われている程度であれば、別に問題は無いだろう。部下たちとは上手くやってほしいと思っているが・・・。それに対して、周泰は誰にでも愛想がいい。降将といっても良い高順達にもごく普通に接しており、評判は悪くない。高順は彼女の性格を見て「主を慕ってどこまでも着いていく忠犬はち公・・・いやいや。」とか思っていたりする。「大将がそう言うなら引きますけどね・・・」「ふん、大将大将と喧しい奴だ。」「あぁ・・・? 言葉だけじゃなくて、腕の方でも負かされてぇみてーだなオイ」「だから辞めろって言うのに!」これである。周泰も「け、喧嘩は駄目です!」と慌てている。このままじゃ不味い、と高順は「そ、それよりも!」と話題をそらそうとした。「さっき、二人の間合いが何かこう・・・「ぐにゃっ」ってなったように見えたんだけど。あれって何だったのさ?」「・・・ふん、原因はあれだろう。」少し気を落ち着けた甘寧が中庭の一角を指差す。そこには、猫が一匹。日向ぼっこをしているのか、そこで丸まって毛づくろい等をしている。「にへへ~」「しゅ、周泰さん?」「にへへ~・・・」その猫を見つめた周泰はにやけ、甘寧はやれやれ、と首を振った。「そいつは猫好きでな・・・。」「・・・見れば解ります。ええ」「はぁ、腕はともかく。猫に気を取られて集中力を途切れさせるんじゃない。」「はうっ・・・反省することしきりです」甘寧の一言に周泰はしょんぼりとうなだれて反省。「さて、私はそろそろ行く。ではな。」「はい、お付き合いくださってありがとうございました!」「ああ。」去っていく甘寧に、周泰は一礼。そして、周泰は「お猫さま~お猫さま~ぁ・・・にゅふふ♪」と笑いつつ猫のほうへとゆっくり歩いていく。特に意味も無く、高順と周倉もついていってしまう。何だか面白そうだし。「・・・(ぴくっ」猫も感づいたようで、警戒態勢をとるが、周泰の顔を見てすぐに警戒を解いた。見知った顔と言うことだろうか。「怖くありませんよ~・・・♪」そろそろと近づいて、周泰は猫を抱き上げた。「にへへぇ♪ ふわふわなのです~」「みゃー・・・」抱きかかえた猫の手触りを思いっきり楽しんでいる周泰。表情は緩みっぱなし、頬も桜色に染めて・・・なんだか心の底から幸せそうである。猫は少し迷惑そうであったが「まぁ仕方ないよね」という感じでされるがまま。「へぇー・・・慣れたもんだねぇ。」「ひゅわっ、い、いつからそこにっ」「いや、最初からいたじゃんよ・・・餌付けしたのか?」「ひゃ、ひゃいっ! お城の中でお腹を空かせてて、それで餌をっ」周倉の発言に驚いたり恥ずかしがったりと、周泰の表情はめまぐるしく変わる。だがすぐに猫を撫でて「にへへ~・・・」と頬が緩む。猫は困ったように「にゃー」と鳴き、やっぱりされるがまま。それを見ている周倉も少し頬が緩んでいる。その愛らしさに我慢できなくなったのか「お、俺も抱かせてもらっていいかなぁ?」とか言い出した。周泰も迷わずに「はい、どうぞっ♪」と周倉に猫を抱かせる。「にゃー?」周倉の腕の中におさまった猫は不思議そうに周倉の顔を見つめる。逃げないのを見れば、餌付け云々ではなく、最初から人懐っこいのかも。「お、おおぅ・・・これはっ。ふっ、ふわふわっ、もこもこっ、すりすりっ・・・はぁぁぁ~♪」「しゅ、周倉さんっ!?」「にゃぁー」・・・。(恐るべし、猫ぱわー。あの周倉さんがあっさり陥落するとは・・・。つうか頬ずりしちゃってるよ。頬がにやけまくってるよ!)猫も、周倉を気に入ったのか目を細めて気持ちよさそうにすりすりしている。「にゃー(すりすり、ごろごろ」「おおおおお・・・(悦」「おお、周倉さん凄いのです! お猫さまがあっさりと!」(・・・周倉さん、女の子だなぁ。)普段は男勝り・乱暴ガサツ、という周倉が可愛い動物にあっさり心奪われる姿を意外に思いつつ、猫に魅了されている二人の様子を観察する高順であった。(楽しいし~~~もいっちょ楽屋裏~~~真面目ばかりじゃ面白くないのでたまには息抜きを。まあ、原作ねたを改変・・・改悪してるだけですけど。こうして番外編が増えていくにつれ話数が減っていく罠。このネタだけで一話書けるんですけどね・・・長いとだれそうになるので辞めておきます(笑あと、3日ほど前に何故かネットに接続できない祝い呪いを受けました。触りもしないプロキシ設定とかポート設定が・・・んがぐっぐ。