【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~~高順伝外伝 河北の王・袁紹伝~~~ 第2話。韓馥のもとに袁紹の「親書」が届けられたのは、袁紹軍が鄴の東・・・2里か3里ほどに陣を置いた翌日の事だった。その数、およそ3万。まだ北城壁の補修が終わりきっていない状況、その上兵数も1万数千。韓馥側も徹底抗戦を望む訳ではなく、何とかして僅かでも有利な条件を引き出して和睦、或いは降伏を望んでいた。親書は「公孫賛が鄴へ攻め入らんとしている。鄴の戦力では防ぎきれないし、私(袁紹)と韓馥の仲でもあるし力を貸したい」という旨の内容である。そして、話し合いがしたいので袁紹軍陣営まで来られたし、と締めくくられていた。「罠でしょうな。」「罠としか言いようが。」「私もそう思います。。」「うむ、十中八九どころか十中十罠です。」「・・・あ、あはは・・・。」張郃・高覧・沮授・辛評が次々に言う言葉に、韓馥は苦笑していた。幼い頃からよく我侭を言われて袁紹に振り回された韓馥にもそれはわかっていた。話し合いがあるのなら、自分からやってくるべきだし、袁紹がそこまで複雑なものを持った人と言うことでもない。というか、こんなに彼女の字は上手くない。だが、話しはこちらからもせねばならない事だし、頭が悪いとは言え道理を尽くせば袁紹も話の解らない人ではないのだ。韓馥は話し合いに応じることにした。こうなる結果が解っていた韓馥の部下達は溜息をつき、それならばと沮授は献策する。「まずは返書を出します。使者としては耿武(こうぶ)と閔純(かんじゅん)が宜しいかと。まだ袁紹本人の考えかどうかは解りませぬし、相手の真意を探らなくては」これが袁紹の考えであろうと、この親書を出した者が本人とは限らない。というか多分他の誰かが書いている。交渉をするなら頭の悪い袁紹相手のほうが分は良いし、袁紹が着陣するまでは無用な力攻めなどは行わない公算が大きい。もしも目の前に着陣している部隊が攻撃を仕掛けてくるのなら、それこそ公孫賛にでも助けを求めればよい。袁紹(の策ではないだろう)が公孫賛をダシにしているというのは、公孫賛の軍事力が厄介であると考えている事の裏返し。ただ、問題はあった。耿武と閔純、彼らは韓馥が幼い頃から仕えている人々だ。忠誠心に厚いのは良いのだが・・・割と過激な面があって言動も素でヤバイ。この件で呼び出された時。「もし何かあったら袁紹を刺してきます!」とか「袁紹ヤれば解決でいいんでしょぉ? 簡単なことですぜフハハァー!」とか・・・なんというか言動がキツイというか何かを極めちゃってるアレな感じなのだ。こんなのに使者を任せるというのがそもそも間違っている気がしないでもない。韓馥も信頼はしていても不安になったのだろう。「絶対、おかしなことしちゃ駄目ですからね?」と忠告しているのだが・・・「解りました! 暗がりで刺してきます!」「要はばれない様に後ろからザックリいけってことでしょぉ? 朝飯前だぜぇ、ヒャッハァ!」「全然解ってない!? お願いですから変なことしないでくださいね!?」「解りました! 許可をいただければ皆殺しにして見せます!」「おいおい、俺達2人であの3万の軍勢をヤれだってぇ? 殺戮の予感に胸が躍るぜぇ、イヤッハーーーァッッ!!」「言葉通じてます!? というか僕を困らせて楽しんでるだけですよね!!」「何故解ったのですか!? 騙せると思ったのに!」「おいおい、俺は本気だったぜェ!」・・・。3人の遣り取りを見て「こんなに危なっかしい奴らで大丈夫なのかなぁ」と周りにいた人々全員が不安になったとか。こう見えても彼らは韓馥の身の回りの世話などは完璧にこなすのだから、世の中と言うのは解らない。沮授は(不安感を打ち払って)さらに指示を続けていった。袁紹軍陣営。こちらでは意見の相違があって混乱、或いは衝突していた。麹義、高幹ら常識的な武将と、郭図・逢紀・許攸といった金や権力の事しか考えてない謀臣。なぜ衝突しているかと言えば、耿武と閔純が韓馥の返書を携えてきたことによる。最初、麹義は「何の返書だろう?」と思っていた。聞いてみれば、袁紹から親書が送られ、それに対しての返事だという。麹義も高幹も、そんな親書が送られていたことは知らなかった。「郭図らの仕業だな」と思いつつも、なんとか上辺を取り繕って使者を送り返したのだが。その後、麹義は郭図ら3人の謀臣を呼び出して怒鳴りつけていたのである。「貴様ら、一体何のつもりだ!」「はて、何のつもりとは?」「とぼけるつもりか? 韓馥殿に対して親書を出したのは貴様らであろう!」「さて、何の事やら・・・?」郭図・逢紀・許攸はあさっての方向に視線を泳がせる。「総大将である俺に断りも無く、その上袁紹様の名を騙るとは・・・。」「はは、麹義殿。貴方は勘違いをしていらっしゃる。証拠も無く我らを疑うとは、いやはや。」「くぬっ・・・!」こいつら以外にそんな真似をする奴は居ない。麹義もそれくらいは理解できる。が、しかし。証拠が無いというのもまた事実であった。「それに、ふふふ・・・忙しくなるのはこれからですぞ?」「・・・? 忙しく、だと?」逢紀のいやらしい笑みに、麹義は悪寒のようなものを覚えた。(こいつら、何を考えて・・・)「そろそろ、報告が来る頃でしょう。「韓馥から遣わされた使者が変心。麹義殿を暗殺しようと目論んだので処刑した」という報告が。」「・・・! き、貴様らっ!」この瞬間、麹義も高幹も、この謀臣らの考え全てが理解できた。何でも良かったのだ。「韓馥からの使者」を誘き出す事が出来れば。その使者を秘密裏に殺して「こちらに被害を出そうとした」という状況をでっち上げる事がこいつらの目的だったのだ。陣内部で殺してしまえば。郭図らが命じれば兵士達も口を噤む。そして、その状況が作り出されてしまえば、お互いが後に引けなくなる。韓馥でも良かったのだろうが・・・麹義は「ちっ!」と舌打ちをして、陣を出ようとした。止めさせなくては。これでは袁紹様の意思を無視することになる!しかし、それは間に合わなかった。ほぼ同時に、2本の剣を携えた兵士が陣幕へと駆け込んできたのだ。青くなる麹義。そして笑みを浮かべる郭図達。兵士は郭図らに血まみれの剣・・・韓馥軍が正式採用している二振りの剣を捧げるように手渡す。「むふふ、ご苦労。これで韓馥を攻める口実が出来ましたなぁ・・・。っくくく。こちらの兵も死んだようですが、何。この状況を作るためならば安いというもの。」(・・・くそっ。こちらが攻めなくても向こうは篭城か、或いは攻めてくるか・・・)使者として派遣された耿武と閔純の首は鄴に向かって晒されたという。鄴城にて。こちらでは、2人の首が晒されてすぐに戦闘態勢を整え始めた。これは袁紹軍が難癖をつけてくることも予想していた沮授・辛評の手配で、僅かな期間で全兵を纏め上げている。それを尻目に、韓馥は幼い頃から自分を守り続けてくれた耿武と閔純の死に落ち込んで涙を流した。確かに物騒な人々ではあったけれど、韓馥の命令には絶対に背かない忠臣でもあった。その2人が、袁紹の暗殺など・・・いや、最初はヤる気満々ではあったが、韓馥の命令に従って馬鹿な真似はしなかったはずだ。状況からすれば、本来はここで両陣営共に使者を出して誤解を解くべきであった。だが、こうなってしまった以上はどうしようもない。と諦めてしまったのである。沮授は「本当に耿武達が暗殺を試みたのかを問う使者を出すべきではないか」と思ったが、それも口封じで抹殺されかねない。賽は投げられた、ではないが・・・ここまでくれば互いに後戻りなどできよう筈も無い。そう思い込んでしまったのだ。韓馥は大広間で、配下の武将全員を集めている。彼は、このような事になってしまい、申し訳ありません。と頭を下げた。「まず、勝ち目の無い戦いです。袁紹軍の兵力は3万以上、こちらは・・・出撃できる兵数は1万前後。何より、向こうには後詰もあるはず。・・・沮授さん」呼ばれて、沮授は続ける。「現状で勝ち目はありません。市街戦を想定しておりましたが・・・先ず、目前の部隊に一当てし、そのまま北を目指すのです。」「北? どういう事か?」「公孫賛殿を頼るのですよ、張郃殿。かの御仁は現在劉虞を攻めています。が、これが終われば袁紹との決戦は避けられぬ状況となりましょう。」「ふむぅ。しかし、公孫賛はそのまま劉虞を殺すのではないかの。」「ありえませんね、辛評殿、公孫賛殿としても、劉虞を殺す値打ちも意味も無い。適当に放逐なり釈放なりするでしょう。」「なぁ、頼るなら南の曹操とかでもいいんじゃないか。」高覧も挙手をして意見を述べる。「左様ですね。しかし、南に抜けるのにも袁紹の影響・・・勢力版図を通らなくてはならない。現状、曹操としても我らを受け入れて袁紹と矛を交えたくはありますまい。」「じゃあ、公孫賛を頼るのはいいのか?」「単純に近い、袁家の勢力の及ばぬ場所が多いと言うことが1つ。2つ目に公孫賛殿の性格と韓馥様との間の友誼。3つ目に・・・これが一番大きな要因ですが、公孫賛殿は晋陽の張燕、北の烏丸と盟約を結んでおります。」「う、烏丸と!?」「ええ。少なくとも、南北で挟み撃ちにされる事はありません。公孫賛殿の兵力はそれほどでなくとも、晋陽と烏丸の援護を得ることが出来れば?」「・・・袁紹にも対抗できる、と?」烏丸の騎馬兵の能力の高さは折り紙つきである。それを自在に使用できるかは今1つ解らないが、判断材料の1つとして考える事ができる。「その可能性は高いでしょうね。烏丸がそこまで積極的に動くかどうか、そこが不透明ですが。そして、しかるべき後に南の曹操と同盟、或いは協力体制が出来れば・・・。」「なるほど。袁紹は二面作戦を強いられる、ということか。」張郃の言葉に、沮授は頷いた。「無論、公孫賛殿がそれまで保ち、曹操がこの話に乗れば・・・という事でもありますね。袁紹が本腰を入れれば曹操と盟を結ぶ事もできるかどうか。されど、今の状況よりはよほどマシ・・・とは思いませぬか?」『むぅ・・・。』「ともかく、今は目の前の事に集中いたしましょう。・・・城内の非戦闘員を巻き込むことはしません。一撃離脱。ただ是のみを良とします。袁紹といえど、反抗をしない民に手をかけるほど愚かではないでしょう。では」沮授は韓馥を促し、引き下がる。「皆、絶対に死なないで。・・・出撃します!」『応!』数刻と経たず鄴の城門が開き、韓馥の軍勢1万ほどが陣をじりじりと進めてきていた袁紹軍に向かっていく。先頭を進むのは張郃・高覧。沮授と辛評もいるが、2人は中軍にあって韓馥を守っている。彼らの出撃を見て取った麹義は、弩兵・弓兵に命じて屋を射掛けていく。麹義という男は、突撃戦が出来ない訳ではないが、どちらかといえば待ちの戦いに秀でている。張郃・高覧の攻撃力は高いが、こちらの陣に到るまでに相当数の兵を減らせるはずだ。決戦は不可避、と覚悟を決めた麹義であったが、彼もまだ諦めてはいない。なんとか鄴に韓馥を封じて、袁紹が着陣するまで包囲を続ければ良い。とにかく、韓馥を殺さぬように、本気では攻めない。弓・弩の連携、至近距離まで迫られれば、歩兵を繰り出して防がせつつ騎兵で横っ腹を突く。郭図らは「ここで殺さねば禍根が云々」とか言って五月蝿かったので適当に閉じ込めた。あとは兵士が上手くやってくれればそれで収まるのだが・・・。見ていると、韓馥軍の突進力は中々のものだ。先頭で奮戦する張郃と高覧の武が凄まじいのもあるし、その突撃によって前線部隊が崩されかかっている。そこに歩兵を繰り出して弓・弩部隊を下がらせ矢を射込んで行く。ただ、その動きに麹義は不審なものを感じた。何故に韓馥軍の前衛部隊だけが斬りこんで来て後に続く部隊が斬り込んで来ないのか。「む・・・あれは。・・・!?」麹義の目に映ったのは、最初に斬りこんで来た張郃らの部隊が一気に北へ向かって転進した場面。そして、その後に続いてくると思われた中衛・後衛部隊も一気に北へ駆け始めたということ。弓・弩部隊も矢を射かけて、そのたびに韓馥軍の兵は倒れていくが、それを顧慮せず一散に北へと走っていく。(まさか・・・。不味い!)「伝令! 高幹部隊に追撃を仕掛けさせろ! 何が何でも韓馥軍を止めるのだ!」「は・・・?」伝令に言い捨て麹義は急いで馬に跨り、兵を従えて韓馥軍と同じく北へ向かって駆け出した。すぐに高幹も追いついて麹義に質する。「麹義殿、追撃はしないはずでは!?」「そうも言っておれん! 韓馥殿が鄴に篭ると思っていたのがそもそも間違いだ!」「は!?」数が少ないと思って油断していた。篭るしかないと思っていたのも間違いだった。「彼らは北へ・・・公孫賛の元へと向かうぞ! そうなればどうなる!」高幹はすぐにその意味を理解した。「・・・袁家を攻める名分を、得る。」「そうだ! ・・・こうなれば贅沢は言えん。多少の無茶をしてでも韓馥殿を止める!」「はっ!」袁家はまだ公孫賛と戦いたくは無い。いずれ戦うのは解っているが、今はそのときではないのだ。南皮を得て鄴を得て、平原を得る。できるだけ肥沃な土地を得てから公孫賛の勢力版図である幽州へと攻める。それが現状で取る賢い手といえる。真正面からやりあっても負ける事は無いだろうが、公孫賛は戦が上手いし領内をきっちりと纏め上げている。負けることは無くとも、こちらの戦力を大いにすり減らす戦いになる。それもまた理解されている事だった。韓馥もだが、張郃や高覧といった武将が公孫賛の元へ駆け込むのは何とかして阻止したい。とにかく、徹底的に矢を打ち込み、追撃を仕掛けて足を止めるなり韓馥を捕らえるなりしなければ。麹義は焦りつつも馬腹を蹴り、馬を急がせたのだった。交戦をせず、ただ逃げの一手を取る韓馥軍の被害は大きかった。少数で袁紹軍の前衛に突撃をした張郃らの部隊も被害は大きかった。(彼女自身は手傷のひとつも負っていなかったが)ただ1つ問題があるとすれば、韓馥自身が深手を負ってしまったことだった。彼は中衛部隊にいたのだが、袁紹軍の兵が放った矢・・・その刺さった深さから見て弩であろうが、それが腰に刺さっていたのである。中軍の更に真ん中辺りに居たはずだが、部隊を反転させた時に一時的に兵の囲みの厚さが薄くなってしまったのかもしれない。もっと厄介なのは、矢の刺さった鎧の部分までが傷口に食い込んで悪化させてしまっていた事だ。医術を心得ているものもいなければ薬も無い。出血も酷く、手が出せない、という状況だった。殆どの兵が反撃をせず逃げに徹した事で、それほどの被害を出さずにすんだということは幸運だったかもしれない。が、韓馥の容態を診るために一時的に行軍速度を落としたせいで、あと少しで袁紹軍に追いつかれ交戦状態になるような位置にまで追いつかれてしまっていた。その韓馥は脇腹を押さえ、何とか馬から振り落とされないように手綱を掴んでいる。沮授・辛評が側にいるのだが、血が足りないのだろう。視界がぼやけて韓馥には2人の顔が良く見えない。「はっ・・・はぁっ」手綱を抑える手に力が入らない。どうもここまでのようだ、と韓馥は腹を決めた。「韓馥様・・・しっかり」隣に居る沮授は馬を寄せて声をかけるが、返事は返ってこない。先頭を駆けている張郃と高覧も心配しているが、だからと言って速度を緩める事が出来ない。自分達が速度を落とせば軍全体の行軍が滞る。「沮授、さん。これを・・・。」「・・・?」韓馥が所持していた竹簡を沮授へと放り投げた。「っと・・・これは?」「公孫賛殿への、書簡です・・・もう、僕の手で渡せそうに、ごほっ・・・」「韓馥様!?」咳き込むだけではなく、大量の血を吐く韓馥。彼はわざと馬の走る速度を緩めて隊伍から外れていく。「韓馥様! 何を・・・」「僕はここまでみたいです・・・少しだけ、時間を稼いで、見せますから・・・早く・・・北、へ・・・」「くっ!」同じく引き返そうとする沮授だが、それを辛評が押し留めた。「辛評殿、何故止めるのです!」「・・・。」辛評は無言である。彼もまた、すでに心を決めている様子だ。見る見るうちに韓馥の姿は遠のいていく。「張郃さんと、高覧さんにもよろしく・・・」誰の耳にも届かぬほどか細い声でそれだけを言って、韓馥は完全に馬を止めた。それに従い、同じく速度を落としていた彼の親衛部隊も二百ほども付き添うかのようにその場に留まる。そして、辛評も。「ふふ。後は頼むぞ、沮授。」「貴方まで・・・」何故自分は残れないというのか。この状況、好転させる事ができない無能の自分が残るべきではないのか。沮授の考えは解るが、それを了承してやる訳には行かない。辛評は頭を振った。「お主はまだ若い。それに託されだろう? 公孫賛殿への書簡をな。韓馥殿がお主を信頼するからこそ与えた仕事よ。自身の仕事をきっちりやりとげてみせい。」それだけ言って、辛評は返事を待たずに馬首を返した。「・・・くそっ」沮授はただ、その後姿を見送る事しかできない。「はぁ、はー・・・くっ。辛評さん、貴方が残る必要は、無かったのに」馬に乗ることすら困難であった韓馥は、下馬して手ごろな岩のうえに座っていた。「いや何。若い者だけに任せておくなどできませぬわ。韓馥軍の老人は誰も彼も生き残りたがるなど言われたくもありませぬしな」そんな事誰も言わないだろうに、と韓馥は血の気の無い顔で僅かに微笑んだ。彼は今、血が止まらず、命の灯も消えかかっている。どちらにせよ死ぬのだから、と残ったが戦いになれば一番の役立たずではないだろうか。隣に佇む辛評は「来ましたぞ」と韓馥に語りかけた。死を覚悟で残る彼らの目の前に迫る袁紹軍の数は千程度。「ふっ、血が滾るというもの。各自、奮戦せよ!」言葉を発する事すら辛い韓馥の代わりに辛評が檄を飛ばす。それに応じるかのように、韓馥親衛兵が弓を構えた。袁軍から見れば、敵兵数僅か200。すぐに片が付くと思っただろう。その考えはすぐに甘いものだと知る事になった。油断して近づいた兵は矢で射抜かれ、怯んだところで一気に突撃を仕掛けられる。数が少ないとは言え、太守の親衛兵なのだ。錬度も装備も普通の兵とは違う。親衛兵が討ち漏らした幾人かの袁兵が突破してきて、韓馥も何とか兵を1人斬り捨てたがそこまでで、後は辛評の肩を借りなければ立てないほどであった。まず、雑兵が蹴散らされ散り散りになっていくが、やはり数の差はどうしようもなかったらしい。その時点で親衛兵も数多く討ち死に、生き残ったものも疲労が大きい。そこへ袁紹軍の後続の兵が現れ・・・これは千程度ではなく、数千規模の数であった。先ほどの戦いを見ていたのか、数が多くても遠巻きに囲むだけで手を出してこない。と、そこで一気に矢を撃ち放ってきた。陣形を整えて攻撃する期を見ていたのだろう。それで生き残っていた韓馥の兵もほとんどが射倒され、残ったのは韓馥、辛評を含め数人ほど。韓馥自身も脇腹以外に足や腕に矢を受けていた。今度こそ、ここまでだ。岩を背もたれにして荒い息をついていた韓馥は、苦労しながらも顔をあげた。そして「皆さん、ありがとう。よく、戦ってくれました・・・」と言って、咳き込んだ。「ははは、では、最後のご奉公といきますかな。・・・ゆくぞ!」辛評も生き残った兵たちも韓馥の言葉に笑顔を見せ、拱手をしてから数千を越える袁紹軍に斬りこんで行った。彼らが行った後、韓馥は静かに目を閉じた。こんな結果になってしまったのは残念だが、だからといって袁紹を恨むつもりは無かった。死を控えた彼の脳裏には、今まで自分を支えてきてくれた人々の姿が思い起こされた。高覧・張郃・沮授・辛評・耿武・閔純。多くの人に支えられてきた人生だった。自分は彼らに少しでも報いることは出来ただろうか。不安が無い訳でもない。公孫賛ならば、生き残った人々を間違いなく受け入れてくれるだろうが、そのせいで袁紹との戦いに引きずり込む事になる。皆、大丈夫だろうか、という不安と、公孫賛に対して申し訳なく思う気持ち。最後に、公孫賛と共に袁紹に振り回されながらも、楽しかった日々を思い・・・静かに息を引き取った。この乱戦の中、韓馥と共に足止めとして残った兵は全滅。辛評も斬り死にを遂げたという。麹義の周りの兵は韓馥を討つべきではないと知っていたが末端の兵にそこまで命令が行き届いてるわけが無い。実際に戦いになれば生け捕りがどうとか言ってはいられないのだ。麹義が追撃していった兵士に追いついた時には、すでに韓馥は帰らぬ人となっていた。遅かった、か・・・。と麹義は血が滲むほどに唇をかみ締めた。これで現状避けえた筈だった袁紹も公孫賛の戦いが前倒しになったことは否めない。彼は馬から降りて、韓馥の亡骸に近寄っていく。彼の亡骸を見れば、幾本もの矢を受け、それでも苦悶の表情を浮かべることなく逝った事が解る。柔弱と言われることが多い韓馥だったが、最後に男としての意地を見せたということだろう。麹義は、韓馥の亡骸を前にして、静かに拱手をした。敵、とは言い切れなかったが同じ男として、彼なりの最大限の敬意であった。「将軍、北に逃げた部隊への追撃は・・・?」「もう間に合わんし追いつけん。行かせてやれ。」遠慮がちに聞いてきた兵に返し、麹義は韓馥の亡骸を抱き抱えた。「戦死した者達を弔ってやれ。韓馥殿の兵もな。」袁紹が鄴付近に展開する陣に到着したのは、韓馥戦死から半日ほど後の事であった。~~~楽屋裏~~~ここまでの難産とは思わなかったよ! あいつです(挨拶グダグダですがお許しを。今回、4回くらい書き直してるんです・・・(実話え? 耿武と閔純? いたっけ、そんなの?冗談はさておき、あんな危険人物になるとは思いもしませんでした。正史だか横山氏の作では袁紹を暗殺しようとしてましたね・・・それを膨らませたらただの犯罪者になりました(あれ? 韓馥の扱いどうしようとか、沮授達を史実のように袁紹軍に入れさせるかとか・・・それじゃ面白くないと思って普通の人のところへ向かわせました。そして状況を更に複雑にして収集できなくなる自分の姿が目に浮かびます(駄目さて、人物紹介ではありませんが・・・韓馥という人、このシナリオではこういう亡くなり方でしたが正史・演義共に凄まじく情けない死に方です。いや、他にもいるんですよ? 落ちぶれて「蜂蜜舐めたいー!」とか言って亡くなった方とか、会見場で武器投げつけられてさらし者にされるとか。勝ち目の無い戦争ばっかかまして陣中で亡くなった人もいれば、有力家臣粛清しまくった挙句負の遺産ばかり子孫に押し付けて亡くなった厨いや仲謀とか。そして韓馥さん。暗殺されると勘違いして厠(といれ)で首をくくった、とか・・・・・・。ネタっぽい亡くなり方をしている人々の多い三国志でも、一際異彩を放った最後といえるような。って、人の亡くなり方ネタにするべきではないのですけどね。総じて言うと、この人は劉備に騙されて蜀を奪われた劉璋以下の能力だと思います。最後はともかく、そこに至る経緯を理解しておられる方は納得できるのではないでしょうか?w興味がわいたら調べてみてください。あと、やはり別枠というか独立した作品にして高順伝と分けるべきなんですかねえ(汁ではまた次回。ノシ