【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第67話 そんな彼らの旅路。広陵(こうりょう)から淮陰(わいいん)。そして濡須口(じゅすこう)を経て楊州へ向かう高順一党。その淮陰あたりで、1つの出会いがあった。輜重が4千ほど。騎兵が1千ほど。輜重と言っても騎兵が荷車引いてるだけで切り離せば騎兵となる。できれば大勢力に係わりたくないので小勢力の乱立する楊州を通る、ということだ。そんな高順一党が東へと向かっていく。大勢力に会いたくないだけで、その歩みは割と長閑なものだ。食料も資金も余裕があるし、急ぐべきなのは南へと抜けるときだけである。先頭を進む高順に蹋頓・趙雲・沙摩柯。輜重を守るのは他の人間と言うことになる。「・・・長閑ですな。」趙雲がなんとなく気分悪そうに言う。「そうですねえ、長閑ですねぇ・・・」「ああ、静かだな。久しぶりではないか、こういうのは。」蹋頓と沙摩柯も頷くが、その表情は趙雲とは違って穏やかであった。徐州に居た頃は平和な時間が殆ど無かったので、今の状況も「これはこれでいい」と思っているのかもしれない。だが、趙雲はやはり不満そうであった。「あんなに必死になって逃げてきたというのに・・・この落差は一体。」はぁぁ、と思わず溜息をついてしまっている。趙雲さんはやっぱり血の気が多いな、と高順は笑う。高順も、はぁ、と小さな溜息をついて空を見上げた。平和だなぁ、と思うが・・・張遼らの事を思えばその平和に浸るわけにも行かない。ここから先の歴史は正直にどうなるかわからない状態になってきている。高順と言う存在は徐州で死ぬはずだったものがこうやって生きているのだ。それが既におかしい、と思う。自分が生きているからと言って歴史が大幅に変わるものではないな、と楽観的な考えもある。所変わって、高順達から離れる事僅か西。3~400、あるいは500ほどだろうか、みすぼらしい格好をした賊らしき集団と、その先頭を進む1人ずつの男女が居た。男はスキンヘッドでひょろりと背が高い。賊らしく斧やら山刀を所持している。女のほうは髪は肩位までの長さだ、これまた賊らしい格好。動きやすさを重視しているのか皮の鎧を着込んでいる。身長は馬超より少し高い程度、体つきも無駄な肉が無いものの、出るところは出ているという感じだ。その男のほうが女に「なぁ、姐御」と話しかける。姐御と呼ばれた女性は不機嫌そうに返した。「姐御言うなっ、せめてお頭と呼べお頭と。」「んじゃあ、お頭。・・・俺達、これからどこへ行くんですかい?」「・・・そりゃお前。楊州でどこぞの勢力に仕えてだな。」「どこぞってどこですかい? 袁術なんて民衆の敵なんだから嫌だ! って駄々コネタのお頭ですぜ? まぁ、俺達だって嫌っすけど。」「うー。」女性は頭をガリガリと掻き毟る。「しかも食料も足りそうに無いですぜ。どっかそこら辺の村から略奪しねーと。部下がもちやせんぜ?」「わーってるって! けどなぁ、俺たちゃもう賊みたいな事しねーって誓ったばっかりだろうが。」「誓いは大事っすけど、腹が減るのはどうしようもないっすよ、姐御。」「姐御ゆーなあ!」だが、男の言う事も解る。腹が減っては戦が出来ぬ、ではないが皆ここまでついて来てくれた部下であり、仲間なのだ。そんな馬鹿騒ぎをしつつ、女は「ん?」と気がついた。ずっと先、自分達の前に何千かは解らないがどこかの部隊らしき集団が列を成して進んでいくのを。「・・・てめぇら、隠れろっ!」「うっす!」女の一声で、配下らしき男達は賊らしからぬ動きで身を隠せそうな木やら岩やらに身を隠した。かなり実戦慣れ・・・と言うかそういった技術を体得しているのが目にわかる動き方だった。女は一番前にうつ伏せになって目を凝らす。(旗は・・・ちっ、誰か解らねぇな。この付近で太守っていやぁ・・・袁術のクソか、それとも劉表、もしかしたら劉繇(りゅうよう)の配下か?)見た感じ、輜重が多いようだが殆どが騎馬隊で編成されているのが解る。アレだけの数、と言っても全体数は解らないが騎馬を揃えるのは相当な資金が必要だ。となると袁術か劉表の武将と思うのが妥当だろう。「(小声で)姐御ぉ、どうしやす?」「(同じく小声で)お頭言えっ。・・・そうだな、あいつらは袁術か劉表の武将だろ。あそこらでまともな奴なんていやしねぇ。強いていや文聘(ぶんぺい)くらいじゃねぇ?」劉表はともかくも、袁術は民衆から搾取している手合いだ。彼女らは賊は賊だが、貧しい村々から略奪するような真似はしていない。もっと西の汝南で勢力を張っていて、山中で自活をして、時折通りかかる裕福な商隊からちょっぴりだけちょろまかしたり、とまだマシな「賊」であった。もっとも、それが良いことだとは思わない。自分たちが奪った物資は結局民衆から搾取されなおすだけなのだ。所詮は堂々巡り。それが女には良くわかっていた。「んじゃあ、お頭っ」「・・・おぅ、気ぃすすまねーけど・・・。「ちょろまかす」ぜ。てめぇら、支度しなぁっ!」「ういっす!」~~~夜中、高順一党野営地~~~この日、輜重集積所を警備していたのは武将は趙雲・閻柔・田豫であった。他の武将も、交代で警備をしているので全員眠りこけているというわけでもなかったが。輜重を集積といっても相当な量になるし、兵も何百から千前後配置してあって守りは堅い。そして・・・。「なぁ田豫。これが終わったら少し酒でも呑まないか?」「駄目っすよぅ、趙雲様。今そんな酒盛りなんてしてる余裕ないっすよー?」趙雲の誘いだが、田豫はやんわりと断った。「むぅう・・・付き合いの悪い奴め。」「そういう問題じゃないと思うっす・・・」断るのは、趙雲の酒量に付き合えば確実に潰されるからだ。趙雲はかなりの酒豪で、あれに付き合いきれるのは蹋頓か沙摩柯程度なものだ。「高順殿がもう少しでも酒に強ければなぁ・・・」と趙雲は愚痴る。(・・・高順様は弱すぎっすけどね)「まあ良い。ともかく・・・む?」趙雲は言いよどんで、すぐ近くの草むらをじぃっと凝視する。田豫は何かあったのだろうか、と聞こうとしたが趙雲が槍(龍閃)を構えたのを見て、腰から吊るしてある剣を抜いた。「出て来い。上手く隠れたとは思うが僅かに気配が漏れていたぞ?」趙雲の言葉が夜の陣に響く。彼女はじっと草むらを見つめて油断なく構えている。「ちっ」と舌打ちが聞こえた瞬間、風を巻くような速さで何かが趙雲に突進してきた。「・・・!?」その速さは凄まじく、趙雲も反応が遅れた。一瞬で間合いを詰められ、槍を構えた右手を押さえられてしまう。その握力もなかなかで、趙雲も本気を出していないとは言え抑え込まれてしまっているのだ。「俺の気配に気付くかよ。てめぇ、すげぇな。」「この声・・・女kもぐぐ。」女は趙雲の口を自由な右手でふさいだ。「っと、静かにしてなよ。そこのあんたもな。ちぃっと食料分けて貰うだけさ。」「うっ・・・食料が目当てっすか? でもここには千人近い警備兵がっ」「黙ってろって。近くには俺の兵が潜んでるんだぜ? まぁ、大人しくしてくれりゃいいだけさぁ。」田豫に言い聞かせるようにして、女は再度趙雲の顔を見つめた。見た感じで、そこら辺の一兵卒でないのが解る。もしかしたら名のある武将なのかもなあ、と思うが・・・そういう武将を人質に取れば、この陣営の大将も兵も迂闊に手を出せないはずだ。あとはこの女を人質に取ったまま食料を恵んでもらって、安全なところまで逃げおおせたら開放・・・というのが彼女の計画だったようだ。だが、女は趙雲の顔をどこかで見たような・・・と僅かに考えた。「・・・んん? あんた、どっかで見た気がすんなぁ・・・どこだっけかな。」「むぐぐぐ・・・ふはっ、私にはお前のような知り合いは居ないぞ。あと、1つ忠告だ。」口を押さえられた趙雲は無理やりに戒めから抜け出して言う。「あ?」「奇襲をするならもっと早く、静かに動く事だ。・・・ふんっ!」「あっ!?」抑えられていた右手を力だけで強引に外し、趙雲は間合いを置いた。「ちっ、やるじゃねぇか・・・。」「何、やるのはこれからだ。」「あ? ・・・げっ!?」ふと周りを見ると、兵がこちらに向かっているのが見える。それほど時間をかけた訳ではなかった筈だが・・・ここまで反応が早いということは相当鍛えられて部隊と言う事だろうか。閻柔が「こっちっすよ!」と楽進と高順を連れてやってくる。見回りをしていた中で騒ぎを見つけてこっそりと伝えに言ったらしい。「くそっ・・・」女は腰の斧を取り出そうとしたが、今度は趙雲に手を抑えつけられてしまう。「てめぇ、俺と力比べしようって・・・い、いてててててっ!?」本気を出して手を払いのけようとしたが、それ以上の力を持って抑えつける趙雲。先ほどは本気ではなかったのだが、今は割と本気を出しているらしい。「いでで、てめっ、さっきは力抜いてやがったなぁ!?」「雑魚に対して本気は大人気ないと思ったのでな。まあ、雑魚と侮ったのは謝ろう。」「うぐぐぎっ、こ、のぉ・・・!」余裕の表情を浮かべる趙雲であった。高順と楽進は、「数は解りませんけど趙雲さんと田豫が賊と交戦してるっす!」という閻柔の報告を受けて少数の兵を連れて来ていた。閻柔が言うには「知らせる前に、警備兵を向かわせている」とも言ったので問題は無いと思って、少数を率いただけだった。大多数の奇襲もまず無いだろう。それほどの数であれば各方面から陽動部隊が現れているはずだ。見たところ、賊の・・・女性のようだが、趙雲が完全に抑え付けて圧倒している。来なくても問題は無かったかな? と思うがそれはそれとして、伏兵がいる可能性もある。急いで走り、傍までたどり着く。「趙雲さん、田豫さん、大丈夫・・・だよな、見た感じで。」「おや、高順殿に楽進。私のような非力な女が大丈夫なわk「てめぇ、どこが非力だこの馬鹿力!」趙雲は途中で言葉をかき消されて事に腹を立てたのか、さらに「ぎりぎりぎり」と手に力を加えた。「あぎゃぎゃぎゃ!?」「・・・大丈夫だったみたいですね、隊長。」「ですよねー。」楽進も高順も呆れたように溜息をついた。女も伏兵を呼び出したかったようだが、抑えられた腕の痛みが半端ないらしく「いでぇぇぇえっ!?」と悶え続けている。「・・・まぁ、2人とも無事でよかった。それに他に兵士もいなさそうだしねえ?」(いるのだが、合図の声が無いので出れないだけだったり。「そうですね、しかし賊も運が無い。よりによって趙雲殿が番をしている時に・・・。」楽進の言葉に、女が痛がりながらも「ちょーうん?」と反応した。「いだだだっ、ちょ、待て!」「何を待てと?(ぎりぎりぎりぎり」「のぉぉぉおぉぉぉっ! た、頼む、少し力緩めてー! 聞きたいことがあるだけだー!」「・・・何を聞きたいのだ。」少しだけ力を緩めたらしい。女の悲鳴が少し小さくなる。「あうぐぐぐ・・・い、今・・・ちょーうんって言ったよな?」「ああ、言った。」「も、もしかして、だ・・・あんた、黄巾討伐戦の最後・・・鄴(ぎょう)の戦いで北門に居た趙雲殿か?」「ほぉ? よく知っているな。確かに私は趙子龍本人だが?」「・・・。」なんだか、女の顔色が真っ青になったような気がした。(高順主観で「じゃ、じゃあ。さっき「こうじゅん」って言ってたけど・・・孫家の軍勢にいて、俺達の大将の一人だった厳政(げんせい)を討った高順様・・・?」「・・・。一応、黄蓋殿が討ったことになってる筈だけど。確かに俺は孫家の軍勢に紛れ込んでいたな。」「んじゃあ、楽進殿って北の壁をぶち抜いた・・・!?」「・・・・・・一応。」←凄い覚えられ方してるなぁ、とか思っている楽進。3人を順番に見つめる女の、青ざめた顔には脂汗が「どーっ」と浮き出ている。(あ、あの高順殿・楽進殿・趙雲殿に挑むなんて・・・)彼女は、圧力が弱まっていた腕の戒めを解いて。「も、ももも・・・・申し訳ありませんんっっ! あの名高い高順様に向かってこの無礼! とりあえず死んで詫びます!!」「ぶふぅっ!? ちょ、待て、頼むから待てっ! 襲撃して驚いて土下座自決とか何事だよ!? 止め、止めてーーー!!!」壮絶な土下座をしたのであった。女は奇襲・伏兵として出てくるはずだった部下たちを全員呼びつけ、総出で高順に土下座していた。土下座されている側の高順も何が何だか解らないが、とりあえず先頭で土下座し続けている女性の目の前に座っている。そして、「・・・さて、あんた一体何者? 何を狙って襲撃してきたのさ?」という高順の質問から話は始まった。女は顔を上げて「俺・・・じゃなくて、あたいは・・・ぇ~・・・そのぅ。」といまいち要領の悪い話し方をする。高順は苦笑して「普段どおりの話し方でいい」と言った。「す、すいやせん。俺の名は周倉って言いやす! あ、こっちのつんつるてんな頭は裴元紹(はいげんしょう)。目的は・・・その、情けない事に食料が足りなくなって」「ひどいっすよ姐御!?」「姐御言うな!」「・・・しゅーそー?」周倉というのは、三国志正史・・・つまり、歴史上「居ないはず」の人物である。作り物の話である「演義」のみに出てくる存在で、関羽に従った悲運の忠臣という扱い方をされる人なのだ。つうかまた女。それなのに・・・と高順は頭を抱えた。(うーん、この世界って一体・・・)そんな高順を見て、周倉は不安げな表情を見せた。「あ、あのー・・・?」「あ、すまん。で、周倉さん。黄巾に所属してたんだよね? それが何でこんなところに?」この質問に周倉がしょんぼりと肩を落とした。「張角様たち三姉妹が亡くなった後、勢力は霧散。俺達も行き場を失って汝南に逃げ延びたんです。」張角らはまだ生きているが逸れは置いておく。周倉は、ぽつぽつと話を続けた。「汝南に逃げ延びて、臥牛山(がぎゅうざん)ってところで自給自足しながら、同じ志をもった黄巾の同胞を集めてたんです。・・・俺の後ろにいるのもそうで。」周倉はちらりと後ろを振り向いた。「俺達、氏素性なんざありゃしません。食い詰め者だったり、俺みたいに生活に困った親に売り飛ばされたような奴だったり。民衆は搾取されて、上が肥え太る。そんな時代を何とかするための力になれれば、って。」「ふぅむ・・・。」「なのに、さっきみたいに略奪してるんじゃ偉そうな事いえないっすけど・・・。」周倉はまた肩を落とした。この世界ではアレだったが、史実の黄巾は確かに「漢王朝を倒して新たな世を建てる」ことを目標としていた。張角の野望があったとはいえ、その動きは実を結び30万とも40万とも言われる人々が黄色い布を頭に巻いて、腐敗した王朝に戦いを挑んだ。金銭欲や名誉のために戦ったものも居れば、今目の前に居る周倉のように、本当に世を何とか正したいと願って戦いに身を投じたものも居た筈なのだ。「でも、黄巾が壊滅した今じゃそんなことできやしない。だから時節を待ったんです。」「時節?」「ういっす。・・・俺達、言った通り氏素性もなければ、どこぞのお偉方への伝手もありません。少ない人数じゃどこも兵として雇ってくれません。」だから、人を増やして数千という規模になれば、多少出目が悪くてもどこかの勢力が迎えてくれるはずだ、と周倉は言う。「俺達、まだ諦めきれない夢があるんです。黄天の世が来なくても平和な時代になって欲しい。俺みたいに親に売り飛ばされるのが当たり前っての、嫌なんです。だから人を集めてどこか有力な諸侯、名のある将軍様にお仕えして、平和な時代にするための戦いに参加したいって、そんな夢を。」「夢・・・ね。」そう言う周倉を、高順は勿論他の人々も悪意を持って見なかった。周倉は直情径行と言うか、猪突猛進と言うか、根が真っ直ぐで単純だ。腹芸が出来たり、嘘をつくのが苦手でもある。彼女は時折、喉を詰まらせて嗚咽するような声で話を続ける。高順達の涙を誘うつもりは無かった。かつて同じ夢を追い、先立った仲間たちのことを思い出して、それが涙になって頬を伝う。「ぐくっ・・・でも、それも無理な話でした。後からやって来た、同じ黄巾だった劉辟(りゅうへき)と龔都(きょうと)って奴らに山塞も折角集めた人数もあらかた奪われちまって・・・。」「だから自分に賛同する仲間と汝南を出て、やりなおそうとしたのか。」「うっす。本当は北に行くつもりだったんすけど、徐州じゃ戦続きで人が集まる訳ねぇと思いますし、それなら楊州でもちっと人数増やしてから、と。」高順はふむ、と頷いて考える。「袁術か劉表を頼ろうとは思わなかった? 汝南から近い大勢力だよ?」「勘弁してください、誰が袁術なんぞに!」今までの口調から一転、周倉は怒りを露にした。「あ、すいやせん、つい。・・・でも、袁術は自分が我侭をしたいからって民衆から搾取してるんです。その我侭が何だか知ってますかい?」「いや・・・知らないな。」「・・・蜂蜜水。」「は? ・・・蜂蜜?」呆気に取られて聞く高順に、周倉はこくりと首肯した。「うっす、蜂蜜水。蜂蜜は高いんですが、それを沢山欲しいって重税を」「・・・。」先生、この世界にも阿呆が居たようです。とは言っても、袁術はまだお子ちゃまである。周りにその我侭を止めるような人も居ないのだろう。「劉表は・・・漢王朝の一員だからってわけじゃねぇですけど、やっぱ好きになれません。あそこは豪族連中が幅を利かせすぎて、後で入ってきた奴らは窮屈な思いをするしかないんすよ。俺らみたいな賊じゃどうしようも。」「なるほどなぁ・・・。」確かに劉表勢力は史実の孫家同然、豪族連合のような感じだ。しかも微妙に統率が取れていない。そんな勢力に仕官を望んでも・・・正直、周倉らのように元黄巾では肩身が狭すぎるだろう。高順は少し悩んだ。彼らをこのまま放逐していいものかどうか。きっちりと使い方を間違えなければ、彼らはよき兵士、武将となりうる。だが、このままでは力を持て余して野盗だの盗賊だのに成り下がってしまうだろう。周倉も周倉で高順に仕えたいと言い出したかったが、それは虫が良すぎると諦めていた。鄴での彼らの戦いを、周倉は今でも覚えている。厳政をただの一撃で討ち、漆黒の巨馬で戦場を駆けた高順の姿。敵でありながら「すげぇな」と感心し、また見惚れてしまうほどだった。あんな大将の下で働きたいものだ、と。それは今目の前で現実になりつつあるが、その一言を言い出せない。代わりに彼女はこう言った。「お願いです、こいつらを・・・高順様の部隊の兵卒の端に加えてやってください!」「む・・・しかしだな。」「お願いしやす! 俺じゃこいつらを食わせていく事はできないし、このままじゃこいつら本当に道を踏み外しちまいます。虫が良いってのは解ってるんです・・・でもっ」お願いです、と周倉はもう一度土下座した。裴元紹らも慌てて頭を下げるが、すぐに「じゃ姐御どうなるんすかぁっ!?」とか叫ぶ。「姐御言うな!」と叱られてすぐに黙り込んでしまったけれど。(むー・・・参ったな。)と高順は尚も悩む。ちら、と後ろにいる趙雲やら楽進、そしていつの間にかやって来た蹋頓・沙摩柯に視線を送った。皆、目を閉じて肩を竦めるだけ。趙雲などは「まあ、好きになされば良かろうと存じます。」とまで言った。彼女らは内心で「加えてやってもいいんじゃないか」と考えているらしい。実際にやりあった趙雲は周倉の戦闘能力を「悪くない」と捉えているし、本人の言うとおり、このまま放っておけば本当に賊として生きていくしかないだろう。地味に戦力強化も出来るし、話を聞いた感じでは忠誠心にも篤そうだ。それは全て高順の心次第、と言うことでもあるが。高順はもう1度、土下座を続けている周倉以下、500人をじっと見てから立ち上がった。(夢、か。)自分に夢はあっただろうか。死亡フラグを折る為に駆けずり回り、そのせいで大切な人々を失った。今の夢は・・・張遼や華雄を取り戻すためと言ってもいいだろう。その為に、確固たる足場を築く必要がある。今まで苦労をさせ通しだった兵や仲間の住む場所を作って、安定した生活を提供しなくてはならない。曹操と劉備にある程度対抗できる力を得なければならないのだ。楽進達は富貴を望んでいる訳ではないだろうが、それでも帰る場所を作る必要はあるのだ。それが出来なければ、周倉のようになってしまう。ついてきてくれる人々を苦労させ続けなければいけなくなる。自分が全力を尽くして、それでも張遼たちを取り戻せないのであれば、その時こそ自分は諦めて曹操に首を渡すべきなのだろう。天下統一とか、それこそが夢のついででしかない。平和になるのであれば、それに越した事はないけれど。考え、高順はそのまま無言で周倉の目の前を通り過ぎていく。(・・・やっぱ、無理か・・・)予想通りの結末だ、と周倉は思った。やはり、自分達はこんなものなのだろうか。張雲達も自覚しない程度の僅かな落胆を高順に感じていた。が、しかし。高順は歩いていく途中、閻柔の肩を「ぽんっ」と叩いて呟いた。「閻柔さん。悪いけど500人分の飯作ってくれる? 人数は使っていいけど。」 『・・・え?』高順以外の全員の声が重なる。周倉たちも顔を上げて高順の背中を見つめている。「だから、この人たちの飯を作ってあげて。お腹空かせてるっぽいしねぇ。」「隊長、それじゃ。」楽進の声に、高順は頷く。「周倉・裴元紹。それに従う総勢500。俺が纏めて面倒を見る。」高順の言葉に、周倉は「え・・・ええっ!? 俺まで!? 本当に・・・」と、驚いて立ち上がってしまっている。趙雲らも何となく安堵したような笑顔を見せる。「ここで逃がしてもまた人様に迷惑かけちゃうでしょうに。そのかわり。」高順は振り向く。「面倒を見る以上、命令には従って貰うし、今まで人様に迷惑かけたんだから最初のうちは給料低いぞ? それでもいいなら、俺は貴方達を雇う。約束できるかな?」「・・・は、はい! ご命令とあればどこまでも付いて行くっす!」周倉はもう一度頭を下げた。こんな流れで、周倉以下500の元黄巾兵が高順隊へと吸収された。この後に彼女らは高順親衛隊として配置され、以降の戦場を主と共に駆ける事となる。激戦の中で多くの者が斃れていくが、それでも自分たちの仕事に誇りを持ち不満を言う事はなかったそうな。別れがあれば出会いがある。頼もしい(?)仲間を得て、高順達は更に進んでいく。~~~ちょっと番外~~~周倉と元黄巾兵500を引き入れた高順隊だったが、少し困ったことが発生していた。食料云々ではない。移動速度の問題だ。予備として、兵馬300ほどを引き連れていたのだが、500人に対してでは一頭一人ということができない。ために、一頭に2人が乗って、という事になる。そうなると馬の疲労が速くなる・・・つまり、今までのような距離を進めない事になるのだ。徒歩に比べればマシだが、騎兵中心の編成がこんなところで仇になってしまった。だが、一人だけ徒歩で従う人がいた。周倉である。重々しい馬蹄の鳴らす音。その中で一人だけ徒歩で従う周倉であるが、彼女は平気で走って追随してくる。現在の高順隊は割と急ぎ足というか、結構な速度で進軍するので徒歩であれば普通についてくる事などできないのだが。先頭を行く高順(と虹黒)。その横には息一つ乱さずにしっかりと走ってついてくる周倉。知らない人が見たら「何で一人だけ騎乗しないのだろう?」と思うに違いない。「・・・ねぇ、周倉。」「何すか、大将。」高順の部下になってから、周倉は高順を大将と呼んでいる。最初はなれない敬語を使おうとして舌を噛んだりしていたので、結局「いつも通りの口調でいい」と許可をもらっている。「なんで付いてこれるんだ、徒歩で。結構な速度で走ってるんだけど・・・?」「え? ああ、話してなかったっけか。俺、走るのだけは得意なんすよ!」いや、得意とかそういう問題じゃないような・・・。「一日で千里を走れるんすから! 一時的であれば、そりゃもう目にも止まらぬ速さっすよ!」「目にも止まらぬ・・・。ふむ、あれか?」すぐ横にいた趙雲が話に割り込んできた。「あ、趙雲殿。アレって何っすか?」「む。お前が私に挑みかかってきた時に見せたアレだ。」食料を奪いに来たときに、周倉は一瞬で距離を詰めて趙雲の腕を押さえ込んだが、その時の動きはまさに電光石火と言えた。「あー・・・そっすね。あの時のがそうっす。」「じゃあ、何でそんな早く動けたり、長距離でも普通に走りきったりとかできるんだ?」「さぁ・・・? 昔っからですし。昔はもっと早く動けたんすけどね。」「・・・。もっとって・・・。全く想像できん。」趙雲も興味があるようで質問を続けていた。「何故、昔より動きが遅くなったのだ?」「昔ですけどね、足の裏に毛が3本生えてたんすよ。それを抜いちまったらなぜか遅く。」「・・・。なんと言うか、すごいな。」趙雲は驚くと言うか呆れていたが、高順も呆れていた。なんで毛の3本が足の速さの秘訣なのか、というのもだが、それを抜いても平気で千里を走りきるという俊足と体力に。・・・周倉さん、毛を抜いてもチートだったようです。~~~楽屋裏~~~足の速さはWIKIで調べるべき。あいつです。(挨拶さて、演義のみ出てくる周倉が出てまいりました。あと裴元紹も。裴元紹は演義で凄まじく扱いが悪い人です。これもWIKIでryあと、この2人のモデルとなったとおもわれるのが作中でも名前だけ出ていた劉辟(りゅうへき)と龔都(きょうと)です。演義でも出ていたので知っておられる方は多いかもしれませんね。これもWI(ryちなみに、というわけではありませんが。行数埋めのお話を。実は、周倉と張燕の性格は逆の設定でした。ずっと前に書いた記憶がありますが、当初この作品は張郃・龐徳・高順の三人が別々の外史で・・・という予定でした。張燕は張郃編で出てくる山賊の親玉、幼くてがさつな少女・・・という感じです。いきなりそんな三部作の長編を読むような人はいないだろう、と考えてネタを詰め込んで高順一人に絞った訳ですけどw張郃なんて、仲の良かった沮授と田豊を殺された恨みで(誰が殺したかは三国志好きの人であれば解るはず・・・きっと)袁家に反旗を翻す。黒山賊と白波賊を、そして公孫賛残党を傘下に。曹操と盟を結び第三勢力として官渡の戦いに望む・・・とか、そんな乱暴な感じだった記憶。お蔵入りですけどねwそれではまた次回。~~~むっさ番外編・もしも賈詡が高順を敵視しなければ?~~~「はぁ? 賈詡から書簡・・・?」広陵の広間にて、高順は使者から書簡を受け取っていた。はて、何かあったかね? と書簡を広げてみる。そこには「そっちの物資、余ってたら下邳に送りなさい」と書いてあった。そこで終わっていたなら高順も頭にきていただろうが、続きがある。「隣接する曹操の動きが怪しくなってる。袁術との同盟を急ぎたいから、大量の物資が必要が必要なのよ。そっちも辛いでしょうけど我慢して」と。賈詡は既に袁術との同盟を打診していたのだが、欲深い袁術は大量の「貢物」を要求したらしい。「貢物」じゃ配下になるようで癪だ、と賈詡はごねて何度か話を差し戻して「贈り物」という結果で落ち着いたらしい。当初、それだけの金銭・食料を何に使うのかと思っていたら「蜂蜜水」を買い求めるための金にするらしい。それを聞いた賈詡は痛む頭を抑えて「・・・はぁ~~~」と溜息をついたとか何とか。ともかく、そういう事情があるのならば高順としても協力を惜しむつもりは無い。金や物を送れ。というのにもきっちりした理由があるのならば・・・「多少辛くとも用立てをする」と高順は返書をしたためた。後日、下邳に送られてきた物資は賈詡の要求と予想を大幅に上回る量であった。「・・・すごいわね。これだけの物を送るだなんて。」賈詡は感嘆の声を上げて物資を積み込んだ多数の輜重車を見回していた。これだけあれば、袁術もこちらとの同盟を嫌だとは言うまい。だが、賈詡の狙いは袁術よりも、その配下である孫策にあった。江東の虎、孫堅。その娘である孫策。あの勇名轟く孫策が何時までも袁術の元にいるはずがない。じっと伏してその時を待っている・・・賈詡にはそれが解る。高順がこちらの意図を正確に読んだかどうかまでは知らないが、この「贈り物」の一部は孫策に流される予定であった。孫策自身は知らない。あくまで賈詡の考えによるものである。あの孫策が独立を狙わないわけが無いし、何時までの袁術如きの下にいるはずもない。これら物資の一部は「そのときのために使え」と送るつもりなのである。袁術への使者は自分が行くつもりだが、孫策への使者は高順に任せる予定だ。聞けば高順と孫策の仲は、一度戦ったとはいえ悪くないと聞く。もっと言えば、孫策配下の周喩・黄蓋といった重臣連中にも妙に受けがいいらしい。孫策が勢力を張るとすれば、広陵から南の楊州くらいになるはずだ。彼女が独立を狙うのなら、高順に支援をさせて・・・と賈詡は色々と策を練っている。孫策が独立をすればそちらと同盟をするつもりだし、孫策も支援をされたことで拒否はしないだろう。今までの意趣返しとばかりに袁術に反旗を翻すであろう事も読める。それまで呂布勢力が保てば、の話だが南北で連携をして曹操を挟み撃ちにすることも可能。曹操の勢力は強大だが、いかんせん中央地帯に勢力を持つがゆえに、東西南北に敵性勢力が生じやすい。曹操が皇帝を推戴したのは誤算だったが・・・だが、まだまだ打つ手はある。呂布・張遼・華雄・張済・張繍・高順一党・・・武将の量・支配地域・兵数・・・そのいずれもが曹操に劣るがしかし。将の質で負けたなどとは思わない。まだ何も終わっておらず、始まりにすら至っていない。(曹操・・・誰もかれもが、あんたの掌の上で踊るなんて思わないことね。油断をすれば、その掌に噛み付いていく手合いが居るって事を教えてやるわ・・・!)賈詡は不敵に笑った。~~~以上、IF終了~~~以前、感想で「賈詡が無能化しないIFを見たいです・・・」と仰った方が居たので、「多分こんな感じ?」とでっちあげてみました。これには前提があって、劉備が徐州に来るのが遅れる、というのがありますね。そして孫策が早めに独立をするとか。この続きを書きたいところではありますが、いかんせんこのシナリオの正史ではありませんし、話が広がりすぎてあいつの手に負えません(wいかがでしたか、☆天さん(伏字になってない伏字