【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第66話 窮鼠、猫を噛む(?)。その2。「防げっ、これ以上は行かせるなぁっ!」劉備軍の将である陳到の叫びが陣地に響く。広陵西に展開された、諸葛亮率いる劉備軍の陣地は混乱状態に陥っていた。夜影に紛れて仕掛けてきた高順隊に、強行従軍で疲労していた兵士が対応できないのだ。見張りは居たし、広陵軍が突撃を仕掛けてきたのもすぐに陣地内に知れたはずなのだが、やはり兵の動きが鈍い。その鈍さを嘲笑うかのように、趙雲と楽進率いる騎馬隊500ほどが陣地に斬りこんで行き、暴れまわっていた。高順隊の兵は、鎧の上に羽織のようなものを着込んでいてそれを目印にしている。その羽織を着ていないものは、全て敵。目に付くものは片っ端から攻撃、いや、蹂躙するような激しさであった。「ふんっ、脆いな・・・」趙雲の一撃で数人の兵が蹴散らされて、周りに展開している兵も怖気づいて逃げていくばかり。手応えのないことと言ったら。「仕方が無いでしょう。こちらの数は少なく、劉備の兵は多い。この状態で奇襲を受けるとは・・・しっ!」何となく物足りなさそうな趙雲の隣にいる楽進が気弾を劉備軍の陣幕に投げつけた。気弾に粉砕された陣幕がガラガラと音を立てて崩れていく。土煙がもうもうと立ち上がり、少しくらいの目くらましになるだろうし劉備軍の兵は混乱の度合いを含めて逃げ回る者も多い。それに乗じた配下の騎兵部隊も思うままに暴れまわっているが、あまり時間をかけて戦うべきではない。「よし、集合。高順殿の部隊に合流する! ・・・その前に、置き土産を。」趙雲と楽進、兵士達は馬の背に油を染み込ませた藁の束を括り付けていた。それをそこかしこに投げ捨て、一気に陣を南へと抜けていく。その途中、陣の要所に立てられている篝火やら松明やらを地面に叩き落したり、その火を利用して火矢を仕立てて後方に撃ち放つ。藁に引火し、多くの陣幕が焼かれて兵士達も慌てているようだ。応戦する兵士と、延焼を防ぐための消火活動をする兵士とに別れてしまい、ただでさえ鈍かった高順隊への反撃が更に鈍る。高順隊の騎兵は騎射を行えるように訓練をしているのだがそれが大いに役に立ったというところだ。趙雲と楽進は「この隙に」と一気に南への突破を図る。「くそ、速い・・・! 構うな、適当で良いから撃ちまくれ!!」陣の南の守備に回った糜芳(びほう)の号令に、劉備軍の兵士は矢鱈滅多に矢を射掛けるが、全く当たっていない。その上に、後方で火災が起こって兵士の動揺が大きくなる。「ええい、こんな時に限って・・・北の部隊は何をしている!」「そ、それが・・・斬りこんで来た騎馬隊に蹴散らされて・・・」兵士の言葉に、糜芳はかっとなって怒鳴る。「その上に放火をされたというのか!? 見張りは何を・・・ん?」糜芳が北を向いた瞬間。まさにその放火をして回った騎馬隊がこちらに向かってきた。「・・・は? ま、待てっ、誰か奴らをt「雑魚はどけぇっ!」あわちっ!!」「糜芳さまー!?」先頭を進んできた趙雲の馬に蹴倒され、吹き飛んでいく糜芳。後方から突撃してきた彼女たちの猛進を、このような状況で止める士気も手段もあるはずも無く。兵たちは趙雲らに道を譲るように逃げ回るのであった。趙雲達が目指す南には沙摩柯と高順の率いる騎馬隊500が陣に沿って西へと進んでいた。高順は傷の痛みのせいで全力で戦うことは出来ない。その為メインで戦っているのは沙摩柯だ。とは言え、牽制程度であって接近戦を仕掛けているわけではない。高順自身は騎射を行うのだが、超雲達がそろそろ南へと突破してくる事を見越して緊急で編成された戦車隊へと近づいていく。戦車と言っても、馬2頭に引かせる屋根の無い馬車・・・荷車に近い。本来その荷車には御者と槍・弩で武装した兵士が乗って居る。だが、この時代では戦車部隊は廃れた存在であり、軽騎兵のほうがよほど戦力になる。それでも編成をしたのは「荷物を運べる」からだ。戦車隊は陣形の、できるだけ攻撃を受けないよう位置に配置されている。そして、その荷車には兵士だけではなく大きな油壺が乗せられていた。(兵士達の腰にも小さな油壺が括り付けられている。高順は(危なっかしいが)油壺を抱えあげて劉備軍の陣へ近づいていき、油を撒き散らし始めた。力のある者も高順同様に陣へと油を撒き散らし、他の兵士達も次々に小さな油壺を劉備軍の陣へと放り投げていく。陣、というより木の柵を多少巡らせた程度。劉備軍も守りを固めて柵から外には出ようとしないが、油を仕掛けられた事で「不味い」と感づいて北へと後退していく。それを見届けて、高順は「よし、一斉射撃用意・・・放てっ!」と命令を下す。その声に応じて、騎馬隊は一気に火矢を放つ。陣幕、油の撒かれた場所、若しくは劉備軍の兵士に。陣の中央付近と南西部分に炎は広がり、劉備軍は反撃どころではなくなっている。一部の兵は矢で応戦しているが、火に阻まれて有効射程内に上手く入り込めない状況だ。そこに趙雲らが高順隊本隊と合流して一気に南西へと駆けていく。諸葛亮は、この状況で「はわわ、はわわ」と慌てふためいていた。一気に本陣を突破する勢いで迫ってきたのにあっさりと向きを変えて、南側で牽制をしていた部隊と合流。あちこちで放火魔よろしく火を放ちまくるわ、陳到はともかくあっさりと糜芳が轢かれるわ。最初は突破を仕掛けてきた部隊に高順が・・・つまり本隊だと思っていたのだがそれは間違いだったようだ。あの性格からして絶対に自分から突破を仕掛けてくると思ったものだが・・・。深読みしすぎて自滅する、という典型的な状況であった。しかも、焼かれた陣幕の中には一部だが軍需物資・食料を集積しているものもあって、割と洒落にならない打撃を蒙っていたりする。人的被害はさほどのものではないが物的被害が大きい。木の柵もあっさり焼かれてしまって勿体無い事になってしまった。(今から追いかけても間に合わないし、しかも食料を一部焼かれてしまっているし・・・)今まさに目の前を通り過ぎていく高順隊を、諸葛亮は「はぅう・・・」と見送る事しかできない。一撃離脱、という言葉通りの機動戦を仕掛けられ、自分は何も出来なかった・・・と彼女は反省した。陥陣営という名は伊達ではない。虎牢関での戦いは偶然でも何でもなかった。こんな戦い方を出来る武将は劉備陣営にはいない。放っておけば自壊した呂布さんよりも、高順さんに狙いを絞るべきだったかな・・・と今更ながらに痛感し、そして惜しんだ。そんな事を思う諸葛亮だったが、このときの彼女は気づいていなかった。一人の女性武将が、矢の照準を自分に合わせていたことを。(ふん、あの小娘・・・確か諸葛亮と言ったか?)沙摩柯の双眼は諸葛亮を見据えていた。両者の距離は相当に離れているし、当てられるとも思わない。少し脅してやるさ、という程度のつもりだった。彼女の弓は複合弓(コンポジット・ボウ)だ。当初は長弓を愛用していたが蹋頓に「こちらに変えてみては?」と贈られた物である。作り方が難しいらしいが、烏丸(モンゴル系騎馬民族)出身の蹋頓はそれらを熟知しており、高順達にも教え、または贈っている。普通の弓よりも威力・射程が上昇していて、高順も密かに「これを量産したいな)と思わせる出来だった。(ロングボウでも良いかもしれないが、それを扱うには相当な腕力を必要とする。)そんな複合弓で、諸葛亮を狙い・・・一矢を放ち、結果を見ることなく視線を戻して一気に駆けていく。結果その一:諸葛亮が被っている帽子に命中しました。結果その弐:諸葛亮が「はわわっ・・・」と呻きつつ漏らしました(NANIを?)結果その参:諸葛亮は陣を北に移しました。~~~広陵城壁上~~~陳羣は、劉備軍の陣をあっさりと抜け南西に駆けて行った高順隊を見送り「行ってしまわれたか」と嘆息した。何というか。あれだけの機動戦と攻撃能力を持っていながら曹操・劉備から逃げるのは勿体無いな、と思わずにいられない。もしも彼が何の抑圧もなく兵の増員をして調練を滞りなく・・・と色々と考えてすぐ「馬鹿らしい」と頭を振った。高順と言う人は不思議な人だった。本当にそう思う。自分は大したことが出来ないから、と政治を割り止る投げしていた彼だったが、陳羣も人の子。幾ら優秀とは言えミスを犯すこともある。彼女に限った事ではなく、例えば楽進が建設工事でうっかり資財を壊してしまったりということもある。李典のカラクリが暴走して部屋が使い物にならなくなったりと言うこともあった。そういう失敗をすれば、太守として彼女達を処分しないといけない立場の高順だったが、殆どと言っていいほど怒る事はなかった。大抵「次は上手くやってね」程度だ。人に怪我をさせたり、それで重傷を負ったりと言うことには怒りもするが、小さな失敗には目を瞑っているのだ。根が真面目な陳羣は自分から「罰して欲しい」と幾度も言ったが高順はやんわりと「それには及びませんよ」と応えている。賞罰をはっきりさせないのは太守としてふさわしくありません! という苦言も呈したがそれに関しては聞いてくれなかった。高順曰く「壊れたのなら直せばいいんです。多少のお金で済むうちは問題ありませんよ」とだけ。それに、と前置きしてから恥ずかしそうに「俺がやるよりはマシだったでしょうしね。」と笑う。だが、人の生き死にに関る事は相手が誰であれ怒った。命ほど取り返しの付かないものはない。高順はそう言いたかったのだろう。命は消費物として消えていくこの時代。彼自身も武将として命を消して、散らしていく立場なのに。命を大切なものとして扱おうとしているのだから、やっていることと言っていることは逆である。それでも、高順は自分の回りの人々の命をただ消費していくだけのものとは考えなかったのだ。甘いなと思いつつ(もっと平和な時代であれば良き治世者として名を遺されただろうに)と考えずにはいられなかった。それに、と彼女は託された書状に視線を落とした。これはつい先ほど、というよりも彼らが出撃して行く前の話。「陳羣さん、これを。」高順は、陳羣に紐で封じられている一枚の書状を渡していた。「・・・これは?」「曹操へ充てたものさ。降伏したら渡して。」彼女の問いに答えて「それと」と太守の印綬も渡す。「ですが・・・これを預かると言うのは。」「構わないさ、俺はもうここの太守じゃないし・・・太守としても失格だしね。陳羣さんに預けるべきだと思う。」陳羣は、劉備ではなく曹操に降伏するつもりだった。今の状況を呼び込んだ一因に劉備があるし、どうも彼女の事を好かない。曹操も同じだが、劉備よりもよほど政治を理解している事を鑑みればこの決断は当然とも言える。物事を好き嫌いで判断するべきではない、というのが身上の陳羣には珍しい事である。「でもさ、何で曹操を選ぶのさ?」という高順の問いに「曹操殿のほうがよほど為政者として理解できますし劉備に徐州を治める器量があるとは思えません。それに、私は何度かあの方の治める陳留を見た事があります」と返した。そっか、と高順は笑ってから陳羣に頭を下げた。いきなりの事で、普段はあまり驚きの感情を出さない陳羣も慌ててしまう。「え。こ、高順様!?」「今まで良く仕えてくれました。貴方のお陰で、太守としての仕事を何とかこなせました。本当にありがとう。」「そ、そんな事。」頭を上げた高順は「貴女の才覚であれば曹操も無碍には扱いませんよ。」と笑う。「それじゃ、お元気で。民と兵の事を頼みます。」ともう一度頭を下げてから、高順は歩いていく。「高順様・・・。」「へ? 何です?」振り返った高順に、陳羣は一つの疑問を投げかける。「何故、曹操ではいけないのです。貴方ほどの方であれば、武官としても厚く遇されるでしょう。それの何に不満が・・・?」「・・・んー。そうだなぁ、上手く言えないけど。」高順は顎に手を当てて、言葉を選んでから続ける。「曹操さんは、陳羣賛の言うとおり為政者としても統率者としてもこの国一番の人だと思う。恐らく、最大勢力になるのだろうね。」「そう思っていらっしゃるなら、なおの事」「でも、俺は御免だ。あの人は優秀だ、それは解る。でもね、あの人は自分の周りの人にも優秀である事を求めるんだ。」「周りの人に・・・ですか?」「そ、自分が優秀すぎるし周りが優秀である事も当然であると思っている。そうなるとどうなる? 優秀でない人は生きていけない、そんな話なんだよ。」「ですが、高順様は優秀です。周りの方々も。」「どうかな? どちらにせよ、俺は嫌だね。優秀でなければ身の置き所が無いような、堅苦しい所は。・・・優秀であっても過労死するかもしれんし。」「え``?」過労死って・・・そ、そこまで? と陳羣は冷や汗をかいた。「ま、陳羣さんなら大丈夫。じゃあ、俺はこれで。民の事、兵の事・・・お願いしますね。」「はい。・・・どうか、お気をつけて。」今度こそ去っていく高順の後姿に、陳羣は頭を深く垂れ、拱手をして送った。曹操への手紙については「何が書いてあるのだろう?」とは思うが、それは降伏した後に解るだろう。とにかく、曹操かその配下の軍勢が来るまでは広陵を守らなければならない。(まあ、劉備軍も数は少ないから一気に攻め寄せてくる事はないでしょうけど)と思うが、油断をするつもりは無い。実際に諸葛亮らが攻めてくることは無く、この翌日には夏候淵が到着。「夏」の旗を見た陳羣は、あれは曹操軍の夏候惇かその妹の部隊だな、と即座に理解。劉備軍ではなく夏候淵・・・曹操に大して降伏を願うために自分から出向くのだった。それを受け入れた夏候淵は諸葛亮に「広陵を攻めないように」と伝令を送り、曹操の着陣を待つことにした。曹操がやってくるのは数日後の事になる。~~~南西へ駆けていく高順隊~~~奇襲攻撃を行った彼らだが、被害が無い訳ではなかった。と言っても数人が怪我をした程度であるし、そもそも大規模な戦ではないので劉備側も大きな打撃を蒙ったという訳ではない。彼らは一気に南西へと向かって、先行している李典達との合流を急いだ。その途上、趙雲と高順のお話。「・・・無事に突破できたようですな、高順殿。」趙雲は高順の隣に馬を寄せて話しかける。「だと良いけどね。・・・ねえ、趙雲さん。」「何ですかな?」少しだけ躊躇して、高順はこんな事を言った。「俺の事、見捨ててくれても構わないですよ?」「・・・はぁぁ?」高順も内心で感じていたが、趙雲はこの頃の高順の方針に微妙に反発していた。何時までも曹操・劉備から逃げようとする姿を見て「情けない」とまで言っているし、そう思われるのなら離れても文句は言わない、ということだ。「趙雲さんなら、俺よりもよほど才能も実力もあるしね。良い武将と言うのは良い主君を探し「ごちんっ!」おぶぱぁっ!?」「馬鹿な事を言わないでいただきたい。殴りますぞ?」「・・・今殴ったよね。しかも槍の柄で・・・(吐血」事後承諾ではないが、殴った後に言うのは横暴である。「高順殿、もしかしてとは思いますが・・・貴方、私をそこまで薄情な人間だとでも?」「・・・。」『・・・。』「おや?」趙雲の言葉に、高順だけではなく彼の側にいた楽進や沙摩柯まで押し黙った。皆、こう思っていただろう。(薄情じゃないんだ・・・?)と。皆の沈黙を肯定と受け取った趙雲は、引きつった笑みを浮かべる。「・・・。成程、私がどのように思われているかよぉぉく解り申した。」「いや、別にそうとは言ってないですよ!?」「そ、そうです! ただ、普段はなんと言うかけっこう辛らつな事を仰られていたりするものですから。」「そうか、私はけっこう薄情な手合いと思っていたけどな。」「空気読んでー!」「しかしな、趙雲お気に入りのメンマ・・・だったか? 間違って食べた高順がどれだけネチネチと(以下略」「それは薄情と言うのとは違う気が!?」遠慮なく言う沙摩柯である。話は逸れるが、趙雲はメンマ好きである。彼女は他人の物を平気で盗み食いすることはあっても自分の物を盗み食いされるのを嫌う性分であった。高順は盗み食いをしたわけではなかったのだが・・・凄まじい勢いでネチネチと小言を言われ、しかも弁償するまで言われ続けていたりする。これは薄情とは言わない、というか粘着気質なのだが・・・。沙摩柯は趙雲と言う人にそんなイメージを持っていた。(間違っていないし)「・・・。はぁ、冗談はさておいて。自分で言うのもなんですが、私はそこまで薄情ではありませぬ。確かに、逃げ続けるのはどうだろうかと色々思いはしますがな。」口を尖らせて不満を言う趙雲。陳羣ではないが、趙雲から見ても高順はおかしな人だった。普段は弱気な性格で、太守になってからも立場が微妙に悪くて何かあるとすぐに「ごめんなさい!」とか謝る。その癖、張遼が自分の子供を宿していると解った瞬間に「ちょっと喧嘩売りに行こうぜ!」と言いだしたり。武将として情けない部分が多いのだが、時に見せる峻厳さ。反撃の隙を与えない機動戦。そういう苛烈とも言える一面も持っている。どうも、この人は自分の命よりも他人の命を重く見ているな、と趙雲は考えている。曹操に仕えるのも、戦うのも「自分が死ぬから絶対嫌だー!」というのに、張遼の件では・・・。どういう育ち方をすればこんな性格になるのか良く解らない。武将としての彼には愛想を尽かしたくなるときもあるが、だからと言って彼の人格を否定するつもりもなかった。多くの人に好かれ、民を労わり、異民族であっても差別偏見の類を見せることは無い。人を見る目も割とある。闞沢などが解りやすいだろう。曹操・孫策・呂布・公孫賛・馬超・韓遂・張燕・劉備・・・これほど多くの人物から悪くない評価を受け、多くの陣営を転々としながらも欲されている人物と言うのも少ないだろう。それに、見捨てるつもりであるほど嫌っているのであれば体も心も委ねたりしない。何より蹋頓との約束も果たしていないのだ。「ま、私は高順殿の下から離れるつもりはありませぬ。そんな事より。」趙雲は別の話を切り出した。「そんな事より?」「この前は李典と随分お楽しみだったようで。」「・・・はい?」お楽しみって、何が? と言いたそうな高順であったが、次の趙雲の一言で全てを理解する。「ほれ、路地裏であんなに激しく。」「!?」「・・・隊長、後で詳しく話を聞かせていただきたいのですが宜しいでしょうか。」楽進が冷たい表情で高順を睨み、高順は怯えている。沙摩柯はやれやれ、と肩を竦め、兵士は「また始まったな」と苦笑していた。「うむ、楽進よ。あれは激しかったぞ。どちらかと言えば李典(中略)まさかの二(中略)あんなに献身的な奉仕(以下略)」「んがっ・・・」「・・・後で絞めます。宜しいですか?」「宜しくないぃっ!」「まったく、あのような行為をお求めならば私に仰ってくださればよいものを。」趙雲はわざと艶っぽい表情をして高順を見つめる。「ちょーうんさんいい加減にして欲しいなぁ! つうか何これ虐め!?」「虐めではありませぬ。弄りです」「大して変わらないよねそれ!?」そんなやり取りを見ている兵士達はゲラゲラと笑っている。沙摩柯も沙摩柯で「ああ、薄情と言うか性格が悪いだけか。」と合点しているのだった。その後、彼らは無事に李典達と合流。曹操軍に遭遇する事も無く南西へと落ちていく。~~~数日後~~~「なるほど、ね。・・・解りました。私は貴方の降伏を受け入れます。」「・・・はい、ありがとうございます。」曹操の言葉に、陳羣は頭を下げた。そこは広陵城、ついこの間まで高順達が使用していた大広間。夏候淵に降伏の意思を伝え、彼女の部隊と(一応)諸葛亮の部隊を広陵に入城させてから数日で曹操と劉備の軍勢がやってきた。高順一党の殆どが逃走した事について、曹操は何となく惜しむような表情だった。張遼や干禁はそんな事態が来る事を覚悟していたが、やはり辛そうであった。大広間の太守用の椅子に座っている曹操に、陳羣は「これを」と一通の書状と太守の印綬を差し出した。夏候惇が受け取り、曹操に手渡す。「これは?」「はい、前太守であった高順様からのものです。」この言葉に、曹操は「へぇ?」と興味深そうに紐を解いた。さらさらと内容に眼を通していく曹操。要約すると、内容はこのようなものだった。民と兵の暮らしの保障、この地には仏教と言う宗教を信奉する人々は居るが彼らは大人しい性質である事。それでも政治には絶対に関らせないで欲しい事。できるだけこの土地の船を押収しないで欲しいという事。民に対しての租税も負担を強いるようなものにしないで欲しいという事。広陵の実情を良く知っている陳羣を太守とし、彼女の才能を使いこなして欲しいという事。広陵の国庫には大量の宝物が収めてあり、それを天下国家の為に使用して欲しいという事。最後に、これは劉備にも当てはまる事だが、と書かれている文があった。「張遼さん、干禁、華雄姐さん・・・俺の周りの人々を厚遇して欲しい。それだけの才能があるはずだから」と書いてある。最後に「もし冷遇されているようであれば、あんたらに対抗できるように力を蓄えて取り返しに行く。」と半ば脅し、半ば強がりのような言葉で締めくくられていた。それらを見終えた曹操は目を閉じて、手紙を折りたたんで懐に入れた。(ふふ、高順・・・。未熟ながらも太守としての仕事をしていたようね。ただ強いだけの猛将かと思いきや・・・)民を見捨てて逃げるのは、お世辞にも良いとは言えないが・・・彼の文面どおり、全てを取り戻すために力を蓄えるというのであれば悪くも無い。それに、と曹操は目の前で跪いている陳羣を見つめる。どうもこの地の政治は彼女が一手に引き受けていたようだ。高順が丸投げをしたのだろうと思うが、それだけの才覚を持っているのならそれに越した事はない。わざわざこちらから内政官を派遣しなくても良いし、その土地を知っている人間に任せたほうがいいと言うことも理解できる。陳羣が自分を裏切らない、という前提の下だが、その点はさほど心配していない。直感のようなものだが目の前の女性は自分を裏切らない、と感じている。そんな事を心配するような者が覇者になどなれるはずもない。「陳羣。貴方には広陵の太守になってもらいます。」「は?」「貴方の政治能力を高順は高く買っていたようね。貴方に広陵の太守に任じて欲しいとまで書いてあったわ。」「高順様が・・・。」「その代わり、この曹猛徳に忠誠を捧げ働きなさい。もし貴方が私を裏切れば・・・。」この時だけ、曹操は威圧感のようなものを陳羣に叩き付けた。「・・・っ。当然です、民のため、広陵の為。この陳長文、身を粉にして働く所存。」並みの武官であれば腰が砕けるほどの威圧感を受け止め、青くなりながらも陳羣は応えた。彼女の言葉に曹操は笑みを浮かべ、太守の印綬を自ら手渡した。それから思い出したかのように付け加える。「ただ、貴方だけでは守りに不安があるわね。そうねぇ・・・武将として、ここに私の部下と兵を派遣させてもらうわ。良いわね?」「・・・はい、従います。」つまり監視役か、と見抜いていたが彼女は曹操に逆らうつもりは無い。どちらかと言えば自分に劉備の牽制をさせるつもりだな、と読んでいる。劉備は徐州牧だが、この広陵は曹操の領地として飛び地のような扱いで保護される事になっている。(劉備としては不満であるが)「宜しい。そうね・・・武将として車冑(しゃちゅう)と呂虔(りょけん)。現在ここに居る兵士に加え、更に兵5千を駐屯させましょう。それと・・・」曹操は陳羣に多くのことを聞き始めた。仏教とはどのような宗教なのか、この地の食料生産率、季節ごとに徴発される税の割合など、政治・事務の話である。こうして、徐州の3つ巴は曹操の一人勝ちに近い形で終結した。それでも劉備はそこそこ多くの将兵、小沛を傘下に治めて負けとはいえない状況で、呂布や高順が手痛い敗北、勢力の消滅などを味わう・・・負け組である。この後、曹操と劉備は一定の距離をとりつつも友好関係を結ぶ。だが、許田の巻き狩りから始まる曹操暗殺計画等、多くのことが起こって結局は曹操と劉備の対立は深まっていく。そして、南西に逃げた後楊州へと入っていく高順一党。その先の結果がどうなるか・・・それはまだ誰にも解らない。~~~楽屋裏~~~カーナビ盗まれた。あいつです(吐血今年に入ってから不幸回数が多い・・・それはともかく蒼○って面白いよね(謎長かった徐州編もこれで終了・・・長、かった(倒あと2・3話話を差し込んで・・・さぁ、どうするかなあ(笑それでは。ノシ