【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第65話 窮鼠、猫を噛む(?)。「だらぁっ!」「げはっ!!?」張遼の偃月刀がすれ違い様に曹軍兵士の胴を斬り捨てる。馬に乗り、戦場を縦横に駆ける張遼隊。その数は数千と言ったところか。しかし、兵力の差は大きく何時まで持ち堪えられるか正直言って解らない。すぐにでも援軍が欲しいところだったが、小沛に出した援軍派遣の使者も戻っては来ない。この時既に小沛は劉備軍に囲まれており、使者も捕縛されてしまった状態なのだが、張遼はそれを知らない。張遼の守る小沛西の砦に曹操軍襲来の報が届いたのは一昨日の事。高順から遣わされた影の情報収集で知ったのだ。曹軍の兵力は約6万。砦の守備兵は1万5千。勝負にならない・・・と、すぐに援軍を請う使者を出したがその時点で小沛は囲まれていた。それを知る筈もない張遼は、それでも何とか持ちこたえようと奮戦していた。砦の守備を干禁たちに任せ、自身が兵を率いて敵陣を押し返す、というやり方だがこれは張遼だからこそできる、と言えた。高順や華雄、呂布でもできただろうが、干禁には荷が勝ちすぎる。曹操も最初に降伏勧告の使者を出していたが、張遼は「まだ勝負は始まってすらないのに、すぐ降伏なんぞできるかい!」と使者を送り返している。状況が見えてない、と言えばそれまでかもしれないが、張遼の奮戦は実際に目にした曹操をして「流石ね」と唸らせるに値した。砦の規模は大きくは無いが、そのせいで兵士が少なくても要所に配置できる。干禁らが何とか守りきっていたし、砦の付近・・・外だが、張遼隊が攻め寄せてくる曹軍先鋒隊を上手く受け止めて僅かずつでも出血を強いている。また、張遼は砦に戻らずその近くで野営して内外の守りを固める形で戦い続けていた。そのせいか、1日2日経っても、曹操軍は砦を落とせずじまい。~~~曹操軍本営~~~「ふむ・・・今日も落とせず、ね。」報告を受けた曹操は特に怒るでもなく呟いた。「・・・華琳様、やはり私が出ましょうか。」夏候惇がそう言ってくるが曹操は笑った。「ふふ、別に怒ってはいないわよ? 張遼の強さ、どれだけの物かと思って見てみたかったのよ。」前回、虎牢関での戦いは高順・張遼らの一気呵成とも言える襲撃に一杯食わされた形になった。奇襲が上手いのはわかったが、ならば砦を守りつつ、かつ正面戦闘になれば? と考えて小競り合いを仕掛けさせてみたが、これも中々。数を出せば押し切れる、というほど甘くは無かったらしい。申し分ないわ、と曹操は(兵には悪いが)満足していた。こういった逆境でも諦めずに戦おうとする意思も好意に値する。逆に、不利な状況であると解れば再起を期して逃げる、という思考のできる者も好きだった。曹操自身がそういう考えの持ち主だし、そういった思考のできる者が幹部であればどのような状況でも「軍全体に与えられる被害が少ない」のだ。ただの臆病者であれば話にならない。勇敢でありながら、そういった冷徹な考えのできる者・・・というのも曹操にとっては得がたい人材である。難を言えば、そういった割り切った考えのできる人間が曹操陣営では曹操以外にいなさそう、ということくらいだ。まあいいわ、とその考えを打ち消した曹操は「明日、総攻撃を仕掛けます。確実に落とすわよ」とだけ諸将に伝えた。後日、その言葉通りに曹操軍は「本気」で攻撃を始めた。今までは様子見に回っていた夏候姉妹も砦の攻略に加わって、これまで以上の苛烈な戦闘になる。張遼も奮戦していたが、兵士の疲労が激しくて思うような動きが出来ない。彼女自身も疲労が溜まっていたが、弱音を吐くことはできない。張遼が奮戦するその時、砦では・・・「干禁殿ー、砦が落ちそうなのね~ん」「落ちそうフンガー!」「・・・あぅぅ・・・。」宋憲・魏続の情けない声と今まさに砦が陥落しかかっている状況に、干禁は泣きそうになっていた。干禁も頑張って戦っているのだが夏候姉妹に追い立てられ、砦の大部分は曹操軍に占領され・・・と、打つ手が無い。既に降伏する以外に道が無いが、砦外で踏ん張っている張遼がいて、そちらも気がかりである。こんな時高順さんならどうするのかな、と思った干禁だったが・・・。前触れもなく、いきなり後ろから頭を殴りつけられた。「え・・・ぅ?」何が起こったのか、それが解らず干禁はふらつきながらも後ろを振り向く。そこには、ニヤニヤと笑う宋憲と魏続、そして何時の間にいたのか侯成まで。「悪いねぇ、干禁ちゃん。まあ、最初からこうなる予定だったしねぇ・・・さて、少しだけ静かにしてもらうよ」「あぅ、ぐ・・・」もしかして最初から敵に通じて・・・?もう1度、頭を殴りつけられた干禁はその場に崩れ落ちた。この瞬間、砦は陥落。張遼は完全に追い詰められる事に。「張遼様!」「どっせーい! ・・・何や、眭固か?」張遼は、群がる敵兵を倒しつつも側によってきた眭固へ顔を向ける。「もう駄目です、砦が落ちました!」「はぁっ!? まだもう少しは保つはずやろが! 何でそない早く・・・ああ、うざったい!」張遼もだが、影である眭固も何とか曹軍兵士をあしらっているが多少の手傷は負っている。「侯成達があっさり寝返ったんですよ! 干禁さんも捕らわれて・・・!」「ああ?! あの三馬鹿かいな・・・! もうちょい保てばうちが砦入って時間稼ぎできたっつーに。あんの馬鹿どもが・・・」眭固としても助けたかっただろうが多勢に無勢、手の出しようも無かった。「どうしますか!?」張遼は僅かに考えて「眭固、順やんのとこに帰り。」と言う。「え・・・」「今まであんがとな。あんたが色々教えてくれたからうちらに被害及ばんかったし。」眭固は高順の情報を、自分の知る限りではあるが張遼に伝えている。高順への暗殺が未遂で終わり、危うくも一命を取り留めた事は曹操軍が攻めてくる僅かな前に知った。西砦に行くようにしたのも、どうしようもなければ曹操軍に降伏させても構わないという意を受けた眭固の入れ知恵も関係していた。「ははは、うちも行きたいけどなー。干禁の事も頼まれてもーたし・・・順やんの親も何とかせな。それに・・・」張遼は僅かに視線を落として自分の腹を摩った。これは閻行と干禁、あと眭固くらいしか知らないことだが、張遼の体には新しい命が宿っている。間違いなく高順の子だ。外見上大した変化は無い。前触れも無く行きなり吐く事が多くなり、閻行に相談したら「もしかして悪阻?」と言われ経過を見ていたが・・・どうも間違いない。閻行も、それを聞いた干禁も喜んだ。閻行にとっては初孫になるし、高順絡みで暗い話題が続いていた時の話なので、明るい話題が出来た事は嬉しかった。張遼も大喜びだったが、お腹の膨らみが目立ち始めた頃に高順に知らせて驚かせてやるつもりだった。悪阻はそれほど酷くないので戦も大丈夫(ストレスをそれほど感じない)だが、それでも無茶はできない。この子を産むまで絶対に死ねるものか、と思っているし、高順の驚く顔もみたかったが・・・ここまでのようだ。この砦の総大将である自分が、干禁を捕らえられたままで逃げる訳にも行かない。総大将は、何かあったときに自身の判断で責を取るからこその総大将だ。「ほら、とっとと行き、眭固。」「・・・くっ・・・」眭固は身を翻して、走り出した。一度だけ振り返り「必ず、必ず伝えますから!」と叫んで、後は振り返らずに駆けて行く。彼の技術であれば、この戦場を脱出出来るだろう。・・・ああ見えて妙に強いし。見れば、周りにいたはずの配下の兵士も、曹軍の兵も揃って数が少ない。自軍の兵には「死ぬよりは降伏しーや」と言い含めてあって、それに従ったのだろうと思う。これほどあっさり片がついてしまったのも最初から勝ち目が無いと思っている兵が多かったのだろう。援軍さえ来てくれればな、と思うが・・・仕方が無い。曹軍の兵が少ないのが何故か解らんけど・・・しゃーないな、降伏するか、と思った矢先。一騎の将・・・曹操がただ一騎でこちらに向かってくるのが見えた。ゆっくりと馬を進ませ、余裕の表情で向かってくる曹操。護衛を伴う事なく進んでくるのだから当然余裕はあるだろう。この状況で、張遼が見苦しく暴れまわる筈も無いと踏んでいたが・・・お互いの距離が10歩程度のところで、曹操は馬の手綱を引いて停止する。「見事ね、張遼。この規模の砦と少ない兵士、援軍の当てもない状況でここまで保たせるなんて。」「・・・はん、何が見事や。そっちが本腰入れた瞬間にあっさり崩れたわ。」張遼は不機嫌そうにそっぽを向いた。その様子に曹操は少し笑い、さて、と言いなおした。「降伏しなさい、張遼。ここで死なせるのも、呂布に仕えさせるのも惜しい。貴女の才と能力を、私は高く買い上げるわ。」「・・・。こっちの条件呑んでくれるなら降伏してもええけど。」この状況で条件を呑め、というのは尊大。誰であれそう考えるだろうが、曹操は特に考えるでもなく「条件は?」と問い返した。「1つ目、うちの部下の身柄の安全。部下の家族も同義や。」当然、干禁も含まれるのだが曹操から言わせてもらえば言われるまでもない話だ。吸収した兵、民の家族、その土地に住む大部分の人々の生活を保障しなければ為政者足りえない。「2つ目、曹操。あんた同性愛者やそうやな?」「ええ。」あっさりと認め、それが何か?と 曹操は小首を傾げた。「うちは、あんたの為に働いてもあんたの愛人にはならん。こー見えて操を立てる相手がおってな。ちゅーか妊娠しとるし。」「妊娠!? ・・・なるほど。ふふ、構わないわ。略奪愛も素敵だけれど、それで叛意を持たれては困るもの。貴女の子供にも危害を加えない、と付け加えておくわ。他には?」多分、相手は高順だろうな、と予想をつけている。馬だけでなく女を乗りこなす手管もある、か。やるわね。と妙な感心をしてしまった。「ほな、これで最後。・・・うち、敬語苦手でなぁ。誰であれこんな話し方しかでけへんねん。」「・・・。まさか、その話し方を私にも押し通す、かしら?」「ま、そーゆーこっちゃ。呑んでくれればうちはあんたの為に働く。うちの子、近しい人々の為にもな。どや?」その条件で忠誠を得るなら安いものだと曹操は笑う。張遼は高順同様に出世とか金銭欲と言うものが薄いらしい。「聞かれるまでも無いわね。良いでしょう、認めます。そしてようこそ我が軍へ。歓迎するわ、張遼。」「はん、そー願いたいなぁ。」苦笑する張遼だったが、一度だけ東の空を仰ぎ見た。堪忍してや、順やん。と小さな声で呟く張遼の瞳から、涙が一筋すぅっと零れ落ちた。少し時間が経ち、小沛の戦いも大詰めを迎えていた。劉備は単独で攻めることになってしまって相当な苦戦を強いられていた。というのも、西砦を落として干禁・張遼、ついでに三馬鹿を配下に加えた曹操の動きが急に鈍くなったからだ。曹操としてみれば張遼と干禁を得た時点で満足していたし、高順に対しては夏候淵を派遣して抑える予定だった(高順が生きている事を張遼の言で知った)いわば、劉備と呂布の戦いは無視されたことになる。投降兵の傷の手当や戦争時の簡単な部隊への組み入れ編成で多少の時間を必要としたのもまた事実だ。が、砦を一週間程度で落として、そこに長期間滞在しているのだから曹操の魂胆は丸見えである。「自分の力で何とかして見せなさい」と言うのだ。準備が完全に整っていなかった事、出来れば敵対をしたくなかったという劉備の考えもあって小沛攻略は苦戦しているといってもいい。呂布がそれほど本気を出さなかった事で何とか互角に保っていた。呂布軍(小沛)の兵力は2万程度しかないがほとんど篭城を決め込んで、外に出るのは華雄や徐栄。呂布に僅かな兵士のみ。それでも関羽・張飛を擁する劉備軍を苦戦させるのだから鬼神の名は伊達ではないと言うところか。小沛攻撃部隊は3万ほど。残した1万のうち、後詰で5千ほどを繰り出したいところだったが・・・。ここで高順が「偵察」と言って200ほどの騎兵を下邳に繰り出して、小競り合いをすることも無く帰還させる、ということを行っている。これに対し、留守として下邳に残っていた陳到と諸葛亮は「何を企んでいるのだろう?」と高順の本意を疑った。呂布に対して積極的に救援をするわけでもなく、かといってあっさり見限るような真似をせず・・・。もしかして、こちらが後詰を出すのを待って手薄になったところで攻めてくるのか? と思ったのだ。諸葛亮も陳到も同数の兵で高順に勝てるとは思わない。それに、前政権下である下邳をほぼ独力で落としたのも高順だと聞いている。高順は下邳の弱点となる場所を知っているということになり、これでは動けない、と諸葛亮が考えたのも無理はない話しだった。ところが、高順としてはそんなつもりは全く無い。下邳に残された部隊の動きを1日でも停止させれば上出来だ、ということでしかない。「・・・まだまだ。」「ぜぇ、はぁっ・・・つ、強いのだー・・・」呂布の振るう放天画戟を避け、いなして、時には蛇矛で受け止めて。張飛は何とか1人で呂布を押さえ込んでいた。関羽は、というと華雄との一騎打ちを行っている最中だ。張飛とは違って有利に進めているようだが、楽勝と言うわけには行かない。攻撃力だけ見れば華雄のほうが上回っており、諸に喰らえば関羽も「ただではすまない・・・」と、覚悟をさせる程の腕なのだ。この数日間、何度も呂布と華雄に陣をかき回され、苦戦を強いられている劉備軍。そろそろ2人を無力化させて勝負を決めたいところではあるが・・・時刻は既に夕刻。両軍の陣(呂布側は城だが)からは引き上げの銅鑼が鳴る。「・・・引き上げ。」あっさりと踵を返す呂布。張飛は引き上げ合図を無視して追いかけようとするが、体力が残っておらず足元がふらついている。呂布は全く気にすることなく少数の兵を纏めて帰還していった。「ぅー・・・! また勝負が付かなかったのだー!」と、強がりを言う辺り、張飛はまだまだ子供である。華雄・関羽はというと。「ぬぐぐぐぐっ・・・!」「ぐぎぎぎぎっ・・・!」お互いの得物を叩きつけあって延々力比べをしていたとか。(何をしているのだろう?)善戦する呂布軍だが、張遼と同様に兵が保たなくなっている。援軍の見込みもなく、無理からぬ話。劉備側もそこそこに被害が出ているものの、呂布軍が限界に近いことを(鳳統が)看破しており、駄目元で「降伏勧告」の使者を出した。「・・・きた。」と呂布はその使者を受け入れ、口上を聴いてみることにした。華雄は何とか帰還できたが傷だらけ。張兄弟も董卓と、ついでに賈詡を守らなければならないので出撃が出来ない。徐栄も連日の戦闘で負傷しているし、陳宮や曹性は弓兵の指揮をして怪我をしているわけではないが、やはり疲労が激しい。さて、使者の言い分だが・・・。「これ以上の戦は無益。このまま降伏してくれれば、呂布を始めとした将兵の罪を問わず、身柄の安全は確実に保証する。将軍達も重く用いる事を約束云々・・・」と、ありきたりな内容である。ここは呂布のねらい目でもある。高順の言うとおり、苦戦させれば何とか収めようとするというのは誰でも考える。いきなり白旗をあげても向こうは信用しない。ある程度苦戦させた状態と、こちらの戦力が磨り減った状態。それを鑑みれば降伏勧告は誰にでもわかる手段だった。後はそれが通用するかどうかだが、その賭けは成功しつつあるらしい。ただ、呂布は劉備からの降伏文書に1つだけケチをつけた。「・・・これじゃ、駄目。」「は? 駄目、とは・・・?」意味が解らず聞き返してくる使者に、呂布はこう付け加えた。「これじゃ足りない。小沛の・・・民の安全に言及が無い。民の身の安全も保障して。」「は・・・ははっ、申し訳ありません!」「・・・?」慌てて引き返す使者だったが、呂布は「何故使者が謝るのだろう?」とか思っていた。結局、呂布の言う条件で降伏が決定。(劉備も慌てたらしい)呂布勢はそれほどの被害を出すでもなく、きっちりと自分達の力を売り込んでから劉備軍の中での立ち位置を確保したのだった。華雄・張兄弟は何となく不満だったが、「ここで無駄死にするよりは」と不承不承ながらも納得してくれた。董卓や賈詡も処刑される事なく生き延びる事ができたが、その名で通す訳にもいかず、真名で過ごす事を余儀なくされる。が、呂布に保護される事になったので、十常侍の時よりまだマシと言うところだろう。董卓らの名がこれ以降歴史に出ることは無かったが、悪くない待遇で静かに過ごす事ができた分、幸せだったのかもしれない。賈詡は何もかもが不安であったが、呂布から「信頼できない人物が軍権を握るのは見過ごせない。貴女はここまでにしておくべき」と言われ、むっつりと押し黙るしかなかった。さて、残るは広陵。高順は西砦と呂布が降伏したことを影の報告で確認してから、まずは李典・闞沢。蹋頓に閻柔と田豫もつけて輜重部隊4千(戦えないわけではない)ほどを任せて城外南西に進ませた。広陵の総兵数は7千ほどだが、うち2千は残留。脱出する軍勢は5千程度なので残留組を除けば残り1千ということになる。船を使用しないので直進で南に向かう事ができず、南西の寿春方面へ進み転進。秣陵方面へ進み南下・・・というのが高順の考えたルートだ。袁術や劉表といった勢力となるだけ係わる事のないように、という事でもあるし、現状の江南・江東は戦力、兵力共に傑出した勢力が少ない。中小勢力が食い合う群雄割拠状態であった。そこを抜けて交州へ行くか、経由するだけに留めて益州に行くか・・・そこまでは決めていなかった。ともかく逃亡用意だけはしておいたが、そのまま逃亡するのは配下武将全員が不満であった。曹操・劉備にこの数で勝てるとは思わなかったが、一矢を報いても良いのではないか、という意見がチラホラと出ている。高順もその意見には賛同したかったが、もしも出てくる武将が夏候姉妹だったら・・・と考えて一応「考えておく」程度に返したのみだ。ちなみに、下邳の諸葛亮にも「呂布さん降伏させたよ!」という劉備からの報告を受けて「では、我々も広陵に向かいます」と部隊を進発させた。別に真正面から戦うつもりはない。劉備、或いは曹操軍が来るまで高順隊を広陵に封じ込めておこうと言う当初の予定だった。偵察部隊を見て「何を考えている?」といぶかしんだ物だが、そこから更に何かがあったわけではなく「只の脅しに過ぎなかった」というのがすぐに解った。それでも無闇に出兵をしないのは諸葛亮の慎重さだが・・・。留守居に陳登らを残し、諸葛亮は陳到・糜芳を伴い6千の兵で広陵へ進発。曹操軍に先を越されると後々困る状態になりそうなので、昼夜兼行で急いだ。これによって、僅か1日程度の差で夏候淵の先を行くことに成功している。(位置的に見れば下邳のほうが広陵に近い城攻めが出来る戦力ではないが、陣地を作り封じ込めてしまえば篭城する以外に手はないはず。こちらが劉備・曹操の軍勢と合力すれば、高順には降伏する以外に取れる手段は少ない。華雄や呂布が降伏を呼びかければ、その可能性は更に高くなるだろう。オーソドックスなやり方で考える諸葛亮だったが、彼女は1つだけ思い違いをしていた。いや、忘れていた。虎牢関で見せられた高順隊の戦いを。高順・趙雲と言った人々は劣勢な状況であろうとも、好機と見れば攻めかかっていく性格の持ち主である事を。~~~広陵付近西側、劉備軍陣地~~~夜は更けて。見回りの兵士が行きかう劉備軍の陣地。陣地と言っても、防御柵はほとんど無い。陣幕を多数張って、広陵側に対し僅かな柵を向けているのみ。諸葛亮が陣を張ったのは広陵の北ではなく西だった。その更に南西に李典ら先発部隊が存在しているがそれには気付いていない。西に陣を張ったのは、広陵に向かってくる劉備、或いは曹操軍と少しでも早く合流、合同で攻撃態勢を整える足場を作りたいからだ。もっとも、昼夜兼行で急いで向かった事もあり、大多数の兵士は疲れている。それなりの兵数を見張りにして奇襲を受けた際の対抗戦力としているが、諸葛亮自身はまだ子供なので夜更かしが出来ない。そんな子供が軍師の1人と言うのは周りから見て侮られそうなものなのだが、不思議と劉備軍ではそんな評価は出ていない。頭も良いし、統率力もある。幼いながら、懸命に自分の役割を果たそうとする姿に尊敬の念を抱く者が少なくない。彼女の統率力は「自軍から逃亡者を出さない」統率力であって、「戦術と言う意味」の統率力は正直に言えば低い。戦場で敵を陥れて勝利するというものでは同じ軍師である鳳統には敵わないだろう。諸葛亮の本質は治世家であるし、そのような事で人と張り合うような性格でもないから問題は無いのだろうけれど。だが、悪い癖があるもので・・・詰めが甘い、というところがあった。相手の数が少ないせいで勝ちを確信。或いは篭城するしかないと考えて逆襲されるという事がちょくちょくあるのだが・・・陣地に喧騒が走る。僅かに響く、そして次第に大きくなっていく馬蹄が鳴らす地鳴りと黒い影。兵士の声。叫び、怒鳴る声が響く。「何だ、何が起こった! ・・・あれって、まさか・・・?」「おい、広陵の軍勢は篭城しているはずじゃないのか!」「俺が知るか! とにかく、軍師殿や陳到将軍にお知らせして・・・!」「冗談じゃないっ! 広陵軍が出撃だなんて誰が思うよ!?」「うわわ・・・来るぞ!」「弓! 弓隊は・・・くそぉ、間に合わん!!!」兵の怒鳴り声に起こされて諸葛亮が「ん~・・・」と、目を擦りつつ己の陣幕から出てきた。彼女の陣幕は後方にあるのだが、そこまで喧騒が響くという事は一気に陣深くまで斬り込まれたか、兵が油断をしすぎて後方にまで動揺が走ったのか。既に戦いは始まっていて陳到が防戦指示を出しているが、歩兵ばかりの、しかも疲労している劉備軍。広陵から出撃してきた部隊は攻撃、機動戦を得意とする騎馬兵主体。劉備軍の守備陣系もあっさりと破られて、あちらこちらの陣幕が焼かれていく。まだ何が起こっているのかよく解らない諸葛亮だが、彼女の姿を見た兵士が「ああ、ちょうど良いところに!」と駆け寄ってくる。「うにゅぅ・・・なんでふかぁ? 何が・・・う~~~・・・」「ぐ、軍師殿! それが・・・って寝ないでください!?」兵士は、油断しているとまた眠りそうになってしまう少女の肩をガクガクと揺らして、何とか眠りを醒まさせようとする。「はぅっ・・・んぇ? ぇーと・・・? この騒ぎはなんでふか・・・」「それが・・・その! 敵の奇襲です!」「・・・ふぇ? 敵襲?」「はい、広陵軍が!」「・・・。・・・え? 広陵・・・えー・・・え? ほ、ほんとに?」眠りこけていたせいで駄目駄目だった頭の回転が少しずつ回ってきたらしい。「はっ! 出撃してきたのは・・・部隊の数は不明ですが、率いるのは巨馬に跨る髑髏龍の武者・・・か、陥陣営ですっっ!」「え・・・えーーーーーーーっっっっ!!??」~~~楽屋裏~~~もう疲れたよネロ(?) あいつです(挨拶あっさり描写で終わらせてみたYO!先生と董卓ですが、これまで言った通り、後は名前しか出てこないでしょうwえ? にんしん? 何の事か解らないなぁははは(乾いた笑顔~~~番外。本筋に組み込む訳でもなし。~~~「そう、か・・・張遼さん・干禁も降伏。呂布や華雄姐さんも劉備の降伏勧告に応じたか。」広陵城の大広間。ここで眭固ら影部隊の報告を、高順は頷いて聞いていた。他に、干禁以外の高順一党、陳羣、闞沢。全員居る。いつも三人で行動してしまい同然の仲である楽進と李典は辛そうに顔を歪ませている。他にも張遼、華雄・・・高順一党とは縁の深い人々。その全てが無事に、というのもおかしいかもしれないが降伏して命を永らえた事には安堵している。だが、高順は「すまない・・・」と思い、その意を仲間に伝える事しかできなかった。もっと早くに行動していれば何とかなったかもしれない。何ともならなかったかもしれない。だが、自分は全力で事態を解決しようとしていただろうか? と自分を責めている。趙雲も「どうしてこういう時に頼りないのか」と嘆息してしまうが、彼の置かれた状況に同情する気持ちもあって複雑そうだ。他の沙摩柯・蹋頓と言った人々はそれほど複雑な思いは無い。人の縁などなるようにしかならないと考えていたし、彼女達は高順に拾ってもらわなければ今頃どうなっていたか解らない。自分たちの人生全てを高順にかけている彼女達は、どうなろうと最後まで高順の後ろに続く覚悟を持っている。ただ、そこで眭固が「それと!」と大声で報告を続ける。「ん・・・何だ、まだ他に何か?」「はい、その・・・このような状況で言うのは良くないとは思うのですが。」「? 何だ、些細な事でも構わないぞ?」一応の了解を得た、とばかりに眭固は「んんっ」と喉を鳴らす。他の人々も「一体何が?」と報告を待っている。「張遼様の事なのですが」「張遼さんの・・・」それまで跪いて報告をしていた眭固が顔を上げ「張遼様が、高順様のお子を身篭っておられます!!」「(゚Д゚)」←高順「ほほぅ。」←趙雲『(゚Д゚;)』←楽進&李典「あらあら」←にこにこ笑っている蹋頓「ああ、何だ。こういう事態で何だがおめでとう」←沙摩柯他の人々も苦笑しつつ「おめでとう」と言ってくれる。だが、高順は硬直したまま動けないでいた。・・・妊娠? 張遼さんが? 俺の子? 俺の・・・。と、呟いてからそのままフラフラと大広間を出て行こうとする。皆が(あれ?)と思った。こういうときにはありがとうと言いそうな高順なのに。すこし不審に思った趙雲が「こ、高順殿・・・いかがなされた?」と問う。その問いに高順は振り返って「ん、ちょっと曹操に喧嘩売ってくる。」と言ってすたすたと歩いていく。その場にいた全員が「はぁ。」と返事をしてしまったが、瞬間「いやいやいやいや!?」と頭を振った。「ちょ、まっ! 何言ってるんですか隊長!?」「せやで、逃げる言うたんは高順兄さんやろ! 何あっさり方針転換しとるん!?」「お待ちなされ! というか落ち着いて!?」趙雲やら楽進やらが高順の体を抱きかかえて引き戻そうとする。「はーなーせー!!!!」「離しませんーーーー!!!!!」はなせ、はなさない、と問答を続ける高順らを、周りはどうしたものかと思ってみていたが、そこに蹋頓が近づいていく。「高順さん、落ち着いてください。」と言うが「これで落ち着けるわけ無いでしょう!」と返される。まあ当然でしょうね、と思う。が、蹋頓はやおら低い声で「お願いですから落ち着いてくださいね。さもないと。」その声に楽進や李典、趙雲でさえ背筋に「ぞわっ」と何かを感じた。(これ・・・は、ま、まさか・・・)感じるどころか、体に震えと寒気が走る。そんな彼女達の反応は捨て置いて、蹋頓は笑顔でこう言った。目と耳に、どろどろに溶けた錫(すず)を流し込みますよ・・・?『ごめんなさいもうしませんごめんさい!!!!!!』その凄まじい何かに圧倒された高順は勿論、何故か沙摩柯以外の全員が蹋頓に土下座して謝っていた。高順は純粋にその迫力に負けて謝ったのだが、他の人々はすっげぇ震えっぷりである。臧覇など、広間の端っこで膝を抱えて座り込み「怖いよぅ・・・蹋頓お姉ちゃんが怖いよぅ・・・」とガタガタ震えている。「ごめんなさい・・・手足(ry」「あんな叫びを聞くのはもう御免だ・・・(涙」「うう・・・もう、あかん。泣きそう・・・」「あの断末魔が聞こえてくる・・・あの悲痛な叫びが・・・体ではなく心を殺すあの手管がぁっ・・・」だの、高順には意味の解らない何かであった。多くの人々が震えて泣いて許しを乞う中、楊醜が天井裏からすっと現れた。一度は外したものの、流石にこの状況で無視は出来ない・・・と、高順は影を下邳と小沛に配置。色々と情報を探っている。小沛は既に落ち着いたので(そうでなければ眭固らが帰ってこない)下邳を重点的に調べさせていたが何らかの動きがあったようだ。「高順、情報だ・・・下邳から5・6千ほどの軍勢が進発したぜ。目標はここ、広陵だ・・・」「・・・そうか、解った。」恐怖心を何とか押さえつけて、高順は考え始めた。曹操に挑むのは無理だが、劉備軍なら。「楊醜、率いるのは誰だ。あんたの見立てじゃどれくらいでここに到達すると思う。」「・・・率いるのは諸葛亮、あとは聞いたことの無い将軍だな・・・。ここに到達するのは・・・そうだな、急いでるようだったから2・3日もかからないと思うぜ。」「2・3日ね・・・ふむ。」趙雲や楽進には、この時の高順が活き活きとしているように見えたらしい。張遼の事で気がたっていた事もあるだろうが、高順は劉備陣営に手痛い仕返しを仕掛けてやると思っている。あいつらさえ来なければ・・・という気持ちもあるようだ。劉備本人にそんな悪気があった訳ではない、というのも理解しているのだが何と言うか間の悪い動き方をして色々と自分達に不利な動きをしてくれた。それに、諸葛亮は政治家・或いは軍師という立場で元々慎重な性格。自分から積極的に攻撃をすることは無いだろうと思うし、兵力差を考えて「広陵の軍勢は篭城以外に手は無いはず」と思い込む可能性も高い。軍を急かしているともいう。確かに西から来る曹操・劉備が加われば篭城・降伏しかないが、急いで疲労した軍勢、咄嗟の判断や奇策と言ったものが不得手な諸葛亮。徐州政権時に劉備に加わった内政官は多いだろうが、まともな武将はいなかったはず。相手の鼻先に軽く拳打を食らわせてやることは出来るな、と高順は素早く考えた。「李典。」「ほいなっ」高順の呼びかけに、李典は元気よく答えた。「輜重隊4千を率いて南西に進め。当初からの逃亡予定路に沿ってな。臧覇ちゃんと闞沢・・・蹋頓さんと閻柔、田豫も連れて行くんだ。」「了解や。出るんはいつがええ?」「早ければ早いほど、かな。輜重が主だからそれほど早く進めないとは思うが・・・あと、曹操軍にぶつかれば降伏しろ。」「えっ? ・・・せやけど」「そこまで早く包囲されるなら諦めもするさ。逃げの一手を打てない状況で逃げるつもりも無い。」だが、逃げが通用するなら俺は曹操から逃げるけどな、と自嘲的に言い置いて「さ、早く」と李典を走らせた。名前を呼ばれた蹋頓達も李典の手伝いをする為に広間を出て行く。それを見送って、趙雲が高順のほうへと顔を向けた。「して、残された我々は?」「ん? ・・・はは、決まってるさ。逃げを続けて、鬱憤の溜まった趙雲殿を残したんだ。どういう意味かはわかるでしょう。」高順の言葉に、趙雲に獰猛にも見える笑みを浮かべ鷹揚に頷いた。「さて、行くか。」と高順も広間を出て行く。やるべき事をやる為に。~~~もういっちょ楽屋裏~~~これ、高順が諸葛亮と言うか劉備に喧嘩売る前のお話です。ちょろっと思いついたものの、組み込めそうな場所が無かったので番外にw錫云々は、どこぞのチンギスがどこぞの捕虜に・・・モゴモゴとーとん姉さんというか、烏丸はモンゴル系の騎馬民族なのでそれにかけただけ・・・最初は曹操に喧嘩売ろうとしたようですが、それはどうも無理っぽいということで、先に到着するであろう諸葛亮に、ということですかね。同時に、「俺は逃げれるところまでは逃げ続けるよ」という後ろ向きな行動ですなwそれではノシ