【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第61話 劉備来る。その2。さて、徐州は下邳(かひ)。この地は現在呂布が支配している。小沛(しょうはい)には張遼、広陵(こうりょう)には高順。他、小さな拠点にも兵士を回しているが・・・概ね徐州三都市を支配する呂布を、人々は徐州を征した存在と認めている。当初はどうなるかと思われていたが、呂布は無難どころではないレベルで徐州を治めている。それには陳宮・賈詡・張遼、そして旧政権下から呂布へと鞍替えした官吏・武将の力あってこそである。呂布自身に統治能力がなくとも、食欲か、可愛い小動物などにしか関心を示さない・・・有体に言って、支配欲、人の上に立つという野望がない。我欲が薄いということは統治者にとって必要な資質の一つで、政治家としては赤点の彼女も統治者として見るならば、周りに有能な人々が居ればきっちりと「それらしく」なるのである。そんな呂布治世下の下邳に、平原からやってきた一団が入城していた。劉備と、その配下である将兵3万が・・・。下邳城の玉座の間にて、呂布・・・というよりも、賈詡が劉備と交渉を行っていた。両勢力の代表者が机を挟んで座り、その隣に軍師たる賈詡と陳宮、劉備側には諸葛亮と鳳統がいる。呂布側には張遼・華雄・張兄弟が。劉備側には関羽・張飛。お互いに睨みを利かせていて一触即発状態であったりする。賈詡は急に現れた劉備を「何をしに来たのだ?」と真意を見透かそうとしていた。劉備が徐州に向かっている事自体は細作の働きで知っていたが、その目的までは判別していない。いつでも出撃・戦闘になっても構わないように、と小沛の部隊も下邳に呼び寄せ態勢を整えてもいた。高順を呼ばないのは、彼が反劉備派であるからだ。交渉をおかしな方向へ持っていかれては困るし、外様である彼の発言力が増しかねない事態になるというのも面白くない。外様は外様。分を弁えてもらわなくては、と彼女は高順に厳しい態度を取っていた。呂布や華雄など、高順に悪意を持たない人々は「もう少し高順を認めるべきだ」と何度も賈詡に言っている。どころか、張兄弟や張遼も同じ意見だ。賈詡は高順の能力まで否定する訳ではない。だが、危険だと思っている。今はまだ大丈夫でも、どんな事で暴発するか解らないのだ。彼の元には一騎当千といえる猛者が多くいて、兵の数もそこそこ。何より、広陵一都市で独立できるほどの蓄えがある。だからこそ、物資を取り上げ、力を削ごうとした。高順が反発するのも覚悟の上でだ。更に、彼女は高順一党という勢力を分散させるつもりだ。彼らが一所に集まると脅威だが、散らばらせてしまえば恐れるに足りない。今は高順を「武将」として扱うが最終的には「部将」に格下げもする。例え、高順がどれだけの功績を立てようとも。賈詡は厳しい態度を取り続けるつもりであった。自分の命令に従って当然、という自身への能力評価が判断を誤らせているがそれに気付く事もできない。それが2人の溝を深め、後戻りが出来ないものになることすら予見が出来なかった。さて、交渉だが・・・。劉備側は正当性を盾にして、徐州全てを自分達に「返却」するように求めた。当然、呂布側は反発。交渉は平行線でしかないが、流れとしては不利なものがある。特に呂布の上に立つという形を陳宮が認めようとしない。が、元からこの交渉は呂布側に不利なものだった。呂布達は武をもって徐州を得たに過ぎない。誰が何を言おうと、正式な形で徐州牧となった劉備のほうにこそ理があった。何とかして譲歩を引き出そうとする賈詡に、劉備はわざとらしくこう言った。「んー・・・それじゃあ、まずここ(下邳)を私達の領地にさせていただきます!」と。「・・・何故、下邳だけで良いの?」賈詡の質問に、劉備の傍らに居る諸葛亮が答える。「ココが一番豊かだからです。ほかの都市は一時的に呂布さんに「貸す」という形にさせて貰うつもりです。条件を呑めないのであれば・・・どうなるか、わかっておいでですよね?」と、無い胸を反らして言い切った。「むっ・・・。」広陵も欲しかったが、どちらかと言えば放っておいて、後で美味しいところだけ頂こうという考えだ。今、人を遣って治世状態を無理やり変えるのは好ましくは無い。拠点が増えればそれだけ戦力を分散させる事にもなるので、現状では下邳のみで充分である。この時点で、賈詡は劉備たちの魂胆に気付いていた。小沛は曹操の領地に程近い。曹操と劉備が繋がっているかどうかまではイマイチ解らないが、もしも戦争となれば自分達を曹操に対しての盾にするつもりなのだろう。加えて、土地を貸すという名目で此方に貸しを作ったと思わせ、更に言えば賃貸料とかそういう名目で物資を吸い上げようとも思っているはずだ。自分が高順に対して行ったように、力を付けさせず、弱体化させず。という扱いをしようと。もしかしたら、曹操にとって有利な動きをしているだけかもしれないが・・・どちらにせよ、両者と対立することはできない。「それと、下邳に集積している物資も全て私達のものになります。宜しいですね?」「・・・ん。」諸葛亮は、賈詡に言えば絶対に反対をされるであろう事を呂布に対して言った。最高意思決定を行うのは呂布であり、賈詡は助言を行うだけという立場を逆手に取られた形となった。呂布も劉備と矛を交えるつもりが無かったので、あっさりこの案を呑んだ。「なんですとー!?」「ちょ、待ちなさいよ!?」「賈詡、ちんきゅ。これは決定事項。」「そ、そんなぁ・・・」「・・・あぁ、もう! 好きにしなさいよ!」穏やかに言う呂布に言い捨てて、賈詡は部屋を出て行った。そんな賈詡を無視して、劉備はニコニコ顔で呂布に礼を言った。「ありがとうございます、呂布さん。それと」更に注文をつけようとする劉備だったが、呂布が遮るように言う。「これで話は終わり。これ以上の要求は呑めない。」「はわっ!?」「私達は去る。」「え、ちょ、ちょっと待って下さい!?」「ま、待ってー! 話は最後まで聞いてよー!?」席を立った呂布を、劉備達は引きとめようとするが完全に無視して呂布は去っていった。呂布の家臣も従い(陳宮は不満たらたらであった)、部屋に残されたのは劉備側の人間のみ。呆然として見送るしかなかったが、「まあ、まずはこれで良しとしよう」と思うのだった。劉備たちは平原から来たのだが、内実はかなり厳しいものだった。まず、資金も食料も持ってきた量ではこの先をどうやっても乗り切れないほど困窮していた。どちらにせよ、下邳に貯めてある物資に頼らなければどうしようもない状況だったのだ。これを呑んでもらっただけでも有難い話である。もう1つの要求は、賈詡の睨んだとおり「土地の賃貸料」を取る腹積もりであった。それは失敗してしまったが、これから先何とでもなるだろう。恩を売った流れにしておけば、引き込む事も出来るだろうし、呂布軍を配下にすれば曹操の軍勢にも引けを取らない。ここで一気に群雄として上を目指す劉備たちであったが・・・この一連の流れに激怒する男がいた。高順である。広陵の政務室。楊醜から聞いた、この一件に関する報告は高順を心底怒らせるに足るものであった。(か、賈詡先生の馬鹿め・・・! 一体何を考えているんだ!?)彼が怒るのにも無理はなかった。どうして自分をその場に呼ばなかった、というのもあるが、そういった大事な事を部下の意見を聞かずに勝手に決定してしまう事にもだ。助言をするだけの立場に徹し、戦場で策を繰り出し勝利に貢献する・・・それが軍師ではないか。董卓や呂布も高順の扱いに気を遣うように言っているのだが、本人は頑として聞こうとしない。確かに彼女の目は確かだろうが・・・劉備と曹操に関して言えば甘く見すぎだ。劉備のほうから擦り寄ってきたとは言え、この状況ではこちらがジリ貧になるだけだ。地理上、曹操から攻められれば劉備の盾になる、という形になる。更に言えば、挟み撃ちにされればどうする?自分に嫌がらせをするだけだったならまだしも、これでは自分達が滅亡する状況を作り出しただけにしか見えない。お互いを利用しようとしているのだろうが、そう上手く行くものか。賈詡は劉備を侮っているようにしか思えない。劉備風情では私達に、呂布軍には勝てない。そう思い込んでいるのではないか、と危惧してしまう。(劉備のカリスマを知らないからか・・・。放っておけば徐州のほぼ全域が劉備になびくだろうに・・・クソッ。)おそらくは、陳登やら糜竺やらはあっさり劉備に鞍替えしただろう。正当性のある立場かそうでないか、を選ぶのなら誰でもそうするに決まっている。もっとも、きっちりとした理由があって徐州にやってきた劉備を受け入れない、というのが賢明な判断ともいえない。自分であっても渋々受け入れたであろうが・・・下邳をそのままくれてやる事もなかった、と思わずにいられない。そこを考えれば、あっさりと話を打ち切って先方の要求を遮断した呂布は賢明といえる。そこで不戦同盟なども結ぶ事ができれば更に良いのだが・・・いざとなれば、そんなものが役に立たない事は解っている。逆に下邳だけで済んだと言う事を考えればまだましか? と、少しだけ気持ちを落ち着かせた高順は他の事に考えを移した。まず、下邳に送った物資は完全に無駄・・・溝に捨てたも同然となった。(劉備さんは大喜びしているだろうな・・・。ああ、あの苦労は一体何だったのか・・・受け入れるにしても、もっとやりようがあっただろうに。正当性云々を言っていられるほど余裕があるわけじゃないんだぞ・・・)関連事項として、実はもう1度下邳に物資を送る予定もあった。これは影が帰ってきてからにしようと思っていたのだが、その影の報告のおかげで物資を損耗せずに済んだ・・・ということだけは幸運といえたかもしれない。もしも輸送を行っていたら何かと理由をつけて劉備陣営に押収されていたに違いない。高順は天井へ顔を向ける。「楊醜、眭固。いるな?」聞いた瞬間に、天井裏から2つの気配が感じられるようになった。「ああ、いるぜ・・・」「楊醜、あんたは下邳に向かって劉備軍の動向を調べてくれ。それと、徐州豪族がどれだけ劉備側になびいたのかもな。」「わかった、任せろ・・・。」「眭固、お前は小沛へ行け。今回の件の賈詡の考えを聞いてこい。それと、干禁・張遼さん・華雄姐さん・・・ついでに俺の両親の身の安全の確保を。影を何人か連れて行って良い。どうしようもなければ曹操・劉備陣営に降伏させても構わん!」「は、はいっ!」「よし、直ぐに向かってくれ。」「応!」2人の影の気配が消える。高順は曹操と劉備を好いていない、どちらかと言えば嫌っているほうだ。それでも、その陣営に渡りを付けろという命令を出したのは・・・彼なりに覚悟をしないといけない、と理解したからなのかもしれない。「・・・ふぅ、気が進まないが・・・。」事の成り行きを皆に伝えておく必要がありそうだ、と溜息をついてから彼は執務室を出た。高順は玉座の間に部下を集め、今回の件を伝えた。全員憤っていたが、趙雲は特に頭にきていたようで・・・。「して?」「・・・? して、って?」「高順殿はどうなさるおつもりなのです。」これは岐路である。趙雲は言外にこう問いかけてもいるのだ。ここまで舐められた真似をして、それでも唯々諾々と従うのか、と。高順が「対応はこれまで通り」と言ったら趙雲は離反していたかもしれない。だが、高順もここまでされて怒らない大馬鹿ではなかった。「黙っていると思いますか? 既に詰問は出していますし、影を派遣してもいます。それと、劉備の出方にも寄りますけどね。」高順も怒りを撒き散らせつつ言う。そして、次の言葉だけは、皆の声が重なる。「それでは・・・?」「賈詡先生の返事次第だな。」この言葉に、全員が高順の考えを読み取った。彼の事だ、呂布に乱を起こすつもりも、敵対をするつもりも無いだろう。しかし、賈詡に従い続ける理由は無い。賈詡の、こちらに対しての対応を改めない限りは・・・。高順はそれを見極めようとしているのだ。高順の考えに不安そうな表情を見せている者がいれば、「やっと決断したか」と満足そうに頷く趙雲のような者もいる。それらには構わず、高順は心中に吹き上げる怒りを押し殺しつつ呟いた。「賈詡先生・・・あんたの戦うべき相手は誰だ。俺か、劉備か、曹操か・・・?」そして、また数週間。眭固が直接に賈詡の書簡を持って高順の前に現れた。高順は部屋で1人、その書簡を読む。そこには・・・ある意味で予想通りと言うべきだろうか。賈詡の冷たい返事が書かれているのみだった。「余計なことなど考えず自身の職務を全うしなさい。人質がどうなっても知らないわよ?」と。高順は「どうしようもない」と考えざるを得なかった。そして、このままでは自分達が滅亡する事も予見した。それとも、劉備よりも自分のほうがやり難い相手だと思っているのだろうか?権力争いなど、勢力の土台をきっちり作ってからやればいいものを。こちらも相応の覚悟をもって当たらないといけない。軍師が自分の欲のみで動いていては纏まるものも纏まらない。もしも自分と言う存在が呂布軍になければ、きっちりと纏まったのかもしれないけどね・・・と、嘆息してしまう。同じように、賈詡はこの時点で高順に対しある1つの手を打っている。自分のせいと思っていないのが彼女らしいが、高順が謀反の意志を固めている、と読んだ賈詡は自分の部下である1人の暗殺者を高順の元へ向かわせていた。その男の名は胡車児(こしゃじ)と言う。~~~楽屋裏~~~もう疲れたよパトラッシュ。あいつです。今回は特にいうべき事がないと思いますが・・・さすがの高順くんも切れそうです。そら我侭を聞いて物資送り続けてそれが劉備のものになって・・・ですしね。このシナリオの賈詡は駄目軍師。でも性格は原作と変わらないと思う。さて、前回打ち切るといっておきながら内心ではまだ迷っています。まだまだ書きたいことが幾らでもあるんです。袁・曹の決戦、公孫賛の行く末、小覇王飛躍・・・高順君もですが、私自身どうするべきなのでしょうね(遠では。