【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第53話 虎牢関・三戦目。「お前らは・・・確か、前に華琳様のお誘いを断った3人だな。覚えているぞ。」夏候惇は、楽進達の事を覚えていたらしい。後頭部をさすりながらも太刀を構えた。「それに・・・ふん。孫策に負けた華雄か。四対一・・・ちょうどいいくらいだな。いいだろう、相手になってやっても良いぞ!」華雄は少しだけムッとしたようだが、直ぐに落ち着いて3人娘に声をかける。「3人とも、いいか。とにかく足を止める。無理に勝とうとするな・・・行くぞ!」「応!」応えた3人娘は三手に分かれて攻撃を開始。華雄も大斧を構えて一気に突進して距離を詰める。「はあああっ!」「はっ!」素手での攻撃を、夏候惇は難なくかわしていく。もっとも、楽進はまだ本気を出している訳ではない。突き・肘鉄・膝蹴りと繰り出していくが、夏候惇はあっさりと回避。楽進の隙を見て太刀「七星餓狼」で切り払っての反撃をする。だが楽進も負けていない。気を込めた足で地面を蹴り飛ばして一気に距離を開ける。その横を華雄がすり抜けて行き、引導斬斧を振りかぶった。「おおおっ!」「ぐっ!?」華雄の攻撃を太刀で受け止める夏候惇だが、その一撃の重さに内心で(大した威力だ・・・一筋縄ではいかないか!)と認識を改めた。その間に、李典が右、干禁が左に回って挟み撃ちを仕掛ける。「もらったの!」「いったれやぁぁっ!」干禁の双剣と李典の螺旋槍が迫る。「ちぃっ」「がっ!?」夏候惇は力任せに華雄を蹴り飛ばした。溜まらず吹き飛んだ華雄の体を、後方にいた楽進が受け止める。「大丈夫ですか。」「・・・っ、すまん。」今の衝撃で口の中が切れたのか、華雄は口の端から血を流している。それを乱暴に拭って、華雄は楽進と同時に駆ける。「せえい!」干禁は双剣を巧みに操って夏候惇に切りかかっていく。楽進同様に手数で押していくが、フェイントのつもりで放った一撃を無理やり跳ね飛ばされて、太刀で足元を斬りつけられそうになった。そうはさせるか、と李典が太刀めがけて上から螺旋槍を思い切り叩きつけて強引に止める。「ええぃっ! 邪魔をしおって・・・。」「邪魔せんほうがおかしいわ!」攻守交替とばかりに、李典が螺旋槍を振り回して追い立てる。その上に華雄がやってきて斧を横に斬り払って来た。「甘い! ・・・何っ!?」その斬り払いを避けた夏候惇は、斧を振り切って背中を見せた華雄の背中に飛び掛って斬り付けようとする。だが、華雄はそのままもう一度同じ用に横薙ぎの斬り払い・・・回転斬りを仕掛けてきた。横向きになった斧の刃の上には楽進がしゃがむ格好で座っており、彼女の両の拳が光っている。そのままの姿勢で楽進は目の前の夏候惇に左拳から気弾を投げつけた。「ちぃぃ、舐めるな!」夏候惇は気弾を殴り飛ばして無効化。しかし、気がついたときには目の前に楽進がいた。楽進は気を溜め込んだ右拳を夏候惇の胸にとん、っと軽く小突くような形で触れた。「・・・! しまっ・・・」「でやああぁっ!」ギュボゥッ! と凄まじい音がなると同時に、気の塊が夏候惇の胸を直撃。吹き飛ばされた夏候惇は岩に叩き付けられた。まるで衝撃波・・・大砲である。よく見れば、楽進も右拳を左手で押さえつけて痛みを堪えている。零距離で気を叩き込むのは初めてで、力加減が上手くできなかったらしい。「はぁっ・・・はぁっ。・・・どうだ・・・?」4人はじっと夏候惇を見つめる。が、少しだけして彼女は「ぬがああああっっっ!」と雄叫びを上げて立ち上がった。「く、くそっ・・・これだけやってもそれほどの傷にならないか・・・!」「うう・・・強いの・・・。」「化けもんやなぁ・・・恨むで、高順兄さん。」「弱気になるな、呂布のほうがもっと強いぞ・・・。こんな程度で諦めるな!」弱音を吐く3人を華雄は叱り飛ばして斧を構える。もっとも、余裕が無いのは彼女たちだけではなく、夏候惇も同じだった。「ぜー、はぁぁ・・・くそ、こいつら・・・!」一筋縄どころではない。一人一人でならば自分に勝てるわけは無い。だがお互いを庇いあって防御を固め、隙を見せれば一気呵成に攻め立ててくる。その上、今の攻撃力・・・。一瞬とはいえ意識を失うほどの威力だ。こいつらの実力か、それとも高順が鍛えたか・・・。どちらにせよ、もう油断はない。夏候惇は太刀を構えなおした。~~~高順ら、突撃部隊~~~「いやー、夏候惇のあの顔。大笑いや!」「大喜びですね・・・。」張遼は虹黒の背に跨って・・・高順の後ろに座っている。虹黒は自分の認めた存在か、高順の認めた存在は背中に乗せる。前者に属すのは張遼や趙雲、蹋頓と沙摩柯。後者は楽進ら3人娘だろうか。高順と出会った当初は気の荒さが目立った虹黒だが、この頃は多少穏やかになったようだ。案外子供好きであり、臧覇や丘力居に体を拭いてもらうと喜んでいたし、背中に乗っても怒らなかった。華雄や呂布も乗ろうと思えば乗れるかもしれない。それはともかく。張遼・趙雲・高順騎馬隊は曹操軍に向かって突撃を仕掛けていた。先頭を進むのは高順と張遼。沙摩柯と蹋頓もいる。曹操もすでに迎撃態勢を整えていて曹純率いる騎兵が突撃準備を、曹仁の歩兵隊が槍を構えて待ち構える。その後ろには夏候淵率いる弓兵隊。一番奥には曹操親衛隊・・・曹操本人と許褚、典韋が固めている。どこかの部隊が苦戦したらいつでも出て行けるように、万全の態勢である。頃合はよしと見たのだろう、曹純が剣を掲げて突撃命令を出す。「よし、進め!」曹純の命令で、騎馬隊が突撃を開始。すぐに高順達とぶつかる。だが・・・。「行くぞ、虹黒・・・突っ切れ!」「ぶるっ!」高順の言葉に虹黒は更に突進速度を上げる。互いの騎馬隊は矛を構えてぶつかり合ったが、勢いのある高順隊のほうに軍配が上がった。曹操軍の騎馬が虹黒にビビッた、というのも多少あるが・・・趙雲・高順・張遼騎馬隊は、西涼騎兵と馬の扱いに長けた異民族ばかりを固めた言わば「特化部隊」である。また、曹操軍はそれほど騎馬隊が多くなかった。騎馬隊に限っていえば、数と質では大きく劣っているという事だ。夏候淵はすぐに援護として矢を射掛け、それで射倒される兵士も出てくる。しかし、すでに混戦となっているので上手く射掛けることは出来ない。高順と張遼の勢いは凄まじいものだった。高順が右側、張遼が左側の敵兵士を斬りつけていき、弓矢で狙われない限り、ほぼ全方位に隙が無い。手綱を引かずとも高順の思い通りに動く虹黒が戦場を駆け周り、少しずつ曹操軍の騎馬隊の陣形に綻びが出来ていく。趙雲・張遼の騎兵隊も完全に曹操騎馬隊を圧倒しており、曹純は早々と撤退をする羽目になった。すでに一部の部隊が曹操軍の歩兵隊に肉薄しており、そちらでも戦端が開かれているらしい。どちらかと言えば、歩兵隊のほうが強いらしく返り討ちにあっている兵が多い。守りが堅く、歩兵を抜けないままに弓兵の攻撃で討たれる者が続出している。不味い、と舌打ちした高順は乱戦から抜け出して歩兵隊に向かっていく。「張遼さん、いいですね!?」「当たり前や、うちを誰や思てるねん!」歩兵隊は、突撃してくる高順(虹黒)に向かって槍を構えるが、幾人かは逃げ腰になってしまっている。この時代の馬は現代で言う車だ。しかも虹黒ほどの巨馬であれば大型車のようなものに近い。逃げ腰になってしまうのも当然だろう。高順はそんなことを気にせず右側、張遼は左に身を乗り出した。「はああああ!」「しゃあああああっ!!」槍を構えている歩兵隊に向かって、高順達は自分の得物を下から斬りあげた。横列に並んでいた歩兵の槍以上の長さである応竜偃月刀と三刃槍に斬り散らされた兵士数人が、悲鳴と血しぶきを上げて倒れる。幾人かの歩兵が槍で突いて来たものの、虹黒は一度棹立ちになり、タイミングを合わせて槍の穂先を前足で踏み倒した。「うわぁ!?」その衝撃に耐えられなかった歩兵は弾き飛ばされ、高順に斬り付けられて胴を寸断された。高順はそのまま真っ直ぐに進撃、高順と張遼の攻撃で歩兵隊が蹴散らされて布陣に穴が開き始めた。趙雲隊はその穴に向かって一気に突撃、更に傷口を広げていく。沙摩柯・蹋頓の部隊は態勢を立て直そうとしている曹操騎馬隊と歩兵の牽制に回って意識を自分たちに向けさせている。「ええい、不甲斐ないっ・・・!」状況を見ていた曹操は歯噛みしている。どうも相手の戦力を読み違えたらしい。向こうの被害もあるようだが、それ以上にこちらの被害が大きい。こうなったら親衛隊を投入して、自分自身も赴く必要がある。曹操自身、夏候姉妹と実戦そのものの特訓を繰り返しているためか、姉妹と同等の戦闘力を有している。指揮官である為に自分から斬り込んでいくことは殆ど無いが、こういう時には武人の血が騒ぐらしい。見れば高順・・・というか、虹黒の突進で歩兵部隊はかなり深い部分まで崩されている。あのままでは夏候淵率いる弓兵部隊まで到達するのは時間の問題だ。典韋と親衛隊の一部を夏候淵の救援に向かわせて、自分と許褚は歩兵隊の援護、敵騎兵隊を押し返す。数の差はあるので決して負けはしないだろうが、放っておけば傷は大きくなって、これ以降の展開に大きな支障をきたす。(もう・・・ここまで高順と張遼がやるなんて・・・春蘭もいつまで手こずっているの・・・!?)曹操は、苛つきながらも指示を出し、自身も出撃した。(高順、舐めるんじゃないわよ・・・!)防御を固めた曹操軍歩兵隊の陣形だったが、高順の開けた穴が大きな傷となって騎馬隊の侵入を許していた。内部まで斬り込まれている歩兵隊には為すすべも無く、何とか隊形を組みなおすために踏ん張っているが苦戦を強いられている。高順自身はすでに弓兵部隊まで斬りこんでいるが、曹操軍の「少数を囲むために横に長く布陣した」事が高順達にとって有利なだけに過ぎない。曹操ですら予測しきれなかった突破力で進んでこれたが、それもここまでだ。時間をかければ間違いなく囲まれるだろうし、早く見切りをつけて撤退をしたほうが良い。張遼も同感らしく、直ぐに退くべきだと思った頃に数本の矢が高順めがけて飛んできた。高順は舌打ちしながらも、槍を旋回。すべての矢を叩き落した。だが、左側から一本だけ・・・僅かな時間差で飛んでくる矢があった。その矢は張遼へと向かってくるが、彼女の死角になって見えていないようだ。「・・・くそっ!」三刃槍を左手に持ち変える余裕はなく、仕方無しに左手を覆う小手でその矢を止めた。鉄と青銅を重ねて拵えた小手だが矢の威力は相当なもので、矢じりが腕に突き刺さるほどだった。もし小手がなければ貫通しただろう。よほどの強弓で放ったらしい。その上、かなりの無理をして腕を伸ばしたために、態勢を崩して虹黒から転げ落ちてしまった。「いでっ!?」「な、順やん!?」張遼は虹黒を促して高順の元へ駆けようとするが、高順自身は「来なくて良い、一箇所に留まらないで!」と叫ぶ。一箇所に留まって勢いを失えば、弓で射倒される。張遼も虹黒も理解しているようで、そのまま兵を蹴散らしながら戦場を駆け回る。「後で拾いに来るからなっ、それまで死ぬんやないで!?」はいはい、と手を振って返事をする。高順は周りを見渡す。弓を手にした兵士達に囲まれているが、兵達は近接戦闘用の剣に持ち替えているものも多い。そんな中、兵たちが歩いてくる1人の女性のために道を開ける。歩いてくる女性の名は夏候淵。「ふぅ、ふぅー・・・。」夏候惇と華雄を始めとした4人の戦いは未だに続いていた。両方、一歩も譲らずといった戦いが続いているがお互いに息が上がっている。何よりも気になるのが曹操軍が完全に圧されているという状況だ。夏候惇としては1人か2人討ってから退きたいところだったが、この状況では少し自信が無い。どうしても本陣の事が気になってしまっている。無念だが、仕方ない・・・夏候惇は太刀を構えた。「ここまでだな・・・決着はまたの機会、ということにしておくぞ!」「次のだと・・・? うぷっ!?」言うが早いか彼女は太刀を、地面を切り裂くように振るった。その軌道に沿って土煙が華雄らに向かっていく。「くっ・・・逃げられたか・・・!」煙が晴れたときには、夏候惇は曹操本陣へと走っていた。「華雄姐さん、どうする? 今なら追いつけるかもしれへんけど・・・。」「・・・。いや、辞めておこう。高順達もそろそろ退いて来るはずだ。かち合わなければいいのだがな・・・。」華雄側にも余裕があるわけではない。干禁も疲労で動けなくなっているし、楽進も気を使いすぎてへばっている。華雄は干禁に肩を貸して、李典・楽進と共に関へと退いて行った。「高順、これだけの数に囲まれているんだ。降伏を勧めるぞ。」夏候淵は油断なく高順に弓の照準を合わせ勧告をする。事実、これだけの兵士に囲まれている状態で勝てるとは高順も思っていない。「降伏、ね・・・。前にも言いましたが、俺みたいな奴が曹操殿の器に入れる資格があるとお思いで?」思っていなくても、これまで修羅場に近い戦場に身を置き続けた武人の性であろうか。高順は我知らず三刃槍を構えている。「さぁ、な。それは華琳様が決めることだ。私個人の考えで言えば本心から降って欲しいと思っている。」武器を構えあいながらも、穏やかな話口調である。「へぇ・・・どんな評価をされているやら。」「というか、本気で頼む。姉者と荀彧(高順は彼女の真名を知らない)の仲裁をする奴がいないせいで、私も華琳様も胃が痛いんだ。」←若干遠い目「・・・何と言うか、ご愁傷様と言うか。そんな仲悪いのかあの二人・・・。」そういや荀彧って奴は前に会ったことがあるっけ。随分気性の荒いことは覚えているが・・・惇さんとは犬猿の仲っぽいな。「ま、俺は曹操殿に仕えるつもりはありませんよ。どうしてもと言うなら・・・。」「む、そうか・・・そうだろうな。」高順の戦気の高まりを見て、夏候淵は納得したように笑みを浮かべる。あの姉にしてこの妹あり。普段は冷静に見える夏候淵も、好敵に相対すれば武人の血が騒ぐのだろう。「では。」「始めるか。」静かに言葉を交わした二人。一騎打ちにしたわけではないが・・・高順と夏候淵の戦いが始まる。趙雲は自身に斬りかかってくる兵を返り討ちにしつつ、ひたすらに突き進んでいた。そこで、虹黒に乗った張遼と出くわす。「張遼殿・・・何故貴女だけが虹黒に!? 高順殿は・・・」趙雲同様、張遼も自分を止めようと群がってくる兵士を蹴散らしつつ趙雲と馬を並べる。「うちの不注意でな、順やんが弓兵隊のど真ん中で転がり落ちたんや!」「・・・はぁぁぁぁ!!? それは不味すぎるだろう!?」「わーっとる! せやさかい今から迎えに行くんや。趙雲には、退路確保してもらおう思うてな、頼めるか!?」2人とも、向かってくる兵を物ともせずに斬り散らす。多少の疲れはあるがまだまだいける。「・・・ふむ、承知した。必ず連れ帰るように、宜しいな!?」「合点承知、任せとき!」張遼と趙雲は馬首を返した。自分の仕事をする為に。「しっ!」「むっ・・・!」夏候淵の速射を高順はぎりぎりのところで避け続ける。高順と夏候淵の戦いはほぼ互角と言う状況だった。距離を詰めようとする高順、距離を開けようとする夏候淵。どちらかと言えば有利なのは夏候淵だ。彼女は「一騎打ち」を申し込んだ訳ではなく、周りにいる兵士と共に攻撃を仕掛けてくる。弓兵といえど剣くらいは所持しているし、「もう少しで自分の得意とする距離に」と動き続けても兵に邪魔をされる。その上、夏候淵は矢を連続速射で放って来て中々に付け入る隙が無い。高順の左手の傷は大したことはないが、疲労のほうが大きくなって来ている。このままでは・・・体力が無くなって捕縛→曹操への臣従拒否→斬首。の史実まっしぐらの状態に陥る。自分だけの死で済めばまだしも、後追いしそうな人が若干1名いるのが洒落にならない。そんなこともあっていまここで捕縛される訳にはいかない。2人の戦いは尚も続くが、この辺りになるとすでに兵士が手を出せる領域ではなくなり始めていた。両者、兵士達の間をすり抜けるような動きをするわ、高順の振り回す槍で巻き添えを食らう兵もいるわ。夏候淵も余裕があるわけではなく、速射・連射をすると言ってもこの状況ではどうしても兵士を巻き込んでしまう。その為に兵士が距離をとり始めて、結局は一騎打ち同然の状況だ。夏候淵は後ろ、横に飛び跳ねて何とか距離を置こうとするが高順は次第に追いつき始めている。(くっ・・・黄巾の時はそれなりの腕だったが・・・。やはり、見るだけと実際に戦うでは勝手が違うか・・・)孫家を蹴散らした事で高順の強さは理解したつもりだったが、自分自身で戦ってそれが実感できた。距離を詰められれば、自分では手が出ないほどの腕前だ。近距離や格闘での戦いの心得はあるものの、目の前の男に通用するかどうかは疑問だ。僅かな焦燥感を押さえつけながら夏候淵は腰の矢筒を探るが・・・(・・・ち、不味ったか!)思わず夏候淵は舌打ちをした。矢を放ちすぎたせいで、残りの矢数が僅か数本になっている。そこまで数が減ったらすぐに解りそうなものだが、それを感じる余裕が無かったという事だろう。そこで、僅かといえ動きを止めた事が夏候淵を更に不利にした。高順の接近を許してしまっていた。それも、彼の持つ槍があと少しで届く、というところまで。夏候淵は残り数本となった矢を引き抜いて高順に向けて放つ。が、高順は三刃槍の刃を地面に突き刺して、まるで棒高飛びのように飛び上がって矢を避けた。夏候淵が知るはずもないが、丁原が呂布との戦いで倒れた時、高順が呂布に仕掛けた不意打ちだ。当然、上からの攻撃が来ると考えた夏候淵は自分の弓「餓狼爪(がろうそう)」を高順に向ける。しかし、予測していた攻撃は来なかった。どころか、高順は夏候淵を飛び越えて、彼女の後ろに着地していた。三刃槍を支点として、飛んだのである。「馬鹿なっ・・・!」夏候淵は慌てて後ろを向くが遅かった。「はぁっ!」高順は右拳で、夏候淵の左腋に下からえぐり込むような一撃を喰らわせる。「ぐぅっ!?」彼女は左肩に肩鎧を装備してるが、下からの攻撃には無力だ。しかも、「ごぐんっ」と嫌な音がした(くう・・・、肩の関節が外されたかっ・・・。しかし!」夏候淵は仕返しだ、と右手に持つ餓狼爪を横薙ぎに薙いだ。装飾の美しい弓だが、振りぬく速さにっては装飾部分で人を殺傷する事もできる。高順は驚くことも無く、左手で夏候淵の右腕を閻行譲りの「握撃」で掴んだ。本気ではなかったが、やられた本人にとっては溜まったものではない。思わず弓を取り落とした彼女の左肩に、高順は更に踵落しを見舞う。「う、がぁあっ・・・!」さしもの夏候淵といえど、右腕を凄まじい握力で握られ、間接を外された左肩に追撃を喰らってはひとたまりも無い。その場に蹲って痛みに耐えている。この時、斬ろうと思えば斬れた(高順の両肩鎧には刀が設置されている)のだろうが、高順はそれをしなかった。なんと言うか、緑色の髪に青色のリボン(?)をつけた小柄な少女がこちらに向かって猛進してくるのが見えたのだ。年の頃はどう見ても10代前半から半ば。手には紐付きの巨大円盤・・・見た感じではヨーヨーに見えるが、そんな物を持っている。「秋蘭様ーーー!」とか叫んで凄まじい勢いだ。少女は曹操親衛隊の一人で、許褚と互角の力量を持つ典韋である。典韋は夏候淵を姉のように慕っており、夏候淵も典韋を可愛がっている。夏候淵はそちらに顔を向けた。しかし、すぐに表情を凍りつかせて「流琉(るる、典韋の真名)、後ろだ、横に飛び退けっ!!」と叫んだ。典韋も何かに感づいたらしく、直ぐに横に飛んだ。瞬間、今まで典韋がいた場所を凄まじい斬撃が通り過ぎた。「えっ・・・ええ・・・?」後もう少しで典韋は体を真っ二つにされていただろう。あまりのことに、典韋は呆然となって座り込んでしまっていた。斬り付けたのは虹黒に乗った張遼。後もう少しだった、とばかりに舌打ちをして高順を目指し疾走する。既に、虎牢関から出撃した騎馬隊は撤退に入っている。張遼は約束どおり高順を迎えに来たのだ。爆走する虹黒を止められる者などいるはずも無く、無人の野を疾駆するかのように駆ける。高順は地面に刺さったままの槍を抜いて「おーい」と手を振る(なんでこんなに無防備なのだろう?夏候淵は痛む両腕を庇いあいつつ、高順を睨んだ。「っ・・・高順、貴様・・・私を見逃すというのか!?」「うん。」「な・・・そんなに簡単に返事をする馬鹿が「ここにいますが何か。」・・・。」普通、こういう場合。何があろうと敵将の首を討つのが当然の流れだ。あれほどの戦いが出来たのだ。ここで討たれたとしても、華琳様は私をけなしたりはしないだろう。それなのに・・・その流れを無視するとは、どこまで阿呆なのだ。「高順、後悔するぞ・・・? 情けで私を生かした事を、必ず!」「その時はその時です。・・・これで借りは返しましたからね。」「借り・・・? 高順に貸しを作った覚えは・・・。」いつのことだ、と聞こうとする彼女に高順は背を向けた。「っと、来たな。」「よっしゃ、そのまま手ぇ伸ばしときっ!」張遼は左手に応竜偃月刀を持ち替えて、右手で高順の手を掴み、引っ張り挙げた。「いよっし、成功や! 虹黒、そのまま行けやぁ!」「ふむ、最初と逆になったねぇ。じゃ、胃には気をつけてねー。」高順は張遼の後ろになり、夏候淵に手を振った。「待て、借りとは何だ!?」「楽進達の村が襲われたとき、俺が曹操殿に救援求めに行ったでしょ。あの時、淵さんが口を利いてくれたからねー!」「は? まさか、あんな程度で・・・。」夏候淵の言葉は、高順には届かない。あの調子で行けば、そう時間もかからずに戦場を離脱するだろう。「・・・おかしな奴だ。」「し、秋蘭様ー。」よたよたと歩きながら典韋が寄って来た。「む・・・。流琉か。大丈夫か?」「それは私の台詞だと思います。・・・腕のほうは大丈夫ですか?」典韋は心底心配そうに夏候淵の腕をさする。夏候淵は微笑んで「大丈夫だ、左肩は骨が折れたかも・・・ん。」ここで、彼女は1つ気がついた。今でも激痛が残る左肩だが、あの嫌な感じ・・・関節の外れた感覚がなくなっている。痛みはあるが、きっちりと左手が動くのだ。「あいつ・・・ふ、はは。本当におかしな奴だ。」「秋蘭様?」何故笑うのか、と不思議そうに夏候淵を見上げる典韋。「あいつめ。自分で肩を外しておいて、肩の関節をはめ直したと言うのか。ふっ、なんと言うか・・・」ただの偶然だろう、と思うが何か可笑しい。「・・・。おかしなところで、律儀な奴だな。」本当に武将に向いていない。それどころか失格だろう。ここまで派手に負けて、普通は憎悪の1つや2つ抱いても不思議ではないだろう。しかし、借りを返す事を重視したり、その気は無かったかもしれないが結果的に肩の関節をはめ直したり。その、おかしな・・・愚直なまでの律儀さに可笑しさがこみ上げて来てどうにも憎めない。「まったく。おかしな気持ちにさせてくれる。」夏候淵は苦笑して首を振った。虎牢関から出撃した部隊は、既に撤退を始めており、殿を務めているのは張遼・高順であった。一時期、囲まれていたようだが趙雲が早めに後退、包囲網を突き破ったために被害は少なく済んだようだ。「ふぅ、趙雲殿に感謝・・・いや、皆だな。虹黒も張遼さんもご苦労様。」高順はほっと胸をなでおろしていた。自分の作戦のせいで死んだ敵味方のことを思えば、気持ちが重くなってしまうが・・・これもまた、自分の武将としての責任だ。こうやって、戦い続けて、自分も何時の日にか戦で逝く時も来るだろうがソレは今ではない。「にひひ、せや、うち頑張ったんやで。これでまた貸しが1つ増えてn「閨はないですからね?」ぐむむっ・・・。」と、またしても張遼と緩い会話をしていたところで、前方に土煙が濛々とたっているのが見えた。「ん。あれ何や・・・ろ。」「おぅ、じーざす・・・。」張遼は驚き、高順は手で顔を覆い。その土煙を巻き上げているのは・・・夏候惇であった。前方にいる騎馬隊も、彼女の勢い(徒歩なのに)驚いて道を譲るような格好になっている。「って、おい、順やん、後ろもまずいで!」「・・・うわぁ・・・。」後ろを振り向いた高順の目に移るのは曹操軍の追撃隊だった。けっこうな数がいて、すぐ追いつかれるようなことは無いが・・・。「こーうーじゅーんー! ちょーりょーーー! こーーうーーこーーくーー!!!」前方にいる夏候惇の雄叫びが聞こえてくる。確実に自分達を・・・いや、どちらかと言えば虹黒を狙っているのが良くわかる雄叫びだった。「ど、どないする・・・?」徒歩の癖に、馬のような速度で迫ってくる夏候惇。後ろからは追撃隊。さぁ、どうする・・・?と、いつの間にか直ぐ目の前まで距離を詰めた夏候惇が一気に跳躍した!「逃がさんぞぉっ!」裂帛の気合とともに太刀を構える。『ちっ!』張遼と高順が同時に舌打ちをしたその時。虹黒が今まで見せたことの無い凄まじさで一気に加速した!「な?」「おお!?」「はぁっ!?」・・・説明すると、夏候惇はジャンプして虹黒・・・というか張遼か高順に太刀で斬りかかろうとしている。当然、虹黒が着地点に「いる」ことが条件だ。ところが、虹黒は予測を超えた加速力で一気に駆け抜ける。当然、着地点の予測も外れる訳で。夏候惇は内心「や、やばい・・・」と冷や汗をかいた。この流れは、絶対いつものアレだ!慌てて太刀を引っ込めて態勢を変えようとするが、ソレは間に合わなかった。一気に馬首を返した虹黒(制御不能)も跳躍、夏候惇の背中に頭突きを見舞った。「ぐはぁぁっ!」「またか、またこのオチかー!?」「何や、何が起こってんねん順やんー!?」3人の悲鳴も何のその。地面に落っこちた夏候惇、そして着地した虹黒。「ぐ、ぬぬぬ。何のこれし・・・。」痛みに耐えて立ち上がろうとした夏候惇。しかし、それよりも早く虹黒の前足が彼女を思い切り踏みつける!「どああっ!」「やっぱりだよ、やっぱりだああ!(涙」「だから何事やねん!?」嘆く高順、混乱する張遼。曹操軍最強の夏候惇が「馬」に足蹴にされる状況に、呆気にとられて立ち止まる追撃隊。先頭には許褚がいたりする。「し、しかしこの夏候元譲! 一度や二度踏まれたところで・・・げふっ!?」これまで、何度も虹黒に蹴り飛ばされ続けてきたことで、耐久力も上がっただろうが・・・やはり甘かった。虹黒はそのまま前足でのストンピングを開始した。げしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげしげし!!!「ぎょええあああああああっ!}「だああああっ、虹黒、やめてー! 惇さん潰れるから! 潰れた真っ赤なアレにーーー!!!?」(張遼、既に沈黙高順の叫びにも、虹黒は反応しない。ぼろぼろになって「あ、ぐ・・・おおお・・・」と呻く夏候惇の服を咥えて「ぽいっ」と空中に放り投げて・・・。これで終わりだ、とばかりにとどめの後ろ足蹴りで思い切り蹴り飛ばしたのであった。ぴひゅううううううぅぅぅぅぅううぅぅう・・・・・・と追撃隊に向かって吹き飛ぶ夏候惇。呆気にとられていた許褚が流石に気がついて「わ、わわわっ!?」と夏候惇を受け止めようと動き出すも、それも遅かった。彼女の体を受け止めたはいいものの、勢いが付き過ぎていた為に、許褚まで地面を転がりまわる羽目に。「うぇええええええええええええええええええええっっ!?」「わー!?」「どわああっ!!?」哀れなのは、巻き込まれる一般兵である。まるでボーリングか何か・・・いや、ドミノ倒しでもいいのだが、連鎖反応で多くの兵士が巻き込まれていた。その哀れなドミノ倒しが終わり、地面に倒れている夏候惇。彼女の体を受け止めて「はらほろひれはれ・・・」とぐったりしている許褚。夏候惇は気絶しておらず、動かぬ体を持て余しつつ空を仰いだ。抜けるように青い空を見ていた夏候惇の目に、ふと涙が浮かぶ。「・・・また、馬鹿にされた。・・・う、ぐす。ふぇっ・・・ううぅ・・・かりんさまぁ、しゅうらぁ~~ん・・・」敬愛する主君と、大好きな妹の真名を呼び、曹操軍最強の将は悔し涙を流すのであった。虹黒はしてやったり、とばかりに「ふんっ!」と鼻を鳴らして再び関へ向かって駆け始めた。「・・・あの、虹黒さん。どうして貴方はそこまで惇さんを嫌っているのでしょうか。」何故か敬語の高順であった。虹黒には明確に夏候惇を嫌う理由がある。陳留で、夏候惇は「虹黒を譲れ」と高順に太刀を突きつけたのである。その上、自分の体に(仲良くしようとしていたとはいえ)触ろうとしている。性格が丸くなったとはいえ、一度抱いた嫌悪感はどうしようもないらしい。「・・・ま、まぁ。虹黒のおかげで無事に帰還できそうやし。ありがとな、虹黒。」「ぶるる。」張遼の労いに、虹黒は嬉しそうに鳴いた。高順も「あとでリンゴとか人参とか沢山食べさせよう」とか思っている。「な、ところで順やん。」「・・・はい、何です?」張遼はにひひ、と笑って後ろの高順へ顔を向けた。虹黒の背中に乗っているのだから、二人は密着している。張遼の顔は心なしか赤くなっている。「あんな、さっきから言おう思てたんやけどな。順やんの左腕、しっかりとうちの腰に回っててな。」「え・・・? はぁっ!?」特に意識していなかったが、いつの間にか張遼の腰に手を回していたらしい。慌てて離そうとするが、張遼は自分の手を重ねて離そうとしない。「ええんやで? うちは嬉しいし。・・・にひひ、ところでもう1つ。うちな、下着はあまりつけへんねん。」「!?」そう、彼女はかなり露出の高い服装であった。上は胸にさらしを巻いて、肩から服を羽織っているだけ。大きな動きをするたびに豊満な胸が「たぷん♪」と揺れる。下は・・・何だろう。この時代には無いはずだが巫女服のようなもので、実際に下着を着けていない。しなやかな太ももがきっちりと見えている。見慣れた、ということもあるし、張遼の場合は蹋頓のような「妖艶な色気」ではなく、「健康的な色気」と言ったほうが解り易い。彼女のざっくばらんな性格もあるのだが・・・こう、面と向かって言われると嫌でも意識してしまうのが男の性である。「そ、それが何か・・・って、ちょっと、俺の手をどこに持っていこうとしますか!?」張遼は開けっぴろげになっている太ももに高順の左手を導いた。「えー、ええやん。知らぬ仲でもあるまいし? んっふふ、このまま、太ももと太ももの間、触れてもええんやで・・・?」「は、はぁー!?」高順を見つめる張遼の目に、艶っぽい何かが見え隠れする。「指先くらいなら全然大丈夫やで? 遠慮せんでもええやんか。」「普通に遠慮するわ、何言っちゃってんのこの人!?」「・・・あ、そか、いきなり下は時間的に早いってことやな。せやったら」張遼は高順の左手を豊かな双丘、ぶっちゃけさらしに巻かれた乳房に持ち上げた。むちぃっ・・・と、柔らかく甘やかでしっとり(以下省略「ぎゃああああっ!? 柔らかいけど、傷! 矢が、血がー!?」帰還後、関からそれを見ていた楽進にきっちり説教をされつつも癒術を受ける高順であった。「まったく、戦場だというのに! どうして隊長はいつもいつも・・・(ブツブツ)」「・・・。(俺、何も悪くないですよね・・・?)」この戦いの高・趙・張騎馬隊の死亡者は400前後。負傷者を含めれば更に多かっただろう。対して曹操側は死亡者、負傷者を含めて1000弱。油断があったとはいえ、曹操軍もまた孫策同様手痛い敗北を喫したのである。ここまで来れば、高順と、彼の騎馬隊の実力を疑うものは無かった。戦上手の孫策を打ち負かし、河北の勇者である張郃、曹操の配下である夏候淵を圧倒した男。異民族を信服させ、多くの勇者を擁する、どこからか現れた無名の将。いつしか彼は連合軍、そして仲間内からもこう呼ばれるようになっていく。どれほどの陣でも凄まじい攻撃力で切り裂いて行く騎将。どれほどの戦上手でも彼の者と正面から相対するを躊躇うほどの武将。黒き巨馬に跨り、圧倒的な突破・走破力で戦場を縦横に駆ける髑髏龍の武者。攻めた敵陣を必ず陥落させる豪将。即ち「陥陣営」と。後々、高順は周りの人にこう言ったと伝えられる。「過大評価極まれりってこういうことを言うんだよ!!」~~~楽屋裏~~~我はえろちかーあいつ(挨拶意味が解りませんね、私にも解りません。今、ふと思ったこと。出たら負け武将:劉備・孫権(史実準拠出たらエロ武将:黄蓋・厳顔・黄忠(恋姫準拠。あいつシナリオで言えばと~とんね~さんも?やっぱり意味が解らない。これで本格的に高順くんが乱世の諸侯に名を知られ(?)ました。本人、すっげぇ嫌そうですけどねwしかし、まさか淵さんに勝つとは。・・・まぁ、正史では惇さんにも勝ってしかも目も奪ってるんだから・・・良かったのかなぁ(汗それと、華雄姐さんたちも善戦しました。あいつシナリオではオフィシャルブック?の強さ準拠ではないのでこれもありかな、と思います。思いたい。ま、呂布最強なのは動きませんけどね。魏武最強が強さ指数4とかどういうことかと。・・・え? 虹黒? なにそれ?・・・きょちょと、惇さんの名前間違えてた(吐血さて、これで虎牢関も終わる・・・終わるか?(汗では、また次回お会いしましょう(ノシ