【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第50話 虎牢関・幕間。張遼・華雄に続き、高順隊。汜水関から退いた面々は一応、無事に虎牢関(ころうかん)にたどり着いた。この虎牢関には無傷の呂布・干禁・李典隊が残留しており、総兵力は4万弱。撤退を終えた汜水関の軍勢を含めれば6万を越える。洛陽守備隊は2万ほど。長安には1万もいないが、これは漢中・西涼の軍勢が攻めて来ないだろう。と言う賈詡の読みだ。長安は、洛陽よりもよほど守りやすい。前漢の首都でもあった長安は洛陽よりも厚い城壁に囲まれた山間都市。それゆえに交通が不便だという欠点はあるが、よほど下手を打たない限り落ちることは無いだろう。そう読めばこそ、長安守備隊の大多数を洛陽・虎牢関に回したのである。それを思えば高順と馬超の(親が勝手に決めた)婚約もそれなりの価値があったのかもしれない。少なくとも、西涼の馬騰が攻めて来ることはないのだ。~~~虎牢関~~~無事にたどり着いた高順・趙雲・楽進隊。彼らを出迎えたのは呂布、張遼であった。「・・・無事。」「おお、順やん、皆ー! ちゃんと撤退できたみたいなやな。」呂布は笑いもしないが、雰囲気から彼らの無事を喜んでいるように見える。高順本人はまだ敵意が消えないのだが、呂布は高順らをきっちり「仲間」と認識しているようだ。「・・・まあ、何とか。李典と干禁はどこに?」「おお、向こう側で投石機の準備しとるで。あの子らも順やん達の事心配しとったさかい、顔見せたり?」「そうさせてもらいますよ、皆は?」高順の言葉に、楽進が「私も行きます」と答えた。他の者は疲労しているのか休息したいらしい。同じように兵馬を休ませてくださいね、とだけ言い、高順と楽進は関の中へと入っていった。李典と干禁、両名は張遼の言うとおり投石機の設置準備をしていた。忙しそうにあれこれと指示を出していたが、高順と楽進の姿を見て「おおー! 高順兄さんに楽進やんか!?」と抱きつかんばかりの勢いで走ってきた。干禁も「あ、ずるいの!」と言いつつ走ってくる。「そんな走ってこなくても逃げやしないよ。仕事は順調?」「なはは、あったり前や! と言いたいところやけどな。工程の7割くらいやな。」「7割?思ったより少ないじゃないか。」「うっさいわ楽進。・・・ま、思った以上に進んでへんのは事実やな。」李典と干禁は振り返って設置準備で忙しそうに動き回っている人々を見た。「兵士の家族も手伝ってくれるよって、進捗ちゅうか速度自体に問題はあらへんけどなぁ・・・。材料来るの遅いねん」「その辺りの理由を話すの。一緒に来るの!」と、疑問を聞こうとした楽進を干禁が押していく。「あ、わ、ちょっと。押さなくても行く! 押すなー!」「ほらほら、急いでなの!」「・・・慌しいね。」2人の様子を見ていた高順は素直にそんなことを言う。「なはは、そら2週間も顔合わさずやからな。あいつも寂しがってたし。・・・ほな、うちらもいきましょか。」そう言って、連れて行かれたのは李典の部屋。適当に座ってや、と李典がいうものの、何に使うか良くわからない機材やら資財やらが所狭しと置かれている。どこに座ればいいのだろう・・・とは言わず、皆思い思いに座ったり、壁にもたれたりする。こほん、と咳払いをした李典はこれまでと一転して声のトーンを落として話し始めた。「ええか、今から話すことは他言無用や。絶対話したらあかんで?」それほど重要な事らしい。全員、頷く。「よし。・・・楽進は知らんと思うけど、うちと干禁・・・高順兄さんにちょっとした仕事を任されててな。」「仕事? それは一体。」「内偵や。内部調査。」「内部調査・・・何だ、それは。」「ま、そのままの意味や。ほら、張燕はんから任された「影」が2人おるやろ。変な奴らやけど。」ああ・・・そういえば、と楽進は頷いた。「で、その2人が?」「ん、高順兄さんの言いつけで洛陽内部の状況を色々調べとったんやけどな。・・・正直に言う、逃げの準備するべきやね。」「・・・は!? 逃げ!? どういうことだ?」我々は負けている訳では・・・と、言いかけたが直ぐに押し黙った。楽進のいう「負け」は反董卓連合に対してのもので、李典のいう「逃げ」は洛陽の内部事情だということだからだ。「続けてええか? ・・・あ、こっから先は干禁のが詳しいな。うちは投石器とかの作成・設置に忙しかったからな。頼む。」干禁は、了解なの! と答えて語り始めた。「まず、洛陽内部で反乱が起きそうなの。」「ほぅ、反乱か。反董卓派の人々?」「高順さんの言うとおりなの。名前が挙がっているだけで・・・王允(おういん)・士孫瑞(しそんずい)・黄琬(こうえん)・楊彪(ようひょう)。他にいると思うけど、それは眭固に調べてもろてる。」「へぇ、漢王朝における高位の役人ばっかじゃないか。」ここで1つ補足をすると、董卓は史実のように「相国」という立場ではない。あくまで現状、武官として最上位の「大将軍」という立場でしかない。彼女が軍のみならず政まである程度関係しているのは、洛陽の軍事権のほぼ全てを握っている事に、中央の役人が遠慮をしたせいだ。他の理由としては、前政権で政治(のみならず、ある程度の軍事も)を掌握していた十常侍が一気に消え去り、袁紹の宮殿襲撃によって更に多くの朝臣が死んだからである。そのせいで、名が有名であっても内実に乏しい人々ばかりが残ってしまった・・・ということもある。(王允は能力もある。彼らは十常侍派、というほどでもないが急に表れて帝の信頼篤い董卓という存在。董卓本人の能力は皆無と言っていいが、彼女の知恵袋である賈詡。智者・勇将を揃えている董卓に嫉妬、或いは危惧したのだろう。当然、賈詡も王允達の動向をある程度は掴んでいて、何とか押さえつけようとしたのだが・・・その前に反董卓連合と言うものが出来上がってしまった。そのせいでそちらに集中せざるを得ない状態である。「洛陽の守備兵力は約2万、で、一応「反乱軍」と呼称するけど、そちらの兵力は不明・・・多くはないと思うの。」「ただなぁ、もう1つ気になる報せがあってな。これのせいで逃げの一手を、つうことになっとるんよ。」「ふむ?」「董卓派の人間で、王允側に通じとる奴がおる。誰かまではわからへんけどな。」「・・・なるほどな。利で釣られた連中がいるってことか?」「多分な。ここにいる連中。呂布やら張遼・華雄の姐さん連中ではない。董卓の親衛やっとる張済・張繍でもない。」李典も干禁も、反乱軍の総兵力は多くないと踏んでいる。部隊の指揮を実際にするのは張済達、その軍師として賈詡。負けはすまい、相手が「本当に」王允達のみであれば。怖いのは、そこに協力するであろう連中だ。誰かまでは知らないがもしも洛陽守備隊以上の兵力となれば・・・守りには向かない洛陽での戦闘と言うのは守備側にとって好ましいものではない。「ふーむ・・・で、それは董卓達に知らせたの?」「へ? 何で?」高順の質問に李典は「何でそんな事せなかんの?」という表情を見せた。「え、知らせてないの!?」「何で知らせんとあかんの。賈詡は気づいてるやろし、それを覆されへんならその程度やんか。」「いや、それは・・・うん、間違いじゃないから何とも言いにくいです。」ここで自分達が勝てれば良し、負ければ董卓も滅亡と言うことだろう。「・・・高順兄さんは人が良すぎるな、今更すぎやし何度も言うたけど。それ以前に、うちらはこれからの戦いに集中せんとあかんやんか。連合軍追い払ってから洛陽まで走ってそっから王允らを何とかすればええんよ。」「いや、それ遅いんじゃないか・・・?」賈詡には知らせてやっても良いのではないか・・・と思う。彼女は董卓の友人であり忠臣だが、この時、彼女は朝廷を実質的に切り盛りしている存在だ。つまり、朝廷にとっても忠臣である。彼女が何もかも知らないはずはないだろうが、戦時下にある現状では全て見通せるか・・・というところはある。恐らく、王允達は連合軍と歩調を合わせて行動を起こそうとしているのでは? くらいは思うかもしれないのだけど。なるほど、数が少ないのなら連合軍が洛陽に来るのを待ってから・・・(もし、彼らが反乱を本当にたくらんだとして)王允らはそう考えているはず。数で勝る連合軍ならば、虎牢関に篭る董卓軍を滅ぼせると思っても不思議ではないのだ。だが、虎牢関には投石器もあれば呂布・張遼・華雄もいる。兵の数も増えて攻略が容易なはずが無い。連合は汜水関を抜くのにアレほど苦労をしたのだ。虎牢関ならば更に攻略は難しいだろう。「な、高順兄さん。」「・・・へ、あ、すまん。何だい?」考え込んだ高順に、李典はまた声を落として前々から思っていたことを聞きはじめた。「ずっと考えとったんやけどな。高順兄さんは独立する気無いん?」「は? 独立?」「うん。ぶっちゃければ群雄として起たへんの?ってこと。」「・・・また唐突だな。」「そっか? うちだけやのーて干禁も楽進も考えとることやで?」「なぬ?」高順は思わず2人の方へ顔を向けた。楽進たちは「何で言うかな!?」と言いたげな表情で李典を見る。「むしろ、何で勢力起こさんかなぁ? と疑問に思うくらいや。こんだけの人材抱えてるねんで? 文官が足りん思うけど・・・烏丸・張燕はん・伯圭はん(公孫賛のこと。呼びにくいそうで、李典はこう呼んでいる)の後ろ盾。」「ふーん、それさえあれば一勢力起こすくらい簡単だって言いたいのか。」「簡単、とは言わんよ。」「ま、無理です。俺にそんな器量はないしね。誰かが平和にすればそれでいいんじゃない?」「せやったら、素直に曹操はんとかに臣従すればええんやないの。なんで董卓に仕えたりとかして自分から遠回りするんや?」「痛いところを衝くなぁ・・・遠回り、というか状況的にね。今董卓を見捨てれば張燕様の立場が不利になる。連合に参加して無いし、どっちにしても辛いだろう。董卓負けてどこぞに逃げれば・・・はは、これも難しいかな。」「むー。」「で、曹操に仕えろというけど・・・それはやだ。」「何でやの、そこがわかr「過労死しそうで絶対やだ! こき使われるの目に見えてる! 夏候惇さんにも恨まれてるだろうし、あんな人々に付き合ってたら体がもちません!(涙)」・・・あー・・・それは解る。」李典には、高順の言い分が実に良くわかった。ずっと前に、曹操の誘いを受けた3人娘が断った理由の1つに「なんとなくだけど凄まじくこき使われそう・・・」というものがあった。有能であればあるほど「便利な奴だ」と思われて激務の最中に放り込まれるだろうから、高順一党が曹操に降伏すれば間違いなく。軍政のどちらかでもとんでもない激戦区へ投入されるだろう。ソレはどこの勢力でも同じ事だろうが、曹操の場合はもう苛烈と言っていいほどかもしれない。高順兄さんなら乗り切れるような気はするんやけど・・・身体壊すやろなぁ・・・と、今更ながらに思う李典である。「まあその話は保留にして、投石機の話に戻るんやけど。」「何で戻るんだ?」「最後まで聞き、楽進。投石器の準備が遅れた理由。・・・さっき言った通り材料送ってくる速度が遅いねん。」「は!?」先ほどは流してしまったが、その辺りは賈詡が手配しているはずだ。彼女にそんな不手際があるとは思えない。「多分、王允達が邪魔しとるんちゃうかなぁ・・・とうちは思ってる。食料やら物資やら全般、予定より遅れてくることが多い。」「いやらしいけど効果的だな・・・。」「どんな手段使って邪魔してるかよぅ解らんけど、王允って爺さん司徒(宰相職)やからな。いくらでもやりようはあるやろな。まぁ、最終的な判断は高順兄さんに任せる。ここで連合追い返せばそれで済む話やしな。・・・一応、この話はここで終わり。絶対口外したらあかんで?」李典が珍しく真面目な表情で言った。「解ってるさ。さてと、少し休ませてもらっていいかな。疲れててね。」「かまわんで? あ、せや。高順兄さん。」「ん?」部屋を出ようとした高順を李典が引き止めた。「補給物資に、高順兄さん宛の荷物があったんやけど・・・あれ、何なん?」「お、来たのか。中身見た?」李典は不満そうに唇を尖らせた。「うちをどんだけ無礼な人間や思てるねん。他人様のものを見るわけないやんか。そら、中身は気になるけど・・・。」李典の言葉に、高順は「にひひ」と、彼には珍しく意地悪い笑みを浮かべた。「すぐにわかるさ。あ、恨む場合は張遼さんを恨んでくれよ?」「・・・?」言っていることの意味が解らず、楽進・干禁・李典は首を傾げるばかりだった。後日、高順は虎牢関に詰めている武将全員を呼んで「荷物」を見せた。その「荷物」は2つのものであった。先ず1つ目。マント(外套)である。首で留めるタイプではなく、肩留めタイプのものだ。肩で留めれる様に、と左肩に留め金を兼ねた肩鎧まで作成してある。(高順は呂布の分まで作らせている。呂布のマントは緋色で、表側には金刺繍で「呂」。裏面にも同じく金刺繍で「飛」と書かれている。彼女は飛将と呼ばれる勇将であるため、ソレに習ったのである。張遼は紫に銀刺繍で「張」。趙雲は白地に蒼の「趙」。呂布同様、裏面に「昇龍」。華雄は黒地に赤で「華」・・・といった具合に、各武将にマントを用意した。楽進・李典・干禁・蹋頓・沙摩柯・(一応)高順にも。そして、華雄直下の胡軫(こしん)・樊稠(はんちゅう)・李粛(りしゅく)・徐栄(じょえい)の分まで作成してあった。華雄のマントと同様であるが、少しだけ丈を短くしている。彼らは自分達の分まであるとは思っておらず、割と嬉しそうであった。「胡軫殿の分は無駄になってしまいましたね・・・。」と、高順は寂しそうにいうことしかできなかったが。ちなみに、胡軫の物は徐栄の願いもあって彼女に譲られている。何故マント? と思うしかないが、これは前述の「張遼を恨め」という言葉に繋がる。高順は、張遼の「もっと見栄を張らなあかん!」という言葉のせいで髑髏龍の鎧やら兜やらを着用する羽目になってしまった。ならば、と高順も「じゃあ、皆さんにも見栄を張っていただきますよ!」とばかりにマントを作成したのだ。「ふっふっふ、どうです。俺だって恥ずかしい思いをさせられたのですから皆さんにm「・・・良い。」・・・え!?」呂布は嬉しそうに、マントをつけはじめた。以下、反応。張遼:「へー、なかなか良いやん? ちゃんと服の色に合わせてとか、順やんも考えたなぁ。」趙雲:「悪くありませんな。しかも「昇龍」。それがしの字にあわせるとは・・・高順殿は良くわかっていらっしゃる。フフフ・・・(趙雲の字は子龍」華雄:「まさか私だけではなく、部下達のものまで作るとはなぁ・・・私の旗に合わせた色だな。」3人娘:(大喜び。)沙摩柯:「・・・私には似合わないと思うのだが・・・折角作成してもらったんだ、使わせてもらおう。」蹋頓:「(何故か高順のマントを抱き締めて)高順さんの匂い(;´Д`)ハァハァ」高順:「(´・ω・`)アルェー・・・?」←考えた方向とは違う向きになってションボリ1人だけ何か違う反応を見せている人がいるようだが気にしてはいけない。「試しに」と言い始めて皆がマントを着用し始めており、全員満足そうであった。全身鎧の楽進などが特にサマになっていたが、全員、肩鎧+マントが割と似合っていて・・・高順はまたしても「(´・ω・`)アルェー・・・?」と困り顔になってしまっていた。 そして2つ目。「旗」である。これは、戦闘前に届くはずだったがマントと一緒になったらしい。高順が見たところ、呂布達の旗はボロボロになっていて「あれはちょっと・・・」と思うところがあった。華雄の旗などはあちこち擦り切れていて少々みっともないくらいだ。その為、元々からある旗を参考にして職人に無理を言って急いで作ってもらったのだ。呂布・張遼・華雄はともかく、高順一党の旗をどうしようかと思いもしたが・・・。「一部隊を預かる身としては作るべきだよな」と、これまた全員の分を作らせた。敵意を向ける呂布の分まで作成したのは「やっぱ差別は良くないですよ、うん」と妙なところで平等な性格を発揮しただけのようだ。ともかくも、楽進や趙雲等は自分の旗があることに喜んでいたのだが1人だけ「旗は要らない」と固辞した人物がいた。蹋頓である。3人娘もそうなのだが、蹋頓はあくまで自分の立場を「高順の副将」という立場に置いている。楽進達は自分の独立した部隊を与えられているので、そうも言えなくなってしまったのだが、蹋頓は高順部隊の中の一部隊を預かる立場でしかない。沙摩柯も同じだが、後の話ではあるが彼女も一部隊の指揮官として抜擢される事になる。蹋頓も部隊を任されかかったが「私は高順さんの部下として以外に働くつもりはありません」と突っぱね、最後まで「高順の副将」としての立場に拘り、貫いている。最終的に「折角作成したのだから、貰っておきなさい」と周りに言われて受け取り、一応使用するにはするのだが・・・あまり乗り気ではなかったようだ。こうして、(高順にとって)読みが外れたり、洛陽内部の不安を抱えたりしながらも、虎牢関防衛部隊は連合軍を迎え撃つ準備を進めている。反董卓連合軍が虎牢関に進撃してくるのはこの数日後であった。~~~虎牢関~~~「完全とは言えんけど、まぁしゃあないか。」李典は、設置された投石機を見つめて呟く。全工程の8割を終えた程度で、完全とは言えないが何とかなるだろう。晋陽で使用していた簡易的なものではなく、設計を一から見直して更に精度、特に耐久性を強化したものだ。酷使すれば壊れそうだった晋陽版とは違い、壊れる心配は無い。それに、これにばかり頼るという事はないだろう。鬼神呂布、華雄、張遼、趙雲・・・これだけ剛勇を持つ武将、6万の兵、そして難攻不落と謳われる虎牢関。大兵力で攻めてきたら投石機で迎撃、数を減らしてから打って出る。彼女達の攻撃能力があれば、投石器の攻撃でボロボロになった部隊などすぐに壊滅させられるだろう。逆に、少数精鋭で攻撃されれば、投石器はあまり意味が無いと思うがそうなれば、それこそ呂布達の出番である。連合軍がどれだけ攻め込んできても、現状で負ける要素、というのは見当たらない。ただし。補給が予定通りに行われるのであれば、という前提付だが・・・。「ほ~・・・やっぱ何度見ても大軍勢や。人が溢れかえっとるでー・・・。」直ぐそこに陣を張っている連合軍。張遼はそれを見慣れているのだが「やっぱ多いなー」とか言っている。「・・・烏合。」同じく連合軍の陣を見ていた呂布はボソリと呟いた。「・・・烏合の衆、って事かいな?」「(こくり)」「ま、せやろけどな。」張遼は、この口数の少なく、一見すれば何を考えているか解らない呂布の友人だ。この人に対しては「もうちょい賢く生きれんかなぁ」と不安になってしまうことも多い。前述のように周りからは「何を考えているのか解らない」と思われている呂布だが、実は案外に頭が良い。戦場では嗅覚、とでも言うべきか。じっと人を観察している。そんだけ物事見れてるのに、なんで順やんと仲直りできへんかな、とこれもまた不安だが・・・呂布は、高順に斬られる事で彼の怒りに謝しようとしている・・・ように見えることもある。救いがあるとすれば、高順は「真正面から挑む」性質が強いという事だろう。毒殺とか謀殺とか、そういうことを考えられない高順の性格なので大丈夫だろう、とは思っている。(いつか仲を取り持ったらんといかんわな)と、張遼は考えている。話を戻すが・・・呂布は陣を見て、持ち前の嗅覚を発揮したのだろう。呂布ほどの武人ともなれば、陣を見ただけである程度戦意があるかどうか、くらいは見分けられる。張遼達は実際に矛を交え、連合軍の挙動を見て理解したものだ。そんな呂布が烏合、というのだからやはり、連合軍の戦意は高くない。ただ、そんな連合軍の中でも戦意の高い武将・部隊はある、ということも呂布は理解している。「ま、誰が攻めてこようとうちの偃月刀で蹴散らしたるわ。・・・いや、うちだけやのーて皆頑張ってくれると嬉しいけど。」「・・・ん。」張遼の言葉に、呂布は僅かに頷く。~~~連合軍陣地~~~場所は変わって連合軍。虎牢関を最初に攻めるのは王匡(おうきょう)・孔融(こうゆう)・劉備の3者。兵数4万ほどが攻める事になっていた。汜水関に比べれば部隊の展開がしやすい広さだが、それでも総攻撃ができる、というほどのものでもない。この布陣で、劉備は「先鋒に配してください!」と主張したが王匡らに「所詮義勇軍上がりに何ができるか」と言われてしまって後陣に配置されている。袁紹は逆で「使い潰してもかまわない劉備を前衛に配置」しようとしていたが、王匡らの強硬な主張で渋々、そのような布陣にした。この決定に、劉備陣営は大いに不満を露にしていたが総大将の決定に抗えるはずも無く、これまた渋々後方に下がっている。王匡たちも焦っている。汜水関では張遼達の堅陣を抜く事もできず、被害が増大しただけ。なんとか虎牢関で挽回したい、というところだ。王匡・孔融ともに、ここ一番で使おうとした猛将を前面に押し出しているので、やる気があるのは間違いないようだ。王匡の配下に方悦(ほうえつ)、孔融には武安国(ぶあんこく)という勇者がいる。華雄に当てなかったのは「呂布を討つため」に温存したと考えられる。劉備軍も、汜水関ではそれほど本気を出さなかったのは虎牢関のほうが戦功を立てやすいと思ったからで、その辺りは王匡らと変わりはしない。「はぁ~・・・」劉備は、自陣で一人ため息をついた。何とかしてここで戦功を立てなければ、という焦りがある。彼女は平原の相・・・今で言う警察署長のような役割だが、何故か太守同様の役割になっていた。だからこそ、将として参陣できたのだが、戦功を立てないと褒賞がでない。褒章が出なければ将兵共に不満に思うはずだ。それに、と自分に仕えてくれている武将を見回す。武官としては関羽・張飛。文官としては諸葛亮・鳳統。この4人の能力は素晴らしい物で、どう見ても他勢力の武将に見劣りしない。しかし劉備軍の主だった武将と言うのはこの4人しかいない。これは少し寂しい話だった。何とかしてもっと多くの武将が欲しい。ここで戦功を立て、もしも大きな都市の太守になったとしても・・・。この4人と自分では、明らかに仕事が回っていかないだろう。北平にいた頃、公孫賛は人材不足を嘆いていた。高順にも「人材は必要ですよー。」と教わってもいた。最初は「大丈夫!」と考えていたものだが、平原の政治をこなしてその意味が身に染みてよく解った。実は、劉備も周喩と同じく高順とその周りの武将を狙っている。趙雲の武勇、孫策軍を一方的に叩いた高順とその周りの武将。彼に付き従う勇猛な騎兵部隊。今の劉備に足りない物は数多い。名声・武将・文官・兵力・資金力。ぶっちゃけ、何もかも。が、彼らを引き込むことが出来れば、大きな収穫となる。名声を得れば、それを見聞きした人々がはせ参じるのだろうけど、悠長に待っていられるだろうか。孫策にとってもそうだったが、劉備にとってもこの戦いはある意味でギリギリだった。思いつつも、「いつ、出撃命令が来るかな?」と焦れていたところで、銅鑼が鳴った。「桃香(劉備の真名)しゃま、出撃れふ! ・・・へぅ、また噛んだ・・・。」劉備の横にいた鳳統が劉備を促す。「あ。・・・そろそろ、だね。」劉備は祖先から受け継いだ宝剣「靖王伝家(せいおうでんか)」を握り締めて立ち上がった。同じように、諸葛亮・関羽・張飛も立ち上がる。「皆、行こう!」「はっ!」王匡・孔融の軍が進発したのを見て、劉備軍も動き始めた。~~~虎牢関~~~こちら側でも、すでに出撃準備は整っていた。出撃するのは呂布・張遼・趙雲・高順。他の部隊は関の防衛だ。高順は出撃前に張遼から「順やん、呂布やうちのこと嫌っててもええ、せやけど、戦場では肩を並べて戦うんや。個人の感情無しで頼む。せやないと勝てる戦いもおぼつかん。」と言われている。そんなものは言われるまでもないですよ、と返した高順だが、言った張遼自体それほど心配をしているわけでもない。高順という男が、どさくさに紛れて後ろから刺す、とかそういうことが出来ない性格であることが解っている。連合軍に呂布に勝てるような武将がいるとは思わないし、呂布自体がある意味で「一個の軍隊」のようなものだ。呂布の武は一騎当千どころか一騎当軍である。いざとなれば関の守りについている楽進や華雄らの部隊もあるし、投石器の事もある。張遼は見たことが無いので知らないが、直に喰らった華雄曰く「洒落にならん」だとか。ここで、虎牢関側からも銅鑼が鳴る。「ふむ、高順殿、遅れても知りませぬぞ?」「遅れないから大丈夫ですって。」「もし遅れたら・・・お仕置きですかな? 閨的な意味で。」「え、何で!?」「・・・行く。」「っしゃ、気合入れるでー! 旗上げたらんかいっ!」四者なりの反応である。張遼の言葉で、虎牢関全部隊の旗が上がる。緋色の「呂」旗、紫の「張」旗、純白の「趙」旗。「華」・「楽」・「李」・「干」・「沙」。そして朱地に白文字の「高」に、目立たぬように側に上げられた「蹋」。高順の旗の四隅には目立たぬように、じっと凝視せねば解らぬ程の小ささで、朱ではなく赤で「丁」「朱」「郝」「上」と書き込まれていた。彼は、風にたなびく己の旗を見上げる。(俺は、これでいく。上党の、先に逝った人々の思いと共に。)呂布はすっと息を吸い込み、ただ一言の命令のみを放つ。「出撃。勝って。」『応っっ!』高順も、視線を戻して進んでくる連合軍を見据えて進撃。董卓・・・いや、この場合は呂布軍と言うべきだろうか。呂布軍と連合軍の戦場の雄叫びがぶつかり合う。先頭を進む呂布。付き従うように後を追う趙雲達。後の世。呂布に従い乱世を駆けた将に、人々はある呼び名をつける事になる。壱の将、張遼。弐の将、趙雲。参の将、華雄。四の将、沙摩柯。伍の将、楽進。六の将、李典。七の将、干禁。八の将、高順。同世代に生きた人々、彼らの戦いを知る人々。皆、半ば畏敬と畏怖を込め、彼らの事をこう呼んだ。呂布と共に、乱世を駆け抜けた八人の騎将。「呂軍八健将」と。八健将、と称される彼女らの戦いが歴史に刻み込まれようとするその瞬間であった。~~~楽屋裏~~~少し、文章量が足りないか・・・と考えて追加してみました、あいつです(挨拶なんというか、ここで「完!」と書き込んでも違和感が無い感じですね。あいつは良く頑張った、そろそろ打ち切ろう・・・。無理ですけど(あ穆順が出ませんでしたが・・・張楊が張燕の部下なので察してください(ああその代わりに、すぐに「三英戦呂布」ですから・・・ま、あいつの文章力では盛り上がりどころ無く終わるね!本当に次からが虎牢関の戦いになります。とは言え、汜水関よりも短くなると思います。汜水関、当初2話で終わらせる予定だったのに何故4話もかかるかな・・・(汗ずっと前にも「60話でこの話終わらせるよ!」とか言ってたのに絶対終わりませんよこのペースだと。・・・10話で終わらせるはずだった昔が懐かしい。(遠さて、高順君はこの戦いに勝利することができるでしょうか。それではまた次回。