【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第49話 汜水関・四戦目「いやあ、あのまま見捨ててくのも気が引けるやんか? それにやな、順やん死なれると後が大変や思うてなぁ。」なははは、と張遼は照れ隠しするように笑った。最初こそ「華雄を見捨てて虎牢関に退くべき」と主張していた彼女が、結局は退かずに高順達を援護したのは、そんな理由なのだという。自分の男を見捨てるのも嫌だし、とも加えたが、死なれると後が大変・・・というのも張遼の偽りのない理由だった。3人娘・趙雲・沙摩柯・蹋頓・閻柔・田豫。彼女達は「高順がいるから」董卓軍に所属しているだけの人々である。張遼とは仲が良いし、華雄もそうなのだが、もしも高順と言う要が失われれば、楽進達はあっさりと董卓軍を離脱するであろう。下手をすれば張燕も掌を返す事も考えられる。それを思えば、「見捨てるべきではない」という結論は間違ってはいない。華雄軍の被害は2万弱の内、3千ほどの死傷者と胡軫の戦死である。孫策・袁術の混合部隊も両軍合わせて2千ほどの死傷者に、孫策軍の勇将である祖茂が戦死している。どちらの部隊も大変な被害である。孫策軍は袁術軍と合わせての数だが・・・やはり、元々の軍勢が少ないので割合から見れば華雄軍よりも被害が大きくなってしまう。その為に、彼女達は一度退いて他の諸侯に陣を譲る事になった。袁術は癇癪を起こしていたが。しかしながら、どの諸侯もやる気がない。劉備・曹操・公孫賛は次の虎牢関が決戦の場になると考えて戦力温存を図ることにしたようだ。目の前の汜水関を落さなくては話にならないのだが・・・それこそ、それに対しては孫家が燃えている。決戦の場を自分達で獲ってしまえばいいのだ、と孫家が攻め立てるのを待つ三者であった。ただ、面白くないと思うのが袁紹であった。「雄々しく! 華麗に!そして美しく進軍ですわー!」があっさりと覆されたのだから。劉備か曹操あたりを当てて董卓側が疲弊したところで、汜水関を「自分の軍で」陥落させたい袁紹だったが、それが上手く行きそうにないのだ。さあどうする、と悩んでいたところ孫策から「もう一度攻めさせて欲しい」と打診してきた。汜水関でも、「これからどうする?」ということを各将が協議している。張遼は「もう時間は充分稼いだのだから直ぐに退くべきだ。」と主張していた。彼らの任務は「一週間は時間を稼ぐ」ことであって、汜水関を守って死ぬことではない。強硬派であった華雄も負傷して暫くは戦えないし、なんとか戦力を疲弊させないまま退くということは理に適っている。ここで1つ問題がある。「誰が殿(しんがり)をつとめるのか?」だ。華雄は前述の通り、指揮する分には可能だが、もしも乱戦となれば・・・傷が癒えていない今では無理だ。張遼も、先頭にたって部隊を指揮するべき立場。そうなると、自動的に高順が妥当と言うことになってしまう。「てな訳で、順やん。殿お願いしてもええ?」「・・・お願いも何も、拒否権はないですよね解ってます。・・・でも、俺の部隊だけじゃすぐにばれますよ。騎馬隊しかないですからね?」「わーってるって。趙雲と楽進、あとうちの部隊からも兵貸すから。せやさかい、ある程度時間稼いだらとんずらや。ええな?」「はいはい、解ってますって。・・・華雄姐さんを助けていただいたんですから、それくらいはやらせていただきますよ。」はぁ、と高順はため息をついた。「にゃはは、頼むで、順やん。それよか、きっちり退くんやで。」「はい? なんで念を押しますか。」「そらあんた。・・・んふふぅ、言わすん? 真昼間に?」にんまりと笑う張遼。「はぁ?」「うちは順やんに貸し作ったし? そらもう「借りを返す」意味でのご褒美が10や20くらいあってもええと思うけどなぁ♪ 主に閨的な意味で。」「ぶふーーーーっ!?」」この言葉に、楽進・趙雲・蹋頓の目が「きゅぴーん」と光った。具体的に言うと (☆ω☆)キュピーン ・・・こんな感じに。高順に貸しを作れば閨でムフフ・・・という公式が彼女らの頭の中でできたかどうか。にっひっひ、と笑って高順に擦り寄る張遼。「なっ、張遼さん! 今は軍議の席ですよ・・・なぁっ! 何をしますか!?」「ええやんかぁ、ちょっとくらい♪」うりうり、と迫る張遼を他所に、嫉妬とか何かのオーラを放つ3人。・・・真面目な軍議で何をしているのかと子一時間。結論、高順は趙雲・楽進部隊と張遼から貸し与えられた二千ほどの軍勢と共に汜水関を守る。機を見て逃げろ・・・という事になった。~~~華雄の寝室~~~「ども、姐さん、大丈夫ですか?」高順は軽い口調で部屋に入った。「あ・・・高順か。」「・・・おお、よく来たな。」寝台には華雄、傍らには徐栄がいる。華雄は強がって「大したことはない」と言っているが、関に運び込まれた時点では割と危ない状況だった。楽進の気癒術で傷を塞ぎ、流血を止めたことでなんとか持ち直したほどだ。特に腕の傷が酷くて暫くは戦うことも出来ないだろう。徐栄が献身的に介護をしており、命に不安はなくなったのだが・・・かわりに、自信を失いかけていた。これほどの負け戦になるとは思っていなかっただろうし、これまで自分を支えて来てくれた四将の一人である胡軫をも失ったのだ。しかも、自分の判断の誤りのせいで。相当堪えたのだろう、落ち込んで中々部屋から出てこない。「あ、これからどう動くのか決定したんで知らせに来ました。やっぱり、予定通り虎牢関まで退くそうです。」「そうか・・・。」「で、華雄姐さんの軍勢は張遼殿と一緒に先発してください。勿論徐栄さんもですよ。」「・・・何? お前はどうするんだ?」「殿です。最後まで残って時間を稼いでから撤退です。」「は? ・・・おい、ちょっと待て。お前の部隊だけでか!?」「はぁ。趙雲殿と楽進もいますし、張遼殿から兵を回していただけるとか。守るだけなら何とでもできますよ。」「・・・。いいか、死ぬなよ、絶対に死ぬな。生きて戻って来い、これは命令だぞ!」掴みかからんばかりの勢いでまくし立てる華雄に、高順も少し驚いた。「そんな怒鳴らなくても、こんなとこじゃ死にませんよ。いや、死ねません。まだまだやりたい事もありますしね。」特に気負うでもなく、高順はあっさりと言いきった。「なら、いい。・・・くそぅ、今回の戦じゃいいとこ無しだ。挑発にあっさり乗ってしまうし、そのせいで大切な部下を何千も無駄死にさせて・・・ぐすっ。」色々と思い出してしまったのだろう、華雄はしゅん、と落ち込んで涙声になった。「ああ、もう。らしくないですね。・・・ほら、ちーん。」「・・・(ぶびぃぃぃっ)・・・ぐすっ。」高順は、泣きそうになる華雄の鼻に紙を押し当てた。華雄も素直に従い鼻をかむ。「じゃあ、俺はそろそろ行きますね。徐栄さん、後はお願いします。」「ん、任せろ。」紙をくずかごに捨てた高順は部屋を出ようと華雄に背を向ける。「あ、高順。あの・・・だな。」「はい?」「そ、その・・・ありg「失礼します。」・・・。」華雄の言葉を遮るようにして部屋に楽進が入ってきた。「あれ、楽進。・・・あ、そっか。治療の時間だったか。」「はい、本来ならば私も華雄殿についていって癒術を続けたいところなのですが・・・。」「・・・。」礼を言おうとしたのを邪魔されて、華雄は少し不機嫌そうだった。そんな彼女を見て、徐栄は忍び笑いをしている。その後、数日かけて彼女達は虎牢関へと向かって撤退していった。一度に大移動をすれば当然気付かれるであろうから、少しずつ小出しにしての移動である。幸いと言うべきか、連合軍の大半の諸侯が攻めようとせず様子見ばかりをしていたので何の妨害もなく撤退は進んでいく。こうして残留した高順達であったが・・・。「むぅう・・・撤退予定日に限って戦意の高い方々が・・・。」汜水関城壁の上で連合軍の様子を見ていた高順はそんな感想を口にした。高順の目の前に展開する部隊、そして翻る旗は「孫」の一文字。前の戦でなんとか撤退させた(と高順は思っている)孫策軍である。ただ、本来ならば共にいるはずの袁術軍の姿はない。今回は袁術軍と合同で来るつもりはないのか、それとも単純に足手まといと思ったか。「まずいなぁ・・・もしかして、こっちが撤退中ってばれてるか? なにせ孫策殿には三国志最強軍師の周喩殿がいるし・・・。」時刻は既に夕方であって攻めてくるのは明日になるのだろう。それとも、そう思わせて夜中に攻撃を仕掛けてくるか。高順は兵士達の半数を眠らせ、もう半数を防衛に当たらせる事にした。孫策軍の兵士は数も少なく、3千程度もあれば「守るだけ」ならば可能そうだ。現状で一番油断ならない相手であるし、随分消極的な守り方になってしまう事にも不安はあるが、こちらも手持ちの兵力が少ないので仕方ない。~~~孫策の陣~~~「・・・攻撃をするのは明日早朝。全部隊、兵を休ませておくように。」孫策は陣幕で各武将に命令を下した。「ふぅ。もう一度機会がくるとは思いもしなかったわ。・・・これで戦果を出せなければ、孫家の名声も地に堕ちるわね。」傍らにいる周喩に、孫策は思わず愚痴をこぼした。「らしくないわね。なんとしても勝たなければならない戦よ。」「そうじゃな、策殿らしくありませぬ。」「解ってるわよぉ・・・。」周喩と黄蓋は不満そうに口を尖らせた。どうも前回の負け戦の影響が大きいらしい。(全く・・・賭けに勝ったはいいけれど、その影響がこんな形で。恨むぞ、高順。)周喩は、高順に対しての評価が当たった事には満足していたが、そのせいで負けを喫したこともあって複雑だった。自分達はこんなところで歩みを止める訳には行かない。孫策の先代である孫堅の遺志を継ぎ、そして孫家の版図であった江東を平定・・・その先にある、自分達の理想へと進み続けなくてはならない。もっとも、その障害となる存在は多いようだ。孫策も感じたことなのだが、曹操辺りは間違いなく障害となる相手だ。その前に袁術からの独立をしなければ話にならないが、その前に董卓・・・いや、この場合は高順か。随分と高い壁になったものだ・・・。何にせよ、ここを抜かなければどうにもならない。周喩はずっと汜水関を観察し続けて「大部分の兵が撤退した」ことを看破している。高順が残留していることも解っている。そうなると残留兵力は3千か4千か。どう見積もっても1万以下。ならば防御を考えず全てを攻撃に叩き込めば何とかなる。孫策軍の兵は少なく、落とせたとして被害が大きくなるのも理解しているがこれまでの失態を覆すにはそれだけの覚悟も必要になる。そして、と周喩はその先を考える。「汜水関を落として、できることであれば高順を捕縛、孫家の将として登用する。」高順の攻撃能力、その配下の武将の能力、彼らに従う騎兵隊。あれを何とかして自軍に吸収したい。そうすれば、此度の被害以上の収穫となるだろう。孫策も、彼らの実力を見た以上は部下にすることに異論は唱えないだろうし黄蓋も反対をすることはない。不安があるとすれば孫権と甘寧だが、直に手合わせをした彼女達も、高順隊の戦力を「侮るべからず」と思っているはずだ。反対意見もあるだろうが、全て抑えきってみせる、と周喩は決意していた。だが、彼女は1つだけ見落としている事があった。この時に、孫権は動き出していた、という事を。~~~深夜~~~汜水関の城壁の上で、楽進はじっと孫策の陣を見つめていた。交代制ということで兵士と武将が二交代で見張りをしているのだ。まさか、夜中に攻撃を仕掛けてくるとは思いもしないが楽進から見ても連合軍で一番戦意が高いのは孫家の軍勢だと思っている。用心するに越した事はない、という高順の言葉も理解できた。「・・・ん?」ふと、楽進は異変に気がついた。汜水関城壁は松明の明かりで照らされており、常に連合側の動向を警戒している。明かりがあるからこそ解ったのだが、孫策側から100か200ほどの軍勢が向かってきたのだ。先頭には前回の戦いで高順に負けた少女・・・楽進と変わらない年齢だろうか・・・がいて、隣には沙摩柯に敗北した浅黒い肌の少女もいる。その少女は、矢が届かぬほどの位置で部隊を停止させてから、配下に松明と、松明を固定するための台を設置させた。「あれは・・・一体何をしているんだ・・・?」楽進の疑問に答えたわけではないが、少女はすぅっ、と大きく息を吸い込んでから大声で叫んだ。「高順! 聞こえているか、高順ーーーー!」「!?」孫策の陣でも騒ぎになっていた。「ちょっと、あれってどういうこと!? 何で蓮華が・・・。」孫策は怒鳴るが、答えが返ってくるわけではない。見張りは何をしていたのだ、と思っていたが、周喩が兵に事情を問いただしたところ見張りの兵が共に付いて行ってしまったのだとか。「どういうことだ・・・。」まさかとは思うが、高順と一騎打ちでもするつもりか?いや・・・確か見張りは元々、甘寧の部下の「錦帆賊」と呼ばれる水賊の1人だった。(だからか・・・!)周喩は不味い、と直感した。多分、という推測だが、孫権は高順に負けた事を恥じて一騎打ちで勝負を付けたいと思ったのか。軍勢同士の戦いでは負けたが、本人からすれば不意を突かれての敗北だと思ったのかもしれない。総攻撃になれば、乱戦で一騎打ちなどできない。それでは雪辱を果たせない・・・思い余って、こんな暴挙に出たのだろうか?そうなれば相談できる人物など、孫権の側周りである甘寧以外にいないだろうし、甘寧が命じれば「錦帆賊」の連中はあっさりと従うだろう。孫権の悪癖が妙な感じで露出した。頭に血が上りやすい人だし、それを危惧してはいたが・・まさかここまで。よほど頭にきていたということか。「くそっ、完全に見誤ったか・・・! 雪蓮、直ぐに軍勢を動かすぞ、こうなれば」「不要よ。放っておきなさい。」「・・・何?」「あの子が高順に勝てるわけがないじゃない。無駄だからやめなさい。」冷たく言い放つ孫策。「本気か? 蓮華殿を「自分の後を継ぐ存在だ」と言っていたのは貴女でしょう!? それを」「だからこそ、よ。こんな簡単なことが解らないようでは私の後を継ぐなどできるはずがない。・・・無謀の代価を払うのは自分自身よ。」「雪蓮、貴女・・・!」「短慮の果ての行動。その結果の責任・・・人の上に立つ以上、やってはいけない事がある。あの子はそれをしてしまったのだから。」その上で、孫策は黄蓋に「蓮華が負けたら、貴女の弓矢であの子を討ちなさい。虜囚の辱めを受けるよりはマシよ」とまで命じた。命令を受けた黄蓋は愕然としたが、孫策が怒り、本気で言っていると考えて陣の前に立って弓に矢を番えた。「聞こえているか、高順! 我が名は孫権! 貴様との一騎打ちを所望する。臆さねば出て来いっっ!」「・・・孫権? ということは孫策殿の血族か?」楽進は、一応孫策のことを知っている。(黄巾の時に共闘している。さあ、どうしたものか、と考える楽進だったが、孫権の声に応えるように高順は城壁の上に姿を現した。「あ、隊長・・・。」「夜中に大声で。・・・で、何事?」「何でも、一騎打ちを望む、とか。」一騎打ち? と疑問系で聞きながら高順を孫権を見据えた。100か200か知らないが兵士の前で仁王立ちする孫権の表情は真剣そのものだ。本気で挑みに来たな、と確信した。「この松明が消えるまで待つ、降りて来い!」「・・・・・・。」降りて来い、と言われても降りる理由がない。他人ならばともかく自分は臆病者と呼ばれてもかまわないし・・・。でもなぁ・・・。「・・・まぁいいか。楽進の部隊は動ける?」「は? はい、全員動かせますが・・・。」「よし、じゃあ行くか。ま、急ぐ必要はないさ。松明消えかけてからでいい。それまでは適当にダラダラしとこう。」「ダラダラって・・・。」やる気があるのか無いのか解らない高順の言い草に、楽進は少しだけ肩を落とした。孫権は腕組みをしてじっと待っていた。松明の火も消えかかっているが、あの男が逃げるとは思わない。それは解っているが、焦れて仕方がない。「蓮華様、あの男は出てくるでしょうか。」傍らにいる甘寧の言葉に孫権は頷いた。「出てくるわ、絶対に。・・・必ず勝つ。」孫権は、基本的に知・政の人だが武の素養もある。姉である孫策には勝てないが、粘り強い戦い方ができる。彼女は高順の強さが「馬上だからこそ」という事実を見抜いていた。一撃が重いのは、踏み込んでくる馬の体重が加わっているのだ、と考えている。ならば馬から降ろせば勝機はある、と踏んだのだ。何とかして馬から引き摺り下ろして対等の条件で戦えば・・・ということだ。そう考えたところで、関の門が開いた。「むっ・・・。」あの巨馬に跨った男・・・間違いない、高順だ。その横にいる女は祖茂を討った武将だ。が、高順は兵を500ほど引き連れている。「ふん、臆病者め。随分遅かったな?」孫権は古錠刀を高順に向かって突きつけた。「ああ、すいません。飯食ってたもんで。」「むぅ・・・」舐めきった言い方に少しだけイラついたが「安い挑発だ、乗るものか」と呟いて気持ちを落ち着かせる。「とにかくだ、一騎打ちを申し込む。そのつもりで出てきたのだろう? 正々堂々と勝負!」「・・・やれやれ。お互いに兵士を引き連れている時点で正々堂々も何もないと思うけどな。」さて、と言いつつ高順は虹黒から降りた。「何・・・?」「あんたは徒歩、俺は騎乗。不公平だからねぇ。」「貴様っ・・・私を虚仮にするか!?」孫権としては「思惑通りにいったのは良いが、どうしても軽んじられている気がする」と思うだろう。「虚仮にしてないよ、馬鹿にしてるだけです。」「ぬっぐぐぐぐ・・・。」孫権は完全に挑発にのってしまっていた。対して、高順は涼しい顔をして三刃槍を地面に突き立てる。「・・・!?」「自分は刀なのに相手が槍だから負けました・・・なんて言われたくもないしね。こっちも剣で行かせてもらいます。」言って、高順は左肩鎧にマウントされている倚天の大剣を引き抜いた。幅広の大剣である。「余裕だが・・・それが何時までもつか楽しみだ!」言い捨てて、孫権は斬りかかって行った。甘寧は、孫権と高順の戦いをじっと見ていた。自分が出て行くべきだったかもしれないが、本人が一騎打ちを望んでいるので手を出す訳にも行かない。甘寧から見ても孫権の武才は悪くない。高順とやらが馬に乗っていなければ勝てるかもしれない、と思っていたが・・・。それは、すぐに甘い考えだと解った。孫権は果敢に向かっていき、何度も何度も斬撃を放つのだが高順はそれを悉く、それもあっさりと受け止める。胴を払うと見せかけて、足を払うように狙った一撃を放ったときは思わず「いけるか!?」と思いもしたが、高順は剣を地面に突き刺して孫権の一撃を防いでしまった。延々と孫権が攻め続けているが、息が切れてきたのだろう、肩で息をしはじめた。「はぁっ・・・はぁっ・・・くそ、何故当たらない・・・?」「そりゃ、そんなに無闇に振り回してるだけじゃ当たるものも当たりませんよ。」にも拘らず。あれほど重そうな鎧を着ている高順は疲労を見せない。「それで終わりですか? では、今度はこちらから行きますよ。」言うが早いか、高順は倚天の大剣を振りかぶって大上段から斬りつけた。孫権は後ろに下がって避けるが、高順はすぐに間合いを詰めてくる。「くっ・・・このぉっ!」孫権は距離を詰めた高順の首を狙って(孫権から見て)右から刀を払った。が、高順の斬撃が刀を打ち据える。「つぁっ・・・!?」凄まじい衝撃に右手が痺れて力が入らなくなる。その上、背中には大岩があって半ば追い詰められた姿だ。それからは一方的な戦いが続く。高順の攻撃は、当初一呼吸につき一撃・・・だったのが攻撃回数が徐々に増えている。しまいには一呼吸で四回もの斬撃を繰り出してきた。(ここまで、力の差があっただなんて・・・!)完全に高順の力を見誤った、としか言いようがない。先ほど刀を打ち据えられたがその時は「孫権が先に斬りかかった」のだ。だというのに、後出しの高順の放った攻撃のほうが先に届いてきた。攻撃速度・威力共に完全に負けている。このままでは・・・と、焦った瞬間。高順の一撃が古錠刀の刀身を中程から叩き斬った。「なっ・・・馬鹿な、母上が遺して下さった古錠刀が・・・。」「古錠刀?」えーと、それっと確か・・・孫堅の愛刀の古錠刀? すげー名刀じゃないか・・・。(うーん、悪い事したかな・・・。)と、高順は少しだけ後悔した。高順も亡き丁原の刀を大事にしている。大切な人の遺した物を失う、というのは堪える物だ。見れば、武器を失ったことで戦意を喪失したのか、勝ち目がないと思ったのか。孫権は折れた古錠刀を見つめて呆然と立ち尽くしている。少しして孫権は諦めたように大人しくなった。「私の負けだ。・・・斬りなさい。」この言葉に、甘寧や兵士が孫権を守ろうとして動き始める。楽進も彼女達の動きに反応したかのように兵を展開させるが・・・高順は、それを片手で制した。「やめときなよ。ここで動いても得るものはないよ、特に孫権殿がね。」とは言うものの。この状況をどうするかなぁ、と高順は悩んだ。攻撃させれば孫権も甘寧も討てるだろう。だが、高順にはそんなつもりがない。迷った挙句・・・高順は孫権に背を向けた。三刃槍を引き抜いて関に退こうと歩き始める。「き、貴様・・・1度ならず2度までも私を見逃すというのか! 私の首に価値などないと言いたいのかっ!?」孫権を一軍の将として認めていない、欲しいと思うほどの首ではない・・・高順の態度は、間違いなくそんな物だった。恨まれるのは仕方がないとしても、追い掛け回されるのは勘弁してもらいたいな・・・と思って振り向く高順。孫権は心底怒っていた。表情を見ればそれが解る。高順はまたも迷った。(どうしよう・・・これじゃ、また同じことをやらかしそうだし・・・こんな無茶で振り回される兵士もかわいそうだ・・・。)俺がやったら、説教じゃなくて「SEKKYOU」になるんだよね・・・と僅かに考えた高順だったが「ええい、ままよ」と心を決めた。わざと冷たく突き放すような口調で言い始めた。「兵が哀れだ。」「何?」「兵が哀れ、と言ったのさ。あんた、孫策殿の妹だろう? その割にゃ随分出来が悪いな。」「出来、だと・・・!?」「そうだろ? 自分の怒りに振り回されて自分の部下を巻き込んで。挙句みっともなく負けて部下まで道連れにしようとしてるんだ。出来が悪いと言い切って何が悪い?」「・・・! 言わせておけばぁっ!」素手にも拘らず高順に掴みかかろうとする孫権の鼻面に、倚天の大剣を向ける。「くっ。」「言わせてもらうさ。それとも自分は有能だと? 俺が一騎打ちに応じずに部下をけしかけてたら、あんたらは全滅してただろ。そんな所を見落とす奴の出来が良い筈ないだろうよ。」高順は、そのまま倚天の大剣を孫権の顔に・・・ではなく、孫権の後ろにある岩に思い切り突き刺した。数瞬の後、一本の矢が剣の柄部分に命中した。「な、何!?」「・・・はい?」孫権と高順・・・いや、兵士達もだが、一斉に矢の飛んできた方角へ顔を向けた。遠くてよく見えないが視線の先に孫策の陣があり、1人の女性が矢を放ったことが見て取れた。高順と孫権の距離の間辺りを狙ったのだろう。(孫策は、孫権を討たせるつもりだった「ふぅむ、味方・・・いや、孫策殿からも見捨てられたかもね。」「う・・・。」確かにあの姉なら失態を犯した自分を許しはしないだろう。とくに、後に孫家を告ぐ立場の1人である自分の失策であれば。「はぁ・・・兵が哀れなら貴女も哀れだ。見逃してやる。・・・古錠刀の代わりになるか解らんが、その剣を貸す。女性が丸腰っていうのは危険なのですよ?」高順は剣の鞘も孫権に放り投げた。「き、貴様は何を考えている。敵である私の命を助けた上に剣を貸す・・・? そんな馬鹿な話があるか!」「今実際に起こってるからあるんですよ。周喩殿にもう1度伝えておいてくれ。「これで借りは纏めて返しました」ってね。」「っ・・・また、周喩への借りか・・・。」「ちゃんと主君の後を継ぐ人として修行しなよ。・・・じゃあね。」「お、お前に・・・私の何が解る!」背を向ける高順に、孫権の自棄から出た言葉をたたきつけた。「解る訳ないだろう。俺は王族でもないし実力者の子弟でもない。」これ以上は自分が踏み込む領域ではないのだと思う。先ほどの「SEKKYOU」も今の彼女と過去の自分が重なって見えたからだ。高順は呂布に斬りかかる事で朝敵となり、仲間達に苦労をかけた。いや、今でもかけ続けている。孫権は己の怒りで無謀な行動に出て、自分と兵士の命を失いかかった。立場も状況も全く違うが、自分はそのせいで苦しんでいる。彼女も彼女なりに自分の立場と重責に苦しんでいるのかもしれない、と思いもする。「貴女は王者としては劉備に敵わない。覇者としては曹操にも孫策殿にも敵いはしない。今のままではね。」「劉備・・・曹操?」孫権は2人のことを良く知らない。「怒りに囚われるな、怒りを受け流せ。最低でも家臣の前で無闇な振舞いはするな。負けるにしても死ぬにしても、後に繋がる闘いに・・・なんてね。偉そうに言う立場じゃないのだけれど。」「家臣・・・次に繋がる戦い方を・・・。」呟いた孫権は甘寧達のほうへと顔を向けた。「貴女は王道を進む王者か、それとも覇道を突き進む覇者か。・・・答えが出た頃に、その剣を返してもらうとするよ。まぁ・・・」俺みたいな奴を屈服させられないような人がどちらになれるか、なんて解りはしないけどね。高順はそれだけを言って汜水関へと退いていった。「・・・王者、覇者。どちらになれるか、それともなれないのか・・・。」孫権は甘寧らと共に帰陣したが、その後が大変だった。孫策の怒りは本物で「首を叩き斬る!」と愛刀「南海覇王」を持ち出すわ、周りの重臣が孫策を抱えて何とか止めようとするわ。短慮の末の行動であり、情けをかけられた上におめおめと逃げ帰ってきたのを許せるか、というのが孫策の言い分で、それに対しては孫権は何1つ言い訳はしなかった。周喩・黄蓋・程普・甘寧などが全力で(?)命乞いをしてなんとか収まった。孫権は高順の言うとおり、「これで周喩に全て借りを返した事」を伝える。周喩は「まったく、あの男は・・・」と呆れていた。早朝、孫策軍は汜水関に攻撃を開始。これ以上は後がない、とばかりの勢いで攻め立てる。いつもなら汜水関に篭る軍勢も激しく抵抗をするのだがどうにも反撃が緩い。あまりの緩さに孫策側は「まさか罠でも?」と疑い、夕刻に近いためもあって一時的に後退して様子を見た。高順も、撤退の機を見ていたが「ここしかない」と、急いで軍勢を纏めて門に閂をしかけてから一目散に虎牢関へと退き始めた。撤退中、横に並んだ楽進が高順に「隊長! 軍需物資は宜しいのですか!? 全て持っていくことが出来ませんでしたが・・・!」と聞いてきた。「ああ、ある程度は仕方ない、連合にくれてやるさ。そんなもんよりも速さ重視。急ぐよー。」「は、はぁ・・・。」 結果、孫策軍は大した損害もなく汜水関一番乗りを。高順もそれほどの被害無く撤退を完了させたのであった。~~~汜水関~~~おかしな事になった、と孫策は嘆息した。孫権は高順に二度も見逃されるし、その高順のおかげで汜水関一番乗りの名誉に与る事ができたし・・・。それが自分達の実力で為した事でもないので、嘆息どころか不愉快そのものだ。が、反面で「よくも周喩への借りとやらを延々覚えていたものだ」と僅かに感心した。義理やら人情やらがあまり意味を為さない時代に、そういう所を芯に持って生きるというのは、誰であれ大したものだ。あの甘さは未だに危険なものに見えるのだが、その甘さで妹の命が救われたのだし・・・と評価していいものか悪いものか。「雪蓮。」「ん・・・何よ、冥琳。」考え事に没頭していたために、孫策の反応が僅かに遅れた。「各諸侯も汜水関へ入った。総大将殿は随分ご立腹だったようだがな。」「総大将? ・・・ああ、袁紹ね。放っておけばいいわよ。どうせ自分が一番乗りじゃなかったのが不安ってだけでしょ。」「ふっ、だろうな。まったく、関1つで随分足止めされたものね。」「全くよ。被害を抑えて利を得ようとしたのに根底から覆されたわ。」「そうだな・・・ふぅ。」汜水関一番乗りを果たした事で、ある程度面目が立ったと言えなくはないのだが、高順隊を捕縛する事はできなかった。こちらの目論見をよくもまあ完全に打ち崩してくれたものだ。「ところで、蓮華はどこ行ったの?」「ん。視察をしてくると言っていたから・・・城壁の辺りを歩いているのではないか?」「そう、なら良いのだけどね。」「雪蓮。本当に貴女は蓮華殿を斬るつもりだった?」「うん。」「随分とあっさり言うのね。」周喩はやれやれ、と大げさな身振りをした。「そりゃ、孫家の顔に泥を塗ったんだから。折角高順が見逃してくれたし、皆今まで以上に頑張って働くって約束してくれたらそれで手打ちにしたのよ♪」「・・・悪女め。」「そりゃどーも、褒め言葉ね♪ ま、冗談としておくとしても、あの子にとっちゃ良い経験になったでしょ。その辺りだけは高順に感謝しなくちゃいけないかもねー。」「何だ、結局は雪蓮も彼を評価してるじゃない。」「ばっ・・・! 何でそうなるの!?」「さあ? それよりライチ酒、楽しみにしてるわよ?」「・・・・・・。はい、頑張らせていただきます。」~~~汜水関・城壁~~~周喩の言ったとおり孫権は城壁の上にいた。横には甘寧が控えている。孫権は鞘に納められた倚天の大剣を握り締めて西の空を見つめていた。―――あの男は、私を王者にも覇者にもなれない、と言った。―――劉備・曹操という名が出ていたが、孫権はその二者をよく知らない。覇者としての孫堅・孫策を知るだけであるし、自分自身は姉から「あんたは王たる者になりなさい。」と言い聞かされている。そのせいでもなかろうが、孫権は周りから言われて王を目指す、という所があった。誇り高き孫家の一人であり、それもまた当然だ。と思いながらも心のどこかで「ただ、そういう姿を求められているだけなのではないか」とも考えていた。周りから求められて、漠然とした考えしか持てなかった彼女だったが、高順の「SEKKYOU」に、激怒しながらも感じるものがあった。自分の怒りに付き合って死に掛かった甘寧と兵士達。それだけでも恐れるべき事だが、それを民に置き換えてみたら・・・と考えれば更にぞっとする。ソレくらいの事はすぐに解るものなのだが、頭に血が上ると周りの見えなくなりがちな孫権にとっては今回の件は良い教訓となった。(高順、忘れないわ。そして、私を認めさせてやる。お前1人認めさせる事ができない私が、どうして王を名乗れようか。どうして民を納得させる事ができようか・・・)今まで孫権の中にあった「誰かに認められたい」という半ば消極的な考えが、「認めさせてやる」という積極的なものへと変貌しつつある。甘寧は、孫権が何も喋らない事を不思議がった。いや、怒気すら発していない、と言うほうが良いかもしれない。厄介な事でもお考えになってるのだろうか、とそっと横から表情を覗き見る。しかし、そんな心配は無用らしい。孫権の表情は、どちらかと言えば憑き物が落ちたようなものに見えた。これまでは眉間に皺を寄せていた事が多い孫権の、久々に晴れやかな表情だった。孫権は、西の方角をじっと見つめ続けていた。日が沈み、夜の薄闇が降りてきた空を。~~~楽屋裏~~~どうも、文章力は中の下どころか下の下だと思います、あいつです。(挨拶ハーレムは嫌ですかそうですか、という言葉に発奮して(中略)XXXネタ全て投棄(中略)そんなもんより本編進めろよNOW(中略)エロローグです(何これ?それは置いとくとして・・・「ちょ、あんたの作品すげえ叩かれてるから見てみwwww」といわれ検索したところ。「うはwwww叩かれすぎwwwwこれはもう死ぬしかwwww」な感じになりました。ウツダシノウま、半分冗談ですが(え?SEKKYOUがきました。でもこれくらいは良いよね、同じ痛みを知るからこそのSEKKYOUだからいいよね!?これで孫権さんが王者として開眼するかどうか・・・。いや、するんでしょうけどwさて、やっとこ汜水関終了です。次からは虎牢関ですねえ。・・・どうしようかな。ではまた次回に。