【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第31話 晋陽の乱。高順達が上党を北に抜けて数日。彼らは今晋陽領内の街道を通っている。高順にとっては、この地は嫌な思い出ばかりのある土地だ。ここを通れば、丁原や朱厳の事を思い出してしまうので更に忌避したくなっているのかもしれない。晋陽での事の顛末を知らない趙雲にとってはそうではないが、彼女も丁原のことを思い出したのか苦い表情を見せている。出来るだけ早く抜けてしまいたい。あと数日もすれば晋陽を抜けて薊(けい)に入るだろう。と、ここで高順に限らず、全員が少し気にしたことがある。人がほとんどいないのだ。前回通ったときはそんな事など気にもしていなかったが、道中で見かける村々に人の姿が見えないのだ。単純に家の中にいるのか?とか、黄巾の乱の余波か?とも思ったが、本当に人に出会うことが無かった。農村だろうが街道だろうが、あまりに人が少なすぎる。一体何があったのだろうか?なんとなく不気味さもあったが、暗くなってきた事もあって数人ほどが少し怯えてしまっている。「うー・・・なぁんか気味悪いの・・・。」「そ、そうっすね。こうも人が少ないと、何かこう・・・。」怯える干禁達の後ろで、趙雲が手を「ぱんっ!」と叩き合わせた。「ぎゃーーーーー!?」「のぉおおおおおおっ!?」びびりまくって思い切り馬を駆けさせる干禁と、それに釣られて一緒に進んで行ってしまう閻柔。あっという間に2人の姿は遠くへと消えてしまった。全員、それを呆然と見ていたが楽進が趙雲を非難する。「・・・趙雲殿。人が悪すぎです・・・!」「はっはっは。それがしは虫がいたので潰そうとしただけですぞ?」「またそういう減らず口を・・・。」「・・・やれやれ。」まったく、と言いたげに高順は首を振った。ところで、高順の父母は基本的に馬車の中で臧覇と共にいる。今は閻行が御者をしている。臧覇は2人にも良く懐いていて、まるで本当の両親のように思っていたようだ。2人も子供と言うか、むしろ孫のように思っているらしく凄まじい甘やかしっぷりを見せていた。旅の最中、たまーに「早く孫が欲しいですね、あなた。」と高順に聞こえるように言って来て、彼にしてみれば「頭痛の種が増えた」認識だった。仲が良いのは良い事だと思うのだが。「高順。あの2人、追いかけたほうが良いだろう?」「そうですね。じゃあ沙摩柯さんもついてきてください。楽進達はこのままの速度で。」「承知。」「はい。」「ほいなっ。」皆の返事に高順は頷く。「では、行きましょう。」言って、高順は虹黒を駆けさせる。さて、その頃干禁達は、と言うと・・・。「ひえええっ、助けてなのーーーー!」「うえええええっ・・・自分達なんて殺しても一銭の徳にもならないっすよーーーー!?」小さな森の中で、50人ほどの粗末な武装で身を固めたどこぞの兵士に囲まれていた。「おい、貴様らっ!官軍か!?」街道を走っていた干禁と閻柔だったが、途中で捕まってしまって森の中に連行されてしまったのである。今は馬から引き摺り下ろされて、槍を手にした兵士達に囲まれている。「違うの!官軍じゃないの!」「本当っす!信じてくださいっすよーーーー!」泣き喚きつつ、否定する。そりゃ、泣きたくもなるだろう。自分たちは官軍に追われていて、こんな床で油を売っている場合ではないのだ。大体、趙雲がおかしな悪戯をするからこんな目に合わなければならない。2人とも座り込み、抱き合って目の幅涙を流しつつ趙雲を呪った。「ぐすっ、趙雲さんのばかああああああっ!!」思わず叫んでしまう干禁だったが、趙雲、という言葉に何人かの兵士が反応した。「ちょううん・・・?」「どこかで聞いたぞ・・・いや、待て。」兵士が1人、干禁たちの前で屈み込む。「おい、お前ら。ちょううん、というのは・・・えーと、こういう字で書くのか?」言いながら、その男は剣の先端で地面に「趙雲」と書き込んだ。「そ、そうっす・・・。」「では、外見は・・・純白で、胸元がけしからんくらいに広く開いた服。青みがかった頭髪、ではないだろうな?」この言葉に、干禁と閻柔は顔を見合わせた。外見を言い当てるわ、趙雲、という名前を書くわ。張、ではなく趙。この字を使用しているのは趙雲くらいなものである。何故それを知っているのか。昔の知り合いなのだろうか?「なんで、趙雲さんの事知ってるの・・・?」「何だと・・・本当に趙雲殿か。では、お前達は趙雲殿の仲間なのか?」「その通りっす。おいちゃんたち、趙雲さんの事知ってるんすか?」この言葉に、何人かの兵士がどうしたものか、と悩み始めた。それ以外の兵士は何の話かは解っていない。「うぅむ、まさか趙雲殿のお仲間とは。」と、そこへ。「おーい!李典!閻柔さーん!どこ行ったーーーー!?」「早く出て来いーーー!出てこないと飯抜くぞーーー!」高順と沙摩柯の声が聞こえてくる。2人の姿を見失っているので、呼びかけながら進んできているらしい。「あ、高順さん!」「・・・こうじゅん?こうじゅんだと?」「へ?」先ほどの男の表情がまたしても変わる。「おい、あんたら。高順って、上党の高順殿のことか?」「確かに、高順さんhむぐぐ・・・。」「わー!言っちゃ駄目っすよー!」言おうとした干禁の口を閻柔が慌てて塞ぐ。上党を出て数日だが、もしかしたら高順一行は反逆者、或いはお尋ね者として各都市に通達が行っているかもしれないのだ。そのような布告が為されたかどうかは解らないし、もしそうだったとして数日でどこまで広がるかは解らないが、迂闊に喋るべきではないと思ったのである。もしこの兵士たちが官軍だったら・・・。だが、案に相違して男達は槍を下げた。「これは失礼をした。高順殿、趙雲殿のお仲間であったとは。非礼をお許しください。」と、頭まで下げた。「え?」そこで、兵士達は2人を連れて森の外まで出て行った。高順を迎えるためである。兵士達と共にいる2人を高順はジト目で見た。「2人とも、何やってたの?男かどわかしごっこ?」「そんなごっこ遊びなんてしないっすよ!」抗議する閻柔を尻目に、高順と沙摩柯は何十人といる兵士に目を向ける。「で、あなた方は一体?官軍には見えませんが。黄巾残党?」高順の質問に先ほど干禁達を尋問(?)していた兵士は「違います。」と否定した。「我々は黒山の者です。以前、上党の丁原様にお世話になりました。」「丁原様・・・じゃあ、張牛角のときの?」「はい、その通りです。高順殿は我々を覚えておいでではないでしょうが、肥料を分けて頂いたことを今でも覚えております。」この言葉に、高順はその時のことを思い出した。肥料を分けてあげたいと丁原に嘆願した事。趙雲達との出会い。何千もの兵同士が戦ったこと。郝萌や朱厳。そして、晋陽太守のせいで黒山という場所へ追いやられていった褚燕と、その村民の事・・・。良い思い出よりも悪い思い出のほうが大きい。丁原達ももういないのだ。「そうでしたか。と言うことは、あなた方は黒山の・・・。褚燕様はお元気ですか?」「それは・・・元気と言えば元気なのですが。」何となく歯切れが悪い。褚燕が元気なのは間違いないだろうが、どうして言葉を濁すのだろう。「高順殿。悪い事は言いませぬ。ここを早く抜けてください。」「晋陽を、ですか?」「はい。詳しくは言えませんが・・・。」そこまで言った瞬間に、後方から剣戟の音が鳴り響く。「!?」「何だ!?」全員が後方(高順たちが通ってきた道)へ走っていく。高順達の後ろ、と言えば趙雲達が今通っているはずだ。先ほどまで人の姿などまばらだったと言うのに。まさか盗賊の類か?賊程度であれば、趙雲や楽進、それに閻行とているのだ。心配は要らないだろう。だが、官軍であれば自分達の首目当てで襲いかかって来る事もあるだろう。・・・いや、やはり趙雲達がいるから心配は要らない気がする。高順たちが急行すると、直ぐに趙雲達がどこかの兵士と応戦しているのが見えた。そして、高順は趙雲たちに襲い掛かっている70人ほどの兵士を観察する。「あいつら・・・あの鎧には見覚えがあるぞ。」「高順、あれは晋陽の兵か!?」「間違いない・・・晋陽兵だ!くそっ!」一体何処に潜んでいたのか。いや、それよりも・・・よくよく考えたら馬車の中には臧覇がいる。「くっ、・・・急ぐぞ、3人とも!」「はいなのっ!」「了解っす!」「応!」~~~趙雲側~~~「はぁっ!」楽進の蹴りが晋陽兵の首に炸裂する。その兵士は首をおかしな方向に向けて吹き飛んで行った。「ちっ、こいつら・・・どこから出てきた!」楽進は自分と李典の後ろに田豫を下がらせて戦っている。田豫自身はそれほど強い訳ではない。「そも、どこの兵士やねんこいつらっ!晋陽兵かいっ!」李典は螺旋槍を思い切り叩きつけて跳ね飛ばしていく。趙雲も、高順と同じく晋陽兵であることを見抜いている。「その通りだ!どこから尾けていたかは知らんが・・・しっ!」趙雲も槍を一閃させ、晋陽兵を数人纏めて弾いて行く。田豫も慣れないながら矢を射掛けての牽制。こちらの戦闘要員は僅かで晋陽兵は数十もいる。手数は少しでも多いほうがいい。そうなると、一番危ないのは馬車なのだが・・・。「そぉい。」「あべしっ!?」「・・・。」なんだか、母上殿(閻行)が晋陽兵の頭を卵みたく握り潰していた。兜かぶってるのに握り潰すってどういう握力をしているのだろうか・・・?閻行は頭を潰された哀れな兵士の剣を奪い、一呼吸で馬車を囲んでいた20人ほどの兵士の首筋を正確に切り裂いていた。兵士達はある程度の間隔を空けていたが、その間隔を一瞬で縫うように駆け抜けて(徒歩)、正確に首のみを狙って斬りつけて絶命せしめたのだ。目にも留まらぬ早業、という言葉は聞くが彼女の場合、「目にも映らぬ」である。それを見ていた趙雲・楽進達も、その一瞬で何が起こったのか全く見えなかった。そして思うのだ。「私達、何もしなくて良いよね?」と。「さあ、どうしました?こちらは僅か数人。数十名もいる官軍様ならば楽に討ち取れるでしょう?」閻行はにっこりと笑いながら言うが、晋陽兵にすれば悪魔の笑みである。全員後ずさりしていたが、そのうちの1人が悲鳴を上げて逃げ出していく。それに釣られて1人、また1人と逃げていき、後に残されたのは傷1つない趙雲達と30以上の晋陽兵の亡骸であった。結局、高順達がたどり着くまでに彼女達は自分達に振りかかった火の粉をあっさりと払いのけたのであった。「おやまあ・・・。官軍も随分と質が堕ちましたね。・・・ああ、彼らは中央の兵ではありませんでしたか。」剣を投げ捨てた閻行がぼやく。20年程前、彼女は西涼で中央から派遣された討伐軍相手に暴れまわっていたのだ。彼女の中にある叛の血が騒いだのかもしれない。そこへ、ようやく高順達がたどりついた。高順や干禁は、現場の状況を見回す。「うぉ・・・死屍累々・・・。」「順、遅いですよ。」閻行が文句を言う。だが、高順が遅いのではなくて、彼女達が早く片をつけただけに過ぎない。「しかし、何故晋陽兵が我らを・・・?」趙雲が顎に手を当てて考え込む。「既に我々が逆賊扱いをされたか・・・・・・。はてさて。」「うーん、しかしな。途中で官軍に追い抜かれるようなこともなかったと思うが・・・早馬なんて見もしなかったし。」「そうやなー。そんなもん見ぃへんかったしなぁ。」「隊長、議論よりも早く北平へ向かうべきでは・・・?」楽進の言葉に、高順も「それもそうか。」と頷く。ただ、時間としては既に遅いほうでそろそろ野営の準備に入りたい。さっきの森辺りが良いのではないだろうか。素早く考えを纏めて高順は行動を開始しようとするが、そこに先ほど高順たちと話をしていた所属不明の兵士が追いついてきた。「ひぃ、はぁ・・・や、やっと追いつけました・・・。」「・・・あ。」完全に彼らのことを忘れていた高順であった。最初、皆は彼らのことを疑っていたが高順は事情を説明した。趙雲は納得したようだが、他の皆は多少の不信感を持っているらしい。楽進にせよ閻行にしても「そう容易く信じるのはどうか。」と苦言を言う。高順は色々と質問をしようとしたが、彼らは晋陽兵の亡骸を見て「不味いことになってしまった」とか言い始めた。「何が不味いんだ?」「・・・解りました、事情を全て説明いたします。「黒山」へお越しください。このままこの辺りで野営をするには危険すぎます。」この言葉に全員が顔を見合わせる。信じていいものかどうか。しかし、晋陽側から仕掛けられたとはいえ、彼らも一応は官軍である。全て討ち果たしたのならばまだしも、逃亡されてしまったのだ。すぐに自分達の(高順を始めとした4人は見られていないが)人相書きやら何やらが出回るだろう。どうも、選択肢はないようだ。「・・・はぁ。解りました。では案内をお願いします。」「隊長、彼らを信じるのですか!?」「もし害意があったらもう襲い掛かってくるはずだよ。つうか干禁達は襲われたけど、官軍かどうかを確認したかっただけみたいだしね。それに、情報は必要だぞ?何でこんなに人が少ない、とか。」「うっ。それはそうなのですが・・・。」「どちらにせよ、晋陽は俺達を手配してくるはずさ。やばくなれば逃げる。皆もそれで良いかな?」趙雲や沙摩柯はあっさりと頷く。他の者・・・特に楽進はなおも不満そうだったが、確かにこのままでは面白くない状況に陥るだろう。遅かれ早かれ、ということだ。結局は楽進も折れて不承不承に頷いた。高順は振り返って、先ほどの兵士に話しかける。「じゃ、案内をお願いしますね。」「ははっ!」それから数時間。高順達は50人ほどの兵士に囲まれて進んでいく。質問をしようと考えたがやはり辞めておいた。褚燕に全て聞けば良いのだろう。向こうに会う気があれば、だが。そして更に進む事暫く。山、というよりも谷、といったほうがしっくり来るような場所に出た。谷の上まで見ることは出来ないが、随分と瘦せた土地である事はすぐに見て取れた。平地にも家・・・バラック小屋と言える様な粗末な小屋があちこちに点在している。よく見ると農地や水場が相当大きな規模で作ってある。松明を何十と炊いてあって、夜中でも明るい。人の数も多いが、何故か皆が一様に粗末とはいえ武装をしている。沙摩柯や趙雲達も「これは・・・。」と息を呑んでいる。それほどに人が多い。高順は先ほどの兵士に話しかけた。「これって・・・ここが、黒山ですか?」「はい。・・・おい、皆。」この言葉に、先ほどまで付いてきた兵士が所々に散っていく。「?」「ああ、申し訳ございません。彼らも任務でしたので。・・・さて、参りましょう。このような時間ですが褚燕様もお会いしてくださるでしょう。」「任務・・・。そうですか、解りました。」高順達は兵士の先導に従って進んでいく。「あの、隊長・・・。」「ん、どうかしたか?楽進?」「その、先ほどから疑問だったのですが。褚燕というお方はどんなお人なのですか?」「褚燕様?・・・前に、丁原様が賊の張牛角という男とやりあってね。晋陽側からの要請で彼らを反逆者とみなして討伐に向かったんだが・・・色々あったんだよ。で、その牛角の同族に当たる人。」「え?では、褚燕という人も我々と同じように・・・。」「ちょっと違うかな・・・。褚燕様の場合は濡れ衣だよ。でも、こんなところに追いやられてしまってね・・・。」高順は憂鬱そうな表情でため息をつく。そんなやり取りだったが、傍で趙雲は憤然としていた。褚燕がそんな状況に追いやられていた事を知らなかったし、高順は話そうとしなかった。彼なりに気を使って話さなかった、というのだろうが・・・だから、彼は晋陽を早く離れたがったのか。そうならそうと早く言ってくれれば良いものを。どうしてこうなってしまったか問いただしても高順は話そうとはしないだろう。自分を仲間と思ってくれているなら、もう少し心を開いてくれぬかな、と心中で愚痴ってしまう。ちょっと進むと、奥に少しだけ作りが豪華な家屋が見えた。あそこが褚燕の居館だろう。見張りの兵士が数人いる。「暫くお待ちを。」と断って、兵士は見張りの元へと駆け寄った。僅かに話し見張りが家の中へ入っていくも、1分も経たぬうちに戻ってきた。その見張りの言葉を聞いて、兵士が戻ってくる。「褚燕様がお会いになられるそうです。皆様、お入りください。」それだけ言って、兵士は拱手して去っていった。「・・・皆、入れって。臧覇ちゃんはどうするんだよ。」ちょこっとだけ作戦会議をして、高順の父親に見張り兼、臧覇のお守りとして残ってもらう事にした。2人を除き皆が馬から降り、見張りが家屋の扉を開く。その奥には前に出会ったときよりも背が伸びて、女らしくなった褚燕の姿があった。「高順様、趙雲様・・・。ようこそ、おいでくださいました。それと、他の方々は初めましてですね?私の名は褚燕。この「黒山」の・・・統率者、とでも言うべきでしょうか。」長い黒髪をそのまま後ろに流した少女が深々とお辞儀をした。それに釣られて高順達も頭を下げる。「さあ、どうぞお座りください。と言っても、椅子は3つしかありませんけれど・・・。」机の向こうに褚燕が座り、その正面に高順と趙雲が座る。他の者は2人の後ろに立つ。さて、と褚燕が前置きをして、「お久しぶりですね、褚燕様。随分と背が伸びましたね。」高順の言葉に褚燕は柔らかく微笑んで見せた。「そうでしょうか?それと、様付けはやめてください、と申しましたよ?」「これは失礼を。あ、皆を紹介しておきますよ。順番に、楽進・干禁・李典・・・。」高順の説明を、褚燕は興味深そうに聞いている。高順の母がいることに対して、彼女は随分驚いていたようだ。「では、褚燕様。質問があるのですがお答えいただけますか?」「お答えしましょう。お答えできる範囲であれば、ですが。」「では、遠慮なく。まず1つ目。さきほど気がつきましたが、晋陽・・・随分人が少なくなったような気がします。旅の最中、ほとんど人に会いませんでした。そして2つ目。先ほど、案内をしてくれた兵士が「任務」とかいう言葉を使っていましたね。あれは一体?」「答えましょう。1つ目について。実際に少なくなりました。晋陽太守・・・覚えていらっしゃいますか?」「・・・ええ、未だに私腹肥やしに夢中なのですか?」「正解です。丁原様にお助け頂いた時より更に税が重くなり・・・多くの農民が離農しました。2つ目です。彼らは偵察任務をしていたのです。」「偵察?何を偵察していたのですか。」「晋陽兵の動向です。」「動向、ね。・・・では3つ目。」2人のやり取りは続くが、そこで李典が口を挟む。「なぁ、なんで動向を探る必要があるんな?その辺、詳しい説明が欲しいんやけど・・・そのせいで、うちらの友人が疑われて危険な目にあったんやで?」この言葉に、褚燕は少々驚いたようだ。「部下が失礼をしたのですか?・・・それは申し訳ありません。動向を探る理由・・・これは後でお話いたします。今はそれで宜しいですか?」「ま、まぁ、ええけどな。きちっと説明してや?」「はい。それで、3つ目の質問とは・・・?」「何故ここにはこんなに人が多いのです?褚燕様の村に住んでいたのは1000程度だったでしょう?ぱっと見ですが・・・1万と言う数じゃきかないですよ、この数。」「先ほどの質問に繋がりますね。離農した人々が、少しずつ集まってこのような形になっていったのです。」「では、途中の村々で人影をほとんど見なかったのは・・・。」「ええ。大半がこの「黒山」へ逃げ込んだのでしょう。それと1つ訂正・・・全部合わせれば1万ではなく、10万です。」「!?」褚燕の言葉に皆が息を呑む。10万・・・黄巾賊に比べれば少ないが、それでも凄まじい数だ。それだけ晋陽太守の課した重税が重く圧し掛かったということだろう。「ここだけならば2~3万でしょうね。拠点はここだけではありません。晋陽各地に大小の拠点が散らばっています。それら全てを合わせて・・・という数です。」「しかし、そんな数を集めて・・・いや、集まったというべきですか。どうなさるおつもりなのですかな?」趙雲の問いに、褚燕は少しだけ俯いてぽつぽつと話す。「4月ほど前の事です。我々の拠点・・・集落ですが、その1つが晋陽軍の襲撃を受けて壊滅させられました。あそこは戦う力の無い人々・・・女子供、老人が多い場所だったのです。それが、あんな・・・。」思い出したくも無い、と言いたげな表情で褚燕は話す。「当然、守備兵もいましたが全滅です。・・・ただ、静かに暮らしていたいだけだった。税を払う事すらできない程追い詰められた人々を受け入れて、最低限生きていけるようにしたいだけだった。それなのに・・・!」褚燕の悲痛な言葉に、全員が沈黙する。少しだけ涙声になりつつも褚燕は続ける。「・・・我々は住んでいた土地を追いやられ、この場所に来ました。そして自力で生きていけるように、荒れた地を馴らして、水源を探して。ようやくここまでこぎつけたのです。それを晋陽側はどこからか嗅ぎつけて来たのでしょう。「今まで滞納した税も纏めて払うように」と通達してきたのです。今まで何も与えようとしなかったのに、力をつけてきたら「寄越せ」と・・・。」「では、先ほど言っていた滅ぼされた集落は・・・?」「間違いなく見せしめでしょうな。従わなければこうなる、と。」「・・・・・・。」趙雲の発言に褚燕は力なく頷いた。話を聞いていた高順は怒っていた。あのクソ太守め、と前に抱いた殺意がまたぶり返してくる。そこに、閻行が「聞きたいことがあるのだけれど、宜しいかしら?」と挙手をした。「え?はい、どうぞ?」「褚燕さん、貴方は一体どうなさるおつもり?」「え?」「そこまで舐められた真似をして黙っているのかしら。聞いた話では、貴方は1年以上前の戦いでも話し合いをすることで解決の糸口を探していたとか。そして、今のこの状況・・・どうやって打破するおつもり?」閻行の遠慮の無い言い方に、高順が反発する。「母上、それは言いすぎでしょう!褚燕様は戦いを望んでおられないだけです、それを!」「順、私は貴方ではなく褚燕さんに質問をしているのです。貴方とてどうするべきかは解っているでしょう?黙っていなさい。」「っ・・・。」閻行の反論は許さない、という物言いに高順は沈黙する。「褚燕さん。言いにくいのであれば私が言って差し上げましょうか。両陣営の兵士の偵察。それは「動くべき時」を見定めようとしていたのでは?」「それは・・・。」「晋陽側は貴方がどう動くか、そして貴方の擁する兵力を知りたい。貴方は反撃の時を見定めたい。いえ、こう言ったほうが正しいのかしら?貴方が戦いたくなくても、回りがそれを許さぬ状況になった、と。」閻行の言葉を黙って聞いていた褚燕だったが、参ったとばかりに頭を振った。「仰るとおりです、閻行様。先ほどの李典様の質問に通じますね。私の部下が官軍に対して過敏な反応を示した事、晋陽側が有無を言わさず皆様に襲い掛かった事・・・。一言で言えば、我々は数日後に決起し、晋陽を制するための戦いを挑みます。その為の準備でもあったのです。私が我慢できたとしても、周りは黙っていられないのです。」褚燕の言葉に、李典や干禁が反応した。「ちょい待ち!ほな、うちら勘違いで攻撃されたんか!?」「というか、褚燕さんの部下って思われたの!?巻き込まれた!?」「・・・恐らくは。このような状況下で本当に旅をしているだけ、と思えなかったのでしょうね。」「それって、無茶苦茶やばいっすよね?自分達、晋陽兵何人も倒して・・・。」「ええ、間違いなく褚燕様側の人間だと思われましたね。」高順のとどめの一言に、その場にいた全員(高順・褚燕・趙雲・閻行・沙摩柯除く)がず~~~ん・・・という感じで肩を落とした。「うぅ・・・覚悟はしとったけど、まさかこんな反乱に巻き込まれるとは思ってへんかった・・・。」「ああ。その上、黄巾のように官軍の大兵力が送られてくるだろうな・・・。」「早かったなぁ、なの・・・。」がっくりとしている3人娘を、趙雲は呆れたような眼差しで見た。「やれやれ。これくらいで恐れるでない。我々はすでに漢に対して弓を引いたのだ。後に戻れぬ。それを理解して高順殿についてきたのだろう?」「それはそうやけど・・・。」「ならば、ウダウダと言うべきではない。覚悟をした以上、進む意外にできる事などないのだからな。」「いつまでも逃げ続ける訳には行かないさ。どちらにせよ、この日が来るのは解り切っていた。思った以上に早かったけどねぇ。」苦笑しつつ、高順は言った。そう、遅かれ早かれ自分達は逆賊として追われることになるのだ。こうやって確定さえしてしまえばある意味清清しく思えてくるから不思議なものだ。だが、この言葉に褚燕は不思議そうな表情を見せた。「あの、高順様?逆賊とか、漢に弓を引いたとか・・・どういう事なのでしょう?」褚燕の質問に、どう答えたものかと思っていたが、素直に答えたほうがいいよな?と思い直して高順は答える。「それは、その。丁原様が、殺されましてね。濡れ衣だとは思いますが、逆賊の汚名を着せられたらしいのです。そして、丁原様を殺した漢の正規兵に、俺が斬りかかってしまいましてね。」「そう、ですか。丁原様が亡くなられた事は知っておりましたが・・・。」「え・・・はいぃ!?何で知ってるんですか!?」「私の「手足」は割と長いのですよ?それはともかくも・・・そうですか、そんな理由が。」恩をお返しする事をさせて頂けないまま、逝ってしまわれたのですね・・・と、褚燕は寂しそうに言った。この日はこれで話は終わった。既に夜中だった事もあり褚燕が寝床を用意してくれると言うことでその厚意に甘える事にしたのだ。彼らは宛がわれた一室で、この先どうするか?ということを相談しあっていた。だが、相談するまでもなく「この乱に参加する事」で意見は一致。公孫賛の元へ行くのは「まだ逆賊として認定されていない」事が条件の1つだったし、そこから北へでも逃げて烏丸に保護でも求めようかと思っていたが、晋陽兵のおかげで完全に予定が狂ったのだ。このままでは北平に行くまでに捕縛される確率のほうが高い。それならば褚燕の引き起こす乱に参加して、晋陽制圧に乗り出したほうが幾分かは安全。逆賊ではない公孫賛に保護を求めるよりは、逆賊になる褚燕の元にいるほうが迷惑はかかるまい。そんな結論に達したのである。その結論が出たとことで急に閻行が天井に向けて話しかけた。「と、いうことで結論が纏まりました。納得していただけましたか、お三方?」「はぁっ!?」全員が「何事!?」と言いたげな声を上げた。「あの、母上。今のは一体・・・。」「気がついておりませんでしたか、順。天井裏に3人、監視がいたのですよ。」「監視・・・。」「別にこちらをどうこうしてやろうと思っていた訳ではないようですね。褚燕さんがこちらの出方を知りたがっていたのでしょう。」「褚燕様が・・・何故。」高順の言葉に閻行は「さあ?」と首を傾げた。「少なくとも敵対したい訳ではない。できれば力を貸してほしいが、それを面と向かっていえない。我々から「参加したい」という申し出をしてくれることに期待していたのではないですか?」「そんな回りくどい事をしなくても・・・。」「色々とあるのですよ、こういうことはね。」「?」「彼女、乱を起こす機をじっと見ていたようですよ。ここらが一番のねらい目だという事を知って待っていたのでしょう。」「へ?でも、どうせ乱を起こすなら黄巾と呼応すればええんとちゃいますの?」「それも1つの考え方ですね。ですが褚燕さんは別の視点で見たようです。答えが解る方はいらっしゃいますか?」誰も答えない。が、暫くして沙摩柯が「もしかして・・・。」と遠慮がちな言い方をした。「黄巾の乱が終わったその直後に行動を起こした、というのは・・・諸侯が動けない事を見越した、ということでは?」「あら、どうしてそうお思いに?」「まだ黄巾が終結して1年も経っていません。にも関わらず、乱が起こる。それは漢の影響力の弱体化を鮮明にさせる。漢王朝にしてもそうそう何度も諸侯を戦に駆り立てる訳にはいかないでしょう。」「ふふ、さすが沙摩柯さんですね。私も同じことを考えています。幾度も大きな戦乱が起こるというだけで民は「漢王朝は何をしているのか」という印象をもつでしょう。かつ諸侯に動員をかけられないであろう時期、それを狙ったのでしょうね。同時に乱を起こせば同時期の延長線上の戦いとして諸侯の軍勢を投入されていたでしょう?」「な、なるほど・・・。」「彼女、とんだ食わせ者だったようですね。さて、天井の方々。そういうわけですから、我々は逃げはしませんよ。そこにいられると眠れないのです。はやく褚燕さんに報告しなさいな。」「・・・。」少し間をおいて、閻行がふぅ、とため息をついた。天上の気配が消えたからである。「あの、母上殿・・・。」「どうかしましたか、趙雲さん?」「褚燕殿は我々に嘘をついていた、ということですか?4ヶ月前に殺された人々や重税の事・・・。我々を自分の起こす乱に乗せるために・・・。」「私自身の考えでは本当だったと思いますね。そうでもなければこれだけ多くの人は集まらないでしょう。芝居を打てるような手合いにも見えない。もしかしたら・・・本当に、言い辛かっただけかもしれませんからね。」そう言って閻行は肩をすくめるのだった。「で、順?貴方はこれで良いのですね?」「ええ、構いません。俺の決断に皆を巻き込んで悪いと思っていますけどね。」苦笑する高順であったが、彼はあることを思い出していた。ずっと前に褚燕にこう約束したのだ。「何か困った事があったら言ってくれ。出来る限り力になる。」と。~~~褚燕私室~~~「そうですか、ご苦労様でした。」ねぎらいの言葉を受けた「影」2者はすぐさま天井裏へと消えた。2者共に違う情報を持ってきたが・・・どうも、高順様の母君は全て見切っておられたらしい。褚燕は苦笑した。だが、彼女にとっては高順達がここにいることが誤算である。結局は自分に協力してくれるらしいが、これは誤算でも嬉しい誤算。彼の足跡はある程度追っていた。公孫賛の元で戦い、上党に行くまでの動きは掴んでいたし丁原の戦死、ということも知っていた。先ほど自分からその件に触れなかったのは高順に気を遣ってのことだし、褚燕にとっても悔いの残る話であった。大きな借りを返し損なった・・・。というところだ。だからこそ高順を巻き込みたくは無かったのだが・・・何の因果か、彼は自分達側の人間だと誤解されてしまったらしい。彼が官軍に挑んだ事も知っていたので、ここは危ないですよ。と仄めかして早く逃げるように仕向けたのだが随分計算が狂ってしまっている。手伝ってくれればそれに越した事は無いが・・・。お互いに利用しあうのが一番か、とも思う。彼を助ける事で丁原様への恩返しにさせてもらおう、と自身を納得させて目を閉じる。そういえば。高順と前に出会ったとき、彼は「何かあれば言ってくれ。力になる。」と言っていた。もしかしたら、その約束を果たす為に協力してくれるのだろうか。約束1つの為に自分の命を丸賭けすると言ってるも同然なのだ。それではただの馬鹿でしかない。それとも、ここで自分は死なないという何かがあるのだろうか。まあ良い。私はこの乱を成功させて、晋陽の民の平和を取り戻してみせる。私は死なない。そして高順様達も死なせない。生き残ってみせる。その為の戦いなのだから。~~~楽屋裏~~~北平フラグが初っ端から折れました、あいつです。作者が作り出したフラグを作者が折りましたよ、ええ・・・。やっぱね、詰め込みすぎて作者でも把握しづらいこの状況。流れとして・・・高順達、北平へ→晋陽で黒山の人と勘違いされました→生き残りをかけて反乱軍に合流。こんな感じ?あと、晋陽太守は丁原さん騙した奴です。いわば丁原のあだ討ちでもあるのですね。そして、ここにきてまさかの黒山賊です。正史では褚燕は黄巾の乱と同時に大規模な反乱を起こしていますがこのシナリオでは時期をずらしたようです。高順達は晋陽の乱を無事乗り切れるでしょうか。いぁ、乗り切ってもらわねば困りますがねwさて、閻行さんが褚燕の思考を読み取ったのは同じ「乱を起こした者」だからというところでしょうか。馬騰が幾度も漢王朝に反乱を起こしたのもそういった時節を見ながら、ということなのだと思ってます。閻行さんもそういった匂いを感じ取ったのかもしれませんね。てか閻行さんチートすぎ。自重しなさい作者。次は晋陽軍との決戦ですかね。多分これは楽勝ですが、その次が苦労すると思います。さぁ、どうなりますか。~~~懲りずに武将紹介~~~今回は誰にしましょうかね・・・。~丁原~史実、或いは演義において呂布に殺される可哀想な人。史実では呂布は部下。演義では養子であるが、両方共に董卓に篭絡されて丁原を殺すという流れに変わりは無い。当時、隆盛を誇り皇帝廃立を目論む董卓に真っ向から異を唱えた気骨ある人である。彼の事跡はそれほど伝わっていないが、呂布という存在を(良くも悪くも)世に出したというのが一番の事跡になるのだろうか。不憫な人である(汗このシナリオでは、女性であり上党太守である。呂布は恋姫世界においては既に漢の将となっているためにそれほどの絡みがあるわけでもない。シナリオ開始当初は「パワハラ上司」だの「むかつく」だの「暗殺されて欲しい」という声が出るまで嫌われてしまった人。それほどに嫌われた彼女だったが、殺された同情からか「割と好きな人だったのですが・・」という声がチラホラ。もう、皆ツンデレなんだから(違うあくまでこのシナリオのオリジナルキャラで、恋姫には出ていない。この人を生き残らせてほしい、という声もあったようなないような。イメージがあるわけではないが、外見上でいうと、何故か初代アルトネリ○の女社長が思い浮かんでくる。何故だろう。~朱厳~まさにこのシナリオだけのオリキャラ。演義でも正史でも恋姫でも出るはず無い。モチーフとなった人物はいるけど名前で察せ(誰丁原が幼い頃から仕えていた人物で彼女の恥部を残らず記憶している爺様。おかげで丁原さんは彼に全く頭が上がらない。老齢ではあったものの張遼に食いつく辺り、中々の武才を誇っていたのだと思われる。若い頃ならば本当に互角の戦いをしていたのかもしれない。~郝萌~正史や演義では呂布の配下。最終的に呂布に反乱を起こそうとして高順に鎮圧された人。この人って袁術か誰かのスパイだった?しかし、馬鹿だなぁと思ってしまう迂闊な人。勝てるわけ無いじゃんよ・・・陳宮と謀っての反乱だと言われているがその辺りは不明。このシナリオではやはり女性。幼い頃から高順の友人であり、彼に好意を持っていたらしいが全く描写されずに亡くなった悲しい人。最初はただの女性兵士だったのにいつの間にか名前つきキャラに。つうかこの人の名前に「萌」という文字が付いているので、その為に覚えられている可能性が大きい。どっちにしろ不憫。簡単ではありますがこの程度?それではまた。