【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第28話 丁原と呂布。高順達は上党を出て、丁原のいる洛陽へと向かっていた。別に上党に別れを告げたというではなく、早めに丁原と合流しようと思っていたのだ。その証拠と言うわけではないが臧覇は閻行(高順の母)に預けられているし、田豫達もいない。3人娘にせよ沙摩柯にせよ、高順が行くのならば付いて行こうという考えであるし、趙雲は今度は丁原に客将という立場で仕えるつもりらしい。前の戦いの時に武功があったとして、丁原は趙雲に褒美を与えていた。本人に受け取るつもりはなかったが、その時共にいた郭嘉らの旅の資金に充てる事ができたため、結局は(半ば無理やりに)受け取る・・・いや、受け取らされる形になったのだ。その事については感謝をしているらしく、借りを作ったと思っているのだろう。それを返すために客将として、という事である。普段は飄々として掴みどころのない趙雲だが、「信義に重きを置く」という意志は誰よりも強い。さて、彼女らの考えはともかくとして高順はどうにも嫌な胸騒ぎがしていた。この胸騒ぎは上党に帰還して、門番に「丁原様たちは洛陽へと向かわれた」という言葉を聞いてからのものだ。正史でも演義でも呂布に殺された丁原であるが、自分の知る限り丁原と呂布の仲は良好だといっても良い。呂布は無口で自分の考えを他者に上手く伝えられない性格ではあるものの、信義がないというわけではない。なので、いきなり暗殺と言うことはないとは思う。だが、それでも胸騒ぎが収まらない。自慢にもならないが、こういうときの自分の胸騒ぎ、或いは嫌な予感と言うのは相当な的中率を誇る。予感が的中したとして、自分が傍にいたところで何ともならないだろうし、足手まといになる事だってあり得るが・・・。知識に振り回されすぎな気もするが、やはり時期が時期だけに気になって仕方がない。彼らは上党から南へと進んでいく。道が舗装されている訳でもないが、まあ進めない場所ではない。そんな場所が延々と続く道だ。高順が少し急ぎ気味に朝早く出立した事もあって、今日は早めに休もうという事になったのだが・・・。そこに、10数人ほどの騎兵が向かってくる。見張りをしていた高順は一体何事かと戟を構えた。他の皆は天幕の用意や食事の用意などをしていたが、異常に気がついて直ぐに高順の周りに集合してきた。だが、その騎兵部隊の中に何人か見知った顔があることに高順は気がついた。あれは・・・上党軍の兵士だ。向こうはそのまま通り過ぎるつもりのようだったが、その中の一人が高順に気づいたらしく、速度を緩めて高順の前で止まる。だがあまりに様子がおかしい。何故か怪我を負っている者までいる。「お前・・・高順か?何でこんなところにいるんだ!?」騎兵の一人が呼びかけてくる。「それはこっちの台詞だ、皆、洛陽にいるはずじゃないのか?それに、なんで怪我してる奴らがいる・・・?」「そうだ、こんなところで止まってる場合じゃないんだ。早く上党に行かなきゃならないんだ!」「だから何でだよ!?」「・・・丁原様が、呂布の軍勢に襲われているんだ。」「何・・・!?何故、呂布が?」「そんなこと知るもんか!丁原様に洛陽から離れるように命令されて、何が何だか解らないままいきなり襲撃されたんだ、こっちが知りたいくらいだよ!」「っ・・・。」彼らの言葉を聞いた高順は虹黒に跨る。「た、隊長!?」「様子を見に行く!3人は彼らと一緒に上党まで帰還するんだ!下手したら篭城戦になるぞ!」「え、ええ・・・?」3人娘も何が何だか解らずにおたつく。いきなり何があったというのか。くそっ、嫌な予感的中かよ・・・。高順は振り返ることなく虹黒を駆けさせた。その高順に、趙雲と沙摩柯が追いすがる。「待たれよ!高順殿が行ってどうなるのです!我々も彼らと共に退くべきでしょう!」「趙雲の言うとおりだ、お前1人で何が出来るんだっ!」だが、高順は答えずに更に速度を上げる。その後姿を見て、趙雲は自分の悪い予感が当たってしまった、と焦燥感を露にした。身内を大切にするがあまり、いつかどこかでおかしな暴発をしてしまうのでは、悪い方向へ向かってしまうのではないか。そう思っていた。それが今回、丁原達に危機が迫っているという言葉で完全に冷静さを欠いた行動に繋がっている。普段の高順であれば、自分達の言葉を聞くまでもなく退く事を選んだはずなのだ。何とかして止めなければ・・・。「くそっ・・・!沙摩柯殿、高順殿を止めるぞ!」「ああ、3人は高順の言うとおり彼らについていけ、襲撃される事はないだろうが気をつけるんだぞ!」「は、はいっ!」沙摩柯と趙雲も、高順を追って馬を駆けさせた。「はぁっ!」「でぇいっ!」張遼の「飛龍偃月刀」と朱厳の二対の刃が交差し、火花を散らす。張遼は傷1つないが、朱厳はすでにボロボロの状態だ。張遼は何度も降伏を呼びかけているものの、朱厳は全く聞こうとしない。「朱厳のじっちゃ、お願いやから降伏してんか!これ以上は無駄やで!?」「お断りする。わしも武人の端くれ。負けると解っていても退けぬ戦いがあるわ!」「ああ、もうっ・・・。」何度となく退いては押し、押しては退くという戦いである。老齢であり、完全に押されてはいるものの、張遼も中々決定打を与える事ができない。迷いもあったが、それ以上に朱厳の強さが思った以上のものだった。降伏を呼びかけていても、張遼にも余裕はない。「迷うでないわ、小娘っ!」「くうぅっ!?」朱厳の繰り出す双剣を張遼は飛龍偃月刀で防ぎ、尚も戦いは続いていく。呂布隊6000と、上党軍3000が交戦状態に入って数時間。すでに丁原軍の兵は殆どが討ち死にしていた。丁原は洛陽を離れた後、親衛隊であれ何であれ、若い者を順番に逃がそうとした。自身と朱厳、そして少数の兵士で足止めしようとしたのだ。兵たちも丁原の言葉に従って一度は逃げようとしたものの、「このまま放っておく事などできるか!」とばかりに駆け戻ったのだ。最低限、上党に危急を知らせる兵を遣わせて、大部分が丁原を守るために引き返した。だが、その兵たちも呂布率いる騎馬隊に打ち負かされてしまい、屍となって地面に横たわっていた。「はぁ、はぁっ・・・。」「・・・・・・。」上党側、つまり戦場の一番北で丁原と呂布は対峙していた。丁原の吐く息は荒く、対して呂布は呼吸1つ乱していない。その丁原を守る親衛隊も殆どが討ち死にし、残っているのは十数人と言ったところだ。「くっ、武神と評されるだけあるな・・・。やはり、敵わんか・・・。」「・・・勝負はついた。降伏して。」呂布の言葉に、丁原は自嘲の笑みを漏らした。「ふん、部下を死なせて1人おめおめと生き残れというのか?どちらにせよ私は死ぬさ。それを考えて部下を逃がしたというのに。あの馬鹿者どもは・・・。」「・・・そう。」呂布は己の得物「方天画戟」を構えなおし丁原も長刀を構える。先に動いたのは呂布。一気に間合いを詰め、方天画戟を振るう。丁原はなんとかそれを避けて反撃を試みるが、呂布はそれを難なく回避して、更に攻撃を加えていく。親衛隊は、両者の攻防を黙ってみている事しかできない。凄まじすぎてついていけないのだ。だが、決着がつく。丁原の渾身の打ち込みを避けた呂布は、彼女の後ろに回りこみ腰辺りに斬り付ける。疲れきっている丁原はその一撃を避けきれず、腰から血を噴出して地面に倒れた。「くっ・・・うぁ・・・。」「・・・これで、終わり。これ以上は無駄。」呂布は方天画戟を仰向けに倒れた丁原に突きつける。「そ、そのようだな。さすが武神。私が敵うはずも、なか、ったか・・・さあ、斬れ・・・!」「・・・まだ。治療を急げば助かる見込みはある。」息も絶え絶えに言い放つ丁原であったが、呂布は動かない。と、そこへ割り込んでくるものがあった。剣を、槍を構え突撃をしてくる丁原の親衛隊である。「ま、待て・・・やめろっ・・・!」だが、親衛隊は聞くことなく呂布へ向かっていく。呂布としても殺すつもりはなく、柄で応戦する。「郝萌!お前は丁原様を連れて逃げるんだ!」「・・・解った!」声に応えて、郝萌と他数人の兵が丁原に駆け寄り、肩で抱えて戦場を離脱しようとする。馬もいない状況で逃げ切れる訳もないが、それでも足掻こうとする。だが、それを見越して側面に弓兵を少数配置していた者がいる。陳宮だ。(呂布殿には悪いのですが、ここで丁原を見逃す訳には行かないのです!ここで見逃して上党まで退かれてしまえば無用な争いに発展してしまうかも知れない。それだけは阻止するのです!)本来ならば、丁原1人を討ってしまえばそれで良いはずだった。それが長引いてしまったのは上党軍が決して退こうとせず、丁原の盾となるために突撃してくるために、無用な戦いを強いられてしまったのだ。陳宮も、丁原が兵士を逃がしたのは知っていたがまさか戻ってくるとは思っていなかった。もっと早い段階で急襲を仕掛けるべきだった。そうすれば無駄な人死には出なかったはずなのに。丁原にしても陳宮にしても、そこだけは何よりの誤算だった。(怨まないで下され・・・。)内心で許しを乞いつつ、陳宮は兵に弓を射かけさせた。そして、射かけさせた後に気がついたのだ。丁原を担いでいく兵士の中に郝萌の姿があった事に。「あ・・・!」矢は容赦なく、丁原たちへ向けて飛んでいく。それに気づいた兵たちは、そのまま丁原を離して―――全員が大の字になって丁原の盾になった。矢を体中に受け、郝萌たちはその場に崩れ落ちる。殆どの者は即死していたが、郝萌だけはまだ生きていた。しかし、それはまだ生きているだけで死ぬ運命に変わりはない。本人にもそれは良くわかっている。矢を受け、倒れる直前。郝萌は世界がゆっくりと動いているように見えた。その中で、誰が射たのかが気になって、視線を巡らせて見る。その視線の先には、泣きそうな顔をしている陳宮の姿があった。(そっか・・・ねねちゃん、あなたが・・・。)郝萌は、彼女を怨みはしなかった。これもまた乱世の習いだ。ここで死ぬのは「そういうもの」でしかなかったのだろう。自分の人生に後悔はしていない。だが、たった1つだけ残念な事はあった。高順と、また会おうという約束。再開を約束していたが・・・それを果たせそうにない。(ごめん、高順。あたし、約束守れないみたい・・・。寂しいけど、向こうで待ってるからさ。できるだけ、ゆっくり来なさいよ・・・?生き急ぐ、よう、な真似だけはしない、で・・・。・・・先に、逝っ・・・、て・・・。)仰向けに倒れていく郝萌。その身体が地面に倒れこむまでの間に、彼女の意識は闇に飲まれていった。「くっ・・・。何と言うことだ・・・。」丁原は後悔した。やはり、無理やりでももう1度兵達を戦場から離脱させるべきだった、と。見れば、先ほど呂布に挑んだ兵も全員打ち倒され(気絶させただけのようだ)、朱厳も張遼と戦っているが・・・彼も長くは保たないだろう。自分の判断は間違っていたのか。自分なりの正義を信じて、今の世を少しでも平和にしたいと思って、信念を持って行動してきたというのに。ここで終わるというのか。「ぐくっ・・・。」なんとか立ち上がろうとするが、自身の作った血だまりで足が滑って立ち上がることすら出来ない。意識が遠のいていきそうな錯覚を覚える。と、そこへ、馬蹄の音・・・数は少ないが、間違いなく誰かが北からこっちに向かって来ているのを感じた。「丁原様ーーー!!」声が聞こえてくる。丁原はこの声に聞き覚えがあった。「まさ、か・・・高順、か・・・?くぅ・・・。」高順は虹黒から降りて、丁原の元まで駆け寄る。それに続いて趙雲、沙摩柯もやっと追いついてきた。「ちっ、間に合わなかったか・・・。」高順に追いつくことが出来なかった。こうなったら、討ち死に覚悟で戦うしかないな、と趙雲と沙摩柯は覚悟を決めた。陳宮もなんとか気持ちをたて直し、もう1度丁原達に矢を射かけようとするものの、呂布はそれを手をかざして止めさせた。「丁原様、しっかり!」「うっ・・・お、遅かったじゃ、ないか?」「くそっ、ここまでやられているだなんて・・・」上党の兵士が多数討たれている状況を見て高順は呻いた。南側では朱厳がたった1人で張遼を止めている。もう、この状況では丁原の治療は間に合うまい。だが、諦めたりはしない。無駄だと解っていても・・・。「沙摩柯さん、丁原様を頼み・・・。」ここまで言った所で、高順は郝萌に気がついた。体中、矢だらけになって死んでいる郝萌に。「すまん、私を守ろうとして・・・。」丁原の言葉など耳に届かず、高順は郝萌の遺体の前に座り込んだ。左首筋を触ってみるが、鼓動を感じない。温かみはまだ失っていないが、まったく生気を感じない。「・・・嘘、だろ?」また会おうと約束をした筈なのに。色々と話してやりたいこともあったんだ。何で、こんなところで皆が。郝萌が死ななければならない・・・?呂布とも、陳宮とも上手く行ってたじゃないか。皆、史実と違って生き残ることだって可能だった筈だ。それが・・・それが!その時、高順は今までにない怒りを感じていた。今まで、誰に対しても心の底から怒った事のない高順が、初めて怒りに身を任せようとしている。丁原を後ろから抱きかかえるような形で自分の馬に乗せ上党に向かいつつあった沙摩柯も、そして高順を追おうとした趙雲も「不味い・・・!」と感じた。高順は三刃戟を振りかぶり、呂布に向かって突進をしていく。「呂布ーーーーーーーーっ!!!」「・・・。」突撃を仕掛けてくる高順を、呂布は悲しそうな表情で見て、戟を構える。その高順を止めようと趙雲は馬を走らせた。「待たれよっ!高順殿の実力では絶対に勝てませぬ!」だが、高順は聞いていない。「怒りに支配されて何も見えていない・・・!えぇい、虹黒っ!」趙雲の言葉を聞く前に、虹黒も高順に向かって駆け出していた。呂布に向かっていく最中、高順の心中で「冷静な自分」と、「怒り狂った自分」が議論を交わしていた。―――落ち着け、高順。このままでは死ぬぞ。お前が呂布に勝てるわけがないだろう――――――うるさい、そんな事はわかっている。だが、この怒りをどうやって静めろというのだ?――――――お前が死ぬだけならそれでいい。だが、お前を信じて付いて来てくれた人々も巻き込むつもりか?――――――うるさい。俺はあいつを殺す。黙っていろ――――――死亡フラグはいいのか?死ぬ運命を覆すつもりじゃないのか?―――死亡フラグ?死亡フラグだって?そんなもの、知るか・・・。知ったことか!「うおおおおぉぉっ!!」「・・・。」突進してきた高順が三刃戟を薙ぎ払い、呂布はそれを軽々と受け止める。それどころか、お返しとばかりに目にも留まらぬ速さの突きを繰り出してきた。柄の部分であるがそれでも命中すれば一撃で大人を気絶させることが出来る威力だ。それですら呂布は手加減している。趙雲は、その一撃で勝負が終わる。そう見ていた。彼女だけではなく、2人の戦いを見守っている者全員がそう思ったであろう。しかし、高順はすんでのところでその一撃を避けていた。三刃戟を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で。左手のみで自身の体重を支え、一瞬で上に退避していたのだ。高順はまだ左手で戟を掴んでおり、相当無茶な体勢ではあったが、右手で腰から吊るしていた大剣・・・倚天の大剣を鞘から引き抜く。上方向からの攻撃を予想して、呂布は戟を上方へ構える。だが、予感した攻撃は来なかった。高順はそのまま左手の力を抜いて戟を離し、呂布の足元付近へ着地。そのまま足へ向かって倚天の大剣を振り下ろした。「っ・・・。」予想外の攻撃だったが、それを呂布は後方へ飛ぶ事で回避。飛ぶ前に、高順の右肩を戟の柄で思い切り突き上げた。「ぐあっ・・・!」その一撃で高順の体は大きく吹き飛ばされていく。地面に叩きつけられる前に、趙雲が片腕で高順の身体を受け止めた。「虹黒っ!」「ぶるっ!」趙雲の隣に虹黒が並走し、趙雲が抱きとめた高順を背に乗せる。そして、そのまま方向転換をして北側へと向かっていく。「くっ・・・まだだ!」もう1度呂布へ向かおうとするが、虹黒は従おうとしない。「虹黒、どうしたんだ?戻るんだ!」「高順殿、いい加減にしてくだされ!ここで無駄死にをして良いといわれるか!?」「だが、朱厳様も残って・・・」この言葉に、趙雲は怒鳴りつけた。「この分からず屋がっ!自惚れるなっ!」「うっ・・・。」趙雲が今まで見せた事のない怒気を高順にぶつける。「自分1人で何が出来るというのか、この未熟者!自分がどれだけ無謀な事を仕でかしたのか、まだ解らぬか!?」「それは・・・。」高順は言いよどむ。そう、趙雲の言うとおりなのだ。自分1人で突出して、趙雲と沙摩柯を巻き込んだのだ。呂布がこちらを殺す気がないようだったから助かった。弓を射掛けさせようと思えばいつでもできた。殺そうと思えばいつでも殺せる、それだけの実力差だった。趙雲の言葉のほうが正しいのだ。「くそっ、畜生・・・!」高順は馬上で唇を血がにじみ出るほどに噛み締める。趙雲も、隣で辛そうな表情だった。高順にああは言ったものの、自分だって何も出来ないままだったのだ。これほど自分自身の無力さを痛感する事もなかった。2人は、己の胸の内に敗北感だけを残して、逃げていく事しか出来なかった。朱厳は、高順らが丁原を連れて北へ向かっていくのを見届けていた。これでこの場に残る上党軍はほぼ自分1人になったと思っていい。上党軍3000と呂布軍6000は、今朱厳のいる辺りを主戦場にしていた。丁原は後方に陣取っていたが、呂布と一部の部隊にあっさりと前線を突破されてしまったのだ。何とか援護に向かいたかったが張遼との一騎打ちになってしまい、周りの兵士も次々と討たれ、打つ手がなくなってしまった。そして今は手負いの自分1人。片方の剣も折れてしまい、残るは右手に片割れの一本の剣。どうも自分はここまでのようだ。「朱厳のじっちゃ、もうええやろ?これ以上は無駄やで?」張遼の言葉に、朱厳は静かに頭を振る。「お主とて解っていよう。これが我々武人の役割。お主が逆の立場であれば、降伏を受け入れたと思うかの?」「・・・思わへんけど。」「ならば、そういうことじゃ。さあ、決着をつけるとするかの。」朱厳は剣を構え、張遼もそれに倣う。「これが最後や。ほんまに、降伏してくれへんのやな?」「愚問。」「さよか。ほな、全力で行くで・・・!」降伏の呼びかけも一言で斬って捨てる朱厳の言葉に、張遼は説得は不可能と悟った。いや、最初から解っていた事だった。朱厳、張遼の闘気が更に練りこまれていく。お互いに、最大最強の一撃を見舞わんと、力を溜めている。その光景を、呂布隊の兵士は固唾を呑んで見守っている。風の吹きすさぶ音が聞こえる。倒れた丁原軍の旗がバタバタとたなびく。共に無言だったが、風が一筋流れた瞬間。「はああああぁぁっ!」「でりゃああああああああっ!!」両者は目を見開き、声を上げて交差する。飛龍偃月刀、そして朱厳の剣がお互いの身体に振り下ろされた。武器を振りぬき、2人ともそのまま動かない。暫くして・・・「ぐぶッ!?」「・・・。」朱厳が大量の血を吐き、腹部を押さえた。腹部を深く切りつけられ、そこからも血があふれ出す。張遼のほうには、わき腹を薄く斬られた痕が残る。ここまで、か。朱厳は自身の生を振り返ってみる。丁原に従って戦陣を駆けた半生。これだけの将と戦い、最後を飾る事ができた。何の後悔があろう。あるとすれば、兵を巻き込んでしまった事と、丁原よりも・・・僅かだが先に逝く事である。そして、高順のことも気にかかる。彼はまだ若い。だが、若さのみで全てを乗り切ることなど出来ない。早まった真似だけはしてくれるなよ、と思う。そして、張遼。朱厳は剣を地面に刺し、それを杖代わりに辛うじて立ち続けている。今の彼から見て、張遼は北。つまり上党方面に向いている。張遼は朱厳に背を向けて、立ちすくんでいる。「張遼・・・ごふっ、顔を・・・見せてくれぬ、かのぅ・・・?」その言葉に、びくりと肩を震わせて・・・そして、張遼は朱厳のほうへ向き直る。泣いていた。いや、泣くのを我慢しようとして歯を食いしばって肩を震わせて、そして涙を流している。「・・・泣く、でない、張遼・・・。これもまた武人の定め。戦場に散ること、こそ本望と、いうものよ・・・。」「・・・・・・。」張遼は思い出していた。前に上党で行った酒宴に呼ばれ、朱厳にいろいろな話を聞かせてもらったこと。呑み比べをしたこと。ともに丁原を弄って、久々に心から楽しいと思えた時間を。そういえば、と朱厳は思い出す。張遼とはまた呑み明かそうと約束をしていた事を。どうも、その約束は果たせないらしい。「すまぬの、約束・・・守れそうにないわい・・・。」「じ、じっちゃ・・・。」「張遼・・・達者、での・・・。」「―――!」そう言い遺して、朱厳は傷口を押さえていた手を上げ、北に・・・上党へ向かって拱手した。申し訳ありませぬ、丁原様。主君より先に逝く不忠をお許しくだされ。そう呟いて、静かに目を閉じ・・・立ったまま、朱厳は旅立った。「う・・・う。じ、じっちゃ・・・う、ぐぅっ・・・。」朱厳の死を理解した張遼の目から、涙がぽろぽろと零れ落ちる。このまま泣き叫んでしまいたい。そんな思いが溢れてくる。だが朱厳はそれを自分に望むだろうか?自分を討った存在が、泣き崩れる姿を望むのだろうか?否。望まないだろう。死者に望みの有る無し等解るはずもない。それでも、朱厳は今の自分の姿を見れば叱咤するのだろう。何を泣く必要があるか、と。暫くして。張遼は涙を拭くこともせず朱厳の亡骸に拱手した。張遼だけではない。呂布隊の兵も、呂布自身も、朱厳の亡骸に拱手をしていた。張遼と矛を交え、最後まで主君への忠義を守り通した将である。それ以上に、伝わってもいたのだろう。これだけの戦いぶりを見せた朱厳を、悲しみではなく敬意をもって送り出してやりたいという、張遼の思いが。そして、逃げる機会はあったはずなのに、朱厳と同じく忠義を全うせんと戦場に命を散らした上党兵への敬意でもあっただろうか。朱厳、字を治心。上党の勇者と呼ばれた老将に相応しい、誇り高き最後だった。~~~あとがき~~~シリアスのシの字も書けません、あいつです。久々に1日で書き上げてしまった・・・。無茶をするぜ、全く。(誰ださて、ここまで上党を賛美するつもりなかったのに・・・どうしてこうなった。それと、高順くん。怒りに呑まれていた事もありますが気持ちに変化がありましたね。というか、ここまで進んできたシナリオで初めて気を吐いたような感じです。朱厳さんもかくぼーさんも、あと多数の上党兵が亡くなってしまいましたねぇ。高順くんは彼らの死に何を思うのでしょう。そして、どんな身の振り方をするのでしょう。その辺りは考えていますが、もう少しお待ちくださいませ。多分誰であれ見当はつくと思いますけどね(笑それではまた次回お会いいたしましょう(TωT)ノ