【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 番外編その4 上党的日常。黄巾の乱終結より3ヶ月。高順達は北平を辞して、上党に帰還しようとしていた。当初は黄巾の乱が終結してすぐに、と考えていたのだがそれ以降も黄巾残党が幾度も北平領内を荒らしまわったり、盗賊団がそれに合流したり、と中々に忙しかったのだ。公孫賛だけでも楽に出来たであろう仕事だが、彼女は太守としての仕事が山積みで(2ヶ月ほど領内を空けていた)涙目になっていた。趙雲も同時期に暇乞いをしようとしていたらしいのだが、それを見て高順と相談をした。「もう少し沈静化するまでは仕事をしよう。」と。2人にしても、公孫賛は1年近く世話になった恩人だ。少しでも負担を減らしてあげよう、ということになったのだ。それから3ヶ月、彼女の親族の越、範らと共に数度目の賊討伐を終えた頃、2人は「そろそろ頃合だな。」と考えた。公孫賛の公務が一段落してきたし、賊の数も帰還してきた頃に比べれば随分と減った。それを見計らって、高順と趙雲は同時に「そろそろ暇乞いを」と言いに行った。その時公孫賛が見せた表情は・・・ずぅぅぅん、と今まで見たことの無いほどの暗いものだった。「そ、そうか。2人ももう行くんだな。は、はは。はははははは・・・。はぁぁ~~~。」・・・そして、盛大な溜息だった。だが、高順、趙雲らの鍛え上げた兵は中々の強さになっていたし、何度も功績を挙げてくれたのだ。本音を言えば客将としてではなく家臣として仕えて欲しかったが、2人にも思うところがあるからこそ、客将の立場を欲したのだ。引き止めるのは彼らのためにならないだろう。それを思った公孫賛は項垂れつつも、「わかった。2人とも・・・いや、楽進達もだけど、ご苦労様。本当によく働いてくれたよ。本当にありがとうな。」と、笑顔で言ったのだった。出立当日、わざわざ公孫賛が見送りに来てくれていた。彼女だけではなく、この1年近くを共に過ごしてきた多くの将兵もだった。意外だったのは公孫越、公孫範も見送りに来てくれた事だった。出会った当初は高順、3人娘。蹋頓や沙摩柯にまで蔑むような態度を取っていた彼らだが、共に戦場を駆け、活躍する彼らを見て認識を改めたらしい。王門とは関係修復できなかったが、それはどうでもいい。その彼らが、率先して話しかけてきた。「あー、高順。その、だな。最初は、ああいう態度を取ったりしたが・・・。その、悪かったな。」「へ?」「いや、沙摩柯達の事を蛮族と言ってただろ?」公孫越の言葉に、公孫範も恥ずかしそうに続く。「それに、楽進殿達の事まで役に立たない小娘とか言ってしまっていたしな。その認識は間違っていたようだ。すまない。」そう言って二人は頭を下げた。それを見て楽進達も笑いつつ、「いえ、こちらも心中で「減らず口ばかりたたいて・・・」と思っていましたが、口だけの方々ではなかったとすぐに解りました。」「ぬ・・・く、口だけとな・・・。」「せやなぁ。でも、烏丸との戦いにせよ、黄巾の時にせよ、公孫賛のねーさんに従って勇敢に戦ってたやろ?」「うんうん。見直したの。」「まあ、人のことを蔑んだだけはあるな、くらいは思ったものさ。」「ぬ、ぬぬぬ・・・。」一斉に「口」撃される2人だったが、暫くしてその場にいた全員が笑い出してしまった。思い返せば、仲が悪いなりに上手くやっていたのだ。その事を思い出して、何よりも懐かしさのほうがこみあげてきてしまった。「お前ら、気をつけろよ?この辺りはなんとかなってきたが、上党の辺りはまだなんとも言えんからな。」「ええ、ご忠告感謝します。お二人もお元気で。」そう言って握手を交わす。別に青春劇をしたい訳ではなかったが、こういうのも悪くは無い。「なぁ、私を忘れないでいてくれると嬉しいのだけど・・・。」おずおずと公孫賛が口を挟んでくる。「忘れてる訳が無いでしょう。・・・お世話になりました。」高順の言葉に皆が頭を下げ、臧覇も「ありがとーございました!」と言った。(そういえば、公孫賛殿はたまに臧覇と遊んでくれていたらしいな。)と思い起こす。考えてみれば、彼女には本当に世話になりっぱなしだ。旅に出てから一箇所に腰を落ち着ける機会はそうなかったが、北平は、いや、公孫賛が治めるこの場所は居心地が良かった。「ん。元気でな。近くに着たらいつでも立ち寄ってくれよ?」「ええ、そうさせていただきます。」「それと、私の真名を預けるよ。」「え?いや・・・しかし。」「おいおい、これでも感謝してるんだぞ?真名というのは心を許したものにだけ許す本当の名前さ。私は皆を信頼している。皆は私を信頼してくれないのか?」「そんな事はありませんよ。」多少驚きつつも答える高順に、公孫賛は爽やかな笑みを見せた。「なら、断る必要は無いよな?よく桃香が私を真名で呼んでいたから知ってるとは思うけど・・・私の真名は「白蓮(ぱいれん)」だ。」「・・・そうですか、解りました。またいつかお会いしましょう、白蓮殿。」高順の言葉に、皆が続いていく。「今までありがとうございました、白蓮様。」「ありがとうございましたなの。」「おおきにな、忘れへんで?」「貴方に心からの感謝を。・・・そして、蹋頓らの事を頼む。」皆の言葉に、公孫賛は照れ笑いを見せた。「はは・・・。あ、そうだ。星(趙雲)は何処に行ったんだ?」「へ?見ていないですけど・・・。」「まったく、あいつは・・・。まさか挨拶もせずに出て行ったのか。薄情なy「誰が薄情ですと?」うひぇっ!?」なんと、公孫賛の後ろから趙雲が出て・・・いや、やって来た。「全く以って失礼な事を仰る御仁ですな。私は用意に手間取っただけです。」「そ、そうか。何をそんなに手間取ってたんだ。」「それは秘密です。女には秘密が多いものですぞ?」そうは言うものの、何か大きな樽(中身メンマ)を背負ってたり、荷物袋の中に大量の徳利を詰め込んであるので何を買っていたか丸分かりである。高順はその中に、赤い布か何かで封をされた徳利を見つけた。少しだけ気になったが、それは後で聞けばいいだろう。「私も女だけど・・・まあいいか。星も元気でな。いつでも立ち寄ってくれよ?」「ふむ、またこき使おうと言う魂胆ですか?」「そんなわけ無いだろ!」「ははは、解っております。今まで世話になり申した。白蓮殿もお元気で。」「ああ、星もな。」こうして北平、いや、公孫賛の下を去った高順達だったが・・・。「あのー。」「ん、何ですかな、高順殿?」「・・・なんで、趙雲殿まで着いてきてるんですか?そうである。何故か趙雲が高順一行に加わってしまっていたのだ。「なんで、と申されましても。私の行く方向がこちらなだけでございます。」「俺達、上党へ向かうんですよ?」高順の言葉に趙雲は知っておりますが、と答える。「いや、知ってるとかじゃなくてですね・・・。」「ほぅ、私のようなか弱い女を1人にしたいとでも。そして野獣が如き男に襲われても構わない。そう仰りたいのですな。」「飛躍しすぎだー!そこまで言ってないでしょ!?」高順が叫ぶ。。何でこの人はいつもこう、アレなんだろう。周りの人をからかって楽しむ事に全力を尽くしているように見えるが、そうでないときも多い。一言で言って掴みどころがないのだ。多少、弄られる事に慣れてきた高順だったが、おかしな意味にも通じてしまう言葉で弄られるとどうしても落ち着かない。「まあ、それはそれとして。どうして趙雲殿まで上党に向かわれるのです?隊長は上党が生まれ故郷だそうですが・・・?」楽進も、高順と同じ疑問を感じたのだろう。その問いに趙雲は特に何でもないように答える。「実は、上党で丁原殿という・・・考えようによっては今でも高順殿がお仕えしているお方がおられましてな。私もあの方の元で一度だけ戦ったことがございます。高順殿とはその時お会いしたのですよ。」「へぇー。高順さんがそんな境遇とは知らなかったの。」「せやな、そういうこと話してくれたことあらへんかったよな。いや、あったっけ?忘れてもうたな。」「私は初耳だな。」「別に隠してたわけじゃないよ。話すようなことでも無かったしな。」そう言いつつも、高順は懐かしそうであった。皆、元気にやっているだろうか。丁原達もだが、父母のことと残してきた馬・・・海優(かいゆう)と名づけた牡馬だが、それらのことを思い出していた。海優と名づけたのは優しい馬だった、というただそれだけのことでつけた名前だ。旅をしようと決断した頃には既に老齢と言っても差し支えない馬だったので置いてきたのだ。父母も、お金の事はあるが馬を大切にする性分だ。多分元気でいるだろうな。それから幾日。北平から最短で上党に行くには、どうしても晋陽を通らなくてはいけない。正直、晋陽でのことは思い出したくない事のほうが多かった。褚燕と親交があったのは間違いなく良い思い出だったが、それ以外が辛すぎる。自分が悪い訳ではないが、あの戦いの結果は一体何だったのだろう、と今でも考えてしまう。正しい者が勝てるとは限らない。そんな言葉を実感させてくれる嫌な結末だったのだ。褚燕と話をしてみたいと思いもするが、彼女らが追いやられた「黒山」の場所を知らない。そんな考えもあって、高順は晋陽を早めに抜けていった。対して、趙雲は褚燕だけではなく郭嘉と程昱の事を思い出していたようだ。どことなく懐かしそうにしていたし、この地は高順らとも出会った場所でもある。高順にとってはそうではないが、趙雲にとっては良き思い出の多い土地だった。高順が急いでこの土地を抜けようとする事に異論を差し挟むではなかったが、趙雲はどことなく寂しそうな表情を見せていた。晋陽を抜け、更に数日。ようやく上党が見えてきた。もう、1年以上は経っている。旅に出てから今まで、それほど長い時間が経った訳ではないが随分と濃い経験をしてきたな、と高順は考える。虹黒、3人娘、曹操軍、蹋頓、沙摩柯、わざわざ上党からやってきた閻柔と田豫。そして劉備軍、公孫賛軍、孫策軍。当然、丘力居や臧覇もだ。・・・本当に濃い連中ばかりだ。将来的に3国の君主となる人々とも知己がある。(孫権はまだ会ってないが。)「さて、これから上党に入る訳ですが・・・まだ昼頃だし、まずは家に帰るかな。」「ふむ、あの母上殿とお会いするのも久方ぶりですな。」「・・・前みたいな事は止めてくださいよ、本当に。」旅に出る前の母親と趙雲のやり取りを覚えている高順はげんなりとした。何があったのか知らない他の人々は「何があったのだろう?」くらいにしか思っていない。それはともかくも、高順達は上党の門を潜っていく。門番が数人いたが、高順にとっては顔見知りな上に、向こうも皆覚えていてくれたようで「おお、やっと帰って来たな!」と声をかけてくれる。「ああ、やっと帰って来れましたよ。あとで丁原様にも挨拶に行きますけどね。」「ん?今は丁原様は不在だぞ?」「へ?不在って?」ああ、そうか、知るはずもないよな。と門番は呟く。「俺たちも詳しくは知らないのだけどな・・・。丁原様は3千ほどの兵を引き連れて洛陽へ行かれた。もう1月以上前のことだ。」「1ヶ月・・・朱厳様も?」「うん。上党の主力部隊を連れて行ったからな。何かあったのだろうかね。」「主力ねぇ。今のここの戦力はどれくらいなんだ?」「おいおい、そんなの知ってどうするんだ?」門番が苦笑する。「間者でもあるまいに。」「そうだけどな。黄巾の乱とかがあっただろ?それなりに戦力拡充もしたのかと思ってさ。」「そりゃあそうだ。前は7,8千ほどだったが今では1万をゆうに越えるよ。」その中での主力3千か。これが多いか少ないかは解らないが・・・やはり、洛陽で何かあったのかも。「ふぅむ・・・。」「高順、悩むのはいいけど街に入ってからでも良いだろう?お連れの方々も待ちわびてるぞ?」その言葉に、「おおっ!?」と叫び声を挙げておかしなリアクションを見せる。3人娘や沙摩柯、趙雲もやれやれと言いつつも笑っていて、臧覇の乗っている馬車の御者をしている閻柔と田豫もにこにこと笑っている。高順はばつが悪そうな表情だ。その性格は変わらないな、とまたも苦笑して門番が言った。「ようこそ、上党へ。」問題なく(?)上党に入った高順はまず実家を目指した。閻柔と田豫は、「親方達に挨拶してくるっす!」と行ってしまった。変わって沙摩柯が馬車の御者をしている。丁原も朱厳もいないようだし、主力・・・おそらく親衛隊もその中に入っているだろうから郝萌(かくぼう)もいないのだろう。なら、最初の実家でも問題はないだろうと、街の中を進んでいく。街の人々は虹黒が珍しいらしく、「あの馬、すごいなー。」とか、そんな噂をしている。そして、乗っている人間が見知った高順であることに更に驚いていたようだ。行く先々でこんな感じなので、高順は慣れているし、他の面々も特に気にするでもない。高順も高順で、街のあちらこちらを興味深そうに見ていた。街並みはあまり変わっていない様にも見えるが、昔に比べて少し街が広がったような印象を受ける。屯田制を一部導入しているので、人が増えて街を広くしたのかもしれない。そうこうしているうちに、家が見えてきた。家の前を箒で掃除をしている母の姿が見える。すぐにこちらに気づいたらしく、「あら?」と高順らを見やる。高順達は馬から下りて、そのまま近づいていった。高順の母はにこにこして「お帰りなさい、順。」と言ってくれた。その言葉に「ただいま帰りました、母上。」と答える。だが、その後が。その後がいつも通りの展開だった。「それに星さん・・・あら、他に4人も可愛らしい娘さんを・・・順、あなたまさかっ!?」「一言だけ言っておきますが妻とかそういうのじゃないですからね母上前は夜中でしたが今は昼間ですよお願いですから自重してください!」肺活量を無題に消費しつつ、高順は叫んだ。毎度毎度ご近所様におかしな評判を立てられては堪ったものではない。「妻ではない・・・まさか、ただれた関係の多数の恋人!?」「結局そうなるのか!だから違いますって・・・ただれたって何さ!?」「その通りですぞ、母君。彼女らはそのような者ではありません。ただ、高順殿に仕込まれただけの哀れな娘達です。」「この不埒者っっ!」趙雲の言葉に、母の愛情の一撃が高順の顎に炸裂する。つうかタイガーアッパーカット。「ぶぺらっ!?」「前は妻を幾人も。そして今度はいたいけな娘さんたちにあなたの変(中略)趣味(中略)を仕込んでそのまま売り飛ばそうだなんて・・・!」「誰もそんなこと言ってねええっ!何で毎回毎回そんな話になるのさ!」このやり取りを聞いていた3人娘は明らかに引いて「隊長ってそんな趣味を・・・?え、妻!?」とか「そっかぁ、そういうのが好みなんだー。」とか好き勝手言っているし、沙摩柯もため息をついている。ご近所さんも「やーね、高順くんったら・・・。」とか「またそんな趣味を加えて・・・。」とかヒソヒソ声で話している。「違うから!何かの誤解っすよ!?」・・・高順の心の叫びが真昼間の上党に木霊した。嫌がらせのような誤解を受けつつ、高順達は家の中へと入っていった。実はこの家、厩があってそこそこに広い造りをしている。修練場とか庭もある。それほど裕福なはずではないのに、母親がお金を何処かから持ってくる。父親が警備兵をしているので稼ぎは一定ではあるが、どこからそんな金を持ってくるかは謎であった。別におかしな仕事をしている訳でもないので、母親が元々持っているお金なのだろう。そうでもなければこんな家を作れるはずがない。虹黒や他の馬を厩に入れていたのは沙摩柯で、自分は荷を下げる手伝いをしていたのだが、そこそこにして厩へと急いだ。だが、そこにいるはずの海優がいない。「あれ?」と厩を探してみたが、やはりいない。沙摩柯は不思議そうな顔で高順を見ている。そこに、高順の母がやってきた。「こら、順。荷物を降ろすのを女性にやらせて・・・。」「あ、母上。すいません、海優はどこに・・・?」この言葉に、母は少し悩んだような素振りを見せるが・・・すぐに口を開いた。「亡くなったわ。」「・・・は?死んだ・・・?ど、どうして?」高順は母に詰め寄る。「老齢ではあったけど、そんな急に死ぬような病はなかったでしょう!それが何故・・・いつ死んだのですかっ!?」「ええ・・・。貴方が旅立って2ヶ月ほどしてからよ。」「に、二ヶ月・・・。たったの?」「貴方が行ってしまった後、寂しがって・・・。毎日、厩から頭だけ出して貴方の帰りを待っているように見えた。食も細くなってしまって。それから一気に弱りだしてね・・・。」「・・・。」「好物だったリンゴも受け付けず、最後は立つことすら出来なくなってしまってね。最後に小さく嘶(いなな)いて、そのまま・・・。」「そんな・・・。」母親の言葉に、高順は項垂れる。好物のリンゴだって沢山買ってきたというのに。虹黒にも合わせてやりたかったのに・・・。そんな高順の姿を沙摩柯も、母親も心配そうに見ている。沙摩柯が高順と共に過ごした期間は1年数ヶ月程だ。いつも笑顔で、よく3人娘に弄られつつも元気だった高順だったが、ここまで落ち込んでいる姿をはじめて見た。気がつけば、先ほど高順が詰め寄ったときの声に驚いてやって来たのだろうか。3人娘、趙雲に臧覇も遠目に高順の姿を見つめていた。高順は暫く無言だったが、「墓は、どこでしょう?」と母親に聞いた。「庭よ・・・。後で、りんごでもお供えしてあげなさい。」といわれた高順は少しだけ頷き「すいません、少し休ませてもらいます・・・。」と、肩を落として自室へと向かって行った。皆、心配ではあったがそれを見守る事しかできない。よほど落ち込んでしまったのか、その後、夕食の時間になっても高順は自室に篭ったきり出てこなかった。心配した楽進が呼びに行こうとしたが、趙雲と沙摩柯が「やめておけ。」と止める。「しかし・・・。」「あいつが馬をどれだけ大切にしているか。お前だって知っているだろう?」「誰でも、1人になりたいときがある。海優という馬を私も知っているが・・・高順殿に大変懐いていたゆえ。」趙雲は晋陽軍との戦いに参加した折に、高順と馬を並べて戦っている。その時高順の騎乗していた馬が海優であることを覚えていた。2人の言葉に、楽進は少し寂しそうな表情を見せる。「大切な人が悲しい思いをしていても・・・私には慰める事もできないのですね。」「そういう訳ではない。ただ、今回は1人にしてやったほうがいいというだけさ。何、心配するな。あいつのことだから直ぐに持ち直すさ。」「・・・はい。」「せやな、こっちまで暗い顔してたら高順兄さんが余計に落ち込むかもしれんし。」「凪ちゃんまで落ち込んでたら世話ないの。」高順の母は、彼女達の会話を聞いているのみだったが内心で安堵していた。息子はきっちりと彼女達の信頼を勝ち得ているらしい。高順は幼い頃、あまり友達もいなくて1人で何かを思い悩んでいるようなことが多い、どちらかと言えば暗い性格の子だった。その息子に誰よりも親しくしてくれたのが郝萌であり、高順は彼女に振り回されるうちに徐々に子供らしい快活さを見せるようになったものだ。そして今は、こんなにも心配してくれる友人達がいる。海優のことは彼女にとっても残念だったし、その事で高順は心に傷を負ってしまうかもしれないが・・この人たちががいれば大丈夫だろう。彼女は安心して夕食を食べ始めるのであった。~~~深夜~~~皆が寝静まった頃。ろうそくの明かりを頼りに、高順は厩まで来た。海優が使っていた場所には虹黒がいる。高順は、厩の扉を開けて、寝ている虹黒の隣に座り込んだ。「ぶる?」いや、どうも最初から起きていたらしい。虹黒は頭をもたげて高順の頬を舐める。「っぷ。・・・なんだ、起きてたのか。」はぁ、とため息をついて高順は虹黒の首を撫でる。そういえば、海優もこうやって撫でてやることが多かったよな、と思い出す。誰に言うでもなく、高順は喋りだした。「あいつはさ。考えようによってはお前の先輩なんだよな・・・。」「??」「良い奴だったよ。付き合いこそ短かったけど温厚な性質でね。・・・まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。」「ぶるるっ・・・。」「こんなことになるなら、一緒に連れて行ってやればよかった。旅の邪魔になっても、最後まで面倒を見るべきだったのかもしれない。最後くらい、看取ってやりたかったよ・・・。」海優を連れて行けば、間違いなく旅の結果は違うものになっていただろう。虹黒にも、3人娘にも合えないまま終わっていたのかもしれない。所詮結果論だが、そういう点では連れて行かないほうが正解だった。それでも・・・。高順の頬に、涙が一筋流れて落ちる。そうやって、落ち込んでしまう高順の頬を虹黒がまた舐めた。「うぷっ。」舐めた後、虹黒は餌として置いてあったリンゴの1つを加えて立ち上がった。「お・・・?どうした?」不思議がる高順だったが、虹黒は気にすることなく入り口の前で止まる。多分、「ここから出せ」と言いたいのだろう。「・・・?」何をするつもりなんだろうと思いつつも、高順は扉を開ける。虹黒は馬蹄の音を響かせつつ歩いていく。「おい、虹黒・・・?」高順は虹黒についていくが、何をしたいのか見当がつかない。虹黒はそのまま庭へ入って行く。虹黒が何かを探すような素振りを見せるが、目当てのものが見つかったらしくまた少し歩き、立ち止まる。そこにあったものは、地面に刺さっている一本の木の棒と、鐙(あぶみ)だった。それを見た高順は、これは昔自分が使っていた鐙じゃないか?と思い出す。「これ、海優の墓か?」そう、これは海優の墓である。高順の母は本当に馬のために簡素ではあるが墓を作っていたのだ。海優の背に乗せて使用していた鐙が、何よりの証である。その墓の前に、虹黒が口に咥えていたリンゴを置いた。馬が、こういうことを考えるとは思っていなかったが・・・。虹黒も、海優のことを悼んでいるのだろうか?「お前、まさかこの為に?」「ぶるっ。」「そっか。・・・ありがとな、虹黒。」高順は、もう1度虹黒を撫でるのだった。そのまま夜が明けて、朝食の時間になった頃に高順は食事部屋に入ってきた。その姿を見た趙雲が一番に声をかけてくる。「お、高順殿。もう宜しいのですかな?」「ん?宜しいって?」「・・・まったく。皆が心配していたというのに。」「???」ぼやく趙雲だったが、高順は「何が?」という表情である。「まあ、元気になったのならそれで宜しい。さ、食事の準備が直ぐに終わるので座って待っていてくだされ。」「はいh「返事は一回。」「・・・はい。」そのまま皆が集まり、朝食を摂る。皆、高順のことが気になっていたようだが、普段と変わらない様子に、ほっと胸をなでおろした様だ。いつまでも落ち込まれている、というのは皆の精神衛生上あまり良くない。いつも元気な高順なだけに、周りの心配が余計に増えてしまうのだ。もっとも、今の高順は元気よく飯をかっこんでいたが。食事が終わった後、高順は「ちょっと出かけてくる。」と1人で家を出てしまった。3人娘は上党を案内して欲しかったようで、少し残念そうな表情を見せていた。趙雲と沙摩柯は高順の家の修練場で訓練をするらしい。3人娘も臧覇もやる事がないので、その訓練を見学する事にした。「うわ・・・広っ!」修練場に入ってきた李典の第一声だった。そう、広い。個人の家だというのに、10人くらいなら平気で訓練ができてしまう広さの修練場だ。既に趙雲、沙摩柯の2名は訓練、いや鍛錬と言ったほうが良い――を、行っていた。両者共に流麗な槍捌きを見せたと思いきや、それまでの「静」から「動」へと動きを変えて、岩をも穿つような鋭い一撃を放つ。その姿に触発されたか3人娘も訓練を開始するが、そこに思わぬ伏兵が登場する。高順の母であった。さて、高順が向かったところと言うのは味噌工房である。前に沙摩柯を派遣したときに、閻柔と田豫、そして多額の資金を送ってくれたのだ。礼も兼ねての行動である。時間的にもまだ仕事を始めたばかりだったようで、親方以下、全員が出迎えてくれた。「お、高順の旦那!ひっさしぶりですなあ!閻柔らから聞きましたぜ。あちこちで目立ったようで!」「別に目立ちたかった訳じゃないのだけどね・・・。皆もご苦労様。」全員、職人気質なタイプだが気の良い人間ばかりである。職人気質すぎて時に頑固にもなるが、それが彼らなりの仕事への張り合い、というものなのだろう。早速、作ったばかりの味噌を試飲させてもらう。「・・・むぅ、良い味だなぁ。」味と言い、匂いと言い・・・高順が「現代」で飲んでいたものと遜色ない。形はいわゆる固形で、ペースト状ではないが違いはそれだけである。「へへへ。旦那にそういって貰えるとこっちも嬉しくなりまさあ。・・・ただねえ。」「ただ?」「味噌の味を極めちまった気がしましてねぇ。これ以上何をどうすりゃいいのか・・・。」そう言う親方はどこか寂しそうだ。その気になれば白味噌やら合わせくらいは作れそうなものである。というか味噌作りが始まって数年しか時間が経っていないのにここまでの物を作れるほうが驚きだ。この時代の男性はどちらかと言えば物作りなどのほうに才能を発揮しているのかもしれない。「まあ、良いんじゃないですか?そこまで言えるなら、周りに伝達する事もできるでしょう?」「ですがねぇ・・・。」親方はやはり何か納得いかないような様子だ。周りの味噌職人(閻柔と田豫)も「うーむ。」とか唸っている。また味噌汁を一口啜った高順は「あー、美味い。」とか思いながら無意識にある言葉を口にしてしまった。「はぁー・・・。これだけ美味しいのが作れるなら味噌ラーメンとかもできるのかもしれないなぁ。」と。その言葉を聞いた職人一同が「はぁ!!?」と叫んだ。もしその場に効果音が出てきたとしたら「ピシャアッ!」とか出たかもしれない。「旦那・・・あ、あんたなんて恐ろしい発想を・・・!」「え?」「ラーメンに味噌だって・・・?そんな邪道な!?」「え?え?」彼らは高順を放っておいて議論を始めてしまった。邪道だ、だの、いや、これは面白いかもしれない。とか。「しかし、味噌だぞ?辛くなりすぎるのではないか?」「それは普通のラーメンだからだろう。豚骨出汁に混ぜて、甘めにするのは・・・。」「それならば味噌を辛くするしか・・・。」「それよりも匂いだ。豚骨の・・・ん、ニンニクが使えるか・・・。」議論が続く。高順はまさかこんな事態に発展するなどとは夢にも思わず、ポカーンとしている。結局、「味噌ラーメン、作るどー!」な流れになってしまった。えーと、日本というか、札幌の皆様ゴメンナサイ。なんか中国と言うか俺が味噌ラーメンの発案者になってしまったっぽいです。まだ、「ぽい」だけで実際には作られてませんが、彼らならば直ぐに作ってしまいそうな気がします。・・・・・・。ナンテコッタイorzその後、更なる議論につき合わされた高順はへとへとになりながら帰途に着いた。まさか、自分の何気ない一言でおかしな方向へ話が進んでしまったなんて。「もういいや、自分の迂闊さを呪いつつ今日も速く寝よう・・・。」などと言いながら、高順は歩いていく。ただいま、と家の扉を開けるが反応がない。もう食事中かな?と思ったが、まだ食事には少し早い。皆で出かけてるのかも?と思う程度だったが、そこに臧覇がぱたぱたと歩いてきた。「あ、高順おにーちゃんだ、お帰りなさい!」「ああ、ただいま。ねえ臧覇ちゃん。皆何処に行ったか知らないかな?」「え?皆修練場にいるけど?」「修練場?」こんな時間まで修練してるのか?随分頑張るな・・・と思いつつ高順は臧覇と共に修練場へ向かった。そこにはあったのは、ボロボロになって燃え尽きている5人と、修練場の隅っこでのんびりとしている母の姿だった。「皆、何やってんの・・・?」高順の言葉に、皆が顔だけそちらに向ける。「あら、お帰りなさい、順。」にこやかに挨拶をする母だったが、にこやかなのは彼女だけ。他の皆は一様に「ず~~~ん」という・・・なんだか疲労しきった顔で呻く。「ううっ・・・こ、高順さぁ~~~ん・・・。」「な、何やねん、このおっかさん・・・無茶苦茶や・・・。」「まさか隊長のお母様がここまでの使い手だなんて・・・。」3人娘が次々にこんなことを言う。「え、何だ、どうしたんだよ?」「お、おい。高順・・・お前、どうして母殿がここまで強い事を黙っていたんだ・・・。」「前にお会いしたときには、只者でない事は理解できておりましたが・・・まさか、こ、これほど・・・。」沙摩柯と趙雲も、疲れきって座り込んで壁にもたれているような状況だ。「・・・なあ、本当に何があったんだよ。母上と手合わせしたの?」高順の質問に李典と楽進が答える。「せや。おっかさんも修練に参加する言い出してな。無茶やからやめとき、言うたんやけど。無茶なんはこっちやった・・・3人でかかって一方的に負けたし・・・。」「お母様が「3人同時でも構わない」と仰ったので、手を抜いて挑んだのですが・・・まさか五胡式格闘術にあれほど精通しておられるなんて。お母様ご本人は「かじっただけの技術」と仰ってましたが、あれはかじった程度ではありません。もう完全に体得している・・・。」「・・・まさか、3人相手にかすらせもしなかったとか?」高順は昔、よく母親に手合わせをしてもらった事を思い出していた。最後に手合わせをしてもらったときは何とか服にかすらせた程度だったが・・・。今の母の姿を見るに、衣服の乱れすらない。「その3人どころか我々でも無理だった。」「こちらは得物ありで行ったのに母君は徒手空拳・・・あっさりと間合いに入られて投げ飛ばされるわ絞められるわ極められるわ。結局、手も足も出ずじまいでござった。これほどの強さだったとは・・・私もまだまだ修行が足りませぬ・・・。」「え?星殿と沙摩柯さんまで同時にかかったの?」「ああ。だが星が言うとおり。手も足も出ずだ・・・。」げんなりとして沙摩柯が答える。両者共に自身の武力には相当な自信がある。それは過信でも驕りでもなく、自分の能力を冷静に見ての結論なのだがその2人が、しかも同時にかかって手も足も出ないとは。もしかして、自分が挑んだときに服にかすらせたのは母上の体調がよくなかったとか、手をあからさまに抜いていたとかそういうことなのだろうか・・・?それを考えると高順は寒気を覚えるのだった。「あらあら。皆さんだらしがない。この程度で疲れているようでは閨(ねや)で男性を悦ばせる事すらできませんよ?」なんて事を言うんだ母上。と思うも、こういう会話に必ず食いついてくるであろう李典・干禁・趙雲は無言のまま。本気で疲れきっているらしい。もしも。もしもその場にいる全員(高順の母を除く)が1800年以上も未来の言葉を知っていたら確実にこう言ったであろう。「母上、マジパネェ。」と。(高順独白)この後、母上は皆に昔の素性を聞かれていました。実は俺も母上の過去は全く知りません。昔はそんなもの気にする余裕もなかったし、1度聞いてみましたがあまり喋りたがらなかった事もあって無理に聞き出すようなことをしなかったのですね。ですが、沙摩柯さんや趙雲殿、楽進は武人として興味があったのでしょう。割としつこく聞いていました。結果、解った事が1つだけあります。母上の名前は・・・。閻行というのだそうです。・・・ええええええええええっ!!?~~~楽屋裏~~~設定無視もいいところですあいつです。(挨拶今回は上党日常編、といったところでしょうか。書きたい事詰め込んだら良くわからないお話に・・・。かくぼうさん、昔はただの同僚だったはずが子供時代から交友があったという事にしてしまいました。しかし、味噌ラーメン・・・。よかったのかなぁ。北海道の皆様オコラナイデクダサイネ。ここで原作を知らない人と閻行を知らない方への補足を。「五胡式格闘術」というのは、原作で楽進が言った言葉です。(五胡式とかは言ってないようですが五胡、というのは中国の異民族でして「鮮卑(せんぴ)・羯(けつ)・氐(てい)・羌(きょう)・匈奴(きょうど)」という5部族を指した言葉です。要するに五胡というのは複数の異民族ということでしょうね。で、作中で楽進が「組み付かれたら勝てない」という発言をしています。なので、普通の格闘に加えて投げ技とかもあるんだろうな、と思って極められるとか絞められるという言葉を加えたのですが・・・作中において詳しい説明はなかったので妄想です。そして閻行。この人は西涼の韓遂という人の娘婿にされる人物ですが、1つだけ凄い経歴があります。後に蜀漢の五虎将(演義だけでの話ですが)であり、関中で曹操と激戦を繰り広げた馬超を一方的に?叩きのめして半殺しにしたとか、そんな話がある人です。つうか馬超殺しかけるとかすさまじすぎる。この人と呂布の戦いを見てみたかったなぁ、と思うのはあいつだけでしょうか。時代考証とか色々考えると明らかに上党にいるのはおかしくなってしまうのですが・・・。このシナリオでは半殺しにされたのは馬騰か韓遂だと思ってください(無理本来出る予定はなかったのですが、このシナリオ書き始めて初期の感想で「閻行出せないでしょうか?」な書き込みがあったので急遽ピンチヒッターとかそんなノリで(浅はか過ぎるですが、これで高順くんが男性として武力が高いことへのいい訳くらいにはなるかと・・・無理ですね、そうですか。これはあいつの脳内設定なのであまり気にする事でもないのですが、この世界の、少なくとも三国時代の男性は武力が低いです。というのも、原作で女性がチートなのもありますがこういう風に思っています。RPG的例えですが「女性はレベルが上がるまでが早く、上がっていく能力値が高い。」「能力限界が男性に比べて高い」だと思ってます。男性はこの逆ですね。当然、その枠に当てはまらない男性だっていると思います。張任(ちょうじん)とか、そうかもしれません。それと座談会と言う名の愚痴だべりは消しましたYO。さてさて、次回の話はどうしましょうかね。それではまた(☆ω☆)ノシ