【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第21話高順は自分の陣幕にいた。高順だけではない。3人娘・沙摩柯・蹋頓・田豫もだ。そこに更に2人の女性が加わっている。難楼と烏延。先刻まで戦っていた烏丸軍の武将である。高順が軍議に出かけている間に蹋頓を訪ねて来たのだという。彼女らは一応、形式的に縄をかけられていたが抜けようと思えばいつでも抜けれるような曖昧な形だった。高順が帰ってくるまで待った方が良いという判断からだ。蹋頓から「今、自分は高順というお人に仕えている。」と聞かされた2人は素直に従い、大人しくしていた。帰還してきた高順は当然驚いた。だが、すぐに公孫瓚に伝えない。ある程度事情を聞いてからでも遅くは無いという判断だ。そこから、質問が始まった。「えーと、難楼さんと烏延さんですっけ。お二人は烏丸の武将なんですよね。」「うん。」「そうだ。」難楼と烏延は肯定した。「では、ここを訪ねてきた理由は?」「蹋頓ねーちゃがいるって烏延が。それで、軍を撤退させて、自分の目で確かめに来たの。」「だから本物だって言っただろ。」「んー。本物だった。」・・・烏延はともかく、難楼は随分とノリが軽い。凪に対しての佐和・真桜みたいな、そんな間柄かもしれない。「しかし、貴方達がわざわざ訪ねてくるなんて。驚きましたよ。」蹋頓は2人に声をかける。「蹋頓が去ってから・・・いろいろな事がありました。我々は立場上、何も言う事ができず楼班側の武将に・・・。」「ねーちゃが帰ってくるまでに、自前の兵を持とうと頑張って。そしたら公孫瓚と戦う羽目になっちゃった。」難楼の言葉に烏延が頷き、言葉を続ける。「我々が今負ければ、完全に劉虞の望む形で単干を据えられてしまいます。そうなる前に楼班を討たなければならない。そこで攻められてどうしようと思っていたのですが・・・。そこで蹋頓の姿を見つけて。」「だから訪ねてきた、か。」ふーむ、と腕を組んで高順は考える。彼女らが訪ねてきたのは蹋頓が本人かどうかを一応確認するためだろう。そして、本題は・・・こちらと手を組みたいとかそんなところだろう。確認をしないとな、と高順はある程度考えてからまた2人に質問をする。「では質問を続けます。お二人は蹋頓さんの無事を確認しに来たと仰ってますが・・・まだ他に確認したい事はありますか?」「他・・・とは?」「別に隠さなくてもいいと思うのですけどね。丘力居ちゃんの事が気になっているのでは?」高順の言葉に2人はピクリ、と反応をする。「むしろ、そちらが本命だと思っていましたが・・・。こちらとしても隠すようなものではありませんけどね。」高順は確認するかのように蹋頓の顔を見つめる。「あら、そんなに見つめられると困ります。ふふ・・・。」「・・・そうじゃないんですけど。」つか、なんでこういう流れにしたがるかな・・・って凪がこっちをむっさ睨んでる・・・!「はぁ、じゃあ言いますね。結論から言うと無事です。北平にいますよ。」「それは本当か?」「嘘を言ってこちらが何かを得られる訳ではありませんしね。そうでしょ?」もう1度蹋頓の方へ向く。「ええ、高順さんの言うとおり。あの子は元気にしていますよ。」「そうか・・・。ならば、これで準備が整ったという事か。」烏延が嬉しそうに言う。「・・・蹋頓殿、準備とは?」「そうですね、彼女達も私と同じく・・・単干の地位を本来あるべき者に戻したいと考えているのでしょう。楼班は知らなかったのでしょうけど、元々穏健派同士ですから。」「なるほど。」凪の質問に蹋頓はさらりと答える。「蹋頓、一度戻って来てくれ。蹋頓の言葉を聞けば我々の指揮下にある兵も従うだろう。」「楼班ジジィを(規制)して、(中略)で、叩き殺してやるわ!」なんだか凄まじく不穏当な言葉を繰り出してくる難楼に、その場にいた全員が「大丈夫だろうか・・・」と不安そうな表情になった。「・・・。叩き殺すかどうかはともかく。提案があるのですが宜しいですか?」「・・・提案?」「ええ。あなた方にとっても損にならない話だと思いますよ。」高順のこの言葉にどうしたものか、と顔を見合わせている烏延達。蹋頓もどうするつもりなのだろう?と高順を見つめている。しばらくして決心したのか。「・・・提案とやら、聞かせてもらおうか。」烏延はこう言うのだった。~~~その後、公孫瓚陣幕~~~「・・・さっき軍議を終えた所なのに、また来るなんて。何か用事があるのか?」眠ろうとしたところを邪魔されたのか、公孫瓚は少し不機嫌そうだった。高順は内心で悪い事をしたかな?と思ったがこういうことは早くしたほうがいい。当然、公孫瓚に頼んで人払いをして貰っている。「ええ、大事な用件ですよ。・・・3人とも、入ってきて。」「・・・ん、3人?」高順に促されて蹋頓、その後ろに従うように烏延達が入ってきた。「この3人が何か?」「ええ、話を聞いていただきたい。率直に言います。彼女達と結んでいただけませんか?」「・・・えーと、いきなりすぎて意味が解らないんだけど?」ジト目になる公孫瓚だが、高順は構わずに話を続ける。「今日の戦いで烏丸で突然離脱した軍勢がいたでしょう?それを率いていた武将が蹋頓さんの後ろにいる難楼さんと烏延さんなんです。」「へぇ・・・?」「で、その軍勢を蹋頓さんが説得します。その上で結び、楼班を共に討ちたい。こう言ってるんです。」「・・・いきなりな話だな。それが事実かどうか確認する術もないというのに?」「ですが、公孫瓚殿にとっては良い機会ではありませんか?楼班の兵は減り、こちらは兵が増える。多少は楽になると思いますよ。」「それはそうだけど。しかしなぁ。」公孫瓚は渋るような態度を取る。同盟、という言葉を言わないところが高順の嫌らしい所である。やはり多少なりとも利がなければ動かないだろう。もう一押しが必要か。「公孫瓚殿、最後までお聞きください。良い、と言うのはそれだけではないのですよ?」「ふむ?」「まず1つ。先ほど聞いた話ですが張挙・張純は既に死亡しています。楼班に暗殺されたと言う形でね。楼班は最悪、その首を差し出して降伏すれば命は助かるだろうと考えているようで。」「・・・何だと?」よし、公孫瓚殿が食いついてきたな・・・。「偽天子を名乗った首です。この情報だけで大きな意味があるし、取れば勲功にもなるでしょう?2つ目。今日、撤退していった烏丸兵。全部で8000弱ほどだそうです。先ほど言いましたが・・・全てを説得することはできないでしょうが、結べば公孫瓚殿の兵士が増えるということになります。」「ふむ。」「そして3つ目。これが一番大きな要因ですが・・・楼班を倒せば烏丸の単干は一時的に蹋頓さんが継ぐのです。その後すぐに丘力居ちゃんに継承するそうですけど・・・。」「丘力居・・・?ああ、あの娘だな。」公孫瓚は蹋頓が連れていた幼い少女のことを思い出していた。「はい。ここで烏丸との繋がりがあれば後々大きな徳になる。そう思いませんか?丘力居ちゃんが蹋頓さんの方針を受け継いだとします。そうなると穏健派を取り込む形になりますよね?」「成る程な。劉虞殿は恐らく自分の意のままになる単干を仕立てようとする。それをこちらから掣肘するということか・・・。」「そうです。それと、無事楼班を倒せば・・・。これは、蹋頓さんが言うべきですね。」その言葉を受け、蹋頓さんはゆっくりと立ち上がる。「高順さんの言う形で楼班を倒せた場合。我々は正式に公孫瓚殿と同盟を結びます。」「何!?」「復興するのにはまだまだ時間がかかるかもしれませんけど・・・何かあった場合、兵力的に支援する事も可能かと。」「む・・・。」確かに、これは公孫瓚にとっては悪くない・・・いや、良い話だった。自分と劉虞の仲は正直に言って相当にこじれている。もし、劉虞の考えどおりに彼の望む単干が擁立されてしまえば、その兵力を使ってこちらを攻める。ということは充分に有りうる話なのだ。楼班を討てばそれは大きな勲功になる。張挙と張純の首もだ。それに「蹋頓と結ぶ」ことに大きな意味がある。当人が主張するように蹋頓から丘力居に単干の地位が譲られれば、それは「正統」な形なのである。劉虞が擁立する何者かに比べればよほど説得力のある立て方だ。その正統な単干に従う者の数は間違いなく多いだろう。正統の単干と正式な同盟を結ぶ事ができれば。背後を気にする事もなくなり、劉虞も迂闊な事はできなくなるだろう。蹋頓が説得して付いて来る兵士が千でも二千でも・・・これは大きな利だ。公孫瓚は判断した。「今は口約束しか出来ないでしょう。ですが・・・。」「解った、蹋頓。同盟を結ぼう。」「・・・え?」「だから、同盟だ。そちらがきっちり約束を果たしてくれる前提だけどね?」「も、勿論です!」このやり取りを見て高順は内心で「よし!」と思っていた。こういう場合の公孫瓚は随分と決断が早い。迂闊だととられることもあるだろうが、即断即決、というのはリーダーとして重要な資質でもある。考えるのは軍師とか、部下の仕事。その考えを聞いて、実行するか否かを決めるのが主君の仕事の1つ。その資質を公孫瓚は十分に持っているのだ。(これで、こちらが勝てる確率は更に上がるだろうな。)それから先の事を見越して話を続ける彼女達だが、そこはもう高順が関与する話ではない。高順はそのまま陣幕を出て行く。この同盟と、後に高順が行った「ある事」のおかげで公孫瓚の運命が微妙に変わる事になるが・・・それはまだ、当人達も知らぬ話だ。夜が明ける前に蹋頓は烏延達を伴って出立した。目的地は離脱した兵を待機させている場所だ。「3日で戻って来てほしい」と公孫瓚に頼まれた為、急がなくてはいけない。公孫瓚はこの同盟を渋るであろう部下を説得する役だ。ただ、どういうわけか・・・。蹋頓に着いていく事になった人々がいる。高順隊である。100人ほどの騎兵を連れて、荒野を走り続けた高順らは程なく烏丸兵が待機している場所に到着した。今は烏丸兵を集めて蹋頓らが説得をしている最中である。さすがにこれは自分達の仕事ではないと判断して、離れた位置で待機している。時折、「うおおー!」とか雄たけびが聞こえてくるが・・・どうも、蹋頓の説得は上手く行ってるらしい。熱気のようなものがこちら側まで伝わってくるのだ。戦を前にした団結、とでも言おうか。幾度も大きな戦に出た高順にとっては、身近な感覚である。「むう、まさか俺たちまでついていく事になるとは。」「そう仰らず。それもまた隊長の役目です。」「せやなぁ。部下の事なんやし、高順兄さんが世話せな。」「全くもってその通りなの。」「ま、諦めるんだな。」ぼやく高順に3人娘と沙摩柯はさも当然のように言った。だが、これは不当な役目と言うわけではない。途中で何らかの妨害があることは考慮するべきだし、蹋頓はあくまで高順の部下である。ならば隊長として最後まで付き合う、というのは決しておかしくはない話だ。なのだが・・・どうも、落ち着かない。なんかすっごく嫌な予感がするのだ。こういう時の自分の悪い予感とかは凄まじい的中率を誇る。考えたところで蹋頓が幾人かの兵を引き連れ高順のもとまでやってきた。「どうでした?」「大成功です。」「それは何よりです。従ってくれる兵の数はどれくらいになりました?」「全員です。」「それは何よrブフゥッ!?]「あん、汚い・・・。」全員って・・・凄まじいですよそれ?8千弱の兵士ですよ?それをこんな短期間で説得って・・・蹋頓さん、何をやったんだ。そんな表情をする高順の顔を見て、蹋頓が笑う。「うふふ、そんな顔をしなくて宜しいではありませんか?彼らも私の意見に賛同してくれただけです。特別何かをした、というわけではありません。」柔らかく言う蹋頓だったが、高順は心の中で「この人、魅力もチートなんだな。」と確信するのだった。正統単干の血筋と能力は伊達じゃないってことかもしれない。その後、また急いで公孫瓚の元へと戻っていく高順達だったが・・・その後ろに8千弱の兵士がつき従う形となってしまい、凄まじく落ち着かない気持ちを味わう羽目になった。これが嫌な予感の正体か・・・と思う高順だったが、それは外れだった。実際にはこの後に起こる事が「嫌な予感の正体」なのだが、それは後の話に。その後、3日もせず帰還した蹋頓の部隊を(驚きつつも)公孫瓚は自軍に編入。編入と言っても混成軍にはせず、烏延達に7千ほどを率いてもらって左翼に配置する。本来なら蹋頓が全部率いるはずなのだが・・・その蹋頓はある理由から千を率いて東へと向かって行くのだが、そこに高順・趙雲の軍勢500ほども編入されていた。そして、公孫瓚全軍1万のうち7千を中央、3千を右翼に展開。左翼6千は、時機を見て2千ほどを烏丸本陣に進ませ、楼班が北へ逃走するのを妨害する役割がある。これらは軍議で決まったことだが、凄まじい早さで段取りが決められた。王門が反対しようとしていたが「うるさい!」という公孫瓚の一喝で黙り込んでしまった。その王門は右翼前衛に配置されている。彼に限らず、前回の戦いで後衛に回された武将は今回は前衛に回されていた。そして公孫瓚らは北方へと進軍、烏丸軍を捕捉し攻撃を開始した。公孫瓚・蹋頓烏丸同盟と楼班烏丸との決戦である。ちなみに、布陣図を図にすると・・・ 楼班 右翼 中央 左翼 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ 左翼 中央 右翼 公孫瓚 ごく普通の形だが。 /↓ / /→ 楼班 /右翼 中央 左翼 │ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ \ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ 左翼 中央 右翼 公孫瓚 最終的にこのような形になる。高順らはこの陣のずっと東にいるという形だ。 彼らのいる東には遼東・・・公孫度という男が治める地がある。そこに逃げられる前に勝負をつけるべきだと公孫瓚は考えているが、楼班が北へ逃げる事を考慮しなければいけない。その為に回り込んでの本陣強襲をしなければいけない。そして、逃亡する経路を押さえる高順隊。公孫瓚の右翼が少ないのも、そのあたりを考えての事だった。さて、高順達。楼班が公孫瓚の目論見どおり東側へ逃げてくる、という前提を基にして勢を2つに分ける事にした。逃げてくるであろう楼班を遮るのは蹋頓と、彼女の率いる千の烏丸兵。高順達と趙雲の500は退路を遮る、という役割。今回、最後に手を下すべきは蹋頓だから当たり前と言えば当たり前だ。烏延らの話では、楼班の元にいる正規の烏丸兵は少ないのだという。現状で楼班の兵力は1万7千ほど。前回の戦いで3~4千ほどの兵力を失った事になる。現状では張挙らから奪った兵力1万と烏丸兵7千ほどなのだそうだが・・・どうも、その1万が役に立たないらしい。常に後衛にいて前に出たがらないのだそうだ。戦う気がないならさっさと降伏すればいいのだが・・・偽天子のもとで戦った兵なので、降伏しても許してもらえないと思ってるのだろう。それは公孫瓚の気持ち1つで変わる事だ。人の良い彼女なら「まあ、首謀者とそれを扇動した奴は死んだのだし・・・。」と許してしまいそうな気はする。「ふむ、そろそろ烏丸と衝突したころですかな。」太陽の昇り具合を見つつ趙雲は高順に話しかける。「さあ、どうでしょうね。俺達は待つのが仕事ですからね。」「おや、高順殿は伯珪殿を心配しておられないので?」「んー・・・心配しないと言うか、心配をする必要がないと思ってるだけです。」それは偽りの無い本心だった。正史や演義では袁紹にボロボロにされる白馬義従だが、高順の目から見て彼らの力量は中々のものだった。よく言えば「万能」と言えなくも無いが悪く言えばどこか尖った所が無い。これこそは、という凄みが無いのだ。曹操の軍勢などに比べれば装備・錬度は一歩劣る。十分だが何か足りないような気がする。そんな白馬義従でさえこれだけ強いのだから西涼騎兵の強さはどれほどのものなのやら、と思う。「高順兄さん。」物思いに耽っていた高順だったが真桜の声で現実に引き戻される。「伝令から報告やで。「我、優勢に事を進めり。」やって。」「そっか、ご苦労様。伝令さんを休ませて上げてね。」「ほいな。」高順らがこんなやり取りをしている時、公孫瓚は烏丸左翼を敗走させていた。実際、公孫瓚の軍勢は優勢だった。まず左翼に配置した烏丸だが、彼らは公孫瓚が思った以上の働きを見せていた。今まで何度か烏丸と戦ってきた公孫瓚だったが、「これがあの烏丸か?」と思うほどの勇猛さを見せ付けた。これが本来の彼らの戦闘力だった、ということだ。楼班は部下の本来の力を全く引き出せていなかった、それだけなのだろう。指揮官が有能であれば烏丸は強い。それを如実に表した戦いだった。楼班側は何故同じ烏丸兵が公孫瓚に味方しているのかと混乱をきたした。そこへ追い討ちをかけるように宣言をしたのだ。「蹋頓様がご帰還なされた!」と。それが嘘か本当かは一兵士ではわからない。何故目の前にいる同じ烏丸兵は公孫瓚に味方しているのだろう?もしかして本当に蹋頓様が?その疑念が広がり更に混乱の度合いを深めていく。左翼が思った以上の働きを見せている事に公孫瓚は感心していた。蹋頓、という名前を出しただけであれだけの混乱を見せる。蹋頓という女性が烏丸でどれだけの影響力を持っているか。それを見せ付けられる形になった。右翼は少々苦戦しているようだが、すでに敵左翼を崩した烏延率いる左翼部隊が少しずつ中央部隊へ突進している。そして楼班本陣を強襲する難楼も手筈どおりに事を進めているようだ。このままいけば中央部隊も崩れ、右翼へ救援もいけるだろう。そのまま楼班を東へ向かわせれば蹋頓も本懐を遂げる事ができる。「蹋頓・・・か。」彼女が単干になれば、お互いにとって良い関係が築かれるだろう。敵中央部隊の動きを見つつ、勝利した後のことを考え始める公孫瓚だった。~~~高順達の待機場所~~~「・・・来ないの。」「まだ日は落ちてないぞ?しっかりを気を張れ。」待ちくたびれた感のある沙和を凪は注意した。「うー。でも待ちくたびれたの!」「それは根性が足りないだけだ。」「でも、日の当たらない岩場でじーーーーっとしてるのは暇なの・・・。」「・・・それは私も思うが。」実際、彼らが待機をしている時間は相当長い。気を抜かないようにしなければならないが長時間気を張り詰めておく、というのは難しいものだ。高順らから更に東に離れた蹋頓は目を閉じている。仇敵である楼班を討つ、という思いが彼女を昂ぶらせているのか。それともその昂ぶりを押さえつけようとしているのか。そこまでは解らないが、蹋頓はじっと待ち続けていた。~~~数刻後~~~ 「ハッ・・・ヒッ・・・」楼班は供回り300ほどに守られ戦場を離脱、東の遼東を目指していた。(これは公孫瓚の思惑通りに行った「くそ、公孫瓚めが・・・。何故これほど執拗に追撃をしてくる・・・?」偽天子と組んで乱を起こした以上追われて当然なのだが、こういった自己中心的な人物にはそのあたりは解らないようだった。その上、烏延らが兵士を引き連れて公孫瓚に投降している。実際には投降ではなく同盟なのだが楼班がそのあたりの事情を知るはずもない。烏延らが良いのであれば、と考え公孫瓚に使者を送り降伏の意思を伝えたがあっさりと拒否されてしまい、逃げる以外の手段が無かった。兵を失い、行き場所も失い・・・今の楼班は単干ですらない、ただの愚かな老人だ。その楼班は更に東へと走っていく。馬も無い徒歩での逃避行だ。どれだけ逃げたか、それすらも解らないがこのままなら何とか逃げれそうな気がしていた。いや、何とかして逃げなくては。単干になって権力を振りかざしたい。その個人の欲望から始まった暗殺劇。先代の単干をはじめ、多くの人を殺しやっと得た地位だったのだ。遼東の公孫度に支援を求めてもう1度烏丸を、そして単干の座を取り戻すのだ。だがそこで。前方で烏丸兵が列を成して待機しているのが見えた。「お、おお・・・助かったぞ・・・。」味方だと思って安堵した楼班だったが、すぐに知ることになった。彼らは自分の命を狙った「敵」であるという事を。兵たちが一斉に自分達を囲うように動き始めたのだ。それを見た楼班が取り乱す。「な、何事だ!?楼班を知らんか!?単干だぞ!」逃げようと後ろを見れば、恐らくは公孫瓚の部隊だろう。500ほどの騎兵が退路を塞ぐために動き始めていた。「くっ・・・ぜ、単干に逆らうと申すか、お前ら!?」楼班を囲む兵士達は応えることなく武器を構え、威圧をする。それに対して、楼班も、楼班の率いる兵士も狼狽するばかり。そこへ楼班らを取り囲む兵士達が道を開ける。無論楼班の為ではない。後ろから歩いてきた女性に道を開けたのだ。その女性の名は蹋頓。先代の単干を仮に継承した人である。「あら、お久しぶりですね。単干様?」辛らつな物言いをする蹋頓に、楼班は怒りの表情を向けるが・・・すぐに真っ青になった。「な、蹋頓!?何故お前がこんなところに!?死んだはずではなかったのか!」「驚くのも無理は無いでしょう。暗殺したと思った女が生きていたのですから。暗殺者を買収した甲斐があったというものです。」「なっ・・・。」蹋頓は楼班の周りにいる兵士に「下がりなさい」と命令を下す。その言葉で兵士達は武器を捨て、その場で跪いた。最初からそのつもりだったのかどうかは解らないが、蹋頓の持つ静かな気迫に気圧されたようにも見えた。「き、貴様ら!?立て!戦え!」楼班が叫ぶが、その声に応える者は誰一人としていない。これが蹋頓と楼班の差なのだろう。恐らく、蹋頓は単干代理であった時代に多くの人々に慕われていたのだろう。政治、或いは武の才覚を見せたのだろうか。彼女を知る人々はその才能まで理解していたのかもしれない。「さて、そろそろ終わりにしましょうか。」「ま、待て!?お前は夫を殺すというのか!?」そう叫んだ楼班の耳を蹋頓は槍の穂先で貫いた。最初何が起こったのか解らない楼班だったが、すぐに耳から血があふれ出し叫び声を上げてその場をのた打ち回る。「いっ・・・ぎゃああああぁっ!?み、みみみみ、耳が!血がぁっ・・・ぎあぁあ・・」「夫?あなたが私に夫として何かをしてくださったことがありました・・・?」「ひっ・・・ひぃぃ・・・耳がぁぁ・・・。」「あなたが私にした事。私の兄を謀殺し、近しい人々を次々に死なせて・・・。私から大切なものを奪っていった!それが夫?笑わせないで!」「ひっがぁ・・・ごめ、ごめんなさひ・・・。」「うるさい!」「ぎゃがぁっ!」蹋頓は引きずり倒した楼班の顔を思い切り蹴り飛ばした。「た、頼む・・・こ、これをやる、だから許して・・・。」痛みと涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした楼班は持ち運んでいた2つの桶を差し出した。中には塩漬けにされた張挙と張純の首が入っているのだろう。それを見せられた蹋頓は怒りでどうにかなりそうだった。たとえ一時的ではあれ、単干を名乗った者がここまで命乞いをするとは。蹋頓は桶の中身を見ることもなく、怒りに任せて桶の1つを蹴り飛ばした。がごっ、という音が響いて凄まじい勢いで桶が飛んでいく。その先には高順がいて・・・そのまま高順の頭に「すぽっ」と。逆ホールインワンを達成したのだった。「・・・。」「・・・。」「・・・。」沈黙が辺りを支配する。塩と生首の入った桶を頭からすっぽりと被った高順。それを見て硬直する兵士達。そして・・・「のおおおおおおっ!?かぶった!中身かぶっt生首きもっ!!!?」「ぎゃあああっ!?塩こっち飛んできたの!?気持ち悪いの!」「汚なっ!高順兄さんこっちこんといて!?」「おい、まるで隊長が汚いみたいな・・・ああああっ!?」塩やら何やらを思い切り引っかぶった高順と、その周りで大騒ぎする3人娘達。沙摩柯と趙雲は高順を盾にする形で後ろに下がったため何1つ被害を受けていなかった。「た、隊長!落ち着いてください!すぐに取りますから!」「ああああっ!誰か、早く取ってぇぇぇぇぇえぇぇっ!!」「お、おい、誰か!隊長が大変だー!?」楽進や、兵士までもが混乱しおたついている。先ほどまでの緊迫した空気が一点、一箇所だけ緩い空間が作り出されていた。流石に蹋頓もこれは不味いと思い、心の中で「ごめんなさい・・・」と高順に謝っていたが。それはともかく、楼班はまだ命乞いをしていた。どうか、どうか命だけは・・・。という言葉を繰り返している。そんな楼班を見下していた蹋頓は、自分の中の怒りが不意に冷めていくのを感じた。こんな男に、兄は、仲間は殺されたのか。こんな男のせいで私と丘力居は7年も苦しんだのか。自身の実力を弁えぬ男が無用な戦いを引き起こして、沢山の同胞を死に追いやったのか。多くのものを引き換えにして、代価として得るのがこんな男の命なのか。それを思うと、不意に空しくなってきた。「・・・。1つ、選ばせてあげますよ。」楼班を見下ろしたまま、蹋頓は語りかける。「へっ・・・?」「誇りある自決か。それとも私の手で一瞬で死ぬか。好きなほうを選びなさい。」この言葉に楼班は震え上がる。「い、嫌だ・・・死にたくない・・・。」「ならば手足の腱を切り、目と喉を潰して雍狂の地に放り捨てられるか。死ぬよりも苦しいでしょうね。」「う・・・。」「さあ、どちらにしますか。選びなさい。」この言葉に自棄になったか楼班は剣を抜いて立ち上がり、蹋頓に向かっていく。「うわあああっ!」雄叫びと共に斬りかかるが、蹋頓は慌てる事も無く槍を横に薙ぐ。ピゥッ、という音が聞こえた瞬間、楼班の首が胴から刎ね飛ばされていた。数瞬後、身体が崩れ落ちほぼ同時に刎ねられた首も地に落ちた。その光景を見ていた誰もが声1つ出さずに立ち尽くす。静寂の中、蹋頓は物言わぬ死体を見下ろしていた。感情など何処にもない、そんな表情で。そんな表情を見せる彼女のことが心配になって、(桶を取った)高順は蹋頓の側へと歩いて行く。いや、高順だけではない。3人娘も、沙摩柯も、趙雲も。今まで見た事の無い彼女の無機質な表情に誰もが心中に不安を抱いたのだ。「蹋頓さん・・・?」「・・・?何ですか?」高順の呼びかけに応えた蹋頓は小首をかしげていた。「どうしました?」とでも言うように。もしかして、自決でもしようとしたのではないか、と不安に思っていたがどうもそうではないようだ。そして、蹋頓は再び楼班の死体を見つめる。「人を死なせる覚悟はあっても自分が死ぬ覚悟が無い。最後の最後まで愚かな男だった・・・。」「・・・。」彼女の言葉は高順にとって辛い物だ。高順も「自分の死亡フラグを折る」ことを目的にはしているものの―――その為に人を殺して来た。だからこそ今この場所に立っていられる。蹋頓の言葉を借りれば、高順もまた「死を恐れる愚かな男」なのである。「さあ、帰還しましょうか。公孫瓚殿がお待ちになっているでしょう。」高順の心中の懊悩など全く気がつかず蹋頓は努めて明るく言う。そして、少し。本当に少しだけ遠くの何かを見つめるような表情をする。「兄上、皆。敵は討ちました。終わりましたよ・・・。」落ちかけていく夕日を見やり、蹋頓は逝った人々のことを思い、静かに呟くのだった。~~~楽屋裏~~~俺・・・土日でもう1度更新できたらこの作品打ち切るんだ・・・嘘ですゴメンナサイあいつです。(挨拶このような駄作品を読んでいただいている皆様の中には「(ある程度)シリアスにやってんのに無駄にギャグ入れるなよ」と感じられる方もいらっしゃると思います。これに関してはゴメンナサイ、としか言いようがありません。シリアスが続くのがあいつには耐えられないのです、アレルギーです(ぉしかし、生首はいった桶をかぶるとは。本気でかっこ悪いですね、高順くん。それともう1つ、本文で出てきた「雍狂の地」ですが・・・WIKIのをそのまま転載します(ナヌ「雍狂の地というのは、山はなく、砂漠と水沢と草木が生えるばかりで、マムシが多く、丁令の西南、烏孫の東北に当たる。そこに追いやって苦しめるのである。」こんなとこに手足と目を壊されて放り捨てられたら・・・やはり、一思いに死んだほうがマシ、なんでしょうね。さて、北平烏丸編、やっとこ終わりが見えてきました。次で烏丸編も終了です。・・・うん、きっとそう。その次に黄巾がやってきますが・・・どうなることやら。それでは、また次回にお会いしたしましょう。(・×・)ノシ