【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第14話下邳。今現在、この地に高順たちは腰を落ち着けている。徐州最大の都市であるこの場所は現在、陶謙が支配している。実際にこの都市を預かるのは曹豹だが、それはあまり関係のない話ではある。「ただいまー、っと!」「ああ、お帰り。お疲れ様。」入り口の扉を開けて叫ぶ真桜に高順は労いの言葉をかけた。彼女達が高順に仕え、下邳に到着して2週間。仮住まいを探し、彼女達に見合った仕事を探し、と色々忙しかったがそれもやっと落ち着いた。「ご苦労様なのー。夕飯もう少しで出来るから待っててなの。」台所からひょっこりと顔を出した沙和が真桜にそう言った。「ほい、ところで凪は?」「ああ、彼女はまだ帰って来てないね・・・もう少しで帰ってくるんじゃないかなぁ?」そかそか、と言いながら真桜は居間で大の字に寝そべった。「こらこら、女の子なんだからもう少し恥じらいをだね。」「あー、高順兄さんはうるさいなー。これくらいええやん?」「いや、しかしだな。」抗議しようとする高順だったが・・・しばらく考え、これ以上言うのをやめた。「仕事場が仕事場だしなぁ・・・多少粗忽になるのも仕方ないか。」「なっはっは、そういうこっちゃ。やり甲斐があって楽しいし、うち向きやし。不満はあらへんで?」「ははは、それは何より。凪にとっては多少辛いかもしれないけどね。」この2週間で高順は凪たちに敬語を使わなくなった。彼女達が「部下に敬語を使う必要はありません!」と主張した為である。最初は違和感もあったが、この頃ようやく慣れた。そこで、凪が「ただいま戻りました。」と帰って来た。「ああ、お帰り。お疲れ様。」「おお、帰って来たなー。あとは飯待ちやでー。」「わかってるの!」彼らはこんな感じで上手く共同生活を営んでいたのだった。彼らが借りた家は中々の大きさで、10人くらい転がり込んでも問題が無い程度の広さだった。虹黒の住処を探さなければいけなかったが、上手い具合にこの家に厩があったのでここに決めたのである。昔はどこぞの武将が住んでいたらしいが、詳しいところはよくわからない。値段もそれなりに高いが、虹黒含め馬が4頭いるし、厩をまた探しにいくとかその賃貸費用を考えると・・・。このほうが安上がりだと思ったのだ。「で、凪?仕事のほうはどうやったん?」「ああ、最初は戸惑いもしたが・・・この頃少しずつ慣れてきた。」「そっか、ええこっちゃ。」「真桜は・・・聞くまでも無いな。」「当然や!さっきも高順兄さんに言ったけどな、うち向きやしな。」彼女らの仕事、というのは建築、あるいはその解体業である。高順が探してきた仕事で、真桜にとってはスキルアップになるし、凪にしても手に職をつけたほうがいいだろうという考えだった。真桜は元来こういった仕事を得意としており、すぐに慣れたが、苦労したのは凪である。何せ、壊すことは出来ても作ることが出来ない。なので、仕事関係者に頼んで「解体専用」にしてもらったのだ。ただ解体と言っても力任せに壊すのではなく、そのまま他のところへ転用できるような解体、という意味だ。戦国時代の日本の話だが建築をするときは、前に解体された建物などの廃材を転用して新たに作成する、ということがままあった。簡単に言えばリサイクルだが、そういったことが可能な技術を持つ人々がいたのである。作るのが無理なら壊すほうを覚えてもらおう、ただし次にどこかで使える形に。そういった方向へ考えを変えたのだが、割と上手く行っているようだ。資材を運ぶ時も、そこいらの男衆が何人がかりで運ぶようなものを平気な顔をして1人で運んでいる、という話も聞いている。2人とも外見は良いし、真面目な凪とひょうきんな真桜は現場の人気者だった。沙和は、と言うと彼女は帳簿役を任せている。凪たちは日当という形で給料を貰っており、それを管理する役目にしたのだ。それに限らず、支出と収入を記載、それに応じた食事など。そういった日々の細々としたことも任せてある。本人も働きたかったようだが、これも大事な仕事だというのを理解しているようで渋々了承してくれた。・・・割とノリノリでこなしていたけど。高順は、傭兵のような仕事をしていた。下邳は陳留ほど大きくは無いが、それでも商人が駐在している大都市である。その分治安が悪くなったり盗賊が内外に横行したりもする。警備兵がいないでもないが、毎日発生する事件に対して明らかに数が足りていない。そんな理由からか、民間からも協力者を募っている。その1人が高順、という訳だ。勿論これも日当である。「はーい、ご飯の時間なのー。」沙和が食卓に食器を並べだす。「おお!待ちくたびれたでー。」「沙和、今日の夕飯のおかずは何だ?」凪の言葉に沙和は胸を張り「今日は凪ちゃんの要望にお答えして麻婆豆腐も作ったの!」と答えた。瞬間、凪の目が輝いた。「もっちろん、からしビタビタ!」この言葉に、高順は真桜に小声で話しかけた。「なぁ、真桜。凪って辛いもの好きなの?」「え?あぁ、そやな。高順兄さんは知らへんかったかな。むっちゃ辛いもの好き。うちらじゃ舌が痺れる様なもんでも平気で食うしな。」「かなりの量食べるのは一緒に生活して解ったけど・・・なんか意外だな。」「なはは、せやな。うちも沙和も最初は驚いたし。さて、早よ座りましょ。凪が待ちくたびれとるで?」「ん、そうだね。じゃ、皆さん手を合わせて。」『いただきまーす!』この後、高順は好奇心から凪の辛子ビタビタ麻婆豆腐を少しだけ分けてもらったが・・・真桜と沙和の予想通り、辛さのあまり完全に轟沈したのだった。「美味しいのに・・・。」という凪の言葉を聞きながら。その後、更に1週間が経ち、高順は面白い出会いをすることになる。今回の高順の仕事は盗賊退治である。街の外だが盗賊達が根城にしてある場所があるのでそこに襲撃を仕掛ける、という話だった。歩いて一日、馬で行けば往復できる距離だという。その為、高順は虹黒を伴って出陣した。行くのは下邳の兵士に傭兵が混ざった構成だ。その中に、1人の女性がいた。黒髪で身長が高く、またもスタイル抜群の美人である。どちらかと言えばエキゾチックな感じのする人だが、薄汚れた感じがするせいで折角の美人が台無し、といったところか。服装も半裸といえるほどに露出がある。ただ・・・背中と腰あたりに大きな刺青があった。非漢民族、蛮族の証である。行軍中に一度休憩を挟んだ時のことだが、その時にその女性に虹黒が自分から近づいていったのである。「・・・何だ?」女性は自分に近づいて鼻を「ふんふん」と鳴らして匂いを嗅いでくる馬を訝しげに見ていた。だが、それ以上何をしてくるわけでもないので、気にしないことにしたようだ。所持しているズタ袋の中身を漁って食料を探し始めた。その時、虹黒が女性の顔を「ぺろっ」と舐めたのである。「えひゃっ!?」女性が変な叫び声を上げる。「お、おい。ちょっと待て・・・やめっ・・・ふぁぁっ!?」女性の叫びなど全く気にせず顔やら耳やらをベロベロと舐めまくる。「おおい、虹黒ー!?いきなり走っていくからどこに・・・あれ?・・・・・・虹黒が懐いてるよ。初見の人に。」高順は虹黒と旅をして知ったのだが、遊んで欲しい時、かまって欲しい時などはああやって意思表示をするのである。自分もよくやられたし、この頃は凪あたりも犠牲者(?)であったりする。それなのに、目の前の女性は初見で・・・どうやら、随分と気に入ったらしい。・・・惇さん、何か可哀想だな、と思ったがそれはいいとして。「お、おい。そこのお前・・・この馬の主か!?は、早くなんとかして・・・ふやぁっ!?」露出した背中まで舐められてまた変な叫び声を上げる。「お、おい!虹黒!その人迷惑がってるからやめなさい!」高順が手綱を引っ張る。最初は抵抗していた虹黒だったが、しばらくして諦めたのか、そこで座り込んでしまった。「ううっ・・・一体何なんだ・・・?」「すいませんすいませんすいません!大丈夫でしたか!?」取り出した布で顔やら背中を拭いていく。「いや、別にかまわないが・・・。」「本当に申し訳ない。普段はあまり人に懐かない子なんですけどね・・・。」どうしたのやら、と虹黒の首筋を撫でる高順。それを見て、女性が少しだけ笑った。「?」「ああ、すまない。その馬を大事にしているのだな。と思ってな。」「そりゃそうですよ。俺の大事な仲間ですからね。」「仲間、か。良い事だ。その気持ちを忘れなければその馬・・・虹黒と言っていたか。馬のほうもお前を信頼してくれるさ。」「ええ、勿論です。」「良い返事だ。・・・それよりも、私にはあまり近づくな。」「へ?」「・・・刺青だ。見て解らないのか?」そう言って女性は自分の腰あたりを指差した。「刺青は解りますけど。」「ならば蛮族だと解るだろう?私には近づかないほうが良い。」じゃあな、とだけ言って女性はその場を離れていった。離れていく女性をしばらく見ていた高順と虹黒だったが、しばらくして「やれやれ」と肩をすくめた。「ここにも呂布さんと同じ手合いがまた1人、か。関わるな、と言われたら関わりたくなるのが人情ってもんだよ。な、虹黒?」高順の言葉に虹黒は「ぶるるっ」と応えたのであった。その日はそれで終わり、盗賊たちもすぐに退治されたのだが・・・そこから、高順が彼女に何かと言って関わりだす。実際はこれまでも何度か見かけていたのだが、女性が1人でいることを好んでいたためか接点が無かったのである。女性も最初は迷惑そうにしていたものの、話し相手くらいにはなると思ってくれたのかぽつぽつと話をしてくれたり、聞いてくれたりするようになった。自分は別の場所に住んでいたが、事情があって追い出されてしまった。とか、1人の少女を保護して一緒に住んでいる、とか。あと、仕事中の食事は持参なのだが・・・いつも野菜を取っている。この時代でも野菜は主食ではなく、あくまで添え物でしかない。最初こそ、ベジタリアンかな?と思っていたがそうではなかったらしい。理由を聞いたら「私のような蛮族はお前達よりも日当が少ない。あの娘の食費も必要でな。安いものしか用意できないんだ。」という答えだった。(やっぱ差別か・・・胸糞悪い話だ。)そこで高順はある1つのことを思い出す。「あ。そういえば。」「?」「名前をずっと聞き忘れてた・・・。」「・・・確かに、名乗っていなかったな。」んっ、と咳払いをした女性はこう言った。「聞いて得をするようなものでもないがな。私の名は沙摩柯と言う。」「はぁ。・・・はあああああああああああああああっ!?」「な、何だ!?うるさい奴だな!」「ちょ、今なんて!?沙摩柯って言いましたか今!?」「言ったぞ。」「あなた南荊州とかに住んでたんじゃないですか!?」「確かにその辺りだな・・・って何故知ってる。」・・・OK,冷静になれ、俺。本来、沙摩柯って人はもっと後の時代になって出てくる人だ。今の時代だとまだ子供だと思うのだけど・・・。でも、他の人も皆若いしなぁ。揃いも揃って女性だし。それに・・・前から気になってたが物騒な武器を持ってますよ。鉄の棒に穂先・・・?か柄か解らないけど刺がたくさんついてる円形の棒。鉄疾黎骨朶、だっけかな。じゃあ本物って事なのか?変な修正でも働いているのだろうか。虹黒が懐いてるっぽいのも異民族だからかも。しかし・・・この場所にいないはずの人が出ましたよ。あれこれと悩んでいる高順に不思議そうな顔で見つめる沙摩柯。「・・・おかしな奴だな。」呆れ顔でこんなことを言われる高順であった。実際、おかしいと思われて仕方が無い。非漢民族である沙摩柯に自分から話しかけたりするところが、特に。そう思いつつも、沙摩柯も高順に感謝していることはあった。今までは1人でいることが多かった沙摩柯もこの頃は何かと高順とつるんで暇だと感じることが少なくなった。野菜くらいしか購入できない彼女を見かねて握り飯を分けてくれたりする事も多い。自分と同じ部族、或いは同じ境遇の人々しか信じられない。今まで沙摩柯はそう考えていた。どこに行こうと、異民族であることを理由に不当な扱いを受ける。まともに人として扱ってもらえたこともない。ところが、高順はどういうわけかそういった差別意識を沙摩柯には向けてこなかった。それどころか、食事を奢ってくれたりとか、前に話した保護している少女へのお土産に、と果物を渡してくれたり。見知らぬ土地に出てきた沙摩柯という人を「人として」扱ってくれた初めての人だった。高順にしても、沙摩柯との付き合いは悪くないものであった。呂布のこともあったし、高順自身が「刺青の1つや2つが何ほどのものか」と考えている。○クザやら○フィアとかであればまだしも。罪を犯し「人ではない」事を証明するために彫られる刺青か、部族の風習として刺青をしているか。違いはあっても、どちらにせよ非人間として考えられるのである。罪を犯したことへの刑罰ならそれは仕方が無い。社会的制裁ということで納得もしよう。だが、高順は「自分たちと違う」というだけで差別するのはどうなんだよ?と考えているし、そんな風潮には平然と反発をする。善良な人間だっているんだぞ、と。呂布が悪質な人間だったろうか?凪たちの話を興味深そうに聞いたり、虹黒に懐かれて困惑したり、人の表情を見せる沙摩柯は非人間だというのだろうか?そんなはずがないだろう。この反発心が形になって彼の率いる部隊にその特色が表れることになるのだが・・・それはもう少し後の話。さて。高順はこの日、沙摩柯を自分たちの住処に招待した。別に妙な意図があったわけではない。沙摩柯が凪たちに興味を持ったこともあるし、凪たちに沙摩柯の話をしたら「是非一度お会いしたい」とも言っていたからだ。「では、あの娘も連れてくる」と言っていたので、高順は沙摩柯の住処に着いて行くことにした。表通りを抜け、あまり人が寄り付かない道へ入っていく。どの都市でも言えることだが、裕福な人々がいれば逆に貧しい暮らしをしている人々が集まる場所が出来る。治安と同じだ。平和なところがあればそうでない場所がある。そして、沙摩柯が住んでいるのは治安はともかく、貧しい人々の住処・・・言うなればスラムであった。そのスラムを進んでいく2人だったが、高順はあることに気がついた。「人がいないな。」スラムでも多少は人がいるはずだと思うのだが人っ子1人見当たらない。「ああ、ここは我々のような立場の者が押し込められる場所さ。ここに住んでいるのは私達とあと2人位かな。」「・・・そこまで差別するか。本当にどうしようもない奴らだな。」ここの太守は曹豹と言ったか。実際に方針を決めているのは陶謙だろう。演義では人の良い好々爺といった男だが史実では悪政を行うし、反董卓連合に参加せず形勢を傍観、その後董卓に貢物を出していたという男だ。形勢云々は仕方ないとして、悪政を行っていた、というのはどうも事実のようだな。「それが普通なんだ。高順のように差別しない手合いがこの街では珍しいんだよ。」「そういうものかなぁ。」「そういうものさ。・・・ここだ。」沙摩柯に案内されて到着した場所は廃屋だった。どこもかしこもボロボロだ。沙摩柯は「雨風が凌げるだけマシさ。」と肩をすくめていたが、これは子供には辛いだろうな、と高順は考えていた。そこへ、その廃屋から1人の少女が出てきた。「あ、おかえりなさい、沙摩柯お姉ちゃん・・・。あっ。」年の頃は・・・恐らく、10に満たないな。7,8歳くらいか。ただ、知らない人がいたことに驚いて廃屋の入り口の裏に隠れてしまった。「知らない人がいる・・・。」「怖がらなくていいぞ、前に話した高順という男だ。」「じゃあ・・・お土産をくれた人?」「ああ、そうだ。いい奴だぞ?怖がらなくても良いさ。」沙摩柯の言葉を聞いた少女は高順の前まで出て来て「ぺこり」と頭を下げた。「何度もお土産をいただいてありがとうございます。それと沙摩柯お姉ちゃんがお世話になってます。」「・・・沙摩柯さん、随分礼儀正しいですね。」少女の言葉に高順が少し驚いて後ろの沙摩柯に言う。「まあ、な。」高順はしゃがみ、少女と同じ目線くらいに頭を下げた。「初めまして。・・・ええと、名前教えてもらえるかな?」「ぞうは、です。」「・・・ぞうは・・・。臧覇!?」(びくっ)「ああ、ごめん。驚かせるつもりは無かったんだ。変わった名前だな、と思ってね。」怯えてしまった臧覇の頭を「よしよし」と撫でながら高順は弁解した。むぅ・・・臧覇ですら女の子ですよ。曹豹や陶謙の性別はどうも男のようだけど・・・俺に関わる武将が全員女なのだろうか。虹黒も雌だし・・・。男としては嬉しいけど、皆俺より強いのだよなぁ・・・立場が無いorzでもさ、そろそろ仲間に男の武将が出て来てもいいと思うのですよ。今の住処で3人娘とは別室で寝てるけどたまにすごい孤独感を感じるときがあるし。神様、そろそろ考えていただきたいと思います(割と本気気を取り直して。「臧覇ちゃん、ね。俺は・・・知ってると思うけど。高順と言います。高順おじさんとでも呼んでくれればいいですよ?」(おじさん?)(おじさん・・・)どうも、大梁の村の子供におじさんと言われたことを自虐しているらしい。(臧覇たちが知るわけも無かったが高順の発言に臧覇は首を横にふるふると言って「お兄さん。」と言った。「へ?」「おじさんじゃないよ、お兄さんだよ。」「そっか。まあ、好きに呼んでくれればいいよ。」言いながらも高順は少しだけ嬉しかった。(おじさん呼ばわりされなかったよ!初めて子供に「お兄さん」呼ばれたよ!真桜は別として・・・。生きてて良かった!)・・・おかしなところで感動する高順であった。じゃあ、そろそろ行こうか?と沙摩柯のほうへ向き直る。「え?どこかお出かけ?」「ああ、高順が家に遊びに来て欲しい。と言うのでな。」「本当に?」「嘘じゃないよ?臧覇ちゃんは遊びに行きたくないかな?」「行く!」満面の笑みを浮かべて返事をする臧覇だった。~~~高順たちの住処~~~「ただいまー、っと。」「お帰りなさい、高順殿。」凪が出迎える。と、高順の後ろにいる沙摩柯たちに気がついた。「そちらの方々は・・・?」「ああ、前に言ってた沙摩柯さんと、一緒に住んでる臧覇ちゃん。」「そうですか、この方々が。申し送れました、私は楽進と申します。」凪が沙摩柯と臧覇に自己紹介をして頭を下げた。「あ、ああ。私は沙摩柯。ほら、臧覇。挨拶をしなさい。」「初めまして!臧覇です!」「おや、元気がいいですね。・・・さあ、どうぞ。用意は整ってますから。」そう言って凪は居間の方へ向かってしまった。その後姿を見ながら沙摩柯は溜息をついた。「ん?どうしました?」「いや。なんというか普通に接してくれているな、と思っただけさ。どうも、差別されることに慣れているのか・・・普通に扱われることに戸惑いがあってな。」「じゃ、これから慣れてください。ほらほら、早く入って。」高順は2人の背中を押す。「随分と簡単に言ってくれるな・・・お、おい。押さなくても入るって!」「ほら、早く早く。」促されて進んでいく2人を待っていたのは・・・。『いらっしゃ~~~い!』大歓迎であった。「おー、よう来てくれはりましたな。うちは李典いいます、よろしゅーに。」「于禁なの!お客様は初めてなの!」随分と歓迎ムードである。沙摩柯と臧覇は何事!?と言いたげな顔でポカーンとしている。「ほら、2人とも早く座って。今日は豪勢に豚の焼肉なんですよ?」「焼肉!?」「ねえ、沙摩柯お姉ちゃん。やきにくって何?」「え?それは・・・。」「まあ、食べたら解るって!ほらほら、早う座ってぇな!」沙摩柯たちも慌てて座る。「えー。今日はお客様が来ました。沙摩柯さんと臧覇ちゃんです。2人のご来訪を記念して本日は焼肉で歓迎会です。お代わりはたくさんあるので遠慮なしで大丈夫。それでは皆様、手を合わせてー。」高順の言葉につられて沙摩柯が手を合わせ、何が何だか解ってない臧覇も真似をして手を合わせた。「いただきます!」『いただきまーす!』「い、いただき・・・ます?」「いただきます?」沙摩柯はともかく臧覇も焼肉など食べたことが無いらしく、どうすればいいのかわからない様だった。「あれ?臧覇ちゃん、食べないの?」それを見た沙和が臧覇の顔を覗き込む。「え、その、えっと。どうやって食べたらいいのかわかんなくて・・・。」「なるほどー。じゃあ教えてあげるの!まずね、こうやって箸でお肉を取って・・・あ、熱いから気をつけるの。」「臧覇ちゃんー、子供なんやから遠慮せんでもええでー。むしろ遠慮するんが失礼っちゅーもんやー。」「おい、真桜、もう酔ってるのか!?」「ええやんかー、凪も飲みーやー。」「く、酔っ払いめ・・・。」和気藹々とした雰囲気で歓迎会は進んでいく。臧覇も最初は戸惑っていたようだが、意を決して肉を口に入れた。「お・・・美味しい・・・こんなの初めて食べた・・・。」この言葉に沙和と真桜は何故かガッツポーズをする。「よっしゃあ、タレの味付け大成功や!」「気に入ってもらってよかったの!」その後もしばらく肉を食べて米を食べて、と忙しかった臧覇だがふと箸を止めてポロポロと涙を流し始めた。「うわ!?どないしてん、火傷でもしたんか!?」「う、ううん。違うの。」涙を吹いて臧覇は頭を横に振った。「じゃあ、どうしたの?」「暖かいご飯って・・・ぐすっ、こんなに美味しいんだって思って・・・。」「・・・。」この言葉に沙和も真桜もしゅんとしてしまった。騒ぎすぎた、と思って反省したのかもしれない。高順はそう思ったが。「よっしゃ!嫌なことは忘れてまえ!臧覇ちゃんも酒飲むんや!」「え?ええっ?お酒って?」真桜がおかしなことを言い出し、高順はそれに反応する。「ちょっ!真桜さん何言ってるんだ!駄目ー!子供にお酒飲ませちゃ駄目ー!」「何やねん、ええやんかそれくらい!高順兄さんは固いわ!固いちゅうか硬いのはあそこだけで十分やっちゅーの!沙和かてそう思うやろ!?」「当然なの!」「沙和さんまで何言ってんだ!?臧覇ちゃん、飲んじゃ駄目だから!絶対駄目だからー!酔っ払いの言葉をまともに聞いちゃ駄目だー!!」「え、うん。・・・えへへ。」毎回の事ながらドタバタである。彼らのやり取りを見ていた沙摩柯は呆然としている。「どうしました?お口に合いませんか?」そんな彼女に凪が横から話しかけた。「いや、美味しいさ。久々に暖かいものを食べたからな。ただ、臧覇が楽しそうにしているのを久々に見たと思って。」「そうですか。」「ああ。・・・ところで、楽進といったか?お前は怖くないのか?」「・・・ああ、真名はまだ教えていませんでしたね。凪、と呼んでくださって結構ですよ。」「そうか、ではそう呼ばせてもらおう。」「はい。それと先ほどの質問ですが・・・何が怖いのです?」「言い方が悪かったか。私の刺青を見てもこの家の者は恐れないのか?」「何か罪を犯されましたか。」「いや。部族の風習だ。」「では、恐れる必要はありませんね。」凪は特に気負うでもなく言い切った。「刺青の1つや2つで人間でないか、そうでないか。それで人の在り方など変わりはしません。少なくとも私達はそう思っています。・・・高順殿も、同じ事を言うのでしょうね。」「・・・そうか。確かに高順もそんなことを言っていたな。いや、済まなかった。」そこで、凪は沙摩柯に杯を差し出した。中には酒が満たされている。「凪、これは?」「乾杯のつもりです。」「・・・なるほど。」沙摩柯は杯を受け取る。。「だが、何に乾杯なんだ?」「何でも良いでしょう。・・・ならば、我々と、貴方達の出会いに。」「そして、今日という日に。」沙摩柯は自分の杯と凪の持つ杯に重ねた。こつん、という音がして中身の酒がそれにあわせて揺れる。2人は中身の酒を一息で飲み干した。「旨い酒だな。」「ええ、本当に。」高順が真桜と沙和に無理やり酒を飲まされ昏倒し、凪が2人に説教食らわせたりと一波乱あったものの。臧覇も高順や3人娘によく懐いたし、沙摩柯も3人娘と飲み比べをしたり。2人にとっては久々に楽しい時間だったようだ。夜も更けてきた頃、あまり長居しては迷惑になるだろうと考えた沙摩柯は臧覇に「そろそろ帰ろう」と言った。「えー、もっと遊びたい。」「我侭を言うんじゃない。高順たちに迷惑だろう?」「うー・・・。」嫌がる臧覇を沙摩柯は宥めようとする。「えー、ええやんかー。今日は泊まっていきーやー。」臧覇を援護するように真桜がそんなことを言い出す。「なー、凪ー、沙和ー?別に構へんよなぁー?」「酔っ払いめ・・・。まあ、私は良いと思うぞ。」「沙和も良いと思うの・・・うぅ、飲みすぎたかも・・・。」「しかしだな・・・。」そこで、昏倒していた高順が頭を振りながらやっと起きてきた。「ぬぅ・・・これだから酒は・・・くそ、途中で記憶が抜けてるよ・・・。」「あー、おはよー高順にーさん。」「おはよう、じゃないよ。無理やり酒飲ませて。」げんなりする高順の姿を見て真桜は「にゃはは」と笑う。「そうだぞ、真桜。高順殿は酒は苦手だと前から仰ってただろう。」「固いこと言いなや。あ、んなことよりもやな。」「んな事とか言われた・・・。」「沙摩柯はんと臧覇ちゃん、今日ここに泊まりたい言うとるんやけど。」「お、おい!私はそんなこと一言も言ってないぞ!?」「なっはっは。むしろ住みたいとか言うてたでー。」「言ってない!おい、高順!嘘だからな、信じるなよ!?」必死に否定する沙摩柯と、からかってるような言い方をする真桜。だが、高順は。「ん、住んでもらおう。了承。問題なし。」「は?」(真桜「へ?」(沙和「え?」(凪「何!?」(沙摩柯「?」(臧覇凄まじくあっさりと許可を出してしまったのであった。(沙摩柯と臧覇の意思は無視。「おい、高順!?」「高順兄さん、決断速っ!」「沙和も驚きなの・・・。」「高順殿・・・。いきなり何を?」「え?何?何?」5人が5人、別の反応を示すが高順はこともなげに言う。「だってさー。さっき沙摩柯さんの住んでる場所見せてもらったんだけどさ。あれはキツイって。無理。」「無理って何が!?」「凪たちは見てないから解らないだろうけど。あれは酷いよ。沙摩柯さんだけなら耐えられるかもしれない。でも臧覇ちゃんにはきつ過ぎる。」「それは・・・しかし、私達には他にいくところが無いんだぞ?」「だからここに住めば良いのです。あんな劣悪な環境だと臧覇ちゃん、大変なことになりますよ?」「いや、しかし。」「沙摩柯さんだってそうはなって欲しく無いでしょうに?」「それは・・・そうだが。」高順は矛先を変えて3人娘のほうへ向き直った。「皆はどう思う?」「うち?かまわへんで?」「沙和も問題ないの!」「私も構いません。」こちらはあっさりと了承してくれた。「なあ、臧覇ちゃん?今住んでるところの生活は苦しくない?」「え?辛いけど・・・。沙摩柯お姉ちゃんいるから平気だよ!」この言葉に、その場にいた一同が「良い子だなぁ・・・。」と思ったとか。その後もあーでもなこーでもない、と色々議論を重ねた結果、2人はこのまま一緒に住むことになる。ただし、沙摩柯も臧覇も、何らかの形で働くこと。これは彼女達のほうから言い出したことで、その点に異論は無い。ただ、沙摩柯は刺青の問題があって稼ぎは少ないし臧覇はまだ幼い子供だ。どうするべきかな?と考えた高順だったが、すぐにあることを思いついた。臧覇は、沙和に家事を教えてもらい文字の読み書きや数字計算を覚えてもらう。これは最低限の一般知識を習得してもらおうと考えたからだ。そして沙摩柯だが・・・彼女は馬術、あるいは馬上戦闘の達人であるようだ。普通の歩兵としての能力も高いが、その辺りに注目して3人娘の馬術の指導を頼んだのである。彼女らは歩兵としての戦闘力は高いのだが馬上戦闘は普通よりも多少上、と言ったところだった。自分が教えてやれば良いのかもしれないが、何せ乗っている馬が虹黒では手本以前の問題のような気がする。その辺りをどうやって教えればいいかと頭を悩ませてもいたので、好都合といえば好都合だった。指導時間は・・・彼女達も自分も普段は仕事をしている。なので、「休日」に指導をお願いすることにした。これは高順なりに考えたことで、週休2日制を実施している。5日間働き、あとの2日は身体を休める。或いは鍛錬を行う。といった感じだ。その2日間に出来る限り馬術を教え込む。勿論身体を休める時間程度は作るが。その案を提示したところ、あっさりと了承を得られた。「じゃあ、明日が休日だからそこからお願いしよう。」「ああ、構わない。・・・ふむ。馬術か・・・。」「どうかしました?」「いや、1人馬術を得意としている知り合いがいてな。あの場所にもう1組住んでいると言わなかったか?」「・・・ああ、確かにそんなことを言っていたような。」「気心が知れた仲だし、あいつは私よりも気性が柔らかいからお前たちとも気が合うだろう。あいつも呼んでやりたいが・・・しかし、高順たちの負担を考えるとな。」「ふーむ。」悩む沙摩柯を尻目に、高順はまた3人娘に聞いてみる。「てな訳でもう二人増えそうですが皆さんどうでしょう?」『問題なし。』(断言「だ、そうですよ、沙摩柯さん。」「・・・お前達の常識を疑いたくなってくるよ。」ふぅ、とため息をつく沙摩柯。「そういうことなら、明日連れてくるよ。ただ、馬はどうするんだ?」「明日買いに行けばいいでしょう。この街なら良い馬の1頭や2頭くらい、すぐ見つかるでしょう。」「いや、そうじゃなくて、金はどうするんだ?」「俺が出しますよ?」「・・・そ、そうか。お前、どこぞの資産家か何かなのか?」「そういうわけでは無いですけどね。まぁ、金なら・・・また無駄に貯まってるのかもなぁ。」どこか遠い目をして呟く高順。沙摩柯は意味が解らず首を傾げるばかりだった。そして、夜が明けたころに沙摩柯は2人の客を連れてきた。2人とも性別は女。1人は沙摩柯と同じように、成人した女性。もう1人は臧覇と同じく幼い少女。「は、初めまして・・・。」「はじめまして!」女性は少し気弱そうに、少女は元気よく高順に挨拶をした。「初めまして。沙摩柯さん、このお二人が?」「ああ、そうだ。・・・ほら、自己紹介を。」「あぅ・・・。」「お前の気の弱さは知ってるが、それくらいは自分でやれ。ほら。」「わ、解りました。」女性はその場に跪き、少女も真似をする。「わ、私は蹋頓と申します!」「私は丘力居だよ!」・・・どさっ。2人の名を聞いた瞬間、何故か高順はその場で気絶したのだった。「ええっ!?ど、どうかなさいましたか!?」「おい、高順!?どうした、何があったー!?」神様、何でこんな見目麗しいお姉さんばっかりなんですか・・・。しかも何か色々と間違っている気がします、むしろこの2人の立場が逆でいいんじゃないでしょうか・・・・・・?もう慣れたと思いつつも、やっぱり慣れません。誰か助けて・・・。薄れていく意識の中、自分を取り巻く状況に絶望(?)する高順であった。~~~楽屋裏~~~今回も面白い要素があまり・・・なんで難産って続くのでしょうね。あいつです(何挨拶さてさて、今回は2人・・・いや、実際には4人ですが高順と共に三国時代を駆ける人々が増えました。解らない人もいるかもしれないので読み方を。沙摩柯→「しゃまか」、あるいは「さまか」 私はしゃまか、と読みますが。臧覇→「ぞうは」蹋頓→「とうとん」、あるいは「とうとつ」丘力居→「きゅうりききょ」丘力居、舌をかみそうな名前ですwさて、不要かもしれませんが少しだけ解説を。高順が言った「むしろこの2人の立場が逆でいいんじゃないでしょうか」というものですが。蹋頓は丘力居の甥か何かだったと思われます。丘力居が亡くなった時はその息子が幼かったので代わりに蹋頓が一時的に勢力を引き継いだ、ということですね。なので「逆でいいのでは?」と思ったのでしょうね。作者は「同じ一族なので登場させた」というだけです。イメージとしては戦闘力を考えるとどうしても蹋頓のが上に思ってしまうので逆の立場になった、という感じですwそれじゃ、何で沙摩柯が臧覇と一緒にいるんだよ、ということなのですが・・・すいません、深く考えませんでした(おい他の異民族の方を出そうとも思いましたが・・・あまり出すのもどうかなぁ、と思ってこのような配役に。申し訳ありません。さて、徐州編は次くらいには終わると思います。彼女らを出したかっただけ、というのがありm(拉致彼らが次に向かうのは何処になるのやら。それではまた!