【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第125話~~~高順が交州へ帰還する数週間前~~~「はぁ~あ・・・」劉備領、長沙。城のとある一室にて、関羽が物が散乱した机に突っ伏して盛大な溜息を漏らしていた。劉備達が出撃してから、彼女は長沙と桂陽という二大都市を預かり治めている。ただし、その前途は暗い。暗いどころか詰んでいると言っても差し支えない。何せ劉備や諸葛亮が軍備を整える為に無理をしたせいで金が無い。桂陽はともかく、長沙は規模の大きい都市で人の出入りも多く、それ故に金も集まる・・・と、いう事で無理をしたのだろうが、それでも金が足りないのだ。劉備は益州全土こそ奪えなかったが、北部に入って領有化したという報せはあった。しかし、そこに至るまでの連絡路の作成もやらされる流れで、ただでさえ足りない資金をどう調達しろと言うのだろう。明らかに(自身のやり方に反発された)諸葛亮の嫌がらせである。しかも、荊州で得た人材の殆ども益州へと連れられて行って、人材不足もいいとこだ。政務は得意と言えないが、それでもやるしかない、と関羽は慣れない仕事を何とかこなし、手元に残った人々も努力してくれているおかげで、何とか現状を維持。桂陽などはかろうじて残ってくれた王甫・趙累(おうほ・ちょうるい)を政務官として、武官としてはやや頼りないが胡班(こはん)と廖淳(りょうじゅん)を派遣している。問題はここ、長沙である。曹操・馬騰・孫策に囲まれている状況だ。今は曹操のみだが、劉備が下手な真似をすれば東西南北全てに敵を抱える事になる。そうなれば西から馬騰、南から高順がノリノリで攻め込んでくるのだろう。金も無い、兵士も少ない・・・どう考えても詰んでいる状況だ。劉備の動向次第で余計に悪化することもあり得る。それら諸々を考えると、関羽が溜息ばかり吐くのも仕方が無いと言えるだろう。どうすれば良いのだろうか、と突っ伏している関羽だが、部屋の扉を「とんとん」と叩く音が聞こえた。「どうぞ・・・」「邪魔するぞ」入ってきたのは華雄。関羽の元に残った人材の中では疑う事無く武官のトップである。彼女はお盆を持っており、そこには幾つかの肉まんが乗った皿と水の入った木杯。ほかほかと湯気を立てて美味しそうな匂いがする。その匂いに「むくり」と顔を上げる関羽。「腹が減ったろ、少し休憩したらどうだ」「・・・うん」素直に首肯する関羽の机にお盆を載せ、自身も1つだけ肉まんを手にそこらの椅子に座る華雄。関羽は、頂きます、と言い置いてから肉まんをほお張る。全て食べ終え水を飲み干して、関羽はご馳走様でした、と言い、再び溜息を吐く。同じく食べ終わっていた華雄は「おい、どうした」と苦笑する。「私達の置かれた状況が、想像以上に酷いんだなぁ・・・と思うとな」「金が無い、食料が無い、兵士も少ない、か? まぁ・・・税収があっても、ほとんどが借金返済に消えているのは確かだな」んー、と関羽は気の無い返事をして、華雄を見やる。正直、彼女とその部下はよくやってくれている。華雄と、その部下である徐栄は無くてはならない武の要だ。それだけ重要な存在なのに、それに見合う給金を出す事ができない。武将としては関羽に少し及ばず、武人としては張飛に劣る華雄だが、逆を言えば武将として、部将として、関張2人に追随できる能力。それだけの能力を持つ華雄だ。もっと良い条件で雇ってくれる・・・孫家か曹家しかないわけだが、その2つのどちらかに鞍替えされても仕方が無い。なのに、彼女は特に不満を言うでもなく残ってそのまま働き続けている。それも、ほとんど無給に近い状態で、だ。華雄の兵達も南荊州防衛部隊の要だが、やはり大した報酬は出ていない。もっとも、彼らは華雄に古くから従う古参兵。金だけではなく、信頼という結びつきが強いのだろう、と関羽は思っている。有り難い事だ、と関羽は本心から華雄らに感謝していた。「税収があっても、ほとんどが返済で消える。農作物の収穫も、兵たちに食わせるギリギリを維持して他は金に換えないといけない。兵を増やせない、軍需物資の蓄えも最低限で周りは敵対勢力ばかり。」「劉備や諸葛亮のせいだがな。確かに、酷い状態だ」「なあ、華雄。」「ん?」「どこかに、人材はいないものかな。人が足りなさ過ぎる・・・」「・・・・・・と、言われてもな。どんな人材が欲しいんだ、お前は」「武に関しては、私やお前がいる。今すぐ戦争と言うわけじゃないから、参謀は・・・いて困るものじゃないけど。一番欲しいのは政務に長けた奴、かな」「更に付け加えるなら金を生み出せる、か・・・ふーん」「荊州で得た人材も殆ど益州侵攻に狩りだされてしまって現状維持するのにギリギリな状況・・・はぁ・・・・・・」また、書簡やら木簡やらで散らかっている机に突っ伏してしまう関羽。(政治能力、というよりも・・・金、ねえ・・・)華雄は、うーん、と唸って暫くしてから「・・・・・・・・・・・・一人」と切り出す。「ん?」「そいつは商人だが、この地に一人・・・心当たりがなくも無い。凄く嫌だが」「嫌って・・・何かあるのか?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」「・・・・・・何があったんだ・・・?」「触れないでくれ」「・・・??? よく解らないが、頼めるなら頼みたいな」そんな流れで、華雄が呼びに行ったのは。「ご用命、ありがとうございまーすっ!」廖立であった。(その隣でひらひらの服を着せられた華雄がちょっと泣いていた)「それで、この子がそうなのか?」関羽は、少し訝しげに廖立を見た。年のころは十代半ばくらい。商人のようだが、華雄が言うのだから人材としては間違いないのだろう。「ああ。・・・ぐすっ。この街で商いをしている娘でな。お前は会ったことがあるかどうか知らないが(着替えた」「そうか。政商という事になってしまうが・・・仕方ないな」「華雄お姉様から話は聞かせていただきました。色々、とくに資金面でお困りだとか。もっとも、私も資金面で融通はしているので知らないわけじゃありませんが」「ん、ああ。だが・・・うーん。どうすれば良いのか、方策を聞かせてもらえるだろうか」「その前に、1つ・・・いえ、2つお約束していただきたい事があるのです」「約束?」「はい。私は商いをしております。劉備様や貴女様にお力添えするのは、私の「これからの」商いに大いに役立つと思うからこそ・・・です。そこは解っていただけますよね?」にこにこと笑う廖立。関羽もすぐに意図を察して「解った。お前が結果を出せたら「色々と」便宜をはかる。それで良いかな」「はい♪ あと、もう1つ。現状での資金の流れ、兵の数、食料の備蓄など「金に関わる事の全ての情報」を嘘偽りなく教えていただきたく存じます」「しかし、それは・・・不味くないかな」「お金の流れを掴んでおかないと、おかしな所で足を掬われかねません。劉備様が借金を頼んだ者は皆、私も含めて利を尊ぶ俗物で御座います。僅かでも返し損ねると、そこから付け込んで来ますよ? 今の私のように」にっこりと笑いつつ、とんでもない事を言い出す廖立である。が、これは皮肉でもなんでもなく、彼女なりの忠告である。借りを作ると、そこを名目にしてあれこれと言い出す輩は多い。年若いとはいえ、商人として生きてきた廖立にはそれが身に染みている事柄なのだろう。「私がそのような流れを知って、それが他に流出、という事を懸念していらっしゃるのですね。ですが、残念ながら売る相手がいません。」売れる物は売りますが、売れないモノは売りようが御座いません。と廖立はまたしても笑う。売ろうにも買い手がつかないようなものを欲しがりはしない、と言いたいのだ。事実、情報としても他の勢力は欲したりしないだろう。関羽も暫く考えた後で「知られてしまったところで、今以上に困ることは然程無いか・・・」と決断して、全ての帳簿、それこそ借用書やら何やら全てを集めに走った。~~~間~~~「これは・・・また、何と言うか・・・酷いですね、うん。ちゃんと返済の当てがあったのかと疑いたくなるほどで」「そうか、酷いか・・・」「・・・(しくしく」廖立は資料の山相手に格闘し、ようやく状況を把握した所で、げんなりとした表情であった。華雄、関羽の反応も「やっぱりなぁ」みたいなものである。関羽に至っては涙目というか、ちょっと泣いてしまっている。(はぁ。ここまで酷いなんて・・・少し不味いなー)劉備も諸葛亮もきっちり考えて借入れたのか、と問い正したくなってくる。益州を奪えば返せたかもしれないが、それにしたってこの額は、と廖立はがっくりしている。これは、自分が力添えしても手に負えない。廖立はまず利率の高いところをまず返済して、良心的な形で貸してくれた所に絞り長期的に返していこう、と思っていた。(ところが、利率の高い部分が予想以上。これだけ借りれば信用なんて無い、かぁ・・・う~。)どうすれば良いか困るわけだぁ・・・、と廖立ですら頭を抱えたくなるレベルだった。「もう、こうなると・・・他からお金を借りるしかないですね。私も出来る限りの資金は捻出致しますが、それでも足りません」「? 他ってどこだ。もうここには金を出してくれそうな商人などいないだろう? 心当たりも無い」「そうですか・・・華雄お姉さまはどうでしょう?」話を振られた華雄は、また「うーん」と唸って暫くしてから「・・・・・・・・・・・・無いわけじゃないんだけど」と切り出す。「纏まった金。纏まった金を貸してくれそうな奴・・・・・・。・・・無いことも・・・無い」関羽と廖立は顔を見合わせてから「誰?」と問う。~~~交州~~~「はふー。やっと終わったかぁ・・・」机に突っ伏している高順と、彼に「お疲れ様でした」と言う劉巴。あれこれと溜まった決済やら何やらに承諾したり拒否したり。実務はほとんど劉巴が執り行うので良いのだが、それ以上の案件となると高順の裁可が必要となる。特に、交州太守と言う立場から見ると困った案件。「関羽がこちらに接近? 何でまた」「兵数は500ほど。こちらとの国境付近で進軍を止めて通行許可を求めております。数も少なく装備も貧弱との事ですから戦を仕掛けに来たわけではないでしょうが・・・どう対処なさいます」劉巴の問いに、高順は「んー」と少し考え込む。「・・・なんだって南に来るのかね? 劉備のほうへ行くなら西だと思うけど。俺に用事があるって事だよな、多分」「恐らくは。」「関羽の他に、どんな人がいたのか解るかな?」「伝令の見聞故事実かどうかまでは判断いたしかねますが、華雄、と言う女性の武将g「よし行って来る。宴会の用意しておいてくださいねー」え!? ちょ、まっ」いやいやいや! 何ですかそれ!? えらく判断早いですね!? いや、どう言う判断基準で会うかどうかを決めてるんですか太守様!? と高順の服の裾を掴んで止めにかかる劉巴。劉巴の気持ちは解らなくもないが、時間が残されていない高順にとってこれは中々訪れない好機。華雄をこちらに引き込めれば、或いは糸口を掴みさえすれば、後は曹操の元に居る家族と干禁を取り戻すという事に集中出来る。逃す手は無い、と高順は自ら行こうとしたのだが・・・「太守様! たーいーしゅーさーまー!! 向こうから会いたいと言って向かっているのですっ、向こうが来るまでお待ちになっていてください! 周倉殿、貴女も手伝いなさい!(引きずられ」「え、あ、ああ」高順の側に控えていたものの、話の流れに付いて行けていない周倉がわたわたと高順を抱きかかえ、そこでようやく動きが止まる。「いや、でも」「でもじゃありません! 此方の方が立場が上です、わざわざ迎えに行く必要など無いのですよ。」劉巴の言葉に、高順は「ぅむー」と不満そうにしているが、彼女の言う事は事実だ。孫家経由であっても漢から交州の統括者・将軍として位を授かっている彼の位は関羽より数段上。関羽は劉備が左将軍に任じられた時に、曹操に気にいられて偏将軍・漢寿亭侯を漢王朝より拝領していたが、高順はその関羽より上位に位置している。それがわざわざ自分から出迎えに、というのは余程相手に敬意を抱いていない限りはしないものだ。仕方なく返答の使者を返してから宴席の手配をする高順であった。あと、心なしか肩が落ちていた。それでも、その後に交阯付近に来た関羽(というより華雄)らにこちらから迎えをやり、それなりの礼儀を以って迎えたのであった。~~~城内、宴席場にて~~華雄が来る、という情報は高順一党には知れ渡っており、趙雲ら主要な人々は歓迎の意思を示している。彼女達にとっては久々の、しかも華雄を迎えての大宴会。盛り上がらないはずが無い。周倉は話をした事がなかったが、ここで大いに意気投合していた。ここでは暗殺されるような心配も無いから、羽目を外しても良いよ、と言われて久々の大酒を食らってご機嫌である。劉巴ら、新参の人々は華雄の事を知らないのだが、高順の義姉という話を聞かされて「それなら問題は無い」という認識だ。一部、関羽側で城の寸法を目測で測っている者が居り、それには劉巴も高順など多くの人が気付いたものの結論としては「放っておけ」となった。劉巴は一人危惧して、酒(というより水)を注ぎに高順の元へ行き話をしたが、問題は無いと返されている。「あいつらが攻めて来たところで何ほどの事も無い。何かの役に立つかも、と調べてるかもしれないが、劉備が攻めてきたところで怖くないさね」と、余裕すら感じさせる。確かに、劉備の周りはともかく本人の軍事的才能の無さは知れ渡っているし劉備達も南方を攻める理由は無い。それならば宜しいか、と劉巴も納得した。ともかく、関羽が引き連れてきた兵士も酒食が振舞われ、一応は関羽も歓待されている形である。上座に据えられた関羽の相手をしているのは同じく上座の高順。・・・解りやすく言えば、軽くイビっていた。「北平では頭を握りつぶされそうになりましたな。ははは、懐かしい」「は、はははは・・・」「徐州でもお世話に な り ま し た ね。そのせいで家族とも離れ離れですよ。ははは、全く」「・・・あ、あははは」引きつった笑みを浮かべるしかない関羽である。しかし、イビリはこれだけで後は取り留めの無い話に終始した。関羽が自らやってきた理由はこの時点でそれなりに解っていたし、後で話せば良い事だ、と高順は問題視していない。折角の宴席なのだ。警戒するに越した事は無いもののピリピリしては息が詰る。楽しむべき事は楽しむべきと割り切って、高順は(周りが思う以上に)関羽に対して好意的な姿勢だった。華雄も関羽もこれからの事を考えて飲酒は程ほどにしていたが、他の人々(特に趙雲)も彼女達に好意的な態度であった。宴会の終了後、片付けは他人に任せて高順は関羽・華雄・廖立と、劉巴を客間に連れて行き話を聞いていた。廖立の事は来訪と同時に聞いており(諸葛亮に罷免された廖立か・・・そこまで性格が悪そうには見えないけどな)と思いつつ、自分から話を切り出した。「そちらの要望は?」「解りやすく言えば、金を貸して欲しい」「本当に解りやすい・・・理由は解っているつもりですが、一応聞かせてもらえますかね?」かくかくしかじか。(いやー実は主君と軍師が度を越えた身の丈にあわない軍拡しちゃってさー。テヘペロ。あ、これ借金した額ね)かゆかゆうまうま。(神算鬼謀の軍師とは一体何だったのか。・・・ちょ、おま、何この額!? 5万の兵集める事ができた理由これかよっ)「まあ、そんなこったろうとは思いましたけどね」「・・・(しゅーん」呆れたような高順の物言いに、関羽はしょぼくれる。借金というのは借りる関羽に分の悪い話なわけだが、ここで廖立は(何とかして良い条件を引き出さなくては。宴席では少ししかお話できなかったけど、どんな人か見極めれば)と意気込んでいた。華雄の弟のような存在、という事を今回の件で知った廖立だが、高順の事は悪い人ではないだろう、くらいには考えている。華雄から話を聞いたし、内容を信じるなら優しくおおらかで、金銭には恬淡としていて、使い所には躊躇無く使う、という話だ。が、これだけ大きな都市を預かる立場だ。それなりに腹黒くないと立ち回れないこともあるだろう。ある程度人となりは理解できたが、もう一歩がつかめない。劉備の話になると機嫌を悪くするくせ、やっている事には一定の理解を示したりもする。「天下泰平を願うなら曹操殿か孫策殿に臣従すりゃいいんだよ」と言うし「弱小の立場で大きな獲物を仕留めたいなら形振り構っていられんよな」とも言う。掴み所を見つけてそこから切り込んでいこう。と思う中、関羽と高順の話は続いている。それを聞いているうちに、高順の表情があからさまに不機嫌になっていくのが見て取れた。隣に立っている劉巴の表情は変らず、何を考えているかは解らない。高順が不機嫌になっていった理由は簡単で、諸葛亮が関羽に無茶振りをした事についてであった。ただし、関羽本人には悪い印象が無いらしい。徐州では自分から「仲良くしたい」と言ってきたし、先ほどの宴席で、華雄経由だが荊州での劉琦暗殺を糾弾したとも聞く。借金返済、外交の禁止、軍備は増強しろ、益州との連絡路は作れ等、どう見てもそれに対しての嫌がらせでしかない。(実際、諸葛亮は政敵なんかには陰湿陰険でえげつない事やってるからな。こっちでもそういう性格が発揮されてんのかね・・・?)敵ならともかく仲間内でやる事か? と、同じような事を体験した立場から苦々しそうにしている。仲間にまで手段を選ばんようでは劉備本軍も危ういな、と高順は見なした。ここで、今まで黙っていた劉巴が「貸したとして、それでこちらが得る利益は?」と口を挟んだ。「そちらの言い分は解りました。しかしながら、そちらからの条件が何も提示されていない。まさか、タダで金を貸してくれとは言いますまい」「当然、ある。それは」ちら、と華雄を見て関羽は続ける。「華雄をそちらに。高順殿にとっては良い条件だと思うが」「太守様。そのように申していますが」「ほー」前述の通り、高順にとっては破格とも言える条件。それに比べれば関羽達の言う借金など軽い額だ。が、しかし・・・高順は、その時に見せた華雄の表情が曇ったのを見逃さなかった。いや、関羽も廖立もだ。皆、表情は悲しそうである。こんな事を言い出したのは華雄姉さんだな、と当たりをつけて「こちらにとっては最高の条件です。だからそちらも最高の条件で借りたい、と。で?」と問う。「え?」「肝心の華雄姉さんはどうしたいのです」「っ・・・」皆に注目された華雄は、顔を伏せた。どう思っているのか解っていて、高順は話を続ける。「それで良いと言うのなら俺も構いません。華雄姉さんを取り戻せば心配事は減るし、安心は出来る。ですが、身売りそのものです。だから、本人の意思は聞いておきたい。」貴女は、どうしたいのです? と高順は重ねて聞いた。「私だって、お前達の元に帰れるのなら帰りたい。だが、関羽は・・・愛紗も私の友、仲間なんだ。勿論、廖立だって。」この一言で、関羽は手を硬く握り、廖立も下唇を噛んだ。劉備に囚われた時、劉備も最初からそのつもりだったが、関羽は「華雄を武将として扱って欲しい、捕虜にしておくのは明らかに勿体無い。死なせるなどもっての外」と熱心に弁護していたりする。性格上、自分から話す事は無かったがそういう類の話としてどこかから華雄に漏れていたようだ。これからの高順との関係を良く出来るかもと見越しながら、関羽は心底から華雄を友人、仲間としての関係を構築していた。なら、何故来たんだ? と思うのだが言いだしたのは華雄で、複雑な思いを抱えているのに高順の念押しで余計に心が揺れてしまった、といったところか。関羽と廖立も内心では関羽を売り渡す行為と、それによって獲られる物を天秤にかける行いに自己嫌悪し、しかしどちらが良いのかも決めかねていたが、彼女の一言で心が決まったようだ。「高順殿。この話、申し訳ないが無かった事にして欲しい」と関羽が立ち上がった。内心、私が馬鹿だった、友人を売り渡すなんて。と思っているのだろう。「お、おい。けど、それじゃ」という華雄を関羽は制する。「宴席まで設けてもらったのに、申し訳ない。費用は後で払わせていただく」「借金はどうするおつもりかな」「必ず何とかする。すぐに帰還する。迷惑をかけてしまい、すまない。廖立、悪かったな。折角交渉をする為に来て貰ったのに」「え、いえ・・・ですが、良いんですか?」「ああ。では、我々はこれで」本気で帰ろうとする関羽達を、高順は「待て待て」と引き留めた。「まあ、待て。そんなに急ぐ必要は無い。つか、宴席終わった後直ぐに帰るなよ、兵が泣くぞ? 今日は素直に泊まっていけ」と高順は言い、話は一旦お開きという流れとなった。関羽らが引き上げた後、劉巴に「どうなさるおつもりです」と質されるが、高順は「劉巴殿、1つ仕事が増えてしまいました」とすまさなそうに笑うのだった。~~~翌日~~~高順は、すぐに帰る、と言い続ける関羽を「まぁまぁ」と宥めつつ、劉巴、華雄、廖立・・・昨夜のメンバーと共にとある倉の前にいた。警護の兵が多数居る中、劉巴が錠を開け「どうぞ」と中に入るように促す。『・・・はー・・・・・・』高順と劉巴以外の3人が、倉の中に積み上げられた宝物を見て・・・何か、言葉も出ないらしい。そして、次の高順の発言に、3人は完全に固まる事になる。「この倉の中にある物、全部使ってください。」『!!!!????』「足りないなら他の倉の中身も使っていいよー」「え、あの・・・いや、おかしくないかそれ!?」「何がですか、関羽殿」「倉の中身全部使って、もだがこれと同じような倉がまだあるのか!? どれだけ貯め込んで・・・」「・・・いくつありますっけ、劉巴殿?」「ご自分で確認なさってください。1つや2つではない、と申してはおきますが」「そっか。うちは稼ぎ頭が半端じゃない稼ぎ方してくるからなー。」「この地は交易・・・人・物の流通が中央と比べても遜色ありません。無駄な支出さえなければ貯まるのは当然ですね」(絶句)この倉の中身だけでも、借金返し終えてまだ余りそうな気がする・・・と、3人は呆然としていた。「で、どうします? 足りなければまだ増やしますが」硬直している華雄に、高順は「まだ必要?」と話を振る。「い、いや・・・でも、良いのか? 私は・・・」「当然。って言っても、条件付です」「条件?」「ええ。そっちの居心地悪くなったら、いつでも帰ってきてくださいねー。そんだけ」「は? それだけ?」「それだけで充分でしょう。華雄姉さんが帰ってこれる場所と理由、道筋は作れたわけです。帰ってきて頂ければこちらとしては最善ですがね」本人嫌がってるのに無理強いはね、と付け加える。「高順、お前・・・」「これでも及第点ってところ、ですがね。それでも俺からすれば上々な結果です。・・・さて、関羽殿。これを貴女に渡す条件です」「え、私にもあるのか?」「このまま渡せばそっちにも悪影響出るでしょ、外交禁止なんだから。まず1つ目、これはあくまで「俺と貴女の個人的な」金のやり取りです。これが孫家にばれたら・・・俺よりもそっちのが苦しくなるでしょうし」「あ、ああ」「2つ目。これはあくまで荊南2都市で使う資金です。劉備の元に送るの禁止。3つ目。これを受け取った時点で立場上、こちらが上位になる。友好関係でも対等とはいかない」「む、良いだろう・・・場所柄、向こうに送る事は難しいし、借りを作ったのは事実だ。他には」「そっちが望めば、追加は出す。あんたらに滅びられたら俺も孫家もそれなりには困る。馬家の義母上の重圧も増えるからな。」「良いのか?」「良いも悪いもない。言ったでしょ、今滅んでもらっちゃ困るって。それともう1つ。俺は関雲長は支援しても劉玄徳を支援するつもりはない。貴女に金を使う事はあっても、あいつらに使われる金なら返してもらう」「・・・徹底してるな。2つ目の条件と被っているが、そこまで桃香様がお嫌いか」「認めん訳じゃないが、やり口が気に入らん。大体徐州を追われた事と、華雄姉さん・・・俺の家族・仲間が引き離される最大原因が彼女だ。恨みは消えていない。関雲長は、向こうよりは信頼できると踏んだ。だから支援する。」「そうか・・・だが、感謝はする。そして、条件も全て呑む」「なら成立。ま、何だかんだ言っても外交だわな。文書も無い口約束に過ぎんと言っても」「違いない」二人は笑い、そして握手をした。と、ここで廖立が「あのぉ~・・・」と控えめに発言をする。「何か?」「ええとですね。その、利息と返済期限についてが明らかになってないので、それを窺いたいと思いまして・・・」これに、関羽と華雄が「あっ」と声を出した。忘れていたのだろう。「利息と返済期限・・・?」「はい、こちらとしましてはー・・・出来るだけ安く、長い期限を設けていただければ有りがたいな、と」「・・・えーと」「勿論、借りた以上はお返しいたします。利を尊ぶとは言え、理を知らないわけじゃないですから! 信頼関係がなければ、これ以降良い関係が築けるわけも・・・」「・・・。あ、あー。成程。勘違いしてるな、廖立殿」「へ? 勘違い、ですか???」「いや、なんで利息とかの話になったのかなと思ってな。これ、貸したんじゃないぞ」「え?」「あげたんだよ」『えっ』「あげたの。」『・・・・・・・・・・・・』これを? 再び絶句しながら倉の中身を見上げる3人と、その様子を見て一人溜息を吐く劉巴。(もしかして・・・必要だったのは下手な小細工とかじゃなくて・・・)素直に「困っています、助けてください」とお願いする事だったんじゃないかなぁ? と恐ろしいものを感じる廖立であった。それから関羽達は数日間、交州に滞在していた。というのも高順が、関羽が伴ってきた兵の装備が整っていないのを咎めたからだ。「あんたの連れてきた兵、主力部隊の一翼を担うんだろ」と。主力は華雄・徐栄率いる部隊だが高順の言う事も間違ってはいない。荊州で得た兵だが、華雄や関羽が鍛えており弱くは無い。それがボロボロの鎧(中には其れすら無い)だったりして、見てくれが宜しくないぞ。と文句をつけたのである。「武具を調達するから少し待ってろ。あと、あんたらの馬もくたびれている。ちゃんと世話してんのか?」「う・・・それは・・・」「金が無いから飼料までケチったのか? 馬の事を考えてやりなよ。」「面目無い・・・」「虹黒みたいな強靭な馬ならともかく。そんなボロボロなのに酷使してやるな。馬が可哀想だ・・・ったく、もう」そう言って、ここにはいない徐栄の分も含めて駿馬30頭ほどを武具一式も含めて関羽に与えてしまった。支援された方が「何故こうなった」と思うほど、なにくれとなく面倒を見ている。彼女達は本当に申し訳なさそうにして、高順の厚意に何度も感謝して(来た時よりも豪華な装備で)長沙へと帰って行く。その折、別れの場で華雄は高順を「ちょいちょい」と手招きし、何かあったのかな、と近づいてきた高順を首を抱き抱えた。「ちょ、おおっ」(おい、弟)何? 何なの? 絞め殺されるの俺!? みたいに慌てふためく高順に、華雄はぼそぼそと耳打ち。(お前、病かどうかは知らんが、身体の調子が悪いだろう)(・・・っ、何故それを)(それくらいすぐに解る。この数日間、ずっと具合が悪そうにしていた。趙雲達もな、まず気付いているぞ)(え、本当に? 俺ずっと隠してるんですけど)(お前なぁ・・・あいつら、気付かない振りしてるだけで、自ら聞くのを遠慮してるだけだ。性格の問題もあるだろうが、お前から話してくれるのを待ってるんだよ。あいつらが気付いてるなら蹋頓もだろ)(うー・・・)(直ぐに話せとは言わん。でも、少し情勢が落ち着いたら話してやれ。あいつらも不安なんだよ。お前、体の傷が治りかけでも無茶ばかりしているからな。)(・・・・・・義姉さんには、本当に敵いません・・・)(当たり前だ、お前の義姉だからな。姉の癖に弟にたかる駄目姉だが)この言葉に、高順は「ぶふっ」と噴出していた。「ぷっ・・・くくっ」「ふ、あっはっはっは」堪えきれなくなったのか、二人は大声で笑っていた。周りに居た人々は「何だ?」と怪訝そうにしていたが、二人は構わず笑っていた。帰路、関羽は華雄に「さっきは何を話していたんだ?」と質問をした。「ああ。そろそろ子を設けて顔を見せに来い、と」「そうなると、お前は伯母さんになるんだな」「・・・お、おばさん」関羽は別の事を話していたな、と解っていて華雄の言葉に乗ってやったに過ぎない。しかし、おばさん、という一言は華雄にとってかなり効いたらしい。おばさん・・・そうか、おばさんか・・・同じ齢くらいの連中に姐さんと呼ばれ今度はおばさんか・・・ブツブツと呟く華雄に、関羽は「あ、なんか痛い所突いたっぽい」と少し後悔した。関羽を見送った後、城の自室へと歩いて行く高順と周倉の後を歩く劉巴は「太守様」と話しかける。「何でしょう」「華雄殿が太守様にとって大切な存在と言うのは解るのですが。今回の件はやりすぎでは」周倉は何も口出しをしない。これは大将と太守代理の話、と決め込んでいる。「与えた金の事ですか? それとも孫家に睨まれる?」「両方です。関羽が敗北したら馬騰殿やここも危ないのですから、支援はまだ良いかもしれません。しかし、華雄殿お一人の為にあそこまでする必要は・・・」「出しすぎかな? あれ、孫権殿から頂いたご褒美が含まれてるからなぁ。そこまで痛手じゃないでしょ?」「そういう問題ではありません。私や許靖が同じ立場で同じように金を要求されたら同じように解決できるのですか」「するけど?」あっさり言い放った高順に、劉巴は歩みを止めてしまう。「金で解決、と言うのは聞こえが悪いけど金で買い戻せるなら可能な限りは出す。それで済むうちは安いものだよ。要求してきたのが賊なら後々滅ぼすけど・・・周倉、お前の事じゃないからな」「解ってやすよぅ」自身も山賊であった周倉は苦笑する。「随分と命を大切になさるのですね。それは消費されるだけの時代だというのに」「何でもかんでも時代のせいに出来たら、それはそれで楽だな」「・・・ふむ」「命なんて、失ったらそこで終わるからね。金で何とかなるなら安いんだよ」じゃ、と高順はひらひら手を振って帰って行った。それを見送る劉巴は(最初からだが、本当に変ったお方だ。)と実感した。高順の昔の事を詳しくは知らない。ただ、旧主や仲間達を多数失った事は小耳に挟んでおり、それが原因でああなのだろうか? と思う。(陳羣よ。お前が評価するのはあの性格も込みなのか? 何とも奇特な方だが・・・ああいう手合いが一人位いても構わないかな)そうと解れば、仕事も更に解り易い。あの人が無駄使いしないように尻を引っぱたく、とかな。と、本人には言えないような事を考える劉巴であった。華雄が帰ってくるための土台を作り上げる事に成功した高順は、再び馬騰の元へ赴き、暫くの間滞在してから成都へと向かう。その間、喀血したのを劉巴に見られてしまい、彼女にだけは事情を説明していたり、なんやかんやあったり、アレな事やコレな事が発生したり、。ついでに漢中の戦いも発生していたが、現時点では高順にはまるで関係の無いことである。~~~楽屋裏~~~俺は悪くぬぇ!(親善大使) あいつです(挨拶大体PSO2とボーダーランズ2とPC不調のせいです。これからはテイルズとアサクリ3のせいになります(何お待たせいたしました。もうしわけ御座いません、このような貧弱革装備のPCで。今回の話は必要だったかどうか。微妙ですが、華雄さんがいつでも帰還できるように、という道筋を作成したお話でした。関羽が話を反故にして、金よりも華雄を取る選択をした・・・というのが、高順くんには好意的に映ったのかもしれませんね。これで関羽も高順寄りになった、かな?他にも華雄と高順がフルマラソン走りきった選手とコーチ張りの抱擁きめたり、女性陣に「華雄姐さん」と何度も呼ばれると言う一幕もあったのですが・・・削られてしまいました。次回は(多分数行で終わる)漢中の戦いと、その影響によるお話になると思います。そうなれば、後は・・・本当に終りに向けて一直線ですね。それではまた次回お会いいたしましょう。あ、あと馬騰さんに変な癖を追加します。誰も得をしないような変なのを(何?