【習作&ネタ?】真・恋姫†無双 ~~陥陣営・高順伝~~ 第118話。「・・・ふんっ」江州城のとある一室。その部屋にある寝台に寝そべりながら、高順は不機嫌そうに手にしていた木簡を放り投げた。「ちっ、どいつもこいつも・・・」江州城を陥落させた高順は、最初からの予定通りに将兵を皆殺しにした。さすがに女官などに手出しはしなかったが、高順は「全て殺せ、全て狩り取れ」と命令を下して、それは本当に実行されている。ここまで苛烈な処置をしたというのは高順の人生の中でも稀な事で、それだけ怒りが激しいという事も窺える。ただ、江州城の地下に「監禁されていた娘達を見つけた」という李典・楽進の報告、それを実際に目にした時点での怒りも大きいものであった。地下に大部屋が一つ、その大部屋に繋がるいくつもの部屋があって、全ての部屋に年若い娘達が繋がれていた。地下に向かった李典達だが、その惨状は自分達が予想していた以上のものですらあったのだった。~~~二ヵ月半ほど前~~~「これやな。ったく、厳重に鍵かけおって。開けるのがめんどーくさいやんか」えーと、と言いながら李典は鍵開けの道具を取り出そうとしたが、それよりも速く楽進が錠を「ビキッ!」と素手で粉砕した。「良し、入ろう」「・・・えーと。まあ良えけどナ。しかし、こっから既にイヤな臭いがしとる。どんだけ酷いことになっとるか。兵も残っとるかもしれんし」「ああ。・・・良し、入るぞ」「あいよー」楽進が扉に掌を当て、僅かに押す。キィ・・・と音を立てて開いた扉を叩き付けるように開けて楽進達は部屋の中に突入していった。「くっ・・・?」部屋から漏れていた臭気だけでも不快だったが、内部の臭い、そして光景は更に不快だ。何十人という女性・少女が裸で鎖で繋がれ、手かせ足かせで動きを封じられて、地面に寝そべっている。見たところ兵士はいないようだ。迎撃の為に全て出払っていたのだろうが好都合だ。突入してきた楽進達に対して、首を上げてそちらを見たり、中には反応を示さない娘もいるが、見慣れない人々の姿に恐れ戸惑っている、という反応が主だ。だが、既に息絶えている娘もいるようだ。その中の一人、周りに比較すればという条件でだが、元気そうな娘が「貴方達は・・・?」と反応を示した。「江州軍の方々・・・ですか・・・?」「一緒にしないで欲しい。我々は高順隊・・・というよりは孫家の軍勢だ。江州占領、並びに虜囚奪還の為に動いた。繋がれているのはお前たちだけか?」楽進が臭気に顔を顰めながら少女の法へと歩いていき、しゃがんで彼女を繋いでいる鎖を引き千切った。「あ、ありがとうございます・・・他の部屋にも多くの人々が、います。お願いです、助けてください」「当然だ。おい、李典」「わーっとるって。」李典は随伴の兵に素早く指示を出し始めた。城外の閻柔たちに頼んで、追加で幾つかの天幕を建て、湯を沸かせて、お粥も作ること。即席担架、女性兵の派遣、布の用意等々・・・今の所出来るであろう行動だ。それらを言い終えてから、李典は再び室内に目を向ける。「ひっどいなぁ・・・」「ああ・・・」実際、酷い光景であった。今、楽進に助けを求めた少女は兵士の手を借りながらも自力で歩いていくことが出来た。(全裸なので、布が運ばれてくるまではここにいないといけないが)ほか大多数は自力で歩くことが出来ないほど衰弱しており、酷い場合は、逃げられないように靭帯を傷つけられていたり、跛行(はこう)している少女もいた。衰弱しきって助かる見込みの無い娘もいて、それが楽進達の気持ちを暗澹とさせる。それに、これを高順に報告したら、どれほど落ち込み苦しむか。(けど、報告せんわけにはいかんしなァ・・・)どよーん、と暗い気持ちになりつつも、李典は伝令兵を高順の元へと向かわせた。「・・・・・・」伝令の説明を聞いた高順は、制圧を終えてから周倉と共に地下へ入りその惨状に言葉を失っていた。何十、或いは百を越えているかもしれないが、幾多の女性兵士が即席の担架で虜囚となっていた娘達を運んでいく。既に息絶えた娘を抱きかかえたまま座り込んでいる女性兵も幾人かおり、高順はその一人に声をかけた。「どうした?」「あ、こ、高順様・・・」泣いていたのだろう、声をかけられた女性は少し上ずった声で答えて高順のほうへと身体を向けた。「この子、さっきまで生きていたんです。「外に出られるの? またお日様見れるの?」と聞かれて・・・もう少しで出られるよ、って答えたら、嬉しそうに笑って、そのまま・・・」本当に後少しだったのに、どうして・・・と女性兵は抱きかかえたままの少女の亡骸に目を落とした。そんな彼女の肩に、高順はすっと手を置く。「そうか・・・なら、約束を守ってあげよう。さ、行きなさい。早く陽のあたる所に連れて行って・・・きっちり弔おう」「・・・。はい、そうですね・・・」高順の言葉に、女性兵は亡骸を抱き上げて、肩を震わせながらも上に向かって歩き出した。他に、少女を抱きかかえて必死に呼びかけている兵もいる。娘は虚ろな表情で「あー、あー・・・」と唸っているが、恐らくは辛い思いをして、心を閉ざしているのか、或いは精神的に壊れているのだろう。そんな光景を一通り見たところで、高順達に気付いた李典が「あ、こーじゅんにーさん」と近寄ってきた。楽進も救護活動をしており、こちらには気付いていたが対応は李典に任せたようだ。「・・・ここにいる者で、全てか?」「やろうな。さっき元気な娘さんがおってな。聞いた感じじゃぁ、ここにいるので全部っぽいなぁ。隠し部屋無いか探してみたけど無かったし。」「・・・李典。」「うぇっ!? な、なんでっか!?」呼ばれた李典は背筋が凍りそうだった。普段ならなんとも思わないが、こんな状況での高順の声は恐ろしく冷たい。「引き続き救助を。俺も手伝いたいが・・・その。一部目に毒だ」「あー・・・はは、せやなぁ。こーじゅんにーさんも男やし?」「それとな。上の連中に伝令で伝えさせてくれ」「お?」「全員殺せ。首を斬り烏に啄(つい)ばませろ。四肢を落として積み上げ京観としろ。一人残らず、全て見つけ出せ、とな」「・・・りょ、了解や」「ん。」言い終えた後は普通の調子に戻ったのか、声色も普段のものと変わらない感じだ。李典は、ほっ、と安心して「あ、せやった」と高順を呼び止めた。「ん、まだ何か?」「忘れるところやった。さっき助けた娘に一人、まだ元気なんがおってな。今は捕虜にされてた子ら専用に建てた天幕におると思うけど・・・様子見に行ってくれん?」「ふむ・・・そうだな。聞きたいことはあるし、そうしてみよう」~~~天幕にて~~~天幕入り口の兵士に「お疲れ様」と声をかけ、高順は「邪魔をする」と天幕へと入っていった。そこには粥を食べ終えて、寝台に座って一息ついていた少女が一人。簡素な服を着用しているが、これは高順隊から支給されたものだ。年の頃は10代半ばか、どう見ても20歳には届いていない。高順に気がついて、すぐに寝台から折り頭を下げたが、高順は「畏まらなくても良いよ」と笑った。「初めまして。俺は高順。孫家の武将の一人だ。良く無事でいてくれた」「はい。私は潘承明と申します。多くの方々を助けて下さった事、心から感謝しております」少女は目上の者に対する礼を取って、深く頭を下げた。「・・・はい? 潘承明? えーと、1つ聞いても?」「? はい、何か・・・?」「失礼だが、その・・・偉は「濬(しゅん)」だったりする? でもって荊州の生まれ?」「!? ど、どうして?」初見の相手がどうして知っているのか。言い当てられて警戒する潘濬だが、それは普通の反応だろう。「いや。俺の部下に聞いたんだよ。君の事を知っている人が居たらしくてね。一方的に知っているみたいだから、もしかしたら同郷なのかもねえ」「そ、そうなのですか・・・? それなら、まぁ・・・」適当な嘘であるし、潘濬もまだ警戒を解いたわけではないが、それでも命の恩人である以上深い詮索は無用として、これ以上は聞かないことにしたらしい。「ところで。あまり思い出したくは無いだろうけど・・・何故こんな場所に居たんだ?」 「それは・・・」潘濬は途中で言いよどんで、悲しそうに目を背ける。「ああ、いや。言いたくないなら良いんだ。聞いた俺が悪い」「いえ。私はある農村の娘です。勉学を志したものの、そんな資金があるわけも無く。ですから、農業を手伝いながらコツコツと資金を貯めて・・・」ようやっと目標としていた金額に届き、親に黙って(ここいら、あまり親に歓迎されていなかったことが窺える)都に向かおうとした所で人狩りに拉致されて売られたのだという。「もしかしたら、両親が私を売ったのかもしれませんね。こちらの行く道に陣取っていたようでしたから。」「なんとも胸糞の悪い話だな。」「そうですね・・・ところで、将軍様」「将軍様呼ばわりは止めて欲しいな、個人的に。で、何かな」「私たちは・・・どう扱われるのでしょう?」ああ、それは不安だろうな、と高順は思う。売られたかもしれない親元に帰されても、後々碌な事にはなるまい。「他の娘達も同じ境遇だったりするのか?」「え? はい・・・何も知らないまま連れて来られた、というのも多いみたいです。ですが、親に売られたと言い切る人もいました」「そっかー・・・やれやれ、そりゃ帰してもまた売られるだろうしなぁ。ま、何とかしてみるさ。それともう1つ聞きたい事がある」「もう1つ、ですか」「もう1つ、さ。君達同様に異民族の娘も攫われていたんだが、君は彼女達を差別しているかな?」「それは・・・正直に申せば、最初は、恐ろしい存在だと思っておりました。国境を侵して攻め込んでくるだとか、悪い噂しか聞いた事がありませんでしたから。ですけど同じ境遇で接してみたら、同じ人間だ、という事を理解できました」「人間ね・・・」よい感じ方をする、と思い、高順は先を促した。「怖い人も沢山いるでしょうけど、それは漢民族も同じことです。優しい人もいれば怖い人もいる。儒者によれば彼らは家畜のようなものらしいですが・・・親を尊敬できない、まして売られた私には儒というのは理解しがたいものです」同じように思考して、泣いて、笑って・・・そんな人々が家畜と言う考えにも賛同できかねます、と潘濬は首を傾げた。「そうか・・・や、変な事を聞いて悪かった。で、君達の事だが、悪いようにはしない。結論を出すのは少し時間がかかるだろうが待っていてくれ」「はい、解りました」申し訳なさそうに言う高順に、潘濬は(そこまで卑屈にならなくても・・・おかしな人)と思いながら頭を下げた。二ヵ月半が経過、この間に南中をはじめとした諸部族からの、それと江州でさらわれた娘達は、兵士に護衛をさせて全て送り届けている。それらから帰還した兵は、孟節から高順宛に・・・という書簡を持たされており、内容は捕虜を助け出してくれた事と、自分達に成り代わって無念を晴らしてくれた事への感謝の文言であった。こうして捕虜の大半が地元に帰還できたわけだが、そうもいかない娘達もいた。潘濬の言う通り「売られた」事が大きな原因なのだ。経済的事情もあるだろうが、返還した所でまた売られるという可能性が大きい。そうなれば助けた意味が無く、その娘たちにも不幸だ。本人達もそれを自覚しているのか「帰りたくない・・・」と帰還を拒否する娘もいる程だ。彼女達にしてみれば、この土地には嫌な思い出しかなく、出来れば離れたいだろう。だが帰る所も行く所もない。そういった境遇の娘が10人ほどいて、それらをどうするのか、というのが悩みの一つである。とりあえず、それらは「では、私が暫くの間面倒を見させていただきます」と志願してくれた蹋頓に頼むことが出来た。高順も自分から様子を見に行ったり、忙しい合間に彼女達の近況を教えてもらったりと、かなり気にかけている。そういった事をしながら、高順は太守代理として山ほどの仕事に追われている。土地の台帳・地図などから戸籍を調べ上げ、また女官・官吏の整理に淫祠邪教禁止令なども行い、ついでに楊懐らが貯めこんでいた財物なども放出して民に還元。更に、犠牲者となった娘達の埋葬・・・本当の目が回るような忙しさだ。そんな仕事の中、特に高順が気にしたのは江州市民の暮らしぶりである。調べてみると税が高いだけではなく、それにプラスして消費税のようなものまで取っている。しかも税に対して税を上乗せするような事までしている。民衆から搾り取るだけ搾り取ろうという魂胆だった。高順は、報告として書簡に書かれた税率の欄を見て「八公二民・・・はぁ? ・・・アホか!?」と、即時税率の変更を命令。四公六民、それが無理なら五公五民にしろ、と指示を出したのである。これに伴って官吏の給料は減らされたが、これは今までが取りすぎだった、という背後事情がある。現時点は高順が太守代理の暫定政治であり、実行関係の権利を握ったのは李典や趙雲だ。従ってこの命令はすぐに実行され、民衆からは大いに歓迎された。が、これから暫くして、江州の官吏が大挙して押しかけてきて「税率を上げろ」と言い募ってくる。曰く「これではまともな経営状態にならない」とか「今の状態を維持できない」だの。何故維持できないのか、と聞いてみれば「その税金から我々の給料が支払われる。税が減れば自分達の取り分が少なくなる!」つまり「給料が減ったら我々は仕事をしないぞ」というストライキ・・・言い換えれば脅迫のようなものであった。これに対して高順は「ああそう? 好きにすれば良いよ。孫家本隊が来たらお前達は解雇されるだろうしな。良い機会だから前政権で甘い汁を吸ったお前達は財産没収で良いかもよ」と言い返している。まあ、幾らなんでもいきなりそれは哀れか、と高順は「影」に命じてそれら官吏連中の財産を調べさせたが・・・随分甘い汁を吸ったのだろう。地方の官吏としては不釣合いな巨額の富であった。高順が「どいつもこいつも」と繰言をしたのは、これら諸々の事情が絡んでの事だ。簡単に言えば随分とイラついている。ここで、誰かが部屋の扉をノックした。部屋の外には周倉が張っているが、ノックがあるという事は普通に来客だろう。「ん、どうぞ?」「失礼します」かちゃり、と扉を開けて入室してきたのは楽進である。彼女はお盆を持っており、その上には質素ながらも食事と、それに薬湯の入った器もあった。「食事・薬湯の時間です。そろそろ休まれては如何ですか?」「あ・・・? ああ、もう食事の時間か。済まないな」高順はお盆を受け取り、すぐに「いただきます」と食事を始めた。高順はこのところ体調を崩しており、伏せながらの仕事を余儀なくされている。周りからは素直に休めと散々言われているが、その周りが忙しく働いているのに自分だけが・・・と、結局あまり休まずに働いている。そんな高順の食事光景を尻目に、楽進は部屋を見回す。「・・・いつもながら随分と殺風景な部屋を好まれますね。前の太守が使用していた部屋には移られないのですか」「あんな奴らが使ってた部屋には入りたくないね。それに、俺はあくまで太守代行。代行なんだから太守じゃないんだよ」と、高順は食事を始める。「それが理由で太守室にも入らない、ですか? またそんな事を。」こういった所は本当に変わらないな、と苦笑して、楽進は放り捨てられていた木簡を拾い上げる。「先ほどは随分と荒れていましたね。部屋の外からも丸聞こえでしたよ? 何かあったのですか」「もぐむぐ、んむっ。そりゃあな。中身を見れば解るさ」「・・・・・・・・・・・・・・・。はぁ、官吏の経済状況ですか。随分と裕福な者が多いのですね」「だろ、そう思うだろ? ったく、そんだけ貰ってたのに「働きたくないがもっと給料よこせ」だぞ? 孫家が太守になっても甘い汁吸えると思ってたのかね」「思っていたからそう言うのでしょう。しかし・・・民衆が苦しい思いをしているのに。そういう態度は普通にどうかと思いますね」「全くだ。たく、本当に・・・奴らはギリシャの公務員か、それとも「権益は欲しい、だが責任はいらない」とのたまった売国政党か」高順の言葉に、楽進は「ぎりしゃ? ばいこくせいとう?」と聞き返した。聞き慣れない言葉、というか初めて聴いた単語だったので意味が解らないのだ。「気にしないでくれ。」「はぁ。ところで、隊長。もう1つ宜しいですか」「宜しいですよ?」「あの、行き場所の無い娘たちなのですが・・・どうなさるのです?」「ん? どうなさるも何も、引き取るつもりだが?」「良いのですか?」「良いも悪いも無いさ。なに、あの子達、中々やる気だぞ?」「やる気・・・?」「ああ。元気な連中が「ただ世話になるのは嫌だから、何か仕事をさせて欲しい」って蹋頓さんに申し出てきたようでな。相談を受けたんだ。で、李典に頼んで勉学を、趙雲さんと沙摩柯さんは武術をって感じで教えている。」「いつの間に・・・気付きませんでしたね。ん? 私は頼まれていませんが?」「そりゃ、まだ素養があるのかどうかも解らないからな。勉学・武術・馬術・・・色々やらせてみて一番肌に合うのを、ってことでね。それに、押し付けられた皆仕事もあるからな。付きっきりができるのも蹋頓さんだけだ」「そうでしたか・・・そういえば、片足が無い娘もいましたが、彼女も?」「ああ。これも李典に頼んで大腿義足を作成してもらっている。本人が武の道を望んでいるからな、ゆっくりとやるしかないけど。」ちなみにこの片足の娘、留正明を名乗っている。つまり、史実で言う「留賛」なのだ。(留賛に潘濬か・・・他の娘達は該当する武将・政治家が思い当たらなかったけど、二人とも呉の功臣だぞ・・・なんでここに集まってくるかなぁ。まあ良いけどさ・・・)そう思いながらも、高順は引き取った娘達に関しては「何とかなる」と感じていた。助けてくれた恩人という事もあろうが、皆は高順を悪く思っていなかったし、自分から世話を買って出た蹋頓の事も慕っているようだ。留賛などは義足を手配してくれた事もあってか、高順と李典にも懐いていたし、辛い経験をしたにも関わらず明るい性格なので、むしろ高順が救われた面もある。問題があるとすれば他の娘達で、中には情緒不安定な者もいる。残念だが、それらは気長に接していくしか無いだろう。年頃になったら、嫁ぎ先も探してあげよう。辛い経験をしたから男性に不信はあろうが、それは自分や蹋頓ら接していれば、それこそ時間が解決してくれるだろう。「何であれ、あの子達の世話は見るさ。俺の左手はこんなだが、まだ右手は真っ当でね。差し伸べるには十分だろ?」「ふふっ。そうやって差し伸べ続けて、自分が背負い続けて、ですか。いつか無理が来てしまいますよ?」「だが、それまでは背負える。皆ずっと俺の背中におぶさってる赤子のままじゃない。いつか、自分の足で歩き出すさ」そうなったら、また背負う余裕も出てくるだろ? と高順は楽進に同意を求め、求められた楽進は「・・・ふぅ、本当に難儀な人です」と苦笑するばかりであった。それから数日。~~~高順の部屋~~~「・・・さま。・・・う・・・様。朝です。御起床の時間です」「う・・・んん?」誰かの呼ぶ声で、高順は目を覚まして「むー」と唸りながら目を擦る。寝ぼけ眼で周りを見渡すが、起きたばかりで視線も定まっていない。「おはようございます、よくお眠りでしたね」「あー、うー・・・んー、おはよー、潘濬・・・」そう、高順を起こしたのは潘濬。彼女は寝ぼけている高順に、湯で洗った手ぬぐいを渡して顔を拭くように促した。潘濬が起こしにきた理由、というのは・・・彼女、李典から「こーじゅんにーさんの秘書官に推薦するでー」と推され、本当に秘書官となっていた。間違っていると思ったら立場が上の人間でも(融通はするが)苦言を辞さない性格もあって、中々の適役と言えた。高順も内心で(さっすが孫権に忠言を続けただけあるな。そういや気骨の士なんだよなー)と史実の潘濬の事績を思うほどである。「あー、ありがとー・・・んー・・・・・・はぁ、すっきりした」高順は手ぬぐいで顔を拭いて、それを潘濬に返した。「それはようございました。ところで、お体の具合は如何でしょうか。まだ優れないように見受けましたが」「ん、そろそろ大丈夫だとは思うけどね。あまり働いてないと落ち着かん。周りが忙しいから余計そう感じるのかな」「どうなのでしょう。ですが、良くなりかけが一番危ういかと存じます。念の為今日もお休みください」「いつまで休めば良いのかなあ、ははは」そんなに長く休めないさ、と高順は笑う。潘濬も困ったような笑顔であるが、すぐに気を取り直して「それでは」と部屋を出ようとした。「ごゆっくりお休みください、お義父様。失礼致しました」「ん、お疲れさmちょっと待って?」「はい? 何でしょうか???」「今、何て仰いました? もう一度聞かせていただきたいのですが???」「失礼いたしました、と・・・」「その前だ、その前」「・・・? お義父様、ですか?」「そ れ だ よ。何それ、何で俺がいきなり潘濬のおとーさんな訳?」高順の質問に潘濬は、うぅん・・・と悩んで、それから「ああ」と納得したかのような表情を見せた。「もしかして、お義母様から聞いていらっしゃらないのでしょうか?」「聞いてないよ、っていうかおかーさま誰ですよなんとなく想像できるけどさ蹋頓さんだな蹋頓さんですよね!!?」「はい、その通りです。」あっさりと肯定し首肯する潘濬。「ああ、もう・・・あの人は何で毎回そーいう事を勝手に「高順さーん♪」「お義父(おやじー)♪」だわぁっ!」頭を掻き毟り繰言が止まらない高順だったが、そこへ騒動の原因(?)である蹋頓がノックもせずに入室してきた。何でか知らないが留賛もいる。「高順さん、聞いてください! また子供が増えましたよ「10人ほど」」「それって引き取った娘達全員ですよね!? つうか今聞いたよ、増えすぎだ!」「・・・あら? 少し遅れました? もう、驚かせようとしましたのに」「驚いたよ、驚きすぎましたよ!つうかね、なんで貴女は俺の与り知らないところでs「・・・お嫌でした?」・・・え」蹋頓は潘濬と留賛を抱き寄せて、恨みがましい目で高順を見やる。「この娘たちは行き場が無いんですよ? 親もいないのですよ? それなのに、この娘たちを見捨てるのですか・・・高順さんなら、笑って受け入れてくださると信じていたのに」「え」「へっ!? お、お義父・・・あたし達のことが嫌いなのか?(悲しそうな留賛)」「えっ」「・・・新しいお義父様が出来たとおもって嬉しかったのに・・・そんな・・・(泣きそうになっている潘濬)」「え、え?」「他の娘達にどう説明したら・・・皆、とても喜んでくれたのに・・・。(目を伏せて寂しそうな蹋頓)」 「いやあのね、この場合責められるのは俺じゃなくてむしろ蹋頓さんだと思うんだ。だからそんな顔をされても、あの・・・」「・・・(泣きそうな3人)」「えーと・・・」「・・・ぐすっ(涙ぐんでいる留賛)」「だから、そのー・・・」「・・・・・・(さっき高順が顔を拭いた手ぬぐいで目尻を拭き始める潘濬)」「あー、うー・・・」「(二人をぎゅっと抱きしめて悲しそうに高順を見つめる蹋頓)」・・・やばい。何で俺が悪者になってるんだ。何より、何も知らない第三者が見れば俺が三人を泣かせてるようにしか見えない。泣きたいのはこっちなのに・・・いや待て、これってまさか。捕まった!?「・・・。解りました、残念ですが、娘達に「あの話は無かったことに」と伝えてきます・・・」がっくりと肩を落として退室しようとする蹋頓。高順はこれに、心中で「ゲェッー!?」とどこぞのゆでたまごみたいな悲鳴を上げた。ようやく落ち着いてきたのに、気落ちするような話をされては困る。勝手に話を進めたのは蹋頓だが。自分は何1つ悪くないと思うが。このままでは自分が悪者にされた挙句以下省略である。こんなに家族を増やされても困るし、未だあった事のない張虎にどんどん姉を増やしてしまう蹋頓にも困りものだが・・・「・・・み」「・・・・・・み?」「皆、俺の娘だ! 何か文句あるかチクショウ!!?」「ありません♪」「お義父、最高ー!」「・・・(ニヤリ)」「あれ?」あっさりと笑顔になる蹋頓に、全力で抱きついてくる留賛に、腹黒く笑う潘濬。騙されたー!? と思う合間も無いぐらいだったが、孟獲達のような先例もあってか、この一件は割とあっさり周りに受け入られた。趙雲には「まったく、今は娘にしておいて、いずれ自分色に染め上げるおつもりですかな? そんなだから姦民族だの、姦人化した性涼の送り狼と呼ばれるのですぞ?(注:呼ばれてません)」と、からかわれてしまう始末。まあ、趙雲の言い分も(10割からかいでも)解らないではない。もし張遼に再会したら・・・うん、なんか笑顔で斬りかかって来そうだ。と、どうに転んでも暗澹とする未来に辟易し落ち込む高順であった。ただし、これは高順にも、義娘となった少女にとっては悪くは無い話だ。引き取った子供達の立場を宙ぶらりんにするよりか、その立場を明確なものにしてやれば高順の意向はこうなのだ、という示しになる。まだまだ後の話であるが、潘濬も留賛も孫権の直臣扱いとなって仕え、孫権派閥の中にきっちりと高順一派の勢力を根付かせる。まあ、孫策に限らず孫権本人が高順擁護派で、彼女が今回の征西で引き連れてきた人々・・・特に彼女の臣である諸葛瑾に張承や歩騭・厳畯らだが、高順に悪意を持っていない人々ばかりなので、さほど心配は要らなかったりする。さて。このぬるま湯のような茶番から更に数日。ついに、いや、ようやくと言い換えるべきか。孫権率いる征西主力軍先遣が、江州に到達する。~~~楽屋裏~~~さあ、注文を聞こうか。あいつです(挨拶気付くと毎回日常になってしまうあるさま。ていうかね、子供増やしすぎです。仲間と言うかなんというか、留賛と潘濬がメンバーに入ってきました。両者とも中々に有能な人材で、特に潘濬は降伏(というべきか)した人なので難しい立場でしたが終りを全うしていますし、もう少し評価されてもいいと思います。演義のせいであんなですが・・・蒼天航路にも少し出ていましたね。降伏時の話と言い、呂壱の時と言い、気骨の人ですねぇ。今年中に終わらせたいと言ったが・・・騙して悪いがアレは嘘だ。いや、どうしても時間が取れなかったり、この先のシチュエーションが頭に浮かんでこなかったりで遅れがちになってます。成都攻防に、高順は関わりませんが漢中・・・というか、定軍山に、その先が最終戦かな?何であれ、終局は近づいております。その時まで、宜しければお付き合いくださいませ。それでは、また次回にて。